外伝2『太平洋戦争編』
九十一話『吉田茂の苦労』


――ウィッチは徒弟制が実質的に取られていたが、今次大戦からは徒弟制は実質的に解消し、養成学校の卒業後は実戦部隊の教官が座学と実践を教える方向に切り替えられた。徒弟制が許されたのは、元々は戦死の確率が低い兵科であり、円滑に技能の継承が出来ていた事、最大でも10年で世代交代が起きていたからだが、今次大戦はその世代交代のシステムが様々な理由で崩れだしたところに起きたので、世代交代が滞ってしまった上、MATとの二極化で新規志願数が落ち込んでいるので、集団就職で来た者達を本土でとりあえず育成してみる一方、前線は45年以前に現役である者達が依然として支えているという状況が当たり前であった。扶桑でさえも、ウィッチ閥は世の流れに翻弄され、失態も重ねて以前のような強い発言権を失った。その一方で、扶桑を中心に、それらに代わり台頭してきたのが、赤松貞子などの最古参ウィッチを長とし、レイブンズが実務を取り仕切る『大樹の会』との名のGウィッチとそのシンパらで構成される派閥である。Y委員会の主要メンバーはこの派閥のメンバーであり、転生者の社会保障補助などを目的に自然発生的に誕生した。言わば、転生者にとっての『水交会/偕行社』に相当する。その本部は軍人会館改め、九段会館に置かれた。これは21世紀では建物が国家財産では無くなっている事に合わせてのもので、政府が軍部に代替施設の建設を約束した後、吉田茂の計らいで、46年に黒田が設立した財団へ払い下げが行われた。建物はホテルやホール業務などに転用されたが、G/Fウィッチらの親睦施設としての顔を持つ。これは建物が21世紀日本で歴史的建造物としては悲劇的と言える結末(大地震での損壊からの放棄)を迎えた事を吉田茂が嘆いたためだった。軍人は扶桑で畏敬されても、日本では疎んじられる存在に堕ちた。形式上は名誉回復されても、世の人々が疎んじた。軍が実質的に自衛隊に転生した後も、だ。そのため、吉田茂は日本での自らの発言の真の趣旨を説明し、日本に再軍備(自衛隊の合憲化)の道を開き、日本連邦として、日本そのものを扶桑との共同政体に巻き込んだ。軍人会館の払い下げ先が『黒田財団』であるのも、日本向けのパフォーマンスと言えた――


――扶桑本土 吉田邸――

「シンゾー君。日本で儂が同位体の発言の趣旨をわざわざ述べたのは、日本の経済力ならば、再軍備したほうが外国への説明もし易いし、政治的にも『戦争が終わる』からだ。吉田ドクトリンなどというのは、儂の真意を知らぬ者達がかってに、経済至上主義の大義名分を得るために言い出したものだ。自衛隊も然るべき時に新軍にする約束をしていたと思うが、日本の厭戦感情と言うのはヒステリックだよ。100年近くたっても収まらんとはな」

吉田茂は21世紀日本の自衛隊の存在を『新軍』にするための通過過程と評した。日本は経済至上主義で80年代末から90年代初めに絶頂を迎えたが、その後の30年近くの不景気で、第三次ベビーブームは泡と消え、頼みの経済力も、国内需要を支えた、80年代に働き盛りだった世代の引退期が訪れると同時に衰退し、日本は老大国との評すら似合うほどの衰退期に突入していた。そこに舞い込んだ連邦化の話。これの実現は日本を衰退から救うカンフル剤と期待されたが、日本の軍事大国への返り咲きを恐れる者達が合意をちゃぶ台返ししだすなどの行為を働くが、長年の不景気は『慢性的な病』と諦めかけていた若い世代が『軍事大国化と引き換えにしても、就職活動を好転させたい』という切実な思いと共に日本連邦実現への原動力となった。長年の不景気を打破するのに、扶桑の活力を必要とするほどに日本は『老いていた』からだ。

「『自衛隊』の名前を捨てる必要は無い、所詮看板でしか無い。 憲法の主旨は良いが、国を守る権利すら放棄する必要は無い。 先ずは九条第2項の廃止、暫く置いてから新第2項として『国民、国土の保護に於いてはその為の実力行使を国権の元に行う』と加えるのはどうだろう?」

「それがいいですな」

「連邦を結成しても、無知な警察系官僚共が介入し、こちらの軍事行動を妨げておる。どうにかできんのかね?」

「制服組の発言権は強化しておりますが、自衛隊は警察系組織を軍事組織に変えて成立した都合上、警察系官僚の発言力が元々高いのです。彼らは文民という名目の元、軍隊を押さえ込もうとしているのです。黒江空将を統括官にしたのは、そちらの軍事行動を警察官僚が妨害した時の保険も兼ねています。彼女は昭和期の軍人では稀に見るほどの実直で、高潔な職業軍人ですから」

「そちらの昭和期は藩閥が年月の経過でようやく終焉した後、元武士ではない、純粋な軍学校校育ちの世代達が実権を得た時代だ。しかし、前の世代の慣習を変に引き継いでしまったのが破滅の一歩だった。だから、あの子のような『職業軍人』と言う像を見失っていたように思える。小沢さんや山口多聞さんのようにね」

