外伝その173『戦況報告3』


――扶桑皇国は21世紀世界との接触により、各国の横槍が入るようになったが、国連の錦の御旗を利用することで、どうにか干渉の減少に成功していた。ウィッチ世界では、中国と朝鮮(韓国・北朝鮮)の双方は存在しない(明の時代で中国は滅亡し、李氏朝鮮も諸共に滅んだので、1945年時点では存在しない)という歴史の違いをアピールする他、大日本帝国に似ているものの、江戸時代が安土時代であり、鎖国を取っていないという歴史をアピールしなければ、日本からの強い干渉が入るからだ――


――扶桑皇国海軍 艦政本部――


「ふう。未来技術を入れることで、核兵器やビーム兵器への抗衝力を持つ事をアピールできたよ。奴ら、ハープーンは炸薬量少ないけど、600ミリを貫通できるとかいうんだもの」

「ミサイルは威力はあるが、実戦でその威力を発揮した事はないからな。特に戦艦のような重装甲の目標には」

「うむ。特に未来技術の超合金は太陽のプロミネンスにすら耐えられるように出来ているからな。それを教えてやった時の奴らの顔。マジンガーZがおもちゃに見える強度の合金で覆ってあるから、21世紀のどんな核でも無傷なんだよな」

「うむ。艦のすべてを覆ったから、核魚雷や機雷、核砲弾でも揺れる程度だ」

「そもそも、核兵器よりよほど強力な兵器がある時代の技術で改造されたんだから、この世界には核兵器にこだわる理由はないんだがね」

彼らはミサイル万能論を振りかざす21世紀へのお返しと言わんばかりに、比較にならないほど技術が発達した23世紀の技術を使用して、手持ちの新鋭戦艦を改造し、21世紀のあらゆる兵器がおもちゃに見える兵器へと変えた。それに合わせ、23世紀空母を購入したことで、日本の優位性を打ち砕いた。また、23世紀がラ號をより強力に生まれ変わらせた事実も、21世紀日本が抱いた『技術的優位』の幻想を木っ端微塵に打ち砕いた。

「23世紀の技術で改造した事が分かると、手のひら返しだからな、奴ら。波動砲やマクロスキャノンを持つ以上、反応兵器は魅力がそれほどないんだがな」

「うむ。バジュラには無効化されるしな、あれ」

扶桑は波動砲やマクロスキャノンなどの超兵器を見たおかげか、核兵器を造る興味はもはや薄れていた。当時の技術で造れるリトルボーイやファットマンはデメリットも大きく、未来から究極に進化した技術の反応弾を買うか、その基礎研究を宇宙でできるため、大気圏で核実験を行うこともない(扶桑は宇宙で核実験をしていくが、反応弾や熱核タービンへの技術的ステップ踏みのためである)。また、進化し、兵器への耐性を得るバジュラの存在と、それに似た特性の怪異を知るのもあり、フランクリン・ルーズベルトのように、核兵器に魅力は感じていない扶桑。また、マジンカイザーやマジンエンペラーG、真ゲッターロボの『神をも超え、悪魔も倒せる』力の前では、核兵器などはおもちゃに等しいことも要因だろう。

「レイブンズとクロウズのメタ情報で超爆風弾も魔導徹甲弾も意味がない兵器である事が明らかになって、開発が中止されたからな。我々は未来技術を覚えて、使いこなすようにせねばな。使いこなせれば、21世紀の兵器くらいは、ポンポン造れるようになるだろう」

