外伝2『太平洋戦争編』
七十八話『魔神の誘う奈落』


――如何にスーパーロボットと言えども、マジンカイザーや真ゲッターなどの超常的な領域に達しているマシーン以外は保守整備が欠かせない。基地のスーパーロボット区画では、増援のスーパーロボット達が整備を受けていた。

「オッス」

「なんだ、號じゃないの。あなただったの?増援って」

「なんだじゃねーよ。真ゲッター引っさげて来てやったんだぜ?」

「つーか、あんた。ゲッターチームになる前はどうやって食ってたのよ」

「ふつーに国体候補の陸上選手だったし、両親が百鬼帝国に殺されてからは、闇プロレスで妹を食わしてたぜ。結構、稼げたしな」

二代目ゲッターチームの筆頭格『一文字號』。仮面ライダー二号=一文字隼人の縁戚筋にあたり、隼人曰く『俺の親父の弟の従姉妹の子孫』らしく、かなり遠い親戚である。圭子とは、圭子の見かけの年齢が號とかなり近いため、同年代の掛け合いになっている。

「ふうん。で、ゲッター真ドラゴンはどうしたのよ」

「あのウザーラもどきか?回収したけど、炉心がイカれてたから、炉心の新造が入るから、当分は使えねーぞ。なんか俺の同位体が乗るのが想定されてたらしいからな」

「つまり貴方が乗って初めて真価を?」

「多分な。本来の真ドラゴンは竜馬さん達、初代ゲッターチーム専用だから、あれは俺達専用になる。直せりゃあな」

真ドラゴンは未来世界においては、二つ存在する。一つはオリジナルのゲッターロボGが進化した『真ゲッタードラゴン』、もう一つは量産型ゲッターロボGが集合合体して進化した『ゲッター真ドラゴン』。前者はオリジナルのゲッターロボGが真ゲッターのデザインラインで構築された正統派ゲッターロボである。後者は全長6キロの『異形の怪物』で、百鬼帝国の最強兵器『聖竜ウザーラ』の人型部分をゲッタードラゴンに変えたような風体である。スペックはいずれも真ゲッターロボも凌ぐが、オリジナルの方が『神をも超え、悪魔を倒せる』のに対し、『あくまで真ゲッターよりは強力なゲッターロボ』の範疇に収まる。意外だが、前者の方がゲッター線の力を引き出せる(進化元がオリジナル機であるため)ゲッターロボであり、真ゲッター以上の『恐ろしいゲッターロボ』でもある。後者は集合合体であること、集合合体した事でエネルギー伝達効率が下がった事などが要因で、炉心に負担がかかりすぎた場合、パワーダウンを起こし、シャインスパークの使用に支障を来す。前者は搭乗者の意志さえ強ければ、ストナーサンシャインと真シャインスパークの連撃も可能であるので、強さにサイズは関係ないのだ。

「おりゃ、むずかし〜事は翔のやつに丸投げしてるけどよ。隼人さんの調査で、ウザーラもどきは見かけに反比例して、炉心が華奢な作りだったそうで、壊れた炉心の構造的に、シャインスパークの時のフルドライブに耐えられるのは数回だったそうだぜ」

「つまり、よほどじゃないとシャインスパーク撃てないって奴?」

「そうらしい。隼人さんが別の炉心に入れ替えて、あっちこっちを直すらしい。『伝導系が合成されたエネルギーに耐えられないんじゃ、ゲッタードラゴン失格だ』だそうだ」

「なるほどね。で、なんて呼ぶの、あのウザーラ」

「真ドラゴンオルタってコードネームだってよ。」

「オルタぁ?どこかのゲームみたい」

「隼人さん曰く、『謎の異星生物に喰われて人類が死滅仕掛かってるゲームが元ネタじゃないから安心しろ』ってさ。意外に茶目っ気あるんだよな、あの人」

「あの人、若い頃、『俺もボインちゃんには目がなくてな』なんて言ってたそうだし、茶目っ気あるのよね」

と、隼人の茶目っ気が話題になるあたり、神隼人という人物は全容が掴みにくい人物である。若かりし頃はニヒルな皮肉屋であったが、今では冷静沈着な指揮官であり、連邦軍大佐の階級を持つ。竜馬が成年後は『荒くれ者であるが、意外に頭脳派である』面を持つので、お互い様である。デザリウム戦役の後頃になると、スーパーロボット乗り達で比較的年長である初代ゲッターチームや剣鉄也は20代前半から半ばに達している。そのため、初代ゲッターチームは高校生当時より凄みが出ている顔立ちになっていて、隼人に至っては、実年齢+10歳前後の風格がある。その事から、圭子も初代ゲッターチームには敬語を使っている。

「よう、ケイちゃん」

「あ、豹馬さん」

「號、翔が呼んでたぞ」

「本当かよ、んじゃな」

號が去っていくのと入れ違いに現れたのは、バトルチームの葵豹馬であった。デザリウム戦役直後の段階では22歳前後。南原ちずるとは婚約はしているが、戦争のゴタゴタで婚姻届が受理されておらず、正式な夫婦ではない。

「ちずるさんとの結婚指輪買ったんですか?」

「それがよ、お役所の野郎が戦争のゴタゴタで、『婚姻届を受理してませんでした』なんていいやがってよ、怒鳴り込んできたぜ」

「そりゃ災難ですね」

「健一の奴は超電磁ボールの機構の調子が悪くて、オーバーホールをするとか言って、当分来れないって言うから、俺達が先に来たってわけよ。甲児の奴、最近はマリアちゃんに浮気してるっていうから、さやかさんがお冠だぞ」

