外伝その55


――ガリア海軍は大海戦への参陣を見送った。これは手持ち艦艇の多くが、ティターンズの援助で独立したアフリカ諸国に接収された事で、補助艦艇数が大きく減った事、主力艦も複数が旧態依然とした戦艦であること、新鋭のダンケルク級、リシュリュー級は全て揃っていない事(戦没艦、鹵獲艦が出たため)、期待のアルザス級は建造中に全て鹵獲されたという重大な弱体化、それをまともに艦隊運用できる余力が現在のガリアに無いという世知辛い事情だった。しかしながら、例え参戦したとしても、『大和型戦艦、ライオン級戦艦、アイオワ級戦艦』という、世界でも三本の指に入る最精鋭艦が跳梁跋扈する海では、ガリア戦艦の居場所はないという事情もあった。





――パリ

ストナーサンシャインにより浄化され、人類の手に戻ったパリでは、シャルル・ド・ゴール大統領が海軍からの苦情処理に追われていた。欧州の命運をかけた一戦に、栄光のガリア海軍が参陣できないことに海軍からクレームが寄せられ、それを説得させる材料として、大和型の資料を海軍提督らに見せているのだ。アルザスが完成したとしても、大和型の装甲は650mmの主砲防盾を竣工の時点で備えており、船体装甲も410mmで、司令部も500mmの側面防弾装甲を備え、ガリア最新最高の『1935年型38cm45口径砲』を以ても貫けない。それと殴り合える戦艦がウヨウヨいる海では、ガリア戦艦は的になりかねないと。

「ご苦労さまです、閣下」

「うむ。海軍の血気盛んな者共をなだめるのは大変だよ」

ド・ゴールは当時、54歳。史上最年少で准将に任じられてから5年で大統領にまで登りつめた俊英で、性格は実は内気で古風ではあったが、よき家庭人であった。彼はそのカリスマ性と、ブリタニア経由で齎された未来情報により、指導者に祭り上げられたが、実際に有能な指導者であったため、ガリアの復興は彼が組織した第4共和制(実質的には史実第5共和制)のもとで急速に進められた。だが、軍人出身である彼にとって、ガリア軍の復興は至上命題であったものの、国力が消耗しているガリアの軍備復興と拡張は不可能であることは認識しており、大海戦への参陣は見送った。ド・ゴールは未来世界の歴史の中で芽生えた『平和主義』を嫌っており、『平和は永続的なものではなく、危ういバランスで成り立つもの』という持論を展開。政党からの軍縮提案を一蹴した。

「政党どもの言い分は糞のようですからな。軍縮など、今次大戦での散々たる結果を招いたものでしかないというのに」

「議会で儂は言ってやったよ。『一時的な軍縮ならともかく、恒久的な軍縮は有事への対応力を削ぐだけだ』と」

「閣下は、ガリアの独自性を追求されておられますからな」

「うむ。他国の影響を受けての政治など、植民地も同然だ。独自路線を追求してこそ国家なのだ」

ド・ゴールは古風な保守主義者であり、国家の独自路線を追求する男であった。そのため、連合国内でも独自のポジションを確立せんとする思想を持つ。未来世界での過去での『ド・ゴール主義』はこの世界でも健在なのだ。

「フランス革命は今や、我らよりも扶桑人のほうがよく知っている。おかげで何人かのウィッチは追放せざるを得なくなった。マリー・アントワネットの子女や男子を虐待した者の傍流の子孫は全ての名誉を剥奪した上で、国外追放したが……傍迷惑な話だ」

「ティターンズからは『ガリアは、革命でジャコバン派が反対派を粛清する恐怖政治とナポレオン帝国の勃興を招いたように、王家を打倒した後は醜い権力闘争が蔓延った国である』とプロパガンダされるわ、未来世界の漫画のおかげでマリー・アントワネットの悲劇が扶桑に知れ渡り、それが一部からの白眼視に先鋭化しつつあるわ……厄介なものだ」

――ド・ゴールが嘆いたのは、革命の詳細を自国民よりも扶桑人のほうが良く知るようになった事で生じた副次効果と言うもので、観光面での収入は戦前より倍加したが、革命派が元の王家に対して行った仕打ち、その悲劇への同情がガリアへの反感に変化してしまう事への恐れも多分に含まれた。

