外伝2『太平洋戦争編』
九十二話『日本連邦の本格始動』


――扶桑皇国と日本は共同歩調を歩んでいるものの、それを妨害する要素が多く、日本は非戦を70年貫いてきたため、日本連邦反対派はその国是を破る事への忌避と、旧軍人たちを自衛隊と同居させる事を問題視し、それを大義名分にしていた。それは却って、彼らの首を締めた。旧軍人達の中には、戦後に実業家に転身して成功を収めたり、自衛隊員として自衛隊の要職についていた者も多い。いくら上の階級の人間達が戦犯と言っても、事後法で裁かれた上、それは『彼ら』の罪ではない。単に同位体に過ぎないため、その責任を問うのはナンセンスである。特に東條英機への扱いが問題視された。扶桑では、戦争指導の失敗の責任を取り、とっくに失脚しているのに、史実の罪を一族郎党まで被せる行為は私刑に等しく、日本国内でも問題視されている。そのため、日本は衰えつつある国力の観点から、戦前日本以上の軍事大国である扶桑皇国に日本と扶桑の防衛を担ってもらう事で、自らは福祉などの分野に力を入れる選択を2001年に取っていた。これは国としては防衛を捨て、容易に行動できる扶桑軍との共同軍を組む事で、負担金と人員を出す代わりに、扶桑の軍事行動を補助する。言わば、自衛隊の発展的解消と言える。これは自衛隊の拡張が少子高齢化社会では難しい上、国力が衰える時代に入った事に悩んだ末に、政府与党が選択した方法である。この自衛隊の日本連邦軍への正式編入による発展的解消は防衛省背広組、制服組のみならず、軍需産業に至るまで波紋を読んだ。最終目標が自衛隊を日本連邦の直轄軍とする事は、日本としての防衛は捨てる事を意味するからだ。これは抜本的な憲法改正が難しい事から捻り出された腹案と言えるもので、2001年の段階で考えられていた。国力の衰えがいずれやってくる事を予期していた誰かの構想であった――


――2018年の国会――

自衛隊を丸ごと日本連邦軍に供出し、日本連邦の直轄組織に移行させる法案が自衛隊法の全面改定という形で提出されると、普段は自衛隊を目の敵にする革新政党でさえも責める側となっていた。『扶桑に日本を飲み込ませようとしているのか』と責め立てる。また、扶桑軍が日本連邦軍の主力を担う状況下で、自衛隊のアイデンティティを守ろうとしている者もいるので、これは『暴論』と批判を浴びた。これは日本連邦としての一体性を上げるため、ひいては連邦の領土、人民の自衛権行使の為の組織に変えることで、従来の国防の軛から解き放つ事が真の目的であったのだが、安倍シンゾーは強烈な批判に晒された。日本人の多くは自衛隊が自らの手を離れる事での無防備化を恐れたが、実際は組織改編のみで、自衛隊の部隊はそれまで通りに存在し続ける。指揮権が日本連邦に移るだけだ。日本連邦評議会の長が形式上とは言え、構成国の権威である天皇陛下である(扶桑では明確に国家元首である)ため、日本軍の再来とされ、糾弾された。正に無茶苦茶である。イギリス軍と同じようなものであるのに、旧日本軍と何でもかんでも結びつけるあたり、左派政治家は無知であった。

「イギリス軍は首相が王に代わり、指揮権を行使するとされています。それと同じようなものです。従って、旧日本軍の統帥権干犯問題とは異質のものであり、文民統制である事には変わりはありません」

それが効いたのか、日本国内の批判は、国民がイギリス(キングス・ユニオン)との関係悪化を恐れた事により、自然消滅へ向かい、年号の改元の年に自衛隊を日本連邦の直轄組織へ移行させる案が多少の修正(日本の国民感情に配慮し、総理大臣や県知事(都知事)が要請すれば、評議会の事後承諾で日本連邦軍が出動する)を行った後に衆議院を通過した。自衛隊が消えるわけではなく、日本連邦軍の固有部隊と位置づけられるだけであり、組織そのものは維持される。その事が周知され、理解されるのに2018年の初春から盛夏に差し掛かる頃という半年近くの時間を費やした。これは日本に戦争当事国の自覚が無かったためもあるが、扶桑の三ヶ月は日本での五ヶ月に相当するという時間の流れの違いもあり、実に日本の議会の進み方は悠長であった。軍事を日本連邦に委ねるのは、財政難の日本が取り得る切り札かもしれず、自衛隊の存在を合憲化した事との接合性を納得させるかが課題だった。当然、日本は日本連邦軍の維持負担金を支払うが、それまでの防衛費よりは安く済むため、財務省は財政負担が軽くなるという観点から歓迎した。また、自衛隊の組織を維持するのに自分達の負担が減り、憲法上の縛りも意味を成さなくなるため、戦艦であろうと、空母であろうと揃えられる事を意味する。人件費などはあまり変わらないが、負担が軽くなる事は事実であり、学園都市への抑止力も兼ね、この方法で強化と維持を図ってゆく日本だった。





