外伝2『太平洋戦争編』
第八話


――黒江たちはレーバテインを纏ったまま、現地陸戦隊へ合流。そこで坂本は本物の『戦場』を見た。木の影でタバコを吸って寝ている兵士、負傷し、包帯で体を巻かれて横たわる負傷兵。捕虜のウィッチを虐待する下士官……それを見て見ぬふりする士官達……。麻薬に手を出し、興奮状態になっている機関銃兵……。最前線故に漂う『疲弊』が織りなす極限状態に、坂本は嫌悪を見せるが、黒江は気にも留めない。本物の戦場では、このような光景など敵味方問わず起こるからだ。

「いいのか黒江」

「いちいち止めていたらキリがないし、ああいう光景は古今東西の人類同士の戦争では毎度おなじみの光景なんだ。慣れとけとは言わんが、よく見ておけ。あいつらは『ああすることでしか、死への恐怖とかの精神的ストレスを紛らせ』られないのさ……。考えようによっては哀れな連中さ。後で憲兵に報告しておくから、安心しろ」

――黒江は友軍の蛮行を憲兵に報告する抜け目ないところを見せ、『実直な職業軍人』さを垣間見せる。ああいう愚行は、戦争に負ければ戦犯直行の行為なのは坂本も理解しており、最前線のモラルの低下に閉口する。

「まったく、ああいう輩がなんで現れるんだ……」

「理由は色々だ。生きるか死ぬかの極限状態だと、普通の倫理観なんざぶっ飛んじまう。隣にいた奴の脳みそが目の前で飛び散る光景を目の当たりにしちまうと、その恐怖に押しつぶされる奴が必ず出てくる。その恐怖から逃れるために、ヒ○ポンとかのシャブに手を出しちまうんだ。私も上層部から勧められた事あるが、断ってきた。シャブッて人生がお先真っ暗なんてゴメンだからな」

扶桑軍が急激に科学技術を奨励する裏の事情には、扶桑海事変時から蔓延していた『覚醒剤』を撲滅する目的も多分に含まれていた。この頃、ヒ○ポンは主に夜間戦闘機搭乗員や夜間航空・陸戦ウィッチ部隊に配布されていた。当時、覚醒剤はまだ合法(法改正は1948年に行われたとの事)で、連合軍内部にかなりの数が流通、使用されていた。黒江達は縁がなかったものの、上から使用を奨励された事も一度や二度でない。黒江は現在も過去も『その恐怖』を知っていたために、所属部隊では使わせなかった。市井には元・夜間戦闘機乗りや陸戦ウィッチ、芸能関係者を中心に、薬物中毒に陥って人生を破滅させる者が続出した。軍では、科学技術の進捗で、ピ◯ポンに頼ることなく夜間索敵が容易になったなどの理由で覚醒剤在庫の処分に乗り出しており、1945年を堺に廃棄処分を行っている。だが、軍内部には未だ『部隊単位で備蓄している』者も多く、黒江は憲兵に情報を流すなどの行為で撲滅に協力していた。薬物中毒でその後の人生を暗転させた例に、扶桑海軍航空隊きってのナイトウィッチであった『黒島士子』中尉がいた。彼女は引退直後から副作用に悩む羽目になり、その後の1985年に消えるまでの40年間も後悔の念と、軍高官の無知を呪ったという。なので、覚醒剤中毒者が道端に溢れる原因を作ったのが軍部であるのは明白であり、火消しに追われていたのだ。

「覚醒剤中毒、か……。確かにあれは見るに耐えん形相だが、あそこまで人間を変えてしまうものなのか……」

「そうだ。オツムを壊し、シャバと塀の向こうを交互に繰り返すだけの廃人にしちまうのがヤクなんだ。家族も正気も失って、廃人として塀の向こうで死ぬのを待つ生活だけはやっちゃいけねーもんだ」

黒江は倫理観がすっかり『戦後日本』のそれになっているため、薬物中毒に辛辣な面を見せた。坂本も同意する。この時に垣間見た薬物の蔓延の凄さに唖然としたからで、以後の二人は憲兵に協力し、薬物撲滅キャンペーンに参加するなど、薬物撲滅に情熱を傾けるようになるのであった。話を続けていると、前線司令部にたどり着き、レーバテインを格納庫で外してから司令部に挨拶しに行った。司令部には樋口季一郎中将がいた。史実では彼は愚将が8割とも言われる、太平洋戦争時の帝国陸軍の中では比較的『まともな判断力がある』将官で、北海道を守り通した決断も知られている。故に、陸軍内の粛清を逃れたのであった。

