短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――次元震パニックで遭遇した、二つの次元の501メンバー。一方は強化と鍛錬を重ね、比類なき力を得た。もう一方は44年当時から比べれば円熟した力をつけたが、それは歴史が通常の流れを辿った場合のものであるので、特殊な流れを辿るA世界では通用しない。その通りに、B世界から転移した501メンバーは苦戦を余儀なくされており、A世界の64Fに救出されていった――。



「まさか、別の自分達を助ける任務なんてね。面白いもんですね、菅野さん」

「まーな。俺はいねぇけど」

「502ですからね、菅野さんは本来」

「2年前、お前と組んだら、リーネにライバル視されたのは参ったよ。あいつどんだけてめぇが好きなんだよ」

「一緒に苦労した仲間ですから!私もリーネちゃん大好きだし」

「かーっ。そういうの家でやれよな」

「雁渕さんにバラしますよ?」

「うっ!てめー……中々考えやがる」


A世界では、リーネは最終的にペリーヌと組み、芳佳は菅野と組んだ。黒江が機種別に振り分けたからだったが、リーネは芳佳との編隊を希望し、黒江に直談判したが、スピットファイアと紫電改の飛行特性の違いを理由に退けられた。そのため、リーネは黒江の真意を掴みかね、査問が入る寸前まではどちらつかずの立場を取らざるを得なかった。その事で、リーネは芳佳に嫌われるのを恐れていた。智子を幼少時に『剣術の先生』と呼び慕っていた事が判明したり、黒江が扶桑歴代最強の英雄的なウィッチチームの一人であった事が次々と判明したり、芳佳がGに覚醒したり、ペリーヌがモードレッドになったりの出来事が集中したので、作戦終了直後、リーネは三人に改めて詫びている。また、作戦中のある出来事で近くに居なくても絆が繋がっていると感じ取り、吹っ切れたため、リーネは菅野に芳佳を託している。この時期には、リーネはペリーヌ(モードレッド)の従卒であるため、実質的に一線を退いている。だが、ウイングマークは維持しているため、501籍は維持している。芳佳の新たな一面を知るため、現在は64F基地で働いている。菅野もリーネと付き合う事で仲間のグループが拡大し、以前より角が取れたと評される。日常では、芳佳に、孝美を裏で慕っているという事で『弱み』を握られており、遊ばれている。芳佳が角谷杏としての曲者ぶりを発揮したのだ。

「さあて、別の私とリーネちゃんを救うと洒落込みますか」

「向こうのリーネが判別つくか?」

「ガランドさんが通達してるそうですから、大丈夫でしょ。履いてるのも旭光ですし」

「向こうのお前は紫電改か?」

「いえ、坂本さん曰く、おそらく震電だと」

「しんでん?あの筑紫が試作してたエンテ式の?」

「こっちじゃ、改の計画に移行したから、レシプロストライカーユニットとしては完成しなかったけど、向こうじゃ実質的に私の専用機として送られてるはずなんで」

「そっか。3年前、坂本さんが愚痴ってたのはそういうことか」

「坂本さん、震電を私に与えたかったって言ってましたから、ジェット試作機の母体になったのを悔しがったんですよ。だけど、試作機は私や黒江さん達しか起動できないくらいの膨大な魔力を必要にするのは不味いですよ。横空の連中じゃ、うんともすんともいいませんよ」

「あー……そりゃ大問題だ。履いてみても外部電源入れねぇとエンジンが掛からないのは、局地戦闘脚としちゃ致命的だぜ」

レシプロとしての震電の試作機は『マ43特』という宮藤博士の残した最後の設計図を基に作った性能向上型のマ43を積んでいたが、横須賀航空隊のウィッチでは起動すら不可能であり、そこで坂本は『宮藤に回せないか』と意見具申し、一時は芳佳専用機にするつもりだったが、黒江達がもたらしたジェットストライカーユニットの情報で海軍航空本部が動き、ジェットの試作機として再設計する事になり、話が流れてしまった。そのため、分かってはいたが、愚痴ったのを菅野は目撃している。その間に空軍が震電改シリーズの開発を引き継いだが、横空が解散前、意図的にデータを紛失したため、色々と混乱が生じている。そのため、戦闘機・ストライカーユニット共に実質的に試作機の改造の必要度合いが上がってしまったのと、再開発に等しい手間がかかり、前史より登場が遅れている。これを知った天皇陛下が旧・横空関係者を呼びつけて叱責する事態にもなった。これは自分達が空軍に組み込まれる事を悲観した、ある若手テストウィッチ/テストパイロット達が独断で図面などを破棄し、試作機を破壊しようとしたからで、後に空軍に籍が移るだけと分かった後で、責任の押し付け合いになった。そのため、実質的にストライカーユニットと戦闘機の双方が前史とは別機に等しい性能になり、生まれ変わる事にはなった。これに怒った天皇陛下の意向も働き、64がテスト部隊も兼務している。これが空軍にテスト部隊が置かれていなかった理由である。だが、64に何もかも兼務させるのは過労死ラインに届くので、航空幕僚長が天皇陛下に拝謁し、専任部隊の意義を説いている。

「陛下、専任のテスト部隊は必要な部隊なのですが、人員の固定化で硬直してたのが問題なのです」

「どういう事かね?」

「ハッ。私どもが調査したところ、黒江統括官が赴任した当時の航空審査部の人員は皆が着任から5年以上経過している者ばかり。そこへ実戦帰りの統括官が入ってきたら反発されるのは必定。統括官は言わば、ヒヨコのコミュニティの中に生ずる『生贄』の役にされたのです。陛下が介入なされたことで、統括官に手を出すと、責任者が腹を切る事態になる事がわかり、彼女らは腫れ物に触るように扱い、とうとう追い出しています。ここが問題なのです」

2018年に着任した航空幕僚長は黒江の信奉者であり、黒江達に何もかも担わせる事に疑問を持ち、レイブンズの了解を得て、自衛隊ルートで調査を行い、その結果を奏上していた。これは航空自衛隊にはテスト部隊として、『飛行開発実験団』があるが、その交流先となるはずの部隊(横空/航空審査部の後身)が無く、交流先に指定された先が64Fである事に困惑した自衛隊が黒江達の了解を得て、独自に調査を行った事を奏上するために、扶桑の皇居を訪れていた航空幕僚長。航空幕僚長は扶桑では空軍大将相当の礼遇を受けるため、航空幕僚長は旧軍将官らが拝謁する時の気持ちをここで理解したわけだ。

「人員が固定化していたため、実戦の実績豊富な統括官を妬む声があったと言うのは、陛下もご存知でしょう。当時の航空審査部の在籍者は扶桑海事変前に実戦部隊から引退した世代のウィッチ達ばかり。皆が当時で20代中盤に差し掛かる年齢の者達。そこへ、当時まだ実戦部隊にいる年齢の統括官が入ってくれば、『若造のくせに』、『仕事のハードルが上がる』と妬む声が日を追うごとに大きくなっていったのでしょう」

「うむ……」

「更に、統括官は固有魔法が『操縦した機体の細かい性能の違いや特性を、感覚ではなく明確に数値化して表現出来る』というモノで、テストパイロットに最適なものであったのが妬みを買う最大のきっかけとなりました。当時の責任者にヒアリングしたところ、『黒江はテスト部隊が特性を活かせる舞台と思い、招聘した。小官の過ちは部隊の統制をもっと取るべきであった。陛下のお手を煩わせたことは、我が一生の不覚である』と話して下さりました。統括官を追い出したことで、航空審査部の評判はガタ落ちになり、当時の在籍者は数年以内に辞表を出し、軍を去っています。統括官が黒田家と深い繋がりがあるのが知れ渡ったことで、社会的報復を恐れたのでしょう」

「そうか……ご苦労であった。」

「加えて、穴拭准将へのいじめについてもご報告させて頂きます。これについては極単純でありました。小学生並の理由です」

「小学生並とは?」

「見かけが若々しいから、昔の英雄とは思わなかったというものです」

「なんだね、それは」

「私も報告を受けた時は、頭に閑古鳥が鳴きました。聴取によりますと、准将が童顔であったのと、当然ですが、その当時は20に入ったばかりだったので、ウィッチの世代交代で、周りが功績を知らない者ばかりであったのが原因でした」

航空幕僚長の報告に頭を抱える天皇陛下。航空幕僚長も呆れ返ったような顔で報告している。智子へのいじめについては、21世紀での小学生がやるような単純なもので、智子自身は未覚醒であった当時はかなり気にしており、それがG覚醒後にも影響を及ぼした。そのため、智子へのいじめについては、レイブンズのメンバーである事が知れ渡ると、自然消滅している。要するに、後輩世代は『権威があると黙る』のである。また、赤松が動き、本格的に現役に戻り、ウィッチの統制を取り始めると、レイブンズの二人へのいじめはピタッと収まっている。つまり、赤松の権威は扶桑ウィッチの老若問わず通ずるものなのだという事も航空幕僚長に伝えられている。赤松の権威は戦間期も健在であり、レイブンズと違い、ご意見番的な地位を確立していた事が効いたのである。

