外伝2『太平洋戦争編』
第九話


――ミッドチルダ動乱をきっかけに急速に進められた扶桑軍機械化。その過程でふるい落とされた旧式装備(九五式軽戦車及び九七式中戦車系列)は未来世界に外貨獲得手段として売却されたり、太平洋戦争で囮代わりに廃棄されたりする道を辿った。陸軍はその過程で大陸打通作戦を諦めざるを得なかった。太平洋戦争がなければ、1946年をめどに大陸領土奪還作戦を起こそうと構想していたからだ。だが、現実に大陸打通作戦を行うには膨大な戦力を必要とし、政府高官からは『机上の空論』とされていた。そのため、吉田茂総理は『陸軍の阿呆共の夢想には付き合えんよ』と友人に語っていた。だが、それは大陸領土の放棄であると問題視され、1947年頃にゴシップ誌を賑わしていた。

――1947年 2月 南洋戦線 


「某新聞見たか?大陸領土奪還を煽ってやがる」

「あの新聞だろ?現有戦力じゃ大陸領土奪還なんて不可能だ。戦車も飛行機も機関銃の弾も、人も足りないんだぞ」

「マスコミ野郎どもがそんな事知ると思うか?全く、無能な味方ほど恐ろしい物は無いぜ」

扶桑皇国は戦前、ウラジオストクからウラル山脈近くまでのユーラシア大陸を領有していた。だが、大戦で喪失してしまい、陸軍はずっとその奪還を悲願としてきた。だが、その予定兵力は現実、太平洋戦争で使い潰す形となり、夢と消えているのが現状である。近代戦車は多数揃えると、維持費その他で軍事予算枠を圧迫するため、戦車保有数は戦前(扶桑海事変後)の構想より遥かに抑えられたというのが最近の皇国の実情だ。内部の実情からしてこうなのだから、とても大陸側領土の奪還など夢物語だ。黒江と坂本は嘆いた。

「箒のように、小宇宙に覚醒した上で、聖衣を纏う資格を得られれば一騎当千なんだがなぁ」

「お前の弟子のあれは事故のようなものだろう?それも先代の射手座の黄金聖闘士の残留思念が認めたのであって、教皇やアテナの認める正式な資格ではないはずだ」

「そうだ。正式には、招来的に現在の天馬星座の聖闘士が射手座を継ぐ事が確定している。だが、それには10年単位の年月が必要になる。それまでは空位の状態になるからだろうな。一時的に蘇ったアイオロスは聖戦後、黄金聖闘士の全員が死に絶え、それまで将来的に黄金聖闘士を継げる素養がある青銅聖闘士達に重責を負わすのを気に病んでいた。だからだろうな」

黒江は弟子の一人の篠ノ之箒が、亡き黄金聖闘士「アイオロス」の魂に認められ、射手座の黄金聖衣を纏う資格を得た理由を推測する。神がいるのなら、それは不滅の存在である。いずれは復活し、陰謀に平行世界をも巻き込む事も考えられる。しかしながら、侵攻を受けた先に、聖闘士のように生身で『神に抗える可能性がある』存在がいない場合、科学兵器では抗えるかわからない。それを危惧してのモノでもあるだろうと。彼が箒の肉体を使って話した言葉を思い出す。

「我らは過去、ある一人の黄金聖闘士の起こした内乱に翻弄され、聖戦を前に戦力を消耗してしまった。私を含めた何人もの黄金聖闘士、そして教皇も亡くなられ、年端もいかない若者らに重責を担わせてしまった。私とて、10代半ばにいかない頃には黄金聖闘士に任じられていた身故、あまり人のことは言えんが……」

アイオロスの遺志は確かに実弟のアイオリアや次代の射手座の黄金聖闘士となる運命を持つ星矢が受け継いだものの、それに対する罪悪感と、教皇になり損ねた身故の老婆心を覗かせた。