「あ、やっぱり」

「あいつ、かわいい子とみると、ナンパすんからな。おかげでゼウスが浮気者になったんじゃねぇか」

「あ、あはは……」

甲児は明朗快活な性格であるが、最近は宇門大介/デューク・フリードの妹『グレース・マリア・フリード』にうつつを抜かしていており、弓さやかはお冠である。最も、最近はパートナーロボットとは性能差が開きすぎたので、どうしてもマリアの乗るスペイザー系と組むことが多い。これはパートナーロボットが後方支援を想定していたりしたため、パートナーロボット最高峰のビューナスAでも『グレートマジンガーの足手まとい』になる局面が多く、強敵との戦闘へ投入が躊躇われたため、メカトピア戦争からの戦乱には投入されていない。(ボスボロットが何気に各戦争で意外な活躍を見せたのとは対照的)そのため、弓さやかは炎ジュンと連名で『マジンガーエンジェル計画』を立ち上げている。これはカイザー(ゴッド)、エンペラー(Gカイザー)など、Wマジンガーが飛躍的パワーアップを遂げ、旧来のパートナーロボットが陳腐化した事への対策という名目で、さやかとジュンが考案しているプランで、パートナーロボットの新造も含めた大胆なプランだった。その協力者は弓教授の弟子の中で若手である『野中剛』博士で、資材やアイデアのまとめは彼が行う事になっている。

「さやかさん達、パートナーロボットのパワーアップを考案しだしたんだけどよ、俺、ダイアナンにスクランダーつけるかと思って、聞いてみたら怒られた」

「それはいくらなんでも」

「ボスの奴も、『そりゃいくらなんでもないだわさ』って笑ってた」

「アイアンZの転用だしなぁ、あの凄い設計」

パートナーロボットは戦間期、圭子も何度か見ている。当時から稼働していた『ダイアナンA』、『ビューナスA』は戦闘力がマジンガーたちに比べると、だいぶ見劣りするので、数度の戦争では使役目的で使用されている。百鬼帝国との決戦の時には、彼女らを差し置いて、ボスボロットがいぶし銀な活躍を見せたので、さやかとジュンは肩身の狭い思いをしている。マリアがダブルスペイザー、ドリルスペイザーを使い分けて、マジンカイザーやグレンダイザーの支援に活躍しているというのもあり、野中博士の協力の下、計画は始められている。

「で、ちょうどTVで再放送されてた、ほれ、なんだっけ。大昔にアメリカかなにかでやってたドラマ」

「ああ、チャー○ーズ・エンジェル?大昔じゃないの」

「そそ、それ。それをみたさやかさんが思いついて、『マジンガーエンジェル』にしたそうだぜ」

「へぇ。パートナーロボって非力だから、カイザーやエンペラーの武器は扱えないと思うけど」

「アタッチメントでどうにかしたいってよ」

「なるほど」

圭子と豹馬は思いもしないが、そのアタッチメントがなんと『おっぱいミサイル』を介するものであるという『何故、そうしたのか』と言いたいものだったので、二人は後日、『おいおいおい、なんでおっぱいミサイルなんだ!?』と野中博士にツッコミを入れる羽目になったとか。




――B世界の要請はA世界としても困ったもので、要求を通すのは至難の業であった。そのため、一時帰国が認められたのは、ロマーニャに深く関係している統合戦闘航空団のメンバー達だけだった。(スリーレイブンズBは全員が見送られた)彼女らは兜甲児が護衛についた上で、B世界に帰国を果たしたが、状況は最悪に近かった。B世界では、501と504が機能不全に陥った(504は竹井が抜け、501はメンバーの過半数が抜けた)事により、ロマーニャ戦線は暗雲が漂っており、506を急遽、ロマーニャに移動させて防衛させるほどの窮状だったが、政治的混乱で506A部隊は活動凍結。まさに青色吐息の状態である。メンバーの帰国を出迎えたミーナBはその状況を説明する。そんな絶望的状況にも関わらず、余裕の笑みを見せる智子A、黒江AにミーナBは疑問を投げかける。

「何がおかしいのですか、黒江中佐、それに穴拭少佐」

「別に、ただ笑ったんじゃない。面白いということだ、中佐。こういう状況こそ、我々の真価が問われるじゃあないか?」

「あなたは慎重にすぎるのよね、こういう場面ほど燃えるってもんよ」

「なぜそこまで余裕を持てるのですか?」

「戦いはどう転ぶかわからない。あたしらは『扶桑海の当事者』よ。あなたが音楽学校にいた頃から飛んでるのよ、私達は。だからわかるの」

「資料は拝見しましたが、あなた方の現役時代と現在の怪異は比較になりません。宛にしてよろしいのですね?」

「伊達や酔狂で『スリーレイブンズ』伝説を作ったわけじゃないわ。それにここの私達と違って、第一線で飛び続けてるのよ?任せなさいって」

「ミーナ。こいつらはこちらの記録とは全く別人と思った方がいい。むしろ現役ウィッチと考えた方がいいぞ。強すぎるからな」


道中のミデアで、ミーナBとやり合う二人。ミーナBもやはり、前世代のウィッチを実力的に『軽く見る』傾向があるらしく、二人の実力を疑問視する。それを扶桑海当時に二人を目にし、A世界での武勇伝を知る坂本Bが諌めた。仕方がないが、智子と黒江は『ミーナが志願した時がキャリアの絶頂期に相当する戦間期世代』に相当するので、どうしてもビーム主体の怪異と戦った日数が多い自分達のほうを上に見る傾向のあるミーナ/坂本世代とは軋轢が生ずる。が、坂本Bは知っている。二人は『ウィッチであってウィッチではない存在』であり、もはやそういう次元を超えた存在であると。