「これについては、最終的に赤松中尉が統制を取り始めたことで収まっています」

「赤松か…。金鵄勲章ものだな」

「そこは武功章で」

天皇陛下は事変以来、レイブンズの三人を『真に忠勇なる者』と評価しており、与えられるだけの名誉を与えている。また、基本的に陛下はレイブンズに味方する者には好意的であり、赤松に金鵄勲章を授与すると述べた。当時、扶桑では日本側の危険業務従事者叙勲に組み込まれる形で、金鵄勲章の生存者叙勲が再開されており、年金制度も継続した。これは日本側の考えより遥かに多くの授与資格者がいる事で、日本側が検討していた一時金では、兆の金額があっても追いつかないほどに膨れ上がっていたためである。(おおよそ、陸軍だけでも600万人近くは扶桑に有資格者がいたので)そのため、管チョクト内閣の代で瑞宝章を金鵄勲章に代える案は立ち消えになっている。防衛省の指摘もあったが、1000万人近い人数に年間三桁の割合で授与するのも非現実的だったからだ。年数がかかりすぎて、終わる頃に21世紀になる。(従って、従軍記章の廃止も流れ、ダイ・アナザー・デイ作戦の従軍記章が新規に製造され、授与されている。これは日本側の不手際も作戦の進行に関係したので、その慰労手当が異例の高額である。参加できなくなったウィッチも多かった上、黒江達の勤務時間が過労死ラインを超えていたからであり、黒江達の戦功への慰労の意図もある)

「陛下。私共のもう一つのご報告を。此度の戦についての防衛省の見解を申し上げますが、攻勢に出た場合、一年で東海岸の工業地帯を叩き、その上で敵主力を文字通りに壊滅させ、西海岸の全域を一時でも占領するしか、和平すら困難かと思われます」

「そこまでしないと無理かね」

「はい。残念ながら、敵のフロンティア・スピリッツは我が方の大和魂に勝るとも劣らないものです。最悪、全軍の三分の一の損失は覚悟しなくては」

扶桑は連合軍の財政援助、日本からの援助で軍事的には最大規模になっている。戦艦は10隻を超え、空母は額面上は20数隻の正規空母を維持している。だが、その戦力もリベリオンの膨大無比な生産力には心細いと言われている。あくまで史実の日本との対比だが、航空機生産数一つ取っても、おおよそ数万機もの開きがある。ジェット時代では、装備価格の高額化で数値の差が縮まると思われるが、艦艇生産数はカールスラント、ブリタニアのそれを足したとしても、日本は戦時体制と言うものが想定されておらず、些か味方としての生産能力は宛になるか未知数。そのため、スーパーロボットなどを活用し、リベリオンの戦意を如何にして挫くかが問われている。

「マジンガーやゲッターなどで物量差をどうにかするにも、その下地づくりはしませんと」

「うむ……」


――これが扶桑本土で行われていた事である。当時、日本連邦は軍事力が扶桑やその他連合軍の全てと自衛隊を合わせたとしても、リベリオン一国に届かないという予測を立てていた。確かに、『史実の国力差』であれば、それは正しい。だが、扶桑は日本帝国の10倍の国力があり、ブリタニアやカールスラントも史実の大戦末期の疲弊した状態よりはマシな状況にある。そのため、その予測よりは若干であるが、マシな戦力差になると思われる。特にリベリオンは政情が不安定であり、そこの隙を突き、第二次南北戦争を起こして和平する案も急浮上している。それほどの事をしなければ、リベリオンは和平のテーブルにさえつかないというのが、日本側の予測であった。アメリカが戦闘態勢を取れば、たとえ100万人が犠牲になろうと、原爆か水爆を敵本拠に落とせばチャラになるという思考回路のもとに動く。その事を熟知する日本は『戦術的優位が20年分はないと、防衛すらままならない』という強い強迫観念に駆られている。これは自らが絶頂から奈落へと落ちた事によることで生まれた集団ヒステリーに等しく、統合戦争に至るまで、日本人に引き継がれる強いトラウマと言える現象である。そのため、日本を突っ走らせると行き着くところまで行ってしまうと他国を困惑させる。この時期には、扶桑はそのトラウマを垣間見るようになっていた。そのため、日本が加速させる文明の進歩の中に、ウィッチをどう収めるかが問題であり、特殊部隊化はそのためのものであった。確かに、軍事的技術は3年で『史実の15年は進歩した』と言わしめるほどに進歩したが、その急激かつ性急な変化に人や仕組みがついていけない有様。また、日本側の予測は『史実の結果』に基づくモノで、ティターンズによる反応弾攻撃で西海岸生産能力が減退しているのを考慮していない。実際は、ティターンズが見せしめとして行った核攻撃で西海岸は人口流出が大規模に起き、偶々のい難を逃れ、生き延びたカイザー造船所の社員たちが実質的に亡命側についた事もあり、リベリオン本国も史実ほどの生産能力はないのだ。ティターンズは見せしめ目的とはいえ、サイサリスのアトミックバズーカを西海岸主要都市にぶち込んだのだが、それが占領後は愚策と変わった。西海岸の修理工廠が失われたり、非協力的になったがため、東海岸に回航する必要が出たり、パナマ運河の失陥もあり、リベリオンはハワイへの補給線を空路以外は事実上は絶たれている。実のところ、艦隊決戦はリベリオンには太平洋の海上兵力を失うリスクを伴うものとなっているので、その切り札たるラ級の増産が急がれているのである。民間造船所を動員したところで、パナマックスを超えるサイズの空母や戦艦の修理は造船所の拡張が必要なので、太平洋艦隊は前史と違い、大規模行動を控えている。そのため、太平洋艦隊旗艦『ルイジアナ』を初めとした有力な艦隊は、殆ど遊兵化してしまっていた。そこも戦局が上陸後二年近く、一定のところで睨み合いになる塹壕戦に近い様相を呈している理由だ。また、B-29の増産もボストン工場の規模縮小で上手く行っておらず、前史とうってかわり、リベリオン軍の太平洋方面軍は上陸した兵力と航空兵力以外は遊兵化してしまい、史実ほどの激戦は起きていない。まさに1940年代の塹壕戦だった。これは上陸したはいいが、その後が続かず、ティターンズによる空輸も数に限りがある事から散発的であり、戦局を動かす決定打に欠けていた。これは旧式兵器の稼働率低下に悩む扶桑も同様である。従って、双方が決定打を持たず、塹壕戦が続く日々を、自衛隊や米軍は『第一次世界大戦/西部戦線の再来』と称したという。実際、リベリオンは逐次の増援こそあるが、とても攻勢に出れるだけの必要人数には届かず、扶桑も自衛隊などから提供された兵器への不慣れ、更新途上の部隊と旧式装備が混在する状況で、攻勢など無理である。兵器の運用/整備インフラ整備の途中でもあった事から、そこの面からも攻勢は先延ばしされており、新兵器の開発にリソースをつぎ込んでいる。扶桑は新兵器の開発を急いだが、苦難の道であった。当初、供与された機体を補う廉価版ジェットにするつもりであった震電改二の事実上の再設計による開発の遅延、再設計による高性能化に伴う価格の高騰(当初の倍に膨れ上がっている)、艦載機化が要望された事もあり、前史以上に価格が高騰するのは間違いない。戦車も74式戦車のコピーには成功しつつあったが、自衛隊からパワーアップキットが提供されたので、それに適合するようにしなければならず、これも開発がのびている。(APFSDSがすぐに大量生産できるわけでもないので、74式の防御力であれば、M48パットン戦車の攻撃に耐えられる)扶桑も最終的には90式か10式相当にするつもりだが、ベトロニクス周りの進歩と相談である。ウィッチ閥の存在もあり、戦車の発達も足踏みするだろうとは、技術者の予測だ。(APDSが扶桑やブリタニアで現れた段階なので、その次の世代を心配するのは杞憂かもしれないが)また、戦艦の砲弾に粘着榴弾が考案された段階である。ブリタニアが大和を越えようと模索している内に試作したらしい。しかし、粘着榴弾を戦艦の主砲で運用するのは前例が無く、提供された扶桑も扱いに困るものだった。しかしながら、その威力には興味があったのか、『試製五式通常弾』という名で大和と信濃用に製造された。ブリタニアは対超大和用の秘密兵器と意気込んでいたが、宇宙戦艦用の複合装甲に改造されている当の超大和型には効果が薄かったりする。しかしながら、通常の戦艦であれば、装甲を破壊するには充分な威力が見込めるため、ブリタニアと扶桑の共通装備となり、双方の陣営で戦艦を中心に使われていくのだった。扶桑皇国主力の筆頭三笠型の56cm粘着榴弾は凶悪な破壊力を誇り、並の戦艦であれば、どんな部位の装甲をも一瞬で破砕できると評判であった。なお、三笠型には現在よりも大口径の61cm砲に換装する案があり、既にそれ用の砲塔は完成している。これは仮想戦記よろしく、バダンが『H45級戦艦』に56cm砲を積む可能性が考えられているからであり、大艦巨砲主義の極致であった。三笠型の上位艦すらも俎上に載せられつつあり、扶桑は超々大和型の次元に足を踏み入れようとしていた。