小沢は重度のアルコール中毒患者で有ることさえ除けば、当代屈指の有能な提督である。そのため、山本も古賀/豊田の後継に推挙し、海軍のクーデター加担の責任を取って辞任したが、数々の戦功から、『連合艦隊の歴代最後にして、東郷提督に次ぐ能力の提督』との評価を得た。その事実上の後任にして、初代『海軍司令長官』に任ぜられたのが山口多聞である。小沢に次ぐ抜擢人事とされた。山口も自分が国防大臣向けではないと知っており、小沢の後任を受けた。その結果、山口多聞の体制では、『空母機動部隊を再育成しつつ、空軍部隊を活用する』という方針が立てられ、運用されている。空母機動部隊は当時、空軍の引き抜きにより大幅に弱っており、若本を除くと、洋上任務に耐えうる人材がいない(育っていない)有様で、空軍部隊が宇宙艦艇を保有し、それを補うことが許されている。吉田は政治的動きを見せていた軍人達を冷静に批評すると同時に、黒江や、小沢や山口多聞を職業軍人としての理想像とした。それは防衛官僚の政治的な振る舞いに振り回された者の本音であった。

「先の『あきつ丸』事件の時はウィッチの世間体をどう繕うか、を考えたものだよ。いざ勇壮な行進曲と旗振りで送られた者達が道中で『お前達の任務は無かったことになったから、とっとっと帰れ』なんて言われたら、離脱者が出るのも当然のことだ。だから、君にすぐに連絡した。奴らは文民統制を盾に、見苦しい言い訳をしたからね」

「申し訳ありません。背広組は制服組を見下しておりますから。制服組が庇っていなければ、事務次官は軍高官らから責められていたでしょう」

「うむ。慰労手当を倍以上に増やしても、彼女達の心を癒やすには足りんよ。本当に従軍できたのは、当初予定の三割から四割。残りはなんとか後方任務につけたのが二割出たが、残りの四割は何もせずじまいだよ?従軍記章を授与されても、嬉しくないだろうさ」

吉田はダイ・アナザー・デイ作戦の東二号作戦に選抜されていたウィッチの事を慮るような言葉を発する。当時、警察系の防衛官僚が日本連邦軍内で発言権が無きに等しいほどに零落したていたが、無知からの発言だったが、殆ど自業自得であることから、吉田茂などからは見放されている。ダイ・アナザー・デイ作戦の従軍記章は一律でウィッチらに授与されたが、作戦に参加できなかった者は辞退するなどの影響も出ており、慰労手当を大幅増額(当時の将官級将校の一ヶ月給金の倍以上とも)して、どうにか暴動だけは未然に防いだ。また、ウィッチの世間体を保つため、武功章も参加できなかったものに授与するなどの対応に追われ、結局、元の任地に戻す以上に労力と費用がかかった。(これが戦後に勲章授与の資格でウィッチと当局が揉める要因になり、この際に授与された一部の武功章は形式上授与されたものではあるが、公式に授与されたものなので、『乙種』として処理されたという。レイブンズが動き、戦後間もない頃、『日本の役立たずな官僚の殲滅作戦の武功だよ、欧州参戦じゃなく、特務の武功として受け取っとけ』と言い、説得が行われたという)

「君らは戦後の火種を作った。おかげで海軍に色々と褒章を作らんと釣り合わない。エースパイロット用に技能特章作る羽目になるわ、軍刀や銀時計の授与、官報にエースパイロット撃墜数記録を乗せるなどの対応は取ったが……個人を讃える習慣が薄い海軍は困惑しておった」

空軍は陸軍の褒章制度を引き継いだため、武功章があり、金鵄勲章も授与される者が出ている。しかし海軍は表向き、『集団戦闘』を尊ぶ風潮があるため、43年から45年の夏までの公的な撃墜数記録が存在せず、赤松や坂本、竹井が個人的に記録していたもの頼り。それとて全体の把握は出来ないので、当事者の体面上、40機から45機前後を公式スコアとしていた。そのため、厳格な記録があった陸軍系の方が有利で、レイブンズや黒田は全軍トップ10を争う撃墜数をプロパガンダされている。空軍移籍後も海軍出身者はそんな風潮に反対し、実戦部隊を離れた者も多いので、戦功が64Fに集中している。無論、状況が状況なので実戦に駆り出され、結果的に戦功を立て、武功章を授与される海軍出身者も続出しており、この時期には、海軍も金鵄勲章の確約代わりの褒賞と考える事で折り合いをつけ、エース制度も亡命リベリオンへの対抗心で受け入れた(度重なるクーデターへの加担により、海軍を扶桑国民が白い目で見る事が多いので、エースパイロットが必要とされた面も大きいのと、現場にとっては、扶桑海以来、著名なエースパイロットが陸軍出身者ばかりであることも大きい。日本向けプロパガンダの側面からも、海軍エースが求められたが、頼みの綱と見られた坂本が突如として引退したため、実質的に若本しか『技能特』章をつけられない事態になった。坂本も上層部の要請でつけた)のだが、実際の撃墜数より少ないと喚く者も多いが、日本から『サイレント・ネイビーはどうした?』と嫌味を言われる事も多く、エースパイロット制度を嫌々ながら受け入れた海軍。しかし、その頃にはエースパイロットが根こそぎ引き抜かれて、海軍には殆ど存在しない状況に陥っており、時既に遅しであった)。しかし、元々、撃墜数を誇る文化が無かった海軍は困惑しっぱなしであり、坂本にも技能特章をつけるように要請するなど、その混乱ぶりが見え隠れしている。