「ミーナ。この二人は、もはや我々の常識では図りしれん存在に昇華している。うまく説明できんが、言わば神に等しいくらいの存在だ。上がりも発生しない、歳も食わない、おまけに見かけは私が初めて出会った頃と変わらんのだぞ」

真顔で言う。ミーナは坂本がこういう時は冗談を言わないのは知っているので、緊張が走る。

「隊長、このお二方は正真正銘のバケモンだ。戦艦を手刀でぶった斬るわ、氷で師団をまるごと氷漬けにするんだ、もうウィッチって呼んでいいのか」

シャーリーBも付け加える。冗談のようだが、この二人に限っては本当である。

「そうだ。こちらでの同一人物と違って、こいつらはウィッチを超えたウィッチとでも言うべき存在だ。私などよりよほど当てになる。リバウの三羽烏と言われた私などよりも、な」

最後にこう締めくくる。坂本がかつて、リバウの三羽烏と謳われた『伝説』のウィッチだった事はミーナも知っているが、二人はそれより前の『スリーレイブンズ』である。もっとも、黒江の知名度はこの世界ではマイナーだが。(この世界ではメンバーではないのもあり、後輩への知名度は低い)

「貴方がそこまで言うのなら……」

「まぁ、見せてあげよう。戦場を支配できる『スリーレイブンズ』の二人の力ってのを」

(そう。こいつらは戦場を支配するに値する力を持っている。零式の神通力に頼っていた私らリバウ三羽烏などとは……)

BはAと違い、過去の栄光を冷静に見ており、同時に新鋭機時代の零式の神通力に頼っていた面がある事を自覚していた。そのため、周囲の評判通りの実力を備えた黒江達を羨ましがっている。逆に言えば、当時のAが有頂天になっていた表れともとれるので、Bとしては複雑である。

「私は零式にエースにしてもらい、零式と共に現役を終えるだろう。 人は、私を“大空のサムライ”と呼ぶが、実際は零戦のサムライなんだろうな……」

「そんな、あなたらしくもない」

「紛れもない事実だ。この戦いが現役で飛べる最後の機会だろう。悔いのないように飛びたいものだ。……先輩であるお前らとまた飛べるとは思わなかったが」

「まぁ、あたしたちもこの歳で現役にいるとは考えてもなかったけど。安心しなさい。あたしを誰だと思ってんの?」

「扶桑海の巴御前。お前は昔、そう呼ばれていたな」

「ええ。この子たちは知らないだろうけど」

「どういうこと、美緒」

「ああ、気づいておらんらしいな。去年、杉田大佐が宮藤に扶桑人形を送ったろう?その人形はこの穴拭がモデルなんだ。たしかあの時、お前いくつだ?」

「14くらいよ」

「その時のお前がモデルなんだっけ?あれ」

「あれね〜。こっちでも売ってるんだけど、考証が間違ってたから、作り直させたわよ」

「お前、いつも『ミミズがたくってる』下手くそな文字のマフラー巻いてたしな」

「下手くそってなによ!ふーんだ、姉さんにもネタにされちゃうし」

「ハッハッハ、そう拗ねるな」

「あの人形のモデルなんですか?本当に」

「ミーナ……こっちでもそうだけど、あれは若い頃のあたしがモデルなんだけど」

「す、すみません!扶桑のウィッチの理想像を形にしたものと」

「ハッハッハ、それだけ年月が経ったという事だ。こいつはウルスラ中尉の元上官、つまりお前の大先輩なんだぞ」

「ご、ご、ごめんなさい!そ、そんなたいそれた方だとは!!」

ミーナBはAと違い、すんなりと陳謝した。如何にAが感情的になっていたのと、最後の方は引っ込みがつかなくなっていたかが分かる。その点ではBの方がやりやすい。そう智子は感じた。

「ねぇ、綾香。最初から隠さず圧倒しちゃうのが早かったのね……」

「そうだな。こっちのミーナは資料と、坂本の自慢話で判断してたっぽいし、それに坂本にあれだったし」

「最後の方は意固地になってた臭いしね。この子は本当、掴みどころムズい子ね」

「坂本への好意に公私の区別つけられてるか、だろう。ここはちゃんとつけてる。うちらのは暴走してた。そんだけのことだ」

二人はあることをミーナBの態度で学んだ。ミーナは『最初から圧倒した方が手っ取り早い』。この事はこの後の二人のミーナAとの関係に影響を与えたという。また、この時に二人の護衛を努めるのは。

「先輩、なんかあたし、場違い感が」

「そりゃお前、本当ならノーブルウィッチーズだもんな」

黒田Aである。武子からの指令で、護衛についているが、元々は506に属している事から、場違い感があるようだ。ハインリーケの戦友にして、ペアであるという事もあり、501Bからも一目置かれている。

「気にしちゃダメよー、どうせ本来は居ないはずの人間しか居ないんだから、あたし達の世界のウィッチ」

智子の言う通り、智子を筆頭に、本来なら現役かどうかも怪しい二名、更にロマーニャ戦線にはいないはずの一名。このミデアだけでもその三人がいるのだ。(黒田Bが何も知らないで、ガリアにいるのであるのを考えれば、後々に面倒臭くなりそうだが)

――一同は数機のミデアからカタパルトで打ち出され、そのまま戦線に参加した。実質的に指揮下にない『遊軍』である扶桑の三人は、ジェットストライカーで露払いを行ってみせる。