――艦政本部――

「地球連邦軍が次期戦艦の提案してきたんだが、今度は800m級の61cm、あるいは66cm砲だそうだ」

「いよいよ列車砲並になってきたな」

扶桑は地球連邦軍の援助を良いことに、戦艦をバシバシ作っていた。長門以前の旧式戦艦を退役させ、その浮いた資金で新造戦艦の予算を捻出していた。これは海援隊が領海警備を引き受けているからこそ可能な芸当であった。その事が海保から批判されたが、本来は海援隊との役割分担がなされていたが故に、扶桑は日本帝国が羨むような戦力を整備できるのである。海保長官(罷免された)の言い分は『領海警備やシーレーン防衛に民間軍事会社はあり得ない!』だが、扶桑の国民にとっては『ド素人の内務は黙っとれ』である。扶桑は明治期から役割分担をしてきたので、よそ者の海保の入る隙はないのだが、海保はその設立過程や初期の人員が商船学校卒の予備士官である事から、兵学校卒の正規将校とはすこぶる仲が悪かった過去を持つ。罷免された海保長官はその思想を受け継いだ最後の男と評される程の軍組織(民間軍事会社含む)嫌いであったため、海援隊を罵倒し、才谷美佐子を殴打しようとしたが、逆に締め上げられ、その場で罷免されている。海保はこれで政治的に立場を悪くした。船をロシア戦で大量に喪失した危機感から、扶桑の予備艦の購入を拡大しようとしていたのだが、これで総理が懲罰的に購入予算を削ったため、日本本土での警備さえ支障をきたすほどの損害の埋め合わせはならなかった。そのため、扶桑海軍が海保の警備任務の代行を行っており、超甲巡が密漁船を追いかけ回す珍事も起こっている。これが21世紀世界で驚きニュースとして報じられた際には、密漁船側の船長が『日本は漁船相手に戦艦を繰り出すのか!?』と泣きわめくようなインタビューを受けている様子が報じられ、話題になった。超甲巡は『大型巡洋艦』として造られたが、実質的な構造は巡洋戦艦に近い。大きさも旧式戦艦よりあり、大和型戦艦と共通デザインの三連装砲塔と塔型艦橋のインパクトもあり、漁船側は当初、『漁船相手に戦艦大和を出してきた』と仰天したという。海上保安庁の現場もこれには困惑したという。扶桑軍の艦艇が臨検を行ったというので、現場に来てみたら超甲型巡洋艦だったのだ。(海保は大型巡洋艦と言うので、せいぜい高雄型重巡洋艦だろうと思っていた)超甲巡は戦艦と勘違いされる大きさだが、一応は巡洋艦扱いである。デモイン級重巡洋艦キラーとして実際は期待されているが、本来はアラスカ級大型巡洋艦を撃破するための艦として計画されていたのだ。これはワシントン軍縮条約の縛りから開放された『重巡洋艦』のデモイン級を撃破するために『超甲巡』を作ったという用兵上の事情がある。これは高雄型重巡洋艦含めた日本型巡洋艦がデモイン級重巡洋艦のせいで旧式化したという事情があり、とりあえず、改鈴谷である伊吹型を作ろうとしたら、その案が持ち上がった当時は既に空母として改装し始めていたし、その工事も『空母として小さすぎる』と、進捗率70%でいきなり中止となる混乱があったため、重巡洋艦の新型としてのポジションの穴埋めも兼ねていた。高雄型重巡洋艦の改善型を造ろうにも、1930年代の設計で、44年度設計のデモイン級重巡洋艦に勝てるはずがない。そのため、一度は井上成美の提言で潰えた超甲巡が金剛型戦艦の喪失で復活したのだ。(当人はこれに苦笑いだったとか)同級は金剛型戦艦の役目を継承し、高雄型重巡洋艦の役目をも引き継ぐことが予想された事、艦型が戦艦のそれであることから、運動性能が計画時の仮想敵だったアラスカ級より遥かに優秀であったのもあり、45年度から緊急量産された。艦名は過去の戦艦の名や、装甲巡洋艦などにつけられていた山の名前を引き継いでいる。そのため、前史と同様、ネームシップは『筑波』である。金剛型戦艦の数と高雄型重巡洋艦の代替が主目的であるので、45年(未来世界との接触後に再設計がなされ、三番艦からは改大和型戦艦の上部構造物配置に準じた配置に変わっている)から建造が開始され、二隻はほぼ原型の通りに完成した。その後、1947年度からは金剛型戦艦後期二隻、高雄型重巡洋艦の初期艦の代替として建造された中期艦が竣工している。マストが変更され、宇宙戦艦ヤマトと同型のマストになったのは、ここからである。テストも兼ねて、日本で試験中である。日本のニュースに出たのは同級の『八雲』である。

「超甲巡も出揃って来たし、次期戦艦のプランが持ち込まれるのも当然だろうが、大きく出たな」

「五十万トン戦艦の最大規模プラン並だな」

「あれは確か、最大規模案だと、『1017メートル、幅150メートルだったな」

「三笠型が承認されかけた案に近いが、これは最大規模案に近いな」

金田中佐の50万トン案は扶桑では承認されかけた過去があり、三笠型がちょうどその時の案の具現化であるが、此度に提案された案は金田中佐の最大規模案に似ていた。今回は66cm、もしくは61cm砲搭載案が提案されている。ギネス記録でも狙っているのだろうか。基本は三笠型だが、今回は空母としての機能も持たせるのか、後部飛行甲板の長さが並の空母よりある。しかも電磁カタパルト付き。改三笠型は提案されたプランでは全長800m級。マクロスツーサード級に匹敵する巨艦であるので、空母機能も内包しようかという目論見であろう。後部格納庫も並の空母が霞む大きさを予定しているらしく、空母機動部隊が空母を10隻以上は持てなくなる時代を見込んでいるのがわかる。これは地球連邦海軍では通りそうにない突拍子もないプランだが、空母の世代交代の波に翻弄され、戸惑う扶桑には魅力的なプランであった。結果、このプランは『敷島』という案で採用され、1953年を目標にラ級と同時に建造され始めている。海軍が最終決戦兵器と称して期待する超戦艦であり、三番艦『八洲』までが予定されている。

「おい、このプランだが、本部長が意気揚々と採用したらしい!」

「おいおいおい!どこで作るんだ!?」

「地下だって」

「ウチの人員で回せるのか?」

「呉で沈没したフネの連中を回すそうだ。旧型を大量に払い下げしたんで、人は余ってる」

「未来技術で少人数化すると言っても、これだと万単位行かないか?」

「元々、大和型戦艦で3000人だったからなー、今更じゃね?」

後日、宇宙戦艦ヤマトと大差ない人数で動かせるので、予想よりも少人数で動かせるという連絡が入り、本格的に艤装委員を置く事になる。同艦級は地球連邦軍造船官らの思考実験に近いが、空軍がマクロスツーサードやアンドロメダを引っ張って来たので、その対抗馬としての意味合いも海軍にはある。64Fがそれらを引っ張って来たのは海軍の領分に触れるが、宇宙艦艇は海軍の予想の斜め上を行っている。艦政本部は宇宙艦艇の取扱いで統合参謀本部が荒れるであろう事を予期し、新たな区分の創設を検討したという――






――本土での動きをよそに、Gウィッチ達は欧州で活躍を見せる。それはウィッチが従来の『運用思想』のもとで輝く事の出来る期間がこの戦争が最後だと言うことを知っている者達。日頃の鬱憤を晴らすのも兼ねて、暴れまくった。

「え!?あ、あれって私……だよね?」

芳佳Bは我が目を疑った。自分がもう一人現れ、バルクホルンの履いた実験機と違うジェットストライカーを履き、折り畳み式の大型銃を撃つのが信じられない芳佳B。

「ど、ドッペルゲンガー!?」

「いーや。ドッペルゲンガーじゃあないんだよね〜」

芳佳Aの声質は覚醒に伴い、角谷杏の声質に近くなっているため、Bとは明確な違いがある。口調も自身の成長で角谷杏寄りになっているので、黒江達と違って、一番分かりやすい違いである。

