外伝その142『鋼鉄のDフォース4』


――黒江達の派閥の奮闘でどうにか六割の参加は確実となった交代要員だが、今の501全員の交代には質が追いついていないので、エイラなどの疲労度が高い隊員を休ませるため、そのウィッチらを送り込み、ローテーションを組ませる事で隊員の士気の維持をしようとしていた――

「最近は本当、日本に振り回されるぜ。これでも当初予定の六割しか確保できなかったし、全員の交代要員はいないからな」

黒江は47F時代の後輩たちが来たため、どうにか休憩時間が取れ、後方で休んでいたはずが、あきつ丸事件の尻ぬぐいで精神的に疲労してしまった。そのため、休憩時間を更に多く取っている。

「全く、日本人ってのは参る。出る杭は打ちたがるし、戦争のトラウマか何だが知らんが、大衆の優越感を煽るってのか?同位国ながら、嫌になるぜ、こういう国民性。22世紀には無くなるのは分かってるんだけど、ムカつくぜ…」

黒江は自身が日本に滞在している際に名誉毀損の訴訟問題に数年を費やしたためか、日本人の国民性に呆れたらしい。自衛隊内部に20年近くを費やして組織細胞を築き、ダイ・アナザー・デイ作戦時には、自衛隊に既に影響力を行使できる立場にいた。空将補から作戦中に空将に任ぜられたとは言え、立場的にはまだ連絡士官扱いであり、階級に不釣合いの職責のままであるが、前段階の準備室の段階から統括官としての任務は始めていた。一応、作戦中の際のポストは自衛隊の『扶桑派遣航空団』司令という事になっている。これは航空自衛官としての職であり、実際は扶桑派遣JTF(JTF-F)の司令で、派遣された陸海空三自衛隊の指揮権を持つ。ただし、戦域に自衛隊の現用機を運用出来る設備が確保出来るか不透明であったため、選抜された旧式のF-4装備の部隊出身者が機材ごと派遣されている。海自も国内の反対世論の動向から、数隻のみの戦闘艦と輸送艦の派遣に留まっており、乗り気で師団を送り込んだ陸自との落差が大きかった。これは海自内部に『大和型と同世代の戦艦や重巡が跳梁跋扈する戦場に現代の護衛艦を行かせたら、乱戦に巻き込まれて沈んでしまう!』という反対論があったのと、戦死者が生ずる事への反応を統合幕僚監部が恐れたことも大きい。海保が海援隊と問題を起こしたこともあり、海自の派遣はダイ・アナザー・デイ作戦での必須条件となったが、国民が艦隊規模での派遣に反対した末の折衷案だった。これは海自の現場組と官僚組の対立、日本国民の軍事技術への無知が複合して起こった議論だった。当時、日本はダイ・アナザー・デイの最中では、ちょうど新世代艦が竣工しだした段階であり、当時最新の護衛艦達が4隻ほど選抜されて、送り込まれた。黒江が砲撃戦の様子を観測させている艦は『あしがら』のことだ。あしがらを介し、21世紀の政治家達に見せているのが、今回の海戦で、日米英独が入り交じる艦隊戦の中継映像である。黒江が考案した『現実を見せる』手法だ。

「で、あしがらに中継させてるんですか?」

「哨戒ヘリを使えば大丈夫だしな。向こうも海自にまでは手を出さんし」

海上での砲撃戦は米独連合艦隊と日英連合艦隊が戦うという、史実とは全く異なる構図となっており、敵旗艦となったのが、ハーケンクロイツを掲げる巨大戦艦なのだから、中継映像を見ていた政府関係者や防衛関係者からどよめきが起きる。これは大和型以上の巨体を持つ化物で、史実のドイツでは作れないはずの大型艦であった。

「今頃、日本の連中は腰抜かしてるぜ。米軍の増援がハーケンクロイツ掲げた巨大戦艦なんだからな」

その戦艦はミッド動乱で大和型のライバルであった、H級戦艦の一隻『グロースドイッチュラント』だった。(完成時の)大和型よりも大口径、重装甲を持つビスマルクの後継者である。ビスマルク、引いてはバイエルンを基本にしている艦級であるので、ビスマルクの拡大タイプと言えるが、艦体構造は別物で、扶桑軍純正の46cm砲に充分に耐えるだけの装甲を有し、ダメージコントロールも良好である。その生存性は群を抜いており、三笠型の56cm砲でも沈められなかったほどの頑強さである。扶桑が動乱を期に、大口径速射砲に走ったのは、単発ではドイツに勝てない事を悟ったからである。そのため、モンタナ級ですらグロースドイッチュラントの前では、従者の如き立ち位置となる。播磨と三笠の存在意義は、それら化物を打ち倒すためなのだ。ある意味、戦艦の時代が続いた上で、ドイツが海洋大国に返り咲いたら起こり得ただろう光景である。

「さて、21世紀のワイドショーの様子でも確認するかな?」

日本ではちょうど朝のワイドショーの時間だったらしく、民放でもこの海戦の模様は中継されており、米軍の援軍に出現した、ドイツの鋼鉄の海獣について、どよめきが起こっていた。元・海自高官の評論家が『ドイツ海軍が生み出そうとした最大最強の海獣ですよ、あれは』と冷静なコメントをしているところであった。もはや原子力空母並の巨体に膨れ上がったH級は、ドイツ軍の造船技術のレベルの程度を示している。ドイツ軍の造船技術で48cm砲を積むのには、最小限に必要な大きさを過大に算出していた。48cm砲であれば、300m級の巨体を与える必要はなく、日本海軍は門数を忍んでも、51cm砲すら263mの船体に載せられると算出していた歴史からも分かるが、ドイツの造船技術の限界も示している。

「奴さんの技術だと、大和型みたいに小型化志向はあまり出来ないみたいだしな。だから、大和型は『小さく作った』って自慢してたんだよな、艦政本部の連中」

日本/扶桑は『最小限の大きさで最大の威力』というのが根本的な設計思想として存在しており、戦艦においてはそれが濃厚に表れている。大和型も46cm砲を積んだ上でコンパクトにまとまったフネというのが、当初のコンセプトだった。坊ノ岬沖海戦やレイテ沖海戦の結果で覆されたとは言え、扶桑はそれを誇りにしていた。そもそも大和型が沈んだ戦は『敵の絶対的制空権下に飛び込む』ものであり、扶桑造船部からすれば『信じられない』運用でしかない。これは日本の集団ヒステリーでしかないと、西島造船少将も嘆き、日本のマスコミに『君たちはアニメの描写に毒されている』と苦言を呈したほどだ。改大和型以降の戦艦達が異常に頑丈に造られたのは、戦艦に対するステレオタイプ的な認識から、そうしないと予算が承認されないからだ。黒江も呆れているが、大和に対し、後世の人々が抱いている幻想が扶桑の造船に多大な影響を齎した。大和を日本海軍のシンボルとする日本世論の後押しもあり、扶桑の新世代戦艦達は大和型の設計や艦容を発展させた設計となった。