「先輩たち、これじゃ弾がいくらあっても足りませんね」

「おう。ちょっとばかり脅かしてやるか。どうせこの世界の記録には残らねーし」

「そうね。なら、『ショルダースライサー!!』」

「『斬艦刀!!』」

この時のジェットは全員がF-104Jであったが、やり方はいくらでもあるので、皆が近接武器を構える。智子は扱いやすいショルダースライサーを二振り、黒江は斬艦刀、黒田は扶桑号だ。いきなり近接武器を構える酔狂さに、501の隊員の多くが瞠目するが、まさに一騎当千の剣に相応しい強さを見せた。三人はA世界の扶桑で間違いなく十指に入るエースである。黒江は斬艦刀のリーチを使い、智子はスライサーの小回りの良さで、黒田は突進力を武器に、怪異を蹴散らす。また、黒田は意外に軍界隈で有名なため、『ノーブルウィッチーズが戦力を回した』という勘違いも生み、意外な士気高揚効果を生んだ。これに本人は苦笑いだが、扶桑号を片手に、もう片方の腕に、ネーサー基地のマッドサイエンティスト『敷島博士』の最新作『ブレストリガー』を持つ。今回は継戦能力を重視した任務であるが、三人は敷島から、『新しい作品の実験材料になっとくれ』と無理矢理これを押し付けられたのである。火力は敷島博士作であるので、拳銃にも関わず、なんとMK108連装砲すら霞む超火力であり、黒田のガン=カタじみた機動もあり、この世界から見れば、『異次元の動き』だった。

「あらよっと!」

扶桑号を背中に担ぎ、ブレストリガーを二丁拳銃で構え、接近して舞うような動きで銃撃を行う。これはマルヨンの突進力もあって成せる技であるが、多数の敵には大変有効で、この世界における自分のスコアをいきなり超えていたりする。

「な、なんなんですの!?あの方のセオリーを全く無視した戦法は!?接近戦で銃を使うなど……」

「いや、世の中にはあるそうだ。東洋のの拳法の型と銃を組み合わせ、接近戦で最大の効果を発揮する戦法が。別世界の扶桑でも指折り数えの者たちのみが習得出来た戦闘術らしい」

と、バルクホルンBがペリーヌBに説明する。


『ちぇすとぉ――!!』

黒江の斬艦刀にたたっ斬られ、消滅する大型怪異。連続して爆発音が響く。

『覚悟ぉ――ッ!!』

ショルダースライサーで乱舞を行い、剣風で全てを斬り裂く智子。二人の剣技はかつての1Fの双璧と謳われていたので、それを久しぶりに見れてうれしい坂本B。それに圧倒される若手達。当然、この世界においては芳佳との接点も無いので、芳佳Bも含めて呆然としてしまうほどの剣技であった。

「これがあの方達の力なんですの?空中戦のセオリーを完全に超えてますわ……」

「いや、あいつらは一見して、セオリーを無視しているようで、むしろ一つのセオリーには忠実に動いている。ペリーヌ、私が最初に演習の時になんと言ったか、覚えているか?」

「は、はい。『見えざる敵こそ諸君らを落とす』でしたね」

「そうだ。あいつらは常に全方位に注意を払っている。あらゆる方角からの攻撃に的確に対処する。無駄な弾を使わず、『ワンショット・ワンキル』を行っている。これは私でも難しいことだが、あいつらはそれをやってのけている。一対多でだ。遠近のいかなる戦法にも対応する。これが真のエースというものだ」

ペリーヌに解説する坂本。かのマルセイユ並に消費弾を少なくするのは中々の技量であると褒めるが、実際は武器の火力と戦法も関わっているのである。また、黒江達は接近戦の鬼と言えるドッグファイターであるので、消費弾数はむしろ少なめである。



――戦技無双を見せつける三人だが、その様子を目撃し、驚いたウィッチがいた。独自に参陣していた506のアドリアーナ・ヴィスコンティ大尉である。彼女は遠目で、ガン=カタで戦技無双を誇る黒田を発見。普段と打って変わっての阿修羅ぶりに呆然とし、目を二度もこするほど驚いた。

「黒田中尉!?このヴェネツィアに来てくれていたのか!?」

と、思わず声が弾む。が、ここでおかしい点に気づいた。どうやってロザリーの目を潜り抜け、ヴェネツィアまで来たのか、自分をすぐ追ったとしても。それと黒田は義にそれなりに篤いが、上層部に喧嘩を売るような性格ではなく、守銭奴である。その事からも色々とおかしかった。更に体つき、使用しているストライカーも最新鋭機と推測されるジェットなど、あらゆる点で突っ込みどころ満載である。だが、扶桑号という黒田を黒田たらしめる武器は、アドリアーナには嬉しかった。すぐに連絡を取る。

「黒田中尉、応答してくれ。私だ」

「アドリアーナさん!?っちゃー、いたんですか」

「何、すると君も?」

「ええ、ちょっと本国絡みの特別任務でして。詳しくは言えませんが、相当に手当つくんで」

適当にごまかす黒田。手当という自分の好きなな単語を入れるのは流石である。と、言ってる間に黒江も誤魔化しに協力する。

「アドリアーナ大尉、こちらは扶桑皇国軍中佐、黒江綾香だ。聞いての通り、黒田中尉は我が軍の特別任務に駆り出している。君はそのまま自分の指揮下に入ってくれ」

「了解です」

(うまく誤魔化しましたね、先輩)

(なーに、嘘も方便だ。こちとら、生まれてから正確にゃ数百年なんだよ)

と、二度目の逆行である事をアピールする。黒田は呆れつつも、アドリアーナにブレストリガーを手渡す。フリーガーハマーを二丁では、重量の関係で、伊系の非力なストライカーでは飛行性能に悪影響があるからである。