「リーネちゃ〜ん。ガランドさんから聞いてないのー?」

「あー〜!も、もしかして、この世界の!?」

「そー。あとで身の上話はするとして、援護は任せな〜」

芳佳Aはジェットのパワーにより、携行が可能になったリボルバーカノンを撃つ。これはM29であり、試作品のMG213よりも安定した性能が見込める事から、旭光では折り畳み式になって標準装備になっている。カールスラントももちろん、MG213の熟成を急いだが、ヘルマ・レンナルツが試作銃を破損させたため、データ集計に時間がかかっている内に、コピー先のM39がアメリカから扶桑へ提供されてしまった。しかもベトナム戦争後に改良された『フォード タイガークロー』タイプ(採用されていれば、F-20に搭載されていただろう最終改良型)と来ている。開発チームはそれを聞いて、ショックのあまり不整脈を発症して寝込んだとのこと。(試作銃の更に最終改良型を与えられたと聞けば、当然である)アメリカからすれば、M39は古い技術での産物であるので、図面や実物を与えても問題はない。そのところがマウザーの開発チームの急病を招いた。扶桑としてはアメリカに感謝であり、アメリカも兵器市場確保のため、扶桑には協力的であり、震電のジェット化へのアドバイスも行っている。アメリカは扶桑のみならず、亡命リベリオンの権益確保に協力しており、大統領が交代するとそれが公の態度となり、南洋島の浅瀬を埋め立て、そこをリベリオン人の居住地とする条約を結んでいたりする。亡命リベリオンへの土地の提供を引き出す代わりに、兵器技術の援助は惜しみなく行う。新大統領の下でのアメリカの方針であった。

「さすがM39の最終型。速いねぇ」

芳佳Aが叩き込んだ弾丸はそれほどでも無かったが、魔力で強化された弾丸が発射速度にして、毎秒2500発の速さで打ち出されるのだから、VF-11程度の装甲は最厚部以外であれば撃ち抜ける。(エネルギー転換装甲がフル活用出来るのはAVF以降の世代)芳佳Aは精密射撃の鬼と謳われる猛者。エンジン部を狙い撃ちする、キャノピーを撃ち抜く事も可能なのだ。そのため、Bがまだ未熟さを残すのに対し、Aは百戦錬磨の猛者の風格を感じさせる。リボルバーカノンを折りたたんで、背中にしまうと、今度は刀を取り出す。菅野と分け合った無銘の刀だが、菅野が量産品の中でも最高品質のものを選りすぐり『友情の証』として与えた逸品。芳佳の膨大な魔力が刀に注がれるので、その威力は推して知るべし。それを黒江と智子が仕込んだ剣術でぶつけるので、11は一瞬で『刀の錆』である。

「チェストォォォォ!!」

黒江が細かい部分を教え、智子が大まかな指導をしていたため、両者の混合的な使い方をする。坂本Aはそこのところは二人に任せきりである。(自分より確かであるので)これが空の宮本武蔵とも言われる芳佳Aの戦闘力であった。坂本の弟子の中で一番高い潜在能力を持ち、レイブンズがそれを最終的に開花させたため、『坂本が見出し、レイブンズが一人前に仕立てた』ドクトル・エース。ただし、今回は見分けをつけるためか、士官服で出撃していたりする。これは白衣で出るわけにも行かないのと、階級が少佐に上がっているためだ。階級章が左右で兵科モールの色が違うが、これは軍医と航空科将校を兼ねている故の特別措置だ。

「菅野さん、出てきていいですよ」

「おう」

菅野は17歳であるが、Gへの覚醒で見かけが固定されたため、芳佳B達より年下に見えるので、リーネBが『その子、誰?』と芳佳Aに聞いたので、菅野は膨れた。

「あん?リーネ、ガランドさんから聞いてねぇのかよ」

「え!?」

「元・ブレイブウィッチーズの菅野直枝。こう見えても大尉なんだぞ?まったくもう……」

「ご、ごめんなさい!年下に見えたから……」

「いいさ、慣れたよもう」

「あ、あの、私……だよね?」

「そーだよ。この世界の、って但し書きがつくけどさ。ドッペルゲンガーじゃないよ〜」」

菅野に謝るリーネBと、Bと邂逅する芳佳A。芳佳Bは正しく、15歳当時の芳佳である。履いているストライカーユニットも震電。A世界ではこの姿では量産されていない。Aが以前に履いていた紫電改と同じカラーリングは今となっては懐かしいものだ。また、未来世界の介入もないため、国籍マークも扶桑本来のものであるのは、Aには懐かしい。

「あれ?ジェットを履いている方の芳佳ちゃんの機体の国籍マーク、どこの国のなの?」

「あー、これ?今のこっちでの扶桑の国籍マーク。後で詳しく説明するよ」

「あれ?あれって大和だよね?大漁旗を……」

「あれ?旭日旗で、大漁旗じゃないよー。それと、あれは大和の姉妹艦」

「大和じゃないの?」

「四番目の妹の三河。見かけは似てるけど、だいぶ変わってるよ」

「もしかしてみっちゃんに教えられたの…?」

「あははー…。それもあるんだけど、坂本さんの姉貴分的な人達とつるんでるんだ、アタシ」

「坂本さんの?」

「映像で見てないの?レイブンズだよ。あたしはその孫弟子で、その人達の先生のひ孫弟子になるんだ」

赤松は若松と違い、気さくな性格なので、積極的に後進を育成する。その筆頭が『ボウズ』と呼び、可愛がっている黒江であるのは周知の事実。その弟子が坂本であり、その弟子である芳佳はひ孫弟子に当たる。赤松は教えることでも逸品の才能を有し、黒江に教導を仕込んだのは彼女である。系譜で見るなら、直接の系譜は坂本を経て、下原と芳佳に至り、黒江から枝分かれした別の系譜の末席が調である。赤松はそれらを束ねる『大先生』として、A世界の扶桑では『ご意見番兼最強のGウィッチの一人』という肩書きを持つ。特に恐れられているのが、彼女が本来、女性聖闘士最強の星座と畏れられた星座の孔雀座を継いだという点であり、その実力は黄金聖闘士を凌ぐとさえ恐れられる。彼女が本気を出せば、並の実力の黄金は平伏するしかないと、魔鈴やシャイナをして言わしめる実力。元は前史で、黒江が修行時代の寂しさのあまりに招聘したのが始まりで、今回においては黒江が黄金に叙任されるのと同時に孔雀座に選ばれている。そのため、赤松はA世界ではウィッチの最高権力者の一人となっている。そのことはBはぽか〜んと聞いている。Bはウィッチの序列を気にする性質ではないし、偶々に怪異と戦うために身分を得ただけであるので、そういう考えがないのだ。

「なんにせよ、あたしと君は同じ姿と名前の別人だよ。だから、そう考えてくれた方が気が楽だね」

芳佳AはBへ明確に言った。別人と考えてくれたほうが気が楽だと。芳佳Bは複雑な気持ちだった。怪異には銃を向けられるが、人相手には向けられない。これはAが良くも悪くも職業軍人としての気概を持ったため、Bに仕事を邪魔されたくないからこその言葉だが、Bもまた、自分と同じ姿を持つ者が人との戦争で銃を取る姿に複雑な思いを持った。互いに出会うはずがない、それぞれ別の道を辿る自分。芳佳Bは明確に『軍人』として生きるAの生き方に干渉するつもりはない。自分がそれを選んだのなら、その権利はないと悟ったからだろう。

「本業は軍医なんだけど世界相手に刀というメスを振るって戦争の狗ってガンを切らなきゃなんない。面倒な事にね」

Aは角谷杏の性質も入っているので、サバサバしているが、真理をズバッと突く事も多い。その姿はまだ軍医への道へ足を踏み入れていないBにとっては、とても大きく見えた。

「さーて。行きますよ、菅野さん」

「おう!」

菅野/宮藤のペアは、扶桑の新世代ウィッチコンビとして勇名を馳せており、A世界の47年では、ブロマイドも売れ筋で、武子が部隊の収入源の一つにしているほどだ。芳佳が別のウィッチとコンビを組むことに複雑な心境のリーネBだが、これは芳佳の一番の親友を自負するためだろう。

「リーネちゃん、スナイパーなんだから支援頼むね!」

「う、うん!」

気配りも忘れない芳佳A。こうした気配りにより、Aは前史の坂本Aのように、『敵』を作らない事に成功している。坂本Aは強情なところが過去にあり、それが最終的に黒江と自身の子の確執を決定的にしてしまった顛末を迎えた後に転生したため、今回は自虐的な言葉を残したり、かつての自分を自虐するような内容の訓示も多くしている。下原が新人時代に訓示され、後で内容を理解した『昔、ある奴を泣かせた』とは、かつての前史で退役間際に黒江を泣かせた事を指している。坂本Aはその時のことを転生後も気に病んでおり、黒江へ献身的である。芳佳Aはその場に居合わせたが、坂本Aをその時に止められず、結局、黒江の精神状態を悪化させたと激昂した菅野の殴打を招いてしまった。これは坂本Aの未熟さと思い込みも大きく、黒江の友人依存をなんとかしようとして、数十年来の計画を実行したら、あーやの顕現の再来を招いてしまい、坂本Aの無思慮に激昂した菅野が殴りまくり、それで気まずくなり、謝れぬままに死に際まで会えずじまいになってしまった出来事は芳佳Aにも影響を及ぼしている。