「よく来てくれた。将兵のモラル低下には私が手を打っておこう。このままでは今村閣下に顔向けが出来ん」

「ありがとうございます」

「主題に入るが、敵から鹵獲したこの小銃が何か分かるかね?」

「はぁ……。ん?これはM14ですね。こいつを前倒しして生産しているとは」

「M1の後継かね?」

「ええ。ただ、未来世界での評判はあまり良くないですが。フルオート射撃が可能なように改良されたんですが、使われたのがジャングルだったんで、早々にM16に取って代わられたんです。ただ、こいつの特徴は7.62x51mm NATO弾を使える事にあって、狙撃に使われたら、人間の頭部なんて簡単に破砕できます」

「なるほど…。実はな。私麾下の部隊には未だに三八式歩兵銃が残置していて、撃ちあって負ける事が多いのだよ」

「三八は6.5ミリですからね。それじゃ撃ち負けますよ。奴さんはフルサイズの小銃弾を撃ちまくれるんですから」

「こちらの4式自動小銃(史実61式小銃相当)は、まだ末端までは行き届いていない。それが問題なのだ。三八式や九九式に愛着ある将兵も多くてな。それで死ぬ者が多いのだ。どうにかしてくれんかね?」

「は、はぁ……」

と、いうわけで黒江と坂本は四式自動小銃(実質は64式7.62mm小銃)のレクチャーを行う事になった。既にテストと称して、飛行六四戦隊には配備されていたので、その点については問題は無かった。扶桑製64式である『四式自動小銃』は仕様その他は史実と同じで、オプション装備も同じだが、扶桑軍特有の慣例として『部品の精度が特に高い個体』を狙撃銃に転用しており、自衛隊より遥かに狙撃に力を入れている事が挙げられる。その点もレクチャーせねばならぬため、二人は意外な苦労を強いられた。

――翌日 駐屯地内の講堂

「……で、あるからして、諸君らはこの新式小銃に一刻も早く慣れるべきである……」

「自動小銃はこれまでのボルトアクション式より弾幕形成に有利である。諸君らの信条に反するやもしれんが、これが実情である」

新式小銃はバトルライフルに分類される。三八式や九九式小銃とは『世代が根本的に異なる』銃であり、コツを掴む必要があるため、講義は数週間に亘って行われ、途中、実戦で本当に使用する機会にも恵まれ、従来よりも遥かに良好な弾幕の形成も可能であるという評価を得た。黒江達も遭遇戦でデモンストレーションを行い、整備性などで多少の不便さ(当時の平均的日本人の体格に合わせたために複雑な構造となっている)はあるが、使い勝手は評価した。




――一番の問題は、兵站力が戦線での弾丸の消費に追いつくかどうかで、それが扶桑軍が自動小銃配備を躊躇う理由だった。だが、実情として、『M1ガーランド』、『M14』、『トンプソン機関銃』、『M1カービン』、『M1918』を多数有し、歩兵一人辺りの火力が高いリベリオン軍を相手取るには、自動小銃の配備は必須であった。地球連邦軍が64式7.92ミリ小銃の図面を流して設計速度を早めたものの、あとはほぼ、扶桑の独力で製造にこぎ着けた。配備数は精鋭部隊を中心に、1947年現在ではおよそ、100000丁が流通していた。これは切迫した時勢故に緊急増産が短期間で行われた故であったが、軍全体で言えば4割程度の使用率に留まっていた。これは機関銃その他の機材の更新の都合上、性急な配備が見送られたためだ。(62式7.62mm機関銃を基にした汎用機関銃の設計段階で欠陥が明らかになったので、その改善が行われているために、完成が遅れた)だが、最前線部隊ではそうも言ってられないため、旧来の九二式重機関銃やM1919、九九式軽機関銃を使用して急場凌ぎを行う部隊が続出していた。しかしながら九二式重機関銃や九九式軽機関銃は扱い慣れた銃器でもあるため、意外な戦果を挙げていたという。坂本と黒江は基地で報告書を読み、旧来の機関銃が意外に成果を収めている事に関心を寄せた。

