短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――若き日に逆行した新陸軍三羽烏の三人。年が明けて1938年を迎えた。



1938年1月。逆行した陸軍新三羽烏の策動で史実よりも軍は健闘し、どうにか戦線を維持していた。そんな中、史実より大戦初期世代の航空機・ストライカーユニットの試作が早く内示されるなどの違いが生じていた。



――基地のブリーディングルーム


「どうにか武子に受け入れられたわね」

「あたしがディバインバスター撃ったおかげだかんね♪」

智子も未来生活でおちゃらけたところが出来たようで、その表情は明るい。黒江と圭子の二人の記憶にある“この時期の智子”は超マジメな堅物“だったのだが、精神的に歳を食っているためか、この時には見せていない側面が早くも表に出ていた。

「九七でアレ撃つの禁止ね」

「えぇ〜〜なんでなんで!?」

「魔力をアレで殆ど使っちまったでしょうが。あれもちょい位置が悪かったらお前、蜂の巣だぞ?」

「うぅ……」



圭子が注意を促す。大戦前のストライカーユニットでは増幅する魔力が後年の機体より小さい。そのため四式やジェットである火龍などの感覚で高位のミッドチルダ式攻撃魔法を使うと戦闘継続能力に支障を来すからだ。
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「あれでフジの奴を納得させられたはいいが、あの後……お前二日間眠り込んだろ?おかげでフジに危うく殺されそうだったんだぞ〜」

と、黒江が冗談を飛ばす。武子は智子が帰還後に眠り込んだ事を心配するあまりに狼狽。黒江の首根っこを掴んで詰めよった事を話す。

「へぇ……んな事が」

「本当見せたかったわよ〜」

圭子が楽しそうにその時の様子を語る。話によればこういう事らしい。




















――前回の戦闘後




「綾香ぁ〜〜!!」

「ちょ、おまっ……お、落ち着……ぐぇええ……」

武子はひどく取り乱し、思わず黒江の首根っこを掴んで詰め寄る。黒江は首を絞められて青色吐息だ。

「あ〜武子。智子なら大丈夫よ。バテてるだけだから」

圭子が窘める。予想より魔力を消費してしまった故に智子は寝込んでいるのであって、命に別条はないと説明する。その一言で武子は安心したのか、手を黒江の首から離す。黒江は息が詰まっていたので、ホッとしたのか、その場に崩れ落ちる。

「確かにあの攻撃は見るからに強力だったけど、そもそもはどこの魔法なの?」

「この世界じゃない、別の魔法主体の文明の世界でのウィッチが使う高位の攻撃魔法よ。これを撃つにはそれなりの魔力を必要とするの。だからその世界のウィッチと違って、今のあたし達じゃおいそれと撃てない代物なの」

そう。砲撃魔法は智子達にとってはなのは達以上に負担の大きい魔法である。使い魔の補助があるとは言え、普段扱い慣れない量の魔力を使ったので、スタミナを限界まで消費してしまったのだ。圭子の言葉を聞く武子の目は真剣そのもの。智子が見せた力は戦局を打開しうる重大なファクターになり得るが、不安定ではアテにも出来ない。

「そうだったの……。で、今から7年後にあなた達はその子らと会うのね?」

「そう。あたしらはこの戦いの結果も、これが大戦への繋ぎにすぎないことも知ってるのは8年後の記憶があるからだって前に言ったでしょ?8年後には色々苦労してんのよ」

圭子が8年間で性格が落ち着いたところを見せる。口調こそ武子に合わせているが、それでも精神年齢が26歳故の落ち着きが見え隠れしている。その逆に黒江がフランクでおちゃらけ娘な面を見せたために、武子は正直言って、今までとのギャップに戸惑っていた。

「圭子が落ち着いたのは分かるんだけど……綾香!なんであなたがおちゃらけてんの!?」

「だぁから言ったろーが。8年間苦労しまくればこうもなるって」

――はぁ……。どうしてこうなったのかしら……でも指揮や戦いぶりは本物なのよね……。

武子は黒江の普段の態度が以前と大きく変わったことに呆れると同時に数多の実戦経験に舌打ちされた強さに感心していた。それに以前は小隊編成の都合で組んでいなかった智子との連携もバッチリで、8年後にコンビで飛んでいるという話に羨ましく思った。


「綾香」

「なんだ?」

「7年後の智子ってどうなってるの?」

「それならあいつの部下や戦友から聞いといたネタがたんまりと……ぐ、ぐふふ〜♪」

黒江は武子が話に乗ってきたのに嬉しそうである。圭子は呆れてのため息である。こうして知らぬ間に色々とネタバレされてしまった智子。当然ながら当人がそれを知ったのは当分後の話である。