――このような回りくどい方法が取られたのは、日本国民は戦後の長い平和に慣れ過ぎ、戦争という出来事を現実的に捉えられなくなっていた証だった。戦争への認識が第二次世界大戦で止まっている様を裏で米国に笑われている。この事が打破された後の時代、日本人が完全平和主義に賛意を示しつつ、防衛力の保有だけは譲らなかった(地球連邦政府の政権交代後に軍を立て直す必要が生じたが、当時の人々を弁護するなら、誰もが宇宙戦争時代の到来そのものが予想外であった)事の証明でもあり、日本は21世紀序盤で『世界は闘争に満ちあふれている』事を思い出したと言え、この日本連邦(第一次時代)の黎明期においての意識変革のきっかけが、扶桑の太平洋戦争であった。自衛隊の日本連邦軍の直轄部隊化には2020年までの準備期間が必要であるものの、名実ともに『再軍備』(日本が軍事的に扶桑と一体化する)し、実質的に本物の軍人(日本連邦の管理下に入り、政治的立場が良くなる)となる事で、それまでの立ち位置から変化するが、『自衛隊』という名称は存続する。立ち位置が日本国の事実上の軍事組織から、『日本連邦の直轄部隊』に変わり、日本国から、日本連邦評議会に指揮権が委ねられる。(とは言うものの、日本国内閣総理大臣が指揮権を失うわけではない)タイムスケジュール(あくまで、予定)は2020年。その頃に21世紀世界は確実に、22世紀前半の繁栄の礎を築いてゆくのだろう――







――扶桑はなまじっか、優秀なウィッチを有していたため、電子技術の重要性を看破し切れず、ブリタニアの技術援助で電探やソナーなどの技術は一定の水準には達しているが、その配備数が少なく、技術分野では精神論が蔓延しつつあった。しかしそれを未来世界がその超技術で認識を吹き飛ばし、47年の段階では、そのブリタニアですら慄くほどの電子技術を前提にした三次元レーダーを標準装備にし、誘導ミサイル完備の『時代先取り軍隊』となっていた。ウィッチが困り果てたのは、対空砲火が近接信管完備になり、天山以前の攻撃ストライカーではたちまちの内に撃墜される、当時の最新鋭機『流星』でさえも、10人のウィッチがいれば、8人は撃墜されるほどの対空砲火には陳腐化は免れず、バスターウィッチと呼ばれる『40ミリから50ミリ砲を積んだジェットで敵対空砲やレーダーを破壊し、通常攻撃機の鶴払いを行う』役目に移行する攻撃ウィッチが増えている。前史よりも急激に近代化したための弊害でもあったが、雷撃機というカテゴリそのものが対空砲火の充実で陳腐化した時代では、仕方がない変化であった。戦局が落ち着いている内に、それらへの転換が行われる扶桑。同時に、日本連邦軍の常設部隊化する日本国自衛隊(ある意味では『再軍備』だが、日本国としての再軍備は実質的に無理であることでも証明であり、最終的には自衛隊の合憲化の後に日本連邦軍の常設部門化がなされた)にアドバイザーを派遣する事が決定された他、次元震パニックを利用して、既に自衛隊の派遣した飛行隊は空軍主力である64F、護衛艦隊の一部は扶桑海軍主力艦隊に組み込まれている。近々、陸自の部隊も扶桑陸軍主力に組み込まれる予定であった。これは日本国の有した防衛力を活用することで、軍事的な一体化を進める意図が含まれている。この頃、扶桑は高練度かつ、高級装備の部隊でリベリオンを局地的に圧倒する事で、新兵器開発までの時間稼ぎを行いたい意図があった。全面攻勢に出るだけの態勢は数年もの時間を必要とするため、その間に恐怖を煽る戦略を扶桑陸軍は取り、自衛隊部隊と合わせた一部精鋭部隊で敵前線をおちょくり、撹乱する戦略を取った。海軍は予想された消耗戦が、地球連邦軍がハワイへの補給路をほぼ断ったため、太平洋艦隊が殆ど動かずにいる事に拍子抜けしたが、逆に言えば、敵も味方も燃料の無駄な消費は控えたいのと、重大な要素と言える新兵器開発の時間を得たい事情があるとも言える。自衛隊員には部外に口外しないことを約束に、未来兵器の存在を明らかにしており、統合幕僚会議でも普通に未来兵器の存在は語られている。空自の強力している隊員(憲法改正と組織の移行後は日本連邦空軍軍人)達には体験搭乗として、VF-1EX、VF-11を見せ、乗せている。そのため、自衛隊員達は地球連邦軍の存在を知っていて、お互いに協力しあっているという事になる。また、空自が組織移行後に採用した、F-2戦闘機後継の戦闘機は地球連邦軍のコアファイターと、その派生と言える宇宙戦闘機『レイヴン・ソード』を21世紀の技術で解析したモノとなり、歴史的に言えば、コアファイターの先祖にあたる戦闘機の一つとなるのであった。




