外伝2『太平洋戦争編』
第二十三話


――太平洋戦争も戦火が激しくなり、次第に南洋島は戦火に包まれた。ティターンズ政権となったリベリオンから、遂に大陸間弾道弾が撃ち込まれ始めたからだ。

『本日未明、リベリオン本土から撃ち込まれた大陸間弾道弾が〜町に命中し、多数の死者が……』

ラジオから流れるニュースに顔を曇らせる黒江と圭子。

「大陸間弾道弾の初期型じゃねーな。間隔が短すぎる。『ミニットマン』でも作らせたと見える」

「今の技術じゃ、大陸間弾道弾を撃ち落とすのは連邦任せだしねぇ。富嶽改で報復するそうよ」

「シアトルでもやるのか?」

「らしいわ。東海岸は防空網が整備され始めたから、サンフランシスコとサンディエゴがぶっ飛んでる西海岸の都市をやるそうよ。こっちじゃ大陸間弾道弾は試験にも入ってないし」

――戦争は遂に、戦略兵器での報復戦の様相を呈し始めた。ティターンズがリベリオンに技術指導を行う形で大陸間弾道弾を実用化(ただし、通常弾頭)させ、それを使用し始めたのだ。これに泡を食った扶桑軍は、戦略兵器としてのミサイル研究を慌てて開始したものの、その研究段階は初期段階であり、ティターンズのような実戦配備は夢のまた夢というような状況であった。そこで急場凌ぎの策として行われたのが、戦略爆撃機の配備数増大と、次期主力戦闘機『F-4E』の量産前倒しであった。

――南洋島の中央部最大の航空基地に配備された最新鋭のジェット戦略爆撃機『飛天』。富嶽のジェット化が目的のプロジェクトであったが、B-52をコピーする事で落ち着き、量産された。ミッドチルダ動乱で試験が行われた後、B-36、B-47への対抗もあり、緊急に量産がなされた。高価ではあったが、従来の銀河や一式陸攻、100式重爆、四式重爆などの旧式化もあり、それらの多くを置き換える戦略爆撃機として量産され、この昭和22年には、銀河や一式陸攻を駆逐しつつあった。これは空軍の設立で、亡命リベリオンから戦略爆撃のドクトリンが持ち込まれた事で、海軍独自の思想で造られた陸攻が不要となった事や、戦略爆撃機には『搭載量が重視される』からであった。

――当時の最新技術であるターボジェットエンジン(ターボファンエンジンは実証段階)が唸りを上げ、巨体を空へ舞い上がらせていく。目的はシアトルやポートランドなどの残存する、北リベリオン大陸西の大都市である。護衛機は当時の新鋭機である『F-4E』だった。飛天の空中給油機型『富士』が途中で展開し、空中給油を行う体制を整えた上での戦略爆撃だ。誘導爆撃が不能なこの時代、無差別爆撃にせざるを得なかった。そのため、シアトルへの人的被害は度外視していた。それを見つめる、海軍航空出身者の高級士官は、『あのような巨体が攻撃機に必要なのか?』と憮然としたが、時代はもはや、彼ら海軍基地航空隊閥が構想した戦闘を『時代遅れ』にしていたのである。特に、海軍陸攻閥の発言力を失わせたのは、史実太平洋戦争における『ソロモン諸島の戦い』の散々たる陸攻の有様が連邦軍から伝えられた事だった。陸上攻撃機(空軍の設立後は超重爆、重爆などに変更)の今後の仕様は空中給油機・早期警戒機に転用可能な大型なものに変更され、更に早期に一式陸攻らを前線から下げる(銀河含め)決定がなされた事、更に彼らが侮った『連山』が増産され、ミッドチルダ動乱で活躍を見せた事にも立腹したが、太平洋戦争の情報には顔面蒼白にならざるを得ず、彼ら海軍基地航空隊閥は陸軍航空出身者に比べると、冷遇されていたのだった。その戦略爆撃隊の護衛隊長は今回、智子だった。

「ったく、なんで私があんたとペアなのよ、那佳」

「仕方がないですよ。ハルカさんとペアのほうが良かったんですか?」

「うっ!それはそれで嫌だ……」

智子はこの時期には貴重な、『F-4戦闘機を操縦可能な人材である』故に、各部隊の要請に従って、数日間は出向するという生活を送っていた。F-4Eは複座型戦闘機なので、『戦闘機=単座』との認識のある古参の戦闘機乗りにはウケが悪いが、雷撃機や艦爆からの転向者には受け入れられ、多く乗り込んでいた。これは戦闘機のマルチロール化が始まったからでもあった。(同時に、艦爆・雷撃経験者も戦闘機に搭乗する事でもある)

