外伝2『太平洋戦争編』
三十一話『白き悪魔』


――連邦が太平洋戦争を思うようにコントロールできない背景には、元・反統合同盟構成国の21世紀時点での各国の間接的・直接援助がティターンズに入っていたという、思わぬ事実があった。『地球連邦は二度の世界大戦で勝ち組になった日英と、その友好国が支配的立場にいる』。この歴史的事実に憤慨したり、自国の23世紀での再興を狙ったりする国々の思惑が、ティターンズに利したのだ。これはウィッチ世界としては大迷惑もいいところであった。


――南洋島

「日本からの茶々に、ティターンズへの中露仏の援助、か。これで連合構成国の中でのオラーシャ、ガリアは苦しい立場で、扶桑は双子国からの茶々か」

「らしいですね、大佐」

「うむ。日本の左派は扶桑陸軍を陸自に毛の生えた数に押さえ込もうとしてるし、日本が連邦の筆頭理事国にのし上がる未来も気に入らないようだ」

「何故です?」

「日本の左派の奴等は、太平洋戦争で虐殺をやらかしたのは陸軍だから、扶桑陸軍も、日本列島を最低限防衛出来る程度にしていればいいと思いこんでるんだよ。南洋とウラジオストクも支配下にある以上、陸自程度の規模では防衛すら覚束ないのだがな」

ルーデルは、扶桑の地理に無知な日本の左派に呆れ返っているようだ。扶桑は日本列島よりもよほど広大な南洋島を領土として抱えている都合上、防衛に必要な兵力は機械化を推し進めたところで、陸自の有に倍の兵力を必要とするのだ。『日本列島を丸ごと数個持っている』に等しい広大な領土の皇国は、世界の安全保障の一端を担うので、侵攻作戦に割ける余裕もなければならず、日本の左派の言うような軍縮は不可能に近い。

「マルセイユ中佐、君は日本の左派に何か言ってやりたい言葉はないかね」

「ハッ。強いていうなら『バカヤロウ、オタンコナス!トーヘンボク!』ですかね。無知すぎて……」

「100年近くも戦争に無縁な世界だから言える事だが、ここまで無知だと、恥ずかしいレベルだな」

ルーデルは、扶桑にやってきた日本人たちが無知なデモを行い、そこに紛れ込んでいた、過激派が憲兵を『曾祖父さんか爺さんの恨み!』とリンチし、検挙されたり、『軍隊は住民を守らない』とデモし、扶桑国民に顰蹙を買い、カウンターデモで追い返されたのを目にしている。そのため、日本の左派に冷ややかな視線であった。日本の左派は、戦争経験者からすれば『戦争を知らない』者達だ。扶桑の国民はウィッチ達の使命に殉ずる姿を目の当たりにしており、戦後の日本人達の『事なかれ主義』然した態度は我慢ならなかったのだ。血を流さずに国際貢献を行えると思っていた戦後日本人の事なかれ主義と経済至上主義は、『戦前日本人』の憤激を買ったのだ。更に日本にとっての21世紀始めは、かつてのバブル期で頂点に達した経済力も陰りを見せ、国力が逆に衰え始める時代であるため、扶桑からの批判は図星だった。


――だが、扶桑にも『戦争を知らない』のを美徳とする者達は出現する。そして、その思想に染まってしまうのが、坂本美緒の子『土方美優』である。それが坂本の後半生の不幸なのであるが、この時の誰もが予想だにもしないことだ――。


「ああ、アムロ少佐か。そうか。君がこちらに……。何?シャア・アズナブルが……分かった。合流日時が決まったら連絡を」

「ロンド・ベルからですか?」

「ああ。アムロ・レイ少佐は知っているか?」

「地球連邦軍最強のニュータイプパイロットで、なおかつファーストガンダムのパイロットだったという?」

「そうだ。彼がこちらに派遣されるそうだ」

「それはまた、何故?」

「ネオ・ジオン軍の総帥『シャア・アズナブル』が、アフリカに駐留した部隊の視察に来るそうだ。それで、シャアを追ってくるわけだ。多分、機体はシナンジュだな。サザビーでは、性能的にHi-νガンダムには到底及ばんからな」

