外伝その122『旭日の荒鷲達』


――作戦で使われた扶桑軍製戦闘機は史実大戦後期に使用されていた第一線機であった。海軍は原則、零式は22型以降、雷電/紫電改、烈風改で、陸軍がキ84『疾風』、キ100であった。海軍が零式を参加させたのは、当時、雷電と紫電改はミッドチルダ動乱に赴いていた部隊に優先配備されていた都合、生産機数が多くなかったからだ。当時に最も配備数の多い零式21型も加えようとする声があったが、日本の義勇兵(太平洋戦争生き残り)が『21型は鈍いから、最低で22型で。99式機銃が二号だし』と提言した事も大きく、扶桑軍は21型をあまり配置していない。二一型から二二型(史実での二二型甲相当)へ改修されたり、水エタノール装置搭載へ改修された二二型もいる。これらは現地改修の範疇に入るが、メーカー正式の生産機には水エタノール噴射装置がついている。これは日本側が史実の陸軍飛行戦隊の成功実績を叩きつけ、海軍の担当者を殴り飛ばして採用させたものだ。これは隼が三型で連合国軍に対抗出来た実績を叩きつけたもので、参加機は原則、陸海問わず、推力式単排気管へと変えられている。これら細かい改修により、最低でも速力は時速570キロ(ハイオクタンガソリンと推力式単排気管の成果)を確保した。偵察機は原則、一〇〇式司令部偵察機と、当時の最新鋭であった彩雲(いずれも電子装備などを加え、無線を強化)であった。爆撃機は増産されたばかりの連山と単座の流星改で、双発機はいないという編成だった。この選定には日本軍義勇兵も加わっており、中型爆撃機などでは『銀河』や『一式陸攻』、『一〇〇式重爆』などの形式より、『四式重爆・飛龍』が好まれた。彼らの推薦により、富嶽/連山の補助に選定され、当時の生産機の七割が投入されている。陣容は日本軍がなし得なかった豪華な陣容だが、搭乗員練度に不安があり、戦闘機/爆撃機/偵察機共に、日本軍出身の義勇兵部隊が複数参加している。比較的育成されている戦闘機と違い、経験不足者の多い爆撃機や偵察機は義勇兵が特に多く、中には支那戦線から太平洋戦線を通して戦い抜いた猛者が、経験不足の扶桑軍将兵を率いる混成部隊もあった――



――空母『葛城』と『雲龍』、『笠置』に、義勇兵らの烈風改や紫電改が着艦してくる。義勇兵らは太平洋戦争を生き抜いた猛者達である上、場合によっては戦後も空自に再就職したり、民航で飛んでいた経験があるため、多少の再訓練と慣熟訓練だけで烈風や紫電改を乗りこなしてみせた。民航経験者は操縦性などから、零式の後継機たる烈風を、戦争中のみ飛んでいたり、空自にいた者は紫電改を好む傾向があった。――


「昔と違って、エンジンが一発でかかるし、カタパルトもあるから、雲龍型でも紫電改の運用ができる。本当、工業力の違いを感じたよ」

「天山でも発艦できるからな、これなら」

「それにここじゃ100オクタンのハイオクタンガソリンが好きに使えるから、シコルスキーやグラマンと互角に戦える。儂らの先輩達が無敵を誇っていたと自負してたのをようやく理解できたわい」

