外伝2『太平洋戦争編』
七十九話『ウィッチ達の苦悩』


――A世界では、兵器が一気に飛躍したせいもあり、ウィッチ達は作戦のメインから外され始めていた。対人戦においては、平均的な航空ウィッチの運用面のメリットが機動力以外に無いのと、対人戦に従事するのをボイコットするサボタージュも平然とやる者もいた自業自得であった。1949年の段階で対人戦闘に従事する部隊は、扶桑海事変を生き延び、なおかつ未来世界で地球連邦軍に従軍した経験を持つ一部の精鋭部隊のみであった。その事も扶桑皇国の財政を管轄する『財務省』(大蔵省より組織改変)からはウィッチ関連の軍事費削減が提言される理由であった。1949年度に開幕した皇国議会では、この事が議題になった。その影響で編成から廃止される飛行隊は多く、既に20近くの飛行隊は廃止されていた。(新人が入らず、ベテランも家の都合などでリウィッチにならない者も多く、定数を満たせない部隊が続出した)が、本人の意志と別の力により、職業軍人であり続ける者もいる。黒田であった。


――黒田は本来、上がりを迎えた後は普通に嫁入りするものだと、実の両親も思っていた。が、黒田本家に養子に行った後のお家騒動で本家当主を継ぐ事になり、(黒田風子という当主の孫娘が肺結核で死去し、その父親、つまり前当主の嫡男が廃嫡された)家を支えなくてはならなくなり、リウィッチとなって軍に留まり続けた。更にリンカーコアの活性化が確認された事も、理由だった。お家騒動後の黒田家を自分が経営するには、元々が分家の中でも末席の家の出である事を考えれば、これまでの戦功を有効活用できる社会的地位である『職業軍人』で居続けるしかない。不本意ながら、黒田邦佳は黒田家当主を1946年度に第15代として継承。(系図で言えば、史実の黒田長礼氏の次代に相当する)以後は侯爵の爵位を公の場では名乗るようになる。皮肉な事に、それまでの職業軍人としての戦功と『天皇陛下と吉田茂公のお気に入りであり、扶桑海事変の功労者』という箔は『華族会館』でも大いに役立った。1949年当時は華族に軍人ウィッチがほぼおらず、扶桑海事変からも年月が経っていた事もあり、黒田は下手な公爵家当主よりも立場は上であった。『軍歴を持ち、金鵄勲章を何回も叙勲されていて、扶桑最高峰の精鋭部隊のナンバー5である』からだ。黒江達はそのツテを大いに活用しているが、戦後にそれぞれの家が『子爵』に叙爵される事が内定したので、この年の春の給料の査定からは『華族』としてのそれになる。(華族会館入会は正式な叙爵後になるが)――


「Y委員会から内示があったわ。私含めての4人の家に叙爵がなされる事になったわよ、圭子」

「『以前』より早いわね」

「お上が話を通したそうよ。軍の高官達の複数の候補を退けて、私達を指名した。それも永世華族にね」

「よっほど今の陸軍の佐官級の参謀や青年将校が信用ならないと見えるわね」

「仕方がないわ。個人的に忠臣と評価していた東条閣下は『賊にも劣る』と未来人に嫌われてるから」

この時期、未来情報により、『戦前戦中の指導者であった』者の多くは日本との外交問題もあり、叙爵の対象から外される傾向があり、叙爵対象者が『親米英系政治家』や『海軍軍人』に偏っていた。これは日本には『史実で日本を破滅に導いた連中に名誉はクソのほども無い』とする世論が一部に存在しており、一般人にもマスコミの印象操作で少なからず存在する。これがオラーシャ帝国への日本の援助が少なかったがための衰退や、カールスラントの皇室親衛隊の多くが追放される原因の一つだった。オラーシャ帝国はわざわざ『ソ連邦にならない』宣言を日本向けに発表する羽目になるほどに、革命騒ぎで追い詰められてしまい、モスクワ大公国時代並の規模に衰退したし、カールスラントは皇室親衛隊の多くが日独の左派の『史実で武装SSだ!!殺せ、追放しろ』という排斥運動の対象にされてしまった影響が響いている。カールスラントでハルトマン、マルセイユ、バルクホルン家が永世貴族の地位を得たのは、その穴埋めのためである。言わば、一部の介入者の『独善的な粛清』は、旧・枢軸国の二大国の同位国を中心に、多大な悪影響と甚大な損害を与えたわけだ。この『災害』で何かかしらの損害を被り、理不尽に同位体の咎を背負わされた者は半分が日独の人間、それ以外はソ連/ロシアの人間が大半だった。その結果、扶桑では、試みられた45年以後の四度のクーデター未遂事件を契機に、機械化という名目で陸軍の大幅な歩兵師団と騎兵師団の削減が行われ、カールスラントでは皇室親衛隊を規模縮小の後に『皇帝親衛隊』に組織改編、オラーシャ軍は防衛型軍備での再建が図られる。これは革命騒ぎで国がガタガタになり、外征型軍隊を維持できるような状態で無くなったという切実な事情からである。

「今回の内示はたぶん、お上が日本に『国家功労者をちゃんと労っているところ』を見せたいのだと思うの。私達はそれにピッタリな『国家に真の忠誠を誓っている、実績豊富な青年将校』だから」

「お上は未来の情報聞いてからというものの、ピリピリしてるしねぇ」

「特に、45年から四回もクーデター未遂。しかもその内の一回はエクスウィッチ達が起こしてる。ウィッチ出身者も信用ができなくなってるから、北郷さんや隊長がまだ叙爵されていないのよねぇ」

「お上の名を政治的主張に利用しただけだものねぇ、奴らのやってた事。お上、最近の口癖が『治安に変わった事はないか』だもの、堪えておられるわよ」

「史実の226事件級の事態が、自分の時世で二回以上起これば当然よね」

昭和天皇はクーデター未遂が何度も起こった事、その首謀者が陸軍関係者だったことなどの精神的ショックにより、最近は海軍と空軍寄りの言動が増加し、吉田茂に指導者としての苦悩を吐露するようになっていた。その事もあり、事変からの功労者であるスリーレイブンズへの叙爵を強く希望したのだ。反対意見は『スリーレイブンズは、最年長の加東圭子でも30代間近。叙爵には若すぎる!』というものだ。天皇は『彼女らほど、最前線で国家に尽くしてきた軍人がおるのか?浦塩防衛は彼女らの成果であるし、年齢は関係無い、皇国に有用か否かが問題なのだ』と意見を押し通し、戦争終了を以て、叙爵の運びとなった。この日の前日、武子はコスモタイガーで本土に行き、そのことの通達の関係で天皇陛下に拝謁。『朕の剣になってはくれないだろうか』と言葉を賜っている。また、その日付で新設された階級の『准将』に任ぜられるというおまけ付きだ。B世界からの帰還を待って、スリーレイブンズにも昇進辞令が行く事となったので、将官ウィッチが在籍する事になる。こうして、『一度目』の歴史より20年近くも早く、64Fはジェネラルズオブウィッチーズの名を名乗る事になる。また、ハインリーケの南洋島着任が皇帝直々に認められたので、正式に64F内の魔弾隊の第3中隊長に就任したため、カールスラント空軍と扶桑空軍は実質的に、密接な協力関係にあったと言える。

――この一連の流れにより、未来世界が補強しようとしたウィッチ世界の方向性である『史実と違う方向性』を、21世紀日本が全力で史実の方向性に揺り戻しを行った事で、東西冷戦の方向性に決めてしまった事は21世紀日本にはショックであった。これは扶桑から戦争遂行能力を該当都市の予定生産量からの概算で『6年分近く』奪った事が、リベリオン本国政権の命脈を伸ばし、少なくともソ連と同等程度の政権寿命を得る事に繋がるからだ。つまり亡命リベリオン合衆国の現在の老人層は祖国の地を踏めなくなる可能性が極めて濃厚となる。これは亡命リベリオン大統領『ドワイト・アイゼンハワー』が日本で抗議声明を発表する事態ともなり、日本がリベリオン本国政府に『旅行などの往来の自由』を認めるように要請しに動くきっかけとなった。東西冷戦に歴史の流れを固定化させてしまった『せめての罪滅ぼし』が『亡命側の本国への往来の自由権』の確保だった。ティターンズも外貨獲得の観点から許可したため、日本は罪滅ぼしを始めていく事になる。アイゼンハワーの抗議声明をきっかけに、同位国の太平洋戦争の『勝利』に肯定的な世論のうねりが生まれ始めるのも、2014年の晩春頃からだった。


――2014年 日本――

「すみませんな、じいちゃん。じいちゃんの家は2000年代の後半に燃えちゃいましてな」

「まさか、お前が総理をしておった事があるたぁ、儂は思わんかった」

「私も、まさか、自分が年寄りになった時代に、おじいさんにまたお目にかかれようとは思いませんでしたよ」

「お互い様、と言うことだな、『タロー』よ」

「私ももう政治家は長いですが、じい様ほどの政治家は見た事がありません」

「仕方がなかろう。お前が政治家となり、過ごしていた時代は日本が復興し、儂らの時代の名残も消えた時代だ。世襲議員が多数派である事を考えると、小粒になるのは仕方がなかろうよ」