「具体的ですね」

「ナイチンゲールは宇宙用だ。それに、シナンジュは『Hi-ν』の設計に大きな影響を受けている。機動力は互角だろう」


シャア・アズナブルはアナハイムから得た新型機の内、『シナンジュ』を『ガンダムじみていて、ジオンにいる身としては気に入らんな』とし、ナイチンゲールの方を好んでいた。だが、サザビーを凌駕する機動力は評価し、『これがあれば、νガンダムをあの時に落とせていたものを』と愚痴る人間臭い側面も見せたシャア。対するアムロも、Hi-νをデザリウム戦役から継続して改装し、ユニコーンガンダムの技術を取り入れた操縦系、サイコフレーム導入箇所の増大、フレームと装甲の増圧など行い、更に装甲材をガンダリウムγの第3世代型主体の軽量複合素材に換装するなどの措置を施し、フォルムが幾分、マッシブとスマートを両立する外見になっていた。

「デザリウムとの戦いの経験で更に強化されたとは言え、シナンジュは難敵だからな」

ルーデルはアナハイムからのツテで、シナンジュのカタログスペックを入手していた。そのため、アムロがHi-νの性能向上に躍起になる理由も悟っていた。アムロは『これでサザビーを直しても勝てるぞ!』と思ってたら、シャアが『モビルアーマー級の機体作ったー!』、『アナハイムからなんかもらった!』では、性能向上をしまくるのは当然だった。そのため、アムロの改造策が全て成された後の機体は、理論上はツインバスターライフル、Sガンダムのスマートガンのフルドライブを使用可能なジェネレータ出力を有するが、出力配分の都合でビームシールドは見送られた。最も、ビームシールドはステルス性が損なわれるのと、フィンファンネルバリアを展開可能なのもあり、アムロが『搭載しなくていい』と言ったのもある。そのため、通常型シールドのままだが、ブースターユニットに加え、ハイメガキャノンを積み込むなどの強化のため、武装ユニットの体裁が強く、シンプルな機体を好むアムロにしては珍しいほどにゴテゴテした武装を携行させるあたりは、シナンジュよりもナイチンゲール対策が色濃い。

「HWSの試験も兼ねてるんだろうが、見てくれ。彼にしては珍しいほどゴテゴテした外見と武装だ」

「大仰過ぎませんか?」

「半分は宇宙用だろう。そうでなければ、追加装甲をもっと少なくするはずだ」

写真に写る『ヘビーウェポンシステム』に閉口気味のマルセイユ。だが、ルーデルの言うとおり、この仕様は宇宙用だ。地上だと、いくつかの装甲はなされない。そのため、長距離移動にはサブフライトシステムが使用されたり、可変MSによる運搬を必要とする。通常状態ならば、高い推力と軽重量で飛行は可能だが、HWS装備であると、それはできない。重量が大きく増すからだ。

「最近はMSを飛ばすことは可能になってきてるが、フル装備ではさすがに出来ん。だからこそ、貴官のΞが光るのだ」

「それは分かっておりますが、ティターンズがΞのプロトタイプを手に入れないか心配で」

「ペーネロペーの事なら心配いらん。本星軍の何処かが使っているそうな」

「それは良かった」

「その辺は連邦も管理はしている。MSを空に飛ばすという発想は一年戦争からあったが、連邦もジオンも当時から失敗し続け、連邦もバイアランでようやくだが、航続距離が短いという難点があった。だが、空から狙える利点は大きい。Vガンダム系の登場後、軍が意気揚々と採用したのもそのためだ。だが、ティターンズにはその発想は希薄だ」


「V2は出回んないんですか?」

「あれはミノフスキードライブだからな。エンジンの機密性も高いし、滅多に見ない代物だ。特にV2の追加アーマー装備になると、扱えるパイロットは限られる。ロンド・ベルでもウッソ・エヴィン用があるだけだしな」

V2ガンダムはそもそも、ガワよりもエンジンの製造費がかかるという問題もあり、生産数はV1よりも遥かに少ない。そのため、一時はV1にミノフスキードライブをつけようという案もあり、実機の完成にこぎつけたものの、V2の完成でお蔵入りとなったのは知られていない。

「Vガンダムにミノフスキードライブ載せた代替プランがあったそうだが、頓挫したそうだしな。」

「V1のボディじゃ耐えられんでしょ、あれ」

「そうだな。ハルトマンが帰ってくる前に、戦線の地ならしをしておけ。ロンド・ベルから、彼が送られてくると聞いたら、ハルトマンも腰抜かすぞ」

「確かに」

マルセイユは、ルーデルといた喫茶店を出る。ミーナは研修に行き、不在だが、アムロ・レイの名を聞けば驚くだろう。ハルトマンをして『まるで敵わない』と言わしめる戦闘力の持ち主なのだ。