「ウチのマッドサイエンティストが作った拳銃です、見かけは小さいけど、威力と連射速度は保証します」

「ふむ……。しかし、よく少佐を説得出来ましたね、中佐」

「山下大将閣下にご協力頂いた。ド・ゴール閣下も流石に折れてな」

B世界のラルとの連絡にあたり、その責任者となったのが山下大将である。その人徳から、黒江は『山下のおっちゃん』と親しくしており、黒江がいじめられた時には、源田の抗議を審査部の長に直接伝え、黒江をいじめる現場を押さえ、直接の制裁も加えている。当時は中将であったが、黒江には扶桑海の時に、指揮下の部隊を救ってもらった恩義があり、それ以来の付き合いである。黒江の頼みで今回の責任者に就任し、今回の出来事でのB世界のクレームや要請は彼が処理の責任者である。

「大尉、ストライカーが損傷した場合は、高度10000で待機している輸送機で補給を受けろ。変えのストライカーを用意してある。フリーガーハマーは撃っておけ。高機動戦闘には不向きだしな」

「了解」

アドリアーナは黒江の指示を受け、フリーガーハマーを二丁使い果たした後はブレストリガーを主体にしての高機動戦闘に入る。元々、伊系のストライカーはカタログスペックが良い機体はある。彼女が履いている『MC.205』がそれだ。戦闘機としてのデータでは『P-51Dに引けを取らない』とされている。これはあくまでカタログスペックであるので、実際はそれより劣る数字である。当時のロマーニャ系ストライカーでは最高峰の一つである同機、ノーブルウィッチーズの整備班の腕が良かった事もあり、当時の怪異には優位に立てていた。が、やはり工業能力が落ちるヴェネツィア/ロマーニャの機体であるのが災いし、DB 605のライセンス生産エンジンが不調を来す。冷却系に異常を来したのか、冷却液が漏れ、速度がガクンと落ちる。

「何!?冷却系が逝かれたのか!?うわっ!?」

ストライカーが白煙を吐く。冷却液が漏れた事で、高負荷運転のエンジンが焼け付き始めたのだ。敵を前にして、致命的な隙を晒して仕舞うが、これは黒江が処理した。とっさにエクスカリバーを放ったのだ。

『何物も斬り裂く、大いなる聖剣!!エクスカリバ――!!……大尉、機体が完全に逝かれる前に味方の輸送機『ミデア642号機』に行け!そこで我が軍のジェットに履き替えるんだ、急げ!』

と、指示も飛ばす。エクスカリバーは衝撃波でもあるので、周囲で戦闘している501Bの連中も呆気にとられる。(+おまけで参陣している竹井Bも)

「なんだ今のは!?手刀の衝撃波でたたっ斬っただと!?」

「あたしのシュトゥルムでもあんな事出来ないよ〜衝撃波を刃にするなんて」

「あの人達、本当に、坂本少佐よりも前の世代の人達なんですか…?」

「あ、ああ。正確に言えば、私が新兵だった扶桑海事変で撃墜王と謳われた世代の人間。今の20前半くらいの世代だから、私が絶頂期を迎えるのと入れ違いになった世代なんだが、こいつらに関してはもはや別格だ」

「別格って?」

「あいつらはこの世界の同一人物と違い、扶桑海の戦局をすら変えたほどの実力で君臨し、現役復帰後も『航空関係で知らない者はいない』大家だ。一人で航空師団一個分に相当すると、小園大佐や源田実大佐などの航空の大物が口を揃えるくらいの最高の三人。それがスリーレイブンズだ」

「スリーレイブンズ?」

「三羽烏という意味だ。私が昔話で『リバウ三羽烏』と言っているだろう?あいつらはその元祖に相当する。もっとも、あいつらは陸軍出身だったがな」

坂本Bが解説する。概ね、スリーレイブンズに関してはメンバーの誤差を除けば、ほぼ同じ伝説が後代に伝えられているからだが、A世界については、尾ひれがついているとはいえ、だいたいはこのような武勇伝が後輩らへの教材に使われている。

「ただし、あの黒田は正式なメンバーではない。だが、扶桑海に従軍した最後の世代だ。歳はリーネや宮藤。お前らと同じくらいだが、既に撃墜王として名を馳せている猛者で、ノーブルウィッチーズ在籍だ。私らカラスより大きく強いワタリガラス共さ、あいつらは」

「坂本少佐より強いんですの?あの方達は」

「……ああ。扶桑で十指に入るエース・オブ・エースだよ」

ペリーヌBの言葉に頷く。ペリーヌは驚嘆する。あの坂本にこうまで言わせるほどの『実力』があの三人にある。信じがたいものがある。(実際、黒田も64Fでは既に大尉で、序列も隊全体でナンバー5に君臨する撃墜王であり、B世界の当人よりかなり撃墜スコアは上である)が、坂本がこうまで断言するほどに実力があるのは、見ていて分かる。ミーナBもその実力を目の当たりにし、思わず唸る。

「中佐、艦隊の上空支援を。小官は前線の敵を始末します」

「任せる。艦隊の直掩は任せろ」

と、連絡を入れる。黒江側の作戦は『Wマジンガーを敵の反撃が始まる段階で投入する』という単純明快なものだが、連盟軍(B世界)の作戦プランは『大和の怪異化』という博打が潰れたため、明確な作戦プランが実は存在しなかった。連盟軍上層部は怪異コアコントロールシステムを悲願とし、システムそのものは『消失事故』前に部品を運び出しており、組み立てを終えていた。そのシステムは施設の破壊工作を疑った当局により、『大和』ではなく、防諜を兼ねて『武蔵』に搭載艦を変更して搭載していた。その作戦は501の制空権確保後に行われ、空母天城に繋留されていた『武蔵』が怪異化を始める。それに怒りを露わにする智子。