――欧州に向かった64Fはその圧倒的戦力を異次元の501に見せつけたわけだが、当然、坂本Bは『猛者揃いの部隊』を誰が束ねているかが気になったが、その答えはすぐに出た。空母に一機の戦闘機(コスモファルコン)が着艦してきたのだが、そのパイロットが武子だったからだ――

「貴方が転移してきた基地にいた坂本少佐ね?」

「その声は……加藤さん?!」

「貴方にとっては、7年ぶりという事になるのかしらね、坂本」

武子には敬語を使うのが、坂本の共通事項である。これは親友の竹井が武子を姉のように慕っているからであり、また、自分が12歳当時に既にエースとして名を馳せていたという先輩後輩関係もあり、武子には敬語で接している。武子は若返った&G覚醒の影響で、容姿は往時の姿そのままであるので、ミーナBは思わず坂本に関係を聞いてしまう。(見かけは年下にしか見えないため)

(美緒、このウィッチと知り合い?)

(馬鹿者!!私の先輩の一人で、扶桑海の隼を謳われた加藤武子だ!!醇子の恩師の一人だぞ!!)

坂本Bは武子とは7年ぶりだが、A世界では64Fの戦隊長としての責務を負っているので、階級は准将に出世しており、坂本Bは愚か、ミーナとも二階級以上の差がある。その事は知らないものの、武子の往時の武勇を知る者として、慌ててミーナを叱る。坂本は他者へタメ口が多いほうだが、武子には明確に『後輩』として接している。竹井がそれを許さないという事情があるとは言え、坂本が畏まる人物なのは共通している。

「お、お久しぶりです、武子さん……」

「そちらではまだ、501の戦闘隊長だったわね」

「はいっ」

「そちらはミーナ中佐?」

「は、はい」

「扶桑皇国空軍第64飛行戦隊、戦隊長の加藤武子准将。貴方とは初対面になるわね」

「し、失礼しました、閣下!!」

慌てて敬礼するミーナB。准将という事は将官。45年当時のミーナ(中佐)とは二階級の差があるし、将官という事になるからだ。当時、A世界での扶桑海七勇士の内の四人は戦功により准将に昇格し、叙爵もセットでなされている。そのため、扶桑皇国軍全体で言えば初である。国家英雄であるからだが、当初、四人は『溜まった戦功が少将就任に充分なものである』と天皇陛下が判断し、少将の拝命が約束されていた。しかし、当時の陸軍参謀本部(市ヶ谷台)が激しく抵抗した。『佐官のままでも不味いが、少将にするには若すぎる』との趣旨だ。天皇陛下はこの抵抗に怒った。助け舟はカールスラントから出された。扶桑を訪れたカールスラント皇帝がその抵抗運動を知り、『ウチには20代元帥が昔からちょくちょくいるが?』と高官らの前で言い放ち、扶桑皇国陸軍関係者を冷や汗タラタラにさせた。彼らは『四人を30代に入るまでは佐官で据え置き、給金を戦功に応じて上げる』事で据え置くつもりだったからだ。これは陸士や海兵卒者の多くが若年の内に高階級になることはないのと、これまでの慣習では、大佐になる頃には、ウィッチは退役していたからである。現場の高官らからは『ガランド閣下はどうなんだ?』と突き上げられた参謀本部。しかし、圭子を除いて、20代前半で少将は自分達の立場がないため、統合参謀本部と統合幕僚会議の成立まで放置され、正式に准将に任ぜられたのは、開戦直前の事である。(待遇はダイ・アナザー・デイ後に変わっている)従って、『准将』は四人の若さ故、『慣習破り』が許される風潮ではない扶桑軍の妥協案として、空軍始動後に加えられた階級であると言える。(ひいては、今後におけるウィッチ出身軍人の将官への道を拓くための礎でもある。別の理由もあり、戦時に中佐が戦死した場合の二階級特進先(扶桑は佐官級の特進は一階級としていたので、日本が『戦死者は二階級特進じゃねーの?』と言った事に戸惑い、中佐の特進先を将官にするための方便でもある)従って、日本の一般層向けのリップ・サービスも含まれている政治的な階級とも言われる。しかし、将官であるというインパクトは大きく、これにより、自衛隊の師団長職の一佐などは扶桑軍で准将扱いに正式になり、扶桑もこの方が楽と分かり、准将は意外に早く定着する。自衛隊が日本連邦軍化した後は明確に師団長などの職責の一佐は准将と定められ、組織移行後は准将となるのだった。