「我らの先代は245年ほど前、日本で言えばまだ江戸時代の頃の聖戦で、次期教皇とその親友除いて皆、死に絶えた……だが、我らの代はまだ幸運なほうかもしれん。黄金聖闘士こそ全滅したが、青銅、白銀は大半が健在なのだからな」

アイオロスは箒の肉体を通して、知った死後の聖域に安堵を見せた。(神の怒りに触れた彼ら黄金聖闘士だが、北欧神話の神「オーディン」の思惑による『救済』により開放され、どうにか冥土に旅立っていったのだが、次期教皇であるはずだった故、この世に強い心残りがあったアイオロスは地上にしばし留まり、偶然にも、仮初の器を得てしまったわけである。箒の意識は彼が宿っているときは『寝ている』ような状態であったが、彼の小宇宙や技の感覚などは記憶しており、彼の置き土産のような形で小宇宙に目覚めたのである。

「その後、どうしたんだ、その子?」

「元の世界に、報告のために帰る機会が一度あってな。その時だったな……あいつが初めて小宇宙燃やしたのは」

黒江は簡潔にフェイトと箒が遭遇した出来事の最終的な顛末を坂本に話す。自分も当事者だったからだ。経緯としては、その時、箒は幼馴染の織斑一夏への恋心を初めて吐露し、IS学園を襲った敵『亡国機業』を退けるため、織斑一夏を守るために、ISを装着解除に追い込まれつつも、最後の切り札として、オーディンの力を借りる形で、射手座の黄金聖衣を召喚し、その身に纏ったのだ。その際のIS学園側の驚きようは驚天動地もいいところとしか言いようがなく、天才の名をほしいままにする篠ノ之束でさえも、これには開いた口が塞がらなかったのが忘れられないと黒江は言う。ただ、黒江らが行った先の『聖闘士星矢の世界』はその中の数あるパラレルワールドの一つである事は判明しており、少なくともポセイドンとの戦いの後に、少なくとも2つの戦いがあったらしいのは確からしかった。

「それでどうなった?」

「決まってんだろ?哀れにも、敵はアトミックサンダーボルトとインフィニティブレイクを食らって、一人は半死半生、もう一人もボロボロになって、仲間連れて半泣きで逃げてった。IS纏ってなきゃ塵になってたの間違いなしの破壊力ぶつけられたからな」

「死ななかっただけ、御の字というやつだな」

箒の強い怒りが威力に反映されたか、必殺技の破壊力は歴代の射手座の黄金聖闘士に劣らぬものであり、光速の拳と矢の奔流を食らった亡国機業実行部隊の面々は自らに何が起こったのを理解できぬまま、撤退を余儀なくされ、撃退したと語る黒江。これには箒の仲間であるラウラ・ボーデヴィッヒは愚か、姉の篠ノ之束ですらも驚天動地となり、箒を質問攻めにしたという。黒江はその事件の顛末を話し、『空位の聖衣を纏えればなぁ』という願望を漏らす。坂本はため息をついて呆れ、「そりゃ贅沢ってものだろ」と諭したとか。








――この事件は『超弩級の打撃を一瞬の内に与えれば、ISも一撃で解除させられる』事実を見せつけたと同時に、束には更なる探究心を埋め付けた。箒の所業で実証された『誰でも、小宇宙に目覚める可能性はあり、才能如何によっては黄金聖闘士級の力を身につけられる』という点が、『何事も完璧にして、十分である』と自負する彼女には魅力であり、彼女を修行の道に走らせる原因となった。箒からは「姉さんなら双子座じゃないか?」と言われており、性格に二面性があるのを、暗に指摘されてしまう形となったという。箒が見せた『黄金聖衣の装着』は極秘事項と扱われたのは言うまでもないが、あまりに荒唐無稽であったため、報告書に書けるのかと、織斑千冬が頭を抱えたのも当然の成り行きであったという。黒江はこの事件以来、更なる力を求めているのが坂本にも分かった。

