外伝その248『露の衰退と日の中興2』


――城茂のオートバイショップで初お披露目となったネオサイクロン号。組み立ては八割終わっており、本郷猛に送る写真に、人物との対比が必要なため、調の容姿にシンフォギアごとなっていた黒江がピースサインで撮られた。この写真こそが数年後に次元転移してきた黒江Bが自分自身の未知の能力に大混乱に陥る元ネタでもあった。Gウィッチとしての黒江は基本的に肉体齢相応の振る舞いであるので、素の容姿であっても同じ年齢のBより若々しさがある。変身しているとその傾向が強まるため、完全に15歳の少女である。茂からは『転生者とは思えねぇな』と苦笑されているが、風見はピースサインをする黒江に、実妹の雪子を思い出したのか、柔らかい表情である。

「いいかー、撮るぞー」

その写真はすぐに送られ、確認した本郷が困惑し、一文字にからかわれたという。

「俺はコイツの組み立て続けるけど、風見さんは?」

「ああ、ハリケーンのメンテを頼む。綾ちゃんは?」

「これの性能確認で寄ったんですよ。調を磁雷矢さんんとこに行かせてるんで」

「ああ、武神館か。山地闘破君のお義父さんと俺は知り合いでね。後で、俺が様子を見てこよう」

ダイ・アナザー・デイの直前まで、黒江は調を磁雷矢のもとに行かせ、精神面を含めた鍛錬をさせていた。調はその休日にのび太のもとに帰るという生活を送っているが、のび太のいる時代は修行時は固定されておらず、作戦直前になると、黒江も細かい事項を話し合うので、2016年前後の野比家と90年代前半を往復させていた。ダイ・アナザー・デイに備えるためであり、黒江が呼ぶのは、ある程度の技能に達したと磁雷矢が判断した時間軸からである。

「頼んます」

「君も大変だな。21世紀の自衛隊で今、将補だろう?」

「直に空将にしたいって防衛省は言ってます。革新政権ん時に内規作ったのを撤廃しようとすると、野党が騒ぐから、その埋め合わせで」

黒江はダイ・アナザー・デイの直前の時点では空将補であった。革新政権の時代、扶桑出身の自衛官は航空幕僚長になれないなどの自分勝手な内規が作られたが、政権の再交代後に日本連邦の樹立に目処が立った後に問題となり、黒江が英雄かつ、昭和天皇のお気に入りである事も通達されたので、保守政権が革新政権時の防衛大臣などの反対を押し切って任じた。2016年以降は日本連邦樹立がなったので、智子と圭子も自衛官としての籍を得ている。また、叙爵などの栄典の授与の内定は日本側に既に通告されていた。それも空将昇進が急がれた理由だが、逆に今度は扶桑陸軍参謀本部がパニックに陥った。その際の参謀本部の混乱の理由は陸上幕僚長をして、「アホらしい」と呆れさせたほどの稚拙な理由だった。

「今、参謀本部がパニックなんすよ。オレを少将にするか否かで」

「あれ?将補なら、少将待遇じゃないのか?」

「将補だと、扶桑に対応する階級が大佐と少将しかないし、仕事的に大佐のままでいいだろってやつ。で、今、陸の幕僚長から将補の職責は少将扱いって伝えられて、パニクってるとこ」

当時の扶桑本国の市ヶ谷では、黒江が自衛官として少将相当にまで登りつめ、最高位の将も時間の問題と陸上幕僚長から伝えられ、大パニックが起こっていた。また、昭和天皇が口頭で昇進を約束していた事も判明し、昭和天皇が事の次第を知り、担当者を問いただしたいと言い出したので、参謀本部は顔面蒼白であった。結局、これは幕僚長の上奏が救いの神となったが、生え抜き上級幹部自衛官に扶桑軍の連中は若造だぞ』との反発もあるため、『扶桑軍と自衛隊の出向者は職責に合わせ上下二階級の調整を可とする』という条項の創設で手打ちとなる。ただし、レイブンズについては叙爵もセット+扶桑最大の英雄+黒江に合わせるため、一律で騎士爵+准将となる。要は功績ある若手の放り込み先が大佐からワン・スタージェネラル(アドミラル)に変わったのである。

