外伝その404『図上演習と戦闘16』


――扶桑陸軍は戦車開発で日本に手綱を握られ、海軍は航空隊の運用形態と組織構造そのものに大鉈が振り下ろされた。また井上成美が推し進めていた『基地航空兵力第一主義で航空兵力を整備充実すべきである。之が為戦艦、巡洋艦の如きは犠牲にしてよろし』という戦略が朝鮮戦争などの戦訓で否定され、海軍軍人としての彼の立場は独立空軍の誕生で一気に悪化。彼が空軍に移籍する理由の一つとなる。(空母機動部隊軽視と水上艦軽視と取られた。本人はそういった意味で提唱したのではないのに、と憤慨していた。また、『それを言ったのは昭和12年の事だ。私も空母の発達は理解しているのに!』と釈明している)海軍航空隊は彼が整備させた基地航空が丸ごと空軍に取られ、空母航空団の基幹として育成途上の第601航空隊も自動的に移籍させられたため、海軍航空隊は実質的に形骸化した。ただし、空母航空団の移籍については日本側の勘違いに主因があるため、『旧・601空については、旧任務を継続せよ』という通達が緊急で出された。だが、航空隊の一部整備員が空母搭載用の機材を機体から外す改造を自主的にしていたため、601空はこの通達に顔面蒼白。大慌てで空母搭載用の機材を新規で調達する羽目に陥った。その混乱で、すぐに艦隊防空に充てられる部隊が付近に64Fしか存在しなかったため、緊急で64Fの新選組が泊地近くの駐屯地へ移転する事になったのだ――





――米軍が空母『エイブラハム・リンカーン』と強襲揚陸艦『アメリカ』を派遣してきた事もあり、扶桑軍は面子的に空母機動部隊の練度を誇示せねばならなかった。ただし、実働空母の内、扶桑固有の空母は大戦型の三隻のみ。64Fが駆り出されたのは、要は見栄の問題であった。卑しくも三大海軍の一角が自前でパイロットも調達できないという恥を晒すのは避けたかったからだ。ただし、扶桑が勝っている分野がある。戦艦である。21世紀の米軍は戦艦を見栄と対抗心で新造したものの、実験艦扱いであり、一隻しか艦隊に帯同させなかった。基本はモンタナ級戦艦の焼き直しであるため、細かい装備で勝ってるものの、艦そのものの基礎能力は大差ない。扶桑は大和型の発展型が就役しつつある時代に入っていたため、そこだけは完全に勝っていた。虚砲と揶揄される大和型の主砲だが、大艦巨砲主義の原則に従えば、最強クラスには違いない。51cm砲搭載艦すら現れていた当時においては、40cm砲艦は標準の域を出ない。日本からは拡散波動砲での五大湖工業地帯の全滅を具申されているが、あまりにも過激すぎるために却下されている。日本は『戦術的勝利は意味が無い。五大湖工業地帯と東海岸を消し飛ばす勢いでないと、戦争に勝てない』と息巻く。しかし、それは原爆どころでない大殺戮にもなりかねないし、ウィッチ世界では怪異からの防衛の観点的に戦争終結後の軍事力解体はある種のタブーとされている。その兼ね合い上、日本の言うような大量破壊兵器を用いる過激な攻撃は取れないのだ――










――64Fは歴代プリキュアを抱え込んだ。その事に批判はあるが、日本が主導した施策でウィッチ新規入隊に多大な支障が生じた扶桑としては、是が非でも歴代プリキュアは歓迎すべき人材であった。エディタ・ノイマン大佐が降格させられ、更迭された経緯は現場の混乱を招き、カールスラント皇室の存亡の問題にまで発展した。それを補うため、扶桑のエース部隊は黒江達による統制のもと、あらゆる戦闘に駆り出されている。カールスラント部隊の大半が撤兵してしまった穴を一部隊で埋めざるを得ないのがダイ・アナザー・デイの三週間目以降の状況であった――





