外伝その143『マジンカイザー!』


――発進したマジンカイザー。その強さはさらに磨きがかかり、もはやティターンズのMSなどは有象無象の如く蹴散らされるだけであった。その威容はまさしく『デビルマシン』そのものだ――


――マジンカイザーの登場に伴い、戦場にはバダンが地獄大元帥(Dr.ヘル)のツテで呼び寄せ、マジンガーとゲッターの打倒のために、ミケーネから送り込まれた妖機械獣が出現し始めた。どうやら、ZEROの事については考えは同じだったようで、鏡面世界と現実世界との出入り口の一つを制圧したらしい。連邦軍のMSの大半の機種では相手にならないため、それらの相手はスーパーロボットとロボットガールズの役割であった。

「ターボスマッシャーパーンチ!」

マジンカイザー伝家の宝刀、ターボスマッシャーパンチ。ミケーネ純正の戦闘獣より劣化している『妖機械獣』など、もはや論外である。改良後は片腕のみを打ち出す事も可能になったので、甲児はZと概ね同じ感覚で操縦している。威力は余計に上がっているので、たいていの量産MSの攻撃に耐える妖機械獣も、マジンガーの中でも最高峰に等しいマジンカイザーの猛攻は耐えられるわけがなく、ターボスマッシャーパンチの一発で胴体を動力ごと貫かれて爆散する。これらはマジンガーZの現役時代には苦戦もさせられたが、マジンカイザー相手では初期の機械獣と最終形態のマジンガーZ以上の戦力差があった。

『ハン。今更、ゴーゴン大公が持ってた機械獣を持ち出したところでよ、魔神皇帝の相手になるかってんだ』

甲児は啖呵を切る。機械獣や妖機械獣を持ち出すのは、おそらくミケーネの兵力がグレートマジンガーやゲッタードラゴンとの決戦で底をついているからだろうが、グレートマジンガーよりも遥かに強力なカイザー相手では、有象無象も同然だ。

『光子力ビーム!!』

一見して、何の変哲もない光子力ビームだが、甲児がZ神の記憶の片鱗に目覚め始めたためか、カタログスペック以上の凄まじい威力と極太い射線を見せた。戦闘獣であろうと瞬殺間違い無しの破壊力だ。

『へへーんだ、道を開けろぃ!』

TFO搭乗時の鬱憤が溜まっていたか、甲児はZ搭乗時の頃に戻ったような言動になっている。最近は科学者志望らしい知的な言動も増えていたが、周囲から不評であるので、パイロットをしている時は往時の調子に戻すことにしたらしい。

『ルストトルネード!!』

カイザーの武器は、ZEROが『超える』事に執着したほどにZとの性能差がある。機械獣を塵に返す竜巻を放ち、蹴散らす。その映像を基地で見ている菅野達は圧倒される。

「すんげー!機械獣が流れ作業みてーに蹴散らされてくぜ!」

「嘘だろ!真ゲッターだけじゃないのかよ、こんな破壊力持ってるの!?ありえねーって!」

「これが23世紀の連中の絶対的切り札……!?」

マジンカイザーをよく知る菅野は大はしゃぎ、そうでない者は驚くだけである。だが、マジンカイザーだけが切り札でなく、当時、ガトランティス戦役で失われた波動エンジン搭載戦艦の配備数が回復し、三桁に到達間近になっていた。35隻の状態で白色彗星帝国の艦隊を全滅に追いやったので、波動エンジン搭載戦艦の威力は核融合炉搭載戦艦の10倍以上の戦力価値があるとされる。あくまでカタログスペックでだが、ヤマトを凌ぐ次世代艦が続々と竣工したからだ。そこへ、ガイアの古代進がアンドロメダ級の存在を自分達の地球での『前衛武装宇宙艦』基準で判断した上で、『忌むべき代物』と持論を展開した事で、アースフリートは予定を早め、後にブルーノアと呼ばれる第三世代波動エンジン搭載艦の計画を大急ぎで立てる事になる。これは内政干渉に等しい行為であるので、ガイア古代は更迭も考えられたが、現地の沖田十三の裁量で『航海中の給与の40%を自主返納する』という処分で落ち着いたという。また、アースフリートとしても、ガミラス戦役からの復興時に急速に設計されたアンドロメダ級には色々とコンセプトにも無理があるとわかり、新規艦型への転換が行われ始めた事情も絡んでいた。用兵上では『着水時のトップヘビー』、『いざという時の近接対空力の決定的不足』が理由だ。アンドロメダ級はネームシップの沈没後、予定されていた最終号艦『ミューズ』(アンドロメダの12番艦。最終的に改アンドロメダ型5番艦として完成)の名を取り、ミューズ型と改定された)の完成を以て打ち止め、より完成された艦へ移行する予定であったのは造船関係者でも知る者は少ない。同艦はアンドロメダV相当へ改良の予定であり、実のところの竣工はまだだった。ミューズはデザリアム戦役時にはガイアと同じく、試験航海を控えている段階であったが、パルチザンにガイアの部品取りに使われたりし、真の意味での完成はその後にずれ込むが、ガイアへの政治的配慮で仮称『BN級戦闘空母』の計画が前倒しされたため、『アンドロメダV』としての完成は見送られたという。(ガイア古代は自分の発言がアースの軍備計画に一石を投じてしまったという、重大な事実を知ると、顔面蒼白になったと言う)