「准将作って手打ちにするって友人から聞いたんですよ。華族に叙爵されるし、功績と自衛官の階級的に大佐じゃ釣り合わないから、幕僚長が上奏するって」

「准将か。あのベ○ばらの主人公の最終階級だったな?」

「別の漫画の鉄のクラウスよりずっと偉いんですよ、俺」

黒江は自衛官としては、この時、既に将官である。本国では中佐、大佐と昇進していたので、ここ最近は扶桑軍人としてより、自衛官としてのほうが昇進が早い。自衛官としてはそろそろ年数的に中堅どころに入るというところだが、将官に登りつめている。また、2005年以降はカミングアウトで自衛官としての勤務については自由になり初め、ブルーインパルスを去って、統括準備室長になってからは気ままに勤務している。統括官になると、それがより完全になり、決まったオフィスを持たず、各地を回るのも仕事になる。この時はその前段階として、日本にとっての新領土となるウラジオストクの視察も入っている。

「今度の火曜日、ウラジオストクに船で行くんすよ。海軍の戦艦で。新鋭艦のお披露目も兼ねての視察」

「ああ、君のところの海軍の超弩級戦艦」

「美濃。超大和型戦艦で、51cm砲装備。大陸の恫喝も兼ねてね」

21世紀、日本の新領となったウラジオストクに象徴も兼ねて、定係港にされるのが播磨型戦艦の小改良型の美濃である。大和を遥かに凌ぐ巨体と巨砲と近代電子装備が同居する艦であり、ロシアが喪失を恐れて出さなかったキーロフ級ミサイル巡洋艦よりビジュアル的に力のシンボルと捉えやすい。また、日本の技術で改造されているという分かりやすい武器も備えているため、某有名海軍年鑑は『日本が送り出したハイパードレッドノート』と形容している。日本連邦が戦艦を艦隊規模で有した事はその前段階に当たる、扶桑軍の駐屯開始時には『時代遅れの恐竜の群れ』と形容されたものだが、近代装備でかつてより難攻不落と化した事が知れ渡るにつれ、『ジャパニーズコンバインドフリートの再来』と称されるようになった。高度な自動化でかつてが嘘のような少人数で運用できる事、連邦制にすることで憲法のネガも回避可能という利点、戦艦の見栄えの良さから、海軍の旗艦に推す声が大衆から生するほどである。最大最強の船を旗艦にする伝統は武蔵で事実上絶えていたのと、戦艦を旗艦にする時代は終わったと認識されていたため、海自では反対論があった。しかし、専用艦を作るほどの余裕がないのと、三笠型や播磨型の通信装備が21世紀の技術水準を超越している事も明らかになったので、日本連邦海軍旗艦は三笠型『三笠』になった。日本戦艦では、武蔵以来であった。(日本では信濃は空母であり、ラ號もまほろばも連合艦隊旗艦にはなれずじまいだったので)戦艦が大和型の系譜に代替わりする時代に連邦を組んだため、日本の関係者諸氏の感激を呼んだのは言うまでもない。駐屯艦隊の旗艦を長らく勤めた三河の存在がキングス・ユニオンの具体化とアメリカが二代・モンタナ級戦艦を作る呼び水となったのも本当だ。まさかの戦艦時代の再来。その象徴として、大和型/播磨型は見られていた。扶桑では初代モンタナが扶桑に大艦巨砲主義のブレーキをはずさせる役目を担ったので、アメリカが二代・モンタナ級を進水させた事は出来事の近縁性では興味深い。ウィッチ世界では、事変の艦娘・大和の参陣の際に目撃された艦影が報告されてからの建艦狂想曲を『ヤマトショック』とするが、21世紀世界では『扶桑が持ち込んだ戦艦の近代装備ぶりにショックを受けた米国海軍が戦艦の新造に踏み切る』事を指す単語として存在する。21世紀まで戦艦の砲塔を製造できる海軍はアメリカしか存在していなかったからだ。また、韓国への制裁に現れた超大和型戦艦の衝撃は『スーパーヤマトインパクト』とされる。アメリカは播磨をスーパーヤマト、三笠を『ウルトラヤマト』と呼んで恐れていたので、その流れで定着した。実際、その呼び名は兵士達の間で使われていたもので、米海軍上層部は播磨を『モンスター』、三笠を『スーパーモンスター』と呼んでいた。特に主砲口径がバカのようにデカイのも指して、ある提督は『ゴジラか!』と呆れ果てたという。両艦が初めて揃ってリムパックに赴いた際には、三笠のコールサインが『ゴジラコマンド1』、播磨が『ゴジラコマンド2』であり、米軍の通信兵が固まり、提督はコーヒーを吹き出したという。真珠湾には三笠は入らないので、沖合に停泊したという。