――反省は猿でも出来る。反省を次に活かすのが人だ。私は魔眼で遠くの物がよく見えていたが、近くの人の様子は見えていなかった。 一処がよく見えても周囲がよく見えて無いと思わぬ落とし穴に落ちるものだ――

坂本Aは転生後、下原がリバウに着任した後、下原が血気に逸り、ミスを犯した際に呼び出して叱る際に、こう独白している。それはかつての自らが犯した過ちを戒めるためでもあった。訓示でも『仲間を大切にしろ』と度々述べ、前史で半ば忘れ去られた人として、不遇の後半生を送った経緯を自虐するような内容の訓示が多いので、若本が覚醒後に『まだ気に病んでんのか?』と坂本Aに言うほどであった。自虐ネタが多いと自分でも苦笑交じりに言うほどであり、その真意を知る芳佳Aが気配りに力を入れるようになったのはそういう理由だった。そして、彼女達から見て数キロほど離れたところに雷雲が突如として出現するのを見て、芳佳Aはあるスーパーロボットの出撃を悟った。







――サーニャBとエイラBのもとに現れたのは……―


「見て、エイラ。あれ!」

「な、なんだぁ!?」

雷を背にそびえ立つ、30mはあろうかという巨体。黒鉄のボディにV字の板が胸についているセンセーショナル(1940年代での感覚での話だが)なデザイン、そしてこういう美味しい場面での登場が運命づけられている男、剣鉄也。誰かの危機を救うための星の下に生まれているのか、乗機がグレートマジンガーからパワーアップしても似たような状況で発進が号令されるので、もはや代名詞であった。今回はマジンエンペラーGで出撃しており、背中のエンペラーオレオールが風でなびき、帯電しているのもあって、強烈な印象を与える。

『サンダーボルトブレーカー!!』

電撃を鞭の要領で操るマジンエンペラーG。グレートマジンガーが単に電撃を放つだけの技に終わっていたのに対し、マジンエンペラーGは電撃そのものを制御し、鞭の如く奮い、電撃を食らった空間を爆破するという方法が取れるようになっており、ゲッター線を動力に使ったが故の超常さを持つ。当時の科学を超越した所業であるので、当然、二人は固まる。

「エイラ、今のは……」

「扶桑語!?んじゃこれを動かしてるのは……!?」

言葉のアクセントなどから、『扶桑語』(日本語)であることを悟るエイラB。雷で照らし出されるエンペラーの目の部分には黒目があり、機械であるか怪しくなってしまうが、随所に機械であることがわかるところがある。

『エンペラーブレード!!』

鉄也の叫びとともにエンペラーブレードが射出され、それを手に持つエンペラー。蛇腹式に展開される格闘用の剣など、1940年代では夢物語のテクノロジーの塊である。

「おいおい、何がいったいどうなってんだ!?」

「悪魔……?」

「どこの世界に、扶桑語話して、ロボットみたいな悪魔がいるかよ!こいつはロボットなのか?それも男のウィッチが乗ってる?」

『あいにくだが、そんなものではない。これこそはマジンエンペラーG。偉大なる魔神皇帝だ』

「偉大なる魔神皇帝……!?」

魔神皇帝。元来はマジンカイザーが『魔神を束ねる者になる』ようにと願われたためにつけられた渾名で、本来はマジンカイザーを指すが、マジンガーZEROがそれを否定しようとした事、最強の魔神であろうとする意志を強固にしてしまったため、この時点では『マジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザーの三者を超えるマジンガー』という意味合いでのみ使用されている。ZEROは『マジンガーZが忘れ去られる現実に耐えられなかった甲児の弱さ、Z自身の承認欲求が出現させたようなものなので、甲児は罪悪感を黒江に持っている。それはZEROが倒される一瞬、ZEROが癇癪を起こして滅ぼした世界の黒江の体験した死に様のフラッシュバックであり、甲児なりのZEROが犯した過ちの粛清なのだろう。しかしながら、研究職で多忙なため、パイロットを続けている鉄也にその贖罪の代行を頼んでいる。鉄也も甲児の父を死なせるところだった事で罪悪感を持つため、甲児の頼みを引き受け、こうした助っ人の任務はもっぱら、鉄也が行っている。なお、ベガ星連合軍との戦いは終わったものの、地球が戦乱期に入ってきたのを実感したデューク・フリード、グレース・マリア・フリード兄妹は地球に留まり続けている。フリード星の復興は銀河連邦警察が引き受けているのもあるが、地球が戦乱期を迎えているのを放ってはおけないからで、二人は宇宙科学研究所でパイロットを続けている。(さやかが嫉妬し、マジンガーエンジェル計画を進めている事に甲児は苦笑いで、『ロボットガールズいるんだし、さやかさんが出なくても…』と迂闊な発言をしてしまい、さやかを怒らせている。なお、弓弦之助はデザリアム戦役後に、藤堂平九郎の打診で、地球連邦・アジア地区日本州知事選挙へ出馬し、光子力研究所の所長の座をさやかに譲っているので、この時点ではさやかは所長であるので、甲児が言うのも当然である。これはスーパーロボットを戦役が終わるたびに封印措置を取ろうとする政治屋に嫌気が指している軍部の後押しも大きく、スーパーロボットの存在を平時でも維持させようとする弓弦之助の決断だった。これは根っからの科学馬鹿である兜家の人間では無理なので、縁の下の経歴が長かった彼に白羽の矢が立ったからだ。さやかが後を継いだので、マジンガーエンジェル計画は一気に具現化へ向かっている。甲児はそれを諌めようとして失敗したわけだ)


――オレももうすぐ子持ちなんだが、甲児君との約束は果たす。ジュン、悪いが……オレのガキが生まれても、暇にならなさそうだ――

鉄也は自身が戦闘員としてのヘ育しか受けていないのを自嘲的に捉えており、世間でいうイクメンパパになれるか不安があった。そのため、鉄也は周囲に助けを求めており、ジュンを南洋島に呼ぼうかとも考えていた。それなら、エーリカやバルクホルンが協力すると言ってきてるし、芳佳の医療も受けられる。鉄也はこうしたところで妻思いであった。こうした彼の優しい側面を知る者達は鉄也に協力的であり、黒江、そして黒江の感情と記憶を共有する調も南洋島にジュンを呼ぶことを勧めている。黒江はフロンティア船団にいた頃、家庭に常に不在であった事で、妻に愛想をつかされ、守ろうとした子供は父親の顔を知らないままだったという悲劇がマクロス7であった事をガムリン木崎から聞かされており、そのパイロットがガムリン木崎の部下であった『フィジカ・S・ファルクラム』である事を後日に知った。そのあまりに不憫な結末から、地球連邦軍パイロットの間で家庭的悲劇の代名詞になっている。その事を知るため、鉄也にジュンを南洋島に呼ぶように勧めているのである。実際、地球連邦軍のパイロットの間では『戦闘中に女のことをからかうと撃墜されるジンクス』も有名だが、フィジカ・S・ファルクラムは、帰るべき家庭が彼を裏切っていたという悲劇性から、いつしか話が広まっていった。彼の妻と子がその後、どうなったかは定かでないが、軍でいつしか話が広まった事で気まずくなり、シティ7を去ったのかもしれないし、ガムリンが目撃した相手と再婚し、フィジカとの過去を綺麗さっぱり葬り、別の人生を歩んでいるのかもしれない。その話を知るため、黒江、智子、エーリカの三者は鉄也に『単身赴任は止めろ』と助言していたりする。(今回はジュンが身重なので、諦めたが)

――こうして、戦闘を開始したマジンエンペラーG。海上でも、威力偵察の艦隊が三河率いる第一艦隊と戦闘に突入する。ダイ・アナザー・デイ作戦で損害を被ったはずだが、新造戦艦が次々と竣工し、チャラになっている。日本はこの状況に驚いている。航空主義が航空機の高額化と少数化でかつてのような権威を失い、かと言って、潜水艦技術が進んでおらず、ミサイルの果てしない高額化が分かり、核兵器が実質的に規制された(平均で1941年の水準)世界では、大艦巨砲主義が生き続ける事は自明の理なのだ。これは核兵器が実質的に封印された(ティターンズと地球連邦軍は別としても)上、潜水艦が人員輸送とウィッチ母艦として運用されていた(扶桑のように攻撃型潜水艦を重視しだしたのはここ二年の話だ)からこそ、戦艦が第一次世界大戦と同様に抑止力として機能していた表れである。軍事的には、取るに足らないカールスラント海上艦隊よりも、戦艦を多少なりとも強化したブリタニアのグランドフリートとの対峙を主眼に置いているのが丸わかりで、キングス・ユニオンの誇るクイーンエリザベスU級戦艦はその目的も任務の内であった。リベリオンがパナマ運河を失ってもパナマックス超えの戦艦を造りまくる理由は日本の一般層には不思議がられているが、ウィッチ世界としてはこのような事情が絡んでいる。その理由の一つが、日本のマスコミが『時代遅れ』と揶揄していたはずの大和型戦艦であるのは、軍事関係者の間には広まっていた――