「准将閣下は何故、一介の飛行隊司令をなされているのです?」

「実質的には航空群の司令よ。ウチの部隊はこの艦隊も管轄下だから、特別編成とされてるわ」

「特別編成?」

「規模が飛行隊の正式な編成を超越してるからよ。飛行中隊が六個、その内の最精鋭だけでも有に数十機の保有だから」

新撰組だけでも、管轄下の航空機/ストライカーは正式な中隊編成の定数を超越した規模を維持している。特に替えが効かない人員である事から、その『定数』は一昔前の陸軍飛行戦隊全体の定数であった36機を超える。整備要員も旧343空などから引き継いだ精鋭整備員で固められており、前線部隊からその優遇措置を嫉妬されている。新撰組だけでも、一昔前の統合戦闘航空団の倍以上の人数を有する。これは敵がリベリオン軍であるので、ウィッチも多いと推測された(扶桑は楽観的であったが、日本側の後押しで決定された)ために許容された人数である。言わば、日本が夢見た『オールスター部隊』の具現化であるため、源田への批判も多いが、当時としては至極当然と言える陣容である。ウィッチの戦後の生き残りもかかっているため、当時の精鋭中の精鋭を集結させた。そうぜざるを得ない事情もあるが、日本には理解され難いので、表向きの意味でも、裏の意味でも『特別編成』である。

「どういう事です?」

「色々と事情があるのよ。今、ここに連れてきた連中だけでも、大まかな陣容で言えば、扶桑の主だった撃墜王を網羅してるわ」

「主だった…?」

「赤松中尉を知ってるかしら、坂本」

「グンドュラから事情は聞きました。しかし、主だったとは?」

「あそこにいるのが、西沢と赤松先輩よ」

「あの、武子さん。義子が士官服を着てるように…」

「ここでは中尉だから、あの子」

「嘘……ですよね?」

「あの子、戦線で教官をやらされてね。貴方は無謀と言うんでしょうが、この世界だと、意外に適正があってね」

西沢はB世界では風来坊だが、A世界ではなんだかんだで士官になり、落ち着いた。この時点では、黒江の腹心の一人となっている。元海軍軍人なので、海軍の士官服を着ている。この着用は組織移行期間中に移籍した者に許されている。そのため、空軍のフライトジャケット以外では、以前の軍服を着ている者も多くいる。これは49年までは許可されている。

「あの子、空軍に移っても、海軍の士官服を着ること多いのよね」

「いいんですか?」

「まぁ、礼服着る機会はそんなにないから、今は。戦争中だから」

「扶桑は前線では……?」

「いいえ、この世界だと前線になったのよ。本土も爆撃の可能性が高いから、防空体制に入ってるわ。扶桑海より危険度は高いわ」

「馬鹿な」

「もし、南洋島より本土に近い島がどこか落ちたら、本土は戦略爆撃を受ける事は必定。だから、敵空軍と海軍の動きは逐一、偵察してるわ」

「『敵』、か。この世界は本当に人間同士の戦争が……」

「世界大戦よ。世界が違えば、今頃には扶桑はそれに敗戦してる事も起こりえるわ。今の扶桑の繁栄は、南洋と大陸領あっての事だもの」

「敵国というのは?」

「リベリオンよ。政変が起こって、軍隊が二つに割れ、国民も少なからずこっちに亡命したわ。南洋島の一つの『神奈川県くらいの広さ』の島を彼らの居住地として提供している」