――アムロの来訪の報は、ルーデルを通し、黒江にも知らされた。

「アムロさんが、シャアを追ってこっちに?分かりました、受け入れ準備始めます。……おい、ヒガシ。何してるんだよ、ガトーに張り合ったところで、お前の腕じゃ接近戦に持ち込まれて、スパーンだぞ……。もしかして、メカトピアの時に『未熟』扱いされたの根に持ってんのか?」

「あいつは、このあたしを『未熟』って言いやがったのよ!?今でもムカつくわ、トップエースのこのあたしに!」

「お前なぁ……」

黒江が電話をし終えると、アナベル・ガトーに対抗心丸出しの圭子に呆れる。圭子はメカトピア戦で一度、ガトーと相対した事があり、その時に『未熟』とあしらわれた。トップエースの自負を持つ圭子は、むかっ腹が立った。歴史改変後はその傾向が強まったのだ。

「相手は連邦軍もガクブルな『ソロモンの悪夢』だぞ?初見で殺られてないだけマシと思えよ。それにMS操縦で張り合おうとしたら、コウさん並の成長速度が……聞いてねーか。最も、あいつは私達の心構えを攻めたと思うんだが」

ガトーは職業軍人として、ひたすらにジオンに殉じている。たとえ政体がザビ家のジオンから、シャア・アズナブル(ダイクン派)のジオンへ変わっても、ジオンに忠誠を誓い、ネオ・ジオンの高級幹部となっている。これは旧ジオン軍には将官が連邦より圧倒的に少ない事、佐官の比率が異常に高かったためだ。ガトーは旧軍存続時は大尉だが、デラーズ・フリートで非公式に少佐になり、ネオ・ジオンでもその待遇である。ジオン軍は各地に霧散状態であり、その中の最大勢力のネオ・ジオン軍であっても、佐官の任務に耐えうる者は少ない。一年戦争時は若手の大尉だったガトーが高級幹部扱いなのが、その証明だ。彼らは曲がりなりにも、職業軍人であるので、人殺しの覚悟は出来ている。そこがウィッチ達との差であった。

(まぁ、ネオ・ジオンだって、内実は継ぎ接ぎだらけで、生え抜きのジオンの比率は少ないって言うけど、ジオンのおかげで反政府運動が増えたから、ある意味で連邦にとっての、反統合同盟の次の世代の敵になる存在がジオンかもな)

―ネオ・ジオンはアクシズ時代以前の人材を大量に失っていて、生え抜きのジオン軍人は少ない。大半がティターンズ・OZ非トレーズ派・ホワイトファング残党、ギガノス帝国強硬派残党、ザンスカール帝国、旧クロスボーン・バンガード残党の寄り合い世帯だ。そのため、シャアが信を置くのは、同じ旧ジオン軍人達のみだ。ジオンというものの、内実は名を反連邦の旗印のシンボルとして使っているだけの組織なのだ。だが、ジオンの旗は連邦に不満を持つ者の心の拠り所であるのも事実であり、かつての反統合同盟の名残が消え去りつつある中でも輝きを放つ『ジオン』。だが、シャアはジオン・ダイクンの実子ではあるものの、ジオニズムもその源流となったエレズムも信奉していないし、行動原理は実に個人的であり、アムロをして呆れさせる程の個人としては器の小さな面も露呈している。不幸な生い立ちに由来するものの、シャアは青年になってから、ジンバ・ラルの教えで『歪んだ』とは、妹のセイラ・マスの談――






――武子は、ロンド・ベルからの連絡を受け、受け入れ準備を始めさせる一方、ロンド・ベルがデザリウム戦役で遭遇した『マジンガーZERO』がこの世界に現れ、暴れた場合に備え、Wマジンカイザーを更に強化する案をブライトへ出していた。マジンカイザーを更に強化させるにも、『カイザーやゴッドの現状以上の強さ』をどうやって持たすかが課題だった。因果律操作が何よりの難題で、ゴッドに搭載されている因果律操作を無効化させる『反因果律兵器』の搭載が望ましく、その生産の途中である。また、ブラックグレートにゲッター線を浴びせ、第二のGカイザーを生み出す案まで出していた。