「じい様のライバルを目された鳩山の一族は代を追うごとに明後日の方向に行っていきましたよ」

「それは聞き及んでおる。鳩山君が大いに嘆いておった。それで総理によくなれたものだとな」

鳩山一郎(ウィッチ世界)は、未来世界にいる自分の二人の孫の内の長男がよく言えば、『理想家』、悪く言うと『夢想家』であるのに、総理大臣となった事を『何かの間違いだろう?』と述べ、総理大臣としては無能に入るであろう人物に数えられている事にショックを受け、脳梗塞の身でありながら、吉田茂に嘆いている。

「鳩山君は電話で『教育まちがったかなぁ…』と泣いておったが、儂は『小泉君みたいに遊ばせ過ぎても不味いがな』と言ってやったよ」

「確かに」

「本題に入るが、往来の自由権の確保と、休戦の斡旋はそちらのメンツにかけても行うようにな」

「恥ずかしい話ですが、60年代の学生運動の夢を見てる革命家気取りやコミュニスト残党が多くて。それに、もう一つ」

「なんだ?」

「じい様のところには、我々が戦後に連合国に奪われたモノが現存しとるじゃありませんか。旧華族、旧皇族、現存天守などの国宝、原爆で消えた旧中島地区。戦前期の軍事力、国際的発言力。その全てです」

「……嫉妬か」

「恐らくは。戦後の我々はアメリカの政治的植民地も同然、頼りとしていたはずの経済力はもはや20年以上の不況で斜陽となり、少子高齢化社会。経済大国としては限界です」

「豊かになったが、それで活気を失い、国を守るという気概も長年の米軍の庇護で消え失せつつある、か。確かに、戦争はないほうが幸せだが、同時に長すぎる平和も危機意識を希薄にさせる、か……。皮肉なものだ。憲法改正にここまで尻込みするとは。儂だって予測付かんよ。憲法は所詮は生き物、後生大事にするモノではない」

「野党連中は現実を知りませんからな」

「いつの時代にもいるものだ。反対するしか能がない阿呆共が。我々の世界で扶桑海事変というものがあったんだが――」




――日本で極秘会談が行われていた頃、ウィッチB世界では。ノーブルウィッチーズに通報が入った。ロザリーは電話を取るが、我が耳を疑った。『黒田がロマーニャで一騎当千の大活躍をしている』というのだ。しかし、黒田は基地でイザベルやハインリーケ達と目の前でトランプ中だ。

「黒田さん……」

「なんですか、ロザリー隊長」

「実は……」

知らされた当人は腰を抜かしながらずっこけてしまう。なにせ、『自分がロマーニャで一騎当千をしていて、スリーレイブンズの二人と隊列を汲んでいる」のだ。Bは当時は幼年学校卒の士官候補生で、当時の第一戦隊との接点などはない。当然のことながら、Bはスリーレイブンズとの面識を否定する。

「ない!無いですよ!あの時、陸軍三羽烏の皆さんは撃墜王として有名で、私なんて事変中の大半は幼年学校にいましたし、末期に数機落とした程度で、とてもとても……」

「変ねぇ。現地からの報告だと、あなたらしきウィッチは501のウィッチにも指示を出してりしてるし、スリーレイブンズとも既に戦友らしき素振りを見せてるって……」

「私を騙った誰かが!?」

「いえ、もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「今日の補給物資と一緒に、502から極秘通達が送られてきてたの。その事に関係しているのかしら?」

「どういうことじゃ、少佐」

「ハインリーケ大尉、極秘通達の書類を開封してくれる?」

「了解じゃ」

と、ハインリーケが極秘通達の書類を開封し、ロザリーに手渡す。すると、ロザリーの顔色が見る見るうちに変わる。A世界の事、地球連邦、時空管理局、銀河連邦などの他世界勢力の介入、送り込まれたA世界の『英雄』達……。その全てが記されていた。

「……黒田さん。ロマーニャにいるのは『あなた自身であってあなたではない存在』、つまり平行世界のあなた自身のようよ」

「えぇぇ!?つまり?」

「つまり、この世界とよく似た別の世界におる、そなた自身じゃと言うことじゃ。ドッペルゲンガーではないぞ。ただし。やっかいな事になるという事じゃ。」

「ええ。我々はロマーニャの戦いに際して、何のアクションも表立ってはいない。A部隊は活動停止中だし、B部隊はロマーニャからは遠すぎる。だけど、これで我々がウィッチを参戦させたと大々的に報じられる事になる」

「……上級司令部の指令を無視してな。我々からも参陣している者がいるのでな」

「ジーナ中佐」

「よりにもよって、この私なのだがな」

苦笑いのB部隊隊長のジーナ・プレディ中佐。A世界の自分がゲッちゃんドラゴン、ライガ、ポンちゃん、ガイちゃんザ・グレートを率いて戦線に参陣してきたのを無線の傍受で聞いたからだろう。少し顔色が青い。ジーナ中佐の場合は声色で顕著に違いが出ており、A世界では艦娘の金剛に多少落ち着きを持たせたような高めの声だが、B世界ではストレスの溜まり具合と待遇の違いもあり、霧島にドスを効かせたようなハスキーボイスである。霧島よりもドスが聞いている上にかなりのトーンが低いので、A世界の同一人物との判別は容易であった。それとジーナ中佐のストライカー『F-104』には、由緒ある米軍のスカル&クロスボーンのマークが逆輸入で書かれていた。本来、彼女は空軍だが、現在は海軍のVF-84部隊に出向している。これは空母着艦可能な技能の現役海軍ウィッチが亡命軍には指折り数える程度でしかおらず、空軍からの出向で補っているからの現象だ。なお、当時は史実ならVF-61部隊がその地位にいるが、ニミッツが『自分達が正当なリベリオンの軍隊である』事を示すためのプロパガンダとして、VF-84を別個に編成し、61部隊を解散させた上で編成させた。その事もあり、概ねVF-61部隊の陣容を半分以上受け継いだが、古参がボイコットしたので、空軍からの出向で人員を補っている。ジーナ中佐はその一人だ。同じ506B部隊の人員達も多くは紆余曲折を経て同隊にいる。その内のマリアン・E・カールは結局、良心の呵責と愛国心とに揺れ動いた結果、愛国心を選び、同隊に在籍した。彼女については、ロマーニャ戦後、ハルゼー、スプルーアンスなどの海軍高官により査問委員会が開かれた。これは『ウィッチの力は人を傷つけるための力じゃない』という発言がマイナスに捉えられたからで、ニミッツ、ハルゼー、スプルーアンスと言った高官たちに査問委員会で真意を説明する羽目になった事に、当人は愕然としていた。

「さて、大尉。査問委員会が開かれた理由は分かるかね」

「て、提督!自分は利敵行為など働いてはおりません!任務もボイコットしておりません!!どういうことなのです!?」

「大尉。我々としても、今は怪異との戦闘だけにウィッチを駆り出すほどの余裕はないのだ。君にはサボタージュの嫌疑がかかっておるのだ。我々としては通常兵科との火種は放っておくわけにはいかんのだ」

スプルーアンスがいう。通常兵科との火種は消さなくてはならないと。

「それに、貴様らウィッチの育成には膨大な費用がかかっておる。それこそ、通常パイロットよりも遥かにな。扶桑でも問題になっているが、怪異相手しか戦えませんなどと言った甘言が通用する時代ではない」

「ハルゼーの親父……いえ、提督!わ、私はそのような意図で公言していたわけでは!」

マリアンは必死に弁明する。最悪、軍法会議で不名誉除隊処分を受けたら、亡命した親類一同から白眼視される。そうしたら自分の一家は『恥』と誹りを受けてしまう。その事への恐怖があった。不名誉除隊はリベリオンに於いては重罪も同然。ジェニファーが軍法会議で不名誉除隊となり、その直後に失踪して行方不明(実際は別人として生きている)となった事に恐怖を抱いていたマリアンはまるで、獰猛な狼を前にした子羊のようだった。マリアンはまさか自分の非常時の言動がここまで大事になるとは思っていなかったらしい。

「提督、マリアン大尉は我々へ利敵行為は働いてはおりませんし、国家への忠誠心に揺らぎはありません」

「証拠は?」

「これです」

竹井は親交のあるマリアンの弁護にあたり、クロウズとしての自分の地位をフル活用した。圭子や武子など、発言を快く思わないレイブンズを説き伏せ、更に扶桑きっての名門の後継者である自分が『人物は保証する』とハルゼー、スプルーアンスに直言するなど、マリアンを不問に付す事に奔走した。査問委員会では、竹井はクロウズ一の切れ者としての顔を覗かせ、シャーリー、506からの同僚のカーラにも弁護の証人になってもらい、更にレイブンズの一人で、師と仰ぐ武子にも、マリアンが利敵行為の意図はなかったと裏付ける資料を提示してもらうほどの準備周到さだった。竹井は弁護の途中でヒートアップし、ステンレス製の机を思い切り凹ませるなどの怒りも覗かせ、三人の提督を大いに怖がらせた。504時代の補給物資や機材の出し渋りなどで、よほど鬱憤が溜まっていたか、武子が止めに入るほどに竹井は弁護に熱が入った。三人の提督はこの弁護で腹づもりを決めたが、マリアン当人からの確証を得たかった。