「ふむ。意外と旧来の軽機や重機が成果を収めているか。扱い慣れた銃火器だし、案外と使いどころによっては最新火器を上回るからな、あれ」

「どこがいいんだ?」

「命中精度かね?うちらはとにかく命中精度重視だったが、それが今はいい方に作用したようだな。一〇〇式機関短銃もそうだが、当分はそれで繋ぐのが最善だな」

「しかし、新式のがなんで遅れたんだ?」

「聞いた話だと、設計段階での不備が重大なレベルだったんで、未来世界の自衛隊の気が知れないとメーカー側が憤慨してな。改善を行っているんだよ。銃器に関しては、自衛隊よりもノウハウあるからな」

――黒江の言う通り、戦後の自衛隊は戦後の長いブランク期間中の進歩と、ノウハウ継承不足などの理由で、初期の銃器製作で多少なりとも失敗を犯した。幸いそれは『自衛隊』である内は実戦経験が無かったので表面化しなかったものの、現場では『米軍の払い下げ兵器のほうがマシだった』という評判さえあった。扶桑陸軍は言うなれば、『全ての能力が英国並みにある帝国陸軍』な軍隊である。戦前以来の技術を保有している彼らに取って、自衛隊が設立されて間もない時期の試行錯誤と失敗は『なんで、そこでそうする!?』なミスであるのが窺える。そこで、戦前以来のノウハウを『完全な形で有する』扶桑軍は他国の銃器のライセンス生産で得られた知識とを組み合わせて改良され、製造された62式7.62mm機関銃は『七式機関銃』として、この年の春に制式採用されたという。

「皮肉な物だ。向こうでは国力不足で正当な評価がされてない銃器が、こちらでは大いに評価されるとは」

「向こうの戦前日本はとにかく大量生産力すらない国家だったからな。ドラえもんに頼んで、タイムテレビで飛行機の生産ラインの様子見たら驚いたぞ。牛車で零戦を運んでるんだぞ」

「ぎ、牛車ぁ!?」

「のび太の母方の婆さん(のび太が慕っていたのは父方の祖母である)から聞いた話なんだが、その頃は東北は世界恐慌や朝鮮半島の開発の影響で貧乏だったし、帝都でさえ、モーターリゼーションなんて影しかなかったから、牛車で零戦運ぶのも珍しくもなかった。加えて、ハンドメイドに等しいくらいの精度だから、戦後日本や今のうちらがやってるような大量生産なんて、夢のまた夢。アスファルト舗装道路すら、大都市でも滅多にないくらいの貧乏国だったそうだ。だから、戦後に技術に邁進して、一流の科学立国になった。だから、戦前の工業製品を過小評価しがちなんだろうな……。特に兵器とか」

「カタログスペックを追い求める傾向があるからな。大和型にしたって、27ノットで十分高速だというのに、アイオワを基準で考えすぎだと思うんだ」

「しゃーない。実際、艦隊運用は最低速艦に合わせて行うことや、海軍が運用してた空母の多くは28ノットから32ノット程度だったのなんて、一般人は知らねー。ましてや向こうの日本海軍は電探の性能もお粗末だったし、カタパルトの開発に失敗してるんだ。結果論にしかならないが、向こうの日本海軍は保守的に過ぎたと思うんだ」

――坂本は大和型の史実の悲劇を例に、戦後日本における『戦前日本の兵器』を擁護した。坂本としては、どうにも納得がいかない評価を大和型を始めとした兵器類が貰っているのが不満であった。黒江は一般人の認知度などの点から補足を入れつつも、日本海軍の兵器運用術に駄目だしする。個々の兵器が優れていようと、結局はソフト面などで優位を保てず、最後は特攻に至った姿勢に否定的であるのが窺える。

「それを言われると、海軍の私としては耳が痛いな。」

「お前が気にするこたぁない。全ては明治の戦争から進歩してねーお偉方のせいだからな。これからはジェットと航空指揮管制で制空戦闘の戦局が左右される時代だ。多少のミスは現場で補正してやるから、早く覚えろ」