「マジンガーZERO、か。あの強さは厄介ね。大陸をぶっ飛ばされたら大迷惑もいいところだわ……あれほど傲慢な自我を持っているなんて、まるで駄々っ子の子供ね」

「隊長、そのマジンガーの事が?」

「ええ。神のような傲慢さと悪魔の理不尽さを併せ持つ『最凶の魔神』なのよ、そいつは」

「が、奴とて『魔神』であっても、全知全能じゃない。倒せる存在なのは確かだ」

執務室に一人の青年がやってきた。その青年は兜甲児の昔馴染みのヒーローであった。

「あなたは?」

「おっと、すまねぇな。挨拶しておく。甲児からの使いでやってきた、『不動明』という者だ」

「それじゃ、あなたが甲児の言っていた『デビルマン』……死んだ不動明の体に憑依したデーモン族の裏切り者……」

「そいつはちょっと違う。実際は不動明と、デーモン族の勇者であり、ゼノン親衛隊副隊長のアモンが融合しあって生まれた。つまり、この俺は不動明であり、アモンでもあるってわけだ」

――デビルマン=不動明は、23世紀時空ではヒーロー然とした姿であり、『デビルビーム』、『デビルアロー』、『デビルカッター』などの能力を備えている。その一方で、アモンであった名残として、不動明本来の人格とはかけ離れた好戦性を持ち、デーモン族特有の高い自己治癒力を持つという悪魔と人の二面性を持つ。アモン本来の姿は、デビルマンとしての姿よりも生物然としており、飛行能力以外の特殊能力は持っていなかった。大魔王ゼノンに仕える一方、その力に異常に怯える臆病な面もあった。が、不動明と融合した事で、アモンの陽の面が不動明の陽の面と作用し、現在のヒーローでありつつ、一匹狼な性格になったのだ。



「へっ、確かに俺はデーモン族だが、人でもある。どこかの漫画みたいに、最終戦争起こす気はさらさらねぇよ」

デビルマン。彼ほど運命が平行世界で異なる者もないだろう。ある世界では『サタン』率いるデーモン族軍団とデビルマン軍団とで最終戦争を繰り広げた挙句の果てに共倒れし、新世界でバイオレンスジャックとして転生している。だが、それはあくまで別時空の出来事だ。

「本題に入るが、甲児はZEROに対抗できるマジンガーがゴッド一体なのを気に病んでいてな。俺が戦おうにも、最終戦争で死んだ因果を呼び出されては、為す術がない。そこで、甲児と手を組む事にしたのさ」

不動明としての肉体年齢は10代後半で、現在の武子とほぼ同じだが、デーモン族としては遥かに生きてきているので、武子にタメ口を聞いている。不動明本来の臆病さが作用している面もあるのか、一匹狼を装っている面があり、甲児はそれを引っくるめて信頼を置いており、不動明にとって、数少ない戦友であると言える。なお、彼本来の恋人であり、妻であり、彼が人間側について戦う理由であった、牧村美樹は当然ながら既に亡く、『美樹が愛した世界』を守る事がデビルマンとしての存在意義であった。

「あなたがそのような選択を取るとは思ってもみなかったわ」

「他ならない甲児の頼みだし、ZEROの野郎に美樹の愛した世界を荒らされる訳にはいかねぇからな。あ、甲児に聞いてると思うが、マジンガーZの弱点を最初に言ったのは、この俺だぜ」

ちゃっかりと、甲児にマジンガーZの弱点を意識させた最初の人物は自分とアピールする不動明。因みに、その弱点を甲児より強く意識したのが兜剣造であり、グレートマジンガー〜ゴッドマジンガーに飛行能力を持たせる事にこだわった理由でもあるのだが。

「言っちゃなんだが、お前らは戦士としては『未熟』だ。ZEROのような残酷さを持てとは言わねぇが、敵を殺すことに躊躇するなよ」

「分かってるわ。その為に、前線で地獄を見てきた連中を集めたのよ」

不動明=デビルマンは、かつての同胞を殺すことにも躊躇は無く、魔将軍クラスも既に4人ほど倒してきている。ウィッチ達は23世紀世界のような『同胞殺し』に第一次世界大戦以後はほぼ無縁、ウィッチ達の中には、『ウィッチの力は人殺しのためにあるんじゃない!』と命令を拒否する者もいる。その現状は、1948年時点でも同じであった。