「マリアン大尉。君は敵兵を倒せるのかね?怪異とは違う。同胞と言える者を君自身の手で殺すことになるのだぞ。査問委員会が終了した後に除隊申請を出せば、名誉除隊となる。君はどちらを選ぶ」

ニミッツから突きつけられた最後通牒。これにマリアンは一瞬が果てしなく長いように感じられ、良心の呵責と愛国心、仲間との友情を戦わした。マリアンは絞り出すように、声を発する。良心を殺してでも、彼女は仲間との友情と愛国心を取ったのだ。

「人を傷付ける敵軍兵士は人間ではありません。自分は誇りある、リベリオン海軍軍人であります」

「……よかろう。これを以て、君への罪状を不問に付す事とする。フォレスタルにて待機を命ずる。明朝を以て、任務を通告する」

こうして、マリアンは竹井の熱のこもった弁護もあり、罪状を不問に付された。彼女が前自分の忠誠心の証明のために戦果を追い求める『狂戦士化する』事を竹井は恐れた。その懸念から、マリアンはテスト部隊へ出向を命じられ、B世界への増援にはジーナ中佐のみが送られた。ロボットガールズチームGが護衛につけられたのは、その埋め合わせである。


――B世界のロマーニャは正に、スリーレイブンズとロボットガールズ、ダブルマジンガーが支配する戦場であった。ダブルマジンガーの『ダブルマジンガーパンチ』(TスマッシャーとGスマッシャーパンチの同時発射)が敵を粉砕し、ゲッちゃんのダブルトマホークが宙を舞い、ライガがマッハ5で乱舞し、ポンちゃんがゲッターエレキで薙ぎ払い、ガイちゃんがボルトパライザーで焼き払う。最初の一撃だけで、小型怪異の第一波を全滅させる。

「う、嘘……空を埋め尽くしてた小型怪異が……」

「今の一撃で全て薙ぎ払われたというのか……!?」

バルクホルンBとミーナBは目玉が飛び出ん勢いで呆然としている。魂が抜けかかる勢いだ。護衛を失い、残った第一波の大型は……。

『唸れ、聖剣『エクスカリバー』!!」

黒江が急降下しながらのエクスカリバー(斬艦刀越し)で300m級を有無を言わさずに斬り裂いた。更に大型の500m級も……。

『オーロラエクスキューション!!』

智子の絶対零度のオーロラエクスキューションで粉砕され、見事に全滅させる。この絶大な戦果は、B世界の怪異コアコントロールシステムによるものでも不可能な『戦略を戦術で覆す』様だった。

――そして、黒江達も驚きの援軍が時間と空次元跳躍で現れる。それは宇宙戦艦ヤマト並び、人類の歴史上、『地球の五つの剣』と謳われる大宇宙海賊船だった。

「あ、アルカディア号!?何号艦だ!?」

「あの骸骨艦首とあの大きさ……後期型じゃない?」

『付近の地球連邦軍及び連盟軍などに告げる。我々はアルカディア号。宇宙戦艦ヤマトとの盟約に従い、参上した』

ハーロックは無線で告げる。宇宙戦艦ヤマトとの盟約により自分たちはやって来たと。ヤマトよりも遥か後の時代の超テクノロジーで造られし、史上最強の海賊船。黒江も智子もキャプテンハーロックを『男の中の男』と敬服しているので、艦橋にいるハーロックへ思わず敬礼を取ってしまう。9隻あるアルカディア号の中でも、相当に後ろのナンバーの艦で来たらしく、艦橋を破壊され、空母天城(B世界の天城型)に接舷されている戦艦武蔵がまるで駆逐艦のようにしか見えない。

『ハーロック、まさか、あんたが来るなんて…』

『俺たちは我が先祖と古代進との盟約を果たしに来た。この程度の事は気にするな』

ハーロックは黒江にそう答え、アルカディア号を疾駆させる。波動モノポールエンジンを唸らせ、砲塔のパルサーカノンを指向させる。パルサーカノンはプラズマショックカノンの更に10倍以上に強力な艦砲で、ハーロックの時代における最新最強の艦砲である。その威力は衝撃波だけで周囲ニキロの全てを粉砕するほどだ。ハーロックいわく、一斉射撃で初期型の宇宙戦艦ヤマトは容易く粉砕出来るとの事。

「あれは海賊船なの!?」

「宇宙で五本の指に入る超弩級海賊船だ。あれと敵対する奴はまずいない」

「宇宙の星間大国家が見ただけで吐き気を覚え、惑星国家なら心停止に陥るくらいの力を持つ大海賊船よ。あの火力をごらんなさい、ミーナ」

智子が指差す先にあるアルカディア号が、砲塔の一斉射撃で自らの半分以上はある大型怪異を『有無を言わさずに』破壊し、後続の集団をまるごと屠る。

「……」

「オホン。……とはいうものの、仕事は残ってる。おっしゃ、お前ら、続け!アルカディア号に傷をつけんなよ!」

と、すっかりご満悦で、アルカディア号を中心に護衛の布陣を取る黒江達。怪異は次々と軍団で襲いかかるが、これまた、一同とWマジンガー、アルカディア号が有無を言わさずに粉砕していく。ここまで行くと、自重の自の文字もあったものではない。音速を超えたスピードで飛び回り、怪異を圧倒する様は、A世界が辿り着いた答えでもあった。が、それに呆然としていては、統合戦闘航空団の名が廃る。黒江達の指揮下にあるウィッチを除いた者達も制空権確保に加わる。そのため、連盟軍はほぼ蚊帳の外状態で、戦艦の放火が煌めくことも、空母艦載機の轟音も響く事もなかった。一同が片付けてしまったからだ。主戦場は高度8000m以上。アルカディア号は艦載機のスペースウルフも発進させ、戦場に海賊旗を翻す。アルカディア号はその威容もあり、戦場を支配した。








――地球連邦軍は数の優位を質で覆されたり、波動砲戦術を火炎直撃砲で覆された事が多く、『連邦軍は数だけの能無し』とプロパガンダが広まっている。その事を強く意識した連邦軍は、それまでの『兵力の平均化』を捨て、精鋭部隊に資本を集中させる』ジオン流の兵力構築を選んだ。部隊全体のボトムアップが重要とされる地球連邦軍だが、ジオンに蹴散らされる雑兵扱いが再現ドラマでは多いので、目に見える強さとして、ロンド・ベルのような『魅せる形での精鋭部隊』が必要とされ、政治的にもその権威を銀河連邦はこう呼んでいる。『アースフリート』と。アースフリートは本来、キャプテンハーロックの時代における地球星間連邦軍の通称であり、数々の伝説を打ち立てたものの、Gヤマトなどの有力艦が不在の星間連邦は『マゾーン』などの侵略者にあっさり屈し、敗北者とされている。ハーロックは銀河100年戦争も終えてから、平和が数百年続き、『事なかれ』に染まった地球星間連邦と袂を分かった。ハーロックが過去に介入したのは、ハーロックの時代から見て、『絶頂期』にあたる23世紀のアースフリート(地球星間連邦軍)の気概を人々に見せつけることでの歴史改変の意図があるからだ――


――ハーロックは自分の先祖に当たる『ファントム・F・ハーロックX世』と宇宙戦艦ヤマト第3代艦長にして、大ヤマト初代艦長の古代進との盟約を家訓として受け継いでいる。その家訓に従い、アルカディア号とハーロックはちょくちょく姿を現しており、今回もそのパターンである。アルカディア号は海賊船だが、『地球のために戦う戦士たちの味方』であるので、ヤマトのみならず、黒江達にも力を貸している。艦上にはためく海賊旗から、ペリーヌBは憮然としているが。わかりやすい海賊旗(ステレオタイプ的なジョリー・ロジャーを掲げている)を掲げている事から、海賊にならず者のイメージを持つペリーヌは快く思ってはいない。これはA/B世界共通事項である。また、ガリア/フランスは海賊にしてやられた歴史があるので、海賊と共闘することには否定的である。もちろん、皆の手前、必死に抑えているが。(フランスやスペインなどは海賊にしてやられた歴史があるので、海賊は好きではないらしい)――

「私達の仕事を彼女達にやらせるわけにもいきません。各員は各個に応戦を!」

「了解!」

ミーナは指示を飛ばすが、戦場は介入者の支配するものとなっていた。黒江達の闘技、ロボットガールズの必殺技、Wマジンガーの天地を揺るがす超必殺パワー。アルカディア号の絶対的存在感。

『音速を超えた戦いを見せて差し上げましょう!!マッハスペシャル!!』

ライガはマッハスペシャルを発動させ、小型怪異に切り込む。マッハスペシャルの速度はマッハ5。この世界では神速と言える速度であり、細身の体ながら怪異を貫くドリルの槍を扱う。