「大変だったんだぜ?正式に国交成立した頃、大和型を史実の情報前提でけなす連中が多かったし、前の政権は大和以外を廃棄しろとか言いやがったし」

「ああ、それは聞きました。結局、色々と米軍に実験してもらったりして、政権交代まで持ちこたえさせたとか?」

「ああ。一番下の三河なんてさ、漁船摘発に駆り出されたんだぜ?おかげで、その年の世界びっくりニュースのベスト10入りだ」

三河。大和型の一番新しい艦で、播磨型を増備できる予算が確保できなかったが、紀伊型戦艦以前のフネが戦艦の任から離れる事で代替が必要となった事情で生み出された。日本に駐留する扶桑海軍の旗艦だが、海保の疲弊で、密漁漁船摘発に駆り出される一幕があり、インターネットでは、その年のびっくりニュースのベスト10入りを果たした。動画のタイトルは『密漁監視に大和型投入された件』というものだ。動画は2017年のもので、既に三河が寄港していることも当たり前に認知されている頃だが、まさか戦艦を漁船摘発に駆り出すとは思われなかったようで、コメントは『JAPANは海賊討伐にバトルシップを持ち出すのか??』などといった内容が大半だった。大和型が主砲を振りかざし、密漁漁船を威嚇しに、汽笛をわざと鳴らして登場するという内容だが、漁船の乗組員のパニックぶりも目に見えて分かった。また、扶桑から買い取られた『鵜来型海防艦』を大量に従え、治安維持任務につく様は、大和型の使い方としては贅沢極まりないものである。この思い切った運用は気を良くしたキングス・ユニオンの追従を起こし、次いでアメリカも追う。言うならば、治安維持が戦艦の舞踏会のようなものと解釈されたのだろう。戦艦はその維持費が問題になっていたので、こうした思い切った運用法でその費用を下げるというのは、元々は海自が予算の都合で編み出した。当時、扶桑保有の乙巡は護衛艦型の登場で存在意義が薄れ、超甲巡に更新しようにも、乙巡を代替するための艦ではないので、船体サイズが大きすぎる。阿賀野型の改良型も造られる計画があるが、デモインやウースターの前では見劣りするのが難点である。それが扶桑の戦時増備計画の迷走である。乙巡は護衛艦型や駆逐艦を率いる小規模艦隊の旗艦としての存在意義が期待されたが、護衛艦型の万能さからか、その理解は得られていない。問題はデモインを超甲巡で抑えるべしという財務省の考えである。甲巡で勝てないから、戦艦サイズの超甲巡で対抗しようと言うのは、些か大仰にすぎる。高雄型重巡洋艦の改良型がここで再度、脚光を浴びた。これは当時最新の重巡だった利根型ベースの開発が疑問視されたためでもある。航巡はすでにヘリコプターの存在で時代遅れとなった感が強く、デモインに勝てる巡洋艦を背広組が求めたからだが、デモインは最終世代の重巡洋艦なため、維持費や建造費、大きさなどでは既に、黎明期の戦艦を凌駕している。そのため、超甲巡をもっと作れ派と、制服組に近い派閥とで『高雄型重巡洋艦の改良型作ればいいやん』派に割れていた。結局、イギリスのタイガーの例を鑑み、利根型をベースにしたヘリコプター巡洋艦と、対デモイン級相当の改高雄の再計画、超甲巡の砲力増強の模索が決められた。元々、存在自体が甲巡の代替も兼ねていた超甲巡だが、戦艦が高額な大和型以降の超大型へ移行してしまった事により、高速戦艦としての需要が生じ、太平洋戦争までにそれらの設計は完了する。しかし、超甲巡のそもそもの設計目的と矛盾する改良でもあるため、財務官僚の説得力に手間取り、結局、50年代の承認と完成にずれ込む。これは安倍シンゾーの任期満了が2018年の冬になると現実味を帯びており、日本国民が総理の交代を考えだした事にも関係している。オリンピックなどを睨んでの長期政権も視野に入ってきたが、戦時にも関わず、野党は平時と変わらぬ国会での論戦をやろうとする。これが問題だった。


「黒田が言ってたが、日本は同位国の戦争にも無関心な層が大半で、政治屋連中は揚げ足取りしか興味がねぇ。おまけに背広組は保身しか考えてなくて、制服組に尻ぬぐいさせる。あー、もうやになるぜ!」

黒江にしては珍しく、ヒステリー気味だ。自分の派閥がどうにかしなければ、如何に501といえど、過労で倒れてしまう。

「救いは若者が案外扶桑軍に協力的なところかな。私も元の姿が漫画で知られてから、若者に人気出てきたし、調は言うまでもない。まぁ、アニメでのキャラは私寄りになったけどなー」

黒江が、のび太での世界でのシンフォギア第二期のアニメ化の前に調の容姿を使っていた影響か、のび太の世界でのアニメでは、調は現在の黒江寄りの好戦的な性格で描かれた。これに本人は苦笑いだが、黒江の因子が加わり、好戦的になった面は確かにあるので、ノビスケの育児の合間に、深夜アニメを見ていた。その頃はちょうど6歳から7歳前後であったノビスケを寝かしつけた後で見ていた。のび太の世界では、シンフォギアのアニメの放送の間隔に若干の他世界との誤差があり、2015年に二期が放映された。これは調の容姿を黒江が使っていたため、制作スタッフの構想練り上げが遅れ、自衛隊の広報に念のためお伺いを立てていたためではないかと、調当人は推測した。そのため、当人としては『これはこれでありかも』とし、実質的にお墨付きを与えたという。





――調当人も、2000年からの長期間の活動で、学園都市にもその存在が知られており、2018年になると、20代になったばかりの際にG化している御坂美琴に情報などを提供する立場にあった。そのため、美琴の容姿は往時のそれに外見が戻っており、それを隠れ蓑に学園都市暗部との暗闘を続けている。また、本来は20代になったので、学園都市にいる意義は薄れているが、G化で平行世界の自分は『それと知らずに魔力に手を出すほどに精神的に疲弊する』ビジョンを垣間見たためか、ラルから得た魔力と自然覚醒した超能力を用いている。これはイナズマンとの接触で、能力が人工的に造られたものから、自然に覚醒した本物の超能力に移行した影響である。学園都市の常識を覆す、魔力を持つ超能力者として新生したと言って良い。美琴は覚醒に伴い、自身のベストパフォーマンスを引き出せていた14歳当時に不可逆的に若返った事になる。外見年齢の固定はGウィッチ化の特典と言えるものだが、彼女の場合のキーはなんであるか。前史でグンドュラ・ラルと入れ替わった事があったからだろう。今回はその記憶が蘇った事により、敵へハッタリをかましてピンチを切り抜けたことも多い。特に顕著なのが、口八丁になった点と、ラルと同一のハスキーボイスを使い、相手にハッタリをかます事が特技になった事である。ある日に黒江の命を受けた調が会いに行った際には、麦野沈利を相手取って、ラルの口調と声で麦野を煽りまくり、自滅に追い込んでいる。また、それはイギリス清教や十字教の者達相手でも通じたが、これはラルの百戦錬磨の策謀の才能が美琴に少なからずもたらされたためである。また、ラルの天才と言える偏差射撃の才能は美琴の戦闘力を引き上げる効果ももたらし、これで以て、聖人級を撤退させたことすらある。本人曰く、『グンドュラさんのおかげで、語彙力が上がったし、ネイティブ級の独語話せるようになったから大助かり』との事。そのため、ドイツ語のスラングを使い、母親の美鈴を驚かせたこともあるし、インデックス相手に英語で会話を交わすこともあった。また、黒子の事で智子とは友人関係になっているという。常盤台を卒業しても、黒子とは腐れ縁で、高校、大学に至るまで同室であり、そこも智子との共通点だ。2018年になると、大学卒業後はG機関のエージェントになるつもりであると、黒江に手紙を寄越している――