「同胞であっても戦いに至ったら全力で戦わないなら討たれて死ねば良い、守るために戦うのは明確な敵だけじゃ無いからな」

と、忠告をするのだった。。


「一つ聞いていい?圭子からの報告に敵は大和型戦艦の艦橋部の装甲を急角度でぶち抜いたみたいだけど、それが可能な砲弾ってあるの?」

「SHSだな。スーパーヘビーシェルっー奴で、遠距離砲戦前提の砲弾だ。モンタナの50口径40cm砲にSHSを使えば、当たりどころによっちゃ可能だ」

モンタナの砲はアイオワと同型であるが、SHSを使い、尚且つ当たりどころが良ければ、大和型戦艦の司令塔装甲をぶち抜く事は可能だ。そのため、大和型戦艦の装甲厚の優位性も、この時になると薄れ始めており、超大和型戦艦が建造されていたりする。

「幸い、圭子がSガンダムで狙撃して、撤退に追い込んだようだけど、大和型戦艦の司令塔をぶち抜くとは……」

「兵器ってのは日進月歩だ。大和が仮想敵のモンタナなら、造作もねぇこった。ましてや、大和型より艦首・艦尾装甲は厚くできてるからな」

改良されたものの、元設計の都合上、集中防御の名残がある大和型は、どうしても艦首、艦尾にいくと装甲が薄い。浮力を確保するためでもあったが、結果として、航空攻撃が最も盛んな第二次世界大戦の様相にはマッチしていないと評される事がままあった。そのため、超大和型は完全防御式が取られ、対ビームも兼ねた複合装甲に世代交代している。完全防御方式は艦船設計としては古く、艦政本部でも異論が多く出た。だが、航空攻撃・雷撃にある種のトラウマを有する日本のマスコミの誹謗中傷対策を兼ねて採用された。異様なほどに防御を厚くする事には、一刻も早い戦力化を望む用兵側からも文句が出た。日本のマスコミは『初瀬は機雷で沈んだ』、『大和は片側に魚雷を〜』と書き立てるので、扶桑にいらぬ混乱を招いていた。


「日本のマスコミって、なんで私達の時代の自国産兵器を蔑むの?自国が作った兵器でしょうに」

「ああ、それは俺、不動明の人間としての記憶から言うが、戦争に大負けした直後に、対独戦で強化されてた米軍の装備を目の当たりにした人間達からすれば、『どうにもならない』くらいの性能差が横たわっていたのにショックを受けたんだよ。特にお前がいた陸軍の装備。その傾向が戦後数十年経って強まってるんだよ」

「うーん……」

「ボルトアクションの小銃と、半自動小銃の差もあったし、明治以来のドクトリンの陸軍と、火力優勢の米軍とじゃ天と地ほどの差がある」

もちろん、日本軍も努力はしたものの、戦線に配備することすらままならぬ間に、米軍はどんどん新兵器を開発、送り込む。それが前線の火力差を助長し、しまいには日本軍は『死ぬために送り込んでいた』とさえ言われているのだ。それは不動明が人間であった時代でも変わらず、21世紀になり、ようやく火力の強化が図られている。

「お前らの軍隊は直に、タマが足りなくなる。志願制に完全移行させられたんだったら、陸軍の兵隊も集められなくなるしな。大学の学費免除、資格取得とかの特典つけねぇ限りは、好き好んでいくところでもないからな。そもそも、日本は徴兵でポカしたって記録もあるしな」

「ポカ?」

「これは、カミさんだった美樹の両親から聞いたんだが、徴兵の担当のお役人の手違いで、本来、徴兵される立場にねぇ芸能人を徴兵させて死なせちまった事があるそうだ。『芸名は知っていたけど、本名が違うなんて…』なんて言い訳で平謝りだったそうだ。それで、徴兵を苦役って考えてるんだよ、戦後日本人は」

扶桑の国民には、戦後日本人が失った『滅私奉国』とも言うべき考えがある。そこがアメリカ式民主主義に慣れきった戦後日本人との差である。国会に奉仕する事を最大の誉とする風潮があるので、懸念されたほどの志願数低下はならなかった。子供まで『お国のために』という意識が浸透していたからだ。21世紀日本からすれば、軍国主義に見えるであろうが、『戦前の日本人』は、課せられた義務を果たそうとする意識がとびっきり強いだけだ。その面を戦後日本人が失った美徳と考える者、軍国主義者と蔑み、その風潮を根絶しようと目論んだ者と千差万別であったという。