「海軍はぶっちゃけ言うと、リベリオンへの対抗心で動いただけだが、部内が割れた。ワシントン軍縮の時でさえ割れなかったというのに。あの年頃の娘達は困ったものだ」

「10代後半の子供というのはそういうものと聞き及んでおります。私と妻には子はおりませんので…」

「中には20代も混じっておる。全く、日本にせっかく、『海軍は開明的』と信じ込まれておるというのに。組織が硬直化しておる」

「どうなされるのです?」

「とりあえず、赤松貞子中尉、宮藤芳佳少佐、菅野直枝大尉、西沢義子中尉へ海軍時代の記録で海軍の新設した栄典を授与する。源田君も海軍の同期から愚痴られるらしくてな」

「大丈夫なのですか?」

「野球で言えば、大洋ホエー○ズや近鉄バ○ァローズ経験者で、その後身のチームに属した者が野球殿堂入りするようなものだよ。シンゾー君」

吉田茂は海軍を宥めるため、元来は海軍士官であった空軍ウィッチへ海軍の栄典を授与する考えがあると安倍シンゾーに明かした。海軍航空隊は空母機動部隊の出番が殆ど無い戦だったため、井上成美がこれをいい機会と、実質的な空軍化を推し進めていたが、日本から『海軍は海で勝つことを考えていてば良いんであって、陸は空軍にまかせておけ』と提言され、結局、当時に陸にいた海軍航空隊は空母機動部隊の601部隊以外は空軍へ写ったが、エースパイロットが根こそぎ持って行かれた混乱は甚だしいものがあった。海軍の空軍化を推進していた井上成美は『負けたからって、人の考えを全否定はないだろう?』と憤慨した。その後、空軍の組織づくりという名目で空軍へ移籍していった。空母機動部隊のウィッチ部隊はその後、空軍部隊の受け皿として『第六五三海軍航空隊』、『第六五二海軍航空隊』が設立され、防諜の意味合いから、空軍部隊の隠れ蓑として使われていったのだった。

「陸軍系の連中は既に、お上によって与えられるだけの名誉を与えられている。だが、海軍にいた連中は栄典にあまり縁がない。そこを利用するのだ。海軍の連中を黙らせるには、これしか方法がない」

海軍は政治的には天皇陛下の信を得ているが、国民には人気があまりない。そのために海軍を増員するためのプロパガンダを必要としていた。ウィッチも熟練者が殆どいなくなったので、『過去に在籍していた者に海軍軍人としての名誉を与える』方法を取らざるを得なくなった。これが海軍が取った栄典のやり方だった。当時、ウィッチ用ストライカーユニットも根本的な世代交代の時期と、軍用ユニットの供給需要が目減りした事が重なり、大幅に減産されており、その事も64Fでさえ、ストライカーをあまり使用しない理由だった。ジェットストライカーの生産は開始されてはいたが、以前ほどの需要が見込めない事、MATが大規模発注を行った上、既存の機材の殆どはMATへ流れた事もあり、軍のストライカーは実はそれほど数が多くない。その事が軍ウィッチ部隊の悩みだった。

「大変ですな」

「あれだよ。『海軍としては陸軍の提案に反対する』という奴だ。日本のTVゲームにそういうネタが有っただろう?」

「あれは陸軍が言いますがね」


――こうして、吉田邸で話し合いは進む。ウィッチの名誉に関わる事、海軍の栄典に関わる事……。吉田は47年時点で70歳近い老齢だが、後継者に目された人物が若いためと、ライバルの鳩山一郎が孫の同位体の楽天家ぶりに憤慨したショックで病に伏せたという不可抗力により、彼は1950年代まで総理大臣をなんだかんだで勤める事になる――




――太平洋戦争でも、扶桑ウィッチ部隊の象徴とされたレイブンズ。状況としては仕方がないのだが、MATが出来た事で、新規に入る人数が目減りした上、世代交代の新陳代謝が起こるだろう時期に戦争が始まった事が最大の理由だ。扶桑で非現実的とされた兵器も、未来科学が解決し、実現した。そのため、ウィッチ隊はかつて、一度は疎んじたレイブンズの威光に頼った。まさにこれぞ歴史の皮肉である。1947年に入った段階では、最年長の圭子は27歳を迎え、通常の軍人なら脂が乗ると称される年齢だが、ウィッチならば『ロートル』と言われる年齢である。だが、世の流れが変わるとレイブンズの神通力を頼る者が増えた。シンパ達はレイブンズが力を取り戻すのを待ち続け、そのきっかけである未来世界との接触を待ち、一貫して支援者で有り続けた。その彼らが力を持つのは当然である。彼らは扶桑軍の中枢につくと、未来科学の力を駆使し、元ウィッチ軍人の再任、もしくは予備役登録を反対者を押し切ってでも実行し、とりあえずの頭数を揃えた。若手がMATに行った穴埋めを職業軍人化したウィッチの再任でしようとしたのだ。それは成功し、精鋭部隊とされる部隊の中枢やウィッチを統括する現地参謀などはこの時の再任者なり、予備役達が担っていた。こうして、ウィッチの平均年齢はプラス10歳以上アップしたものの、総合的練度がむしろ安定した事から、黒江達の代や赤松の代のウィッチ達が戦後も現場の中核として働くのだった――