――そんな状況の最中の清涼剤は64F自身の活躍であり、他部隊はこの活躍に罪悪感を感じ、次第に目立たない形で活動を再開し始めた。中には有志が部隊を離脱し、64Fへの転属届けを携えて戦列に加わった者も生じた。だが、その間に生じた混乱は大きく、戦線の制空権はメチャクチャに入り乱れてしまった。カールスラントの担当地域がガラ空きになった隙を突かれたのだ。如何に64Fと言えど、入り乱れまくる制空権を元に戻すのは容易なことではない。味方も行動しているので、おいそれと大技は撃てないのだ(地形を変える規模の闘技や宝具など)。人数の関係でローテーションが安定しないのもあって、敵機の補充速度に撃墜数が追いつかない状態なのである――


――移動中の機内――

「先輩、エリカ・フォンティーヌのほうは得意なんですね」

「真宮寺さくらは普段の嫉妬深いとこが演りにくくてな。俺はそもそも、『サクラ大戦X』はやってねぇのよ」

黒江はのぞみと芳佳に、バイトの新境地と称し、新変身ネタ『エリカ・フォンティーヌ』を移動中の機内で披露した。サクラ大戦シリーズの顔と言うべきメインヒロイン『真宮寺さくら』ではないのは、さくらの嫉妬深い一面を嫌がっているからとも取れる発言をした。

「先輩、意外にゲーマーなんですね」

「ドラえもんの影響だ。あいつ、ひみつ道具で時間作ってプレイするからな。ま、俺は十字教を特段、信じちゃいねぇけど」

エリカ・フォンティーヌは敬虔なカトリック教徒かつ、シスターという設定なので、修道服姿。黒江もそこは再現している。もちろん、黒江は十字教を信じているわけではないが、コスプレの一種だ。

「でも、さすがに特徴掴んでますね、黒江さん」

「3はエリカを攻略したしな。スネ夫から借りてプレイしたよ、ド○キャスで」

「先輩、どの辺の時代から日本に?」

「99年からだから、20年は日本にいるよ。防大に潜り込んで、身分をバラしてからの四、五年は苦労したがな。2010年頃には訴訟も落ち着いたし、例の東北の大震災の時は当事者だったよ。ま、のび太の大学受験とかちあったから、本当に咲と舞の現役時代の活躍は見れてないんだ。お前の第一期になってからだな。クリスマスツリーの下でオイシイ場面やりやがってからに、お前」

「うぅ。あの時は本当に、その、あの…。い、良いじゃないですか、昔の事はぁ!」

「照れんなって」

のぞみは通算で数回は恋愛成立フラグを立てているが、生前には種族と故郷の世界の違いで実ることはなかった。それが彼女のその後を暗転させたのは皮肉な結末ではあるが、転生した現在では『青春時代の良き思い出』と割り切ったようだ。ただし、自分が恋愛感情を自覚した日のことを指摘されると、湯気が出るほど赤面するらしい。

「お前、お菓子の国だと…」

「わ〜!先輩、すとぉぉ〜ぷ!ネタ掴まれるとやりにくいなぁ〜……」

「いいじゃねぇか。はーちゃんだって、兄妹になるまではのび太に好意を持ってたんだぞ?寝ぼけて、のび太の布団にフェリーチェの姿で潜り込んだ事もあるんだぜ?」

「みらいちゃんが聞いたら、泡吹きますよぉ」

「もう吹いた。それどころか、大パニックでな。それでマーチが筋肉痛になった」

「この間のメールはその事だったんだ…」

「ああ。それで猛省させて、今は家事担当だ」

「わたしも大人になったらマシになってるのに、りんちゃんも信じてくれないぃぃ〜……」

そこは地味に気にしているらしい。二人の娘を養うため、家事をどうにかしてこなせるようになったらしい。しかし、違う派生世界の出身であるりんはそれを知らないのもあり、家事をやらせない。そこものぞみがぶーたれているところだ

「違う派生世界の出身とはいえ、りんちゃんからも未だに信用がないのは堪えます…」

「だって、お前。現役時代に皿の片付けは却って散らかすわ、おかゆさえ焦がしてんだぞ?そりゃ信用ないわな」

「うぅ〜……。その姿で言われると、なんか余計に来るぅ…」

「現役時代はアホの子だったからな、お前。ま、次の二週間かはこの姿で動いてみる。俺のことはティターンズも流石にマークし始めてるだろうからな」

「先輩はサイボークの007ですか」

「お前らも、やろうと思えば出来るはずだ。俺は空中元素固定を使いこなしてるだけだしな。ハニーがお前の仲間の秋元こまちの姉貴の生まれ変わりだって聞いたときゃ、苦笑いしたがな」