「こいつは地球滅ぼせるけど、一応はロボットだからな。ヤマトと同じエンジン持つのが量産体制にあることのほうが軍事的には意義があるぜ。スーパーロボットはワンオフだが、宇宙戦艦は量産出来るし」

「確かに、波動エンジンってのは宇宙一個分のエネルギーを引き出せるんだろー?目が回るナ」

波動エンジンはエネルギーの質でそれを上回るモノポールエンジンの発明までの数百年、地球連邦軍の主機関に君臨し続ける。地球独自の形式である『波動モノポールエンジン』の発明が波動エンジンの次世代への革新であったと、ハーロックの時代に語られるが、それは23世紀の頃では夢物語である。波動エンジンの利用の模索がなされている時代で、出力アップのためにプラズマ粒子で出力アップを狙うようになったのは、本来ならば24世紀の事である。モノポールエンジンは世界を喰らうエンジン、波動エンジンは高次元世界を汲み出すエンジン、効率で言えば波動エンジンの方が上だが、モノポールエンジンの方が干渉力が強いエネルギーが得られるため、モノポールエンジンの船は波動エンジンだけの船に強いが、地球連邦はモノポールエンジンの起動キーを作れず、波動エンジンを補助機関に格下げした上で搭載を始めていく。26世紀始めのことだ。

「それと同等レベルで語れる力を持ってるのがカイザーと真ゲッターの恐ろしいところなんだよ、エイラ」

「どういう事だ、ナオ」

「つまり、その気になればだな。欧州なんて、技の一つで吹き飛ぶんだよ」

「何せ、『神をも超え、悪魔も倒せる』がキャッチフレーズだぞ、真ゲッターとマジンカイザーは。イッル、お前も去年(44年)にストナーサンシャインを見ただろう?あれは10分の1以下のパワーで撃っている」

「嘘だろ!?」

「それで前型のゲッタードラゴンが比較にもならないパワーを持つ。ドラゴンのシャインスパークの暴発で『モンブランが同じ深さの谷になる』から、ストナーサンシャインはそれをも遥かに超える威力だ。マジンカイザーの最大技『カイザーノヴァ』も同等の破壊力だ」

「おいおいおい、非現実的だゾ、ねーちゃん!」

「それがスーパーロボットにある『階層』だ。神を超えるか否か。だから、グレートマジンガーやゲッタードラゴンくらいのマシンが量産に入るって事になるんだよ」

訓練すれば誰でも扱えるという限界点がゲッタードラゴンとグレートマジンガーの水準で、真ゲッターやマジンカイザー級は事実上の専用機である。そのため、一文字號達は適性も然ることながら、真ゲッターに耐えられる稀有な逸材とされている。