「お、美琴からメールだ。2018年の日本はもう秋の初めか。……なるほど、お前らが現れてるから、ネットが祭りだそうだ。ほら、お前らは依代が持ってた技能をそのまま持って転生したろ?それで大盛り上がりだぞ」

「戦争をショーか何かだと思ってません?」

「仕方ねーよ。太平洋戦争から70年も平和なら、学園都市の戦争ですら他人事だと思ってるのが、21世紀の始めの日本なんだ。それでいて、本当に無防備は嫌だから、自衛隊置いてお茶濁して来た歴史もある。そういう歪な状態が限界に達してたんだよ」

「それで日本連邦で中興しようとする若者と、緩やかな滅びに向かおうとした老人達と世代間闘争に?」

「太平洋戦争のことを言われても、もう当時の若者達も大半が死んでるような時代を迎えたし、太平洋戦争が終わっても、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争、湾岸戦争と、21世紀に至るまでの後半でもこれだけの戦争が起きてるし、自衛隊捨てようって論調は急進的な連中の戯言に留まってる」



(後に興る、22世紀の終わりの完全平和主義は、けして戦いの放棄ではないという真意が理解されずに現実の思想としては事実上潰えたが、リリーナも宇宙戦争時代の到来で必要最小限の軍事力の存在は必要という事はわかっており、極秘裏に『地球防衛軍』構想を練り上げていたので、軍事力の存在の軽視をしていたわけではないが、その出自でハト派のシンボルに祭り上げられていたのが政治家としての不幸だった。その辺は吉田茂と似た経緯である。)

「22世紀の末の地球と似てますね」

「あの時点だと、地球だけが生存圏でも無くなってるし、生きるために力が必要だって分かってたしな。それに、ヤマトが政治思想的意味での完全平和主義にトドメを刺したと言えるだろうな。その時の古代さんの断固とした姿勢が結果的に、その後の地球の方向性を決めたんだろう。要は、この宇宙で生きていくには、力が必要だってことだろうさ」

完全平和主義の正統継承者である、当のリリーナ・ドーリアンも『平和は誰かから与えられるものではなく、自らの手で勝ち取ってこそ価値がある』とする現実的な思考に至り、それを表に出し始めた事もあり、完全平和の完全継承を願い、彼女を支持していた左派の中の特に尖鋭的な者はその行き場を失って、反体制テロリストに堕ちていったし、ガトランティス戦役で軍事力の存在意義が改めて見直された。つまりは『理想』としては良いが、国家運営の条件にするには無理があるというのが示され、人々は最終的に現実主義を選んだということだ。

――手を差し伸べ握った者に友情を、叩いた者に鉄拳を――

これが地球連邦の基本方針となっていくのだった。


「まぁ、今のこの世界も、いずれウィッチの反発は収まる。今は第一次と扶桑海、戦争前半で確立された秩序を守ろうと躍起になってるだけだし、MATもいずれ頭打ちになるしな」

「秩序、ですか?」

「ああ。ウィッチは二度の戦争で軍隊に居場所を得たが、今度のオラーシャがそうであるように、それは脆いものだって一瞬で示されちまった。サーシャをレヴィがシメに行ったが、あいつはオラーシャでのウィッチの蔑視にトラウマを持つ。もし、理性のタガが外れたら、ソ連の政治将校や、ナチのSSもかくやの虐殺しかねないな、あいつ」

「大尉は軍人にしては感情的にすぎますからね、私を事実上の副官にしたのは、そういう事ですか?」

「言っちゃ悪いが、あいつは対人戦向きの軍人じゃないし、オラーシャの革命騒ぎでトラウマを抉られてるから判断ミスをしかねないし、下手すると南極条約違反のこともやりかねないから、第三者のお前を副官に選んだ。戦術面で期待してるよ。戦略は任せておけ」

「頼みます」

ジャンヌは転生でルナマリアを依代にした関係で、戦術面では英雄の名に恥じない一騎当千だが、戦略は生前と同じく苦手で、これはルナマリアと融合しても変化は無かった。そのため、ジャンヌは戦術面でのサポートを任されている。サーシャがオラーシャの革命騒ぎの事で情緒不安定となっているため、元・502戦闘隊長でありながら、黒江には『この作戦での副官には出来ない』と判定され、ジャンヌが抜擢された。これは黒田や芳佳といった腹心が折衝役になっているためであった。サーシャはこの作戦では、祖国の革命騒ぎで精神不安定となった事が問題視され、後方の兵站管理の任務を任されているが、サーニャに当たり散らした事で、レヴィが調停に動いたのである。ウィッチは私的な理由で軍規を作る傾向があり、これが日本側に『整備兵などを差別している!』と問題視された(ある部隊では、私的な理由での軍規を振りかざしたとして、見せしめに、ウィッチの大佐が実階級で中尉にまで落とされたが、その途端に整備兵などに仕返しとばかりにリンチされ、再起不能寸前の怪我を負わされ、病院送りにされた例もある)事もあり、上層部は現場の引き締めにかかり、ミーナ以外にも問題視されそうなウィッチへ勧告し始めていた。これはそのような事件を未然に防ぐためで、黒江達は整備兵などを厚遇しているが、それはトラブルで洋上で墜落(例えば、旧・日本軍では、気に入らない搭乗員を合法的に粛清するため、整備不良をわざと起こさせ、戦死させる手段が現場で取られており、そういう言い伝えも多くある)させられる手段での粛清を起こさせないように、整備兵のご機嫌を取っているわけだ。そのため、ミーナ自身も覚醒後は整備兵への待遇を改善している(西住まほの因子が覚醒し、元来のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ要素が薄れたためでもあるが、当人は度重なる友人の忠告でいずれ変えるつもりではあった)。

「あ、言っとくが、くれぐれも整備兵は丁重に扱え。空中で整備不良で殺されちゃたまんねぇし、あいつらを怒らせると、こっちが死ぬからな」

「ええ。しかし、ミーナ大佐は留学の内示が出ています」

「仕方がねぇ。覚醒が遅れに遅れたんだ。未来に行ってもらうしかないな」

黒江は自衛隊やSMS、ロンド・ベルでの経験からか、整備兵への扱いは丁重である。ミーナとは衝突し易い素地がその時点であったので、坂本とラルがリバウ時代から動き回る事になったのだ。ミーナは黒江やハルトマンが望んでいた『G』への覚醒が遅れに遅れたため、留学コースは避けられない見通しだ。これは短期間に二回も査問を受けた事で、人事評価が下がっているからで、戦功で補え切れないため、ロンメルは『未来への留学をさせることでしか、彼女は守れん』と述べたが、つまり、ミーナの経歴に傷をつけないためには『本人が反省の行動を示す必要がある』ということだ。