「うむ。我々は21世紀よりもむしろ厳しい選抜をくぐり抜けて来たし、情熱は彼らより、よほどある。ギャフンと言わせるようにせねばな」

「我々は、数だけ多い無能ではないところを教えてやらなくてはな」

彼らは科学力が生存権の維持に直結している時代とそういう世界の人間であるため、21世紀日本より軍事研究が死ぬ気で行われている。そのため、軍事研究を忌避する21世紀日本の各大学も、そこまでの干渉は避けた(世界情勢が異なるため、大学が軍事研究をしないという事はありえない)という経緯もある。21世紀日本の自衛隊が起こした防衛不祥事が波及し、扶桑に厳格な文民統制を引く案があったが、扶桑は有事即応性が問われる軍隊である事、怪異専門部署たるMATを日本自衛隊の外局として設立させるほどであるので、これは結局、世界情勢との兼ね合いで、事後承諾が有事の際にはなされるという事項が設けられること、日本連邦軍は連邦評議会の事実上の議長である内閣総理大臣の指揮下である事が明記された(同時に特務士官の序列もはっきりと兵科将校と同等であると記された。これが反G派の士官たちのクーデターの一因であったのだが、介入した日本側によって、たとえウィッチであろうと、見せしめとして銃殺を含めた重刑罰がなされた事で、扶桑国民が萎縮したことも、扶桑がウィッチ新規志願数の不足に苦しむ要因の一つであった)ことで、とりあえずの文民統制の法制化を成したが、軍事予算削減を叫ぶ財務省を説得するのは骨である。

「軍事予算を減らされたら、陸軍が持たんぞ」

「奴さんは戦争にならんとわからんさ。南洋島の一部が占領されて、難民や避難民が出ても、本土再開発のいい労働力としてしか見ないだろうし」

「やれやれ。奴さんは東京が向こう側みたいな『摩天楼が建ち並ぶアメリカじみた街並み』にならんと、納得せん口ぶりだな」

「最低でも、東北が今の時点の三大都市圏くらいにならんと黙らないだろうな。それには数十年いるぞ」

「ドラえもんとのび太くんに頼んでのインフラ整備はそうそう使えんし、日本の資本が入りたがっているって聞いたな」

「向こうの財界は金、金、金だな」

「80年代の終りはそれで夢を謳歌したからな、向こう。だが、その夢が終われば、戦後初の世代が高齢になるにつれ、経済力は低下していった。その現実から逃れるために、我々と組んだんだそうな」

「やれやれ。安全を金で買っても、100年持たんで限界とはな」

「平和が長すぎても、人は堕落するのさ。特に、超大国の庇護下だとな」

「やれやれ。何をするにも、アメリカのご機嫌伺いか」

「それが戦争に負けた世界なんだろう。だから、やり方のほとんどはアメリカ式さ。うちの海軍も飲酒のことで揉めた挙句、結局は飲酒の許可が規制入りだが、出たそうだ」

「いきなり禁止じゃ、海軍に酒を卸してる連中の明日がお先真っ暗だしな。向こうは渋ったが、結局、現地の雇用を鑑みてという文で妥協したよ」

日本連邦軍は扶桑の雇用の兼ね合いで、飲酒はイギリス軍寄りの規則となることで落ち着いた。現地の雇用の維持もなさなければ、日本の大手酒造メーカーに駆逐されるからだ。そのため、自衛官出身者は酒を飲まず、扶桑軍人出身者は酒飲みという構図が出来上がっていくのも、この時期だ。また、シーレーン防衛のため、海防艦/駆逐艦の近代化、潜水艦隊の充実を図りたい自衛隊閥と、空母機動部隊の人的再建を目指す扶桑海軍閥との対立も生じていく。これは空母機動部隊の高額化や日本における政治的事情もあり、高額な空母機動部隊よりも、シーレーン防衛の花形である海上護衛戦力の近代化を図る海自と、洋上航空作戦能力の再建を急務とする外征海軍としての扶桑軍の違いであった。そのため、軍備整備計画の方針が決まらず、結局、海軍は自前の洋上航空作戦能力をほぼ喪失したも同然の状態で開戦を迎える事になる。そのため、予算の都合による妥協策も兼ねて、空軍に行った熟練者を空母に乗艦させる事は必然的に求められる事だった。史実ドイツ軍の失敗もあるので、乗艦時は海軍の指揮下に入る事は明記された。当時、空中勤務者の熟練者はほぼ全てが空軍に持っていかれており、601空の引き抜きは事務的に日本が推し進めたがための行き違いでもあった。この事実に窮した日本は、山本五十六の発案を嫌々ながらも受け入れ、作戦に動員できる海軍航空隊の人員を空軍が供給する体制で場しのぎの対応を取った。そのため、64Fは練度・経験的にも空母機動部隊を稼働させる際には必須の部隊と言う位置づけとなり、結果的に『アメリカ式運用のイギリス軍空母』のような運用がなされていく。