キューティーハニー\如月ハニーは秋元こまちの姉『秋元まどか』の生まれ変わりであり、前世の記憶も持つ。そのため、プリキュアの関係者(家族)でありながら、プリキュア以外のヒロインとして活動する初の事例となった。(声色はおっとりとしたこまちと違い、凛々しく活動的なまどかのそれであり、のぞみとりんは面識があった事もあり、すぐに分かった)

「かれんさんとこまちさんが聞いたら、腰抜かしますよ」

「間違いなくな」

「強さは私達と互角みたいでしたけど、驚きましたよ」

「ハニーはアンドロイドとしては23世紀初頭時点での最高峰だからな。ドラえもんの時代と同等以上の電子頭脳を持つし」

如月ハニーはアンドロイドである。生体部分が多いことから、『機械の体を持つ人間』とも言えるが、脳や中枢部がナノマテリアルによる自己修復機能がある機械であることもあり、アンドロイドに分類される。23世紀以降はドラえもん時代のような超AI製造能力は失われたかに思われたが、如月博士は独自の研究で技術を有しており、ハニーを製造した。亡き娘の死亡直後に脳から取り出し、保管していたある限りの記憶を再構築して移植した上で。本来は娘の代わりとなるアンドロイドの製造が目的だったが、パンサークローの野望を察知した後に戦闘能力を付与した。それが彼なりの亡き娘への禊だったのかもしれない。そのハニーに秋元まどかの魂魄が宿った結果、ハニーは博士の想定以上に人間臭くなったのだ。

「いや、ハイパーハニーだと、上かもな。本人曰く、隠し玉みたいだし」

「こまちさんが聞いたら、なんていうかなぁ」

「固まると思うぜ?何せ、元祖変身ヒロインだし」

「うーん……」

ハニーは奔放な性格であり、64Fに協力しつつ、遊軍としてティターンズを撹乱している。ティターンズが残党の割に異常な資金力を持つのを『パンサークローが噛んでいる』と睨んだためだ。実際、ティターンズの背後にはネオ・ジオン軍が控えており、実質的にティターンズはかつての仇敵に仕える身となっている。そのネオ・ジオン軍を資金面で支えているのがアナハイム・エレクトロニクスのグラナダ支社であり、パンサークローだったりする。ネオ・ジオン軍は二度の敗北後はシャアのカリスマ性にも限界が見え始め、資金不足に陥っていた。連邦の再建が進むことを危惧する強硬派はパンサークローにすがりつき、資金援助を受けているほか、シャア・アズナブル、ナナイ・ミゲルなどの首脳部全員の意向として、ティターンズ残党を利用し、捨て駒とする事は決まっている。地球連邦への反抗そのものがジオンの存在意義の証明という『手段が目的化している』感は否めない。

「あいつはパンサークローがネオ・ジオン軍とティターンズ残党の資金源になってると睨んでる。ジオンは二度の敗戦で求心力が落ち始めてる。地球連邦が星間国家になった以上、一サイドの力なんてのはたかが知れてる。いくらスペースノイドがジオン寄りったって、同じスペースノイドを一年戦争の時に億単位で虐殺した以上、かなり反感を買ってるからな」

「ジオンって一種の旗印に変質しましたからね」

「え、何の?」

「反連邦だよ。反連邦のテロリストが一緒になるための旗印にジオンは使われるんだよ。内輪もめで生え抜きのジオン軍人は減ったから、ギガノスの敗残兵やらティターンズの敗残兵もかなり混じってる。ジオンは内輪もめで勝てる戦も負けた軍隊だしね」

ジオンは内輪もめで滅びる。ジオン公国の頃から連続して起こっている現象である。シーマ・ガラハウやグレミー・トトなど、軍を割るほどの分裂を誘発したものの、敗死したりして結局は連邦を利する結果を招いた例も複数あり、プリキュア達の間でさえ『話の種にされる』ほどであった。元はギレン・ザビとキシリア・ザビの水面下での対立が表面化したのが戦後のジオンにおける派閥抗争の起源であるので、ジオンの派閥が年月で自然淘汰されつつあった23世紀初頭においては生え抜きのジオン軍人は淘汰されつつある。一年戦争で最も若手の高級将校であるシャア・アズナブルでさえも30代を迎えた時代では仕方のないのだが。