「そうだな。俺らが戦場に出たときにゃ、アメ公に押され始めてたころだったしな」

「それに、孫や曾孫に迷惑かける前に、若い頃に戻れてよかったわい。儂らは本当なら、100に手が届くはずだったからのぉ」

「戦前の価値観を引きずってるなんて、倅が10代の頃はよく言われたもんだが、また戦闘機搭乗員に戻れて良かったよ。孫や曾孫に自慢の種ができたし」

義勇兵らの多くは、募集が行われた2010年代に存命であった元搭乗員経験者が多い。年代的に支那戦線や戦争初期からの生き残りは少数で、その多くは太平洋戦争中期から後半の負け戦の頃に戦場に出た世代である。会話からも分かるように、戦争初期の勝ち戦を知るほうが珍しい。人によっては曾孫もいるような家庭があるが、『ボケて家族に迷惑をかけるよりは、青年期に戻って、戦場を飛んだほうが良い』と考えた者、タイムふろしきで若返った事で気力が回復し、『やり残した仕事をする』と志願した者と千差万別である。また、自分が志願した頃には特攻隊化していたり、終戦時に予科練に在籍していて、戦時中の空を飛べなかった者も参加している。これは戦時中に実働部隊にいた者隊だけでは、年代の都合で人数が足りなかったため、急遽、『1945年8月15日の時点で海軍飛行予科練習生だったり、陸軍少年飛行兵だった世代の者』まで範囲を広めたからだ。その結果、義勇兵にもいくつかの層がある。『支那戦線から生き残った猛者』、『戦争中期から参加した者』、『戦争末期に航空戦に参加できた者』、『戦争終結時に特攻隊や回天の部隊にいた者』、『予科練や少年飛行兵の育成途上だった者』、『戦争中にギリギリで志願できず、そのまま戦前の価値観を持ったまま戦後世界を生きてきた者』だ。最後の層は戦前の教育と戦後の教育を受け、新しい価値観に順応できずに生きてきた者が多かったため、相当に鬱憤が溜まっており、終戦時に国民学校初等科生だった世代の者までが定年退職で宙ぶらりんになって、家庭に居場所が無いなどの理由で義勇兵募集に応募した者も多い。当然ながら戦後の自衛隊にいた者もいるのも、意外にも多くが飛行技術を持っていた。自衛隊の経験者はその経験を買われ、ジェット機の教育に回された者も多い。戦時中の日本軍機への搭乗は、戦時中に日本軍に在籍済みだった者が優先されたため、扶桑で試験中の旭光や栄光などのジェット機に乗って参加した義勇兵もいる。

「俺らのような大東亜戦争に直接参加した連中の他に、あの当時は国民学校生で、戦後にジェット機乗ってた世代の連中もかなりいるぞ。そいつらは陸で戦ってるらしいが、戦中派としては負けられんな」

「戦後に飛んでた連中は『本物の戦』を知らんしな。儂たちはサイパンの時にしか空母に乗れなかったが、あの時はひでえ負け戦だったしのぉ」

彼らはあ号作戦(マリアナ沖海戦)の数少ない生還者であるらしく、同等の質での戦いができる事を心から喜んでいた。しかもあ号作戦ではなし得なかった高性能機に搭乗し、雲龍型に乗艦しているためか、感慨深いものがあるようだ。葛城に着艦してきた機のパイロットはそれぞれ戦時中はサイパンだったり、フィリピン戦線だったりの生き残り達らしく、彼らに取っては、それら負け戦の雪辱も兼ねていた。彼らの在籍期間にはなし得なかった同等の質での戦の感触に喜ぶのだった。




――陸上では、義勇兵の最若年層に位置する、自衛隊経験者達が、自衛隊時代の旭光や栄光で構成された部隊を編成し、主に重爆迎撃に活躍していた。彼らはソ連邦の爆撃機と、現役期間を通してにらめっこしていたため、重爆迎撃が最も、仕事の経験を活かせると言っていい。ジェット機部隊の半数は彼らのような自衛隊経験者達で、大物食いは自衛隊出身者が行っていた。インターセプトが専門であった空自の出身者はこの種の任務に最適であった。彼らいわく、『A-20はカモ、B-25は組みやすし、B-29と36はミサイルを使う必要あり』との事で、B-29以降の重爆になると、彼らの防御方陣がジェット機にも有効に働くのが分かる。(帰投後に、機体がお釈迦になるにしても)そんな状況を聞かされつつ、ミニミ機関銃を受け取った黒江だが。