「たしか原子力空母サイズだろ?ウラジオストクの港に入るのか?」

「最悪、沖合に置けばいいっすからね。それと。のび太が陰口叩かれてるんすよ。大人になって裏世界でNo.2にはなったけど、表世界ではうだつの上がらない環境省職員だし」

「裏世界では彼は有名なんだがね。それに彼は君たちの傍にずっとはいれない事を分かってるから、基本的に子孫や俺達に後を託している。彼は時代の特異点ではあるが、不老不死でもなんでもないし、君達にも、少年ののび太君のところに行ってるのは、彼のマウント取りたいっていう陰口は聞くからな」

裏世界では『ゴルゴと同等級の実力を持つ男』として有名になっているのび太。ゴルゴと違い、表世界では一公務員として生きる彼。裏世界での名声は出世の査定に有利であるが、表世界では殆ど影響はない。ゴルゴも長年の行動を支えているからくりが『数十年ごとの完璧なるメモリークローンへの交代』である。ライダー達は大人のび太に『自分が死んだ後のGウィッチ達の守護』を託されている。のび太は死後に英霊になれる資格を有するものの、肉体的には『老いが普通より遅い人間』であるので、死は避けられない。のび太は黒江達が転生を重ねているのを知っているが故に、『ごく普通の家庭人としての幸せ』を見せるのも自分の役目と悟っている。

「のび太は人生を変えた。過去未来で一族郎党一番のノロマでグズ、泣き虫ってずっと言われてきたのを勝ち組に変え、憧れのガールフレンドと結婚して、幸せに倅を儲ける。そんな人生、送ろうとしても送れるもんじゃない。しかも裏世界でNo.2に登りつめる。裏世界の評判がのび太の出世に影響与えてるの知らんくせに」

「そのような連中は嫉妬しているのさ、君らに、彼に。君らは神に仕え、気に入られ、神の座に列せられた。彼も自分の血を継ぐ誰かとして、君らにいずれ再会できるだろうと言っていた。肉体は脆く、脆弱なものだ。だが、君達のように、精神は永久不滅だ。早乙女博士もゲッター線の使徒になったように」

自分達やのび太に叩かれている陰口にうんざりの黒江。のび太は自分もいずれ転生するであろう事はなんとなく悟っており、『自分自身の子孫として、またどこかで会えるだろう』と公言している。また、表世界での名声は『求めているわけでもない』とも述べているし、裏世界では名を聞けば、イタリアを牛耳る古株イタリアンマフィアが震え上がり、各国の軍の諜報関係者が仕事を疑うくらいに名声を得ている。そんな男が普通の公務員として、表世界で一定の地位を得て、死ねる事は幸せそのものである。(のび太が青年期〜壮年期までの裏世界の活動で、子供の身の安全を確立させ、裏世界の人々も息子や孫が地位を受け継ぐ事を予測し、手出ししなかった。実際に彼らも受け継いだ。その役目を受け継がなかったのは歴史的にドラえもんを送り込む役目を持っていたセワシくらいなもので、その嫡子、更にその子も、のび太の裏世界での名跡を継いでいる)

「裏世界の連中は表世界に名が轟くのは良し悪しと考えているんだけどね。ゴルゴやのび太の例は例外中の例外だ。名を聞いただけでその筋の連中は震え上がるから、逆に仕事がしやすい。それに、一般大衆はいつもゴシップに弱い。君もそれは経験があるだろうが、日本の一般大衆は第二次世界大戦のトラウマの裏返し、いや、根本的な民族的気質として、他者の弱点をずる賢くつついては、ささやかな優越感に浸かって、自分の自尊心を満たすという心理が強いのさ。それは歴史的に強者として君臨してきてる君らの故郷には理解しがたいものだ。最近でも、幕末と太平洋戦争敗戦と、何度か理不尽な外圧に屈してきた歴史が前提にあるからな」

「だからって、負けてもいないのに、華族廃止や伏見宮系皇族の臣籍降下を提言してきます?傲慢もいいところだぜ」

「嫉妬だよ。敗戦で自分達が失った富や宝、街、領土、大きく強い軍隊を基本的に君達の国は持つ上、台湾もムー大陸も持つ。GHQに奪われたものがそこにあるからこそ、野党は恐れたんだよ」