「お前はもっと力を求めているのか、黒江?」

「ああ。上には上があるって、この数年で思い知らされたからな。どうせなら同じ次元に立ってやるって気持ちが無いといえば、嘘になる」

「お前って、そんなキャラか?」

「自分のキャラみてーなもんなんて、数年前にかなぐり捨てたさ。未来で生きるって事はそのくらいのことなんだ」

黒江はもはや、自分の言動などが以前と大きくかけ離れたものとなっていたことを自覚し、自嘲気味に話す。

「ヒガシのやつがオーラパワーに覚醒したように、私は小宇宙を目指す。理論上は誰でも燃やせるはずだしな」

「いいのか?」

「私は魔女としては、限界点に達した状態で固定されてるしな。ひっくり返っても弟子の奴らみてーな事はできない。だからこそ、別の側面からのアプローチで強くなるしかないんだ」

黒江はこの頃には、魔女としての自らの限界に気づいており、別のアプローチで強くなろうとしていた。それが聖闘士の力の根源『小宇宙』であった。

「お前の星座、誕生日でいくと……水瓶座だったな」

「そこまでの素養があればな。オーロラエクスキューションだよな、あの星座。かに座じゃなくてよかったぜ」

蟹座は聖闘士星矢世界では、どういうわけかギャグキャラポジ且つ、噛ませ犬ポジションに甘んじており、蟹座のデスマスクの代では悲鳴が「あじゃばー〜〜!」、必殺技は効かないか弾かれる、みっともない態度を見せるなどの情けなさであった。ただし、デスマスクの先代に当たるデストールは顔はともかくも強者であったため、デスマスクの素養は先代には及ばなかったと推測されるので、あのような醜態を見せたのだろう。黒江が生まれた月の星座である水瓶座の聖闘士は、水瓶座のカミュが有名である。その地位は彼の弟子筋である白鳥星座の氷河が後年に継いだかは不明である。

「蟹座なぁ。どうしてギャグポジなんだ?」

「さ〜な。黄金聖闘士になるには素養も作用されるからな。だからアイオリア達は幼年でも任命されたんだろう。青銅から一気に黄金に任じられた例もあるっていうしな。設定とは裏腹に、白銀聖闘士は軽んじられてる」

聖闘士は順当に昇格していけば、青銅聖闘士から白銀聖闘士になるのだが、作中では星矢や、老師・童虎、先代教皇のシオンのように、飛び級で任じられた例しか見受けられない。それどころか白銀聖闘士は主要人物の関係者の二人除いて、噛ませ犬ポジである場合が多い。一応、黄金聖闘士級の実力があるとされる者もいるのだが……。

「本当になぁ。あれがアニメなどで現役コンテンツだった時代、子供達の間で星座のランク付けがされてたし、実在した世界でも地味に実力差あるし」

坂本は星座が乙女座であるため、地味に聖闘士星矢世界での最高ランクである。そのためか若干、安堵したような口ぶりであった。

「さて、雑談はここまでだ。宮藤の奴らから報告電があったんだが、サウスダコタ級と砲撃戦があって、西沢のやつが小隊率いて、制空権をとったそうだ……っておーい。坂本ーー?」
坂本は西沢が空戦で指揮を取っていた事を知ると、茫然自失となり、上の空となってしまった。西沢は坂本らから『士官・指揮官適正無し』と見られていたが、実際のところは天性の才能があり、既に中尉に任じられている。

「誰だ……誰だ!あいつを士官にしたのは!」

「お上だけど?」

「……は?なんでお上が?」

――お上とは、大元帥たる昭和天皇陛下のことだ。指揮権は内閣総理大臣に移譲したとは言え、形式上は大元帥のままであり、人事権にも影響力は保持しており、西沢の昇進は天皇陛下の一声が原因なのだ。軍内では「お上」という隠語で表されている。