「もうじき着く。俺はしばらく、エリカ・フォンティーヌの姿を隠れ蓑に使う。ティターンズのマークを巻かないといかんしな。坂本が起きたら伝えとけ」

黒江はそう言って、仮眠を取る。芳佳とのぞみは顔を見合わせて、お互いの席の位置が微妙な位置である事にため息を着くのだった。








――ダイ・アナザー・デイは扶桑の軍事に多大な影響を及ぼした。扶桑はこれ以後、ストライカーの開発スタイルを『実機をストライカーに落とし込む』手法に切り替えていき、第二世代宮藤理論の開発に着手する。機甲兵器の高性能化に比例しての高額化に悩み始める財務関係者に配慮するかのように、扶桑皇国軍は練度上昇に血眼になっていく。また、他国からの戦車購入も積極的になり、キングス・ユニオンも兵器の実績作りにと、日本連邦への輸出を積極的に行うため、太平洋戦線では英国系機甲兵器が相当数使用されるに至る。航空分野では空海の一体化が進められ、それぞれの組織は財務からの予算確保のための便宜的な区分として存続しつつも、実際の運用では空海の区別はほぼ無くなっていく。海では空母の高額化と大型化で調達数が限られ始めると、戦艦と重巡の存在意義が見直され、『潜水艦技術の成熟』までの繋ぎという名目で一定数の整備の名目は立った。むしろ旧来型駆逐艦と軽巡の淘汰が始まり、駆逐艦が3000トン超えの排水量を持ち始める。(小型とされた3900トン級でも、秋月型を超える排水量を持つ)。その関係上、旧来型駆逐艦の処遇はスクラップか海援隊への譲渡の二択となり、陽炎型駆逐艦以前の艦は前者が主流となり、秋月型は海援隊へ譲渡されていく。その代わりが21世紀型護衛艦であり、当時の他国の追随を許さない先進装備を太平洋戦争を通して揃えていく。太平洋戦争は扶桑海軍の近代化にはうってつけの口実だったのだ。それに連合国を構成する他国は様々な要因でその近代化についていけなくなり、軍事力で歴然たる差が生ずる。それは扶桑のその後の時代に至るまでの血の献身を確定させることを意味するが、怪異との戦争で国力が消耗していた各国はそれを容認していく。その後の時代における記録によれば、アルジェリア戦争での日仏戦艦対決がその傾向を決定づけたとされる。ガリアが欧州盟主への野心を完全に諦める理由は日本連邦の軍事力の強大さが太平洋戦争/第二次扶桑海事変であまりにも促進され、再建も覚束ない欧州各国の列強諸国とに10年や20年では並べ立てないほどの差が出来ていたからでもある――





――黒江はダイ・アナザー・デイが三週目の半ばを超えると、自身の容姿に二度目の変更を加え、『サクラ大戦3』のメインヒロイン『エリカ・フォンティーヌ』のそれに変えた。主な目的は自らについたティターンズのマークを撒くための一時的なものであるのだが、半分は気分変えの趣旨も含まれていた――



