外伝その172『戦況報告2』


――ダイ・アナザー・デイの戦況から判明したのは、レシプロ戦闘機の時代に非ずという結果を示すデータであった。そのことも、芳佳が別の世界で愛機とした『震電』が採用されたものの、実質は死蔵された理由であった。実際、日本連邦化した後は、未来技術がどっとなだれ込んだため、旧来技術の魅力が低下していたのだ。それは扶桑の航空行政を凄まじく混乱させ、海軍の試作機『橘花』が戦闘機への転用が強要(要請だが、事実上は強要に近い)された結果、その段階で開発が打ち切られ、『劣化Me262』と酷評されてしまうに至るし、それよりはマシな性能であった陸軍の『火龍』も機体設計の限界から、開発が打ち切られ、F-86のライセンス生産に精力が注がれた。これへの反発がクーデターへの序曲となった。要は『自分達の技術は外国に劣る二流のものと言うのか!』である。これはウィッチに多く、花という名を与えた由来まで『花と散る』と断じられた事への反発でもあり、扶桑が震電改二に多大な予算を費やす理由ともなる。この時に起こったのが、将来を悲観したウィッチによる機材焼却事件で、震電はその被害を被り、軍は筑柴飛行機へ多大な賠償金を支払った他、失われたマ43ル特関連は宮菱重工業へ賠償金が支払われ、旭光の生産ラインを優先的に同社へ割り振ることで賠償がなされた。この事件に関わった若手ウィッチ達の多くは責任を問われ、軍を追われたし、それを止めなかったとされた中堅以上のウィッチの多くも減俸処分がなされた。震電は失われ、その事件を知った一部の背広組によって、ウィッチへ私的制裁がなされたという情報もあり、焼却した関係者の逮捕に動いている(1946年次の報告より)――





――1945年。ダイ・アナザー・デイ作戦で実際に、レシプロ機の群れをジェット機/ジェットストライカーが蹴散らす光景が当たり前に見られ、次の時代の訪れを誰もが実感していた。二代目レイブンズが持ち込み、実際に戦ってみせたため、こういう光景も起こっていた――

「レイコ、ツバサ!こいつら全員生かして返すなよ!」

「了解!」

ハルトマンが率いているのは、二代目レイブンズの穴拭麗子と黒江翼である。実のところ、容姿がほぼ瓜二つなので、綾香と智子の撃墜スコアには、二代目が腕試しで挙げたスコアも複数入っていると言える。二代目は先代と違い、ジェット時代の生え抜きウィッチであるため、この時代のウィッチの常識を覆す機動を行う。

「何っ!?バカな、あんな高速でこの旋回率だと!?」

敵側のウィッチは見慣れないジェットストライカーを履くウィッチの動きが洗練されている事に気づき、驚く。ハルトマンと二代目レイブンズの二人が履いているF-104は45年当時に試作段階にあったジェットストライカーより世代が進んだ小型軽量のジェットであり、しかも戦技研究が究極の粋に達した扶桑仕様であるので、フラップモードにも工夫が施されており、そのこともあり、元々の原型機を造る自由リベリオン顔負けの制空権確保運用がなされた。

「おおおっ!」

三人は敵のウィッチのストライカーユニットの呪符ペラ発生部の片側をすれ違いざまに刀で斬り裂き、撃墜する一撃離脱戦法を用いて戦果を挙げていく。そして、二代目レイブンズの麗子と翼特有の技能として、『お互いにシンクロした動きが取れる』という、『カップリングモード』とも言うべき境地を持っており、その際の戦闘力は当代最強を謳われている。1945年当時では桁違いと言える、F-104の速力もあり、一撃離脱を可能としていた。格闘技能がない欧州系ウィッチでは、これに対応すらできないため、効果的な戦法であった。

「さすが、ハルトマンのおばさま。私達の動きに合わせられるとは」

「伊達に、当代最強の一角を担ってないよ。それに、こいつをカールスラントで育てたのは、あたしだよ、レイコ」


ハルトマンは二代目レイブンズには年長をアピールしつつ、戦後の経歴も自慢する。鬼教官ではあったが、カールスラントでのF-104の第一人者はハルトマンなのだ。飛天御剣流に開眼していることもあり、二代目と比べてもまだ強いと自負している。

「あたしらに対抗したけりゃ、扶桑系ウィッチでも連れて来な!」

ハルトマンはそう叫びつつ、黒江と智子の後継者たちを率いて先陣を切る。精神が大人になっている分、荒々しさが目立っている。そのため、その模様をタブレットで見ていた休暇中のバルクホルンは事情説明のため、ヒスパニア戦線にいた元・JG52時代の同僚であったヨハンナ・ウィーゼと再会していた。