「そう言ってもらえると助かる。で、上は評価試験も兼ねて、お前達専用にF-14D++を用意したようだ」

「501基地でのテスト結果に気をよくしたな。ファントムはいい機体だが、ドックファイト向けじゃない。だが、トム猫なら対応出来る。F-8、F-104JやF-4EJばかりじゃ飽きるし〜」

「そんなもんか?」

「お前も乗り慣れりゃわかるさ。気分替えってやつだよ。ラッキーだぜ!F-14は好事家から人気高いから、金持ちが道楽で無可動実機を飾ってる事が多いからな……トッ○ガンのおかげだろうな」

「機体はここに運ぶように言いつけてあるから、乗ってみよう」

「お!お前、いい仕事だぜ!」

釣り以外にも興味が有ることを窺せる黒江。元々、前に『あがり』を迎えた後はテストパイロットであった故に、様々な機種に乗りたいという欲があるのがわかる。坂本も、勉強のために複座仕様機(練習機代わりのため、原型のままにした機体もある)の後部座席に乗り込み、機体の癖を学んだ。




――F-14はこの戦争で、地球連邦軍が援助物資として持ち込んだ、数機の単座改修テスト機が運用された後、F-16の海軍仕様とF/A-18などとのコンペが、実機が扶桑の手で製造可能となった1970年代に行われたという。その時に空軍総司令に収まっていた圭子は海軍の要請でデモンストレーション飛行を行った結果、F-14を選び、海軍主力機選定に影響を与えたという(空軍としては、F-15だったとのこと)。

「さて、OTMで欠点を完全に解消して、F-15と同等以上の機動性になったトム猫をテストするか!」

OTMによって、機体性能を高められたF-14D。さすがにコスモタイガーや現用可変戦闘機には及ばないが、その機動性は第4世代機としては、最高レベルに高められている。(無改装のF-15を上回る)。素材技術の進歩による飛躍的軽量化によって、兵装フル装備状態でも空母への着艦が可能になっているなどの利点もあり、かつてと同じなのは『見てくれ』だけだ。カラーリングはかつて、F-14Aを運用した米海軍航空隊の一つ『第84戦闘飛行隊』のそれに、識別標識のラウンデル以外は準じている。

『このド派手な垂直尾翼のマークははなんだ?」

『スカル&クロスボーン。未来世界のスカル隊に引き継がれてる由緒正しい、リベリオン軍のマークだよ。未来世界じゃ、軍・民間問わず、F-14に乗ったら、一度は背負ってみたいと言われてんだぜ』

『へえ〜』

二人は、テスト飛行を行った。F-14の評価試験も兼ねての飛行であった。敵と遭遇しない飛行であったが、F-8以上の機動性を大型でありながら得ていることに坂本は不思議そうだった。黒江はF-14は元々、艦隊防空戦闘機として生を受けた戦闘機ながら、時代の流れとして、結果的に『機動性が求められた』世代の戦闘機だと説明した。ベトナム戦争と統合戦争は戦闘機の設計思想が機動性重視に立ち返る機会となり、シャロン・アップル事件が決定的に無人戦闘機を政治的にも排除したのだと。未来世界では『無人兵器死すべき!』と言うべき風潮があり、地球本国の軍人・科学者・政治家は無人兵器を『BC兵器や核兵器などと同一の存在』と見なしている。だが、人的資源が少ない移民船団や移民惑星から反対意見が多く、その折衷案として、ゴースト戦闘機の研究開発が規制ありで継続された事も。

『どうして、奴さんは無人制御の兵器に嫌悪を示す?』

『20世紀の終わり頃から、TVゲームが普及したろ?兵器がハイテク化した時勢と相成って、ゲーム感覚で人を殺せるようになるとか騒ぎ出したのが発端だ。そんな懸念をよそに、米軍が無人兵器を研究開発していき、遂には空軍の主力をそれにしちまったり、陸軍をオートメーション化した。額面上は強力な軍隊を維持しているように見えたが、その実は制御を失った場合は鉄屑と化する玩具の集団だった。統合戦争で一気にそれが露呈、日本に逆らったアメリカは、それまでの有人兵器の限界を超えた有人兵器に完膚なきまでに叩かれ、敗北した。その際に制御が失われた戦闘ロボが無差別に街を破壊したりしたから、多くの街が地図から消えた。それを教訓にして、日本が主導権を取った地球連邦政府は無人兵器を規制しているのさ。ゴーストは人的資源の枯渇を問題視する派閥のゴリ押しで作られたがな』