――移動先の駐屯地――

「黒江。お前、また変えたのか」

「ティターンズのマークがついちまったから、一時的に変えただけだ」

「お前はカメレオンか?」

「お前、漫画読んでねぇのか?」

「すまん、チャンバラものとか以外はあまりなぁ」

黒江は呆れるが、坂本は転生しても『チャンバラ好き』なままである。それが示され、苦笑いを浮かべる黒江。

「変わんねーな」

「私は宮藤やお前のように、つぶしの効く生き方はできんからな。基本世界では武士の生き方しかできんと呟くというが、これでも頑張ったほうだよ」

「確かに」

「しかし、お前。いくらゲームのヒロインを模すとは言え、修道服はどうなんだ。十字教の信者でもないくせに」

「いいんだよ。潜入の時に使えるし、修道女って、とっさに誤魔化せるんだから」

「それは事実だが…」

「世の中には銃剣で吸血鬼と戦える神父がいるんだし、島津家は戦闘民族だぞ。いいんだよ、修道服くらい」

めちゃくちゃな論理だが、整然と持論を展開するタイプに坂本は根本的に弱いため、押し黙る。黒江は押しも強いため、ディベートでは押しで勝てるタイプである。

「うぅ。子供の頃から押しに弱いんだよ、私は」

「竹井にも頭上がんなくなったしな、お前」

「子供の頃は、徹子に金魚のフンって言われてたくせになぁ」

竹井は子供の頃は年相応に言動が幼く、坂本の後ろにくっついていたために若本徹子は親友ながらも『美緒の金魚のフン』と当時は見下していたが、現在では竹井自身の成長とプリキュア化で坂本、西沢、若本の三名を従える立場に転じている。奔放な西沢も『じゅんじゅん』(竹井の同期の間での渾名)を怒らせるのは不味い)』と公言し、竹井にだけは従順に従うので、その竹井を更に従えさせられる黒江達の立場がわかるというものだ。

「あいつももう古参だが、お前らが復帰したから、そうなった実感がないんだよ、『前』もそうだったが」

「ま、あいつはウィッチとしては古参だが、プリキュアとしては、2010年代なかばのデビューで『新参者』だ。だから、のぞみが仕事以外じゃタメ口聞いてんだろ」

「あいつは古参なのか?その、プリキュアの」

「三代目かつ、中興の祖だ。だから、プリキュアのコミュニティの『顔役』の御輿に乗せられたんだ。あいつより先輩は今んとこ不在だし、シャーリーは同世代のプリキュアだからタメ口聞いてるけど、後輩になるしな」

黒江が坂本にのぞみが『コミュニティの顔役』という御輿に乗せられたこと、のぞみがプリキュアとしては最古参に近い存在であることを教える。

「書類はお前の執務室に送ったはずだが?」

「スマン、最近は事務処理は宮藤に任せてて…見てない」

「このバカ!書類に目くらい通せ。元戦闘隊長だろうが」

「ガラじゃないんだよ、デスクワークは!」

「坂本先輩、それはいくらなんでも…」

「ぐぬぬ…」

やってきたのぞみにも呆れられる坂本。坂本はデスクワークにとことん向いていない。転生して変わるかと思ったが、却って悪化した節がある。

「お前、駐在武官になる世界もあるってのになぁ…」

「そんなの知らんよ。娘のことがなければ、現役でいたいくらいだぞ」

「先輩、もしかして、ワーカーホリック?」

「娘にそう罵られた事あったよ。だが、私は武士でありたかった。近代軍の兵士ではなく、な。生まれた時代を間違ってたかもな、私は」

坂本は『自分は生まれた時代を間違った』とこの頃から口にしだす。自らを『近代軍の職業軍人と相容れないところを持つ前時代の武士』と考えていたからで、娘との一件がなければ、定年まで前線で働いていただろうと語るあたり、坂本は前線指揮官気質である上にワーカーホリックをこじらせている事そのものが家庭の不和を招いたと後悔してはいるが、根本的にウィッチ覚醒後の青年期になると『ワーカーホリック』を発症するのが坂本の気質らしい。

「お前、明治の頃の滅私奉公じゃねぇぞ」

「仕方がないだろ。なにか動いてないと、却って落ち着かんのだ」

「こりゃ…。重度のワーカーホリックですね…」

「ああ。根本的にワーカーホリックなんだな、こいつ。こいつの親父はどんな愛国教育をしやがった?」

「はは…。こればかりはウチの親父に文句いってくれ。どうにもならんよ」

ここで坂本の気質の問題点が浮き彫りになった。のぞみをして『ワーカーホリック』と言わしめるほどの仕事中毒っぷりの坂本。逆に言えば、父親の『七生奉国、滅私奉公』な明治維新からの初期の数十年間までの愛国教育により、坂本は仕事人間にされたと言える。坂本が同郷の若手ウィッチに人望がない一因は間違いなしに、父親が仕込んだであろう明治の戦役当時までの遺物というべき『七生奉国、滅私奉公』精神を自覚なしに強く見せてしまうからであろう。黒江をして『ワーカーホリック』と言わしめるあたり、それがかなり重度であるのがわかる。黒江はこの時、ようやく坂本のワーカーホリック体質と気質の根源に坂本の実父が強度の愛国教育を施してしまった事があると確信し、新たに変えた容姿である『エリカ・フォンティーヌ』の姿でため息をつき、肩を落とすのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.