日本連邦結成を革新政権が頓挫させようとした背景には、戦前日本に限りなく近いが、真の意味での強国である姿に嫉妬したというのもある。また、華族は戦後も名家として一定の影響力があるところも多いのに、それを『富の独占』のシンボルのように見ていたのが彼らの誤算であった。黒田家のお家騒動は黒田には気の毒だが、そんな認識をぶっ飛ばす一助となった。扶桑華族は創設以来、女性当主も珍しくなく、華族や皇族は女性でも軍籍を持つことが奨励されていた。皇族軍人も日本の『お飾り』ではなく、実戦経験を有する者も多かった事、国家緊急権を発動できる権利を有していたが故の事変の行動になった(扶桑では議会が軍指揮権を有していない歴史の方が長く、クーデターに備え、皇族軍人は国家緊急権を行使できると明記されていた)。皇族軍人の皇族としての権利を軍への在職中は差し止める案もあるが、これは公表の後に出血が伴ったため、扶桑の国民感情に配慮し、『内閣総理大臣、または国防大臣の了承のもと…』という一文が加えられ、皇族としてという但し書きで落ち着いた。欧州諸国では王族としての地位を有したままで軍人になる事は当たり前だからだ。

「何をです」

「国家乗っ取りだ。一種の強迫観念というべきか。君やその後輩が潜り込んでいると知った彼らが統幕入りや幕僚長になるのを潰す内規を作らせたのと同じ理屈だ。日本連邦に落ち着いたから、その内規は有名無実化したがね」

防衛省でも内規廃止の声が高まったが、当時の左派には依然として統幕入りや幕僚長になるのを乗っ取りとする声が根強かった。その兼ね合いで黒江は統括官というポストに投げ込まれ、後輩達も似たようなポストに据え置かれた。統幕入りがならないが故の代替ポストであるが、将来的に生え抜き自衛隊員もなれるポストにせねばならないので、黒江は更に上位のポストを創設した上で、それにつける案が出ている。

「やれやれ。強迫観念ねぇ」

「左派が『軍備増強すれば戦争になる』とか言うだろ?それと同じだ。だが、完全に無防備じゃ落ち着かないから、自衛隊を認めてる。世の中はそういうものさ」

風見は現役時が自衛隊の肩身が狭い頃であるので、21世紀以降の活動への認知ぶりに感心しているクチである。実際、21世紀には自衛隊無しに災害復旧が難しくなったので、その需要も自衛隊の地位向上に繋がった面も大きい。

「一文字さんが言っていたが、『人は起こってしまわないと認めない』もんだ。阪神の大地震、東北の地震、新興宗教のテロリズム」

「確かに。大陸領獲得も国連が認めちゃった途端に手のひら返しだもんなー」

日本が大陸領を得ることを認めたのも、国連の要請あってのものである。極東ロシアを大陸に渡したくないアメリカとイギリスが主導して『押し付けた』とする批判論もあるが、地理的には合理的である。これは扶桑のレイブンズにも当てはまる。レイブンズの伝説が真であると分かったら、崇拝する世代とそうでない世代との抗争が激化したが、レイブンズの強さは本物であり、彼女達から見ての超人であるのび太の援護もこなせるため、上層部からは、それまでの冷遇の風潮が消え失せている。また、仮面ライダーのライダーマシンの操縦も難なくこなせる事も上層部の意識が変化する理由だったりする。