「機動艦隊は?」

「近い内にクーデターが起こったら死に体さ。空軍に行く連中で前線を支えてる内に、後方で新規に錬成せねばならんだろう」

ジェット戦闘機のカリキュラムを叩き込まればならぬ上、空母着艦技能を備えなくてはならないため、カリキュラムは必然的に長期的なものとなる事は、このダイ・アナザー・デイ当時には既に公然の秘密だった。背広組が求める水準は意図的に長い飛行時間となるものとされたのもあり、その穴埋めを行う64Fの勤務状況の過酷さが、後で問題となるのである。(開戦後、Gウィッチでなければ、過労死間違い無しであるほど多忙を極める)

「ジェット機の連中を継続的に供給せねばならんから、下手すると、次の戦争で海軍空母機動部隊は自己完結で洋上作戦を遂行出来なくなるぞ」

「日本はそれを意図してるところがある。空軍を乗せる事は、ウィッチで他国がやってきた事だ。それで、大臣は辞める前に空軍の規則となされるのだろう」

扶桑空軍の性急な設立で、空母機動部隊の自己完結的な洋上作戦能力が失われる事を読んでいた山本五十六は、自分の任期満了までに、空軍は有事には、海軍の洋上作戦を補助するとする規則を設けた。これは海軍空母機動部隊のウィッチやパイロットがクーデターの余波で多数追放されるであろう未来を予見していた彼が導き出した答えで、ジェット機時代には『新規に育成した方が、むしろ適応率がいいのではないか』とする考えに基づいていた。これはエースパイロットでもなければ、レシプロ→ジェットへの機種変更は上手くいかないだろうとの推測に基づいていた。当時、現役であったGウィッチ(一般には『特別に強いウィッチ』とプロパガンダされていた)を除いた者達の多くがジェットストライカーユニットを、パイロットはジェット機への機種変更に戸惑っていたということからも妥当であった。レシプロと違い、ジェットは扱いに慣れが必要である上、旭光までの機種は第二世代宮藤理論の根幹技術『魔導アフターバーナ―』(魔導オグメンタや魔導リヒートとも言われたものの、日本連邦は自分たちで定着している、アフターバーナーで統一した)がないため、スロットル操作に神経を使うものとなっており、それも躓きの理由だった。それ故に『特殊機(特殊ストライカーユニット)』と分類していたのだ。不幸なことだが、この特殊機の表現が悲劇を招いた。特殊攻撃機=特攻のイメージが有るため、橘花ユニットの錬成部隊『第七二四海軍航空隊』の存在が無かったことにされ、隊員も散り散りにされた。橘花が体当たり用ではない事を説明しようにも、財務省が門前払いする始末だった。当時の橘花は確かにMe262以下の性能しか出せない劣化コピーであったが、ネ20改エンジンが装備されれば、時速780kmが期待されていた。だが、その数値はP-51Hであれば、普通に出せる速度であるため、ジェット戦闘機/ストライカーユニットとして失格とされてしまったが、本来は攻撃機として設計されていたので、戦闘機としての要求は想定外も良いところだ。これは陸軍の火龍との住み分けの意図もあったが、海軍の担当者がマスメディアに『人命軽視』と罵倒され、鬼の首を取ったように扱われてしまう事自体、海軍には信じられない事実だった。海軍の担当者が暴漢に闇討ちされる事件があったのと前後して、航空関係者が自衛隊のF-15JやF-2の制空戦闘任務に従事する姿に絶望して自死するという事が後を絶たなかった。そのため、制空戦闘に供する事が困難な性能の橘花はその命運が絶たれてしまう。ジェット機に制空戦闘機としての本分が要求され、レシプロを駆逐するなど、扶桑海軍は想像だにもしていなかったのだ。そのため、横須賀航空隊の活動自粛命令は乙戦軽視とジェット機への定見の無さを理由にしてのものだが、誰の目からも『懲罰的な見せしめ』なのは明らかである。同時期に、黒江への陸軍航空審査部でのいじめが懺悔から露呈し、審査部も同様の措置が取られてしまう。陸軍航空のパニックは『過ぎたこと』であったので、パニックの収拾はすぐについた。国を挙げてパニックの収拾が行われたからだ。だが、海軍のパニックは事実上、基地航空隊としての海軍航空隊の制空戦闘が否定された事に等しいと、士官たちが捉えた事から、一部の陸軍航空将校も巻き込んだクーデターに発展していく。竹井や武子はクーデター防止に力を注いだものの、黒江や坂本は『無駄だ』と公言し、むしろクーデターの早期鎮圧の構想を練っていた。いくら武子や竹井が宥和を選んでも、周りが拒絶する。坂本や黒江は自らの経験でそれを知っていたので、冷ややかであった。武子や竹井は『ウィッチが割れるのはおかしい!』と考え、GウィッチやRウィッチと通常ウィッチの融和を唱えていたが、黒江や智子、坂本と、迫害された経験がある(坂本は前史の後半生)Gウィッチの代表格の三人は冷ややかに見ていた。特に黒江や坂本は、自分たちへの手のひら返しの経験があるからか、クーデターの阻止ができるとは考えていなかった。そこの点が武子の甘さであった。坂本はこう述べている。