「全機、爆撃隊を護衛して、シアトルまで届けるわよ。複座型に文句があるのはいると思うけど、電探が標準装備になってるんだし、時代の流れと思いなさい」

「了解です」

この時、弾道弾への報復に出撃した飛天は30機。護衛が30機と、ジェット時代にしては大編隊と言える編成だった。F-4のコックピットはこの時代、計器を整理できる集積表示可能なコンピュータは扶桑の技術ではできず、仕方なく、史実同様のアナログ計器主体の構成である。デジタル化されきって、グラスコクピット化されたコックピットに慣れた智子としては『面倒くさい』旧式の構成としか思えないが、この時期としては最新型のアビオニクスである。

「もう〜、グラスコクピット化より前の世代のアナログの奴は面倒いったら……」

「レシプロより数段楽なんだから、ぶーたれない。それに、コンパスは故障してないんでしょ?大丈夫ですって」

「あんた、地図見ると逆方向に行っちゃうような方向音痴じゃ?」

「こういう飛行機の時は大丈夫です!命に関わるんだし」

と、ぶーたれる黒田。地図が読めないのが泣き所だからだ。しかしながら、飛行機などの航行計器はちゃんと扱える不思議なところがあり、正確にリベリオン西海岸に向かっていく。

「先輩、レーダーに空中給油機の反応が。もうじきそっちでも視認できると思います」

「了解。各機、空中給油の手順を頭の中で反復するように。さて、腹を一杯にするわよ」

空中給油機がフライングブーム方式のパイプを伸ばし、給油を受ける航空機へ燃料を補給する。航続距離の長い機種が多かった扶桑では初めての実戦における空中給油であったが、皆が相応の訓練を受けたエースパイロットであった都合、スムーズに行われ、智子と黒田の機は真っ先に空中給油を終える。

「さて、これでシアトルまでひとっ飛びよ」

「敵はどんなの送り込んできますかね?」

「史実通りの機種を選んだなら、F-106じゃ?もうこっちの接近は掴んでるでしょうし」

そう。F-106は整備は難しいが、運動性が第二世代機としては高く、史実でも仮想敵機として活躍した。ティターンズには議会の横槍がないので、好きに機種を選べる利点がある(扶桑は以前に比して、議会の介入が増えたため、機種選定の際の説明は難儀となった)からだ。西海岸に達してしばらくすると、ティターンズ側からの要撃機が出撃した。意外な事に、F-100の編隊がまずは現れる。

「敵機です!」

「全機、爆撃機を守りながら戦闘するわよ。幸い、ミサイルの射程はこっちに利がある。全火器に火を入れなさい!……意外ね、100なんて。直ぐに制空戦闘機としては陳腐化した機種じゃない?」

「後々のセンチュリーシリーズよりは安価ですからね。106か104が普及するまでの場繋ぎでしょう。101は作んないだろうし」

「さて、行くわよ!」

智子に取って、これがベトナム戦争後期までの15年ほど搭乗する、F-4Eでの初空戦であった。F-4Eはこの当時、最高レベルの敏捷性で、F-100を遥かに超える運動性を持っていた事、ミサイル装備が優越していた事、強力な電探が備えられている事もあり、智子はF-100を翻弄する。

「さて、バルカンで蜂の巣にしてやるか。トリガーの引き具合を気をつけないと」

F-4Eには機銃が装備されている。史実同様のM61バルカンだ。機首を初期型より延長し、そこに搭載した。弾数は650発(扶桑空軍の要請で、若干ながら増加した)智子にとっては馴染み深い武器であるが、MS搭載型だったりするので、戦闘機搭載型は初めてではあった。幸運にも、連邦軍の計らいで電気式トリガーに設計が変更されていたため、空中で弾切れを起こすものは少数だった。

