外伝その405『ユトランド沖海戦の再来3』


――ブリタニアはイギリスからの情報で大英帝国の夢を半ば諦めたが、リベリオンの分裂でそうもいかなくなったため、日本連邦への軍事援助を主体にし始める。イギリスとの協議で予備役の『ダイヤモンド級戦艦の大半の空母化と余剰艦の売却』を決めた。だが、それらは年度を跨ぐ作業であるため、チャーチルが面子論で新戦艦を発注し、むりやりに三隻を揃えたのも無理はなかった――



――統合参謀本部――

「ブリタニアの空母は増やせそうかね」

「先方は戦艦に傾倒してますので、増勢には五年はいるかと」

「日本連邦は?」

「地球連邦軍の余剰装備を緊急で購入し、訓練の後に本格投入するとのことです」

「日本は外征装備を扶桑に負担させるのか?」

「自分たちの憲法が変えられない以上、扶桑に持たせるしか抜け道がないのです。一種のきっかけにはなりましたが、21世紀序盤の段階では不可能です」

「やれやれ。マックの同位体らが日本を抑えるためだけに作ったに過ぎんものを聖典扱いとは」

チェスター・ニミッツは日本の憲法が硬性憲法であること、日本人の保守的気質を揶揄する。親日家である彼だが、その点だけは信じられないらしい。

「仕方がありません。日本は外征を明治から昭和の初めまでしかしておりませんし、戦後はアメリカのイエスマンになることで居場所を得たも同然。それ故に扶桑の外征気質を批判するのです。だから、陸軍のリストラをしようとしたのです。機械化を名目にして」

山本五十六もそこは呆れているようだ。災害派遣や学園都市がもたらした『旧・極東ロシア』の警備などに扶桑軍を用いることが決められる(21世紀時点の縮小傾向の自衛隊だけでは、極東ロシアの警備の人員を確保不能である)までは軍縮を提案していたほどである日本の島国根性に。過去のトラウマで近衛師団の解体などを提案してくるなど、干渉じみた提案を野党議員や警察関係者が提案してくるのは問題視されており、協議の結果、近衛師団の連隊への縮小と皇宮警察の拡充で手打ちにしている。(その際に危険分子と見做された青年将校などは左遷させられたり、前線送りにされたが)

「我々が独自のルートで未来装備を得ていることで戦艦の廃止は阻止できました。時代遅れの装備と見做し、記念艦にするつもりでしたからな」

「怪異にミサイルは有効でないですからな」

「ええ。それと、戦艦同士の砲撃戦に戦後型艦艇は無力ですからな。当たればイチコロだ」

戦艦同士の砲撃戦に戦後型艦艇が巻き込まれた場合、漫画のように砲弾をミサイルで迎撃する事は非効率的であり、アウトレンジ攻撃で戦闘能力を奪うしか選択肢がない上、高価なミサイルを頑強な船体を持つ戦艦に撃ったとして、大正時代の旧式艦たる陸奥でさえ『装備の破壊はともかく、船体の重要部の装甲そのものは貫けない』。実験結果が生じ、防衛省は海自艦艇に『戦艦には魚雷で対応せよ』という通達を出した。だが、21世紀には魚雷の主用途は対潜用であり、かつてのような水上艦からの対艦用途に用いるには創意工夫を必要とされ、潜水艦以外では『手間がかかる』とされた。砲弾の安価さが注目されたのも、戦艦が維持された政治的理由である。だが、連合国の多くの海軍での対艦戦闘訓練は形式上のものであり、ウィッチ支援のための対空砲弾の砲台目的が主目的化しており、M動乱でノウハウを得た日本連邦と演習で2つの大艦隊を組める余裕があったブリタニア海軍(もしくは史実の経験を持つ艦娘)しか大規模艦隊戦に従事不可能であった。そこも連合国海軍の形骸化が叫ばれる理由であった。