――日本向けの扶桑最大手新聞『読継新聞』の記事が軍の協力で特集した『ヤマトショック』。これは全世界の新戦艦の整備の契機となったのが戦艦大和の颯爽たる登場である事を知らしめるための記事であると同時に、新戦艦の建造の大義名分を得るための日本向けプロパガンダだった。内容は大和型戦艦の竣工を表向きの『1938年晩夏』としている以外は事実に即していた。1938年当時の世界各国の戦艦は多くが第一次世界大戦前後に竣工した中古艦で、扶桑が事変開始時に新鋭艦と誇った紀伊型戦艦も1920年前後の設計であった。これはワシントン軍縮条約が戦後に結ばれ、カールスラントはこれを期に、修理不能の艦を一斉処分し、海軍国の地位を諦めていた事、軍部が第一次世界大戦の損害回復のための代艦建造を強く求めていた事もあり、史実よりかなり代艦建造の規定が緩いものだったためもあるが、技術進歩がこの時の代艦には反映できなかったのも大きい。扶桑は旧型の払い下げを行うことで、代艦建造という名目を立て、八八艦隊を長期スケジュールで行ったものの、一三号型の建造は条約の代艦建造に適合しないとされ、三隻分の竜骨が出来上がりつつある状態で放棄されていた(現在は竜骨の修繕を行った後に空母へ転用されている)。その間に大和型戦艦の基礎案はまとめられ、紀伊型の駿河(最終艦)が竣工した段階で承認されていた。実際の起工は事変中の事で、事変中は船の形も出来ていないが、艦娘・大和が参陣した事でその存在が暴露されてしまった。この事は当時、扶桑海軍の間で大紛糾を呼んだ。扶桑海軍は大和型戦艦を『移動司令部』として運用予定だったのであるが、艦娘・大和がそれを否定し、坊ノ岬沖海戦の事を軍令部に叩きつけたため、山本五十六が大和型戦艦を主力戦艦とするのを容認したという政治的経緯がある。これは史実での弊害を知った山本が『オープンにした方がむしろ楽だ』とし、後に軍事機密化を諦め、天皇陛下の言葉が決め手となり、攻撃力の秘密である主砲口径以外を公表している。1939年前後の事だ。しかし、大和型戦艦の実戦投入は艦娘・大和の願いとは裏腹に躊躇され、1943年。信濃と甲斐が建造中に移行した段階で始めて運用された。リバウ撤退戦での事である。この時に当時の連合艦隊司令長官の古賀峯一とリベリオン海軍太平洋艦隊司令長官『チェスター・ニミッツ』との間でこんな会話が交わされたという。

『アドミラル・コガ。貴国のヤマトとムサシに我が国の新型砲弾を融通しましょう」

『ニミッツ提督、お気持ちは嬉しいのですが、本艦(武蔵)の主砲は……18インチ砲でして」

『!?ファッ?!18インチィ!?』

SHSの実用化に成功していたリベリオンは当時、一番艦が完成していたアイオワ級を世界最強と信じていた(当時はモンタナは建造途上かつ機密であった)が、この時に始めて、大和型戦艦が格上の火力を誇る事を知ったニミッツ。この時の驚きようは古賀曰く、『ニミッツ提督が椅子からずり落ちた』と記したほどで、ニミッツは亡命リベリオン樹立後に『心臓が飛び出る勢いだった』と述懐している。当時、大和型戦艦を恐れる派閥が後押しし、18インチ砲(45.7cm砲)の試作はなされていたが、アーネスト・キング(当時の合衆国艦隊司令長官にして、ニミッツの上官)がモンタナの計画段階時に『砲身寿命が短いから、16インチを改良し、三連装四基にして投射重量を増やしたほうが良い』と提言したため、結局は40cm砲案で完成している。(後に、この砲が量産化されて搭載されるが…)モンタナはこれでも量産化のために性能を抑えたらしく、最大規模案では『320.04m、幅35.35m 、320000馬力』であった。この案はモンタナの更なる改良型が計画され、砲を強化して幅を40m級に直した上で実現しかけている。もっとも、速度は29ノットで妥協したらしいが。その艦は扶桑の諜報部などの調査の結果、ミッドチルダ動乱で初陣を飾った『播磨』と『越後』の対抗馬らしいとのことで、新聞の特集でも比較対象として、亡命リベリオンの旗艦『メイン』が大和との対比で使われている。新聞の特集記事では、大和型戦艦の事についてのニミッツへのインタビュー、隠居した山本五十六への超大和型戦艦の建艦に踏み切った事へのインタビューがかなりの紙面を使って載せられていた。A世界の扶桑がバダンとの建艦競争に打って出で、超大和型戦艦を超える超々大和型戦艦の建造に踏み切ったのは、バダンの恐るべき建造欲のせいでもあるだろう。これはバダン(旧ナチス海軍)の大海軍へのコンプレックスが関係しており、仮想戦記もかくやの巨艦がこれから続々と生まれいでる事になり、ド・ゴールはこの建艦競争で強烈なコンプレックスを持つのだが、それは別の話――





――この時の第一艦隊は、改装中及び定期整備中の艦を除くと、訓練航海に動員された改大和型戦艦が三隻(三河、大和、信濃)、護衛の超甲巡三隻、残存する阿賀野型が数隻、後は当時の最新鋭駆逐艦(扶桑が自主建造できる範囲内での最新鋭であるやまぐも型護衛艦相当)が配置されていた。これは訓練航海であったので、イージス艦などは必要ではないだろうとの判断もあったが、改大和型戦艦でイージス艦の役目を代行出来るからでもある。彼らが対峙しているのは、サウスダコタ級とボルチモア級重巡洋艦を基幹にした艦隊で、運良くダイ・アナザー・デイを生き延び、その後は地中海艦隊に回された艦達だ。リベリオンでも二線級に分類されている艦である――


――三河のCIC――

「長官、敵はサウスダコタ級とボルチモア級の模様です」

「ダイ・アナザー・デイを生き延びた連中か。確かヴェネツィアが奴らの傘下に入った後に駐在する艦隊になったのだったな」

「はい。あれらは二線級ですから」

伊藤整一はモニターに映る小じんまりした戦艦を一瞥し、余裕の表情を浮かべた。サウスダコタ級も悪い艦ではないが、今となっては脅威ではない。防御装甲厚も現在の扶桑の戦艦主砲であれば一撃で貫く事も容易である。サウスダコタ級は史実のネームシップの不運さもあり、ティターンズから厄介者扱いされているため、地中海方面に回されている。なんとも不遇である。

「敵艦、発砲」

「威力偵察だな。各艦へ通達。同航戦に移るぞ」

サウスダコタ級程度の砲弾は改大和型戦艦に脅威ではないので、この扱いである。ノースカロライナ級と同一の砲であるので、砲弾は改大和型にはダメージを与えられない。遠距離では、たとえリベリオンといえど、時代相応の水準の射撃指揮装置を用いると27000では2.7%しか命中率がない。それでも精度が上がったほうである。日本のマスコミが驚いているのは、戦艦の交戦距離が後世で言い伝えられて来たものより遥かに近距離である事である。この海戦もそうだが、砲の最大射程はおまけで、想定交戦距離よりも近距離で撃ち合っている。従って、大和の距離2万での威力を重視して積んだのは真実である。

「ブリタニアが開発した『粘着榴弾』の用意はどうか?」

「前部砲塔に装填しました」

「よし。18000で撃つ。試作品だ、確実に当てたい」

扶桑は戦車用に開発していたが、ブリタニアは艦砲に積んでしまった粘着榴弾。その威力を確かめるべく、大和型各艦の主砲の前部砲塔に砲弾が装填されていく。そして、号令とともに大和型の前部主砲から粘着榴弾が放たれ…。






――こうした光景はミーナBを驚愕させると同時に顔を曇らせる。B世界では悪夢のような光景だからだ――

「どうした、ミーナ」

「これが、この世界での戦争なの?」

「少なくともこの時点では、らしいがな。お前は人間同士の戦争には向かんかもしれんな」

「この世界の私はどうなってるの?」

「あとでこの世界の私にでも聞くんだな、それは」

ミーナBはAの事が気になるようだが、Aはダイ・アナザー・デイの完了後は未来世界に留学中で、戦車兵の資格を取得していて、リウィッチ化の措置で幼女化している。性格はほとんど西住まほになっており、あつらえたパンツァージャケットを愛用している。(自家用車に払下げのW号戦車F2型でも買おうかと言っている)口調もまほになっており、レヴィ(圭子)に『ミーナの皮を被った西住まほ』と評されている。その為、西住みほも『お姉ちゃんが増えたみたい』と驚いている。(実際は芳佳と同様なので、実質はGウィッチと言える)因みに、自分の言動を他人目線で見ることになったまほ当人は『なんだかやりにくいなぁ…』とぼやき、みほに珍しがられている。これは杏と芳佳も同じだが、こちらはお互いに楽しんでいて、入れ替わりもしている。(なお、サンダースの『ケイ』はアルトリアや大淀に声が似ており、キーを低くすればアルトリアになるが、アルトリアと違うのはボイン担当であるところか。丁寧語で大淀になると評判である)意外に声のそっくりさんも多いので、みほはイオナに瓜二つである他、西住しほはセシリー・フェアチャイルド(ベラ・ロナ)にそっくりであるという。