「綾香?私だけど、ミニミもらえた?」

「瑞鶴か、どうした?」

「そっちに空挺部隊がパラシュート降下したようだから、始末してもらえない?そっちの方面の陸軍、設営作業に人員取られてるらしいのよ」

「了解」

「それと、味方につける海軍将校を秋までに選別しておいてくれる?思ったより早まりそうよ」

「なにィ!?急すぎるぞ!?」

「軍令承行令の絡みで、不満が将校にかなり溜まってるのよ。下手したらすぐにも暴発しそうで」

「確かにあれは欠陥あったが、いきなり替えちまうと、クーデターだから、連邦には控えさせたはずなんだが……今回はどこが介入した?」

「日本よ。それも元海保の連中とか?」

「何、なんで海保出身者がしゃしゃり出るんだよ?そりゃ商船学校卒と兵学校卒の不仲は知ってるが……」

「それがね、相当古い世代の元海保の専門家がTVでぶちまけたらしいのよ。現役は世代交代でわだかまり無いのに、これでややこしくなってるのよ」

瑞鶴によれば、ロシアとの戦争でほぼ活躍の場が無く、活動が控えられた海保は『OBの間でかなり不満が溜まっており、その不満を扶桑にぶつけたのだが、それがもとで、軍令承行令の廃止云々にまで話がこじれ、海軍予備員と現役兵科将校とに対立が表面化したという。結果、元予備員が中核を担った歴史のある海保が予備員側に加担し、兵科将校の無能を糾弾した事で、兵科将校の間で不満が極大に溜まったとのこと。その結果、扶桑のクーデターの可能性が一気に大きくなり、本国で内偵中の陸奥から危険信号が発しられた。その原因が海保OBのあれこれのぶちまけにあると知らされ、思わず頭が痛くなる黒江。

「瑞鶴、なんか頭痛くなってきたぜ……。くそ、海保め。ひゅうがの時もそうだが、ケチつけんなつーの…」

「あたしなんて、陸奥さんから聞いた時、思わず『はぁ!?』って言っちゃったわよ。それで海保のOBが予備員に加担して、軍令承行令の廃止云々にまで話を広げちゃってさ、今、海軍省は凄まじいパニックよ」

「おいおい、それじゃ時間があまりねぇぞ」

「一応、小沢っちへは話を通してあるわ。山本さんも困っててね。念のため、岡田の爺さんを動かしてみるわ」

「岡田のじいさんだけじゃなくて、伏見宮殿下にも話を通せ。宮様の意向なら、嫌でも動くはずだ」

「わかったわ。空挺部隊の鎮圧の方はよろしくね」

「あいよ。ここらでウィッチの活躍を見せておかないと、ウィッチ兵科の存亡に関わるしな。陸の連中のお株を奪うけど、帰ったら、元の姿でマスコミ向けの写真を青葉に取らせる用意を頼む。恩を売っておかんとまずい」

「青葉に連絡しとくわ。あの子、今は報道部にいると思うから」

瑞鶴と会話を交わし、そのまま空挺部隊の掃討に向かう黒江。黒江はウィッチ兵科の思い上がりからの傍若無人さには冷淡だが、ウィッチ兵科そのものがなくなる事は望んではいない。そこが黒江に残っているウィッチとしての誇りであり、グランウィッチを称する理由であった。ウィッチ達にとって最大の救いであり、僥倖だったのは、レイブンズが現場側の人間であり続けている事だった。

(私はウィッチの範疇を超えたが、全ての始まりはウィッチだった事だ。私達の行いが間接的にウィッチ閥を増長させたのなら、その傲慢と増長を私たち自身の手で殺し、そうしてからゆっくりと革新をしてゆけばいい)

黒江はウィッチ兵科を戦前のまま保全するのではなく、『革新』させる事を志向しており、自身にたっぷりと時間があるため、極めて長期のスパンで革新を進めるつもりだった。これはレイブンズの総意だった。レイブンズは昇神した都合、時間は存分に有り余っている。かのシャア・アズナブルのように、無理に革新を迫る必要も無い。それ故、坂本には『戦後の三輪の台頭を逆に利用してやる』と告げている。目の前の戦いをこなしつつ、数十年スパンで仲間を巻き込んだ戦略を立てるあたり、将帥の才覚がある証左だった。