「ふう。オートスイッチに変更されててよかった……。いつもの感覚だと、今のでカラだし」

「ですね。バルカンは連射性能いいですから。今ので何発使いました?」

「90発。バルカンだし、あんまり節約は出来ないわね」

「HUDは近代化しないと無理ですからねぇ。コイツは」

「まぁ、しばらくはコイツで戦うことになるから、我慢ね。おっと、スパローを使うわよ」

「戦闘機に当たります?」

「サイドワインダーじゃ距離がありすぎるし、テストはしないとね」

智子は兵装をスパローミサイルに切り替え、撃つ。これは元来はリベリオン軍がカールスラントがジェット機を実用化した前後、『プロジェクト・ホット・ショット』と呼ばれた計画で試作されていたのが、実用化後のデータを保有する地球連邦軍の技術指導で、扶桑皇国軍が制式採用した『空対空誘導弾』である。史実での実用化後の形式で生産されているため、命中率はテスト中は60%ほどを記録した。(実戦では40%程だろうとの事)ミサイルは標的となったF-100へ向かう。リベリオン本国もチャフやフレアの普及に至っていないためと、練度がイマイチなのもあり、命中した。

「あっさり当たりましたね」

「相手の練度が低いのが幸いしたわ。各機、状況知らせ」

通信によれば、敵ミサイルの流れ弾で爆撃機の3機ほどが落伍したが、なんとか作戦に支障はない程度の損害で済んだが、その後直ぐに迎撃機の本命がやって来る。

「F-106の編隊が接近!」

「本命が来たか!型式は?」

「えーと……待ってください。多分、後期型の機銃搭載仕様です!」

「核がないから、その仕様で作ったわね。各機、今度のは100とは格が違うわよ!心してかかって!」

「了解!」

扶桑のF-4Eは、F-106に襲いかかる。互いに機銃を搭載した仕様で生産された第二、第三世代ジェット戦闘機の対決となった。F-106もバルカンを積む仕様である故、ミサイルに頼らずに機銃で雌雄を決する光景があちらこちらで見られる。

「これで終わりよ!!」

智子は高度の優位を活かし、急降下でF-106の頭上からバルカン砲を叩き込む。引き落としの際も、ジェット戦闘機の強度はレシプロ機よりも数段上なので、ラフな引き起こしの操作でも空中分解しないので、その点は安心できる。

「これでスコア更新ですね」

「まーね。ミサイルを思ったより使わないわね、みんな」

「命中率が信用出来ないし、違和感あるからかも。引き金引けば当たるなんて」

「そうよねぇ。フリーガーハマーも、サーニャレベルの熟練者でないと当たらないし、それを知ってるから、宛にしないんだろなぁ」

そんな事を言いつつ、空戦で優位に立つ智子であった……。


――同時刻 64F基地 執務室

「お、サーニャか?親父さんの手紙は届いたか?」

「は、はい!ありがとうございます!で、でも、どうやってお父さま達を!?」

「私のツテに忍者がいてな。その人たちに探してもらった。驚いたろ?」

「ベースジャバーで空挺降下してきた時には、何かと思いましたよ……」

サーニャが扶桑に国際電話をかけてきた。黒江の私用の電話機にかけてきた辺り、休暇を取って電話したのが分かる。

「ハハハ、あいつらしいや。前にお前が親父さん達のことが気がかりだって言ったろ?その時に思いついて、ツテを頼ったわけだ。」

「どういうツテなんですか……?坂本少佐も言ってましたけど」

「あいつが思ってる以上に、空軍で高級将校なんてしてると、コネは自然とできるもんだ。あいつは上の連中に取り入る事をしないと言おうか、嫌な事があると、感情が顔に出るからな。敵を作りやすい性質なんだよな」

黒江は青年期の坂本の性質をそう評した。井上海軍次官から話を聞き出しておいたからだ、彼曰く、昔のリバウ航空隊時代、機材補充の件で揉め事が起こった際、物凄い剣幕で本土からの担当官を睨みつけ、その担当官をお漏らしさせたとの事。この出来事で、坂本は補給などの交渉に向いていない事が明らかとなり、その後は温和な竹井が担当する事になったという。それを聞いた黒江は思わず、「あんのバカヤロー……」と頭を抱えた。坂本は感情的になりやすい故、後方で交渉や折衝を行うのには向かないのだ。

「坂本少佐って、交渉とか向いてなさそうですものね」

「お前も知ってると思うが、501が休眠になる時の通達に来たモントゴメリー将軍が嫌味言ったろ?坂本、あの人を殺しかねない勢いで睨んだんだよ。井上さんが止めなかったら、殴りかかってただろうな。あの後、てんやわんやして、あの人は降格処分になったよ」