「あ、思い出した。大人になったあのガキ、えーと、のび太だっけ?裏世界じゃ名が通って来てるぞ」

「マジだ。あいつが30になるかならない頃にゃ、シチリアあたりを牛耳るイタリアンマフィアが震え上がるくらいには認められてる。

「うへぇ」

「ゴルゴ相手に殺されなかっただけでも、あの世界じゃ一目置かれるからな。それで、腕っぷし以外のステータスは匹敵する。そこらのチンピラ連中じゃ物の役にも立たねぇし」

「彼は大人になる事で評価が変わったし、死後も一族が頑張っているからな。セワシ君以外は裏稼業で名を成しているからね」

「そうだよなぁ」

仮面ライダー達は復活後、23世紀に拠点を置いているため、21世紀はその時代の自分達に任せている。少なくとも、ディケイドや仮面ライダーJの存在により、自分達はいつの時代でも、その時々の最新の記憶を持てるからだ。因みに、のび太はその潜在能力を認識している者達からは高評価である。仮面ライダー達もそのクチである。ゴルゴも高く評価しており、のび太は表世界での平凡な公務員としての評判(かかあ天下のうだつの上がらない環境省職員)と、裏世界での凄腕スイーパーとしての評判を持つのだ。家族に類が及ばぬよう、表世界では風貌をわざとうだつの上がらない風にしているが、省内では凄腕で通っており、そのギャップは刑事コロ○ボを想起させる。玉子がのび太少年期に危惧していた事は解消され、基本的な性格は維持しているが、駆け引きを覚え、マティーニを好むようになるなど、ジェームズ・ボ○ド風な趣味も持つ。のび太は実は変に運が良い。少年時代には、当時に憧れていたアイドルにファンレターを書いたところ、丁寧に返事が返ってくるなどの幸運、星野スミレや伊藤つばさなどのスターたちと交流があるなど、意外に、そのまま大人になってから情報のパイプになったところもある。

「のび太って、スネ夫のラインでメディア業界に顔が効くから、俺への報道規制を根回ししてくれたんだよなあ。子供の頃にアイドルや女優と交流があったから、その線で抑えにかかってくれて」

「ああ、2005年位のことだったな」

「うん。ありゃ参った。そもそも俺は同位体含めて、大陸の軍隊とは殆ど戦ってねぇよ」

黒江はテストパイロットとして著名であった同位体(空自空将補)の存在もあり、自衛隊内部では当初から人望があった。旧軍出身という事で問題視されたが、同位体が空将補にまで登りつめた事が知れ渡ると、的外れな批判は訴訟で黒江が勝訴し始めると鳴りを潜めていった。のび太が、あるいはスネ夫が黒江がどんな敵と戦っていたかを啓蒙していったおかげである。また、黒江が約束された勝利の剣の継承者である事もプラスになり、2010年代末には人気者である。昭和天皇の寵愛を受けていることは昭和天皇の人を見る目からの批判もあったが、黒江が政治に興味がない実直な青年将校(悪く言えば、ウォーモンガー)である事からそれも鎮静化している。また、『戦闘機パイロット』である事も鎮静化に大きく貢献している。また、オラーシャ革命の首謀者が自国のアナーキストの残党と判明すると、スターリンがいない世界(レーニンはいた模様)に自分達の世界の理屈を持ち込んで、現地政府を転覆させようとしたと批判された左派は『彼がかってにやった事』と言い逃れをしようとしたが、穏当な統治の続いているロマノフ朝を転覆させようとしたと批判された事で、その党勢をますます衰退させていく。(現地の他国にまで露骨に干渉するのは、倫理的に不味いため)

「あ、2019年のマスコミに、君はシンフォギア装者を踏み台にしてると批判されてるぞ」

「はぁ?ありゃ軍隊式の鍛え方なんですって。一度まっさらにして、そこから自信をつけさせるつー奴。俺だって、『上には上がいる』って何度も思い知らされたし。フルメタル・ジャケット見てみろといいたいね。絶対に地上波放送できねぇけど」

「いや、うるさくなる前にやったと思うが」

「よくできたね」

「当時は緩かったしな、色々」

2019年のマスコミに批判されたのは、シンフォギア装者たちへの鍛え方が度を越し、パワハラではないかというもの。黒江もなんだかんだで職業柄、若い者達の鍛え方は21世紀基準の特殊部隊並である。殴りはしないが、精神的に追い込む事は一種の洗礼である。旧日本軍のそれほどでないにしろ、自衛隊でも防大から普通にやられているのがシゴキである。黒江の扱いに防大が黒江の在籍中に困っていたのは、防大で通過儀礼が『できない』事でもある。

「ガキ共には軍隊流はきついだろうが、洗礼を浴びせろ。俺も学生時代にアメフトしてたからな。…あん、お前、さっき、ウラジオストクに行くって言ったよな。お前んとこ、確か…、ウラジオストクが安土時代から領土だろ?どうやって得たんだよ」

「当時の幕府がオラーシャから合法的に買ったらしいんだよな。37年から一年は駐屯してたけど、三大都市に引けを取らないくらいの街になってた。華僑系も多い街だよ」

ウラジオストクは扶桑にとっては、近世以来の領土であり、華僑も多い。これは明国滅亡時に各地に散った中華系民族の一派が住み着いたのが理由である。また、今回の革命未遂により、多くのオラーシャ人が逃れてきているため、扶桑と日本での共通事項となりつつある。違うのは、日本にとっては新領土であり、扶桑にとっては比較的古めの外地であることだろう。