――47年は次元震パニックが起こる年だが、扶桑にとっては『ウィッチにとっては、今までの慣習とおさらばする』年でもあった。黒江達のような、普通は異端と言える者が必要とされるという事は、ウィッチの慣習が意味を成さなくなったと言うことである。日本のウィッチへの異端視は日本側の眠っていた記録の発掘で収まったものの、今度は扶桑に蒔かれた『反戦の種』と戦うのも扶桑軍の仕事となっていた。当時、戦意高揚のための施策は日本の要請により避けられる傾向にあり、圭子の著書の映画化は娯楽映画の体を成した戦意高揚策と言えるし、レイブンズの存在誇示はその中で一番に手っ取り早いものだった。軍人としては『青年将校』だが、ウィッチとしては百戦錬磨のベテランであるため、『若さと経験』の双方を兼ね備えた存在としてのプロパガンダがなされている。統合参謀本部・統合幕僚会議はレイブンズの存在の活用が主に議題になった日があった。その活躍は目覚ましく、既に全員が将官に登りつめたのに関わず、最前線部隊で指揮を執る。その気になれば、後方の司令部にオフィスを構えられる身分だ。しかしながら、ウィッチとして現役の座にあり、尚且つ、高度な指揮幕僚ヘ育を受けたウィッチは前線では希少であるため、64Fの幹部級は佐官、最低で中尉であることが話題になった。

――統合幕僚会議にて――

「あの三人はどうして前線配置なのです?」

「あなた方の前任者にもご説明した通り、あの三人は前線にいたほうが良いのですよ。黒江准将もそれをそちらで望んだはずですが」


統合幕僚会議の日本側出席者の何人かが代替わりした直後だったので、このような会話が交わされた。黒江達三人は『准将』の地位でありながらも前線で戦うので、日本側の出席者が代替わりする時は驚かれる。特に背広組は制服組の筆頭と言えた黒江のことをよく知らない者もいたりするので、同じ背広組からも失笑を買う者が出てくることもある。そのため、三人の扶桑での経歴から語られた。代替わりした出席者の内の数人は制服組、背広組の中にいる黒江のシンパであるので、興奮気味の者もいた。2018年ともなると、80年代から90年代に学生だった者が要職に付き始める時代なので、黒江の活動に肯定的な者が大多数だった。背広組のガチガチの警察系官僚が黒江の前線活動をせせら笑う者がいたが、それを聞いた空軍高官である小園安名少将は『お前らのところの源田幕僚長だって、ジェット乗りまくってたじゃねーか。 航空部隊の長なら飛行機乗るか対空戦闘のエキスパートに決まっとろーが!!』と一喝し、黙らせた。彼は厚木航空隊の長であった事から、赤松も従う『オヤジ』である。その様子はまるで『その筋の者の会話』で、言うならば『士官やくざ』であった。だが、黒江たちを従えられる『親父』は希少であるため、彼の日本側での不名誉な顛末を思えば、幸せなほうである。

「黒江は赤松が可愛がっとる奴だ。黒江がまだ13くらいの頃から、手塩にかけて育てておる。言わば、軍隊での母親と姉役を担っていた」

「13歳から?」

「当時、赤松は既に古参下士官だったので、10代後半だった。赤松は海軍だったが、士官学校の期で換算して、四期も離れておれば、赤松から見れば、『子供』だ」

「それで、赤松二佐が統括官をボウズと呼ぶのは」

「うむ。あいつの新兵時代の出来事なんだが…」

黒江を赤松がボウズと呼ぶ理由を小園は語る。黒江と赤松とにある長年の友情と黒江の思慕の根源となる出来事。黒江はそれ以降、赤松を慕い、それは階級の差が逆転した現在でも変わらない事が感動を呼ぶ。21世紀では打算的な付き合いも増えたので、黒江のドラマじみた赤松との関係は感動に値した。ウィッチが元来は徒弟制を取っていた事もあるが、赤松は個人教室で数人の仲間とともに黒江を鍛えた。新兵時代、1Fへの配属前。黒江と元々、『長い付き合い』であるため、記憶が封印されていた戦間期も支援を続け、黒江のG覚醒後はもはや家族と言える関係になっている。実の母親にろくな思い出と記憶がない黒江にとって、育ての親と言える関係に発展しており、冗談で赤松の娘と言うこともあるほどの間柄だった。