坂本は20まで前線に立ち続けた。その事でモントゴメリーは軽く嫌味を言ったつもりだが、坂本の想いを否定するに等しい物言いだったので、坂本の逆鱗に触れてしまい、あと一言でも多ければ殴打間違いなしのところだった。その場は井上海軍次官が収めたが、あからさまな傲慢ぶりに、その場のウィッチは怒り、後で圭子がアイゼンハワーに連絡し、訓戒処分にしてもらったが、話を聞いたアイゼンハワーやパットン、ロンメルも「そりゃないだろ!」と大いに憤慨し、それはなんとチャーチル、ひいてはブリタニア国王の耳に入り、彼は国王直々の激しい叱責を受け、一年の謹慎処分になされた。傲慢が服を着ているとも言われるモントゴメリー将軍も、ブリタニア国王直々の叱責を受け、異例であるが、中将への降格処分と、謹慎処分期間中の未来への留学を言いつけられたという。これはあまりに傲慢がすぎると、ジョージ6世国王も激怒したためで、連邦との協議の結果、ジオン残党狩りの最前線送りになったという。

「降格処分?そんな事可能なんですか?」

「今回ばかりは度が過ぎてたし、ブリタニア人の皮肉にしては悪質すぎる。それを鑑みて、降格処分と、未来のジオン残党狩りの最前線送りにしたらしい。まぁ、自業自得だが」

「ですね」

「お前の親父さん達の事に戻るが、ちょうどお前が手紙を渡したいと言ったその日に、ウチの海軍の森下信衛少将に電話して、彼の秘書として働いてる艦娘を動かしてもらったんだ。金剛と榛名を見たから、わかるだろ?」

「はい。あの時の坂本少佐、凄く渋い顔してましたね、そういえば」

「まぁ、金剛のキャラがあれだしなー。あいつは軍艦には凛々しいか、逞しいイメージを持ってたし、長門が実際にそうだから、金剛もそうだと思ってたんだろう。しかも、金剛は最古参の戦艦だし。それが『〜〜デース!』なんて言う元気っ子だったから、がっかりしたところもあるだろうな」

坂本は金剛の振る舞いに面食らうと同時に、シャーリーと同枠の性格なのには肩透かしを食らったところが大だと分析する。生まれを考えれば分かると思うが、扶桑(日本)で終始運用された事を重視し、ブリタニア被れと取れる態度は納得しかねたのだろうとも。

「なるほど」

「それで、お前の親父さん達を探した艦娘だが、川内型軽巡洋艦のネームシップ『川内』だ。忍者の修行を積んでいたから、人探しに持って来いだった。それで、何人かの忍者ヒーローと情報交換とかしながら、今年に見つけ、手紙を書いてもらった。その足でベースジャバーを使って、お前に手紙を届けたって訳だ」

川内は空挺降下でサーニャのもとに現れたのだが、その服装(忍者テイスト全開)などから、サーニャに同伴していたエイラに警戒されたが、『お手紙ですよ〜!』と言っていた事や、自分が連合軍司令部付の秘書官であると明かし、手紙を渡すことに成功したのだ。

「本当にありがとうございます……お父さまとお母さまを探してくださって……」

「なに、お安いご用さ。川内にも伝えておくよ。そういえば、お前、今は何を使ってる?レシプロが陳腐化して、ジェットに機種変更したんだろう?」

「MiG-19です」

「いきなり19?早いな。15かとも思ったんだが」

「15は欠陥があって、テスト中に殉職したウィッチが10数名にも上ったんです。そこで急遽、連邦から19の技術をもらい、それを魔導ジェットエンジンで再構築した機体が採用されたんです」

「なるほどなぁ。それで19か。お前ほどのウィッチを欠陥で殺すわけにもいかんからな」

「エイラも私の予備機を使ってます。スオムスはジェットを扱える整備士は育成途中なので、こちらで整備できる機会は少ないんですよ」

急激なジェットエンジンの普及は、各国軍の航空装備の運用費用を飛躍的に増大させた。その為、通常戦闘機の更新と、ジェットストライカーの双方を両立できる国は、扶桑、ブリタニア、亡命リベリオン、ガリア、カールスラントの五大国に限られ、国土の多くを制圧状態のオラーシャ帝国には荷が重く、サーニャやサーシャなどの一部のエースパイロットのみに、ジェットストライカーが与えられていた。しかも、ジェットエンジンを万全に整備可能な技量の整備士の育成に手間取り、(これはジェットエンジンの問題でなく、レシプロと根本的に構造が違うジェットに戸惑う者が多かったためでもある)連邦や時空管理局のメカニックが出向いて整備を行うのもままあったのだ。

「だろうなぁ。それもあって、上は連合軍の軍備の平均化も行いたいが、既に各国で独自の装備が揃えられて、ドクトリンも違うのを統一はしきれないのを敵に露呈しちゃったしな。向こうの東西冷戦下のように、ある程度は兵器を一本化したいのがアイゼンハワー大統領の思惑なんだ」