「統治の手本にしたいとか高官は言ってるけど、背景が違うから、あんま参考にできなくないか」

「歴史が違うしね。それに本当はウラジオストクから先も領土だったけど、怪異に占領されたから、扶桑の元・居住者達が要望してるが、太平洋戦争になれば、その余裕はなくなるからなぁ。スーパーロボットにちゃっちゃとやってもらいたいが、若い連中がなぁ」

「カイザーや真ゲッターが大技を撃ちゃ、一発だろ?あんなの」

「それはそうなんだけど、若い連中がうるせぇんだ。達成感がどうの、存在意義がどうの。んじゃお前ら、戦闘機や戦艦、戦車とガチで戦えんのかよって言いてぇよ。そんな綺麗事言える時代じゃねぇよ」

黒江は現実主義であるので、ウィッチの矜持にこだわらない。ティターンズの脅威を理解している分、当面の怪異をスーパーロボットで手っ取り早く排除し、兵力を太平洋戦争の準備に割くべきと考えていた。しかし、それは多数派からは『ウィッチにあるまじき考え』とされ、クーデター軍に目の敵にされる事になるが、当然ながら、相対した全員を叩きのめすのである。その合理主義が少なからず、部隊内の反発を招いているのも事実だが、本人が強すぎる(空戦技術が元から当代最強級+転生で経験値が大きく増している)ため、同世代や近い世代には心酔する者も多い。反発の多くは黒江の持つ軍人としては当然である、合理的な考え、ウィッチから逸脱していると見做されるその強大さへの反抗である。一人で戦艦すら倒せるその強さへの反発は公表で却って増大した。これこそが扶桑の一時代のプロパガンダ戦略の誤りの象徴であり、黒江や智子に無駄に苦労を背負い込ませる事になる。黒江は本来、黒江は合理的だけどウィッチの限界とその先への道標を示して導こうとする優しさも持ち合わせているのだが、その辺りが理解されないという悲哀がある。この時代、ウィッチ達は『変えたくない、変わったら意味が無くなるのでは?という科学の発展』を見せつけられてしまっていたのだ。その申し子たるRウィッチ。そして、極限まで強いスーパーロボット。ウィッチ(あるいは魔導師)としての能力を足掛かりにすると常人より小宇宙の覚醒に手が届きやすい、という事実もあるため、フェイトが覚醒しているのである。

「お前なら、一個大隊や旅団が来ようが、返り討ちだろ?その時になりゃ、見せてやれよ。雷の力をな」

「まー、俺、本職は山羊座なんだけどね」

「ライトニングプラズマの『先』が撃てる時点で、少なくとも先代の獅子座よりは上だろ」

「アイオロスがアイオリアに技を覚えさせる前にサガの悪人格に謀殺されたからなぁ。それを俺は会得したから、アイオリアは追い越したと思う。光子力も制御できたしな」

「先々代の射手座と獅子座の技も撃てるようになっただろ?」

「苦労したけどね、それなりに。インフィニティ・ブレイク、ケイロンズライトインパルス、キングス・エンブレム、ライトニングクラウン、フォトンバースト…」

黒江は山羊座だが、射手座と獅子座、双子座など、他星座の闘技も放つ。それには前回の人生を費やすほどの苦労も伴っている。その状態で転生し、さらに調がその状態の技能を受け継いだため、この時点での切歌とは天と地ほどの差がある。黒江が少なくとも二度の人生の600年近くを費やして得たものを一瞬でコピーしてしまったからだ。

「俺は批判にはなれたけど、なんで日本は軍隊式の鍛え方がいけないんだよ。暴力的?前時代的?てめぇらが一度も親に殴られずに一人前になったっていうのかよ。ぶっ壊すほど殴るのは論外なんだがな…」