――ヒスパニア――

「久しぶりだな、ヨハンナ」

「トゥルーデ……」

「休暇がてらに説明しに来た。元・JG52の皆の戦果が向こうの世界の連中に『個人履歴を粉飾するために、集団的に嘘を作っている』と言われてるんでな」

「それは向こうの世界での事でしょう?」

「しかし、色眼鏡で見られる以上はそれへの対応もせねばならんのだ、ヨハンナ。私達の殆どが501に集められたのは、そういう事だ」

ヨハンナ・ウィーゼと再会したバルクホルンは、以前より温厚な態度で接していた。また、落ち着いた雰囲気を醸し出していることもあり、以前の冷徹な軍人ぶっているが、どこか情緒不安定気味のバルクホルンとは別人のような温厚さに、驚きの顔のヨハンナ。

「貴方、なんだが変わったわね」

「むしろ、これが本当の私だよ、ヨハンナ。クリスが覚醒めたおかげで、私は私を取り戻したのさ。我々の敵はマスメディアでもある。戦果にケチがついたからこそ、私達は再結集したんだ」

「マスメディア?」

「向こうのマスメディアは我々の戦果を『粉飾してる』とケチを付けるからな。その分、認定戦果も減ったから、今はレイブンズが世界トップ3を締めているはずだ」

この時点での撃墜数トップ3はカールスラント勢の戦果がドイツ連邦の介入により、数十単位で差っ引かれてしまったため、相対的にレイブンズが撃墜数トップ3を占めるに至っている。レイブンズが大増量され、カールスラント四強が差っ引かれたからだが、それでもルーデルがなおも世界四位に食い込んでいるのは流石である。そのため、カールスラント勢は撃墜数認定が大きく下がったが、作戦による戦果でトントンというところか。

「あのレイブンズを、ミーナが知らないというのも、意外な話ね。私達の上の世代の間じゃ、伝説めいて語られてたというのに」

「仕方がない。私達と違って、あいつは戦時の志願で先輩方と接する機会も少なかった。それもレイブンズの伝説を知らなかった理由だろうな」

「約束された勝利の剣。私の従姉妹が事変の観戦武官の一人だったから聞いたわ。あの力はウィッチとは異質のもの。それはウィッチの摂理を超えた『英霊』が成し得るもの。従姉妹はそう言っていたわ。あの方達はウィッチを縛ってきた摂理を超えた存在、そうなんでしょう、トゥルーデ」

「気づいていたのか、ヨハンナ」

「ミーナは感情的になりすぎる嫌いがあるから、当時の機密書類を調べなかったんでしょうね。そうでないと、二回も査問されるわけがないわ」

「江藤参謀が差っ引いたスコアのせいでもあったがな。全く、あの方は厄介な事をしてくれたものだよ」

「あの参謀は親心はあったけれど、スコアを正確にしないと、舐められる時代が来るとは読めなかった。そういう点で典型的な戦間期世代よ。フーベルタが公言した通り、撃墜数が正義の時代だもの、今は。レイブンズへの嫉妬と見られても仕方がないわ」

ヨハンナ・ウィーゼは江藤の考えをそう評し、時代の変化についていけてない人間だと断言した。こういうところは辛辣らしい。実際、本当なら崇敬されるべきレイブンズが冷遇された時代がある事を『くだらない嫉妬』と断じ、当時の扶桑航空関係者を『見る目がない』と酷評した。その事が現在のレイブンズのプロパガンダに繋がっている。『他国で英雄視されたから、慌てて、自国での扱いを良くする』。たいていの世界での『杉浦千畝』外交官の死後の名誉回復と実に似た持ち上げぶりである。

「扶桑も、私達が崇敬してるからって、急に待遇を良くするだなんて。場当たり的対応にすぎるわ。それじゃ、若い子たちの反発を招くだけよ。本当に間の抜けた対応ね」

「扶桑には我々と違い、出る杭は打たれるという言葉があるからな。それもあって、彼女らは冷遇されたが、今また、往時に待遇が戻った。人間不信になるレベルだよ、あれは」

バルクホルンが言うように、扶桑は出る杭は打たれるの言葉通り、突出した力を持つレイブンズを冷遇したが、他国での畏敬に驚き、大慌てで待遇を改善したら、今度は世代間闘争になってしまう悪循環に陥り、それがこの後の騒乱の主因となる。実際、黒江と志賀の喧嘩もそれが原因の一つであり、以後、扶桑で大戦参戦世代が長年に渡り、軍部で絶大な権力を奮うこととなったのは、この大戦前の騒乱に範を発するのだ。