「さて、燻り出すか。ライトニングプラズマ!!」

ギア姿ながら、使う技は聖闘士のそれであるので、『ギアの無駄使い』と揶揄されているが、身体保護目的で使用しているにすぎないため、これでいい。黒江ほどの強者になると、ギアのスペックに頼る必要がないため、ギアの武装は使用する意義がない。それと、先程の『α式・百輪廻』に自分で引いてしまった事もあり、シュルシャガナの元来のスペックは使用せず、聖闘士としての技で制圧してゆく。加減したライトニングプラズマでも、周囲の地面を削り取る威力なので、兵士を制圧するのはやり過ぎとも捉えられるが、曲がりなりにも空挺部隊。近接戦闘になれば、一発では伸びないため、ライトニングプラズマの使用は想定内だ。

「さて、調には悪いが、ひと暴れと行くか」

兵士らが黒江に銃剣などで襲いかかる。中にはナイフを使ってくる者もいる。それらにはエンペラーブレードを生成して応じた。転生後、鉄也との関係を深化した事で、一騎で複数を相手取る際の戦い方を教えられたのと、正式に二天一流などを覚えたため、状況に応じて、十文字槍を自己の能力で生成し、振るう。槍の扱いはタイムマシンで戦国の世の時代や三国時代(中国)を見たりして覚えるなどの努力の末に覚えたので、西洋でのランスとは異なる立ち回りだった。槍の扱いは相手を突くのは西洋も東洋も同じだが、応用は様々である。華奢な見かけによらぬパワーで槍を振るい、近代武装の兵士を圧倒する。最も、この時代のアメリカ軍兵士に、戦国時代の日本で使われた十文字槍に対処しろというのが無理難題に等しい。黒江は銃剣術も新兵時代の教習である程度は仕込まれていたが、既に遠い昔のことであったため、勉強し直した。

「米の銃剣の間合いで、私に攻撃が通るかよっ!」

着剣されたM1ガーランドを突き立てられるが、黒江は相手のガーランドを槍で巻き上げ、跳ね飛ばす。その隙を見過ごさず、槍の穂先で貫く。欧州のウィッチ(史実のスイスやイギリスなどがパルチザンやハルバードを用いる)が用いていた事しか知られていないこの時代、東洋の物とは言え、槍術はリベリオンの兵士達には驚きの代物だった。

「ヌウン!!」

槍の持ち方を変え、柄の中ほどを持つ。槍術は黒江にとって新たな挑戦であり、自分の本来の姿で無い時に行うという意味でも、高い難易度である。突進して、一人を突き上げ、吹き飛ばし、二人目はその勢いで打撃で昏倒させる。容姿は調のそれだが、目つきは完全に普段の姿での狂奔スイッチが入ってきており、本来の薩摩武士の末裔たる者の片鱗を垣間見せる。見かけは違っても、やはり狂奔モードに突入すると、纏うオーラが『戦闘バカ』とも言うべきものに変貌しており、そのギャップが却って、彼ら兵士の恐怖を掻き立てる。

「その首、もらったぁ!!」

「う、うわあああああ!?!?」

黒江に恐怖した一人がガバメントを乱射するが、当然ながら当たらない。次の瞬間には、槍が彼の首を跳ね飛ばす。その映像が調のもとに入ってきたが、R15かR18間違い無しの映像に息を呑む。