『加藤さんはGウィッチと普通のウィッチの融和に取り組んでおられるようだが、ウィッチだって人だ。 三人在れば二人と一人に、意見が違えば人、相争わん、って奴だ』

坂本はそう述べ、同時に黒江と智子も同意した風のシニカルな微笑いを浮かべたという。武子はそういう点で、『優しすぎる』と仲間内でも評されている。それは孫娘に対しても同様であるらしく、孫娘の美奈子は『おばあさまはお年玉を10万単位でくれるんですが、何に使えと』と過保護気味なのを黒江に示唆している。黒江は『あいつ、過保護気味なのよな、私らに対しても』と答えている。根本的にお母さん気質らしい。

「優し過ぎるっちゃあそうなんだが、一人や二人そういうヤツがいないとアタシらはやり過ぎちまうから丁度良いんだ」

というのは、圭子の談。実際、武子の気質は事変中はレイブンズのストッパーになっていたし、未覚醒当時はレイブンズにチームプレイを説くなど、お節介焼きな点は現在も清涼剤である。現在では、Gウィッチの中でも統率者、調律者としての地位を確立。かつてと違うのは、個人戦果もちゃっかりレイブンズの水準に上げている点だろう。その点は武子も変わった点であるが、孫娘へ自慢したいのだろうと圭子は笑い飛ばしているが。