「ああ、やっぱり運び出してたのね!それも武蔵に積み替えてたなんて……!なんつー馬鹿な事を!……甲児!ちょっと予定外だけど、出番よ!」

『合点承知!ターボスマッシャーパァァンチ!』

と、怪異化を始め、総員が退艦した武蔵の艦橋が謎の巨大な鉄拳で粉砕され、怪異化が停止する。天城の杉田大佐はこの事態に腰を抜かすが、それよりも天城の眼前に現れた巨大な魔神に呆然とした。いや、その場にいた誰もが呆然と、その巨大な魔神に目を奪われていた。鉄のボディ、紅の翼。そして胸のZの紋章。

『ゼウスの拳(こぶし)マジンカイザー!只今参上ぉ!』

と、甲児の小気味いい啖呵が響き渡る。そして更に。

『ゼウスが剣(つるぎ)マシンエンペラーG、推参!!』

雷を背に、鉄也のマジンエンペラーGがエンペラーソードを携えて颯爽登場する。場違いとも思える芝居がかった名乗りを上げて。その鉄のボディとその威圧的な姿は、悪魔を思わせた。

「何、あれ……悪魔……?」

「うじゅ!?なんか怖いよ〜!」

「あなた達は誰ですか!?敵なんですか、味方なんですか!?」

と、芳佳やリーネ、ルッキーニが警戒を見せる。Wマジンガーはそれに応える。

『俺達は君達の味方だ』

『そうだ。俺達は『神をも超え、悪魔も倒す』。その為にやって来た」

「神をも超え、悪魔も倒す……?」

『そうだ。それが俺達のマシンが造られた目的だ』

「え!?それじゃロボットなんですか!?」

『ああ。飛行機や戦車と同じように、人が乗り込むロボットだ。だが、こいつはただのロボットではない』

『ああ。人々の願いが込められし鋼の神、言わばスーパーロボット。それがこいつらさ。行くぜ鉄也さん』

『おう!輝くゼウスの名の下(もと)に、我等悪もて邪を砕かん!!』

「悪って……」

芳佳が言うが、坂本は大笑する。

「はっはっは!言うじゃないか! 扶桑では悪とは元々、力を法とする者達の事だからな」

「坂本さん、信じるんですか」

「見ただろう、宮藤。奴らは大和型戦艦の心臓部と言える艦橋を一撃で叩き壊した。大和型戦艦の艦橋は今の全ての戦艦で一番に頑丈な作りになっていた。それを一撃で壊したのだ。それに、ゼウスは神話の主神で、善神だ」

「それだけで?」

「そうだ。お前も見ただろう?未来の人々が願いを込めて造り上げた数々のスーパーロボットの資料を。こいつらはその中でも最高峰の機体だ」

「それじゃこのマシンが!?」

「ああ。数ある『魔神』の中の魔神、王の中の王、『魔神皇帝』だ!」

坂本は言った。王の中の王、魔神の中の魔神、魔神皇帝と。マジンガーの中で、とびっきりに強い者に与えられる諢名『魔神皇帝』。その言葉の意味するモノは『この世で一番に強い神である』事。

「魔神は乗り手の意思で魔王にもなり得る。中にはバランスを見失い、魔王と成り果てた魔神も存在した。向こうの世界を騒がしたマジンガーZEROのようにな。だから、彼らには敬意を払え、宮藤。強大な力を地球という星のため、明日のため、友のために奮ってくれるんだからな」

「明日のために……」

「そうだ。やがて生まれ来る生命のために生命を燃やして戦う。この気概を見習えという事だ」

「それが血塗られた道であろうと、彼らを破滅させる奈落に誘うとしても、ですか?」

「そうだ、リーネ。最強の魔神と共に、彼らは地獄の果てまでも戦うのだ。お前は嫌うかもしれんが、これが『戦いの中で、戦いの答えを探す』という事だ」

坂本Bが例える、甲児と鉄也に課せられし使命。その修羅の道を芳佳とリーネに示す。芳佳はA世界においては、彼らに共感し、大空の宮本武蔵という諢名で以て畏れられる撃墜王として君臨した。この世界の芳佳はどうなるのであろう。リーネはそんな修羅の道を嫌悪し、ハルトマンに叱責された事すらあるのがA世界である。A世界においては、自分と同じように『戦争を嫌悪していながらも、何かかしらの理由で戦中は軍に残り続けた者』、『良心の呵責に耐えられないが、志願しなければ、世の中に家族の居場所を得られない』者達の救済に生涯を捧いでいく。この最大の成果が後の『自衛隊』である。リーネがB世界でどのような選択をするのであろう。

「リーネ。戦う者の心中は理解しなくても良い、ただ受け止めておけ。いいな?」

「は、はい……」

リーネBの戦いへの嫌悪を承知しつつ、戦う事が出来ない者の無念を背負い戦う者を否定しないことを念押しする坂本B。A世界ではその念押しが、軍人にならなくとも、ウィッチとしての役目を果たせる『自衛隊』設立への情熱と、子供達への教育へ昇華してゆく事を黒江Aから聞いていたが、B世界では未知数だった。それは彼女に委ねられているが、少なくとも、何かかしらの影響は残した。そう信じたい坂本Bだった。