「批判の多くは自信を壊すな、心を折るななんて内容だ。俺たちの時代は普通に廊下に立たされたし、他人にも叱られたんだがなぁ」

昭和ライダーの時代は子供時代は戦後であるため、21世紀より厳しい学生生活を送っていた。風見も茂も部活でシゴキを受けている世代だ。人間として生きていた時代が昭和中期くらいだったからと言えばそれまでだが、倫理観が世代の移り変わりで変化していった表れであり、親が明治生まれの黒江や、親が大正から昭和初期の生まれであろう仮面ライダー達は『言葉を覚える前の子供の教育は“調教”』と教え込まれている。21世紀にはむしろ珍しくなった古風な考えだが、昭和40年代以前は当たり前だった教育への価値観である。その観点から鍛えるため、年長組でも90年代の末期の生まれであろう21世紀の若者であるシンフォギア装者にはキツイものがあるのは確かだろう。(なのはが後で怒られたのは、響への責めのやり口が露骨過ぎたからであり、なのはも悪く言えば青二才である証だろう)

「なのはの教導の腕を確認したいから、響の鍛え直しの土壌をあいつに整えさせるかなぁ」

黒江はこの時、なのはの本職の腕を確認したいという思惑があり、大まかな指示は出すが、細かいことは一任すると明言した。だが、なのはは技能的な教導は上手いが、メンタルはからっきしという難点が判明してしまう。フェイトに後で『綾香さん。なのははメンタル面の教導は下手くそですよ。俺に指示を出してくれれば…』と嘆かれる、踏んだり蹴ったりな結果を招く。黒江にとっても、なのはのメンタルへの配慮の欠け方は予想外だったのである。ダイ・アナザー・デイでのなのはがやらかした行動は尻拭いに赤松自らが動く事になったり、黒江は切歌に直接、電話で小日向未来に猛抗議される羽目になるのだ。フェイトは黒江から事の次第を知らされると、『綾香さん。なのははメンタル面の教導は下手くそですよ。俺に指示を出してくれれば…』と嘆き、『なのはは俺がきっちりシメておきます』とも述べたという。この時にはG化し、前史での憑依されていた時期の記憶が覚醒したため、フェイトはアイオリアの生前を思わせる口調に変貌している。11歳当時の容姿に自分で途中から戻していたためのギャップと、11歳当時の容姿に映画用に設定されたバリアジャケット姿で、アイオリアの口調を使うため、アニメとの違いをわざと出している。なのははそれを半分は知らなかった。ただし、大人の姿でも口調は変えているため、それが他世界の自分との違いだと述べており、今回もB世界の自分を泣かせるつもりなのは確かだろう。なのはも口調そのものはかなり荒くなったが、フェイトとはやては別人レベルであり、変化レベルはフェイトとはやてが同レベルになる。はやては覚醒した後は振る舞いまで変化し、ヴィータを怖がらせているが、闘いに対するカンはかなり鋭くなった。また、標準語も普通に使い、イリヤとクロを『以前からの知り合い』という様子も見せている。以前は元々のおっとりさなどが原因で後手後手に回るのも珍しくなかったが、覚醒後は冷徹さと果断さが表に出、駆け引きもグンと上手くなった。また、私服が赤い服に変化するなど、アルトリアとイリヤ、クロがはやてのG化のベースになった人物の察しをすぐにつけたほどである。ダイ・アナザー・デイ直前には覚醒済みで、『なんで私が、管理局の上級職の代行なわけぇ!?』と大いに愚痴っていた。また、公には清楚を装いつつ、裏ではめっちゃ粗野なところさえあるところもあるため、ヴィータには怖がらせているし、シグナムを困惑させている。しかし、以前に比べて博識かつ、行動的になったのも事実で、調が古代ベルカで紛失したエクスキャリバーを発見している。また、軍人として見るならば、明らかに優秀になっており、策を練る事を好む(策に溺れる青さもあるが)傾向である。そのため、イリヤは『はやてさん…というよりはあの人だよ、クロ…』と人物像を言い当てている。クロも『なーんか、既視感あったのよねぇ』と同意しており、ダイ・アナザー・デイ中に二人が覚醒した後、話を聞いて、そう推理している。元来のはやて成分も残ってはいたため、二人は後に安堵するが、八神はやてとしての魔力とイリヤが推理した『ある人物』の特徴が混じった事は、黒江のコミケ仲間である艦娘・秋雲が『なんという化学変化…!』と唸るのであった。秋雲は後に、黒江を介する形で、はやてにあることをさせ、はやてとしてのノリの良さでイリヤとクロの懸念をぶっ飛ばすが、話を聞いた二人が大慌てで秋雲を問いただし、秋雲に華麗にスルーされたとか――



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