「スーパーロボットの定義ぃ? んなもん神の使いと戦える力が有るか否かだろ。 エースの乗ったMSも入るけどな」

「あ、黒江さん。あんたどこから通信してんの?」

「今、グラマンやシコルスキーと絶賛、ドッグファイト中だぞ」

「あ、やっぱり。しかも実機でしょ、その音」

「お前らと違って、私ゃ舟型で訓練してた最後らへんの世代だぞ?実機で戦うくらいで驚くなって、イッルに言っとけ、菅野」

黒江は実機でドッグファイトしながら、呑気に会話を楽しんでいた。マルチタスクの賜物で、五式戦闘機を巧みに操り、義勇兵らと共に、実戦経験のないリベリオン海軍や海兵隊を圧倒する。『飛燕の機体に空冷エンジンを場繋ぎでくっつけたら、原型機やキ84を駆逐するほどの出来になった』というのがウィッチ世界でのキ100だ。これは良好な燃料と整備性と、重戦に慣れない扶桑軍のパイロット達の特性にバッチリ合致したという幸運、21/23世紀世界の後押しもあり、キ100は隼の後継機として多く生産されたが、同時にコンペでの競合機種のキ99の技師やパイロットを大いに憤激させ、『衝撃降下90°』となるのだ。

「アンタくらいですよ。実機で実戦しながらお喋りかませるの」

「マルチタスク覚えとけ。必要だぞ、これから」

黒江は喋りながらもトリガーを引き、敵機を空の塵に変えていく。なのはとフェイトから習い、数度の転生で完全にモノにしたので、ドッグファイトしながらのお喋りは余裕だ。それでいて、元来のインファイターぶりで、F6Fのフラップを吹き飛ばす、コックピットに20ミリ機関砲をぶち込むなどの離れ業を行う。

「黒江さん、念話で通信してるっしょ。息継ぎがない」

「シンフォギアを耐Gスーツの代わりにしてるけど、息継ぎがあるからなー。念話で回線につなげれば楽だ」

「アンタ、どんだけチートしてるんすか」

「いいだろー、相応に苦労して得たんだし。それも含めてマルチタスク覚えろ、Gだし、お前」

黒江はシンフォギアは偶然から得たが、コピーに持ち込むには、響達に味方するプロセスを挟む必要があったし、切歌の精神的安定のために演技をしなければならなかった。響が強引にその流れを作ったからで、小日向未来は黒江から事の次第を聞くと、響の思いは肯定しつつ、黒江への負担を考えなかったのかと、やんわりとした形でだが、叱責はしている。そのため、後で響当人が謝っている。自分の我儘で演技を強要してしまった上、そのまま学校にも通うようになったのだから。黒江は陸士と防大を優秀な成績で卒業しているため、響達と同じ高校に通う必要は無かったが、切歌に違和感を持たせないためもあり、編入学したのだ。本物の調が馴染めなかったのは、この時に黒江が好き勝手に振る舞っていたためで、クリスは『どうして、高校の先輩のあたしじゃなくて、縁もゆかりもないはずのばーちゃん(黒江)をなんで頼んだよ!』とフラストレーションを溜め込んでいる。これはクリスは『後輩』に対して、ある種の保護欲と言うべきものを持つようになり、それを拗らせていたからで、その拗らせが調に避けられた要因である。(調は黒江の因子を得た事で、のび太のような『自然な優しさ』に惹かれる傾向が表れ、シンフォギア世界から姿を消し、野比家に押しかけた。クリスはその点に気付いていない。また、黒江が何故、在学中に人気者だったのかも理由がつかめていない。そこがクリスの『若さ』だった。)

「そう言えば、アンタ。一年は高校生したんだって?」

「やらされたんだよ。調の故郷で最初に遭遇した戦をサジタリアスで止めたら、ほとんど強要みたいな形で押し切られた」

「話は聞いたけど、アンタにしては珍しいッスね」

「響みたいな感情的になるの苦手なんだよ。しかも、話をしようとしても、人の触れられたくない点をピンポイントで踏み抜く悪癖持ってるからな、あのガキ」

「調もそこは嫌ってたな。お礼参りに、龍王破山剣・逆鱗断でもしようかって言ってますよ」

「ライジングメテオにしておけと言っとけ」

立花響は悪癖として、人の地雷をピンポイントで踏み抜くという点がある。調も転移前に体験しているためか、お礼参りを考えていた。そのため、黒江は『響を足技で圧倒すべき』との指示を菅野を通して出したのだった。(これはパンチ系は自分がしているからだ)

「足技っすか?」

「パンチ系は、私がいた時にさんざやりまくったからな。流星拳をハイパーソニックに瞬間的に加速させたら、あいつも防御もできなかったけど、ライトニングボルトとギアで打ち合おうとした時は正気を疑ったぜ」

響は自身が聖遺物と融合していた時期は、黒江のエクスカリバーのエネルギーを受け流そうとしたし、味方になった後の模擬戦でライトニングボルトと打ち合おうとする無謀さを見せた。