「でしょうね。扶桑の人たちは現金なものね」

「勝てば官軍負ければ賊軍って言葉もあるからな。だからこそ、扶桑でクーデターが起こるんだ。クーデターは短期間に鎮圧されるだろうが、日本からそれを理由にかなり横槍は入るだろう。近衛師団の解体はあり得る」

「近衛師団って、先方に危険視されてるって聞いたけど」

「うむ。宮城事件というクーデター未遂事件のおかげで、近衛師団と、幼年学校卒青年将校を一掃しようとする動きがあってな。幼年学校を廃止なんてしてみろ、大パニックは目に見えてる。しかし、連中は目先の利益しか見えてないのさ」

当時、陸軍幼年学校には48期と49期学生が在籍しており、二期合わせて600人もいた。その600人に卒業資格も与えずに放逐し、代替学校への入学資格無し、学費の支払いを催促するのは無理である。また、代替教育機関に家庭の事情で入れない農家の出の者も多いので、結局、高等工科学校生徒制度へ改編し、幼年学校在籍生は優先して入学できるとする方法で救済措置が取られた。更にそこから特技学校に分かれ、退役時に大佐を約束する学校を設けることで、幼年学校生徒の故郷の親達の不満を抑えたという。

「どうするの?」

「既に、源田実参謀が動いている。幼年学校は特技学校や高等工科学校生徒にして、日本側を納得させる案が内定しているそうだ。ただ、日本側が14歳以下を軍籍から外すことに拘ってるから、揉めているらしい」

「どうして?」

「ジュネーブ条約がどうの、だよ。あれはウィッチにとっては意味がないんだがな。なので、私達は同位国の首脳には『転生した人間』という事は伝えてある」

「やはり、貴方は転生していたのね」

「すまんな、ヨハンナ。お前には言うべきだったんだろうが、完全に覚醒したのが501着任の時くらいでな」

「貴方はどのくらい生きたの」

「1990年代くらいまで生きたよ。晩年は甥っ子の起こした自動車事故で足の自由を半ば失ったがな」

バルクホルンは落ち着いた、それでいて優しい語り口でヨハンナに語った。自分がGウィッチであると。親友であるからこそ、種明かしをしたのだろう。

「今の私はもう、年も取らなければ、死ぬこともない『人を超えた存在』だ。いずれは故郷とも別れなくてはならん身だ。ヨハンナ、私をバケモノと拒絶してもいいのだぞ?」

「トゥルーデ、貴方は貴方よ。たとえ、不死の存在になっても、貴方である事は誰にも否定できないじゃない。神の使徒なんでしよ、いじけたこと言わないで!」

「すまんな、歳をとったせいか、弱気になっていたようだ」

「レイブンズもその苦しみに悶えたはずよ。愛する人達と別れる記憶を引き継いで転生して、それでも友達として接してくれる人物にすがりたい。それは不死になっても変わらないと思うわ」

ヨハンナは欧州人にしては珍しく、不死の存在を受け入れられる精神性を持っていた。レイブンズでさえ、扶桑軍内で相当に迫害を受けていたのに比べれば、バルクホルンは恵まれていた。黒江がドラえもん達の友情を求め、転生のたびに関係を持つ理由もそこにある。レイブンズへの陰口の中には、『あいつらの誇りは気高いが、それは過剰になれば、ただの傲慢でしかない。それは忌々しいだけだ!』とする辛辣なものもある。黒江はそれに酷く傷つき、今回においては『子供っぽい』側面が強まっている。(声が調とほぼ同一のハイトーンになるなど)つまり、黒江はドラえもんとのび太の友情にすがりたいのだ。大人としての体裁をかなぐり捨ててでも。ドラえもんとのび太の気高いまでの友情は、いつしか黒江の精神安定剤代わりになっていたのだ。それを知っていたのび太は自らの子孫達にサポートをさせる遺訓を遺したのだ。のび太は生涯、Gウィッチの理解者であり続けた。特異点である自分の役目である以上に、『友として』。亡くなる際、泣きじゃくる黒江と調に少年時代と変わらぬ微笑みを見せ、壮年になったノビスケと、青年になったその子に遺訓を遺し、安らかに逝った。その遺訓は曾孫ののび三、玄孫のセワシ、そして23世紀初頭の時点の次期当主『のび一』へと引き継がれている。野比家は家訓を忠実に守る家系であるので、23世紀の野比家もそれを守り、青年のび太やドラえもんの情報源となっている。