「――で、今後の会議で通そうと思う甲巡のアイデアだが…」

艦政本部は今、複数の案を構想中である。一つは利根型ベースのヘリコプター巡洋艦、もう一つは高雄型重巡洋艦をベースにした『対デモイン級巡洋艦』である。これは建造中の超甲巡が大型化により、巡洋戦艦と同じ程度の費用となったので、本格的な巡洋戦艦へ再設計すると言う案が俎上に乗るほどであり、従来型の改良が必要不可欠になったからだ。これらはアメリカが『巡洋艦のアップデートにどうー?』と、自分たちは色々な要因で配備を諦めた『Mk71 8インチ砲』を売り込んできたことで一気に進展する。超甲巡はコンセプトが『巡洋艦と戦艦の間』なのだが、日本が『戦艦として改良したら?』と白黒つけるように示唆したことで、主砲口径を60口径41cm砲に拡大し、装甲をアイオワ級以上に強化し、もはや大和型に寄せたアイオワ級と評されるほどの別物と化す案が採択され、戦艦化してしまうため、巡洋艦の改良が俎上に乗ったのだ。つまり、超甲巡はあくまで『戦艦式防御の大きい巡洋艦』という認識で設計したら、日本から『火力のない戦艦』と取られたという悲劇だ。扶桑は超甲巡を大和型のノウハウで造れる安価な超大型巡洋艦と考えたが、アラスカ級太巡が失敗作であった事から、『超甲巡は戦艦として生まれ変わらせよう』という日本の認識の相違は大きく、日本は『霧島』とサウスダコタの野戦の例を引き合いに出し、『金剛の砲をいくら当てても堪えないアメリカ戦艦相手に31cmは非力すぎる。アイオワ級より強力な砲にすべし』と迫った。元々、戦艦の相手は想定されていない艦艇だと説明しても『国民の血税で無駄な艦を』と罵られるため、60口径41cmはかなり真剣に検討され、試製丙砲としての試作も検討された。しかし、角田覚治の『そもそも戦艦と殴り合うほど装甲がねぇ(フネ)に大砲積んで突っ込ませようなんざ、乗員を使い捨てにする気か?戦艦相手なら、大和型を突っ込ませるか随伴させればいい話だ。第一、空母の直掩艦なのだが』との一言で決着はついた。しかし、万一に備えよという名目で、予算がついた砲の試作そのものはなされたという。(扶桑軍も捷一号作戦や天一号作戦の事を引き合いにだされたり、サウスダコタと霧島の事を言われると、無下には出来ない。特に、捷一号作戦は大和が神参謀へ恨み骨髄になっている作戦であり、大和もその記憶がトラウマになっている節があるからだ)

「――知ってるか?神参謀、大和嬢にかなり恨まれてるから、多摩に泣きついてるというぜ」

「あの参謀は神がかりだしな。それで姉妹を失った大和嬢の沈痛はわかる。しかし、大和嬢はまだお子様だな」

「しかたがない。大和は実質、三歳で沈んだしな…」

長門や陸奥は見かけ相応に大人だが、大和は艦齢が若かったので、見かけよりも幼い点があり、長門からはそれを指摘されている。伊達に長門は長年の艦歴を持つ訳ではなく、大和の幼さを指摘し、叱責するなど、大人として接している。大和はリバウへ、当時実働状態の全大和型の出陣を天皇陛下へ直訴するなど、長門に苦言を呈される行動も取っている。その際、長門は『提督に言え。陛下のお手を煩わせるな』と苦言を呈している。しかし、それが信濃と甲斐に大きな影響を及ぼし、空母改装案が流れる結果に繋がったので、長門としては複雑である。この大和の直訴が信濃と甲斐の運命を変え、天皇陛下は『海軍大臣、古賀へ、大和と武蔵の出動を通達したまえ。これは私の命令である。出動にかかる予算はこちらで出そう、侍従長、そのように』と承諾。大和自身も船の大和に乗艦して、リバウで戦っている。また、天皇陛下は大和に『君が行きたいからかね?それとも…』と問い、大和は『行かねばならないからです!!』と答え、それを聞いた陛下は『宜しい、征き給え』とも言い、大和の意思を尊重し、第一艦隊を出動させている。大元帥としての命令で。艦娘武蔵が現れ、大和と合流したのも同時期であり、エスコート役に金剛と長門がつくなど、豪華な編成であり、現地で坂本も驚嘆させ、この戦闘がウインストン・チャーチルが大艦巨砲主義にのめり込んでいくのを止められなくなった理由であるので、ブリタニア空母閥からは恨みを買ったとも。