「未来人は日独の軍人にゃ冷淡だからな。クーデターの鎮圧の暁には、近衛師団の連隊への縮小改編、幼年学校卒の青年将校の大量追放も予定されてる。おそらく、海軍航空隊や作戦参謀は一部の優秀な将校におんぶに抱っこだろうな」

黒江はクーデター事件が終わると、扶桑には幼年学校出身者狩りや青年将校狩りが日本の手で起きるであろうことを作戦中に看破していた。日本は終戦間際の近衛師団のクーデターなどで、近衛師団の解体を検討しており、皇宮警察の増強で近衛師団を代替する案が警察関係者の手で模索されていた。この案は軍部を敵視する警察関係者のエゴとも言えるものなので、結局は連隊への縮小で落ち着く。また、幼年学校卒の青年将校の扱いは完全に日本のミスで、この時にウィッチであろうが情け容赦なく軍籍剥奪を行ったツケが太平洋戦争に回り、ウィッチ不足に悩む時期が長期に渡る事になる。

「彼ら日本の政治家や警察関係者は何をしようと?」

「旧陸軍要素の抹殺だろ?自衛隊にゃ、大規模攻勢のノウハウがないんだぜ?それを無理に統一しようとするから、クーデターされるんだよ」


黒江は自衛隊式に強引に扶桑軍組織を作り変えようと躍起になる警察関係者などを揶揄した。黒江のような職業軍人は戦後の警察関係者や内務省出身者には『敗北者』と見下され、侮られる傾向があり、黒江が忠勇な軍人である証明には、昭和天皇の言葉が必要なほどだった。日本警察は軍部嫌いで通っており、スパイが疑われた黒江をなんとか捕まえようとしたが、2003年の段階で手が出せなくなった。それに不満を持つ公安警察官個人が週刊誌に垂れ込んだ事が訴訟の嵐のきっかけで、2005年前後の身分の公表を期に週刊誌のゴシップが書かれるようになり、2006年からの数年は訴訟の嵐であった。これは公安警察官が使命感に逸って引き起こした流れだったが、米軍が『我々の戦った相手にして、貴国の自衛隊幹部であった者の同位体を貶めるのは我等の事も含めてバカにしているのかね?』と声明を発表し、続いて扶桑の昭和天皇が公式で声明を発表した事で、国際問題化を恐れた、当時の発足間もない頃の革新政権は事態の収拾にようやく動いた。当時の鳩山ユキヲ総理は自身の祖父である一郎が昭和天皇の要請で日本へ渡り、直々に叱責した事で事の重大さを知り、一郎は『威一郎はユキヲに何を教えたのだ!?』と憤慨するほどだった。ユキヲは法務大臣に対応を丸投げし、法務大臣は裁判のスピード化、和解勧告などを駆使し、2009年度中の決着を目指したが、黒江の弁護団長が『黒江少佐殿の名誉に関わる事である!』と徹底抗戦の意思を見せたのもあり、終わったのは2011年になるかの頃だった。弁護団長は1927年前後の生まれ、2005年当時には隠居間近の老人弁護士だった。太平洋戦争には大戦後期に志願、44年からの一年ほど47Fに在籍しており、審査部にいた黒江の同位体にも会った経験があった。偕行社の会員でもあったので、黒江の支援は偕行社の旧軍出身者らが主体になっていた。黒江は出身の士官学校の学年が陸士50期に相当するので、2005年に生存していた元軍人の中では最長老に近い。同位体がこれまた人柄の良いことで知られていた撃墜王だったおかげで、弁護費用などは彼らが負担してくれた。黒江は事が済んだ後、彼らをスカウトして扶桑に送り込んでいる。ダイ・アナザー・デイに参陣した義勇兵の複数はその時にスカウトした元帝国軍人達である。また、その弁護士が属する戦友会のツテで、黒江はB29撃墜のノウハウを聞き取り調査しており、彼らは『機首にホ5とかマ弾ぶちこみゃ、かってに堕ちますって、B公なんて』と教え込んでいる。黒江はそれを501に広め、実際に子分たちと共に、飛来したB-29を落としている。弁護団の中には、元・47Fや第5F、第244F出身者がおり、501を爆撃機キラーにしたのは、元日本軍パイロット達の知恵と戦訓であった。彼らは若返って参陣するに辺り、黒江とその側近達(黒田、宮藤、菅野)に戦術をコーチングしており、その成果は直後に表れたというわけだ。ダイ・アナザー・デイで活躍している実機部隊の者達はこの時にスカウトされた者たちである。

「さて、実機の方で遊んでくる」

「キ84ですか?」

「84は好かねぇから、キ100に乗ってグラマンやシコルスキーと遊んでくる」

黒江はストライカー/実機共に、疾風は好まず、キ100を好んでいた。確実に630キロほどの速度が出せるからで、疾風がウィッチ世界で主力になりそこねたのは、量産初期にカタログスペックが出せない個体が頻出した上、分散配備だった不幸もある。黒江と智子もメカトピア戦で受領した疾風が『外れ』の個体で、数戦でエンジンがお釈迦になり、メカトピア戦の後は代替のキ100を使用していた。疾風の不幸は、意気込んでメーカーが送った個体のエンジンがよりによって、鋳造の型が型くずれを起こしていた町工場の製造した個体で、扶桑で影響力が強い二人の不興を買った事だった。二人が前型の鍾馗の撃墜王として名を馳せていた事もあり、疾風は現場に敬遠され、実機/ストライカー共に改善型がロールアウトした頃には、旭光が生産開始されていたという有様だった。黒江はメカトピア戦で初期不良に泣かされたせいか、疾風を嫌い、『百舌鳥』の愛好者となっていた。



――黒江は調の容姿のまま、キ100の実機に乗り込み、対Gスーツ代わりにシュルシャガナを展開して空戦に臨む。黒江はなのはやフェイトなど、ツインテールと何かと縁がある。自身も一年強の期間は成り代わっていた時はツインテールを通した。その名残りか、変身する際は調の容姿を最も使う。見分け方は瞳の色の違いと、髪を結う位置がやや高くなっている事と言動のみだ。ジャンヌが見送る中、義勇兵達と共に、ヘルキャットとコルセア、合わせて50機の群れに挑んでいく。