「今なら、アイツは聖闘士はパンチって思い込んでるだろうから足技責めは面白いように決まるぜ?調が帰ってきたら言っとけ」

「いや、それがバダンの本隊と戦闘中ですぜ」

「何?」

「ライダーや戦隊、宇宙刑事も勢揃いの美味しい場面ですぜ」

「あー!ちくしょう!ここを早く終わらせたら向かうと伝えろ!」

「いいんすか?元の姿に戻らなくて」

「面倒いからそのまま参戦する〜!」

黒江はヒーローが絡むと、前史での二重人格の裏人格『あーや』の名残りが顔を覗かせる。二度目の転生で融合したと思いきや、あーやの天真爛漫さは消えておらず、所々で子供っぽいのはその名残りでもある。圭子が『銃撃狂かつ、戦闘狂』になったのに比べれば可愛い変化だとは、赤松の談。圭子は『ぎょーぎのいいお母さんキャラはうんざりなんだよ!』と言い、扶桑海事変当時から、仲間内ではトゥーハンドぶりを隠さず、江藤に『人間砲弾』と称される戦闘狂となったので、ちょうどその対比にもなると赤松は言う。圭子はトゥーハンドの性格がおそらくは地であったのだろう。実際、現役時代は転生前から血気盛んだったので、その面を無理に押さえ込んでいた理性が数度の転生で吹き飛んだのだろうとも言っている。赤松はこの変化を楽しんでおり、クーデター鎮圧時に圭子が粗野な口調をしている事に当時の江藤や未覚醒だった武子が驚いたのを、取り繕ってやったという事で、圭子に恩を売ってもいる。

「あんたら、キャラ安定しねーな」

「智子が一番変化ないからな。あいつ、美琴と同じタイプだから、美琴とメル友らしーしよ」

「ケイさんは今回はトゥーハンドだし、よく真美さんはついていけたもんだ」

「あいつは元から、ケイのファンなんだよ」

圭子が地を出しても、真美は『姐様、最高です!!』と感激し、圭子の腹心であり続けた。子爵家で育っているので、圭子の粗野さに憧れていたと、覚醒後に告白している他、圭子もマルセイユは脅していたが、真美には強く当たらず、マルセイユもその点から、面倒事は黒田か真美を通していたのである。今回は以前とマルセイユと圭子の関係に変化が生じたが、圭子の変貌が激しかったせいでもあった。





――扶桑がこの作戦で苦労を強いられたのが、『将校だろうがなんだろうが、前線で戦って死ぬまで、兵と苦楽を共にしろ!』という発想で、太平洋戦争での将校達のイメージからの圧力が元・一兵卒などの層からかけられ、マスコミもそれをソースに批判をした事から、上級、下級将校を問わず、戦線の前線で戦うことを強いられた。これに自衛隊が困った。何せ、将官/佐官級であろうが、前線で戦う事を強いられたので、大規模な作戦会議が中々、開けなかったのだ。そのため、未来世界の戦力はその時間の確保のためもあり、大いに活用されている。この傾向は太平洋戦争になっても根本的には改善されず、歴史上で言うと、23世紀の『前線で戦った経験がある者が尊敬される』思考への伏線となる。要は、将校は『温かい部屋で兵隊の苦労を知らずにふんぞり返るだけ』と批判されたので、ウィッチかそうでないを問わず、戦線を駈けずり回る羽目となっていた。これは日本軍の大本営の将校達が『前線の労苦を知らない』という意味合いではあったが、戦国時代でもなく、ナポレオンの時代でもないのに、将校が前線の指揮を取るのは、ミノフスキー粒子の時代でもないので、無茶も良いところだった――


――2018年の日本の国会――

「貴方方の無知からの注文が扶桑軍を振り回しているのがわからないのですか?将校が前線で戦う事は、通信手段が全くないか高度に発達した場合にしか成立しないものなのです」

ある防衛閥の議員が日本の国会で問題提起する。ダイ・アナザー・デイ作戦で扶桑軍の将官までもが戦線に立っているのは、21世紀以降の軍事学的には信じられない状況であるからだ。