「一本化?」

「そうだ。本来は各国の兵器更新の時期に合わせて、リベリオンの戦車などをレンドリースして、兵器を一本化する思惑がアイゼンハワーとかにはあったんだ。まぁ、政治的抗争で無理だし、独自の兵器が既に流通しちゃったから、無理なんだけどな」

アイゼンハワーは連合軍の保有兵器を、ある程度は一本化したい思惑を持っていた。戦車一つ取っても五大国の国籍ごとに整備要領が違うので、整備班の新兵の育成に手間取るという難点があり、(ブリタニアと扶桑はかなり規格統一はされていたが)それを解消するために兵器の統一を構想していた。だが、結局はリベリオンの分裂で水の泡と消えた。地球連邦軍の協力で、輸送機などの分野での統一はなりつつあるが、戦闘兵器の統一は小銃弾の規格統一などで実現はしているが、理想には程遠い。

「レンドリース?」

「そうだ。武器貸与法ともいうが、本来は扶桑にも武器を提供する手筈だったらしいが、扶桑は軍需産業の反発で、一部サンプルの輸入に留まった。P-51の購入とか。ブリタニアが大々的に受け入れたのは、『金がないし、武器も足りない』からなんだ。これでブリタニアに恩を売ったんだが、それが打ち切られたのが、アフリカを維持できなくなった要因の一つだ。なんだかんだで、リベリオンの兵站システムは今の時点での最先端だったしな」

――そう。連合軍が大規模攻勢に出れなくなった背景には、多くの軍事大国で兵站面の研究が立ち遅れていた(特に扶桑)ため、自国の生産能力を無視した作戦を立ててしまう参謀を連邦が制止したからだ。リベリオン軍の離脱に伴い、物資の確保が難しいとされ、中止された攻勢作戦も多い。

「『腹が減っては戦はできぬ』って言葉がこっちにある。腹いっぱいに飯食えない状況じゃ戦争なんて出来ん。実際に、オラーシャ遠征のナポレオン軍とかがそれだったしな」

「世界はこれからどうなるんでしょうか?」

「東西冷戦だ。40年位続く、な。リベリオン本土を制圧するほどの兵力はどう考えても確保できないし、向こうのほうが兵器の平均世代は上だ。戦車一つとっても、パットン戦車に代替わりしてるしな」

「それで攻勢が断念されたんですか?」

「そうだ。向こうはその気になれば、一年で正規空母を30隻は造れるくらいの工業力がある。それで各兵器を全力で生産されたら、全ての点でおっつかん。こっちの海軍の総兵力を5年あれば2個は造れる資源と、工業力は脅威だからな。それと人種差別が表面化しちまったのもある」

――リベリオンの工業力を鑑み、また、アフリカなどの影響下の地域で石油開発(シェールガスなども)も行う点を考慮すると、どうしても攻勢は出来ないという結論に達する。リベリオン国内では有色人種と白人の対立が表面化したという報もあり、ティターンズに与した有色人種らが、総力を上げて反攻してくる危険も大きかった。

「人種差別?」

「あそこは人種の坩堝だ。矛盾も多いんだよ、政治的にな。そこをティターンズは突くことで、トルーマン政権を崩壊させた。たぶん、この戦争はティターンズの意向で始められたんだろう。ウォレスは平和主義だから、対外戦争は嫌がるはずだしな。もっとも、国民はそんな事を許さないがな」

黒江はティターンズの傀儡国家故、ティターンズの意向には逆らえないリベリオンの事情を読んでいた。しかしながら、若干ながらずれているところがある。それは本質的に『領土や影響力の拡大』を国是としてきた、リベリオンが、平和主義者が大統領になった程度で自制する国家ではないのだ。

「国民は……って?」

「フロンティアスピリッツだよ。あれを考えてみろ。他人の土地だろうが、分捕って自分のものにしてきた国民性だぞ?ウォレスにそんな国民性を御することは不可能なんだ」

「凄い国民性ですね。それって」

「未来の映画で『ソルジャー・ブルー』っつーのであったが、あそこは民族浄化みたいなえげつない事も平気でやるからな……。狂気の沙汰だよ」

黒江は、のび太の時代にいる時に、のび太の街の名画座でリバイバル上映された『ソルジャー・ブルー』(西部劇ながら、当時の暗部を描いた意欲作)を見ており、西部開拓時代の暗部について考えさせられた事がある。そのため、あらゆる手段を用いてくるであろうリベリオン軍を恐れているような節があった。