「師匠……、凄いと言おうか、なんと言えばいいのかな……」

「ボウズは日本一戦闘好きで知られた九州は、薩摩の人間だ。その血が騒ぐんだ。これくらい、戦場では当たり前だ。慣れろ……とは言わんが、耐性はつけておけ、調」

「は、はい、大先生」

赤松は至って冷静である。赤松はその黒江をも更に打ちのめせる腕前の持ち主な事もあるが。

「最近はこんな風に書かれてるな」

調に見せたメモには『殺魔』の二文字。調は思わず「なんですか、それ」とキョトンとした顔だ。

「ボウズの出身地と、戦場での修羅ぶりを結びつけてプロパガンダしとる二文字だ。ああ見えて、ボウズは九州の育ちだからの。方弁は忘れたらしいが」

黒江は九州育ちだが、関東圏で暮らした日数のほうが長く、ちゃきちゃきの江戸っ子の兜甲児の影響もあって、江戸弁を使う事が常態になっており、地元の方言を理解できるが、喋れない。そのため、九州人とはまず思われないと赤松は言う。圭子も似たようなもので、実家が北海道にあった事がマルセイユに腰を抜かされるほど驚かれている。また、この時期、空軍に改編予定の陸軍飛行戦隊内では、北方で名を馳せた智子を南方勤務につかせるという内定事項が通達された事で、幹部間で一悶着あったという。太平洋戦争を睨んでの配置転換で、レイブンズの全員の原隊を64Fにするための措置の一環だが、北方方面軍が手放す事になることにゴネたのだという。当時、北方方面はティターンズの脅威と相対しており、次の標的になるのでは、と彼らが怯えていたからだ。実際にはパナマ陥落に伴い、太平洋が風雲急を告げた事もあって、北方方面が片田舎扱いになったと判定され、北方方面軍の撃墜王はあらかたが南方に配置転換された。これが不埒事件後に吉と出たのだった。

「それと、お前たちもこの戦いが終わったら、南方に行ってもらう。お前らの世界で言うところのミクロネシア辺りの扶桑領の大陸だ。何せ史実より6年遅れで開戦しそうだしの」

「アメリカと太平洋戦争に?」

「裏で糸を引いているのはいるが、どの道、扶桑はルーズベルト大統領の代には目をつけられておったからの」

リベリオンはアメリカの同位国である。忘れられがちだが、太平洋戦争開戦前の時期は白人至上主義が蔓延っていて、有色人種の人権は公然と蹂躙されていた時期である。ルーズベルトは怪異の脅威の手前、表には出さなさったが、扶桑へ差別意識を抱いていた。華僑に国を与える(中国の復興)事に執心していた節があり、その計画は妻にだけ明かしており、妻が諌めるほどに侮蔑的な表現で、扶桑をこう評したという。『頭脳がわれわれのより約2000年ほど発達が遅れているイエローモンキーの扶桑を滅亡させなくてはならぬ。扶桑を敗北させた後は、他の人種との結婚をあらゆる手段を用いて奨励すべきである』、『インド系やユーラシア系とアジア人種、欧州人とアジア人種を交配させるべきだ。だが、中国を見捨てた扶桑人は除外する!』と妻に言い、激怒されていた。このことはティターンズが自分達の傀儡政権を打ち立てる際に大義名分として利用され、大和系人達がティターンズを支持する理由とされた。大和系を始めとする有色人種達が戦後もティターンズ政権の命脈が保つのを望んだのは、『亡命政権が帰還したら、どうせ元の木阿弥になる』と悲観的であった事に由来する。実際には亡命政権の人々は扶桑への間借りをした都合、協調と調和を重んじるようになっていたため、本国人が悲観的に予測した事は外れる事になるのだが、それが判明するのは、半世紀近くが経った1991年頃のことである。これは二代目からの報告で確定している。その事はティターンズ側も自覚はしており、『数十年の栄光は演じてみせよう』というのが共通の合言葉だった。

「太平洋戦争は、史実では大負けした戦だ。日本の左派はそこを強調して逆プロパガンダを仕掛けておる。おかげで国内は大混乱、軍隊もクーデター事件になる。それを如何にして乗り切るかが、今の問題でな」

赤松も嘆いているが、リベリオンと扶桑との間にあった生産能力の差は、扶桑が未来科学を導入し始めた都合、日本帝国よりはよほど縮まっている。日本帝国のアキレス腱であった『石油資源』と『鉱物資源』などは南洋島などで全て賄えるし、ブリタニアからの輸入も入る。技術面ではむしろ圧倒的優位にあるため、劣位にあるのは現有戦力の物量差と人的資源くらいである。