「だからこそ、装甲による直接防御力を持つ我々が矢面に立つのですよ。幸い、自衛隊は支援に徹するとのことなので、日本側の国民感情に配慮する必要もさほどありません」

「かつてのスカパ・フローの悲劇(カールスラント海軍衰退の原因である第一次世界大戦最後の悲劇的戦闘。怪異によって大洋艦隊が壊滅させられた。史実の同地での自沈に相当する出来事)でカールスラントは二度とあの規模の艦隊を持つことが無くなった弊害ですな」

「大洋艦隊が消え失せた代わりがガリアでしたが、あそこも蹂躙された。その更に代打が我々であるのは因縁ですな」

「史実の因果とでもいいましょうか」

「ですな。今では日米英の艦隊決戦に他国は殆ど邪魔者にすぎない。取るに足らないものですよ、ニミッツ提督」

自由リベリオン海軍司令長官になったチェスター・ニミッツ。旗艦は本土から持ち出されたモンタナ級戦艦初期ロットの三番艦『メイン』である。自由リベリオン海軍は存在そのものが象徴的な役目であるため、戦闘任務に従事する事はほぼ想定されていない。だが、一定のリベリオン海軍が連合国側に残った事を政治的に示すことが彼らの役目であった。

「よく持ち出せたものだ、新鋭艦を」

「何、私の前線視察の名目で示し合わせて持って来ただけですよ。できればもう二隻は欲しかったですよ」

自由リベリオンはモンタナ級戦艦『メイン』ともう一隻を入手したが、旗艦とその予備しかないのでは不安があると言うことで、もっぱら司令部代わりに使われている。モンタナ級戦艦は火力では大和型に迫るが、防御力はカタログスペック値で並ぶとされる。だが、アメリカ側が損失を憂慮したこともあり、実戦どころか、海上司令部扱いである。扶桑が51cm砲を配備した事で、自慢の防御力も陳腐化した嫌いがあるためだが、日本からは、扶桑が誇る51cm砲の実用性に疑義が呈されているのも事実だ。(新高速戦艦用に60口径41cm砲の開発が進められるが、大和型の60口径化が失敗したため、50口径砲弾の刷新で妥協された)だが、扶桑の建艦計画が空母と護衛艦中心になり、日本が重要と見做さない戦艦の建造が先送りにされていくため、海軍は既存艦の改装名目でのニューレインボープランを急いでいく。それは色々な要因が絡むのだ。(この時、メインはブリタニアに投錨しての海上司令部代わりにされ、近代化改修が施されていた。そのため、史実の最終時アイオワ級戦艦に近い艦容に変化している。元から艦隊旗艦設備を有した事がプラスに働いたのだ)

「これからはプレ・ヤマトは役に立たなくなる時代ですな」

「ですが、ハイパーヤマトの保有は金がかかる。大規模空母機動部隊の保有と維持は二カ国に限られるでしょうな」

「他国はどうするのでしょう」

「地政学的に必要な国のみが大規模海軍を持つでしょうな。カールスラントはドイツの意向もあって、二度と大洋艦隊の再建はしないでしょうから」

ドイツの意向もあり、二度とかつてのカールスラント大洋艦隊の再建は叶わないという悲観的予測は連合国の間で共有されており、二大海軍の権威たる二人もカールスラント大洋艦隊の復活に関しては悲観的であった。来るべき決戦に備え、日本連邦海軍、キングス・ユニオンの連合艦隊を重点的に近代化させるしか手がないというのが、海軍司令部の一致した見解である。それが後のアルジェリア戦争でガリアと日本連邦の決定的な海軍力の差に繋がり、ガリア海軍はこの百年最大の屈辱を味わったと後年に愚痴るのだ。

「我々は同位体の事を言われ、士官の多くが戦々恐々ですよ。おまけに兵たちは羽目を外せずに窮屈な思いを抱いて、不満が溜まっている。なんとかできませんか」

「新島以外にもリベリオン軍人が出入りできるようになるように働きかけます。日本人は米軍の犯罪で神経過敏になっています。もし、リベリオン軍兵士が日本で犯罪を犯した場合、日本は軍事裁判が無いので、通常の法廷で裁かれる。リベリオンの軍人には日本の国内事情などは理解できんでしょうから、問題になりかねない。ある程度は自由がなければ、我が軍にしても、兵士たちの風紀が乱れる」