「ああ、いずれ国際空港や港湾にしようとか政府が言ってた」

「ええ。こちらも大変なのよ。リベリオン亡命軍は南洋の各軍港に艦隊がいる事になるから、港湾の拡大を戦時中でもしてるのよね」

リベリオン軍の遠征艦隊や陸軍がそのまま亡命軍に変わったため、リベリオン軍は事実上の分裂状態であった。そのため、補給品の調達などは同位軍のアメリカ軍の協力も仰いでいる。違うのは、亡命軍がモンタナ級二隻を引っさげて来たため、大和型及び超大和型戦艦が接岸可能な港湾を増やさないとならなくなり、扶桑は戦線の維持とインフラ整備に国家予算が消えていった。(この時にリベリオン亡命軍が使用した港湾の使用料は後年に支払われたと言う)ドラえもんが48年度にひみつ道具を使って、港湾設備を整備するまで、この問題は扶桑財務省の頭痛の種であった。ドラえもんは46年度より、扶桑が資金を負担する形で、『ポップ地下室』を大量に購入。南洋島の頑丈な地盤の地下に地下都市をそれで築き、ある地下室は都市機能、またある地下室は軍事基地と、機能を分担して設置された。また、互いの地下室を繋げるリニアモーターカーも設置するなど、工事の指揮監督を行っており、64F基地の地下の都市化に尽力している。次元震パニック時はちょうど、秘密飛行隊の軍事基地機能を備えた地下室を設置し終え、南洋島で休暇を取っていた。


――南洋島の智子Bと黒江Bが滞在しているホテルのスイートルーム――

重要人物であるドラえもんはVIP待遇であり、スイートルームに宿泊していた。のび太は2001年時点の家に帰って、小学校の宿題と格闘中であり、部屋はドラえもんのみがいた。次元震パニックが始まった段階では、なのはとフェイトはミッドチルダで仕事が入ってしまった。上層部の指令で、映画撮影に入ってしまったのだ。これはミッドチルダが意気込んだプロパガンダであり、なのはもフェイトも乗り気ではなかった。変身魔法で子供の姿に戻るというのも疲れるため、撮影では、本当に子供に戻った上で撮影に臨んでいた。しかしながら、当時のバリアジャケットのデザインは当人達が『恥ずかしい』のと、細かい意匠を覚えていないので、新規デザインとなった。(そのため、当時は黒マントで通していたのが、白マントになるなどの違いがあり、フェイト自身、苦笑いである)

「フェイトちゃん?そっちはどう?」

「映画の撮影が押しててねー、母さんの事件の映画が終わったら、闇の書事件の撮影だって」

「ご苦労様。それでどうだい?若返った気分は」

「体力が有り余って、肩こりが無くなったのが最高だよ。19超えると肩こり出て来るしさー」

「鈍ってるねー」

「上の連中がデスクワーク押し付けてきやがってさー。動乱で人材不足だからって、私に押し付けんなつーの!」

「なのはちゃんは?」

「なのはは急に呼ばれたんで、不機嫌でね。今、ウチの義兄をボコしたとこ」

「なのはちゃん、過激だからねぇ」

「私がやると、撮影場がぶっ飛ぶしな。義兄がきわどいアングルの当時の映像を持って来やがったから、なのはがキレてね」

「スターライトブレイカーでもかましたの?」

「うんにゃ、石破天驚拳だった」

「あー…」

フェイトが本気でやったら、闘技で撮影場が一瞬で吹き飛ぶ(ライトニングプラズマなど)ので、なのはが代表して、クロノに制裁を加えたのが伝えられた。なのはは外見は子供時代に戻ったが、中身は黒江と智子の影響を濃密に受けた後の青年期のままなので、キレると怖い。クロノはまさにその状態のなのはの石破天驚拳を喰らい、吹き飛ばされた。曰く、『ガキ共に免じて、ここまでにしてやる』との事で、クロノが子持ちになった事を考慮している。

「なのは曰く、『今日のあたしは虫の居所がわりーんだよ』だって」

「わーお、か・げ・き」

「私が全力で撃つよりはマシだけどな。私がやると、ライトニングプラズマで吹き飛ぶから」

フェイトの声色は当然ながら、九歳当時に戻っているので、青年期のそれに比べると、トーンが高めである。しかしながら、言葉づかいは大人のそれであるので、ギャップがある。そのため、ヴィヴィオからは大受けであるのだが。