「黒江中佐はリベリオン政府を恐れているんですか?」

「ああ……。副業で空自の隊員してるから、余計にそう感じるんだろうけど、奴らは日本本土決戦の暁には、毒ガスや枯れ葉剤、核兵器に至るまでのあらゆる手段で日本民族の全滅を図っていたしな。それにネイティブ・リベリオン相手にサンドクリークの虐殺やらかした国でもあるしな。この世界は昔みたいに、怪異相手だけの有る意味お気楽なウィッチは生きていけない世界になっちまったって事さ……」

「中佐……。」

黒江は、ティターンズの攻勢の際に、大切な教え子たちを『失った』。それ故、ウィッチ達の『ウィッチは怪異だけが相手』とする姿勢に警鐘を鳴らしてきた。そのため、最近は同期や先輩、後輩らの一部では『変わり者』との陰口も叩かれている。本人も『20超えで前線に戻った』事で、周りから奇異の目で見られたことなどを指して、変わり者であるのを自覚している。黒江は教え子たちを失う事で『大切なモノを守るためには何をするべきか』と考えるようになり、ロンド・ベルに在籍したことで、それをより深く考えた。やがて、『大切な何かを守る事から逃げない』事を芳佳から、『大事な想いがあるのなら、最後まで貫き通す』事をなのはから教わる事で、自らの姿勢を見だし、黄金聖闘士にまで上り詰めた。

「ありがとうよ、こっちの愚痴も聞いてくれて」

「いえ。私にできる事なら、なんでも。お父様達に返事を出す時は川内さんに渡せばいいですね?」

「おう。川内をお前らのボディガードにつけるから、気をつけろよー」

「ありがとうございます。それじゃ、失礼します」

サーニャとの電話が終わると、伝令が報告しにやって来た。

「中佐、シアトルへの戦略爆撃は成功したとの報告電が入りました」

「そうか、ご苦労。帰ったら、穴拭と黒田にブリーフィングルームに来るように伝えてくれ。詳しい報告が聞きたい」

「了解です」

「さて、今だ!」

伝令の兵士が部屋から出て行く。それを確認すると、机に23世紀の未来デパートのタイムマシンの販売カタログを置き、吟味する。ドラえもんにいちいち頼むのも悪いため、自前でタイムマシンを買うことにしたのだ。

「釣り竿も餌も我慢して溜めたへそくりだと……やっぱり中古だなぁ。新品は無理だ」

23世紀最新のタイムマシンともなると、タイムパトロールが先行して使用した潜水艇型や飛行機型、翼竜型なども多く見られるが、それらは車で言えば、『ポルシェやフェラーリ』的なスポーツタイプだったり、『ベンツやリムジン』のような高級車で、値段が高い。黒江がこの一年半、禁断症状が出る寸前になっても我慢して貯めてきたへそくり(空自及び、連邦での給金の一部も回した)では、新品ではドラえもんの持つ『風呂敷』型の改善型が限界である。

「中古のチューリップ型でも買うかなあ。次元乱流に巻き込まれるの怖いし」

黒江は丸印をカタログに書き、後日に未来デパートに注文した。その事前準備に、23世紀でタイムマシンの免許を取り、整備要領も習うなどを行い、保険にも加入するなどの手続きを済ませたとか。それから半日後、智子らから報告を受けた。

「そうか。相手の本土防空軍団にゃF-106が配備され始めたか」

「あれは結構動きがいいわ。仕留めるのに手間取ったわよ」

「ありゃ仮想敵としても相当に働いたくらいだしな。センチュリーシリーズ最後の雄は伊達じゃないって事だな。損害は?」

「爆撃機の不時着が6機。高高度から絨毯爆撃したから、対空砲火による損害は無いわ。シアトルにしこたま爆弾を落としてやったわ。ピンポイント爆撃ができれば、絨毯爆撃やんないで済むんだけどな」

「しゃーねーさ。正確なピンポイント爆撃をするには、相応の電子技術の発達が必要なんだ。最低でもベトナム戦争相当までまたねーと無理だろう。今のコンピュータのビット数は8ビットも無いし。初代ファ◯コン以下だぞ」

