短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――扶桑海事変へ逆行した三人は未来情報をもとにネウロイ対策を考えていた。

「重爆型への対策はどーする?」

「菅野の奴が考えた、逆落し戦法で行こう。そのために20ミリ砲を海軍から分捕っておいた」

「さすがね」

この時期、出現しつつあった重爆型ネウロイは当時の陸軍の主力機銃では落とせないとし、将兵の心胆を寒からしめていた。未来情報を持つ三人は江藤の許可を取って対策を練っていた。

「ん?でも九九式って、この時は確か短砲身の一号銃でしょ?あれって坂本も後々に言ってたけど不評なのよね?」

「そうだ。が、私の手にかかれば九九式も二号機銃に改造できるのだ!!」

「お〜〜!!」

ドヤ顔で皆に説明する。黒江は九九式一号機銃を部隊の有り合わせの部品で後に登場する、長砲身の九九式二号機銃に魔改造してしまったのである。後に正式に登場する物とは弾薬ものほかなどの違いはあるが、長砲身になっていた。これで重爆にも打撃力が期待できる。黒江はこれを一週間かけて四丁程度製造し、小隊の主要メンバーへ配布したのである。

「当然、機銃が良くなってもまともなやりかたじゃ奴らは落とせん。逆落しで奴らの虚を突く」

「対重爆戦法としちゃいい方法だけど、危険性高いわよ」

「ミサイルやメガ粒子砲とかがあるわけじゃねぇんだ。多少は危険を冒さないと落とせん」


そう。この時期の扶桑陸海軍の火器で最も火力のある九九式20ミリ一号機銃でさえ重爆ネウロイを落とすのには一苦労する有様なのだ。コアを一撃で狙い撃つには直上からの急降下攻撃で20ミリを叩き込むのが今現在で最も確実な方法なのだ。これは1943年以降の海軍撃墜王で、彼女の知り合いである菅野直枝が考案した戦法である。芳佳を通してそれを知った黒江はそれを陸軍流にアレンジしてこの戦いで使用しようとしているのだ。

「フジに言ってくる。これは危険性高いからアイツに文句言われるかも知れんが、方法はこれしかない」

加藤武子は総じて情に脆い。それは新三羽烏が一番よく知っている。この時期の空戦の常識を覆すような戦法にどのような反応を示すのかは分らないが、とにかく言ってみるしかなかった。


――加藤武子の自室

「……と言うわけだ」

「無謀よ!危険性が高すぎるわ!衝突したらどうするの!?」

「衝突が怖くて重爆迎撃なんてやってられるか!今の火器で、それも正攻法で落とせたらとっくにやっとるわい!!」

黒江は1943年以降の超重爆型ネウロイとの実戦経験を持っている。その“新型”に比べたら飛行機で言うところのB‐17やB‐24相当の性能であるこの時期の重爆など可愛いものである。そのために逆落し戦法の重要性を説く。重爆迎撃で返り討ちに“あった”部下達のためにも、正攻法では無い戦法に賭けるしかないのだ。

「私らは1944年以降の超重爆と戦っている。アレなんて玩具に見えるくらいの弾幕と防御力持ってる化物とな。血気に逸って死んでいった部下を何人も見てる。重爆に正攻法で挑んだら返り討ちにされるのが関の山だ!!」

黒江は必死だった。それは後々に多くの部下が正攻法で挑んで返り討ちにされて死んでいった記憶を持つ故に、戦友である武子にはその過ちをさせたくないのだ。


「綾香、あなたどうしてそこまで……」

「私は一端退役する前に何度かそいつと戦りあった。濃密な対空砲火で部下達が死んでいくのも見てきた……だからだよ。お前には死んで欲しくねーんだよ!!」

「綾香……!」

武子はこの時、黒江の想いを理解した。つまり自分が味わった想いを戦友にはしてほしくないのだ。話を聞く限り、1940年代に現れる新型ネウロイは飛躍的に強化されているのは、容易に想像できる。涙ぐんでいる黒江の姿に、未来で彼女を襲ったであろう苦境を悟った武子は慰めるようにこの一言を言った。「わかったわ」と。武子が受け入れた事で、この時以降第一戦隊、いや、ひいては軍の対重爆戦法に大きな変化が生じたのであった。