――因みに、亡くなる際に言い残した遺訓の内容は『世は相身互い、友達の助けに身を惜しむな。助けは有り難く受け返せるときに目一杯返せ。黒江さんやケイさん、智子さん達との縁は大事にな、助けられたし、助けてあげられるのは僕の血筋だけみたいだから。僕は人の身で他人の数倍の経験をしてるけど、グランウィッチの皆はもっと長い経験で苦しんだりしているはずだから、訪ねてきたら僕の家族として暖かく迎えてあげてほしい…』というモノで、のび太らしい内容である。これに反発して家を飛び出したのがセワシの次男だが、家庭を持ったことで、セワシと和解しようとした矢先に一家ごとブリティッシュ作戦の戦火に倒れた。それがセワシの老年期に襲いかかった悲劇であった――

「だろうな。それがのび太やドラえもんにすがる気持ちなんだろうな。ドラえもんとのび太達は特異点と言うべき存在で、改変前の記憶を持っている、仮面ライダー達以外での珍しいケースだ。それものび太の家に休暇中に入り浸る理由だろうな」

「そうよ。人は例え、不死になろうとも、仲間がいないと生きていられないもの」

ヨハンナはこういう点では、欧州人よりも21世紀の日本人に近い倫理観を持っているらしい柔軟さを持っていた。それもバルクホルンには安堵できる理由となった。レイブンズの境遇にも理解を示し、バルクホルンの親友の一人である面目躍如を見せた。

「私もあなた達の501に合流するわ。JG52の戦果が疑問視されてるなら、私がいないと完全じゃないでしょ?フーベルタが着任したのなら…」

「ありがたい!」

「扶桑の64Fのことは閣下から聞いてるわ。なら、カールスラント最強を誇ったJG52をJV44として復活させましょう」

ヨハンナはこの後、501にルーデルの秘書という名目で赴任。結果的に501を人員的意味で空前絶後の豪華さに引き上げた。これは扶桑が赤松とレイブンズを送り込んだ事へのカウンター狙いのカールスラント空軍の思惑が働いたからだが、当時世界トップ級が一箇所に集められたことで、同位国の数々にウィッチの存在意義を示すための道具として侮蔑する動きもあったが、当時の世界情勢では、軍ウィッチそのものの前途が危ぶまれたため、こうした超豪華な編成はむしろ歓迎された。ダイ・アナザー・デイで集められしカールスラント出身メンバーはそのまま太平洋戦線にNGOという隠れ蓑を使って従軍、64Fの一部に組み込まれ、太平洋戦争を支えていく。それはカールスラントが、未来世界で暗躍し、仮面ライダーらを生み出した『バダン』という自分たちの鏡に映った姿、あり得た可能性とと言える巨悪に対する自らの意思を示し、カールスラントは『ナチスのような存在には敢然と立ち向かう』とする、ナチスによって否定されし『プロイセン王国〜ドイツ帝国』の流れをそのまま維持した者としての意地を、ナチスに見せるとする、騎士道精神を持つプロイセンの正統な末裔として見せようとしたのかも知れない。史実では僅か三代で潰えた『ドイツ帝国』。その光芒が維持されし世界。ドイツ連邦は当初、カールスラントの共和制化を目論んだものの、『帝国』でなければ、亡命政府の秩序が維持できない事を知ると、資金援助や技術援助に乗り出し、ドイツ国家の維持を助ける方法に転換。国民も『ホーエンツォレルン朝なら、ナチスよりは遥かにマシだろう』と存在を認め、日本連邦やキングス・ユニオンよりは緩い『ドイツ領邦連邦』という、経済的・軍事的同盟が主な連邦を結成するに至り、21世紀で覇権国家であるアメリカの独走を防止する三つの防波堤としての役目を担い、統合戦争まで、その三カ国の連邦が、21世紀には形骸化しつつあった国連の存在の維持に重要な役目を果たし、日本と英国が地球連邦政府の樹立の大義名分に、国連の権威を利用するくらいには、国際連合が本来持っていた存在意義や権威は生き続けたのである。それが国際連合最後の役目であり、地球連邦政府、その改編後の地球星間連邦政府となっても、国際連盟/国際連合の組織系譜を直接・間接的に継いでいるというのは、地球人類の統治機構としての大義名分として機能するのであった。



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