「あいつは母親に折檻されたせいで、母親の愛情を知らなくてな。赤松や加東にその理想像を見出しておる。精神的には歪なのだよ、あいつは」

黒江の精神は元から母親からの折檻の影響が強く、それが精神崩壊に繋がっている。言わば、母親の精神的、物理的暴力が黒江に強迫観念を強く埋めつけたと言える。黒江が背負った強迫観念は元を辿ると、母親が自分のエゴで『歌劇団の夢を結婚で棒に振った自分の代わり』にしようとした事に由来し、三人の兄が黒江に優しいのは、母親を止める決意をしたのが遅すぎた事への贖罪もある。その強迫観念は転生しても黒江を縛っているため、智子は『あの子が母親に背負わされた業だわ……』と嘆いている。その強迫観念は崩壊直後のうなされかたなどに表れており、それが黒江の強さへの渇望と、優しい目をした誰かに褒めて貰いたい本心と合わさって、圭子も転生時に見捨てる事ができなかった。圭子が今回の転生時に黒江を見捨てられなかったのは、自分の自爆死の間際の黒江のこの世の終わりのような悲しい絶叫、仲間を大事にする事を忠告するゲッターの長『ゲッターエンペラー』の意志もあった。ともあれ、今回の転生はゲッターエンペラーが介入した事で上手く行っていると言える。黒田を二度に渡り、Gにしたのも、黒江へのエンペラーの贈り物であった。黒江が黒田を幼年学校から引き抜き、相棒にしたのもそれが大本の理由だ。

「あいつは神々にも好かれておる。Z神、ゲッターエンペラー……」

「ゲッターエンペラー……生まれるのですね」

「真ドラゴンが聖ドラゴンとなり、その後に真ゲッターと融合進化を遂げた末の存在がゲッターエンペラーだ。言うならば、ドラゴンの最終形態だ」

ゲッターエンペラー。大本はゲッタードラゴンであり、そこから数回の脱皮と進化を遂げた末の存在がエンペラーで、エンペラー自身もその前身の姿を端末として使い、惑星に降り立つという芸当も行う。端末として使われるゲッタードラゴンや真ゲッタードラゴンなどはオリジナルより遥かに強力で、元のゲッタードラゴンの姿の端末でも、マジンガーZEROの力をねじ伏せるだけの力を持つ。また、ゲッターエンペラーのゲットマシンの一つであるイーグル号相当のものは、ゲッタードラゴンを取り込んだような意匠もあり、複数のゲッターロボの集合体的な様相を持つ。ゲッターの意志の代弁者が早乙女博士なら、竜馬がゲッターが人を活かすためのキーパーソンと言える。

「貴方は知っておられるのですか、小園閣下」

「この先、どうなるかは誰にも分からんさ。ただ言えるのは一つ。人類に敵が現れようと、討ってくれる神はおるということだ。ゲッターエンペラーのように」

「究極のゲッターがエンペラーなら、究極のマジンガーは?」

「Z神。ゼウスというほうが良い。マジンガーZの最終進化にして、オリンポスの長となったのだよ」

Z神。マジンガーの善性がたどり着いた究極の姿。オリンポスの神々の中では希少な機神であるが、世界に応じ、人間としての体も持つ。神話の通りの絶倫ぶりも有名だが、戦では無敵を誇り、あのマジンガーZEROも手も足も出ないほどである。

「まさかジムの神はおらんでしょうな?」

「いたら宇宙滅ぶよ。が、ザクの神はおるよ」

冗談めいた会話も入る。イ○オンやガンバスターの事だ。

「地球は安泰ですな」

「まあ、君達が生きてる間に彼らの手を煩わせるような事は起きないと思うがね。我々のほうが欲しいよ、正直」

「ああ、ティターンズ」

「そうだ。彼らに出しゃばられても困った事になるのでな」

「それで、ラ號を我々が使えないのは何故です?」

「神宮寺大佐の遺言だよ」

神宮寺八郎大佐は戦後日本嫌いであったが、戦後日本の戦前否定の風潮に反発していたからで、死後にラ號を接収しに動いた国連、ラ號という旧軍最大の遺産を軽視する野党の存在もあり、自衛隊はラ號を手にする事は無い。だが、国連のおかげで、大和型最後の生き残りが存在している事は広まり、23世紀の連邦宇宙軍がサービスで飛行を披露するなどの行為は行われている。終戦で所有権を放棄した日本政府からすれば、残念な事だった。もちろん、背広組や防衛族議員からは『元々は軍のものだから、所有権を戻せるはず』という主張もあったが、2018年は自衛隊の合憲化に向けて動き出したばかりであり、断念している。もっとも21世紀の段階では武装はダミーになっており、外されているのだが。統合戦争で改装が行われ、その後に宇宙艦艇化したのだ。武装の内、信濃用とされた砲塔や砲身は宇宙艦艇への改装段階で博物館に寄贈されたが、外観を模したショックカノン砲塔がつけられている。そして、当時の資料によれば、まほろば型二番艦をラ級へ転用したとのことだが、51cm砲は積まれず信濃用の砲塔を積んだため、船体に比べ、砲が小さい。これが後のパワーアップで重大な意味を持つ。それだけの余裕があったという事だが、ラ號は超大和型戦艦として生まれるべきだったが、急いだ結果、通常の大和型となってしまった。そのネガは当時の正式な設計図の発掘で無くなる事になる。当時の正式な設計図によれば、ラ號の船体は超大和型戦艦へ換装可能なような構造を持ち、砲が製造されれば、すぐに換装できるようになっているなど、当時としては超先進的な設計であったと明かされ、主砲周りも、51cm前提で組まれていた事が分かった。後のパワーアップはこの案が23世紀の手で実行された事になる。また、砲弾の重さも、当時の予定より重量が大きく下がった事もあり、ヤマトと同じ構造とされた。扶桑の51cmから56cm砲弾はこの技術で作られている。