――数時間後 待機所

戦隊長の江藤は海軍との軍議に行っているため、次席である黒江と圭子が説明役に回り、第一戦隊の第一小隊のいつものメンバーに作戦を説明する。

「今回の迎撃戦にはこれを使う」

「それって海軍さんの……あなたそれどこから……」

「北郷さんに無理言ってもらってきたのさ。海軍でもまだ制式採用前の試験装備だ。20ミリだから八九式や一式の装備になるホ103より威力はダンチだ。弾は改造はしてあるが、精々125発しか持っていけないのが玉にキズだ」

「125発……あまり余裕は無いわね。200発入れられなかったの?」

「今の技術じゃこれ以上は無理だ。これでも通常の倍にしてある。通常だと60発しか入らないし、低初速だから弾道が下がりやすいって銃だから」

「よくまぁそんな銃を採用するわね」

「海は洋上の護衛任務も迎撃任務もやんなきゃならないし、この戦いで九七式機銃の威力不足を痛感する。だからライセンスを買ったんだよ。最終的には250発、初速750 m/sに性能上がってるしな」

それは20ミリ機銃を今時大戦で主力として使用する海軍の運命であった。欧州派遣部隊には弾薬調達の都合で12.7、ミリへ改造した型が配備されたが、“例の奴ら”の襲来で20ミリへ戻される。黒江が言ったスペックは1945年に海軍ウィッチに回されている九九式二〇粍二号機銃五型、即ち最終生産型のそれである。


「コイツは1943年、ちょうど穴拭が上がりを迎える年に登場する九九式二〇粍二号機銃三型相当の性能に上げてある。初速を早くした分、反動は大きいが、慣れろ」

「分かったわ。で、狙うコツはあるかしら」

「そうだな……敵よりちょっと上を狙え。それで当たる」

「上を?」

「99式の弾道的な問題でね。ちょっち上を狙わないと飛ばないの。それで1942,3年頃だったかな?ウィッチ用に2.7ミリ型が回されるようになったの」

「ああ。だけど、敵がネウロイ以外にも現れたから元に戻すハメになるんだけどね」

「そうそう。奴らのせいでね」

それは99式の弱点である。航空機関砲としても、ウィッチ用の武器としても、当初、低命中率であるのが大問題とされた。普及後に第一線を張っている当時の海軍ウィッチや航空搭乗員らに「あたんねーじゃねーか!!」とか、「こんなのじゃ無くって中口径銃を作れ!!」と文句が出まくったのは言うまでもなく、航空機用に三式十三粍固定機銃が採用。ウィッチーズには99式の生産ラインを流用・改造した型が回されるようになった。が、それらは1944年にティターンズのジェット戦闘機によって無意味とされ、再び20ミリに再統一されるという経緯が起こる。圭子はその辺で弾薬調達などで苦労したので、ため息をつく。

「だから1943年以降に撃墜王になってる世代の後輩達は緒戦の勝利と華々しい活躍した坂本達の世代を疎んじてるのよ。火力不足で苦労強いられてるし、戦も苦戦続きだからね……」

「つまり、カールスラント式の編隊空戦が主流になるのね?」

そう。1943年以降、ネウロイの世代交代によって零式や一式の陳腐化が急速に進み、戦線では苦戦が多く報告されるようになった。そのため緒戦の常識でモノを言う古参ウィッチは若手の間では“昔の栄光にしがみつく老いぼれ共”と煙たがれ、疎んじられている。そ0れは特に零式を輩出した海軍に見られる傾向で、若手は紫電改の配備を熱望しているのに対し、ベテランは零式の改修型を望む。そのため世代間対立が生じる事態が起こっているのだ。

「そうだ。特に1943年以降に謙虚に表れる傾向でな。その頃には坂本や竹井の世代が古参になるが、苦戦を経験してる若い世代との対立が凄くなるのさ、海は。特に坂本は巴戦で華々しく活躍した私らに憧れている。だから零式の緒戦の栄光を一撃離脱戦法が主になっても忘れられない……アイツらをそうしちまったのは私らの責任だからな……私らが奴らに手本を見せる必要があるんだよ」

黒江も、圭子も、智子も8年分の実戦経験で一撃離脱戦法が花形になった戦を経験し、未来でジェット戦闘機にも搭乗した。巴戦の技量は大事だが、一撃離脱戦法に適応しなければ今後の戦では生き残れない事を身を持って思い知っている。そしてこの戦で失われた篠原弘子を初めとするエース・ベテラン勢の犠牲を食い止めるために。