「なんで日本の人達は妨害を?」

「自分達が奪われた地位、軍事力、文化遺産を儂らの故郷は保有しておる。それが彼奴らの嫉妬のもとだ。広島の中島地区は現存しとるし、名古屋城も広島城も燃えておらん。それが彼奴らには羨ましいんじゃろ」

「戦争で焼けたっていうお城ですか?」

「うむ。それと広島の元々の中心市街地。これはリトルボーイによって未来永劫、この世から消し去られたからの。それが現存しているとあれば、元の住民達が来たがるのも無理はないがの。あ、安土城も大阪城も現存しておる。すっかり忘れておった。織田政権だったから、豊臣家、いや、羽柴家か?も一家老の立場で無事に生き残ったし、織田宗家も健在じゃったわ」

重大事だが、安土城と大阪城もオリジナルが現存しており、史実と違って双方が共存共栄し、更に江戸城もある。これは安土の地から織田宗家が数百年の歳月の政権の政策で、関東の江戸城に経済的中心を移していた故に成立した事だ。

「なんですか、その戦国と江戸オールスターみたいな現存天守は」

「うむ。徳川家と違い、信長公が大航海時代の幕を開いた上、南洋を開発するための予行演習も兼ねて、築城が徳川家の場合より活発に行われた都合で、安土城と大阪城と名古屋城が併存しておるのだ」

「江戸城は?」

「日本と同じように、大火で焼けた。安土城はその事もあって、政治の中心に使われ続けたそうだ。大阪城は秀吉が太閤を名乗って、信忠か秀信だかの摂政みたいな事をしておったし、その権勢の誇示もあったと思う。名古屋は家康公の集大成と聞く。確か、日本の国土地理院が地図の発行のために調査に来て、安土城と大阪城のオリジナルに狂喜乱舞していたと…」


――安土城と大阪城は、日本では戦乱で落城、あるいは廃城し、オリジナルは現存していない。オリジナルが奇跡的に現存していた事に、日本の国土地理院は『再建でなく、オリジナルである』と聞かされ、更に中を見せられた事から『狂喜乱舞』し、それが日本で大ニュースとなっていた。日本の左派の批判とプロパガンダが感情的と揶揄されるのは、それらを守れない軍隊と感情的な批判があったからだ――

「日本の奴らのせいで高射砲部隊などは批判の嵐で大混乱じゃぞ。最新鋭の三式12cm高射砲や五式十五糎高射砲はまだ生産数が少ないというのに」

「高射砲?」

「この時代はまだ、誘導対空ミサイルは実用化されておらんからの。対空用に使える大砲が主装備だったのだ。飛行機からの防空では重要な存在だったのじゃぞ?」

「大砲を空に?うーん……」

「直接当てるのではなく、爆発の危害半径に巻き込んで落とすのが目的じゃ。だから、直接当てないでもいいのだ」

高射砲は第二次世界大戦までの装備であり、ミサイルが防空網の主力になって久しい時代の住民である調には、おおよそ聞き慣れない単語であった。赤松はこの点で、ジェネレーションギャップを感じた。調はミリタリーに特段詳しいわけでもないので、当然といえば当然であるが。

「戦前はそこそこの高度に届けばいいから、大正期の高射砲がまだ現役だったんじゃが、今では高度14000mの爆撃機を迎撃できるようにと、高性能高射砲が求められての。低率生産の最中だったのを、いきなり大量生産しろと指示されたから、無理難題でのぉ」

当時、扶桑本土や南洋などの重要拠点防空を目的に、相次いで二つの形式の高射砲が実用化され、試験も兼ねた低率生産の最中であった。高射砲部隊はウィッチが主役であった都合、それほど数が多くなく、ノイエカールスラントのような鉄壁の防空要塞と言うのは存在していなかった。その点を『怠慢だ』と謗られた扶桑軍は慌てて防空要塞を建造しているが、新型砲の生産が追いついていない。当時の最新であった、レーダー機材がカールスラントのウルツブルグ・レーダーである五式十五糎高射砲の生産は大掛かりなこともあり、生産配備数はたった六門。またウルツブルグ・レーダーの入手が難しい事が原因だった。そのため、比較的構造が簡素な三式12cm高射砲のほうが優先生産されていたのだが、弾頭にVT信管をつけろ、レーダーと連動させろだの文句がつけられたのだ。近接信管は艦艇用のものが生産開始されたばかり。それを陣地高射砲用に作れと言っても、史実では海軍のみの採用だ。日本の軍事的無知も極まっているようだ。