「おい、ジャンヌ。宝具振るなって。オーバーだぞ」

「えー。帽子持ってないから、旗で見送ろうと」

「宝具のバーゲンセールだな。行ってくる」


黒江が実機で出た事は休憩中のリーネや錦を慌てさせたが、エイラが宥める。

「落ち着けよ、お前ら。あの人は実機で出ても無敵だから心配ないぜ」

「どういうことですか、エイラさん!」

「あの人は扶桑で無敵を謳われたレイブンズの筆頭格だぞ?それに、自衛隊でもブルーインパルスや教導群在籍経験者だぜ?今や、『ロマーニャは黒江で持つ』とまで謳われてるし、私らが行ったとこで、援護が務まるかよ」

「嘘!?エイラさんはスオムス最高のエースですよ!?」

「格が違うんだよ、格が。私やお前たちみたいな若造と、扶桑海で伝説になり、坂本少佐が憧れてる世代の人とじゃ、年季が違うんダナ」

「あんた、レイブンズの事を知ってるのか!?」

「私は41年位には飛んでたし、智子さんの第一次現役時代の末期に一回会った事あるからな、ナカジマ」

スオムス人は英語のイントネーションが変な事になる事が多く、エイラは501着任後は語尾に『〜ダナ』をつける事を口癖にしている。キャラづくりの一環だったが、サーニャと親しくなれたので、それ以後は定着した。

「レイブンズの人たちは化物だぞ?怪異の軍団をピンで倒せるんだぞ?しかも拳で……開いた口が塞がらなかったんダナ」

「あんたは見たのか!?レイブンズの本物を!?」

「戦場で見たんだぞ、こっちは。お前の国に妙な偏見持ちそうになったナ」

エイラはスオムス攻防戦で、レイブンズの一角の智子の無敵ぶりを見ている。智子の本国召還が強引にすぎると、マンシュタインに進言した事もある。智子は現役の続行が余裕でできそうなのに、どうして強引に引退させたのか、と。扶桑に外交ルートで質問が飛び、扶桑はこれに困り、智子を飼い殺しにする事でスオムスへの言い訳という実情の体裁を整えた。しかし、現役復帰後はやはり、後輩達が霞む強さで君臨している。エイラは三将軍の要請で行われた査問で黒江達に恭順の意を示した初の生え抜き501隊員でもあるが、アウロラから話を聞き、長年の疑問が確信に変わったからだ。また、アウロラはレイブンズに反発していた隊員を懐柔するのに協力した事により、G化を公にし、正式に大樹の会に入会している。Gウィッチはこの時点で、基本的に黒江達の戦友か、英霊の魂魄を持って転生した者たちに大別され始めている。英霊の魂魄を持った者は基本的に意思力の問題で、自我が英霊のそれ主体になったり、ペリーヌのように、自我がそれぞれの意志で入れ替われる者に区別される。ペリーヌは強烈な愛国心でモードレッドに染まることが無かったのだ。それとZ神が後に述べるように、モードレッドはその魂魄が宝具で傷ついていたという幸運もあった。

「ハインリーケ少佐やペリーヌさんはどうして、あんな事に!?」

「落ち着けよ。あれは英霊としての自我が目覚めたための現象としか言えないって、うちのねーちゃんが言ってたナ。ハインリーケ少佐とペリーヌは前世が歴史に残るような英霊だったんダナ」

「英霊ってそんな!」

「だから落ち着けって。英霊の自我が目覚めたところで、二人が消えるわけじゃないんだぞ?英霊の自我が目覚めたところで、今更生前の立場に戻れると思うか?無理だナ」

「生前の立場?」

「ペリーヌもハインリーケ少佐も、円卓の騎士だったんだ。前世でナ。宝具も一通り持ってるから、英霊としても優秀。だけど、ハインリーケ少佐がアーサー王の生まれ変わりって分かったところで、ブリタニアの王位に戻れるか?」

「今の王朝はスチュアート朝の子孫って、学校で習った事があります」

「そうなんダナ。今のブリタニア王朝はゾフィー・フォン・ハノーファーの末裔にあたる。その子孫に1700年代の王位継承権法で決められてるから、アーサー王の転生のハインリーケ少佐が主張したところで、行為自体が無意味なんダナ」

「どうしてそう言えるんですか?」

「あのなぁ。王位継承権法は300年間変わってないんダナ。根本的に変える考えはないと思うナ。お前、学生時代に歴史かじった事ないのかよ、リーネ」

「私、養成学校に入れられたので、普通の学科はあまり…」

「うーん。こりゃ、ウチのねーちゃんが呆れてた通りなんダナ」

「?」

「イッル、ここは私が説明する」

「あ、ねーちゃん。飲んだのかよ?」

「最近は作戦中には飲まんよ。……曹長。君のような戦時中の促成組は必要最小限の知識しか積み込まないで任官されたが、今はそれが許される時代でもないのだ」

「詰め込みなんダナ、ねーちゃん。やっぱ酔っぱらってやがる」

アウロラはやはり酔っぱらっていた。だが、以前よりはあからさまに酔っぱらってはおらず、ほろ酔い程度だった。だが、平素の時の知的さは失われておらず、むしろ増している。

「ちょっとはアルコールなきゃ体が動かん。そういうもんだ、イッル」

「冬場ならそーダナ、ねーちゃん」

華麗にスルーのエイラ。『冬期行軍でもないのに飲むな』とする嫌味でもある。アウロラは妹の嫌味を意に介さずに続ける。

「昔はウィッチは若年の内に行う奉仕のようなものだったから、近代の職業軍人化が進んでも、男性の徴兵のような位置づけにあったから、君のような者は許された」

「お母さんの代でも、そんな感じでした」

「だが、今は軍人一人を一人前にするのに、何万ポンドのカネがかかる時代だ。君の母上、ミニー・ビショップの時代より求められるモノが高度化したからな」

「な、何万ポンド!」

「そうだ。君一人を一人前にするのにそれだけのカネがかかるという事だ。その分、国家に尽くさなければ元が取れん。今、急速に各国のウィッチ派閥が衰退してきてる理由は、高い金かけても、すぐに使い物にならなくなるからだ。この意味がわかるか?」

「あがり、ですか?」

「そうだ。一人前になって、使える時間は7年現役なら、実質は3、4年程度。戦車やジープのほうがまだ使える」

ウィッチは育成期間を省いた上での実働期間は人によるが、3、4年程度。加えて、視界外交戦能力もないし、携行できる火力に限界もある。日本が21世紀の兵器を持ち込んだら、ウィッチ閥が力を失い始めたのは、火力も然ることながら、視界外交戦能力の有無である。

「機銃の射程外から飛んで来るミサイルは確かに怖いな、近くで爆発されると破片を避けるのが面倒だしナー」

「あれは遠距離レーダーでこっちを探知して、撃ってきてるんだ。お前なら当たらんよ」

「いや、直撃は回避できるけど近接信管で爆発されると、細かい破片だらけで面倒なんだって!機体に傷つくし」

「防弾板つけとけ。近接信管の破片の防御には使える」

当時、ウィッチの間で近接信管は脅威視されていた。目標に直撃しなくてもその近くで爆発することにより、砲弾を炸裂させ目標物に対しダメージを与えることができるからで、当時、機体の防弾板を自主的に外していたレシプロストライカーへ一瞬で致命傷を与えられるからだ。天山ストライカーが使い物にならないとされたのも、防弾板がなく、敵のボフォースが当たれば一撃で炎上して爆発するほど脆いことが理由だ。流星ストライカーへの機種変更が大急ぎで行われたのもそれだが、間に合わず、初陣にして散々たる損耗率を記録している。VT信管は攻撃ストライカーを一瞬で時代遅れにしてしまったのだ。