「行くわよ!!」

と、言うわけで空中指揮は臨時で武子が、それを隊長経験がある3人がカバーするという布陣で、第一戦隊は発進した。既に海軍が戦線を張っているが、苦戦中だ。

「綾香!」

「任せろ!野郎ッ、やらせん!穴拭、続け!」

「了解!」

基地の海軍施設への爆撃行程に入った一機を黒江が直上からの逆落し戦法で落としにかかる。菅野ら後の343空の面々が後々により強力なネウロイに対して行う手法である。もしこの行動が歴史を変えるのなら、自分らが先駆者として歴史に刻まれるだろう。黒江は空戦研究に熱心であったので、菅野から伝授されると、数ヶ月で自家薬籠中の物にした。二機編隊で爆撃機に肉迫し、改造した99式20ミリを叩き込む。威力は改造の関係で、この時期の海軍正規仕様のそれを上回っていた。炸裂音とともに、ネウロイの外郭を削り取り、飛行機で言うところの機首部分にあるコアを露出させる。それを追い打ちに智子の刀が断ち切る。


「ふう。ちっとはあいつらに良い所見せられた、かな」

だが、海軍は全体的に押されており、後のエースである坂本や竹井、若本も敵に翻弄されていた。

「智子!」

「どうしたの圭子」

「坂本の奴、上からの敵に気づいてないわよ!あれじゃ撃たれる!」

「何ですって!?あたしが行く!」

圭子からの通信で坂本の危機を知った智子は97式のエンジンを全開で吹かして坂本のもとに急行した。この時期、最も加速力に優れる97式はあっという間に上限の時速460キロへ加速した。

「邪魔だぁぁっ!」

途中、敵機が立ち塞がったが、これは既に一撃離脱戦法に熟達した智子の敵ではなかった。胴体を備前長船で一刀両断し、そのまま坂本のもとに向かう。これを見ていた武子は巴戦にこだわっていた智子も8年後には一撃離脱戦法を実践し、熟達するまでに成長したのを垣間見れた事に嬉しさを見せつつも、指揮を怠らない。散り散りとなった海軍部隊を北郷とともに再集結させて陣容の立て直しを図った。

「少佐、大丈夫ですか」

「ああ。すまない。あの“アホウドリに良いようにされてしまった」

「動けるものは私と少佐の指揮下に入ってください!アホウドリをここで落とします!」

アホウドリとは、先程黒江らが落とした重爆型のコードネームである。この時期のどこかで坂本の魔眼が初めて戦局に貢献したと、未来の記録には記されている。そして、彼女の報告が事変の戦局を左右するという事を。



――ここで坂本を死なせたら、芳佳や直枝達に申し訳立たない!

智子は坂本を救うべく、全速力で疾走するが、敵は急降下で死角から坂本を狙う。九六式の防御力では防げない威力の弾丸――この次期はビームを使うネウロイはまだ少数派であった――を叩き込む絶好のポジションを占位している。九九式20ミリは完全に射程外で、届かない。ここで彼女は遂に、未来での自らの愛弟子たる、時空管理局のエースオブエースの砲撃魔法を使う決心を固めた。

「こうなったら……!“なのは”!あんたの砲撃魔法、借りるわよ!!」

――なのはから発動のコツは聞いたし、理論的には魔力と呪文詠唱さえすれば撃てるはず……!

智子はなのはから習った呪文を詠唱し、使い魔の補助もフル活用して、ミッドチルダ式の魔法陣を展開。刀を魔力収束の媒介とする形として砲撃魔法を放つ準備を大急ぎで行う。

「よし……良い感じに魔力をチャージできてる!」

この時、展開された魔法陣は扶桑本来の魔法陣は愚か、世界の魔法陣とも異なる魔法陣であったため、目撃者の度肝を抜いてしまった。特に最近は驚き役になってしまった武子はまたまた度肝を抜かれた。

「なっ!?あの魔法陣……どの方式の魔法陣とも違う!これがあなたたちが8年後の世界から持ち込んだ知識だというの!?」

「ああ。そうだ。今は詳しく説明する時じゃねーが、8年後に私達が得る、いや、得た力だ。発動にそれなりに大きな魔力が必要だが、威力は……並の戦艦主砲以上だ!」

そう。この時の智子の砲撃は魔力量などの問題で威力はなのはやティアナなどのそれには到底及ばないが、長門型戦艦(改装後)の45口径40cm砲を完全に上回る威力は十分に確保できていた。そして、その魔法の名を盛大に叫ぶ。こっ恥ずかしいくらいに。