『ボルトパァァラァイザー!!!』

『ゲッターエレキぃぃ!!』

『サンダーボルトブレーカー!!』

『トールハンマーブレーカー!!』

電撃系の必殺技の同時発射であった。この必殺技の乱舞により、凄まじい余波が発生し、艦隊の全艦のレーダーが使用不能になる。余波で焼き切れたのだ。高度8000で戦っているのに関わらずだ。また、この電撃の奔流は、サーニャの索敵魔法にも支障を来した。あまりに強力なエネルギーだったので、魔法に干渉が起こり、正常に働かなくなってしまったのだ。

「アルカディア号、レーダーの索敵頼んます。こっちのウィッチの索敵が今のライトニングバスターで機能不全で」

『了解した。以後の索敵は引き受ける』

と、黒江がすさかず指示を仰ぎ、ハーロックが了承する。完全にミーナBは指揮の主導権を黒江に取られているが、Aと違い、『一人のウィッチとして戦える』と好意的だった。それが黒江と智子を驚かした。ジーナ中佐は二人の護衛を黒田と共に行っていたが、声色が完全に少女時代の声色(リウィッチ化の余波でトーンが高くなり、少女時代の声色に戻った)なため、B世界501のウィッチたちのみならず、無線を傍受している当人も顔色を青くしながら聞いていた。(A世界では、マルセイユが強い酒を飲ませたら、性格も金剛となり、別人となった事あり)

「くそぉぉぉ……どこの誰だ!別の私を連れてきたのはぁぁああ!やめてくれぇええええ……」

セダン基地でこのように、恥ずかしさのあまりに悶だえていた。極めて珍しいシチュエーションである。無線の傍受はロザリーが続けさせ、A部隊はハインリーケと黒田Bを現地に急行させたが、アドリアーナは黒江の指揮下で戦っており、黒江と智子の戦技に惚れ惚れしているらしい声が聞こえてくる。これは501と入れ違いに、作戦空域から帰還した504でも同じで、竹井以外のほぼ全員(錦と天姫はA世界にいる)も同じようにパニックとなっていた。

「どういうこと!?」

「該当のウィッチはもう前線から退いています!?」

「んじゃ、なんで暴れてんのよ!?」

赤ズボン隊を中心に、大パニックだった。特に智子と黒江の二名が人物識別表に『エクスウィッチ』と分類されているはずの人員であると分かったからだ。竹井より更にずっと前の世代のウィッチが何故、戦場で大暴れしているのか。竹井に問い合わせたいが、戦闘中である。しかも主戦場では無線通信が不調(黒江達は23世紀型のインカムを用いているので、ミノフスキー粒子散布下でも良好な通信状態を保てる)らしく、ロマーニャ半島からでは戦場の無線を上手く拾えなかった。その事がノーブルウィッチ―ズとの情報格差だった。また、23世紀との仲介役のラルBと孝美Bはそれぞれの任地で戦場を23世紀からの提供の映像機器で観察しているので、アルダーウィッチーズは、戦場にもっとも近いのに、何の情報が得られないというほどの情報格差であったため、パニック度は一番であったという。







――戦場には、連邦軍からの援軍として、VF-19Aの二個飛行隊とRGM-89S『スタークジェガン』とRGZ-95『リゼル』のMS部隊も馳せ参じ、一転して『地球連邦の戦場』と変わり果てた。501(B)にはこうした部隊との連携訓練をA世界で積んできた者がいるので、連携に支障はなく、連盟軍艦隊を蚊帳の外に置いている状態で大空中戦を続ける。正に音速の戦いと言える。

「す、すごい。これが別の世界で使われてる戦闘用ロボット?」

リーネBは、スタークジェガン部隊が小型怪異のビーム掃射を物ともせずに回避し、そこから増加武装の『対艦ミサイルポッド』を一斉に放つ事に驚嘆する。デッドウェイトとなったミサイルポッドは投棄し、そこから高機動戦闘に移行する。近代化でミノフスキーフライトが搭載されるようになったのと、大型MSである故の内部容積の大きさで改良された大出力のものが積まれているため、空中戦を可能としている。これはアルカディア号から提供された技術が連邦軍の戦闘能力を飛躍させた表れでもある。旧型のジェガンでは、増加装甲を持つスタークジェガンのみに搭載されたが、思った以上に良好であるのが分かる。

「そうだよ、リーネちゃん。向こうの世界だと『モビルスーツ』って言われてるロボットで、元は宇宙用のロボットなんだって」

「宇宙!?」

「何でも、戦闘の様相がこれですっかり人型機動兵器主体になって、飛行形態に変形するモノ、飛行機が合体してロボットになるものまである。信じられんが」

「それって、大尉……」

「ああ。それを使う戦争が当たり前になった世界が、あの海賊船達の世界だそうだ。だが、飛行機や戦車が消えたわけではない。我々、つまりウィッチをロボットに置き換えて考えてみれば、その立場が分かると思う」

「あまり考えたくはありませんが……」

「それが発達した科学の答えなんだろう。戦場はやがて宇宙に到達する。我々が行った世界では、ウィッチが宇宙で戦うこともあるそうだ」

「我々の立つ瀬がありませんわね……。向こうの世界のウィッチ達は超音速ストライカーで、彼らとの連携を前提に訓練を積んでいますが、我々は」

「だが、負けていられん。彼女らは本来、この戦場には『いないはず』の者達だ。この戦場の主役は誰か思い知らせるしかあるまい」

「あのような化物のように強い方々や、あのような兵器と肩を並べろと?」

「問題はない。彼らがウィッチとの協同作戦を熟知している」

「あなたは?」

「亡命リベリオン空軍、ジーナ・プレディ中佐。こちらの世界ではノーブルウィッチーズB部隊隊長になる」

「中佐殿、貴方の噂は聞き及んでおります」

「挨拶は後だ。貴官らは自分の指揮下に入れ。即席だが、彼らとの連携を教える」

「ハッ、了解です」

ジーナはバルクホルンBらを指揮下に収め、臨時で飛行隊を指揮する。そのため、戦場にいるウィッチで、突撃&無双役のスリーレイブンズ(黒江、智子、黒田A)、ミーナ指揮下の飛行隊、ジーナ指揮下の飛行隊に大別される。アドリアーナはスリーレイブンズの直掩を担当している。彼女ほどの実力でなければ、スリーレイブンズに随伴する事もままならないため、メンバー分けは正解だった。戦場の蚊帳の外状態にある連盟軍艦隊はただの一発の砲火を上げることはなく、全艦艇、全航空隊が暇を持て余していた。これはレーダーがライトニングバスターで全損し、状況が把握できなくなった事、ミノフスキー粒子が巻かれていた事で、艦艇間、航空隊間の連携に支障が出ていたため、艦隊旗艦の大和を始めとした全艦艇は沈黙せずを得なかった。もっとも、1941年レベルの能力しかない艦載機部隊が上がったところで足手まといでしかないが。


「実質、私達だけで戦わざるを得ないのは痛いわね。中佐、なぜ友軍は何の動きも?」

「実質的に、戦場は高高度だ。艦載機を上げたところで、アップアップだ。過給器すら積んでない世代のレシプロは7000以上に上がると真価は発揮出来ん。最低でも1500馬力と過給器搭載のエンジンがなければ、高高度じゃ役にたたん」

黒江は解説する。高高度戦闘というのは、レシプロ戦闘機では辛いものだ。史実大戦後期世代以降の機体でなければ、まともな空中戦は望めない。A世界では解決され、紫電改や雷電、烈風が乱舞して支援してくれるが、このB世界では低高度戦闘しか出来ない世代の機体しかなく、空母は役に立たない。

「この世界じゃ雷電も無ければ、疾風も、紫電改も烈風も無いからねぇ。必要性の違いだろうけど」

智子も嘆息する。A世界ではそれらが支援してくれるので、負担が軽くなるが、あいにく、このB世界では零式艦戦の21型が最新鋭、しかも九六式から機種変更すら終わっていないという状況である。

「なんですか、その、ライデンとかシデンカイというのは」

「こっちの世界で配備されてる、零式艦戦の更に次の世代の要撃機で、1500から2000馬力を誇る重戦闘機の事よ。それは20ミリ砲四門の重装備だから、支援に来てくれると楽に戦えるんだけど」

『ああ、紫電改なら私が使っている最新鋭のストライカーの名前だ。雷電も厚木に配備された新鋭ストライカーだが、そちらでは戦闘機もあるのか?』

「必要に迫られて造られたんだ。B29迎撃用にな」

『お前らの世界は人同士で戦っているしな』

「そういうこった」

――A世界では、ジェット戦闘機に主役こそ譲ったが、多くが未だに飛んでいる。雷電や紫電改はミッド動乱で大量生産され、動乱を戦い抜いたが、烈風は戦闘機のみがターボプロップエンジンで少数が出回ったにすぎない。それと、東南海大地震で打撃を受けた工場の再建が進んだ頃には、設計が1943年の烈風を量産するよりも、最新鋭ジェットストライカーの『栄光』と『旭光』を生産する方が手っ取り早く、烈風の最終的な不採用通知が宮菱に届いた事により、エースに出回った先行生産機の保守整備用にしか、ストライカーのラインは保全されていない。これにより、西沢は栄光へ機種変更を行ったので、現在も大エースで烈風を使用し続けているのは若本のみだ――