――最強の魔神達がこれより誘う『地獄』。その顕現に耐えられるのか?その心配がミーナと坂本にはあった。マジンガーが人の操りしロボットである以上、その技術で戦争をしているのは明白である。A世界に行っていない者でも、その察しはつく。ウィッチはその多くが戦う理由を使命感であったり、漠然とした『守りたい』気持ちに依存している。その気持ちは『有限の時間だからこそ、有効に働いている』事も二人は知っている。A世界でウィッチの主体がリウィッチになっている事の理由も彼女らは悟っていたのかもしれない――


――黒江はA世界にシャドームーンが現れないか、という心配を持っていた。これは数度の交戦と、創世王の意思が漂っているのを感知したためだ。シャドームーンはRXとの戦いを記憶喪失状態ながらも望んでいる。神域の存在として、黒江達の大抵の攻撃に耐える能力を持ち、絶対零度にも耐えきる。これは世紀王であるが故のモノで、智子や黒江に恐れられているのは、創世王化及び、『アナザーRX』への進化である。創世王化は二つのキングストーンを必要とするが、RX化は条件が緩い。光太郎が太陽エネルギーをオーバーロードさせてRXになったように、月光のエネルギーをオーバーロードさせ、生命力を活性化させれば、RX化は起きる。光太郎いわく、サタンサーベルのその時点での所持者である事もRX化の条件らしい。


『武ちゃん。シャドームーンの動向は掴めていない。もし、奴を見つけたら先輩達か俺をすぐに呼ぶように部隊での通達を徹底させてくれ。奴は士や天道、乾達では荷が重い』

『平成ライダーの強豪と謳われている三人で、ですか?』

『奴は世紀王だ。クロックアップやアクセルフォーム、カメンライド程度の小手先の戦術は通じない』

光太郎は平成ライダーを評価しているが、シャドームーンに立ち向かえるほどの力はないと踏んでいた。シャドームーンはゴルゴム世紀王。速度加速は思いのまま、カメンライドと呼ばれるディケイドの他ライダーへの変身能力に限界がある事も容易に探れるし、アクセルフォーム以上の加速など余裕で出来る。ましてや、平成ライダーは『人間が超常の力や機械の力で変身した』仮面ライダーであるので、『クウガ』や『アギト』、『ファイズ』などの例外を除き、改造人間である昭和ライダーには身体スペックで到底及ばない事が多い。一方のシャドームーンはスペックはパワーアップ後においては、RXとほぼ対等であり、スカイライダーや一号/二号、ライダーマンでは太刀打ちできないとされる能力差である。一号と二号は技と経験でそれを補って余りある戦闘力なので、シャドームーンとも渡り合える。

「本郷さんと一文字さんに『無茶はしないでくれ』と伝言を。あの子を安心させるために、三号に挑んだ時は冷や冷やモノでしたよ」

「先輩達はあんな、『ホッパーバージョン3』に負けるほど、やわじゃないさ。伝説の7人ライダーの筆頭なんだから」

光太郎は、仮面ライダー一号と二号の『強さ』に憧れている。それと、B世界にいる黒江を勇気づけるためもあり、武子に伝える。三号が元の世界で殺したであろう仮面ライダー一号と二号は日時的に、『桜島一号』と『旧二号』である可能性が高い。これは風見の推測だ。(のび太の時代の映画では、再改造後の二人を殺した事になっていたので、黒江は思い切りケチをつけている)

「風見先輩が調べたんだけど、あいつが殺したWライダーは初期状態の時の二人じゃないかと推測している。これは風見先輩が聞いた、本郷先輩が再改造された日時との照合で分かった」

仮面ライダー三号は『Wライダーを倒した事がある』と、黒江と再度の相対の際に悠然と言い放ち、激しく動揺させた上で、圧倒した。その時に救援に駆けつけた本郷と一文字は『人々の願いがあるかぎり、仮面ライダーは不死身だ!』と変身し、3号に『電光ライダーキック』と『ライダー卍キック』のWキックを叩き込み、撃退している。ストロンガーから三号の耐久力を聞いていたので、それぞれの最強のキック技を叩き込んだのである。黒江は安心したか、一号にすがりついたまま寝てしまい、そのまま本郷邸に運ばれ、一夜を明かした。その時に本郷に『あーや』が本音を代弁しており、本郷もそれを優しく受け入れた。光太郎達が言っているのはその事だ。

「綾ちゃん、ああ見えて意外に一途と言おうか、純真と言おうか」

「あの子はそういうところありますから。だからあの7人を慕ってるんですよ。伝説の7人を」

「先輩方は、俺たち後発の仮面ライダーだけでなく、スーパー戦隊からも尊敬されてるよ。悪の組織が唸るほど活動してた時代を戦い抜いて、あのデルザー軍団を倒したんだから」

――デルザー軍団と7人ライダーの『12月の死闘』。ヒーロー達の間で語り草となった死闘の一ヶ月。仮面ライダー達が総出で長時間、日本で戦ったのは、この時が最初で最後(今のところ)である。一時的に集合したのは幾度かあるが、復活後は今のところ、最大で7人までで、Jまでの全員は揃っていない。栄光の七人ライダーの登場は仮面ライダーチームの全力を意味するため、ヒーロー達の間でも伝説視されている。あの門矢士でさえも、7人ライダーを『伝説の七人』と別格扱いで呼び、彼らには敬語を使う。そのため、後発のスーパー戦隊やライダーは『伝説の七人ライダー』、スカイからZX、ゴレンジャーからゴーグルファイブまでは『栄光の七人ライダー』と呼んでいる。これは、スーパー戦隊で言えば、10人ライダーがコールドスリープに入りだした時期がバイオマンの活動開始時期までに相当するからだ。