「彼は戦後に否定された『大日本帝国』の最後の生き字引というべき人柄だったそうだ。その彼が引き渡さなかったのは当然だよ」

神宮寺八郎大佐は大日本帝国の価値観を保ったまま生き続けた。彼の元・上官の楠見少将はその事を『あれこそ、最後の帝国軍人だ』と称したというが、ラ號の計画責任者だった彼が残した記録がラ號の計画時の姿を明らかにした。彼が遺した手記によれば、ラ號は元々、超大和型戦艦の二番艦(798号艦)に計画が切り替えられた、797号艦、もしくは112号艦であったという。まほろば型が建造開始後の起工寸前の段階でラ級へ切り替えられ、建造が急がれた。元々はまほろば型の二番艦であったのが、更にラ級へ切り替えられたため、起工が45年。終戦時で各部ブロックが組み立てを待つ段階であったのは周知の通り。彼が戦後に部下達やその子孫達を指揮し、組み立てたのがラ號で、完成は1950年代とも、1963年とも伝えられる。た。ただし、ラ號に使用予定の51cm砲は持ち出せず、代わりに信濃用の砲塔を神宮寺大佐が持ち出したと書かれていた。

「ラ號に実際に取り付けられた砲塔は何なのです?」

「信濃用のものだろう。そちらで空母となったから、砲身部分が余っていたのは想像に難くない。それを改造して取り付けたのだろうな。あれでも攻撃力としては充分なものだ」

信濃は戦艦としての建造が諦められた後、その砲身を神宮寺大佐が持ち出し、ラ號に取り付けたと推測する小園。当時、18インチ砲に耐えられる艦は無く、戦艦の時代の終焉とともに各国の戦艦は消えていったため、戦後世界に現れていれば、無敵の兵器だっただろうという事も解説する。

「イギリスがラ級を保有し続けた理由も、ラ號が現れた時の抑止力を狙っていたからだろうな。当のイギリスでも忘れ去られたが、フォークランド紛争の際にお披露目された際、当時のイギリス海軍の引退者の最長老が語ったそうな」

ラ號の存在が明らかになったきっかけの一つに、フォークランド紛争当時のイギリス海軍OBの最長老が後輩の現役者達にラ號の存在を教えたからというものがある。

「ここに、当時のイギリス海軍関係者がフォークランド紛争終戦直後のお披露目を行った際の会話のテープがある。再生してもいいかね」

小園が再生したテープの内容は以下の通り。



――フォークランド紛争の終戦直後のイギリス 旧秘密ドック――

「卿、これはいったい……」

「首相閣下が先の紛争で投入しようとしたG級巡洋戦艦『インヴィンシブル』だよ、君。整備はされておる。完成後はずっと隠していたから、新品同様だよ」

インヴィンシブルは完成状態であった。艦載機にハリアーが積み込まれているなどの改正も施されているが、戦艦の改修ノウハウが失われているため、大まかには完成時(1947年?)のままである。

「ただし、電子戦能力が無く、ジェット戦闘機がウヨウヨいるところへの投入は的になる可能性のほうが高かったのと、空を飛べるため、空軍と海軍で管轄が揉めてしまっている内に、大英帝国の終焉が来てしまい、結局、運用機会を逸したままでフォークランド紛争まで保管されていたのだよ」

イギリス海軍大将経験者の最長老OBは語った。フォークランド紛争まで使用されなかった理由を。クレメント・アトリー政権の軍事費抑制を間違いとも語った彼は、大英帝国の記憶を持つ世代らしい口ぶりである。元々、イギリスのラ級戦艦は個艦性能よりも、モンタナの補助を前提に造られたとも語る。

「この艦は元々、アメリカ海軍が計画していた同種の戦艦『モンタナ』との連携を前提に造られた。個艦性能は二の次だったのだ、当時の海軍はな」

モンタナの計画は伝えられており、それを前提に造られたインヴィンシブル。ベース艦がやたら古いのは、当時のイギリスが財政難であること、政権交代で中止になる事が恐れられたからでもある。実際、アトリー政権は大英帝国の消滅を予期し、軍事費を削減していたので、標的になるラ級は秘匿された。その結果がイギリスの衰退であるので、ラ級を表に出しておくべきだったとも語る。