「なるほど。ところで、中佐。あなたの先程からの手刀は固有魔法なのですか?」

「いや、魔法じゃねぇ。超能力の一種になるな。第六感を超えた第七感の発現が前提条件のな。聖剣を身に宿している者だけの特権でもあるからな」

「聖剣!?」

「そうだ。私は右腕にエクスカリバーを宿している。何でもかんでも斬れるぞ」

「え、エクスカリバー!?」

『そうなんだ。扶桑人なのに、ブリタニアの伝説の聖剣の力を持っているんだ、こいつ。私は草薙剣とか天羽々斬とかと思ったんだが」

「草薙は私の子孫が発現させてる。仕方ねーだろ。聖剣がどれになるかはランダムなんだから」

カリバーンからどれに発達するかは個人の素養に左右される。黒江はエクスカリバーとエアに発達したが、その次代の翼はアロンダイトと草薙剣の力を宿している。坂本Bが愚痴ったのは、ブリタニアの『栄光の象徴』とされる剣を扶桑人の黒江が宿したという点なのだ。

「つーか、つーか、継いだ立場の繋がりと愛機のペットネームのせいでエクスカリバーになったかもしれん。VFはあの前進翼機を愛用してるしな。ペットネームがエクスカリバーだし」

「前進翼……。ウルスラ中尉が見たら泡吹きますよ、あれ」

「あー、こっちじゃサラマンダーとかのテスト中にニアミスしてやったよ。当然、泣いてたけど」

『当たり前だ。ジェットは運用方法の模索中なんだぞ。それをあんな制空戦闘機でニアミスなど…』

坂本Bが呆れていたのは、ウルスラがHe162ストライカーを量産検討候補にし、テスト飛行をしていた時、黒江がVF-19Aでニアミスし、イサム・ダイソン直伝の竜鳥飛びをやらかした際のエピソード。A世界での事だ。A世界では、ジェット戦闘機を制空戦闘に使用しているのは、未来情報と未来装備を持つ扶桑やブリタニア、亡命リベリオンの三カ国のみ。カールスラントはジェットの先駆者である故、『ジェットは対爆迎撃戦での一撃離脱を是とするべき』という初期の運用方法を取っており、真っ向から制空戦闘に使用するというドクトリンは一部の者の主張に過ぎず、ウルスラも『ジェットは制空戦闘向きで無い』と判断していた。ガランドの在職時から、智子や黒江はその認識を打ち砕くべく、テスト飛行に『次世代機』、場合によればVFで乱入する手法を使い、カールスラント軍を混乱させている。その中でも、坂本Bが立ち会い、呆れた一件が『サラマンダー計画のテスト飛行に、VF-19Aで乱入する』事だった。ウルスラはあまりの現実に泣いてしまい、カールスラント軍の開発計画を大いに混乱させた。

「別に、単にあれでバーティカルクライムロールとかやらかしただけなんだけどな」

『初期のジェットストライカー相手に、VFでバーティカルクライムロールは無いだろ。あれの性能は宇宙に数分で出れるくらいなんだから』

「スピードは手加減したぞ?」

『つっこむのはそこじゃなくてだな…』

「あれは軌道上まで一分で行ける。だから相当にスピード落としてたんだっての。そのための機体なんだし」

「なんですか、その化物みたいなのは……」

ミーナBも呆れるが、連邦軍史上に燦然と輝く名機『VF-19 エクスカリバー』。23世紀初頭時点では相対的に前世代機になりつつあるが、『人が生身で扱える限界点』の機体という事で、本星軍では171を退けて主力の座に返り咲いた。ハーロックの時代においても『愛好家の間で人気のある機種』である。本星軍は暗黒星団帝国を打ち倒してから、戦中にハーロックから提供された技術で独自のアップデートを施しており、A2型ではイサムスペシャル並の高能力がデフォルトである。その高機動性は猛者たちの搭乗が前提条件なので、連邦軍でも指折りの精鋭にのみ許された能力アップデートである。が、本星は激戦地なので、必然的に既存/新造の全機に施されている。黒江が19系で最後に搭乗した個体もこの仕様のモノだ。移民船団の部隊は練度が低めであるので、19系を保有する船団が少い。その事もあり、SMSに転職した者達も近頃は、本星軍にだけは『地球を守ってきた猛者共』と敬意を払うようになった。オズマ・リーも本星が『YF-19の写し身と言える』エクスカリバーを再度、主力に選んだという報には驚愕していて、ランカが黒江に連絡を入れた時に便乗して会話し、『本国の連中は人外か?』と呆れている。オズマは優秀なパイロットだが、軍に在籍時は171が好まれている風潮ので、19系にはあまり搭乗経験はない。その事もあり、19を乗りこなす者が増加した本国の部隊を人外と評したとか。(キ○ガイとも)

「見ろ、あの部隊の動きを。可変機構は当たり前だが、戦闘機形態で充分に怪異を相手してるだろ?要はどんな機体でも、やり方次第ってわけだ。人とやった後だと、怪異は楽だぞ?動きがパターン的だし、動きを極端に変えてくるような事は年単位でしかないからな」


――黒江は怪異と戦うことは『ルーチンワーク』に近く感じるようになっていた。人のように有機的な動きをするわけでもなく、個体の特徴さえ分かれば、ルーチンワーク的に撃墜できるからだ。人と命のやり取りをし、その事に血の滾りを感じるようになると、怪異は物足りない相手でしかない。スリーレイブンズの全員がその思いを持つようになったA世界では、俗に『板野サーカス』と呼ばれる、ミサイルの乱舞をくぐり抜ける事に滾る一方、怪異には冷めた思いを抱くようになっていた。その事がミーナB達との温度差であり、戦闘狂と言われる所以である――

「中佐は怪異に脅威を感じないのですか?」

「今となっちゃあな。ミサイルの乱舞とビーム兵器の雨をくぐり抜けるのに慣れちまったから、怪異は怖く感じなくなった。ウソのようにな。前は感じてた感情が綺麗サッパリ消えた。戦闘で達成感を感じる事も。あの世界を体感すると……怪異は単なる害獣駆除としか思えなくなるのさ。でも、パターンのお陰で技量の確認にはなる」

黒江Aは良くも悪くも、23世紀世界の倫理観に染まった事をミーナBに教える。怪異は害獣としか見なさなくなった事を。その事が薄ら寒く感じるミーナ達。だが、あれだけの強さになってしまうと、どんな怪異も敵とみなさなくなってしまうのは仕方がない。もはやこの世界では敵はないだろう空戦技能を持つ者の苦しみ。それは飛行経験が長い者にしかわからない事である。黒江達が感じている苦しみは年長者、もしくは飛行経験が長い者でなければ理解できない。『強くなりすぎる』事は逆に言えば、『作業化』することである。A世界の猛者達が未来世界に行くのは、『作業ではない空戦の空気』を得る事も含まれており、あの芳佳でも例外ではない。

「恐ろしい事を」

「だが、君達も感じているはずだ。勝つことに絶対の自信を。こうなったら蛮勇になる事が多くなる……。負けるはずがないってな。負ける可能性があるからこそ、緊張感が生まれるんだ、戦ってのは。慢心や油断が破滅を招いた例は戦史にいくらでもある」

黒江は、ミッドウェーに於ける帝国海軍の敗北の結末を強く意識している節を覗かせる。加賀が夢うつつのうわ言で『私達が……一航戦が一矢も報いることも叶わずに……嘘よ、嘘よ……!』とMI作戦で一蹴された事を未だに受け入れられない事をつぶやくのを聞いていた事も大きく関係していた。赤城と加賀は一時期、世界最強を自負していたが、ミッドウェーで一蹴された。それが負の感情となり、加賀は最初、深海棲艦として現れて、大和に倒されて艦娘に転生できた。転生後も、その悪夢を見るようで、黒江はその事を不憫に思っていた。加賀の悪夢と、自分自身の仮面ライダー三号への敗北が黒江に強く影響を残したのである。その事が彼女の現在の信念に繋がったのだろう。

「慢心や油断は大敵だ。知り合いがそれで『自分の拠り所』を失っちまったのをうなされてるのに居合わせた事があって、私も似たような目にあった事が何度かある。だから、君らはそれで破滅することだけはするな」

それは逆行した黒江の偽りなき本音であった。数百年の月日を生き、やり直しを行っている最中である故、見かけよりもずっと『年寄り臭い』言葉ではある。時々、逆行者としての顔を覗かせる黒江。このように、大人としての強さと、子供としての純真さを併せ持つため、A世界では人気が高い。特に、親しい友人には見せる純真さは同僚らにも人気で、黒田、芳佳、菅野などはその純真さに惹かれる形で、友人関係となっている。特に付き合いが長くなったこの三人は、同じレイブンズを除くと、『最も信頼し、家族と見なす』枠に入っており、任務でも、私生活でも、三人の誰かかしらが付きそう場合が多い。黒田が部隊のナンバー5に君臨しているのもその関係によるものだ。

「先輩、年寄り臭いですよ」

「言わずにはいられねぇんだよ。こいつら見てるとなぁ」

黒田に言う。黒江の信頼を勝ち取った者が部隊の序列上位になるため、黒江に仕えようと思ったら、黒江の人となりを知る必要があると、49年時には64F配属希望者の間では有名になっていた。レイブンズ三人に仕えた者は後年の退役後、『黒江さんは信頼を勝ち取ったら仕事は楽になる』と述べているので、三人の中では難易度は普通と見なされている。三人全員の信頼を勝ち得た者が後年に軍の要職に出世する傾向がある事から、『空軍で出世するには、三人の御大の信頼を勝ち得る事だ』とする冗談もこの頃には生まれていた。これは初代空軍司令の源田実からして、スリーレイブンズの信任で空軍司令の座についたからで、三人が49年度には既に、空軍で権勢を誇っているかが分かる。

(Y委員会の委員でもあるから、実際は元老なんだよな、私ら)

(ですね。新世代の元老と言っても差し支えないから、秘密機関なんですよね。20年近く隠し通すのも大事ですよ?)