日本はリベリオン軍や扶桑軍人の休日の過ごし方についても注文をつけた。軍人の犯罪を抑止するためという大義名分があったが、羽目を外しにくくなった兵士から抗議が出る始末であった。兵の不満は反乱の芽になり得るため、軍司令官や提督らから要請が生じ、日本は仕方がないため、扶桑に要請を出し、南洋新島の開発を更に進め、あらゆる娯楽を充実させる事で妥協されたという。また、米軍の申し出で日本の米軍施設の娯楽施設などの使用権が与えられ、とりあえず、問題は解決に向かったという。(南洋島の一部都市の歓楽街で特定のエリア内ならリベリオン通貨で遊べる様にもなったという。)







――この頃、青年のび太は自分が本来はギャグ漫画の登場人物である事は自覚していた。大人になると、シリアス寄りになったものの、ギャグ属性は依然として強く表れ、歴代のプリキュア達の友人兼保護者の顔を覗かせていた。彼は宇宙科学研究所からダブルスペイザーを借りて、戦闘に参加した。ドラえもんのひみつ道具の大半は射程が短い廉価な『護身グッズ』だからだ。保護者としての顔はフェリーチェ/ことはには顕著に見せ、精神年齢が上がっている状態の変身であるフェリーチェの状態でも、のび太の言うことは素直に言うことを聞くので、かなりの信頼を置かれている様子は誰の目にも明らかであった――





――ネメシスの士官食堂――

「のび太君、みらいちゃんが愚痴ってたよ?20年近くも時間があったからって、はーちゃんがフェリーチェの状態でも、のび太君の前じゃかわいい振る舞いするって」

「仕方がないさ。僕が11歳くらいからの長い時間を一緒に過ごしたからね。みらいちゃん達の思いや日々を守るための気持ちがプリキュアでいられた原動力だって、僕に言ってたしね」

のび太は青年期以降は年齢相応に食うようで、大きいハンバーグを完食している。のぞみも草薙流古武術を会得しつつあり、戦闘での消費カロリーが倍増したためか、現役時代が霞むほどの食いっぷりである。

「でも、今度は海だよ?ヒーロー達の支援は殆ど受けられないんじゃ?」

「飛行メカ持ちのヒーローも多いし、仮面ライダーXはバイクで海渡れるし、スカイライダーやZXは空中戦が出来る。そんなに心配する事はないよ」

「嘘ぉ……」

「君たちは通常形態だと魔力を使わないと飛べないだろ?今回は現状の最強形態で戦うべきだね。激戦だし、戦艦の対空砲火を潜り抜ける必要もあるからね」

「VT信管ついてたら、通常形態じゃ突破出来ないところだよ。この前の海戦じゃ、戦艦の装甲が固くて苦労したんだよ?」

「そりゃ、戦艦の装備品じゃなくて、砲塔を壊そうとするからさ。装備品を壊して無力化させるんだよ。戦艦以外なら、武器を壊せるかもしれないけど、デモイン級以上の装甲厚のはやめた方がいい。砲塔潰すのも骨だよ」

「スーパー状態でも駄目だったからなぁ。戦艦の砲塔の正面装甲。天蓋はへしゃげられるんだけど…」

プリキュアとしての素のスペックでは、アイオワ級戦艦の主砲塔の正面防盾は流石に376mmもの重装甲で守られていたため、正面からは最強形態でも破壊できず、天蓋ならば落下速度も加味しての攻撃でへしゃげられる程度の破壊力しか発揮できない。だが、対艦攻撃手段を殆ど持たないこの頃の制空ウィッチに比べれば破格の攻撃力である。

「普通の制空ウィッチよりは強力だよ。陰陽師による対魔術処理が施された戦艦の装甲はウィッチの圧縮されたシールドでの突撃も弾くし、陰陽師や霊能力者を動員されて、霊的防御を張られたら、ウィッチに為す術はないからね」