「ディバイィィィィィン……バスターァァァァァッ!!」

刀を媒介として放ったディバインバスターはなのはの極太なそれと比べれば遥かにか細く、魔力量も桁違いに劣る代物ではあった。が、それでもネウロイを消滅させるには十分な威力を発揮した。「刀を媒介として撃つ」という点では、なのはやティアナよりはフェイトのプラズマザンバーブレイカーに近しいだろう。とにかく、坂本を撃とうとしたネウロイはまとめて消滅し、後方にいた“アホウドリ”もまとめて消滅させた。が、それなりの代償は存在した。何せ魔力を食うために、飛行するので精一杯になってしまったのだ。この辺が砲撃魔法を乱発できるなのはとの違いである。

「やっぱり……ディバインバスター一発でヘトヘト…………とてもスターライトブレイカーなんて使えないわね……少なくとも今のストライカーユニットじゃ……」

そう。魔導師はカートリッジさえあれば高威力攻撃を躊躇うこと無く連発できる。補助になるデバイスもある。が、ウィッチの場合は魔導師のように、おいそれと砲撃魔法を使えないのだ。これは3人が未来世界で色々試した結果、判明した。この時点で智子は事実上、戦闘継続力を失った。辛うじて飛んでいるので精一杯だ。

「ヒガシ、穴拭と坂本を回収しろ!坂本はともかく、アイツはいい的だ!!」

「がってん!」

圭子が二人を回収に向かう。ディバインバスターは確かに強力無比な攻撃だが、ウィッチが行った場合、魔導師以上に魔力を消費する。その辺がウィッチがミッドチルダ式の高位魔法を使う上での難点なのだ。

「とりあえずアホウドリ軍団は撃退したけど、ややこしい問題持ってきてくれたわね、綾香」

「ああ……そりゃ後で詫びる。……しかしあれを使わないと坂本は落とされていた。まっ、あれは一回の戦闘につき、せいぜい一、二発使うのが限度だ。これは色々試してみて分かったけど。切り札はおいそれと使えないっつーのはSFとかでもよく見るだろ?それと一緒だ」

「あなた、なんていうか……以前より砕けたわね。話し方とか、なんか豪快になった……」

「部下持って、先任中隊長になったりして、経理とか事務書類と格闘して、お偉方の“ケツ”舐めたりしてご機嫌とったり、別の世界の23世紀に飛ばされて弟子とったりもすりゃこうもなるさ」

黒江はそう自嘲する。1944年〜1945年までの一年で最も苦労したウィッチの一人である。熊などの猛獣と格闘するハメになったり、13歳に若返って未来で宇宙戦争に関わって一定の地位を得るために頑張ったり……そのためか、黒江は現在、ウィッチの中では最も21世紀以降の人間に近しい感覚を持つに至った。そのために精神力重視の1930年代末時点の扶桑陸海軍に対して反感を持っているのだ。

「分散した基地を統廃合して戦力を集中させて食い止めるのが得策だ。そうでないとアホウドリに各個撃破されて終わりだ。江藤隊長に意見具申してもらうが、東条とか堀井のノータリン共が聞き入れてくれるかどうか……場合によれば陛下に直訴するしかない……」

「ええ。上は楽観論が蔓延ってる……江藤隊長みたいな一中佐の意見を大本営がとり合ってくれるとは思えない。陛下に直訴するのにも、私達みたいな少尉に拝謁が許されるとは……」

「手は打ってある。この間、北郷さんを通して、岡田閣下や米内閣下、今村閣下とかに話を持っていってある。段取りは米内閣下が整えてくれるだろう」


黒江はニヤリと笑う。陛下に話を通すために、北郷や圭子と共に軍の有能な将官や長老らに話を通して置いた事を示唆する。場合によれば元老の西園寺公望にも話が行く可能性がある。政治的に上を動かすには長老に話を通せばいいのだ。軍の長老達や最後の元老である西園寺公望も東条英機による、事実上の独裁体制樹立は阻止したいだろう。そのために自分たちの話に乗ってくるのは十分に考えられる。実に腹黒い行為だが、大戦の犠牲と天秤にかければ帳尻合わせになるのだろう。武子は友人らの策動に薄ら恐ろしさを感じた。












―― 同時刻 扶桑皇国海軍 軍令部

「陸軍のあの少尉が手渡したあの情報は確かなのか?」

「北郷少佐の仲介だから信じる価値はある。堀井のヤツは竹井さんのウィッチ組織を排除しようと躍起になっているからな。ちょうどいい。アイツらの排除の良い口実になる」


軍令部で極秘で会談しているのは、米内光政、井上成美・古賀峯一・山本五十六・伊藤整一などを初めとする、主に海軍提督と一部の陸軍の反主流派の将軍らによる、陸海軍の軍改革派である。それに反目する、大艦巨砲主義者かつ、歩兵至上主義な保守派の面々はウィッチを快く思わない。