『ん、なんだミーナか。こっちだこっち』

「その声はマルセイユ大尉!?あなた、どうしてそんなものに!?」

『色々と事情があるんだ。あ、それとだな。この世界では、お前に追いついているからな』

「中佐に!?」

『まあ、トゥルーデに言ったらあり得ないとか言われたよ』

マルセイユがΞで護衛につくが、やはりそのことは驚天動地であるらしい。マルセイユはA世界では、圭子が未来世界に滞在中、アフリカの責任者として部隊を回していたので、その功もあって中佐に任ぜられている。ニュータイプ能力が覚醒し、MSに高い適性を示した事もあり、最近はΞガンダムで戦っている。マルセイユの元々の空戦戦術と、連邦軍の第五世代MSの集大成であるΞのマッチングは良好で、チューンナップを行い、ロールアウト時よりスラスター回りのレスポンスが強化されている。

『そちらではアフリカにまだいるようだな、私は』

「まだって、あなた……」

『まあ、後で説明されると思うが、私達はアフリカを追われてな。だから、このガンダムに乗っている』

マルセイユAは敵エースへの敗北や、自分がいながらにして、自分が守りたいと思っていた土地を追われた故か、以前の大言壮語は鳴りを潜め、礼儀正しさを身につけた。意地っ張りで、自信過剰の面も残っているが、以前がウソのように丸くなっている。また、圭子が42年前後に覚醒し、かつての神通力を取り戻してからは相対的に常識人となり、圭子がかつての戦闘狂へ戻った後は、その粗さに手を焼き、下手に出る場合もあった。その為、以前より優しい面が表に出るようになり、バルクホルンが妹のために渋々とサインをねだってきた時は『お安い御用だ』と一筆書いてやっている。

『ああ、それと。ガランドの奴はこっちだと空軍総監辞めてるぞ』

「な!?後任は?ノイマン大佐?」

『隊長、文化財保護考えない作戦立案しちゃったせいで中央の事務方に回されてな。グンドュラになった』

「……お願い、もう一度言って頂戴」

『だ〜か〜ら〜グンドュラだよ』

「閣下は血迷ったの?あの性悪女を……」

『聞こえてるぞ〜ミーナ。誰が性悪だって?』

ラルが通信をかけてきた。ミーナBは驚く。

「グンドュラ!?貴方、どうしてここに!?」

『な〜に、今は戦争中だ。デスクワークしてるわけにもいかなくてな』

ラルはマクロス・ツーサード級に乗艦していた。そこから通信してきていた。

「あなた、確か少佐じゃ?何故閣下の後任に……?」

『お前がこっちでポカやらかした後、ノイマン大佐が有力だったが、それも文化財保護の観点から好ましくないとされてボツったから、私がなった。一夜で中将だ』

グンドュラは同位体がドイツ連邦空軍総監についていたという実績もあり、ノイマンとミーナが候補から外れた後、ドイツ空軍の後押しもあり、総監となった。少佐から中将に一夜で昇進したので、同期から『皇帝におべっか使った』と揶揄された。皇帝のお気に入りのガランドがいなくなる事で、ウィッチの立場悪化を恐れた派閥は、グンドュラの制止役をガランドに求め、ガランドは軍の退役を慰留された。ガランドは渋ったが、G機関の公式化と自由行動権を餌にして皇帝などが慰留したので、渋々ながら大将の座と自由行動権を持った。グンドュラはG機関の一員であるので、ガランドの部下であることは変わりないが、実質的に人事権を自由に行使出来るので、南洋島にエースを集め、魔弾隊、魔眼隊、魔刃隊を組織している。欧州戦線よりも太平洋戦線重視派であるので、欧州軍の中では変わり者扱いではある。

『とりあえず、マルセイユに誘導させるから、私がいる艦に来い』

「艦?」

『直に見える』

三人が飛行していると、全長300mはあろうかという空母が宙に浮いているのが見えた。B世界での大和型戦艦が霞む大きさの空母である。そこに着艦すると、ラルが出迎えた。お馴染みの服装だが、見かけが若々しく、階級章が将官のそれに変わっていた。

「ご苦労だったな、マルセイユ」

「連れてきたぞ」

「ファンネルミサイルとライフルのチャージが終わったらまた出てくれ」

「了解」

「グンドュラ……」

「状況が状況だ。艦内で説明する。それに、坂本。お前がいて不幸中の幸いだった。こっちのお前が話したがっている」

「この世界での私が?」

「そうだ。こっちでは引退して、空母飛行長の見習いをしている」

「あがったのか?」

「あがってはいないが、現役を退いたのは確かだ。しかし、魔力は維持している。その気になれば戦える力は残している」

「ならば何故…」

「やりたいことがあるそうだ。ウィッチ出身の飛行長はあいつが初めてになる」

坂本Aは黒江には及ばないが、ウィッチとしての名誉は得たし、クロウズとしての目標も達成したため、現役の座に未練はない。Bが烈風斬を得てまで現役に拘っているのとは対照的だ。Bは自分が『11人の仲間でいたい』気持ちが禁忌の技に手を染めさせたので、皮肉な事に、愛弟子の芳佳の成長がウィッチ寿命が尽きかけた坂本Bに禁忌を侵させたと言える。

「……そうか。こちらでは烈風斬を得ていないのか……」

「お前、やはり禁忌を冒したな……」

「私は宮藤の成長を見たかっただけだ……。確かに、あれは禁忌だが、そうでないと……」

二人の坂本には違いがある。Aは転生した事による経験と、身近に相談出来る友人がいた事から、シュツルムファルケンを極めたが、B世界では最古参になり、彼女諌められる者が身近にいなかったため、烈風斬に至ってしまった。既に烈風斬を使っているBは、実のところ、紫電改をフルドライブさせられるだけの魔力量を維持できる期間は良くて、あと半月ほどである。そのため、尽きない魔力を持つAを知れば、劣等感を持つだろうと考えているラル。しかし、避けては通れない道である。坂本Bが必死に隠している疲労を悟り、なんとも言えない気持ちになる。本来であれば、今頃は自分もそうなっているはずだったのだから。

「やれやれ。ウィッチに拘らなくても後輩の行く末を見守る方法が幾らでも有るだろう?ここでのお前はそれを選べた。お前は禁忌に手を染めた。そのしっぺ返しは必ずある。言っておくが、私達とお前達に差はない。私達は偶発的な奇跡で永続的な力を得ただけだ。基本的な力は同じだ」

ラルは言う。基本的な魔力値はそれほど違いはないが、Bの力は砂漠のオアシスのように、いつかは尽きるものだが、Aは絶頂期の力を永続的に行使できるだけである。そこが唯一にして、最大の違いである。黒江達はそれが敵に通じなかったりして、新たな力とその世界を求めただけだ。

「シールドが張れないなら偵察員で良いじゃないか、飛べなくても座学教官として関われるだろう?魔眼が失われないなら管制官になるのも良い。お前は何がしたかったんだ?いつまでもチヤホヤされたかったのか?宮藤の成長を見たいのなら……」

「怖かったのかもしれん。軍に入ったのは12歳の頃だ。扶桑海からずっと前線にいて、戦うことしか知らない。故郷に帰って何が出来ると言うんだ?だから、失いたくなかったんだ、今の立場を」

「お前は子供の頃に軍に入ったのが不味かったケースだな……。まあ、ウィッチは10代半ばで前線に出るが、お前は小学校からすぐに軍だ。軍隊でしか生きれないものな」


坂本Aも自嘲しているが、黒江達と違い、坂本は価値観の全てが軍隊に根ざしている。それ故、子に反発され、前史での不幸な顛末となったわけである。Bを戒めるため、Aが辿っている道をBに教えるラル。

「今だけ考えてたら駄目だ、何が出来るか、将来どうするかを考えないのは逃げだ。陸軍の加東圭子、覚えてるか?エクスウィッチになっても飛べたから指揮官として復帰してる。軍でしか生きられないとか言うな、ウィッチに不可能は無いとか言ってたんだろう?不可能は無いのは人の意思なんだぞ」