「この艦は仮想敵がいたのだ。モンタナとともに戦うべき相手が」

「相手とは?」

「ジャパン・インペリアル・ネイビーのヤマトタイプの改造艦だよ、君」

「馬鹿な、日本海軍は44年のフィリピン沖海戦で形骸化していたはずでは?」

「いや、日本海軍は残りの全精力を傾けて生み出そうとしていたのだ。ヤマトタイプベースの艦をな。その艦の名の頭文字を取り、我々はR級と通称していた」

「R級?」

「そうだ。当時はあのマッカーサーが戦後に血眼になって探し求めたほどの価値があった。我々が戦時中の暗号解読で分かったのは、ヤマトタイプで最も建造が遅れていた最終艦を改造のベースにしていた事くらいだがね…」

大和型戦艦の正確なスペックを知った戦後のアメリカはそれをベースにしたラ級の所在を吉田茂や進駐時に存命だった米内光政などの元軍人に聞いて回ったが、徒労に終わった。その腹いせが長門の原爆実験で、ヒステリックに行ったので、朝鮮戦争勃発時に問題視されている。彼はその経緯を知る立場にあったので、当時の英国海軍は『日本海軍の残党がラ級で逆襲をかけてくる!!』という被害妄想に囚われていたのもあり、ラ級をアトリー政権の目に触れる事が無いようにしたが、それが忘れ去られ、フォークランド紛争時の失態となった英海軍。

「君のような『若い者』に苦労をかけたよ。ただ、当時は秘匿こそ正義だったのだ。アトリー政権の愚行からこの艦を守るために、な」

「空軍が聞いたら、血の涙ものですよ」

「確かにな。だが、この艦は日本海軍の象徴と言えるヤマトタイプと一対一で戦うようには出来てはおらん。ヤマトタイプは18インチ砲。この艦は所詮、15インチ砲艦でしかない」

インヴィンシブルは予算や砲弾、手持ちの射撃指揮装置の関係で、15インチ砲を積んだが、大和型戦艦ベースの艦相手ではアウトレンジされるのが関の山である。その為に艦首ドリル性能で圧倒せんとしたのがわかる。

「この艦は本来は戦後の抑止力が主目的の一つだから、敵戦艦との交戦は考えられておらん。所詮は古い巡洋戦艦の設計を流用したにすぎんものだ」

「考えられていないとは?」

「巡洋戦艦に、純粋な戦艦との砲撃戦を望むのかね?マイティ・フッドはどうなった?」

フッドの悲劇は英国海軍にトラウマを埋めつけたようで、巡洋戦艦で戦艦と打ち合うリスクを極端に恐れているような一言を発する最長老OB。ましてや巡洋戦艦では、日本が力を振り絞って、艦隊決戦に打ち勝つ為に生み出した大和型に砲撃戦で勝つ要素は衝角戦以外にないと考えられ、衝角をシールドマシン状にした。しかし、完成時には戦争は終わり、日本帝国も消え失せた後であったところに悲劇がある。

「しかし、米軍のモンタナは日本帝国の崩壊とともに歴史の闇へ消え、存在意義を減じた本艦もアトリー政権から隠された。が、言い伝えが途切れ、我が軍に無用な犠牲が出た。それは残念なことだ」

――会話のテープはそこで終わっている。これを知った米軍がキーロフ級を大義名分に、アイオワ級を現役復帰させたのは想像に難くないし、ラ號の接収に国連がようやく動き、日本国も接収を試みているのは分かる。だが、民間団体に監理権が移っていたため、双方に接収の大義名分がないため、断念された――。

「君らには気の毒だが、ラ號は地球連邦軍のモノに最終的になり、宇宙戦艦ヤマトと准同型艦の扱いで軍務に就いておる。君らは我が国の供与で我慢してくれ」

「分かりました。海保の説得はどうなさります?改造された大和型は290mに拡大されております。呉に寄港させようにも、保安庁がうるさいのですが」

「今は戦争中だ。しかし、あそこは我々を敵視してるからね」

「そちらでなされていた役割分担にも異を唱えましたからな。民間軍事会社に無知すぎる」

「仕方がない。地球連邦軍に対するケイオスやS.M.Sにも異を唱える者がいるのだから、海保が海援隊に異を唱えない通りはないさ」

「彼らは海兵に恨みを持つ商船学校卒の予備士官が中核でしたから…」

海保は民間軍事会社が扶桑のシーレーン防衛の一端を担っている事に露骨に不快感を示したが、海援隊幹部らが『アメリカに文句言ってみ?』と言われた途端に押し黙るなどの失態続きであった。海保の幹部級がまとめて首が飛びかねない事態である。現場は連帯感を持つが、事務方が黎明期の対立を引きずっているのが丸わかりな事件続きである。また、2010年代の領海侵犯やロシアと学園都市の戦争で物的、人員的にも損害を負っていたにも関わらず、水上警察を束ねもせず、派閥抗争に明け暮れる姿は見苦しいと言われる始末だった。そのため、現場は『上のやることで、俺達に迷惑かかるのは困るよ』とボヤいている。現場は肩身の狭い思いを相当にしており、むしろ上層部の事務方の派閥抗争を敵視する風潮が強い。