――なお、ウィッチの志願数もこの頃から回復期を迎え始める。これは圭子の著書が原作の映画がスマッシュヒットを飛ばした事で、スリーレイブンズの事が最注目され、映画の最後に、武子の文で『三人は現在も戦っている』という一文があった事と、芳佳のインタビュー映像が使われた事で、人々の心に『何もしない事は一番怖いことだ』とする意識を生み出す事に成功したからだ。1948年に14歳を迎える世代から、ウィッチの志願数もV字回復し始め、2年後の1950年度には、扶桑海直後の最盛期の水準よりも多い数に達する。そのため、後に設立された自衛隊の設立目的の一つは『1944年後半から1947年に14歳であった世代のウィッチの救済措置』であったという。別の目的としては『大戦中に自主退役し、戦友会から爪弾きになった者に、戦友会への復帰の機会を与えるパスポート』としてでもあった。自衛隊員は兵役に準じる仕事とされ、二尉は中尉相当で扱われるという待遇もあり、自衛隊で残こっていた兵役を消費、戦友会に復帰する大義名分を得る場としても役立ったという。


「問題は、二年半くらいウィッチの数が減ってたから、今の中堅どころって言える年代が少ないのよね。後は芳佳達とその前後の古参だし」

この頃になると、ウィッチの高齢化が進んでおり、圭子や北郷、江藤に至っては間もなく30代に到達する。そのため、リウィッチが戦線の主体という、現役世代からは『本末転倒』な事態に陥っていた。甲児がデビルマンを呼んだのも頷けるほどの人手不足なのだ。

「お前らで20代半ばに差し掛かるくらい、その上官に至っちゃ三十路のババアだしな。この俺を甲児が送り込むはずだぜ」

不動明はおどけてみせた。実際、彼の力は大抵のティターンズ兵器を一撃で破壊可能、総合的にマジンガーと肩を並べるほどである。そもそもが大魔王ゼノンの親衛隊に選ばれるほどの勇者であったため、仮面ライダー達も驚くほどの強者だ。

「三桁超えのジジィがなーにいってやがる、テメーに比べたらヨボヨボのバーチャンもお嬢さんだろ!」

「お。来てたのか、綾香の嬢ちゃん」

「誰が嬢ちゃんだ!」

「テメーで言っただろうが」

「ぐぬぬ……」

「はいはい、喧嘩は無し無し。明はブリタニアの船団の救援をお願いね。あなたのことはもう有名だしね」

「ミッドチルダに呼ばれた時は何かと思ったぜ。暴れてやったが」

――ミッドチルダ動乱の際、デーモン族に乗っ取られた現地の竜族を鎮めるべく、それに遭遇し、苦戦していたカールスラント三人娘をを救援すべく、現れたが、彼とデーモン族の存在がミッドチルダとウィッチ世界に知られるきっかけであった。当時、既に甲児と親しい間柄であったハルトマンのみは、デビルマンの存在も知っていたので、『こりゃデビルマンの案件だなぁ』と言い、本当にデビルマンが来たのを嬉しかっていた。その時にデーモン族の存在を知ったミーナは、『悍ましい…』と漏らしたという。デーモン族が無差別合体を行う危険性が過去にあった事を甲児から聞いていたため、『無差別合体されて、自我を乗っ取られる危険に比べりゃ、デビルマンのほうがマシだね。体は悪魔、心は人間だしね』と静かに言い、甲児達の影響で、確固たる意思を持った事を示唆した。この頃になると、ウルスラ以上に冷静な発言も増える一方、竜馬や甲児のような熱さも同居するようになっており、優しさと強さを併せ持つ性格となっていた。そのため、精神的に疲弊し、暴発性を露にしてしまったミーナよりも『精神的』に大人であるとも言える。また、未来で研修中にリウィッチ措置を受けたのだが、それがローティーンの姿であり、その姿で得た新たな固有魔法が覚醒の亜種であり、成長後であっても、ローティーンの姿になってしまうというもので、『何よこれぇーーー!』と絶叫したとか。