「そして高級将校は直接の戦闘のスキルより状況判断や作戦立案力が求められる物で、戦場に立つことが偉い訳では無いのです」

「日露戦争の東郷平八郎元帥は前線で戦ったぞ!」

「日露戦争と太平洋戦争の時代では、まるで通信技術が違います。現に、米軍のチェスター・ニミッツ元帥は後方で指揮を取っていました。通信手段さえ確立すれば、司令部は後方で充分なのです。連合艦隊司令部が日吉に引っ越したのもそのためですよ。戦術や戦略はその時々の条件でいくらでも変わるのです、現状に即した指揮統制の方法を取らなければ烏合の衆の出現です、今の自衛隊で統合幕僚長が前線に立つ必要が有りますか?そういうことです。貴方方のおかげで、扶桑海軍は小沢治三郎閣下自らが旗艦に座乗する羽目になっているし、エルヴィン・ロンメル元帥も前線で指揮を取っています。強いて言うなら、あなた方の言い分は自衛隊の行動に置いては、総理大臣に現場で働けと言うようなものです!」

これで議場は静まり返る。事の重大さを悟ったからだ。出世しても前線で戦うタイプもいれば、後方で作戦立案が合うタイプもいる。日本軍で問題だったのは、敵の能力の見定めを完全に希望的観測で行っていた上、情報収集に完全に遅れを取っていた上、大本営参謀の多くが傲慢不遜な人物たちだったからだ。

「旧日本軍と扶桑軍は似て非なる軍隊です。機甲戦力も当時の水準では低くなく、フランス軍よりよほど質が高い軍隊です。相手はいくら米軍の同位軍とは言え、第二次世界大戦型の装備が大半ですよ?1950年代相当の装備で優勢を保てるくらいのレベルです」

彼はこうも付け加える。第二次世界大戦型装備の軍隊は朝鮮戦争直後の水準の装備に劣ると。実際、いくら米軍といえど、戦車駆逐車なども使用している第二次世界大戦当時の水準のドクトリンの軍隊では、MBTなどを持ち、戦訓で洗練された朝鮮戦争以後の時代のドクトリンには太刀打ちできない。74式戦車、いや、最終形態の61式戦車であれば、M26パーシングすらアウトレンジ攻撃で殲滅可能だからである。



「敵の戦車はM4中戦車への切り替えが終わったばかり、M26やM46の配備には戦車駆逐大隊との兼ね合いで消極的、一部はM3中戦車も残っているのですよ。戦車駆逐車は装甲が薄い。我が方の74式でははっきり言ってオーバーキルです」

「かと言って、旧日本軍の戦車は米軍の軽戦車にすら…」

「それは我々の過去での事でしょう?扶桑では、M4中戦車に比肩する四式中戦車『チト』、五式中戦車『チリ』が量産されていたのですよ?」

史実では終戦に間に合わなかったはずの中戦車が、扶桑では量産されていた事を示す彼。扶桑はブリタニアの技術が定期的に流れるため、戦車の技術レベルは扶桑海事変でのチハの無力さの教訓から、重点的に強化されていたのだ。

「旧日本軍の秘密兵器とされたこの両車種は、M4中戦車と互角に戦闘可能とされる、日本陸軍では最強の中戦車です。貴方方が官僚に言って止めさせたラインには、この両車種も含まれているのですよ?M4中戦車を過大評価していますし、旧日本軍の秘密兵器のこれらを過小評価しています」


――地球連邦軍のテコ入れで戦後型への切り替えが促進されたものの、一両あたりの単価が高価であり、チヌ以前のような短期間での大量配備は不可能であった。扶桑軍はそれら『ハイ』をカバーする『ロー』相当に四式か五式を望んでいたのだ。それは後日、四式の改良型となるが、砲塔バスケットの採用や90ミリ砲の装備など、本来のチトとは規格が異なる車両になってしまった。それは後の太平洋戦争で、備蓄していた砲弾の処理も兼ね、A-4ストライカー及び、四式装甲ストライカーの配備成功とともにウィッチ用の破砕砲に転用される。

「戦前の日本/扶桑の戦車戦闘教義は『九五式軽戦車こそが主力であり、九七式中戦車はそれを補完する存在』でしたが、扶桑は、大陸領の多くを失陥した1937年の戦役で、対戦車戦闘能力が高ければ、怪異に対応出来ることを悟ったのです。その研究の成果がチトとチリなのですよ!」