(仕方がねーだろ?民主主義の建前上、委員会の存在は憲法にないんだし)

(先輩、戦ってる最中に考えてることじゃありませんよ)

(だけどよ、気になるんだよ。私らの記憶だと、もうあいついるはずだし、えーと、ダイモスのクソ司令官にクッソ似てる顔の)

(ああ、三輪ですか。もういますね。あいつに目をつけられないようにどうします)

〔自衛隊に逃げようぜ。しばらくは権勢振るうだろうし)

(何年くらいになります?)

(五年くらいは覚悟しとけ)

と、今後の身の振り方を相談する二人。戦後には疎まれるタイプの英雄であるレイブンズは、自衛隊に匿ってもらうことで、身の安全を確保する。これは戦後に何かしらの表立った役職にいると、台頭してくる『三輪』が排除に動くだろうので、三輪が台頭する頃には雲隠れしたほうが安全なためだ。三輪は表向きは『優等生』を装っているが、その本性は軍国主義者で、反ウィッチの急先鋒である。その演技力はアカデミー賞もので、後年の失脚後、彼の元で役職を努めていた者達は豹変を信じられず、いつ頃から歪んだのかを語らったという。最も、彼の演技力に騙されていた者が多く、軍同期の大半も見抜けなかった事から、軍の歴史上で一番の『俳優』とも揶揄される事になるが。






――司令官人事すら左右するほどの絶大な権勢に反発した派閥がやがて、『三輪』という怪物を生み出してしまうのである。この任務の時間軸では、まだ陸軍航空から移籍間もないばかりの青年将校で、かつての皇道派過激派の影響を受けている事を隠している若き参謀の一人である彼。当時は20代後半で、皇道派/反ウィッチ派が送り込んだスパイ的役目を担っている。江藤と北郷はその野心と危険思想を見抜いており、この戦争中は中央から遠ざけている。黒江はその彼の事はこの頃に気づいており、因果的に彼の台頭は避けられないと踏んでいるため、戦後は特に役職につかないつもりであった。彼の事を、黒江は『扶桑皇国に生まれた大日本帝国陸軍過激派の忘れ形見』と揶揄しており、その容貌が『闘将ダイモス』の三輪防人長官と瓜二つである事、壮年期の言動と行動が彼に瓜二つな事から『軍国主義者』とも侮蔑している。自衛隊仲間も、扶桑にそんな参謀がいる事は知っており、黒江達を匿う準備を初めており、大戦時の高官らが退役でいなくなるであろう1950年代後半頃を目処に、航空自衛隊全体が保護に動いている。彼の台頭こそが扶桑空軍の悲劇であり、黒江達の逆行をしても避けようがない苦難であった。これだけは防ぎようがないので、Y委員会は彼の台頭を以て、表社会に存在を公表する手はずである。彼を生み出す土壌はスリーレイブンズの権勢に反対する者達そのものであり、若くして准将に上り詰めた経歴に不満を抱く全ての人間である。扶桑という国は信長の頃からだが、新しい考えで急激に台頭する者を『出る杭は打たれる』とばかりに目の敵にする風潮がある。扶桑皇国軍隊の場合、スリーレイブンズの叙爵と准将昇進がスリーレイブンズへ反発する層の結束を確固たるものにしてしまった。軍のみならず、社会的にも多大な影響力を行使できるほどの『力』と、天皇陛下の絶大な信任という事実への強い反発が、戦後の扶桑空軍の冬の時代の訪れを招く事になる。それこそが後の時代で語られる『扶桑空軍の悲劇』であった。Y委員会はそれを『戒め』のために必要な事と認識しており、江藤敏子が空軍で長期政権を担う土壌作りとして、三輪を利用したのである。Y委員会の存在が表に出る際、その有効性を示す格好の材料になるのが、三輪の暴虐である。Y委員会の予定スケジュールには彼の台頭を前提にしたモノがあり、黒幕感を薄れさせるためのプロパガンダも想定しているなど、重臣会議や元老達と同質の存在である事を感じさせたくない委員会の思惑がある。扶桑の未熟な民主主義を守る大義名分があるとは言え、実質的な国の舵取りを彼らが行っていると言うのは、元老会議と同じことを行っているようにしか見えないだろう。その事がY委員会が秘密にされ続けた理由だ。扶桑は軍の暴走を招きやすい社会構造なので、軍の暴走を止める為のストッパーが必要である。史実の大日本帝国は、明治の元老亡き後の『ストッパー』の不在が悲劇を招いた。その教訓からも、Y委員会は天皇陛下も極秘裏に知る設問機関として存在する。タイムスケジュールとしては1962、3年頃を目標に、下地作りに勤しんでいる。設立時の委員はそれまでに死亡者が出るので、後継は既に内定しており、小沢治三郎の議席は瑞鶴が、井上成美の議席は比叡が継ぐ事になっているように、重要ポストはその少なからずが艦娘の指定席になっている――

(でも、あたしは駐在武官になりそうですね。高い爵位あるし。先輩は戦後に子爵だし)

(子爵じゃ下っ端だしな。お前は侯爵で良いよなぁ)

(先輩は日本の自衛隊で良い地位なんですから、ゼータク言わない)

――黒江家などはその後、貴族院議員を互選でも数度当選し、後年の退役後、初めて登院した時には驚かれた。当主を譲るまでの極めて短期間だが、貴族院議員として活動した記録が残された。黒江達の一族は基本的に軍人である事が多いので、新憲法下の貴族院に登院するのは、軍人にその代の当主がならなかったり、退役後から隠居までの期間である事が多かった。邦佳は新憲法移行期間中の間もない時期、急遽、家督を継ぐ事になったので、休職扱いという特例で列席していた以外の活動実績は原則、退役後のものだ――

(50年代の心配してる暇あったら、敵落としてくださいよ)

(やっとるわい!)

漫才じみたやり取りをこっそり交わしつつ、きっちりとスコアはあげる二人。二人は姉妹のように容貌が似ている上、名前も似ているので、他国ウィッチからは『クロクロコンビ』と親しまれている。(なのはから習ったマルチタスクの本領発揮である。49年になると、64Fでは必須技能となり、なのはとフェイトが講師として教えている)。二人がそんな事をしている内に……。


「あれあれあれ!あたしですよ!?」

「こ、これはいったい……」

B世界の黒田とハインリーケが戦場に現れたのだ。二人の事はA世界の黒田も視認した。

(先輩、見てください)

(ん?お前だな、この世界の)

(ハインリーケさんも一緒なんですけどぉ!?)