「どうなさるのです?」

「ペリーヌ・クロステルマン中尉を範として祭り上げ、昔からの貴族の機嫌を取りつつ、革命を擁護する演説をしなければならぬだろう。ナポレオンの台頭や、ロベスピエールの粛清の嵐があったにしろ、あれがなければ、今の市民社会は存在し得ないのだから」



――ガリア人は革命後は『自分達の力で世界史上、燦然と輝く成果を収めた』というところにアイデンティティを持っており、未来世界の扶桑(日本)で描かれた某超人気漫画でマリー・アントワネットとその子息、子女らの悲劇が詳細に載っていたがため、ガリア政府は驚いた。扶桑のいたいけな少女らからの抗議の手紙に役所が悩殺されているという報告に、大統領に選任されたばかりのド・ゴールは悩み、王政が存続している他国に外交問題に利用されるのを恐れた。主に扶桑向けの政治的パフォーマンスを重視し、アントワネットの子息であるルイ17世を虐待し、死に至らせた男の傍流の子孫の全ては、たとえその一家が革命後にどれほどの地位を持っていようが、その社会的地位の全てと財産を没収し、国外追放に処した。その際の演説でド・ゴールは、扶桑の若年層を意識した一節を入れた。『王政も共和制も肯定して其の移行は残念ながら必然であった!だが過去の因縁を現代に持ち込むのは宜しくない、しかも彼等から教えられた歴史は別の世界線と時間軸では無いのか?今更、革命の際の罪で直系に無いにしろ、子孫を裁くのは非合理的ではある。だが、当時の先祖らがルイ・シャルルを非人間的な扱いを行い、彼を死に追い込んだのは揺るがない事実である。これは革命精神に反する行為であり、糾弾されるべきである。だが、留意して頂きたい。当時の人々はこの偉大な国家を良くするという使命感を持って、革命を起こしたのであります。その後のジャコバン派の粛清の嵐や、ナポレオン一族の台頭があったにしろ、革命の気高い精神は否定されるべきでない。 ならば私は傷を癒やそう!因縁の傷をいやしこの国を立ち直らせよう!それが偉大なる国家に求められることである!』

この処置は、ルイ17世を虐待した男の血を受け継いだという負い目を持っていた一族の数百年越しの因果応報として報じられる一方、当事者と直接関係がない、子孫を先祖の罪で裁いていいのかという反対論も噴出した。だが、未来世界において、ナチス・ドイツ指導者層の子孫らは戦後世界において辛酸を嘗めたという記録が発表されると、その論理に反対意見を述べられるものは無く、反対論はやがて衰えたという。ド・ゴールとて、革命以前からの貴族の出自だが、後世から失敗との評さえあるガリア革命を擁護する姿勢を見せた。彼は軍事史上で燦然と輝く成果をガリア軍が収め、近代軍の基礎を作ったという側面から擁護したのだ。この結果、ガリア内の勢力図は変化し、本来は一領主の出であるペリーヌ・クロステルマンをプロパガンダ的側面から祭り上げ、辞退された大尉昇進辞令を、大海戦終了を持って発布する事となったという。また、ド・ゴールの強引とも言えるリーダーシップは強力なリーダーシップを求める国民にバカ受けで、彼の政権は政策面での成功もあって、ガリア共和史上に残る長期政権となったという。彼はむしろ、演説後に待ち受けている国防会議に頭を抱えていた。欧州の命運がかかった海戦に、空軍のみが参加した事で怒りに燃える海軍をどう躱すのか?それを思うと、ため息が止まらないド・ゴールだった。








――こちらは大海戦の真っ只中。MSが投入されないはずはなく、それらの迎撃は主に地球連邦軍が担当していた。これはウィッチらはネウロイへの対応もあり、人員を割くわけには行かない故の選択だった。しかしながら、志願して随伴する者もいた。ミーナやペリーヌである。ミーナははバイアランのパイロットのことが気になっており、ペリーヌは祖国を蹂躙した者達の姿を拝らないと気が済まないという愛国心から、志願した。地球連邦軍側は空中戦を行う都合上、飛行性能を備えるリゼル(ウイングバインダーユニット装備)、ZプラスD型と随伴のA1型、ウェイブシューター装備のZガンダムであり、Zはもちろん、カミーユの操縦であった。