「……どういう事だ?」

「加東圭子もそうだが、黒江綾香を知ってるか?」

「ああ、若い時に何度か顔を合わせたし、面倒を見てくれた覚えがある。朧げだが…」

「ここでの話だが、彼女は力を取り戻しても、上には上があると知り、ウィッチではない力を得て、ついには神を守護する闘士になった。人の意志は神殺しさえ起こせる」

「……グンドュラ、それはどういうことなの?」

「それをこれから説明するのさ。今はこの世界のウィッチの生き残りをかけた戦の最中でもあるからな。……入ってくれ」

「失礼します」

ラルは坂本BとミーナBにその具体例を見せる。アルトリアと引き合わせたのだ。

「貴方は……?」

「ミーナ、ハインリーケ少佐を知ってるな?」

「ハインリーケ・P・Z・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐。ハイデマリー少佐と戦功を争うナイトウィッチ二位の俊英でしょう?でも……」

「その彼女だよ。ただし、今の名前はアルトリア・H・P・ツーザイン・ウィトゲンシュタインになっているがな」

「アルトリア……?」

「んー、平たく言えばだな。少佐の前世、アルビオン王なんだ」

「ハハハ……グンドュラ。冗談も」

「冗談ではない。見せてやれ」

「はい」

軍服を脱ぎ、容姿をハインリーケとしての姿から、現在の彼女本来の容姿たる『アルトリア・ペンドラゴン』に変えた。服装は白い騎士服と甲冑姿である。一瞬の出来事であり、腕には選定の剣『カリバーン』が鞘に収められた状態で握られている。生前に喪われたはずだが、Z神が復元していたのだろう。

「これが今の私の真の姿です、中佐」

「……その姿……正に騎士ね……。でも、そのプレートアーマー、15世紀以降の産物のはずでは?」

「鎧のイメージは普遍的なものにしていますから。本当なら鎖帷子のような軽装ですよ?今となっては戦えませんよ」

「確かに」

「しかし、部分的な板金鎧は古来からあるぞ。バイキングとかはかなり昔に持っていたし、これもスタデッドアーマーやもしれん。ジャンヌ・ダルクの時代ならプレートアーマーだが」

「当人いるし、呼び出そうか?」

「なぁ!?」

ニヤニヤするラル。驚く二人と、呆れるアルトリア。英霊も転生してきているので、円卓の騎士の二人、ジャンヌ・ダルク、アストルフォは既に蘇っている。

「グンドュラ〜、出番だってさ」

「分かった、ご苦労だった、アストルフォ」

「!?あ、アストルフォ!?」

「一応、ガリアの英霊だよ〜★♪」

ランカの『キラッ★』の真似をしながら入って来たアストルフォ。これでも一応、シャルルマーニュ十二勇士である。生前は中性的な美少年であったが、今回の生では依代になった肉体がロボットガールズの『Vちゃん』(コンバトラーV)であるので、見かけ通りの女性である。今回の生ではミーハーなところが出ており、ランカやシェリル、FIRE BOMBERのCDを早くも買い集めている。

「と、言うわけです」

「ど、どういう事!?」

「論より証拠、飛行甲板で証拠を見せる。ついてこい。こいつらは英霊なんでな」

「にゃはは〜。まー、伝説ってのは後世が好きに書くもんだしねー」

「おいそこ!メタいし色々台無しだぁ!私も新しい力を得ているのでな。私もお前らの知る私ではないという事だ」

ラルは美琴の能力を持ったので、100億ボルトの電流を誇る電撃使いとなっている。出力はパワーアップ後の美琴と同等。個人単位での強さは聖闘士を除けば最高レベルとなる。ラルが積極的に前線に出るのは、かつての悩みどころの古傷が完治している事もあるが、電撃使いとなったことで基礎的戦闘力が対軍レベルに飛躍したからだ。

「待って!貴方、背中の古傷が……」

「ここでは治ったよ、完璧にな」

ニヤリと笑うラル。そして、二人は気づいていないが、何気に常盤台中学の制服がハンガーにかけられている。若返っているので、違和感はない。ラルの『思い出』代わりだろう。調も常盤台中学の制服は持っており、着たこともある。

「何処の海軍の制服とベルトだ?」

「ああ、それか。ちょっと、扶桑の学校に行った事があってな」

「お前が?」

「ああ。ちょっとした事があってな」

今回においても、美琴との感応に伴い、互いに入れ替わった事がダイ・アナザー・デイ前後にあり、その際に美琴はラルの能力を、ラルは美琴の能力を得ている。常盤台中学はブレザーの制服なのだが、坂本Bの記憶ではブレザーで通う学校はない。ラルは扶桑の学校の制服と言ったが、リーネの着ている服に似ているのもあり、軍隊の制服と思ったのだろう。


――甲板に出ると、二人は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「あれはシャーリーさん!?」

「それと……加東!?」

ちょうど甲板で圭子と調がシャーリーをメンバーに加え、ワルキューレの『僕らの戦場』を歌い始めたところだった。B世界では歌は得意ではないシャーリーも、A世界では美雲・ギンヌメールに声が似ていたのを期に、レイブンズが訓練を積ませたため、美雲・ギンヌメールと同等の歌唱力を得た。そのため、B世界ではありえないが、ミーナBが驚愕する歌唱力を見せつける。

「アレがこの世界でのシャーリー少佐だ」

「嘘だろ!?あいつがこんなに歌が上手いだとぉ!?」

「ある人のレッスンを受けてな。歌がグンとうまくなり、こうした行動も可能になった。ミーナ。お前と違って、ポピュラーソング系のものだが、中々だろう?」

「え、ええ……。こんなテンポの音楽は始めて聞くけれど、わかるわ……!」

ミーナは正規の歌唱ヘ育を受けており、A世界での前史での退役後は歌手活動を始め、死去まで、名が通った歌手であった。B世界でも、クルト(かつての恋人)のため、いずれ歌手に戻るつもりであるのだが、シャーリーAと圭子Aの歌唱力に圧倒された。

「見せる前に、バックコーラスに参加してくるか?」

微笑うラル。歌が現代の戦場を駆け抜ける。ミーナAは当初に不快感を示した後、シンフォギアの存在を知って肯定的になったが、BはAと違い、歌手としての夢はいつか叶えるものと割り切っていたためか、嬉しそうな表情を見せた。そして、甲板で発信準備を進める新撰組のカイロス部隊。ジークフリート改を使えるのは、黒江達のようなエース級のみであるので、ウィッチエース出身の有望株にはVF-31『カイロス』が充ててられている。黒江と赤松の教導により、並の移民船団の地球連邦軍より強かったりするので、かなり贅沢だ。メインはVF-25なので、この段階で移民船団より贅沢な編成になっており、一部の腕っこきが19や22のチューンナップタイプを駆っている。熱核タービンの轟音すらかき消す勢いで歌は響く。シンフォギアが簡易的なサウンドブースターの役目を果たしているためだが、空母であることを再認識させる光景だ。

「空母なのだな、この船は…。……ん!?あの人は!?」

「どうしたの?」

「気のせいか、扶桑の最古参ウィッチが歩いてるの見かけた」

「ああ、赤松のことか。事情は知ってるから、後で挨拶しとけよ、坂本」

「ば、馬鹿者!プレッシャーかけるな!」

「ハハハ、黒江さんをボウズと呼べるお方だからな」

「そのウィッチがどうかしたの?」

「扶桑のウィッチ界で頂点に君臨する方だ……ああ、なんであの人が!」

『知らせる、搭乗員は機体待機に、搭乗後報告せよ』

と、ここで赤松の声が響き、坂本Bは萎縮する。過去に何か赤松とあったらしい。冷や汗をかいている。

「み、美緒?」

「……ここの私はあの方と付き合いが?」

「ああ。お前が本国の横空で黒江さんと殴り合い起こした時に仲裁してな。それ以来の付き合いだ」

今回は震電のジェット化のことで黒江とやりあった坂本A。今回は赤松がやってきて仲裁したので、大事にならずに済んだ。黒江も『ボウズ、落ち着け。状況を話してみろ』との一言で我に返り、事情を説明。赤松は喧嘩両成敗ということで、二人を一発ゲンコツした後、横空司令に赤松が事後報告を行うことで済んだ。坂本が震電を芳佳に回せなかった事で愚痴り、それがもとで喧嘩になり、赤松が上手く二人を諌めたわけだ。赤松の存在は当時の海軍航空隊の中でも『困った時のまっつぁん』と評判で、坂本と黒江が喧嘩を始めたというのを聞いた司令が赤松に頼んで、事を上手く収めるように仕向けた。坂本Aが赤松と付き合い始め、公私に渡っての面倒を見てもらうようになったのは、その出来事からだ。赤松はかつて、自らが従卒を勤めていた北郷の直弟子である坂本を可愛がり、黒江と並んで『儂の子供達』と公言している。そのため、A世界の坂本は赤松という保護者を得、黒江という姉を得た事で、人間的な安らぎを持てた事になる。Bはその事を教えられ、羨ましそうな表情を見せたのだった。



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