「まったく。ここまで来ると、呆れを通り越して、笑いがこみ上げてくるくらいだ。軍事に無関心すぎる」

「日本は自衛隊に面倒事を押し付けてますから……」

赤松は自衛隊にも属している。その事もあり、軍隊ではないと表向きは答弁しておきながら、暗黙の了解で軍隊の扱いの21世紀初頭当時の自衛隊の状況に同情しており、調もなんとなく政治的に苦労している自衛隊には同様の思いなようだ。最も、自衛隊では対処できないような巨悪に対抗するべく、太陽戦隊サンバルカンや電撃戦隊チェンジマンを公的に結成しているのが未来世界の日本なので、危機意識はマシなほうだろう。

「まぁ、ここに来ている日本の自衛隊はマシなほうだな。ヒーロー部隊を何年かに一度は公的に結成しているしの」

「え!?」

「実は、1970年頃からちょくちょく宇宙人が来ていての。初めは国連の要請で結成させたのだ。それが最初の戦隊と言われる秘密戦隊ゴレンジャーだ」

ゴレンジャー、ジャッカー、バトルフィーバーは戦隊の雛形と見なされる。スーツの技術が未成熟であったため、ジャッカーは改造人間である。電子戦隊デンジマンを省いた場合、太陽戦隊サンバルカンが現在のスーパー戦隊のおおよその完成形にあたる。実のところ、未来世界の日本は定期的に悪の組織が現れ続けたため、スーパー戦隊は官民問わず、一年ごとに結成されているのが当たり前であった。そのため、日本政府もそれらには慣れっこというのが真相だったりする。

「私の世界じゃ特撮ヒーローの名前でした、それ。まさか本当に……」

「その通り」

「お!その声はジャッカーの……」

「ジャッカー電撃隊行動隊長、番場壮吉。ヨロシク」

番場壮吉がやってきた。彼は名乗りの通り、ジャッカー電撃隊行動隊長『ビッグワン』であり、自力変身が可能な唯一のジャッカーである。スーパー戦隊のツートップの片割れでもあり、アカレンジャーの次席で指揮権を持つ古参のヒーローだ。その容姿はV3=風見志郎に酷似しているが、彼より外見年齢が上である事、性格が伊達男であったり、白いタキシード姿なのがポイントだ。

「バダンが動き出したので、私が情報を伝えに来たというわけだよ、赤松少尉」

「なるほど。あなたほどの人が出向かれるほどのことですね?」

「奴らはいよいよ改造人間を投入しだした。アカレンジャーと協議し、我々も参戦したのでね。ふむ。君があの子が呼んできたという?」

「師匠とは知り合いなんですか」

「歳の離れた戦友と言うべきだね。我々は仮面ライダーが眠りについた時期をカバーして戦っていたので、あの子より相当上になっている。それば本来の生年月日から23世紀までの月日を勘定に入れた場合の話になるが。あの子の世界を我々の戦いに巻き込んでしまったのは心苦しく思っている。我々の責任だからね。しかし、あの子の意思を尊重して、我々は彼女を仲間に迎え入れた。本来、バダンとの戦いは我々の世界だけで片付けたかったが……」

番場は女性に優しい。黒江はメカトピア戦争の頃、番場や本郷達の戦いに加わりたいと懇願(その時はまだ子供の姿だった)し、ヒーロー達の戦いに加わった。RXが創世王としての力で、その記憶をヒーロー達に引き継がせたため、その事をヒーロー達は記憶していた。番場は黒江の意思を尊重しているが、黒江達レイブンズのみならず、ウィッチ世界丸ごとを巻き込んでしまった事にはバツの悪い思いを感じているようだった。