「去年とちょっと形が違いますわ。どういう事ですの?」

「大気圏内用のウェイブシューターに換装したからな。普通のフライングアーマーだと、大気圏内での飛行性能は戦闘機には及ばないんだ」

「そうなんですの。オプションが豊富なんですのね、Zガンダムは」

「Zは割合、少ない方さ。可変機能あるからね。それでもジム系よりは多いけど」

Z系の性能は熟練者で無ければ手に余るものである。素の性能が高いこともあり、オプション装備は少ない部位に入る。それでも、アナハイムの規格なため、ZガンダムにZプラス用装備の流用をさせる事も可能だ。

「敵は本当にMSを使ってくるんですの?」

「そうだ。彼らの時代の在来兵器の多くは高度過ぎてコピーもできないから利用は控えられているが、最近は政府内の過激派からの援助物資でそれも無くなりつつあるから、MSを使ってくるだろう。資料は目を通したかい?」

「ええ。しかし、彼らがとても緑十字を掲げた船を攻撃するとは……」

「するさ。こちらの基準でいう昔の日本の戦争末期に阿波丸という船があったんだが、緑十字を掲げた船にも関わず、米軍は事実上、攻撃を黙認し、2000名の乗客は遭難死した。無論、戦後に賠償は行われたが、日本側にも軍事物資の輸送という非はあったが、子供を含めた2000人を海の藻屑とする道理はなかったはずだ」

阿波丸。それは太平洋戦争末期の昭和20年に実際に起こった事件である。日米の協定で安全が確保されていたはずの阿波丸という船が魚雷攻撃で乗客2000人ものとも海の藻屑と消え去ったというもので、後の世の人間に胸くそ悪さを以て語られている。地球連邦の主導権が日本の手にある現状を生きるカミーユに取って、日本が生まれの地である故に、同情せずにはいられないようだ。


「もちろん、戦後に一定の賠償はされた。だが、遺品の多くは海底に眠ったままだ。それと同じような事を故意でやる危険性は十分にある。ティターンズの全てが高潔な軍人じゃないってことは頭に入れておいてくれ」

カミーユはジェリド・メサやパプテマス・シロッコなどを念頭に置いた発言をした。ジェリド・メサもパプテマス・シロッコも野望を抱いていたし、ティターンズ実働部隊首脳のバスク・オムはコチコチの地球至上主義者であった。今はネオ・ジオンの傭兵のような稼業をしている事実上のライバルであるヤザン・ゲーブルに関して言えば、独特の美学を持っていたので、その心配はないが。

「ええ。軍の全てが高潔でないのは、よくわかっていますわ。私達の上官も全てが、純粋に人類開放を旗印にしているわけではありませんから。」


ペリーヌ・クロステルマンは政治の世界にも足を踏み入れつつある。解放後のガリアの権力の座についたシャルル・ド・ゴールに媚びを売る者が多い現状に嫌気が指しているらしい。ミーナも自身を二度も退けたパイロットが戦場にいるかどうか気になっているようだ。

「ミーナ隊長、どうかしたんですの?」

「いえ……なんでもないわ」

「あの時のパイロットのことが?」

「ええ。あの人は私を落とした……こう見えても私はカールスラントでも有数のエース。なのに、あの人は私を圧倒した。いくら兵器の差があっても、二度もだなんて、屈辱感があるのよ」

ミーナにしては珍しく、闘志を燃やしているのが分かる。彼女はかつて、音楽家志望とは言え、今はカールスラントの軍人である。その生活が長くなってしまった故の音楽家へ戻ることへの罪悪感、パートナーを奪った敵への憎悪は消えたわけではない。それ故、軍からの退役を微塵も考えていないのが証明である。

(クルト……貴方が守ろうとしたこの世界がある限り、私は戦うわ。それが貴方が守ろうとしたモノであり、生きた証なのだから……)