「防弾板なぁ」

「その昔はつけていた。40年代初めのころまでは皆がつけていた。外す様になったのはビームになってからだしな」

「でも、ミサイルは防げないぞー?」

「致命傷は避けられる。ゲームで言えば、ス◯ランカー並に弱いんだぞ、今のミサイルへのウィッチの耐久力」

「ねーちゃん、やめろって、そのたとえ。リーネがついていけてないゾ」

「そのうち分かるだろ。ナオやヨシコがTVゲーム持ち込んでるし」

アウロラは前史ではゲーマーで、それはこの時点にはエイラにも知られていた。

「まーた扶桑組のサロンに入り浸ってんだろ、ねぇーちゃーん?」

「仕方ない。この時代にはない文明の利器があるもーん」

「あのなぁ」

「あ、あの。文明の利器って…?」

「映像メディアプレーヤー、TVゲーム、携帯電話…そのほかだ、曹長。21世紀以降から持ち込んだ便利な代物だ。映画上映会にも使っている」

「21世紀から!?」

「21世紀の日本には色々とモノが溢れてる。君の精巧なフィギュアだってある」

「え、えぇ!?」

「元々の501隊員のはたいてい出てたよな?」

「ああ。扶桑組除けばな」

ここで、日本で自分のフィギュアが出ていた事を知ったリーネ。元々の基幹隊員であれば、アクションフィギュアまで出ている。ただし、ミーナは出ていないが。

「ミーナ大佐は出ていなかったな?」

「置物みたいな奴ならあるけど、宮藤で二種類あって、お前があるのに、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニ、大佐はないナ」

「人気の差だな。准将達は確か、ワールドウィッチーズの括りで出るとか言ってたな」

「ルッキーニは売れそうなんだけどナ」

「まぁ、シャーリーにくっついてばっかで、単独でみるとなぁ」

「それも含めてペアで人気なんだよ」

「と、まぁ、君らは21世紀日本ではそれなりに有名人なわけだ。いざとなれば、パテント料で儲けられるぞ?」

「日本系文化圏は子供をコミュニティで愛でる文化があるそうだし」

「え、えぇ!?」

「そんなに驚くなよ。アーサー王だって女だったんだぞ?日本の想像力バンザイだゾ、リーネ」

「なんですかーそれー!!」

「私に言われても困るナ。日本の文化は日本系のところにいないとわかんねーしナ」

「日本はなんでも小型軽量にしたがるしなぁ。機械や兵器に至るまで」

「しかも65000トン級の船体で46cm砲載っけたしな、あそこ。だから、後世の連中に文句言われたのが気に入らないんだよな」

「えーと、他の国がやると、80000トン行くんだっけ?」

「ブリタニアを見ろ。大和より微妙に口径が小さいの載っけるのに、300m超えの船体が必要だっただろ、イッル」

「そりゃそうダナ」

「だから、後継が異常に大きくなったろ?日本は史実の結果で物言うからな。有視界で打ち合う目的で作られていないんだがな、今時の戦艦は」

20キロ圏内で打ち合うことがこの時代の戦艦の運用法で、人の視界で見える範囲で打ち合う目的で作られてはいない。日本は長い年月で海自関係者以外はその事を忘れ去っていたため、戦艦に異常なまでに防御力を求めた。

「日本はツシマで戦艦の戦いのイメージ止まってんだよな」

「お、ナオ。休憩か?」

「やっと交代要員が来たからな。日本は日本海海戦以外にまともに戦艦の戦してないから、そこでイメージが止まってやがるんだよ」

「日本海海戦?」

「向こうの世界での40年前に起こった、日本とロシアの戦争での最大の海戦だ、リーネ。そこ以外に戦艦同士の戦はしてない。こっちは第一次世界大戦に参戦したけど、向こうは末期にどさくさに紛れて南洋諸島を得ただけで、欧州には、いくつか艦を送っただけ。だから、今の戦だと、戦艦同士の戦は起きてない事になる」

「日本が異常に空母や潜水艦に拘るのは?」

「それで、国も連合艦隊も滅んだからだ。戦艦の整備にゃ最初は興味なかったよ、連中」

日本は戦艦の整備には消極的で、大和型の維持すら露骨に渋っている。革新政権の頃が最も酷く、大和一隻を客寄せパンダに使い、後はスクラップというのが当初の案だったのだ。軍事的に戦艦は過去の遺物としており、重巡洋艦含めて、全廃すら検討したが、扶桑からリベリオンの戦艦量産の報と、海自のレポートで腰を抜かし、政権交代の直前には、『大和と武蔵で…』」という泣き言を言っていた。これは背広組官僚が先に腰を抜かした。史実では存在しないはずのモンタナがどんどん量産されている様子の写真が防衛省に流れたからだ。これに愕然とした背広組は、戦艦には戦艦をの論理を持つ制服組に押される形で、大和型の量産は必至と時の防衛大臣に具申した。だが、時の防衛大臣や総理は扶桑の軍備の近代化の名の下、戦艦を排除しようとしており、そうりゅう型潜水艦やイージス艦の量産でどうにかなると譲らなかった。だが、やがて、怪異には大口径砲弾が一番有効であるとするレポート、ウィッチ世界での他国から戦艦の増勢を求められた事から、扶桑の戦艦増勢に口を挟む事を事実上は棚上げした。ただし、砲弾防御特化と集中防御をやめろと注釈をつけて。23世紀世界に超大和型戦艦の建造をを依頼したのは、その条件に適合する船は自分達の技術では不可能と考えたからだ。

「日本の連中、大和型が沈んだのを、攻撃特化で、水雷防御力が脆いせいだと思ってやがるし、リベットづくりの重要部なのをあげつらいやがってな。この時代の技術じゃ、全溶接船は不可能だってーの!」

「確かに。リバティは自然にへし折れるくらい脆いし、消耗品扱いだから出来た事だしな」

「リベリオンだって、戦艦はリベットでつなぎ目を止めてるし、そもそも、21世紀の条件で考えんなよ」

「どんな船だって、普通は魚雷の三本も食らえば沈んだっておかしくないのに、ダース単位で魚雷食らって、即死しないとか、頭オカシイレベルの防御力なんだがな」

「連中は水爆や原爆落とされたら……なんて艦政本部にヒステリーに言いやがったらしく、艦政本部はお通夜だったそうな。そこで宇宙戦艦の技術を持つ23世紀に依頼したんだよ」