「現場はむしろ、中国のせいで負担が増していましたので、扶桑軍艦艇が任務を代行してくれるのを喜んでいますよ。家に数ヶ月帰れないものもいたので」

「そうだろう。中国の台頭にも関わらず、北方の船が沈められ、現場が悲鳴をあげておったからな。その点、我々の艦艇は威圧感バッチリだ」

彼らが話し合った事は海保への対策などとして実行され、吉田茂は日本連邦内部の派閥抗争に頭を悩ます事になる。日本と扶桑の間の考えの相違が戦争遂行の妨げとなる事への懸念は的中していた。扶桑は日本人の渡航は制限したものの、表立っての戦意高揚政策は取れず、田舎に生じた反戦の風潮を如何に押さえ込むかに腐心していく。日本が持ち込んだこの風潮は主にウィッチ志願数の停滞をますます招き、ウィッチ閥は衰退の様相を強めていく。ウィッチの発現が休眠期に入ってしまった事もあるが、死傷の確率が低いMATに入る者も多く、集団就職ウィッチも質が悪いため、扶桑軍ウィッチ隊は年代の関係で、Rウィッチが戦力の中心になっていく。

「さて、本日の最後だが、黒江達の活用は相違ないかね?」

「ええ。ウィッチの立場を思えば、仕方がないかと」

「これを見給え。黒江がそれ以外に得ている力だ。本日の最後にお見せしよう」

黒江が得た二つの力の映像が流れる。小宇宙を燃え上がらせ、黄金聖衣を纏う映像、また、シンフォギアを使う際に、容姿をその時々に持つギアに合わせて容姿を変え、聖詠を詠う映像が連続で流れる。黒江は黄金聖闘士であるため、その破壊力を抑える目的も兼ねて、シンフォギアを使う事が多い。年齢的に無理があるが、容姿を変えてから起動させるため、ある意味、問題はない。使うのはシュルシャガナとアガートラーム。容姿はそれの本来の持ち主に合わせてある(背丈は調の容姿では、調当人よりだいぶ長身の160cm台前半、マリアの容姿では身長が同じなためか、元の身長である)。その姿で日本のコミケに参加した事もある。

「黒江は容姿を変える能力を持つ。もちろん声色も変えられるので、こういった事は朝飯前だ。君らのところで遊んどるのは、これの応用だ」

「シンフォギアは本物で?」

「本物だ。ただし、コピーだがね。奴はこれで遊ぶのを好んでいる」

「ものすごく贅沢なコスプレですな…」

自衛官らも納得の映像。黒江は戦闘以外でも纏う事もある。なし崩し的に調が引き継いだバイトや、シンフォギア世界で伝説になった成り代わり期のカラオケなど、ある意味ではものすごく贅沢な使い方をしている。通常の戦闘でも、シュルシャガナで天羽々斬やガンニグール、イチイバルをまとめて相手取っても無傷で追い返し、その直後にバイトするなどの大胆不敵さを発揮した。また、それまで絶対に避けたはずのインファイトで信じられないほどに圧倒された事から、響やマリアは別人でないかと早期に推測していた。だが、その黒江も、マリアも困ったのが調と共依存の関係の切歌であった。マリアやナスターシャ博士、Dr.ウィルなどが推測を話しても、自分の思い込みと確信で突っ走ってしまい、遂には下手をすれば、取り返しのつかない絶唱による攻撃すら行った。事実を知ったショックで精神が壊れてしまい、魔法少女事変まで黒江が調を演じる必要が出てしまうほどだ。もちろん、正気に戻った後は、当人の帰還もあり、一転して黒江に謝っている。勘違いで魂を斬るところだったからだ。

「しかし、変身しててもエクスカリバーはどうなんですかね」

「あいつは自己主張するからな」

黒江は成り代わり当時も、響と翼、切歌へエネルギー波としてのエクスカリバー、手刀のエクスカリバーを使い、撃退している。小園は黒江の荒い性格からすれば、当然と言った顔である。

「二課が全力で解析しようとするでしょう?当然」

「無論だ。だが、魔法少女事変でエルフナインが加わっても、エクスカリバーの解析は不可能だった。錬金術、魔法と言った異端技術のどれとも違う上、その世界の聖遺物ではないからだ。(そもそも、約束された勝利の剣という力の霊格を宿しているだけなので、遺失技術云々以前の問題である)」

「そもそも、オリンポス十二神が与えし力は科学では分析できませんよ」

「かの世界は現在科学で神格の力を解析しようとするのだが、まだまだだ」

小園はシンフォギア世界の事をまだまだと称した通り、根本的な異世界では世界の法則そのものが違うので、シンフォギア世界の法則が通用しない事はままある。例えば、シンフォギア世界では女性の肉体は男性の肉体の上位互換とされるが、他世界ではそうではない。聖闘士は男性が多いのもそれの一つになるので、女の身で黄金聖闘士に登り詰める例は極めて稀である。

「まぁ、彼の世界には悪いが、こうして使用している事は通告しているよ」

映像が流されている中、小園の豪胆さが脚光を浴びる。史実での経緯を考えれば、軍隊での地位を剥奪される事も無く、反逆者の汚名も被らずに空軍高官に収まった世界は『幸せ』かもしれないと、自衛官や防衛官僚らは考えた…。



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