「その姿でも、ヴィヴィオちゃんには負けないでしょ?」

「当たり前だ。これでも獅子座の黄金聖闘士。ヴィヴィオやノーヴェ程度は触れられることなくのせるよ」

ミッドチルダ動乱後、更生したノーヴェにファイトを挑まれたが、ノーヴェが視認不可能な速度での一撃を与えて倒した事がある。フェイトは10代後半当時、格闘大会で試合時間が合計で数分の『伝説の女』として名を残しており、20代に入った現在でも、その伝説により、ストリートファイトを挑まれるケースが多い。相手に触れさせないで倒す事から、『無傷の女王』という渾名もいつしかつけられている。それはノーヴェも例外ではなく、敵として戦った際には恐怖を散々に味わってもらっている。当然の事だが、フェイトはセブンセンシズを越えようとしており、そんな人間がセブンセンシズにも到達していない者を倒すなど、赤子の手を捻るよりも簡単である。

「阿頼耶識に到達しようって人間だもんね、君。」

「ああ。綾香さん達は阿頼耶識も超えてるから、まだまだだけどね」

「銀河壊せるもんね」

フェイトはすでに銀河の星々を砕くだけのパワーを持ち、その気になれば、スターライトブレイカーを掻き消す事も容易にできる。ある意味では、なのはすら赤子に思えるほどの戦力差があるため、ミッドチルダ組最強はフェイトと言える。

「それを義兄達に言っても信じないから、前にライトニングプラズマをヴィータに撃ってみた。そうしたら、あいつ、虫の息だったよ」

「加減した?」

「忘れてた」

「よく消し飛ばなかったね?ヴィータちゃん」

「あいつは頑丈だから」

「で、なのはちゃんは今、どうしてるの」

「なんか、この撮影終わったら、磁雷矢さんに入門したいとか」

「戸隠流に?」

「うん」

「あの子も色々手を出すねぇ」

「実家のお父さんに愚痴られたって言ってた」

「あー。それはまぁ、ねぇ」

なのはは青年期以降、色々な武術に手を出しているが、実家の剣術は継いでいない。曰く、『ウチのはお兄ちゃんとお姉ちゃんの領分だし』との事。

「で、撮影はいつまでなの?」

「あと一本分あるから、あと数週間だね。いやあ、昨日は急に暴徒鎮圧任務が入ったから、天羽々斬使っちゃったよ」

「どうだった?」

「いやあ、ストレス発散になったよ」

「あー、そのことだけど、綾香さん、まだ翼さんに言ってないらしいんだ」

「えー!?」

「ファランクスシフト使えばいいんじゃ」

「まー、使ってみたかったしね、天羽々斬。せっかくポケットマネーで組み込んだんだし」

「うーん。知れたらどうするつもり」

「ライトニングプラズマでもぶっこんでから話でも聞くさ」

「なのはちゃんと似てるねぇ、君」


苦笑いのドラえもんと、大笑するフェイト。ドラえもんはフェイトの思考回路がなのはに影響されている事をひしひしと感じていた――








――話は戻って、亡命リベリオン軍は遠征艦隊が母体となったため、海軍が主力であるため、陸軍航空隊は少数であった。海兵隊もいるにはいるが、ごく少数であるため、亡命リベリオンでは、『各戦線に散らばっている海兵隊を順次編入』という形を取っている。そこも面倒くさいところである。そのため、亡命軍と本国とで海兵隊の取り合いになっていた。

「戦時中に港湾を?」

「ええ。貴方の世界には無いかもしれないけれど、65000トン級のリベリオン新鋭戦艦がいるからなのよ」

「それって、大和型とほぼ同じじゃ?」

「長さは竣工時の大和より長いわよ。280mだから」

「280m!?よくそんな巨艦を作れますね」

「それも量産してきてるのよ。だから、大和を超える戦艦が必要になった」

「超大和型戦艦を!?」

坂本Bからすれば驚きであることから、B世界にはモンタナ級は存在しないらしい。パナマックスが重くのしかかっていた米軍は、大和の正確な情報を掴めず、史実ではアイオワで充分とされ、パナマ運河拡張計画と共に潰えた。ウィッチA世界では、大和の存在が早期に判明した事で、アイオワ級に続いて、モンタナ級がそのまま造られた。パナマ運河の拡張も当然ながら進んでおり、地球連邦軍が奪取した段階では、新関門のテスト段階であった。そして、地球連邦軍がパナマ運河を奪取した事で、パナマックスからリベリオンは開放されてしまい、建艦競争は超大和型戦艦の時代へひた走っている。