――後の1993年前後に亡くなった際に、『ミーナは80歳を超えて長生きできる寿命を持っていなかった』事が判明する。これはガンなどの病気になりやすい因子を持っていて、その因子により、どんなに遅くとも、70代で発病する事が、死後に判明したのだ。それはミーナの命の炎が消え始めた時期と一致した。その因子を60を超えてからの酒の飲み過ぎで目覚めさせてしまったというのは、戦地でのストレスから開放された事で生まれた皮肉な出来事であるのかもしれない――




――デビルマンの来訪から数日後、アムロはやってきた。シャアを追い、HI-νを携えて。23世紀の技術はもはや、デビルマンから見ても、恐ろしい領域に達している証と言えるサイコフレームを持って。サイコフレームは人間が23世紀になって作り出す事に成功したオリハルコンとも言える代物だが、物理的強度そのものは超合金ニューZαやゴッドZほどではないが、サイコフレームには、聖闘士の聖衣が備えているのと似たような力がある。人々の想いを力に変える特性があり、あのコロニーレーザーすらも無効化し得るほどの力場を発生し得る力があるのだ。

「久しぶりだな、武子君」

「お久しぶりです、少佐」

「ここでは君のほうが階級が上なんだ、呼び捨てでも構わないが」

「いえ、あなたを呼び捨てには出来ませんよ」

武子のほうが階級は上なのだが、戦歴が凄いこと、ロンド・ベルやパルチザン時代の経緯もあり、武子も含め、アムロには全員が敬語を使っていた。

「シャア・アズナブルを追ってきたんですか、アムロさん」

「奴がティターンズの仲介で、アフリカに向かったそうだからね。まさか、自分が昔に倒そうとした組織の残党を利用するとはな。あこぎな事をするものだ」

黒江からの質問に答える。シャアは実際、エゥーゴの指導的立場になった時期があり、ティターンズを打倒した。が、その残党を利用する手を思いつくとは、アムロも唸るほどだ。

「利用?」

「今のティターンズは、所詮は敗残兵の集まりだ。ネオ・ジオンと同じように、確固たる支持基盤はあるものの、連邦内部の地球至上主義者だけでは、君達のこの世界全体で暴れる規模を数年も維持できるとは思えんからね」

「なるほど」

「とりあえず、君のZプルトニウスで運んでもらうよ。ルイジアナの行方が気になるだろうが、慣熟訓練をしなければならん」

「分かりました」

「圭子君、君もSでついてきてくれ」

「了解」

HWSのHI-ν用はアムロも届いてから日が浅い。そのため、慣熟訓練を必要とする。実戦を想定したか、随伴機はSガンダムとプルトニウス、即ち、64戦隊で比較的高い性能を持ち、パイロットとしての腕がそれなりにある二人を随伴機として選んだ。デビルマンの活躍が報じられる中の出撃だった。


――デーモン族の裏切り者というレッテルを受ける(合体した悪魔がデーモン族きっての勇者だったため)彼だが、人間・不動明の意識が主体になったため、事実上は不動明であり、アモンでもある存在、デビルマンと言うべき存在だ。それ故、アモンの記憶もあるし、不動明としての自我と記憶も持つ。その面から『悪魔の力を身に着けた』ヒーローとされる。実態とは多少かけ離れているが、不動明は『そのくらいの嘘は必要だぜ』と寛容だったという――



――シャア・アズナブルは、ティターンズに援助を持ちかける一方、アフリカをジオンの租借地にする事に成功、同地に一定の駐留軍を駐屯させた。ザクV、ギラ・ドーガ主体の部隊だが、アナハイム社から提供されたマラサイも混じっている。それはマルセイユが守るべき場所としたアフリカに、今度はネオ・ジオンの軍旗が翻る事でもあり、マルセイユは思わず激昂したという――





――HI-νガンダムは、今度はアムロ・レイの乗機として、ウィッチ世界に舞い降りる。そして、シャアはティターンズと連邦・連合軍(正確には国際連盟だが、この頃から国際連合に発展解消させる事が検討されはじめたので、正式に『United Nations』の名を名乗り始める)の戦争を隠れ蓑に、自国の再建を推し進める。怪異の脅威が未来兵器で薄れ始め、人同士の戦争が再び当たり前となっていく。不動明=デビルマン、アムロ・レイとHI-νガンダム。この両者の介入は何を意味するのか?戦艦ルイジアナ号の神出鬼没ぶりに手を焼く中、連邦の白い悪魔は舞い降りた――



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