(うろたえるな、馬鹿。ふつーにフレンドリーで行こうぜ)

と、黒江は至って冷静だが、黒田は流石に慌てていた。

「ど、ども。ハインリーケ大尉」

「ええい、黒田中尉、お主は双子だったのか?どっちがどっちじゃ!?」

「あー、大尉。説明する。戦いながらだから、端折るが」

「お主、いったい誰じゃ!?」

「黒江綾香。扶桑皇国軍中佐だ。こっちのやつも黒田だ。とりあえず。ロザリー少佐に多分通達が届いてると思うが」

「通達は知っておる。じゃが、どっちも黒田中尉じゃと……頭がおかしくなりそうじゃ……」

「あ、あたしは正確には大尉です」

「なんじゃとぉ?!」

ハインリーケBは通達があるとは言え、あまりに二人の境遇が違いすぎたため、頭から煙が出る。オーバーヒートしかけたのだ。

「少し境遇も違うし、4年も経ったら、あたしだって昇進くらいしますよぉ……」

「四年じゃと!?つまり1949年、19歳という事に……」

「でも、ハインリーケさん、現役で飛んでますし、ルーデル大佐の配下ですし」

「馬鹿な!?大佐は爆撃隊じゃ!夜間戦闘隊のわらわとは縁もゆかりもないはず」

「本当ですってばぁ」

A世界では夜間戦闘部隊が全天候化で自然消滅したため、編成上でも通常ウィッチの索敵技能持ちという扱いで通常部隊に組み入れられた。ナイトウィッチは夜間戦闘専門ではないが、A世界では昼夜問わずにウィッチが戦闘に駆り出されていく事が多い。それと機材の発達も大きい。

「全天候対応で昼夜関係無く飛べる機材で戦闘爆撃機能力持ってるから、全部戦闘機隊に集約されてるんですよ。戦闘飛行部隊は」

「うぅーむ」

「境遇が違うってどこが?」

「やっぱり気になる?あたし、色々あって、家の当主継いだんだ」

「えぇ!?そ、それじゃ」

「当主で、侯爵なんだよね。紆余曲折で継いじゃって」

黒田はA世界では職業軍人を退官まで勤め上げるしか選択肢が無い。当主を継ぎ、家の人間を食わしていく義務を背負ったからだ。そのために職業軍人で居続ける事は必然である。

「じいちゃん死んじゃうの!?」

「あたしの世界じゃね…。ふーちんもその後に肺結核で。ふーちんの父親の長男は廃嫡されたから、あたしが継ぐ事になったんだ」

Aはお家騒動で誹謗中傷されたが、お上が裁可を降す形で決着がつけられ、死亡した黒田風子の代わりに当主の座についた。養子となっていたので、継承権を持つと見なされたのと、前当主の遺言が邦佳を当主に指名するものだったからだ。その経緯はBには辛いものだった。ウィッチがいると、その兄弟姉妹が代わりに当主になるケースが多いが、黒田は特殊なケースである。ウィッチでありながら当主の座に就く。これは異例なことだが、天皇陛下自らの仲介での決定なので、黒田家の誰も異を唱えはしなかった。

「つまり、お主は侯爵の地位を継いだというのか……?」

「はい。本家と分家の連中食わしていかないといかないんで、サイドビジネスに手を出してます」

「サイドビジネスじゃとぉ!?」

「デパートに出資、慈善事業立ち上げ、スーパーマーケットチェーンに援助とか……」

黒田Aはそれまで本家が手がけていた事業の他にも、有望な分野や慈善事業も手がけるようになり、株式投資や融資で成功を収めていた。川瀧や長島飛行機、宮菱にも出資を強め、事業家としても才覚があるところを見せた。

「軍人としては副業は出来無いんで、株式投資と融資メインの資産運用ですけどね。食い潰される前でたすかりましたよ」

資本主義国では、資金力がモノを言う。黒田は家の財産を株式投資と融資で運用し、投資で得た発言力で軍需産業から援助を引き出すなどの強かな面をA世界では持つ。黒田家の資金力が64Fの潤沢な運営状況の理由の一つだと言え、武子はその面で助かっている。黒田が資金面と政治面でバックアップをしているおかげで、戦中でも潤沢な補給と機材の優遇が許されているのだ。A世界での話が。

「補給もウチの方で大株主になったりしてる企業からもらってるんで、ゼータクしてます」

「……黒田大尉。お主……」

「継いじゃったからには、思い切ってやろうと思いまして」


ニカっと笑う黒田A。後継者が不在となり、天皇陛下の裁量で当主を継承した経緯があるため、当主として思う存分に振る舞うのが一番と割り切ったのが分かる。以後、黒田本家は本家筋が絶えたため、邦佳の直系子孫が代々受け継いでいくため、実質的に邦佳の実家が以後の黒田家の主導権を握った事になる。A世界でのことだが。

「それで大尉かぁ。なんか複雑だなぁ」

「あくまで未来の可能性の一つさ。ここでそうなるたぁ決まってないからね」

「つまり、未来はある程度は変わり得るモノと言うことじゃな」

「そういうことです。思いがけない事が未来を変えますから」

のび太らと出会っているため、未来は不確定的なものであると感じた黒田Aは、ハインリーケBに語った。実際、ウィッチ世界の平行世界の中には、マジンガーZEROの癇癪の対象にされて、有無を言わさずに滅ぼされた世界線も存在するのだ。そのマジンガーZEROと言えども絶対無敵でもない。ゴッドマジンガーに敗れ去ったように、例え、マジンカイザーには勝てても、『ゴッドマジンガー』にだけは勝てない宿命を背負っているように、ZEROの高次予測や因果律操作でさえ、更なる上位の存在の力には通用しない。ZEROはマジンガーの中では神に限りなく近いが、マジンガーの神そのものであるゴッドマジンガーにだけは膝をつかざるを得ない。その証明がゴッドマジンガーの最強技『ファーストライト』の光に抗えなかった事実である。

「未来、か。未来は切り開くモノじゃ、決められた物とは限らぬ」

「ええ。だから、あたしが辿った運命をこの子が辿るとは限りません。それは保証しますよ」

「うむ。そうでなければ、未来に希望を持てぬからのぅ」

『そうだ。君らの世界は俺達の世界のような血みどろの歴史を辿るわけじゃないからな』

「!?な、なんじゃお主は!?」

「えーと、スーパーロボットです。搭乗型の」

「なんじゃとぉ!?」

マジンエンペラーの威容に驚くハインリーケ。科学力の差をまざまざと見せられたからだ。そのマジンエンペラーは光子力と陽子エネルギーのハイブリッドで駆動するスーパーロボットであり、歴代マジンガー屈指の実力を誇る。

『光子力と陽子エネルギーを炎と変える!!』

光子力と陽子エネルギーの複合エネルギーにより生み出される炎。それはガイキング・ザ・グレートの炎すらも凌駕する程の力となる。

『グレェェェトブラスタァァア!!』

エンペラーのV字型放熱板から放たれるブラスターは、ハイドロブレイザーギガバーストすら凌ぐ炎となり、怪異の大群を焼き払う。怪異はブラスターに抗えず、瞬時にコアまでを焼かれ、消えていく。

『ほんじゃ、俺も行くか!ファイヤーブラスタ――ッ!!』

マジンカイザーもファイヤーブラスターを放ち、周囲を薙ぎ払う。戦略級の火力がスーパーロボットの売りであるが、この二機はその中でも桁違いである。

『へへーんだ。これが皇帝の力だぜ!』

マジンカイザーとマジンエンペラーは皇帝の名を持ち、それに相応しい力を持つ。ガイキング・ザ・グレートすらも凌ぐ力なため、ガイちゃんはむくれていたりする。

「さて、これで第二波は防ぎましたわ」

「問題は第3波以降だな。よし、一旦、アルカディア号に集合!休憩だ!」

と、完全に連盟軍を無視である。仕方がないが、アルカディア号ならば、連邦軍製装備とウィッチ用装備、スーパーロボットのエネルギーもいっぺんに補給できるからだ。降り立つ際には、責任者となる三人が甲板に出てきたハーロックに敬礼をする。ハーロックは若き日には軍人であり、若くして大佐にまで上り詰めた俊英であった。その名残からか、地球連邦軍式の敬礼は海賊となっても染み付いている。海族らしい傷と眼帯をする風貌だが、古代守に似た印象の髪形とドイツ人らしい顔の彫り、常に颯爽とし、威風堂々たる立ち振舞いなどから、彼と出会い、親交を結んだ者は『あれこそが男の中の男だ』と口を揃える。

「諸君。我がアルカディア号へようこそ、というべきだろう。……ハーロックだ」

「あなたがやって来るとは思いませんでしたよ、ハーロック」

「地球を守る気概を持った者に力を貸せ。それが宇宙戦艦ヤマトとの盟約だ。ヤマトはそれを望み、我が友もそれを望んでいたまで事だ」

マントを翻し、颯爽とした佇まいのハーロック。このかっこよさが彼の人気の一端である。大山トチローが作りし愛銃『コスモドラグーン』を持ち、重力サーベルを持つ宇宙海賊だが、無法者ではない。義賊である。そのこともハーロックが人気のある理由である。すっかりご機嫌の黒江だが、それに不満を持つペリーヌのように、海賊と手を結ぶという事に嫌悪感を持つ者、ルッキーニのように『自分達の力でロマーニャを解放する』事にこだわる者などは『他力本願』に反発するが、実際、巣を倒せる手段を持つのは彼らの兵器のみである現実がある。実質的に神である智子の事もあり、B世界のウィッチ達は渋々ながらも、A世界の黒江達主導での戦闘を行う。ハーロックに招かれ、作戦会議も行う指揮官級ウィッチ達。連盟軍は完全に戦力外通告を受けている。アルカディア号から『連盟軍はロマーニャ沿岸の警備に当たられたし』との要請が出、完全に『いてもいなくても同じ』扱いであったが、武蔵を実質失い、レーダーの目も失った連盟軍には言われるがままの行動しか取れる余地はなく、作戦後半に当る現在では沿岸警備隊も同然だった。その経緯により、消費弾数は予想の100分の1以下である。奇しくもこのことが幸いにも、不意打ちで起こった『バダン艦隊の襲撃』に運良く対応できる余裕を与えた。バダンはアルカディア号を追っており、B世界にいると確認、追撃部隊を送り込んだのだ。ただし、完全な奇襲になった事、大和型戦艦が実質的に一隻のみの連盟軍では、対艦砲弾をたんまり積んでいるドイツ海軍主力艦隊の相手は難しいこともあり、H級戦艦の砲撃の前に脱落艦が続出する。