そもそも、米軍は艦艇に核兵器をぶち込むことは非効率と言うことをビキニ環礁の実験で知り、核の使用用途を確定させた経緯があるため、日本の背広組が言う事は机上の空論もいいところである。だが、日本は異常に防御力に傾倒しており、扶桑の技術では、『時代遅れ』と誹りを受ける。そこで、もっと未来であり、宇宙戦艦ヤマトを作れる技術を持つ23世紀に依頼したのだ。そのため、改大和型と超大和型戦艦は宇宙戦艦ヤマトと同等の防御力を備えている船となった。これは制服組をして呆然とさせるほどの事実である。制服組の高官は当時の背広組にこう嫌味を言ったという。『貴殿方が、ツァーリ・ボンバ級の核にも耐えろとか言うから、今にも波動砲撃ちそうなくらいに原型残らない改造したじゃないか』と。実際に改大和型は21世紀の技術にとっては、ブラックボックスになっているところが多い。21世紀の技術では強化テクタイト板と超合金の複合装甲は解析が困難であるからだ。武装や電子装備など、各所に23世紀の最新技術が注ぎ込まれており、もはやラ級並の別物感がある。それが通達されると、防衛大臣は『宇宙戦艦ヤマトと同じテクノロジーで改造されたのかね?』と驚愕したという。正確に言えば、アンドロメダ以降の次世代波動エンジン艦の技術で改造を受けたほうが正しい。

「聞いた限りではあの宇宙戦艦ヤマトです、なんなら動画有りますが?」

「本当かね…?」

「宇宙戦艦ヤマトが本当にガミラスや白色彗星帝国と戦ってますよ。アニメの通りに。ただし年代が多少前倒しの様です」

宇宙戦艦ヤマトの時代の技術で改造されたのなら、もはや自分達の兵器などはおもちゃではないか。防衛大臣はそう呻いたという。その通りに、扶桑の大和型とその発展型はもはや、飛ばない『宇宙戦艦ヤマト』に等しい代物と化しており、これで戦艦の軍事的利用を認めた。宇宙戦艦ヤマトはそこまでの知名度があるのだ。

「海自の最新型DD二隻分程度の防空能力、イージス艦以上の探知距離のレーダー、ブラックボックスながら正確な指揮管制システム、核兵器で攻撃しても4~5発程度の弾頭で有れば迎撃可能でしょうとの分析が海自から上がってます。これは最新型イージス艦の弾道ミサイル防衛対応型三隻分以上の価値となります」

「……」

「下手に米国からイージスシステムを買うよりも安上がりです、大臣。ご決断を」

「分かった。総理には君たちから報告してくれ給え。扶桑には大和型の増強を認めると通達を」

それで扶桑は三河を追加で造船し、2011年に扶桑からの派遣艦隊の旗艦となり、その発展型である播磨の量産に入り、三笠の上位艦種『敷島』の仕様策定作業に入る。つまりは宇宙戦艦ヤマトのネームバリューが革新政権を動かしたのだ。


「――で、日本の連中には地球連邦軍の宇宙戦艦ヤマトのネームバリューが効いた。元々は日本でアニメとして存在してた代物だし、アニメの出来が良かったから、ある年代から上の知名度もバッチリだ。丁度リメイクもやってたし」

「いいんですか、それ」

「そんなこと言ったら、マジンガーZの系譜なんて、グレート以降のマジンガーがゴロゴロいるんだぞ、リーネ」

戦場で活躍するマジンガーは基本的にグレートマジンガー以降の『強化型』マジンガーで、マジンガーZはいない。グレンダイザーは『マジンガー』ではないので、Zの不在が21世紀で不思議がられている。未来世界では、アニメと違い、Dr.ヘルの一度目の死亡後、『マジンガーZ対暗黒大将軍』に相当する戦いでZは敗北し、『鉄の城、堕つ』というインパクトで新聞の記事を飾っている。そのため、『デスマッチ!甦れ我らのマジンガーZ!』ルートの世界線よりはZの面目も立った敗北と言えよう。実際の戦いでは、Zは損傷を受けすぎた結果、グレートが救援に来た頃には操縦がままならないほどの傷を負っていた。ミケーネの先遣部隊と死闘を繰り広げた証だった。その死闘があるからこそ、救援に来たグレートの救世主としての威光は凄まじいものがあった。そのため、鉄也もZに敬意を払う言動でミケーネ先遣隊と戦い、偉大な勇者としてのグレートの力で殲滅している。グレートも敵の強大化で苦戦が多くなると、Z同様に強化を繰り返し、やがてカイザー化に至る。甲児はグレートの戦いが一段落つくと、鉄也への無思慮な一言で周囲の顰蹙を買うという、『らしくない』行動をしてしまい、グレートと剣造へ抱いていた嫉妬を表に出したことでの高い代償を支払う羽目となった。


『俺が今まで必死にやってきたのは 俺がこの世に存在する事をわかってほしかった…。愛されなくてもいい…俺がいる事を理解して欲しかったんだ…。甲児が帰ってきた今となっては 俺に残された唯一の道は…よりすぐれた戦闘で認めてもらうしかないんだ!』

鉄也の心からのこの悲痛な叫びを、甲児は『ネチネチした不幸自慢』としか捉えなかったが、弟のシローに金的された挙句に軽蔑され、シローの行動の意味を悟った流竜馬に叩きのめされている。甲児にしては実に迂闊かつ軽率な行動であった。そのため、シローはこの事件以後は鉄也の方に懐いてしまった。甲児が科学者になる願望を持ちつつ、カイザーとゴットに乗るのは、シローへ背負った十字架と、鉄也への贖罪も兼ねた行動でもある。(父親の剣造の取った選択は、結果的にであるが、長男の甲児がZを超える勇者たるグレートに強烈に嫉妬し、遂にはその強烈な負の感情がデビルマジンガーをすら超える悪魔であるZEROの顕現の依代となってしまった事になる)(ZEROを顕現させ、間接的にウィッチ世界のいくつかを滅ぼしてしまった事への責任を取ろうとしている)その後、ベガ星連合軍の襲来後の時間軸で、このような和解を行った。

『誰が愛されて無いって?俺の弟がアンタを庇って俺を蹴った、ジュンさんがいつもついていってる、親父はグレートをアンタの為に常に最高のコンディションに仕上げている、研究所のみんながアンタの無事を祈ってた、俺よりずっと皆から愛されてるかも知れないぜ?』

胸をポンと小突き、こう続けた。『父さんが認めた息子なら俺の兄貴だろう?情けない事言わないでくれ、鉄也さん、あの時に言い過ぎたのは悪かった』

と、言いながら、手を開き差し出して、握手で和解している。甲児はこれで鉄也とのわだかまりを乗り越える事に成功し、マジンカイザーやゴットマジンガーの操縦者としてZ、EROを倒すことに成功した。甲児はウィッチ世界をカイザーとゴッドで救うことを鉄也や黒江達への禊としているが、それは『Zの姿をしておらず、グレート的な姿の機体に乗っても、Zの魂は受け継がれていく』と信じての事だ。