――地球連邦政府は無人兵器を嫌う傾向にあるが、人的資源の枯渇をカバーしきれないほどの戦乱で、ある程度の無人戦闘機の普及を許さざるを得なくなった。それがゴーストである。モビルドールが厳しく規制され、条約で新規開発も既存機の運用も禁じられているのとは対照的に、航空パイロットの育成費用の節約などの理由で、ある程度の普及を見た。だが、軍隊の質の低下と等価であり、今度はそれへの対処を進めざるを得ない状況になるという泥縄的対応であり、ある軍高官は『こんな事なら、VF-171なんて採用するんじゃなかった』、『先輩方の時代のように、AVFに体を適応させる訓練を積ませるべきだった』と、有人部隊の練度低下を大いに嘆いたという。地球連邦軍がAVFを敢えて再度の生産に踏み切った政治的背景はこのようなものであった。故に、無人兵器の盲点をこの世界の人々に見せ、その発達の根を摘もうという考えが地球連邦政府にあるのだと説明する。地球連邦政府の老婆心といえばいい。『戦争はあくまで人の血が通ったものであるべき』という、血なまぐさい殺戮を繰り返した地球連邦政府の最後の良心とも言うべき思想は、以後のウィッチ世界に多大な影響を及ぼすのであった。


『よし、OTMのおかげで宇宙空間にも行けるから、このまま月を見に行くか?』

『いいのか?』

『構成部材は熱核バーストタービンとエネルギー転換装甲に変えてあるから、その稼動テストにちょうどいいさ。それに、ガ◯ーリンに先取りしたいしな。あ〜、管制塔?こちらファルコン1。ファルコン2と共に月を見に行く。許可を求む』

『こちら管制塔。了解〜あまり荒く使わないでくださいよ先輩』

『黒田、データ集計の準備はできてるか?』

『Okです〜』

『よし、始めろ』

高度にOTMを導入したF-14Dは、宇宙空間にも出れる。グラマン社の当時の設計主任が見たら天地がひっくり返るほど驚くだろう。二機はバーストタービンを吹かし、一気に高度を上げる。瞬く間に対流圏界面を超え、成層圏、中間圏、熱圏、外気圏、宇宙空間へ達する。宇宙空間に出ると、そこには多少、大陸分布が未来世界と異なる地球の姿があった。

『どうですか、先輩方』

『うん、地球は青かった』

『まんまじゃないですか』

『しゃーねーだろ?いい台詞、これしか無かったんだから。しかし、朝鮮半島と中国大陸の辺りがすっかり緑がないな……』

『明の時代に滅ぼされてから、数百年は手付かずですからね。あそこには今でも、歴代王朝の遺産が手付かずのまま眠っているって噂ですよ』

『未来世界の考古学者が聞いたら狂喜乱舞するだろうなぁ。万里の長城も、長安や北京、南京も明代のまま眠ってるんだし』

『テキオー灯使っての発掘調査も検討されてますよ』

管制塔にいる黒田とこんな会話をする黒江。中国大陸と朝鮮半島は、明が滅んだ1644年で時が止まったままだと推測され、各都市の遺構が眠っていると推測されている。テキオー灯を使っての発掘調査も検討されていると黒田はいう。

『本当か?見てみたいものだな。私達が尋常小学校に行っていた頃は、中国なんて、歴史の中で滅んだ国の一つって扱いだったからな』

――中国が明代で滅んだ後、この世界のアジアは扶桑皇国のものとなり、事実上の唯一の大国となった。マルセイユなど、中国の『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』という故事を知らなかったほどで、如何に中国の認知度が低いかの表れであった。坂本も尋常小学校時代に習った程度だが、未来世界で食った中華料理が美味かったためか、興味をもったらしい。キャノピーの向こうには月も見える。この時代では夢物語の月旅行もその気になれば可能であるが、そのような場合ではない。



『データ取れました。帰還してください』

『了解。帰還する』

二機は15分ほど、扶桑皇国の南洋島の上の宇宙空間に留まった後、帰投した。黒江は月もばっちり撮影したらしく、原隊の飛行64戦隊に写真が送られると、隊員たちがその話題で持ちきりになったとの事。



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