彼の熱弁で、日本の国家議員達は、事の重大さを悟った。異常な戦中兵器の対米コンプレックスで生産中止にさせた中には、『比肩するだけの力を持つ存在』がいた事を知り、青ざめた背広組寄りの議員もいる。戦車回収車などの機材も合わせて生産の開始される事となり、機甲戦力は概ね、1940年代の水準からは二歩も先んじる能力を得た。ダイ・アナザー・デイでも活躍している第一、第二戦車師団の使用車両は、作戦の時期はM動乱の直後でもあるため、まだ五式改(後期型で、実質、装甲強化型61式)であったが、それでもM4や戦車駆逐車などに圧倒的優位を見せていた。









――戦場では、自衛隊の教導を受けた第一、第二戦車師団が獅子奮迅の活躍を繰り広げており、ブリキと豆鉄砲と揶揄された戦前戦中日本の雪辱を晴らすかのような蹂躙ぶりだった。特に、自衛隊が厚意で提供した『99式自走155mmりゅう弾砲』の威力は戦中型装甲戦闘車両にとっては『見えない悪魔』でしかなく、M4しかない戦車大隊などはアウトレンジ攻撃で擱座、あるいは戦闘不能にされる車両が続出した。それを潜り抜けても、待ち伏せからの長砲身90ミリ砲が雨あられと浴びせられるのである。しかも、戦後型90ミリ砲はM4A3E2(ジャンボと呼ばれた装甲強化型)の正面装甲すらも遠距離で撃ち抜く。そのビジュアルが煽る恐怖心は凄まじものがあり、多くのリベリオン兵がシェルショックに罹患する。その様子を空戦を終え、帰投中の黒江は目撃する。

「陸自の連中が教導しただけあって、すげえ精度。ロンメルのおっちゃんが、うちにも教えてとか言うはずだ。特科の連中は頭オカシイ練度だし、ウチの第一、第二戦車師団の支援にはうってつけだな」

黒江の目の前で、MCV(92式地雷原処理車)の車列がロケット弾を発射する。ロケット弾から放たれた爆薬が縦一列に地雷原上に落下し、キロ単位の長さで爆発を引き起こす。心理的効果は絶大だろう。

「うおおおお、MCVを心理的圧力に使いやがった!?やっぱ特科は頭オカシー!」

ロマーニャ軍が戦前期に地雷を設置したと言っていた地帯を利用したのである。黒江も帰投中の機体ながら、余っていた『12.7mm機関砲』の弾の消費も兼ねて、数回の機銃掃射を行う。これでリベリオン戦車大隊と随伴歩兵部隊は四散した。イタリア半島は防御側に優位な地形であるので、自衛隊の長年磨いた待ち伏せ戦術は特に効果的であった。

「こちらミスティ。燃料がギリギリなので、基地に帰投する。特科の連中に伝言を頼む。頭オカシイってな」

「了解、ミスティ。統括官、わざわざキ100を引っ張って空戦したんですか?」

「84は初期不良に当たってから嫌いなんだよ。それに、わざわざってほど弾数少なくもないしな、コイツ(キ100)は。84は機銃の装弾数が370発しかねぇから遊べねぇが、こいつなら、弾数が増えてるしな」

ウィッチ世界での疾風がイマイチであった理由に、日本軍のそれより機銃の装弾数が半分以下という弱点があったのだ。これは携行弾数の多さが重視されず、『ウィッチの補助になれば良い』とするドクトリンが理由で、そこがテコ入れ後に設計された実機の紫電改、烈風への劣位となってしまった。これは長島飛行機の大誤算であり、新たに出現したキ100に主力戦闘機の座を掠め取られてしまう一番の理由となった。後期生産型となる予定のキ117の計画を再策定し、紫電改や烈風と同等以上の携行弾数と、より大馬力のハ44に換装した改良型となったが、試作機のロールアウトの頃には、次世代のジェット機が主力戦闘機になりつつあり、色褪せた存在とされた。だが老朽化したキ44の代替的意味での需要はあり、欧米各社の同クラスエンジンに対応するオプションを揃え、供与やレンドリースに対応する機体でどうにか生き残る。史実の因果はやはり、疾風を違う形で苦しめたのであった。供与を受けた機体の中には、亡命リベリオンに供与され、現地で機銃をM2HMGに換装したタイプがF6Fの穴埋め的に使われたケースもあったという。