「ええ。大和を超えた大和の時代なのよ、今は。51cm砲を積んだそれが艦隊の主力よ」

超大和型戦艦。B世界では構想のみがあるらしいのがわかる。51cm砲の時点で砲弾は史実の試算で1950kg。ほぼ二トン。戦後の専門家からは日本のクレーンで運べないと言われ、非現実的とも言われる。実際に構想時点で投射重量の低下が懸念されたものの、未来技術が解決し、播磨型と三笠型の実現となった。史実でも、大和型サイズに51cm砲を積む案は俎上に載せられており、未来世界の過去においては、まほろばとラ號用に実際に生産され、ラインが稼働していた。非現実的と言われる所以は、未来世界では『ラ號とまほろばの欺瞞プラン』である『51cm砲6門を大和型の船体に載せる』案は『投射重量減と、日本海軍が6門艦を実戦で使うはずは無い』とする先入観から来ている。だが、両艦の完成がマリアナ沖海戦に間に合わなかった段階で、このプランは本当に俎上に載せられている。樫野が戦没していなければ、本当に作った可能性大である。しかし、両艦が建造に目処が立った事から、比較的容易であるまほろばの建造に全力が注がれ、坊ノ岬沖海戦には間に合っている。まほろばが第二艦隊旗艦でなかった理由は明らかでない。まほろばは一説によれば、在郷軍人会や水交社の管轄下にあったとされ、完成時には、日本帝国に後がもう無いのを分かっていたからこそ出撃させたという。だが、当時の若手将校が乗艦していたとの証言を残していた事から、海軍主力部隊の指揮下にはないが、海軍の指揮下にはあった事になる。大和特攻が承認された裏には、大和型を超えるまほろばがあるという事実を伊藤整一中将が知らされたからともいう。まほろばの戦闘力は当時の大日本帝国では最強無比を誇り、当時の海軍工廠砲熕部の試算では、アイオワ型を一撃で破壊できるとさえ期待されていた。まほろばの砲門数は51cm砲15門、20cm副砲6門の空前絶後の武装である。まほろばの建造資金の出処は大日本帝国の『まほろば会』という、ある皇族や華族、財界人が42年に結成したフィクサー組織で、ウィッチ世界の『大樹の会』に相当する。それに戦後、轟天振武隊が合流し、ラ號の維持管理などの資金も負担していた『大日本帝国の忘れ形見』である。表向きはラ號の若手士官だった『影山少佐』が『影山財団』として合法的に戦後に存在した財団で、21世紀では日本の再興したコンツェルンの一つとして知られている。彼らは大日本帝国の忘れ形見を維持し続けている。それはキングス・ユニオンも同じことだった。そこから超兵器の存在を知った国連は、2000年代にラ號の接収を目論み、日本政府も、自身を大日本帝国政府の後身であるとする立場から、接収を目論む勢力がいたのも事実だ。その事もあり、A世界の大和型は21世紀日本で保有の是非が議論された。革新政党が『大和以外は金の無駄であるので、廃棄しろ』と宣ったのも記憶に新しい。戦艦は同型艦がないとローテーションを組めないのである。扶桑で『信濃型航空母艦』の計画が没になった理由は、現地で工事が予想より進捗しており、不断の努力で砲塔床面の設置まで出来上がっていたという事情も含まれていた。発案者のエクスウィッチが視察した段階で、信濃は既に砲塔の床面の設置が済んでおり、砲架設置の準備中であった。そこから空母にするのはもはや不可能と判断された。その姉妹艦の111号も、『ジェット戦闘機には小さい』と未来世界に判定された事で、そのままとなる。予定された幅50mの飛行甲板も、70mを必要とするジェット戦闘機の基準では狭苦しい。その事がトドメとなった。その結果、大和型戦隊が実現したわけである。その代替に、空母は雲龍型航空母艦の増産となったが、雲龍型航空母艦は早々に艦型そのものが陳腐化してしまったのは扶桑海軍の誤算である。

「それと、困ったことにね。空母が80000トン以上無いと用をなさない時代になってしまったのよ。おかげで雲龍型航空母艦は『予算と時間の無駄使い』とか揶揄されてるわ」

「馬鹿な、20000トンを超えるんですよ?」

「噴進エンジン搭載の大型機が主流になったから、あれくらいの大きさだと、まともに運用できなくなったのよね」

「そちらでは研究が?」

「実用量産に入ったわ。だから、レシプロ機から交代し始めたのよ」

「零式から?」

「いいえ、紫電改や烈風からよ。雲龍型だと、烈風や流星の運用にも四苦八苦するから」


――A世界では、艦載機の急激な世代交代そのものが予想外であり、44年から実用化された烈風/流星/彩雲が早々に旧式化し、ジェット機に取って代わられようとしている。しかし、ジェット機に更新すると、ウィッチとの共用が不可能となるため、ウィッチ閥が激しく抵抗し、飛鷹型航空母艦を持っていったため、47年次の空母機動部隊は張子の虎であった。そのため、未来から超大型空母を購入し、更に既存の大型を改装したものの、合計で五隻では、エセックスの軍団には太刀打ち困難である。そのために空軍が独自に宇宙艦隊を保有し、銀河連邦警察も協力している。今回のパニックで動員された中には、シャイダーのバビロス、スピルバンのグランナスカの姿もある。