「ブリタニアからは恨み節だよ。空母が満足にないって」

「ああ、それなぁ。チャーチル閣下は、早晩、ジェット機の艦載機化で30000トン以下は使い物にならなくなるって悟ってて、それで中型や小型空母を止めたそうだ」

「その予算と資材で超大和型を?」

「うむ。空母は50000トンが6隻あればいいだろうと」

コロッサス級などはブリタニアで存在しない事が明らかになった一言だが、コンコルド錯誤でイラストリアス級航空母艦はある。既に工事が進んでいたのだ。更に、オーディシャス級航空母艦が前倒しされているなどの違いがあった。これは海軍航空隊の強い要望であり、チャーチルはその拡大型を志向していた。21世紀の専門家は『落日の英国海軍が空母を10隻以上も持ったら財政が死ぬ』と警告を飛ばす。しかし、チャーチルは『キングス・ユニオンになっとるのだ!中型や軽空母は潰したし、欧州の守護のため、空母は増勢する』と公言している。キングス・ユニオン化の成功で多少なりとも余裕が生まれたこと、世界増勢的に保守党政権はまだまだ続きそうである事などの幸運も重なり、ブリタニア海軍は面目を保った。(軍縮を唱える労働党は不運な事に、ガリアの零落と、扶桑の台頭で政権につく機会を当面の間、失うことになった)また、オラーシャの内乱による混乱もブリタニアを軍事大国のままでいさせた要因なので、ある意味では、オラーシャ内乱はブリタニアには歓迎されている。

「しかし、なぜそんなことを」

「オラーシャだよ。あそこが内乱で分裂して、その多くはブリタニアの庇護下に入ったんだ。その収入で空母6隻、戦艦10隻は維持できるそうだ」

分裂したオラーシャはその多くはブリタニアを頼り、ブリタニアに再び巨万の富がもたらされた。分裂したオラーシャ諸国の内、自活可能なのは、強力な工業地帯を抱えているウクライナと、21世紀でジョージアと呼ばれる『グルジア』のみで、後はブリタニアの庇護下に入るしか選択がなかった。その富はブリタニアには福音だ。ガリアは『自分たちを無視した』と怒り心頭だったが、未だカールスラント本国エリアは怪異の住処、ガリアは金属資源が往時の面影もないほど減っているなど、王国時代にすら戻れるかどうかという有様だったので、必然的にブリタニアは頼られる。その点でいえば、ブリタニアは幸運であり、ガリアは不運であった。

「大変だな」

「我々は次の戦争までに準備は整える仕事があるからな。予算は減らされようが、どうせ三倍以上に増える」

年長の造船士官はいう。実際、戦争勃発後、難民保護や救済費、臨時軍事予算などで、補正予算が通り、結局元の七倍にまで膨れ上がってしまう。その際に財務省は頭を抱えるが、それが戦争である。

「難民保護か」

「そうだ。それに戦時になると金がかかるものだ。平時とは比較にならん。難民保護や救済費、本土の開いてる土地の再開発……。地球連邦政府から借款をせねば保たんだろうさ。クーデターが秋にも起これば、軍事予算は四割減り、南洋の多くの部隊は解散だ。しかし、今度は南洋が舞台だ。そうなれば、補正予算だ。そんな事は回りくどいだけなんだがなぁ」

「何故、四割なのだ」

「日本は陸軍を減らしたがっているし、奴さんから見て旧式装備を処分したがる。そうなれば、南洋は塹壕戦の舞台になるだけだと思うぞ」

彼の予見通り、太平洋戦争の序盤は塹壕戦となり、二年以上が塹壕戦に費やされるのだ。実際、旧式装備もそれなりに使えることはダイ・アナザー・デイでのレシプロ機の活躍で示されるのだが、日本側の理解が得られなかった事が黒江たちを過労に追い込むことになるのだった。開戦後、64Fのウィッチの目の隈が凄いことになった事があるのは、夜間走行→スクランブル→帰還→訓練と過酷もいいところなめぐり合わせも多かったからだったそうな。魔弾隊などが組織される背景の一つは新選組の負担軽減策であったりする。

「あり得るか」

「うむ。日本側の楽観視とは裏腹に、開戦は近い。こんな時に内輪揉めなど。反G閥は国益が見えておらん」

彼の一言はその後の扶桑の直面する事態を予見しており、造船技師から見てさえ、当時は切迫した情勢であるのがわかった。



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