――こうして、地上の自衛隊特科の者たちに伝言を残し、基地へ戻る黒江。現在、黒江は派遣された三自衛隊の指揮権を握る立場にある。空自や海自が組織の構成や政治的理由で小兵力な中、学園都市のおかげで脅威が減った陸自は虎の子の第7師団をダイ・アナザー・デイ作戦の援助で送り込んだが、この成果は自衛隊の練度の良いアピールになる。黒江は統括官としての職権を使い、第一、第二戦車師団の支援に特科をつけたのだが、予想通りの成果であるので、財務省を納得させられるとご満悦だった。基地の自室のデスクには、シャーリーのルートで上がっている、キ84のレンドリース、あるいは供与の要請の書類が置かれている。これはF6Fの持ち込めた数がそれほど多くなく、扶桑軍の機体で同世代の機体を欲しがる空軍上層部がシャーリーに命じて、黒江に渡したのだ。他にもルートはいくらでもあるが、黒江と親しいという理由でシャーリーが仲介人に選定されたので、シャーリーも苦笑いであった。基地に戻ると、甲児がカイザーで颯爽と発進していった事を正式に知らされ、自身は調の容姿と、シュルシャガナを展開したまま、腹心の菅野、西沢を引き連れて戦場へ向かう。

「義母さん」

「翼か。何があった?」

「鏡面世界への出入り口の一つがミケーネ帝国の残党に占拠された!そっちに機械獣の群れが向かってる!」

「クソ、バダンめ!ブロッケン伯爵のルートでミケーネ帝国に増援頼んでたのか!」

聖衣を貸し与えている、未来から呼び寄せた自分の義理の娘『翼』(血縁関係は大姪)から重大な凶報を知らされる黒江。その内の一団が飛来し、黒江達の前に姿を現す。

「ガラダK7!それとダブラスM2!量産されてたのか!サイズ的に、シンフォギアじゃ相手はキツイぜ…!」

機械獣の出現に困ったところに射手座の聖衣が飛来し、シンフォギアが聖衣の意思で解除され、射手座の聖衣が装着される。それと同時にZ神からのテレパシーも受け取る。

「……なるほどな。そういうわけか、Z神、いや、甲児!お前の意思は受け取ったぁ!」

シンフォギアが解除されたのは、聖衣に宿る歴代の射手座の黄金聖闘士の意思がシンフォギアに干渉したためである。この方が黒江にとっては真価を発揮できる。

厳霊乃焔(ライトニングフレイム)!!』

炎を纏うライトニングプラズマ。アーク放電を纏った上での最強のライトニングプラズマである。シンフォギアを纏った状態では放てない技である。これは超光速拳でもあるので、機械獣のスーパー鋼鉄も意味をなさない。塵となるだけだ。

厳霊乃極(ライトニングテリオス)!!』

ダブラスには、ライトニングボルトの究極形をお見舞する。もはやGウィッチなどでなければ視認不可能な業である。黒江は雷系の魔法に覚めていたという相性の良さもあり、この境地に達した。叩き込む雷撃を極限まで爆縮し、相手の体内に直接叩き込むのがライトニングテリオスの概要であり、もはや対神級の技である。機械獣相手でもお釣りが来まくる勢いだ。一撃殲滅、と言った勢いだ。

「うへぇ。智子の姉御よりすげえや」

「あいつはまだ、この境地には達してないからな。私は転生してからは雷系の固有魔法も持ってたから、それで達した境地だ。聖剣を温存するにはうってつけだな」

西沢に言う。確かに智子もライトニングプラズマを習得したが、まだまだ精度が甘い。自分はそれを究極に極めたと自慢する。ある意味ではグレートマジンガーなどへの憧れが、転生後に具現化したのだろう。こういう面は一途なので、鉄也も可愛がっているのだ。

「また来ましたぜ!」

「よし、これだ!ケイロンズライトインパルス!!」

拳を突き上げて旋風を起こし、機械獣を巻き上げ、粉砕する。この技は汎用性があるため、フェイトも調も、箒も会得している。黒江のそれはエクスカリバーの関係で、一番に威力がある。

「よし、みんなのところに行くぞ!」

射手座の黄金聖衣を受け取り、子分たちを引き連れて最前線へ向かう黒江。そこでは、のび太がヒーロー達に見劣りしないガンプレイを披露し、調が『かっこいい……』と見惚れ、切歌とクリスが切歯扼腕していたりするが、それをまだ黒江は知らない。



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