――後日 海軍側宿舎

「……あの子らが話した事が事実なら堀井は私達を排除する腹積もりだ。だから予防策で山本さんや米内閣下や西園寺卿に話を通したが、これでいいのか?敏子」

「ああ。あの話、与太話とは思えん。あいつらは……私に嘘を言う質じゃないしな」


北郷章香と江藤敏子である。彼女らは後輩らの話に半信半疑ながらも現実問題で起こるであろう人的資源の損失と陸海軍の対立を未然に防ぐべく手を打った。米内光政の手引きで元老である西園寺公望にも拝謁し、陸海軍の対立を未然に防ぐ方策を練った。そのためか冬の間に軍政面・実務の双方で連携がスムーズに行き、燃料オクタン値の統一や弾薬の共通化が初められた。これは元から陸軍と海軍の弾薬や燃料に至るまで違うという事情に不満を持っており、これ幸いにエースである二人の強い進言に陸海軍の双方が動いたためで、三羽烏の記憶よりも早く実行された。

「あいつらが7年後の記憶を持った状態ならそれを最大限活用してやる。これで御前会議に私たちの案を通しても一笑に付される事もな。いざとなれば7年後の階級で会議に出ればいい。」

「いいのか?」

「いいさ。どうせ今、軍の中枢に居座っている連中だって前の大戦や40年近く前の事変は経験しちゃいないんだからな」






敏子は陸海軍の中枢がウィッチを軽るんじている現状に気づいていた。ウィッチは戦国の世において活躍し、織田信長の野望を成就させる大役を担った。が、近代化が進むと怪異が出現する頻度が減ったために近代化後の軍隊には組み込まれていなかったのを、竹井醇子の祖父である武井退役少将が現役時代に軍編成に組み込んだという経緯がある。そのために疎まれているところが多分にある。黒江達が二次大戦となる次の戦いの記憶を持つのなら、それを使わない手はない。


「ややこしい話だな敏子。お前の部下達のこと」

「私だってあいつらにカマをかけるまでは半信半疑だった。フフ、上手くなりやがったよ」

敏子は北郷にそう返す。部下達の自分の退役後の未来の成長を見れたという嬉しさがあるようで、ごきげんだ。

「ただな。気になるところがあるんだ。あいつらは1945年ごろ、つまりウィッチとして寿命を迎えたはずの時代から逆行してきた。なんで能力が戻ったのかは話さないんだよなぁ」

それは智子達が秘中の秘にするカラクリ。1945年ともなればあの三人もとっくのとうに“あがり”を迎えている年齢のはず。前線復帰など不可能だ。“それがどうして……”と敏子は首を傾げているのだ。

「ウィッチが疎まれているのはあがりのせいで、高いカネつぎ込んで育てた人材が定期的に入れ替わりを余儀なくされる宿命のためもある。あの三人が運命を打破できたのなら……」

北郷が三人の力が後々に戻る理由を考える。ウィッチは戦士としていられる期間が短い上にその期間には個人差がある。運命を打ち砕く事はウィッチの誰もが“時”が近づけば誰もが思い、願う事。それが叶うのなら……。















――話は戻って、智子達新三羽烏は上官らの留守を良い事に、海軍の宿舎に遊びに行き、トレーニング中の若き日の坂本と若本で遊んでいた。具体的にはトランプゲームの“大富豪”。

(次はどんなカードを出してくる……!?糞ぉ読めねー…!)

若本は智子たちから教えられた大富豪をなんだかんだで楽しんでいた。誰が大富豪になって一番最初に上がるか。その瀬戸際なためにハラハラドキドキしていた。

「2のスリーカードでどうだ!」

「のわ〜〜!!やられたぁ!」


圭子がバンと最後まで隠し持っていたカードで勝負を決めた。若本はあと数枚で上がれるところだったので悔しさも一塩なようだ。

「ふふ〜ん♪」

実は圭子、元の時代で未来情報が色々入ってきた頃からロンメルやパットンのトランプの相手をする頻度が上がっており、ポーカーのみならず大富豪もその内に入っており、得意になっていたのだ。そのため手を読んでいたのだ。得意げに草餅を頬張る。

「負けたぁ〜!」

「よ、よかったぁ……平民だ」

智子が大貧民になり、坂本が平民、黒江が富豪になった。このノリノリでゲームに興じる三人(しかも微妙にテンションが高い)についていけてないのか、武子はやれやれと呆れながらも嬉しそうな顔をしていた。意外な一面を垣間見れたからなのか、共に見ている醇子からも指摘された。