ミーナの胸中によぎる、亡き恋人の影。彼女はどことなく、この戦いが普通の戦いではないことを感じていたかもしれない。





――スーパー戦隊側もメカ群の発進を急いでいた。ジャガーバルカン、ゴーグルシーザー、ダイジュピター、シャトルベースなどの歴代母艦が次々と発進していく。

「ジェットイカロスとジェットガルーダの合体マッチング確認急げ!OSのデバックはどうだ!?」

鳥人戦隊ジェットマンのメカの最終調整が急がれていた。彼らの天敵と言えた巨大獣ラゲム(全ての攻撃を弾くほどの敵であった)を初めとする次元戦団バイラムは滅んだので、彼らを圧倒し得る敵はほぼいないはずだが、圧倒された事も多いジェットマンは懸念を解消するべく、二機の強化改修を行った。そのデバック作業が難航していた。

「嵐山長官よぉ、ジェットイカロスとジェットガルーダの最終調整はまだ終わんないのか!?」

「落ち着き給え、結城君。あと少しだ、あと少しで最終調整が完了する。最終的な出撃準備も完了する見込みだ。焦っても何もならんぞ」

嵐山長官は、苛立つ青年――鳥人戦隊ジェットマンの事実上のサブリーダーである結城凱=ブラックコンドル――を諭すように落ち着かせる。ジェットマンのメンバーはリーダーの天堂竜が軍人である以外は皆、偶然に鳥人戦隊ジェットマンとなったメンバーばかりである。そのため、結成時、既に使命感に目覚めていた歴代戦隊に比べると、人間臭さを残している。そのため、嵐山長官は面白く感じていたりする。

「そうだ、凱。ジェットイカロスとガルーダの調整は間もなく完了する。そうしたら出撃だ。出撃の内訳は……俺がガルーダで出る。お前らはジェットイカロスで出てくれ」

「了解だ。あとで酒おごれよ」

「分かってる」

天堂竜=レッドホークはこの時には親友の結城凱に待ち受けているであろう、悲しい『運命』を知っており、凱が走り去る背中に寂しげな視線を送っていた。同時に自身が数年後に子を為す事も半信半疑であった。だが、今、自分たちが確かにいる、この『時間』は『鳥人戦隊ジェットマン』としての自分たちである。数年後に生まれいでるであろう、自分の子らのためにも、竜はレッドホークとしての使命を全うする決意を新たにする。その数十分後、ジェットマン達は先輩らに続く形で出陣する。それが彼らの新たな戦いのゴングだった。




――同じ頃、兜剣造はグレートマジンガーのカイザー化の構想を練っていた。デビルマジンガーがドクターヘルの魂を得た事で自己進化し、頼みの綱である、実子の甲児の精神力を上回ることを恐れており、グレートのカイザー化を構想するようになった。

「グレートのカイザー化!それこそが闇の帝王を倒す最終手段になる。そしてあの悪魔を……ドクターヘルめ。父を憎み、私を憎み、そしてまた、甲児までも憎むか」

――ドクターヘルの恨みが兜家三代に渡ることを知る剣造は、グレートマジンガーをカイザー化させることを隠し玉として構想しており、寝食も忘れて、グレートマジンガーがカイザー化した場合の性能を調査する。

「ゲッターGが進化したであろう真ドラゴン同様、グレートカイザーも相応の性能になるだろう。問題はその装甲とパワーだ」


この頃、ゲッターGは新早乙女研究所の地下で車弁慶ものとも繭と化し、自己進化を開始していた。その繭の内部調査により、おおよその構造は把握されていた。頭部の形状が変化し、真ゲッターを思わせるボディを旧外装の下に構築中である事が分かっているが、グレートマジンガーの場合、どういう変化を起こすのかは未知数である。


「だが、この方法しか道はない。お父さん、貴方ならどうなさるのです?」

亡き父に向けて言葉を発する剣造。自身も才覚に恵まれたものの、天才である父に比べれば『凡人』だと自覚している節があり、カイザー化という、ゲッター線に頼るしかない自身の無力さを嘆く。だが、その嘆きをゲッター線は聞き入れ、後にグレートマジンガーは見事に進化し、『グレートマジンカイザー』として再誕する。それは亡き早乙女博士、ひいては縁未来の最強のゲッター『ゲッターエンペラー』の超然とした意志が剣造の嘆きと願いを聞き入れてくれた証かも知れなかった。カイザーの無数の可能性の中にある『神が恐れ、悪魔すら慄く』漆黒の魔神の姿を意識したのか、偶然にもグレートマジンカイザーの武器に手持ち銃と刀が加えられたという。



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