「杉田艦長……!」

「やむを得ん。大和で指揮を取る!各艦は目の前の『卍』の旗を掲げる艦隊に対応急げ!」

とは言うものの、完全な奇襲になり、空母はウィッチ母艦である都合上、通常艦載機は艦隊の威容と裏腹に、200機程度しか都合出来ない上、任務の都合、艦攻用の魚雷装備のありあわせがないという有様であった。しかも、対空弾と飛距離を伸ばす為の軽量徹甲弾しか弾薬庫にないため、敵の装甲に打撃を与え得る重量砲弾の備蓄もない。対怪異に特化した編成が仇となったのだ。更に、対人戦のド素人であるB世界の者達にとっては、対艦戦を想定しての艦隊行動などとっさに取れるわけもない。その事もあり、ナチス海軍の思うがままに撃たれるままで、ロマーニャ/ヴェネツィア艦隊などは完全な不意打ちにより、旗艦『ローマ』は見るも無残に燃えている。ナチス艦隊旗艦『ヒンデンブルグ』は、その超大和型戦艦たる所以を発揮、キングジョージX世級を距離31000からの砲撃で、垂直防御の374mm装甲を容易く貫通。艦に火災を起こさせる。

「この世界の敵艦隊は烏合の衆だ、撃ちまくれ!戦艦さえ炎上させれば楽だ!!」

連盟軍は満足な航空戦力を保有しておらず、対人戦に不慣れである事が悲劇を生んだ。アルカディア号らが救援を送り込んだ時には、既に、『第四艦隊』は壊滅、『第三艦隊』も半壊状態に追い込まれているところだった。レーダーの喪失が響いた事もあり、一方的な砲戦だった。基本的にB世界の艦隊の徹甲弾は怪異の甲殻を抜くことを想定していたので、史実のような水中弾効果は望むべくもなかった。

「あれはヒンデンブルグ!!アルカディア号を追ってきたのか!?」

「ヒンデンブルグだと!?どういうことだ!?」

バルクホルンが驚くのも無理はないが、敵艦隊は見慣れぬ旗―ハーケンクロイツ―を掲げる以外は祖国の艦隊にしか見えない。それが友軍に容赦なく砲弾を浴びせている。バルクホルンBは、黒江が口にした『ヒンデンブルグ』という単語の意味を問う。


――B世界に現れし大戦艦『ヒンデンブルグ』。H級戦艦の究極を具現化したその巨体は無慈悲に連盟軍を打ち砕いてゆく。大和型戦艦すら超えるその主砲の威力を以て。バルクホルンらの目の前で、ハウがバイタルパートを垂直に撃ち抜かれ、艦首を垂直に上げながら、まっ二つに折れ、後部が先に沈没、前部が後に沈没する。なんとも無残な最後であった――

「フン、超大和型戦艦に前大和型戦艦で立ち向かうなど、浅さかなジョン・ブル共よ」

ヒンデンブルグの艦長はハウへこのような言葉を残す。彼らに取って、キングジョージX世級戦艦などは三下扱いである。大和型戦艦を超える『ポスト大和型戦艦世代』の戦艦はA世界の播磨と越後を筆頭に、『超大和型戦艦』と総称される。世代の差が絶対的な要素ではないが、ブリタニアのグランドフリートとの撃ち合いでは有利であるのには変わらない。ましてや連盟軍はレーダー無し、ナチスはレーダー管制射撃を行える。電子装備の優位と、不意打ちというシチュエーションがナチスには僥倖だった。

「危ない!」

「馬鹿、相手は徹甲榴弾だぞ!シールドで受け止められるか!」

と、黒江が芳佳Bを止める。

「なんで止めるんですか!?あの砲弾を見過ごしたら、味方の船がやられるんですよ!?」

リーネも味方がやられるのを黙って見過ごせというのか、と強く抗議する。だが、戦艦の砲弾を受け止められるのは、黒江が知る限りでは『シールドの名手』として鳴らした、自分の直属上官の江藤のみだ。江藤はシールドで受け止めるというよりは、逸らす事で弾道を変えて防御するという手法を取っていた。芳佳であれば受け止められるが、ここはB世界。A世界のように、実弾攻撃を長時間受け止められるだけの体力があるかは保証はない。確証がないので、危険である。黒江は意を決し、黒田にストライカーを持ってもらい、ストライカーを強制排除する。そして、今回も射手座の聖衣を箒から借り受ける。(A世界に後継者たる翼が来ているので、山羊座の着用資格、ひいては聖衣の着用権は『次代の資格者』が優先される事もあり、射手座を呼んだ)

「ハァ!」

手刀で砲弾を一刀両断し、空中で爆発させる。なんとも荒っぽい止め方である。

「う、嘘……何が起こったの……」

「手刀で……砲弾を切りやがった……あり得ねぇ……」

「それになんだ、あの黄金の甲冑は!?」

と、A世界に行っていないか、もしくは黒江の本領を見ていない者達が更なる衝撃に唖然となる。

『ほう。君がいるとは思いもしなかったよ。山羊座の綾香。いや、サジタリアスと言ったほうが良いかな?』

『拡声器使ってまで、わざわざ言うことかよ。ええ?艦長さんよ」

『こうではなくては、戦は面白くないというものだよ。アルカディア号を追っていたが、まさかゴールドセイントの君たちにお目にかかるとはな』

「ゴールドセイント?」

「神を守る闘士、その中でも最高位の闘士の事。実はあたしもそうなのよ。」

「え!!?」

「おっと、艦長さん。この『水瓶座の智子』をわすれちゃあ困るわねぇ」

『フハハハ、そうか。君もいたな。トモコ君」

「随分と余裕ね」

『フッ。こういう時に飲む酒は格別というものだ』

聖衣を纏ってみせる二人とやり取りを交わすヒンデンブルグの艦長。拡声器を使って、余裕綽々の会話ぶりだ。

「あなた達はいったい何なんですか?理由が分かりません!何がいったい!」

「黙っていろ、リーネ。私達に入り込める世界ではない」

坂本が制止する。黄金色のオーラを纏い、黄金聖衣に身を包んだ二人と自分達とでは、大人と赤子以上の差があるのをBは熟知しているからだ。

「あんたら、ティターンズにもかなり金流してんだろ?おかげでど迷惑なんだけど!」

『奴らに資金と資材と機材を援助してやっただけだ。奴らは大喜びだったよ。ハイザックがないんで、マラサイで我慢してもらったよ!』

『なんでだ?性能アップしてるやん』

『共和国に現存機を与えたからだとさ。ハイザックは扱いやすいから新兵にいいんだと』

『そーいうもんかね』

『マラサイはアナハイム製だから、確保し易いから楽なのよ。バーザムなんて工廠製のが大半だから、確保が逆に難しいんだよ』

『そーいやそーだ』

『あいつらは機材を優先するからな。こちらとしては良い顧客なのよ。逆に言えば、それだけ機材が失われ易い事でもある』

『今や、あいつらが持ってた機体の性能的優位は無きに等しいしな。マラサイも所詮、リック・ディアスレベルだしな』

リック・ディアスを『所詮』と切り捨てる当たり、MSの性能レベルがグリプス戦役からグンと上がっている表れである。連邦で旧式のポンコツと揶揄されるジェガンも、最終的にジェネレータ出力では3000kw近い出力に向上しており、それ以前の機体よりパワーは格段に高い。その事も、ティターンズの機材損耗率の高さに繋がっていた。バダンはそこに漬け込み、商売繁盛である。武器商人的な側面も持つバダンはティターンズにMSを卸しているが、意外に大口発注である。

『しょうがないから、一年戦争の時の実験機も卸した。RX-81だっけ』

『実機あったのかよ!』

『少数機な』

――RX-81。連邦が78系の完全量産を目指して試作していた機体で、当時の名称は『ジーライン』。一年戦争後に当時から試作されていた機体が戦後直後に使われたが、軍隊はジムの生産配備でどうにかするドクトリンを選択し、計画そのものが立ち消えとなった。特務部隊に需要はあったともされるが、78系よりは性能レベルは落ちる+ジム系より高価であるというのがネックとなり、結局、どの程度増産されたのかも分からない機体となった。そのフォルムは一年戦争の直後の頃に設計されたとは思えない『ハイカラ』なモノで、新鋭のジェスタや、かのジム・カスタムにも通じる流麗な姿を持つ。バダンによる調査では、特務部隊に需要はあったようで、RX-78の性能レベルが陳腐化するグリプス戦役の直前頃までは稼動状態にあったとされる。一年戦争の延長線上の時代の高性能機も、時代が進めば旧式機でしかないが、ティターンズは近代化改修で配備するというあたり、なりふり構わず機材が欲しいということだろう。


――こうして、戦いは第二幕を迎える――



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