「なるほど。先輩、出来たら買うつもりですね?」

「あたりまえだろ。未来の家にゃゲーム機置いてるし」

意外な事だが、三羽烏の未来での邸宅にはTVゲームが置いてある。仕事柄、あまりやれないが、結構楽しんでいるのが分かる。

「あ、それと。敵は思いがけないところから迎撃機を出して来ました。市街地からも出してきたんです」

「何?市街地から?ジェットの運用にゃ相応の滑走路が必要なはずだぞ?」

「私も驚いたわよ。なんかカタパルトとかで打ち出されてきてさ」

「うーん……どっかで聞いたな〜そういうの。なんだっけ……。」

「ZELLじゃない?」

「フジ、上との交渉は終わったのか?」

「今、帰ってきたところよ。前に資料で見たけど、ゼロ距離発進装置を使ったんじゃない?東西冷戦下じゃ、本気で研究されてたし」

――ゼロ距離発進。それは、東西冷戦下で研究された離陸距離を短縮させるための技術。地対空ミサイルの実用化で立ち消えたが、『戦闘機を手っ取り早く離陸させる』利点がある。武子が指摘したのはそれだ。

「あ〜〜!思い出した!東西冷戦下の時にあったな、そういうの!立ち消えた研究だから、気にしてなかった。確か、カタパルトとロケットブースターで離陸させる荒い方法だったな。それで迎撃したんだな」

「ほんと、思いがけないところで迎撃されたから、若い子たちが泡をくってさ。F-106に3機くらい食われたわ」

「と、なると、6人は捕虜だな。意外な方法で来たもんだ……。敵はF-100とF-106で迎撃してきたんなら、そのうちに106で統一されるか?」

「あ、それだけど、敵はF-107の改良型を作って、F-4までの繋ぎにしてるっていう情報が入ったわ」

「何、F-107?マニアックなの選んできたな?その改良型というと……さしずめ、愛称は『ハイパーセイバー』だな。データがない機体だからという利点で選んだな」

――F-107。F-100の後継機と目された戦闘機で、史実では試作機止まりであった。その更なる改良型を作る意義は、F-4までの繋ぎと思われるが、同機の背中のエアインテークが廃され、エンジンが更に強化されれば、第二世代機として有力になり得るのだ。


「F-4までの繋ぎだと推測されてるし、私もそんなに生産はされないと思うけど、F-100とF-107のメガを潰した機体にはなるから、なかなかの強敵になるかも」

武子の見解はそれであった。

「うーん。未知の機体だと、連邦にもデータがないし、意外な強敵になるかもな」

黒江も同様に、警戒を見せる。扶桑空軍戦略航空団の強敵になるかもしれぬ『未知の機体』が生産されつつあるという諜報情報は、彼女らを警戒させるに値したようだ。

「写真は無いのか?」

「敵は未来で言うところのNASAで試験を行ってるから、難しいみたい。主力設計陣が亡命した後の二流のチームが総力を挙げて作ったらしいとは掴んだらしいんだけど」

――その機体は後の記録によれば、ノースリベリオン『F-103』ハイパーセイバーとの名を持つ制空戦闘機で、史実で計画中止で開いている番号が与えられた機体だった。軽戦闘機として見るならば、当時としては高水準の性能であった事、設計が制空戦闘機としての原点に立ち返った事で、より次世代に相当するF-4Eにも引けをとらない水準の空戦性能(機体の小回りの良さなどでは上回る)を持ち、F-4Eと並び、本国側の主力戦闘機の一つとしての立場を保ったという。戦争終結後の50年代の後半頃、鹵獲機が黒江の手でテストされ、その機動性を評価したという。


――この日、シアトルは扶桑空軍戦略爆撃機の空襲を受け、市街に多大な損害を被った。リベリオン本国軍は、それへの報復として、直ちに扶桑皇国南洋島第三の都市に戦略爆撃を敢行し、扶桑本土へは大陸間弾道弾を叩き込む。叩きこまれた都市は大阪で、工業地帯に打撃を被ったという。これに驚いた扶桑皇国軍は、弾道弾迎撃網の迎撃網構築を急ぐのであった。