「……師匠は、あなた達の力になりたかったんだと思います。私も師匠の姿を古代ベルカで借りていたし、私が担うはずの役割を師匠にさせてしまっていたから、それは分かります。……だから、私も師匠の弟子として、ううん、私個人として、貴方方に協力させてください。番場壮吉さん……いえ、ビッグワンさん」

調はベルカ時代の経験から、義を重んじる思考となり、黒江の弟子になった事や、聖闘士候補としての義を重んじ、番場壮吉に協力を申し出た。シンフォギア装者としてでも、聖闘士候補生としてでもなく、月詠調という一人の少女として。調は元から、自分の身を犠牲にしても守りたい者のために戦うような芯の通った心根であり、その点は黒江の再構築後の性格に相似していた。番場は一瞬目を閉じ、何かを考えた。次の瞬間、調にかつての黒江と同じ何かを感じたらしく、一言だけ言った。『分かった』と。そして、胸に刺している薔薇の薫りを嗅ぎ、空高く跳躍して『白い鳥人』へと変身してみせた。番場なりのケジメだろう。

『ビィィグワン!!』

――ジャッカー電撃隊最強にして、行動隊長を務めるビッグワン。他の四人がそれぞれ持つエネルギーを全て束ねた複合エネルギーを扱え、自力変身も可能な強力な改造人間である。その勇姿を調に見せた。ヒーローにちょっと憧れがあったらしい調は、彼の勇姿に胸に熱いものを感じた。これはかつて、黒江が城茂=ストロンガーに初めて出会った時と似ており、黒江と調は似た者同士と言えよう――



――黒江たちのように、階級に見合った能力を持つウィッチ出身軍人は世界を見回しても少数だ。ミーナにしても、感性が年相応の少女のそれであったため、前史では『合理的に動く』黒江達とに確執を起こし、その結果、一時は二階級降格すらも囁かれた。今回はミーナ自身が反省し、なるべくレイブンズへ対し、寛容に振る舞う事により、前史での失敗を乗り越えている。(黒江が上層部の命で、非合法的な仕事もこなしているのも黙認している)。ウィッチが立場を失ってきているのは、多くが『高い階級なのに、能力が階級に見合わない』事が明らかになったからで、ロスマンなどの有能な者の価値が相対的に上がり、彼女は渋々ながらも『特務少尉』(カールスラントもいよいよ以て、叩き上げの下士官を士官に任ずる必要が生じ、暫定的な措置として『特務』とつけた。)これはロスマンが、少尉任官を長年断り続けた事が由来で、当人は後年、若気の至りだったと回想した)に任ぜられた。これはロスマンが昇進を断り続けるうちに、その回数が軍規に接触するほどの回数に達していたからで(本来、彼女は役目を終えてから昇進して、軍を去るつもりだった)、それを回避するには、階級の昇進しか手段がなかったためだ。事実上、扶桑の制度を手本にして創設された階級だが、ロスマンは自分のために、伝統ある階級制度を変える事に罪悪感を感じ、後年のインタビューでは、『あんな事になるのなら大事になる前に昇進を受けるべきだった』と述懐している。その参考にされた扶桑海軍も、特務士官と兵科士官との指揮権継承順の差が改革で無くなり、学歴差別と騒がれた事で、海軍人事局の幹部が殆ど入れ替えられた事により、兵学校卒の者らの不満が極限に達して『歪み』が生じ、不埒事件が大事になってしまう要因になった。(結果、事件に加担した海軍将校は、例え、替えが効かないウィッチであろうとも、運が良くて左遷、悪い場合は見せしめに『極刑』に処され、それが特務士官の待遇改善に繋がるという皮肉な状況となる。この時に海軍将校らが大量にアリューシャン諸島に左遷、あるいは情け容赦なく極刑に処された事で、ウィッチ部隊のみならず、複数の艦隊の司令部が機能不全に陥るという状況となるのだった。(後に、空軍が空母機動部隊の艦載機部隊の任務を代行するという事が大規模に実行されるのは、この時の大粛清で海軍ウィッチの幹部級の六割以上が追放された事によるものだ)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.