「デルザーとは、それほどの?」

『そうだ、小娘』

「じ、ジェネラル・シャドウ!」

『南光太郎との電話中に失礼させてもらう。貴様らにも利益がある話なのでな。スピーカーをオンにしてもらおうか』

『どういうつもりだ、シャドウ!』

『ククク、そう吠えるな、南光太郎。青二才ぶりが出ているぞ』

ジェネラル・シャドウ。デルザー軍団の中でもっとも有名な人物で、城茂の好敵手として名を馳せた改造魔人である。彼は元々は人間で、第一次世界大戦に従軍したとも噂されており、『魔道に堕ちた人間』と言える。人であった頃は第一次世界大戦で駆り出された魔術師であったらしく、ジプシーの末裔であったらしいが、そこから魔道に堕ちていった理由は闇の中だ。

『大首領は暗闇大使の粛清をお考えになられておられる』

『バダンの幹部じゃないか!地獄大使の従兄弟でもある』

「どういうこと?」

『アポロガイストらに内偵させているが、あ奴は生前に地獄大使に裏切られてから、人間不信になっておってな。大首領さえも信用できなくなったらしいのだ』

「悪の組織に裏切りは毎度のことじゃない」

『あ奴はヘッドハンティングした幹部だからな。二次大戦からしばらくした頃だったか。東南アジアの小さい国で我ら――つまりナチス・ドイツの生き残り――が力を貸して、軍事政権を作った。その時に我らが見出したのが『ダモンとガモン兄弟』だった。つまり、地獄大使と暗闇大使の前身だ。奴らは元はサンフランシスコに生まれ、その後にその国の革命軍に入隊。壮年に入る頃には革命軍の中枢に上り詰めていた。我々がテコ入れをしたのはこの時期からだ』

ジェネラル・シャドウは意外に義理堅い性格なので、説明は意外なほどに丁寧だった

『組織に入るつもりだったのはガモン大佐、つまり暗闇大使が先だ。好きだった初恋の女の蘇生を願ってな。俺の推測だが、奴にとって、その女が良心の象徴だったのだろう。が、従兄の地獄大使のほうが鷹揚な性格だったからか、惚れられていたという顛末付きだ。流石に魔人の俺でさえも同情した』

「悪人、それも魔人に同情されるって、どんだけ運がないのかしら?」

『お前に同情されるほどとは、相当だな……』

『生まれついた星だろう。常に地獄大使に利用される立場だったから、女さえも兄に奪われていたというショックは相当だったのか、それでショッカーではなく、バダンに直接入った。少しでも立場の優越感に浸っていたいのだろう。が、あいつは虎の威を借る狐でありすぎた』

『踏ん切りがつかん、と言うことか』

『そういう事だ。他者の威を借りて生きてきた暗闇大使は、自分がリーダーになることに執着を持つ癖に、その事に怯えている。ミッド動乱の時から泳がせているが、報告によると、ホッパーバージョン3に『大首領を殺してくれぇぇぇ〜』と泣きついているそうだ。貴様らが三号と呼んでいる男に子供のように、な』

「呆れて物が言えないわね、仮にも大幹部ともあろう悪人が。それじゃ、用心棒便りのチンピラじゃない」

『大首領も同じ気持ちでな。ホッパーには監視をさせているが、大首領も『泳がせておいても無害そうではあるが……』と困り果てている。ZXに倒させて、最後の花道を飾ってやるか、ホッパーに暗殺させるか、意見が割れているのだ』

仮面ライダー三号に暗殺させるか、ZXに倒させて、最後の花道だけは飾ってやるか。悪の組織の間でも意見が割れている。

「悪人でも意見が割れるような事?これ」

『奴ほどの幹部になると、改造にも手間が仮面ライダー共並にかかっておるのだ。そこが問題なのだ』

『悪の組織が資金繰りを気にするとはな』

『組織は綺麗事では回せんのだよ』

――なんとも世知辛い悪の組織事情である。バダンは巨大組織であるが、流石に幹部級怪人を使い捨てには出来ないらしい――

「こっちで活動するなら倒しても良い?回収はそっちでやってくれるなら新人の訓練に使うけど?』

「構わんよ。アポロガイストを生き返らせ、幹部の欠員は補充済みだ」

暗闇大使の価値は蘇生させたアポロガイストに劣るらしく、あっさりと了承した。バダンも生き返らせる大幹部は選んでいるのが分かる。

『フフ、俺からは以上だ。南光太郎、城茂に伝えておけ。貴様を倒すのはマシーン大元帥でも、タイタンでもなく、このシャドウという事をな……』

マントフェイドという能力で姿を消すシャドウ。生き返ってもストロンガーに執着を持つらしい。生前の策謀家ぶりも健在で、武子たちに取引を持ちかけに来るのも『相変わらず』と言えよう。ジェネラル・シャドウのこの性格から、デルザー軍団は一概に『極悪非道』とは言えないのだ。それは魔人である故の誇りであり、7人ライダーと対等に渡り合ったという自負がある故、7人ライダーも『強敵』と未だに言っているのだろう。

――戦争はデルザー軍団も絡み、複雑な様相を呈する。A世界でのこのやりとりを聞かされた城茂は『シャドウの奴、相変わらず回りくどい方法使いやがるぜ』と呆れつつも、闘志を燃やし、デルザーとの本格的な再戦を覚悟する。茂以前のライダー達が悪の組織で唯一、『自分たちと対等に渡り合った』と高く評価する精鋭組織『デルザー軍団』。その暗躍はバダンの大幹部に何をもたらすのであろう――



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