――戦略爆撃が主な目的とする戦略航空団の結成には、主にウィッチ閥から反発があった。都市への無差別破壊を『怪異と変わらない』として忌み嫌ったからだが、そのような理想論はティターンズの戦略爆撃で吹き飛び、今や、エクスウィッチ(今や、エクスウィッチも現役に戻るものが複数生じたため、意味合いが変化した)から、戦略航空団の護衛に着くものが複数いるため、ウィッチ閥の影響力は以前より減じていた。特に、彼女らの発言力を増した功労者であるはずの三羽烏がウィッチの力に泥酔せずに、ウィッチ以外の力を身につけたりした(智子は従来のウィッチの範疇を超えた力を身につけ、圭子はゲッター線の加護を得、黒江は黄金聖闘士である。)結果、ウィッチ閥の右派の主張に説得力が無くなったのである。彼女らは嘆く。『どうしてこうなった』と。そんな者たちに黒江はこう返す。『テメーらの驕りが破滅を招いた』と。黒江はこれまで、二度に渡って、ウィッチとしての自らの力への無力感と絶望を味わったため、ウィッチの力の限界を悟っており、ウィッチ万能論に冷淡であった。『ウィッチは神ではない』と公言し、『ウィッチの力でダメならば、別の手段で対抗すべし』と説いていた。実際に、黒江は山羊座の黄金聖闘士としての力を振るうことで、強力な怪異を屠るために反論は出来ず、現役ウィッチからも『ウィッチとしての力一つに泥酔するのは馬鹿』という風潮が生まれ、更なる力を身につけるため、時空管理局に留学する者も多くなっていた。それがウィッチの現状だった。

――武子たちが話し合っていて、30分ほどが経過した時だった。

「失礼します」

「ありゃ?雁淵じゃないか。お前がどうしてここに?」

「申告します。雁淵孝美大尉であります。本日より、空軍64Fに配属となりました!」

以前は508に属していて、343空での菅野の同僚であった『雁淵孝美』が赴任してきたのだ。これには黒江も驚く。20を迎え、海軍から退役するという話だったのだが……。

「お前、軍を退役するんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんですけど、源田司令に引き止められまして。そのまま空軍に転籍したんですよ。空軍の軍服を新調する暇がなかったんで、海軍の第二種軍装のままで来ました」

雁淵孝美はこの時期にはエクスウィッチになったはずだが、源田実に引き抜かれる形で、若返りの措置を受けた後、空軍に転籍した。海軍の軍服のままであるが、軍籍は空軍に移っていて、認識番号も新規に割り当てられている。

「そうか。親父さんが……。そいや、一昨年にお前の家に行ったら、お前の妹がいたろ?あの子はどうしてる?」」

「ひかりはウィッチ訓練学校に入れました。発現したので。私みたいなウィッチになりたい!なんて言っちゃって」

「そうかそうか。そりゃめでたいこった。言ってくれりゃ祝電打ったんだけど」

「いえ、まだ訓練学校に入っただけなので。それにあなたほどの方が打つと、訓練学校も慌ててしまいますよ?」

「そりゃそうか」

「孝美、貴方も親父さんに呼ばれたのね?」

「お久しぶりです、穴拭先輩」

「直枝が気にしてたから、後で顔見せてやりなさいな」

「うふふ、分かりました。ん、どうしたんですか、先輩。その姿」

「戦略爆撃機の護衛の帰り。だから対Gスーツ着込んでるのよ。貴方も明後日から訓練になると思うわ。覚悟しといて」

「了解。それでは部屋に荷物を置いてきますので、失礼します」

雁淵は敬礼し、ブリーフィングルームを後にする。64Fに集められていく人材は陸海軍問わずの第一級であり、他部隊でのエース級がずらりと名を連ねている、『最強の飛行隊』と言っても過言ではない。だが、もう一つの一面もある。それは教育部隊としての側面で、飛行時間300時間ほどの新米を鍛える目的の第4中隊がおり、圭子や黒江、智子などが持ち回り制で講師をしている。服部静夏もそこで教育を受けている最中だ。輪郭は旧343空をベースに、旧64Fの編成を持つ『新生64F』は、軍内からは『前線からエース級を引き抜いてる!』と反発を食らっていた。特に、幹部に名を連ねたのが、源田実の子飼いとされる『菅野直枝』や、戦前から彼との関係が深い『陸軍三羽烏』(現・空軍三羽烏)なところを指して、『源田サーカス』、『源田飛行隊』と揶揄する声も大きい。『扶桑海事変を生き延びた古豪を複数抱える』と言うセールスポイントから、大々的にプロパガンダもなされていた。

――『我が軍の誇る飛行64戦隊は、扶桑海事変を生き延びた精鋭ぞろいの部隊である。我が国土を守護する名刀というべき部隊であり……』――

と。人材や機材の独占感が強いため、周囲からは反発が強かった。平時であればテストパイロットなり、教官に任じられて然るべき多くの人材を、戦時という大義名分で、一箇所の部隊で集中運用したのだ。反発は当然と言えたが、戦時故に容認されたところが大だが、この日の辞令は一部に反発を招いたのであった。



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