「この艦は宇宙空母でね。別次元の23世紀から綾香が引っ張って来たのよね」

「黒江が?」

「ええ。ここだと、貴方の知るあの子自身より相当に顔が広いのよ。それで」

「どれだけ顔広いんですか」

「その説明は私より、邦佳の方が適任ね」

「黒田ですか?あいつがここに?」

「あら、ここだと貴方の先輩よ、あの子」

「!?」

ここで、A世界固有の事例が坂本Bを驚かせる。黒田はB世界では坂本の後輩だが、A世界では坂本の先輩であるのだ。

「綾香に長年仕えてる腹心で、大物食いの撃墜王よ。斬艦刀持ちのね」

「ざ、斬艦刀!?」

「今は出撃してるけど、ブロマイド見る?」

武子が取り出した黒田のブロマイドに写る姿は、A世界での武士然とした姿のものである。戦士として歴戦を経ているため、A世界黒田は戦士として一流である。黒江の僚機として長年戦った勇士としての黒田がA世界での黒田なのだ。(圭子とも組んだ時期があるが)

「これが斬艦刀?」

「斬馬刀を対艦用に転用したものと言えばいいかしらね。あの子の武器よ」

「しかし、黒田は元々は槍使いだと?」

「ああ、この世界でも槍はやるのだけど、斬艦刀使いになったのよ。綾香が渡して、邦佳が使っていたから」

「うーむ。この世界はどうなっているんだ?」

「歴史が色々と変化しているのよ。貴方達の世界とは。時代不相応なほどに進化した兵器が使われているし、そして……ウィッチの摂理も」

「黒江や貴方がいる時点で分かってますよ、それは」

「この世界の501には綾香達が関わったけれど、私達の時代からの年月の関係で、あの子達は相当に反発されてね」

「でしょうね。想像はつきます」

「あの子達は扶桑、いえ、世界有数のウィッチになった。あくまで、この世界限定だけども。その伝説も年月の経過で忘れ去られ、反発が起こったのよ」

「でしょうね。あいつらの時代からはもう7年。主力の世代が入れ替わって久しい。いくら、あいつらが抜群の戦功を上げても、世代交代で忘れ去られる。貴方の事も例外ではない」

坂本Bは黒江達の戦功を覚えている。だが、A世界でのミーナ達は知らなかった。書類や映像を見て、始めて『伝説のエース』と知った。それ故の反発が作戦寸前に噴出し、作戦後にレヴィとしての圭子のお披露目が行われたほどであった。ウィッチの世代交代の速度がそれまでに比して停滞したのは、この反発を教訓に、教官級/エース級ウィッチのRウィッチ化が促進され、MATの活動本格化(自衛隊が日本連邦軍の指揮下に入った後も、怪異専門部署として活動)によるウィッチの新陳代謝の停滞もあり、この『大戦』世代が各国軍のウィッチ部隊の屋台骨として、長きに渡り活動してゆく事になる。

「この世界のウィッチは変革の代わりに、何十年戦い続けなければならないのです?」

「少なくとも40年。その間、国家に献身することが求められるわ。軍人は何事もなく出世していけば、50代から60代で退役する。ウィッチは特別扱いだと反発があった。変革で従来の制限が消えれば、定年まで軍にいる事になる。自分で退役しない限りはね。それを是としない者は大勢いる。その反対に、戦う事が己の存在意義の発露であり、本当に平和な時代じゃ風来坊になるしかないような性質の者もいる。そういう子等にとっては福音なのよ、貴方がそうであるようにね、坂本」

武子はウィッチの変革に触れ、複雑な顔を見せる坂本B。それは坂本Aも転生前に遭遇し、悲劇の引き金を引くきっかけとなった。日本連邦が本格始動する中、ウィッチ達は次元震パニックを通して、生き方を模索してゆく。魔導師、シンフォギア装者、聖闘士、IS操縦者。様々な属性を模索する者達が居ることを、坂本Bはまだ知らない。



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