「お上があいつの戦果見て、なんか言ったんだって。それで首飛ぶと思った人事関係者が特進させたんだよ」

「で、あいつは?」

「別に、お前らが知ってる時と変わらないってさ。ただ、面倒見いいから、菅野は姉御って言って、子分してるし、宮藤にも結構面倒見てるぞ」

「何ィィィ!?」

坂本は愕然となり、目が点になる。これを西沢が知ると、坂本をどついて怒ったとか。こうした一日が基地であった事など露知らぬ芳佳たちは、サウスダコタ級と航空戦艦化した武蔵との激突を味わい、生き残ったという。太平洋戦争の様相が次第に総力戦の様相を呈するようになる中、黒江は力を求める。箒が身につけたように、小宇宙を。それは黒江が魔女としての自らの限界に気づいている故の哀しさの裏返しでもあったが、ここから更なる修行に励む事になる。それが坂本を通して、三羽烏の他の二人に伝えられると、納得の表情を浮かべたという。




――坂本はこの後、三羽烏のような『あくまで戦士で居続ける』選択肢は取らず、戦争中は空母航空隊の指揮管制官をし、更に魔女の指導者になる道を取った。それは恩師への恩返しも兼ねてのものでもあり、1950年代には空・海軍の教導隊教官として腕を奮うのであった。それがどんなものであるかは別の物語……。






――ミッドチルダ動乱を経験したシャーリーは太平洋戦争の戦乱が激しくなってきた頃には『亡命リベリオン空軍少佐』となり、同軍中でも優秀な将校となっていた。F-86に機種転換し、ロマーニャからの義勇軍として参戦したルッキーニを従え、空母にいた。

――空母 

「しかし、まさかこのあたしが扶桑と祖国の戦争に加担するたぁ思ってもなかった。だけど、今のリベリオンには正義はねー。やってやるさ。例え、昔のダチを倒そうとも」

シャーリーはこの年には19歳を迎え、かつてなら引退を促される年齢である。だが、亡命リベリオン軍の人手不足により、若返ることを余儀なくされ、今や15歳の頃の姿に戻っていた。そうまでして戦わざるを得ない事実。南北戦争のように、同胞が血を流し合う現実と対峙せざるを得なくなったためか、どこか悲しげな表情さえ見せるようになっていた。

「シャーリー……」

「アムロさん達は人の心の光を見せた。箒は心に宿った小宇宙を燃やした。なら、あたしもやってやる。奇跡ってのは起こすもんだからな」

シャーリーは体験から、人の思いが奇跡を起こすという事を実感し、自身もそれを起こそうとしているらしき言葉を残す。それは彼女本来のポジティブさが成せる業でもあった。諦めないかぎり奇跡は起こせる。それがなんであれ、運命の導きのままに戦うことこそが自らに残された最後の道であると自覚したシャーリーはその後、運命の導くままに太平洋戦争を、次いでベトナム戦争を戦い抜いていく。退役の際の最終階級は准将で、『ウィッチとして初めて音速を超えた』名誉を得、また、軍曹から将官まで登りつめた例としても後世に名を残し、最終的には4人の子持ちになり、円満な家庭生活と老後(とはいうものの、外見は若いままだが)を送ったという。


――2009年頃、再統一後のリベリオン合衆国の施策で少将に名誉昇進した際、余生を送っていた彼女、F-15を操縦して曲芸飛行を見せ、グラマラス・シャーリー、未だ健在を示したとの事。この頃には、元・501メンバーの多くは寿命や病気で亡くなっていたが、未だ長命を保っていた残りのメンバーが招待され、それを見届けた。そのメンバーらで、2005年に死去したペリーヌ・クロステルマン、2000年に死去した坂本美緒らの墓参りを行ったとのこと。奇しくも、この年にはシャーリーにひ孫が生誕(2番めの孫娘の子)した事もあり、運命のめぐり合わせを実感したという。その際、シャーリーは生存しているメンバーが減ってしまったことを寂しがったと、長女は日誌に書き残したという。



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