「お、ちょうどマジンカイザーの出撃だ。見てみろ、お前ら。未来の連中が『魔神皇帝』って崇めてるスーパーロボットの出撃を」

菅野はエイラやリーネにマジンカイザーの出撃の様子を見ろと促す。モニターを見ると、毎度お馴染みの防護服を着た甲児がカイザーパイルダーに颯爽と乗り込むところが映る。甲児はこう語っている。『胸のZが俺たち(甲児とマジンガーZ)の約束だからな、ZEROすら超えて全てを掴むまでマジンガーはシンカ/進化/神化するんだ!』と。

『カイザーパイルダー、発進!!』

カイザーパイルダーが地下からの滑走路から発進し、プールらしき施設の上空に差し掛かったところで、お馴染みの掛け声である『マジーンゴー!』の叫びでカイザーがプールの底がガバッと開く形でせり出す。甲児はパイルダーを操り、マジンカイザーにパイルダーオンする。カイザーの頭部は発見当初とは異なる形状に改修されているので、パイルダーの変形機構も変わっている。最適な形状となり、そのまま突っ込むような形でドッキングした。

『行くぜ、マジンカイザー!!』

マジンカイザーの形状も変わっており、グレート同様のカラーリング、胸にあった金色のモールドが撤廃され、胸のZのエンブレムが大型化され、カイザースクランダーが小型軽量化され、スクランブルダッシュやディバインウイングのような収納式に改造されている。本来は対ZERO対策でゲッター線を用いて改造した『対ZERO用のマジンカイザー』である。弓教授が信頼性の確保の確認に異常にこだわり、時間をかけすぎて投入が遅れたため、想定された相手との戦闘は叶わなかった。甲児はダイ・アナザー・デイではゴットの整備中に使う第二の愛機的位置づけで使っているが、弓教授はゴッドの戦闘能力を実際より低く見ていた事になる。

「アレがマジンガーZを、グレートマジンガーを、グレンダイザーも超える最強のマジンガーの一つ……」

「そうだ!これこそがマジンカイザー!魔神皇帝だ!!」

リーネは映像越しとは言え、出撃していくマジンカイザーの勇姿に見惚れる。ドヤ顔で解説する菅野。マジンカイザーはもはや、存在の因果律を操ることでしか装甲を破壊出来ないが、ゲッター線でそれも封じたため、対等に渡り合えるのは、デザリアム戦役で目覚める真ゲッタードラゴンや、復活した真ゲッターロボのみだ。マジンカイザーの対になるのがマジンエンペラーGであり、同機はZ神曰く、『皇帝と並び立つための勇者であり、もう一つの皇帝である』との事だ。

「ん、宮藤か。そっちはどうだ?」

「参りましたね〜。M46がいたんで、パンターが損傷させられちった。今は38(t)で歩兵の支援してます」

芳佳から通信が入る。敵にM46戦車がおり、不意打ちを喰らい、パンターストライカーの履帯を切られ、エンジンにも損傷を受けたため、ロンメルに38(t)ストライカーを用意させ、それで歩兵の支援をしていると。

「パンターって確か、シールドを省いた場合の最大装甲厚が80mmの傾斜55°だろ?車体」

「ストライカーもそうなんですけど、側面からエンジンと履帯を90ミリで狙撃されましてね。今は陸自からパンツァーファウストVを借りて、対戦車戦闘中です」

「ZB26はもらったか?」

「ばっちり。歩兵にゃそれを使ってます」

「ま、お前のシールドなら、まず抜かれないだろうから、安心してるよ」

「隊長なんて凄いですよ?西住流の要領でシャーマンは目じゃない、パーシングも倒してます」

「あの人、そっちだったのかよ……。それで、今は?」

「あ、今丁度、シャーマンを30両目ぶっ飛ばしてます」

「バルクマンか、ヴィットマンかよ、あの人は」

ミーナは西住まほとしての因子が目覚め、完全に戦車乗りになっている事が芳佳から菅野へ通達された。ティーガーは大型装甲脚であり、その火力と装甲と引き換えの鈍重さに加え、そのあまりに高い製造コストから、帝政カールスラント装甲師団にもあまり出回っていない。また、航空戦力の優勢が確保された戦場でしか真価を発揮できないという点が指摘され、配備数も減らされ、シャーロットの持ち込んだ試作車を除けば、欧州にあったのは量産タイプ20両のみ。実車よりもコストが高い故の現実である。扶桑が戦後型の61式や74式と言った、ティーガーをあっさり倒せるMBTの開発に成功した事も、配備数圧縮の要因である。だが、その火力はM4やM26などには依然として通じる事には変わりない。西住まほとしての因子が目覚めたミーナはダックイン戦法や『昼飯の角度』と言ったテクニックを駆使し、シールドと物理装甲の双方で攻撃を防ぎ、携行した弾薬で敵戦車を次々と血祭りにあげている。

「あ、隊長が戦闘終えたみたいだから、隊長に回線回します」

「頼む。…隊長?菅野ッス。敵戦車はどのくらいやりました?」

「ざっと30両とちょっとだな……。相手にM46がいるようだが、ティーガーのアハトアハトの精度なら、弱点を狙えばいいだけだ」

「……流石、西住流」

ミーナはまほの声色と性格となったようで、口調も『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』ではなく、西住まほとしての冷静沈着かつ、威厳のあるものだ。ティーガー乗りとしての熟練した腕はおそらく、本職であるはずのブリタニアのマイルズ少佐が霞むだろう。それほどの狙撃と、戦闘テクニックを見せた。

「隊長、本職の連中が嫉妬しますぜ、その戦果」

「知らんな。私は目の前の敵を完膚なきまでに叩き潰すだけだ、『菅野』」

「わーお…」

菅野は西住流の体現者となったミーナの変貌に圧倒された。今のミーナは華々しい空戦のエースではなく、陸の泥臭い戦を生き抜いた戦車乗りだと実感する。

「あんた、カリウスかヴィットマンでも目指してるんすかねぇ」

「フッ、お前にそれを言われるとはな」

「見事に変わりましたね、隊長」

菅野はミーナのG覚醒を自分なりに祝う。

「おそらく、私は未来への留学は避けられんが、この戦功で経歴に傷がつくのは阻止できる。全く、我ながら青二才だったよ」

「そのキャラがもうちょい早けりゃ、黒江さん達と揉めずに済んだのに」

「過ぎた事は仕方がないことだ、菅野。その上で、あの方達ヘの禊も兼ねて、最善は尽くす」

完全に、西住まほとしての自我が目覚めたミーナ。この時にロンメル配下の報道班員が撮影していた『パンツァージャケットを着て、戦車兵用の制帽を被る』姿が翌日のカールスラントの新聞に載り、エディタ・ノイマンやケッセルリンク元帥、ゲーリング元帥を驚天動地させたという…。この驚愕の戦果はカールスラント陸軍を震撼させ、ティーガーの開発主任のフレデリカ・ポルシェをして『貴方、どこでティーガーの扱いを!?』と詰め寄るほどだったという。ミーナは『虎の扱いは繊細に行なうのが肝要だ。犬や猫を愛でるのと同じで、優しく扱わなければ、すぐに機嫌を損ねる』と言ってのけ、ポルシェすら唖然とさせたとか。



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