「東條“上等兵”は戦車や装甲歩兵のの有用性を否定している。が、あの作戦で5000人の若者らを無為に死なせてしまった。武器の対装甲攻撃力が絶対的に不足しているからだ!」

と、時の総理大臣であった東条英機―旧字で東條――を罵るこの陸軍将官は史実では功罪入り交じり、東条英機と対立していた石原莞爾である。彼は東条英機の無能を嘆き、陸軍近代化を早期に起こすために米内光政に接近、この会合に同席していた。ちなみに総理大臣に上り詰めた東条を小馬鹿にしているのは、彼が過去に東条英機の部下であった経験があるからで、その頃から険悪な仲である。

「陸軍装備の旧態依然さはもはや目も当てられん。近い将来は空軍の設立も視野に入れる必要がある……だからこそ、だ」

「米内さん。例の◯サン計画艦ですが、副砲が多すぎます。艦政本部に働きかける事は出来ないのですか」

「紀伊型の後続艦だろう?対空能力を重視しなければ今度の戦では無意味だろう。よろしい、私の方からどうにかしよう」

この時に議題に上がった艦は大和型戦艦以降の次世代艦である。艦政本部で内定した設計案は大艦巨砲主義に則ったものである。それを対空能力重視型へ改変させようと米内光政は自身の人脈を使って艦政本部に圧力を加えると約束した。これにより未来が変わる要素が増えた事になる。



「堀井の奴を排除するにはどうしますか?」

「奴らがその内、本土に攻勢をかけるとあの少尉の情報ではある。陛下にお願い申し上げ、前線視察の名目で比叡、陸奥か紀伊あたりに乗っけて、名誉の戦死を遂げたということで片付けよう。これなら遺族への海軍の面目も立つし、代換に戦艦か空母を建造する題目も成り立つ。船はまた作ればいい」

彼らは陛下に協力を仰ぎ、今後のために海軍保守派の首魁である堀井大将を謀殺するという政治的行為を決定する。どの内、東条英機は本土への攻撃が決定的になれば退陣を余儀なくされるだろうし、陛下からの信頼も失われつつある。問題は現実を直視しない保守派の面々なのだ。

「南雲たちも始末したいところだがね」

山本五十六は個人的に嫌う水雷系将官の名を呟く。彼はネウロイの航空型に備えるために航空兵力充実に舵を切ったが、それに疑問を呈する将校らも数多くおり、山本は過去に南雲忠一と対立した。そのため彼も気に入らないのだろう。

「山本、言葉が過ぎるぞ」

「しかし米内さん、保守派のノータリン共に見せしめは必要ですぞ」

「それはわかっている。小沢くんや山口くんにも意見を聞こうじゃないか」

米内光政が山本を嗜める。流石に山本の嫌いな人物への態度は度が過ぎる嫌いがあり、米内も“これが山本の人間的欠点なのだ”と呆れており、山本を嗜めることも多い。ちなみにこの政治的駆け引きに一役買ったのは圭子であった。圭子は未来を、当面は戦友らが多く逝ってしまったこの戦の行く末をいい方向へ変えるために黒江の助けを借りて、北郷へ事情を説明。北郷はそれを更にかつての上官の山本五十六に通達。山本五十六を通して米内光政へ……といった具合である。そのため圭子は軍部改革派を早期に行動開始させるきっかけを与えたのだった。












――智子らの自室には今後の行動計画が記されていたメモが置かれていた。その一部を紐解いてみよう




――ストライカーユニット性能早期向上計画。後々に分かる問題点を当初から是正。当面の目標はキ43、44、零式の後期型相当の性能への改変。

これがまず、第一の計画。第二計画は軍内の改革派を早期に動かして、軍の近代化を促進させ、保守派を“叩きのめす”事である。これは後々に部隊長レベルに昇進した智子らが物資補給や技術者との折衝で苦労した経験からのモノで、早期に軍制式品や弾薬、燃料のオクタン価統一などを図る……。


これらはあくまで計画だが、第二計画に関しては、米内光政を首魁とする改革派が保守派排除のいい機会とし、策動を開始したので成功と言える。第一計画は黒江のツテで各軍需産業に用兵側の要望という形で伝わり、おそらくは多少なりとも良く成るだろう。そして、運命は変わり始める。そうした策動が入り交じる扶桑は1938年を迎えようとしていた。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.