「嬉しそうですね、少尉」

「ま、まぁね」

この時ばかりは武子も笑顔だった。暗いニュースばかりが飛び込んでくる現状では何よりも清涼剤だったからだ。



























――しかしながらも新三羽烏の努力により戦死者の数こそ減ったもの、大まかな流れは歴史通りに扶桑皇国は押されていた。大陸領土のネウロイ(当時は皆、怪異と呼んでいたが、三人は後年の記憶があるためにネウロイと呼称している)による侵食は智子、圭子、黒江の三羽烏の奮戦で遅くなってはいるが、着実に進行していた。扶桑皇国のマスコミは三羽烏の活躍を連日報じていたもの、装備全体の対装甲貫徹能力の不足は前線将兵を大いに嘆いていた。その文句の矛先は時の総理大臣にして、陸軍大臣を兼任していた東條英機に向けられた。この世界では5年単位で早く総理大臣に就任していた彼は扶桑海事変という荒波に飲まれ、翻弄された哀れ(しかしA級戦犯として未来永劫、国賊のレッテルを貼られた大抵の世界での生涯と比べば幸せ)な人物だった。







――東京 首相官邸 


「東條、マスコミは連日戦局の不利を報じておる。お前がいくら戦局打開を叫ぼうが装備が悪いのではどうにもならんぞ。陛下もお怒りであらせられる」

東條英機に向けてスバリというのは、元帥である畑俊六。彼は陛下の信任厚く、陛下やその子女らの勅命を受けて東條に意見を申していた。東條は政治嫌いで通っていたが、適当な人材がいなかったので大命降下が下った。彼は彼なりに努力したが、陸軍次官時代に精神論を振りかざしたツケが回り回って総理就任後に巡ってきた事で不満気である。




「何故敵が襲ってきたのが儂の時なのだ!外国のような大層な装備を造るのには金がかかるのだぞ!」

東條は不機嫌な声で畑に言う。が、装備が貧弱すぎで敵に歯が立たないのが現実。東條は近代戦の理解に乏しく、多方面から裏で嘲笑される有様であった。が、総理就任後は戦争指導に力を入れ、新鋭の九七式中戦車を採用させるなど努力は払った。が、あくまでこの戦車は歩兵支援用車両にすぎないレベルの性能であった。また東條自身の判断で機甲師団設立を没にしたのも裏目に出て、今や陸軍戦車連隊は崩壊寸前だった。

「お前が機甲師団を没にしたおかげで既に陸軍は5000名以上の兵と大陸領土の一部を失ってしまった。陛下はお怒りであらせ、呼びだして叱責しようかとお考えだ。海軍は次の海相を出さないと息巻いてる。政策に失点が多すぎる」

「ではどうしようというのだ!」

「今からでも遅くはない。機甲師団とその関連戦略と戦術ドクトリンの研究を本格化させろ。このままではカールスラントはおろか、リベリオン、はたまたロマーニャやヴェネツィアのパスタ野郎の後塵を拝する事になる。それでもいいのか?」

「それは困る……」

「お前の今後の為に兵站も研究を下令しておけ。このまま戦犯になりたくなければ」


東條はよくも悪くも明治期の歩兵中心時代に青年期を過ごした人間である。そのため歩兵こそが主役であるという認識を未だ保有していた。時代は歩兵や騎兵から機甲師団や機械化歩兵などの近代兵器中心に移ったということを内心で認められないのだ。畑はどのうち東條の辞任は避けられないのは陛下から内密に告げられていたので、最後の花道を用意してやったのだ。こうして東條は対抗心を煽られる形で1938年1月に陸軍機甲本部を設立。その手続きが完了した1月中旬に退陣した。これは元老の西園寺公望らの策略もあっての事だった。






――政治的に変革が起こったこの年は陸海軍の装備の改変も進み、陸軍機銃も12.7ミリ銃が配備された。が、将来のネウロイの進化などを知る陸軍三羽烏は更に強大な火力を求め、ちょうどカールスラント空軍のエースで、大尉時代のアドルフィーネ・ガランドが観戦武官として来訪したのを良い事に、当時の最新装備であったMG151機関砲を貰い受けていた。

「君たち、いいのか?そちら側はリベリオン系やFF系使い始めてるんだろう?」

「いいッスよ。どうせ国産のライセンス品はこれに比べればオモチャなんですから」

「そうそう。ホ103やホ5なんて薄殻榴弾無いしし、重爆相手には力不足なんで」

格納庫で来訪したばかりのガランドと会った黒江と圭子は独自にこの時点で重爆迎撃に最も威力が見込めるMG 151/20を弾薬と共に複数確保した。

「君達、スバリと言うな」

「こちとら苦労してますからね」

圭子がいう。重爆迎撃に現有の戦力では不足という事を未来でストームウィッチーズの隊長であった立場から痛感しているからだ。

(たしかこの時期はbf109はE型だったはず。マルセイユが好きなF型があれば使いたかったけど)

圭子はマルセイユやライーサなどのカールスラントのウィッチを未来で配下に置いている。そのためカールスラントのストライカーユニットも使う機会があった。そのため性能的に旧態依然とした九七式から独自に機種変更したがっていた。そのため視線は自然にbf109に行っていた

「大尉のおかげで助かりましたよ。弾薬と銃の件、お礼申し上げます」

「何、お安いご用さ。それで君、bf109が気になってるようだね?」

「は、はい!」

「ハハッ、明日、模擬戦を行う予定だから使ってみるといい」

「あ、ありがとうございます!おっしゃ〜〜!」

「おぉ〜!良かったなヒガシ!」

これに圭子はガッツポーズを決めて大喜び。黒江からは終日、大いに羨ましがられ、マスコミの取材に答えるくこの日は写真撮影に行ってきた智子と武子からもこの幸運を讃えられた。


















――その日の夜 浴場


「えぇ〜ガランドかっ……じゃなくって大尉からbf109Eを使う許可もらったのあなた!」

「そうよ♪」

上譏嫌な圭子は柄にもなく鼻歌まで歌っていた(歌は何気にシェリル・ノームの「射手座☆午後九時Don't be late」であるが、これが分かるのは無論、歌っている当人以外には智子と黒江のみ)。

「射手座なんか歌っちゃって上譏嫌なじゃないの圭子」

「ここに戻ってきてから分かっちゃいるが暗いニュース続きだかんな……気持ちは分かるよ」

智子と黒江は隣り合わせで体を洗いながら束の間の休息を愉しむ。さらにその隣は武子だ。


「ねぇあなた達は別の世界と交流を持った時代にいたんでしょう?その別の世界ってどんな世界なの?」

「一言で言えば血なまぐさい戦が23世紀になっても続いてる世界……って言った方がいいな」


「ええ。特に人同士の宇宙戦争もあそこだと日常茶飯事だしね」

「戦争が日常茶飯事!?」


武子は驚く。戦争が日常茶飯事化した世界など想像もつかないからだ。智子と黒江は続ける。

「その世界の22世紀には地球は地球連邦っていう一つの大きな連邦国家が樹立してて、その統治のもとに営みを続けてた。だけど日本……あ、向こうでは扶桑はそう呼ぶの……とかの一部の大国が主導して性急に樹立させたから反対する国が多く出て、戦争が起こったの」

「どうして急いで樹立を?」

「地球にどでかい宇宙人の戦艦が落ちてきたからだよ。それを解析する内に人類の知らない所で現在進行形で宇宙戦争をやってる事が分かったんだ。その解析する内に得られた技術を主に日本や英国、ドイツ、アメリカ……既に資本主義社会で確固たる地位を持ってた大国主体で使ったもんだから他の国が猛反発。それで戦争を長らくやってたけど、人同士で内輪もめしてる場合じゃないと理解したのは連邦が出来て数十年後の話だそうだ」

「そんなになってまで戦争する意味なんてないのに……何で……」

武子はヒトの愚かな面を知り、絶句する。人同士での争いが未来でも続く世界がどんなに血なまぐさいのかは話を聞いただけで想像に難くないからだ。

「で、やがて地球から化石燃料とかが枯渇し、人口問題が限界に達すると宇宙に巨大な筒のようなモノを思い切り作って、そこを宇宙植民地、SFで出てきてると思うけど……スペースコロニーに宇宙移民を行なった。それで22世紀の後半頃には宇宙戦艦の時代が本格化して、宇宙人の遺物から得た技術の実用化にも成功して大バンザイだったけど……」

「それはそれでまたまた問題が起こったんだよ、これが」

話はまだまだ続く。未来世界で人類が初めて体験する宇宙戦争の一年戦争ヘ至るまでのスペースノイドとアースノイドの対立。これを話すのは一日じゃおっつかない。武子は奇しくも未来から逆行してきた3人の友人によって、近い将来に交流が生まれるであろう、並行時空の地球の歴史を知ることになった。



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