通常ウィッチは陰陽師や霊能力者を動員しての対魔術処理が施されたモノへの攻撃力を持たない。通常兵器には逸れる可能性が上がる程度の効果だが、たいていのウィッチの魔力程度の攻撃は効果を失わせる効果がある。(後に、それはティターンズ側の陰陽師や霊能力者らが神獣鏡に施されていた魔術処理をデッドコピーしたものという事が判明する)そのため、神獣鏡のシンフォギアのように『聖遺物由来の力、あるいはウィッチの攻撃を一定範囲で無効化する』(ただし、高位の聖剣や神剣、神槍などの宝具の効果はかき消せない。例えるなら、アロンダイトの特性の無効化やエクスカリバーの無効化はキャパオーバーであるので不可能であるが、オリジナルが下位の宝具である故の限界でもある。)効果があり、基礎魔力が乏しい者の烈風斬程度は容易く防ぐ。

「烈風斬でも?」

「陰陽師が中国から得た神獣鏡に施されていた魔術処理を陰陽術でデッドコピーして施した魔除けだからね。標準的な魔力のウィッチの烈風斬程度じゃ無力化するよ」

烈風斬。扶桑皇国のウィッチが魔力と引き換えに放つ禁忌の奥義であり、多くの場合の坂本はそれに手を染め、ウィッチとしての寿命を戦える時間と引き換えに、自分で縮めた。もちろん、この世界でも烈風斬は禁忌であるので、それ以外の奥義が発達した。黒江たちが転生を繰り返すことで手に入れてきた数々の『闘技』もその一種と見做されていた事があるが、現在ではウィッチ由来でない新たな境地として公表されている。プリキュアもその一つである。

「なんで、あたしたちに嫉妬するのが出るんだろう。現役時代の頃、あたしたちの力は希望だったのに」

「光あれば闇あり、さ。烈風斬は伝承によれば、全魔力を引き換えにして放つ最後の一撃を指すけど、基本世界の坂本少佐みたいに、烈風斬を乱発してれば、魔力枯渇が早まるのは当然さ。最後の切り札なんだから、本来は。」

「何時頃からあるんだろう、烈風斬」

「武士が台頭した時代から伝わるものらしい。坂本少佐がどの文献を読んだかはわからないけど、本当はアニメみたいに撃っていい技じゃないそうだよ」

「それが扶桑のウィッチの奥義として曲解された?」

「おそらくは近代軍隊が出来るあたりで伝承が意図的に歪められたんだろうね。ドラえもんが言ってたよ。坂本少佐ほどの人が僅かな戦う時間と引き換えに選ぶにしては、ね。シャマル先生に調べてもらったんだけど、彼女はこう言ってた。烈風斬、調べてみたらなんですか?アレ!使用者のリンカーコアプレス機にかけて搾り尽くした魔力で攻撃力を生む様なとんでもない術式じゃないですか!あんなの使うのは自殺志願者だけですよ!?って、口から唾飛ばす勢いだったよ」

「シャマル先生、言うなぁ。坂本先輩って基本世界に近づくほど、武士道かぶれだからなぁ」

のぞみも坂本が武士道かぶれなことにはコメントし難いらしい。当の坂本は『小学校もまともに卒業しないで入隊したから仕方ないだろ!お前らと違って、私はつぶしが効かないんだ』と返しているが、かなり気にしているらしい。

「ま、本人もそこは気にしてるから、子供生む前に通信制高校行くそうな。兵学校出てるから、日本じゃ短大卒扱いになるけどね」

「短大、か。それはそうと…」

「それについてだけど、一つの仮説がある。君たちの力は今や、現役時代のレインボージュエルとプリズムフラワーからは独立してるから、現役時代みたいに外的要因で力が減衰することはない。つまり、最高の力を永続的に奮えることなんだ。ウィッチは18をすぎると減衰が始まって、20になると、戦闘に供する事がたいていはできなくなる。どんなに絶頂期は魔力が強くても、ね。芳佳ちゃんの一族みたいな特異体質以外はそうなるから、君達は余計に嫉妬されるのさ。それと、僕に対する誹謗中傷は馬耳東風だよ」

「なら、いいんだけど…」

「ま、全ては作戦が終わってからだよ。あの子への善後策を実行するにしても、時間がないとね」

――のび太くんは違うなぁ。私なんかよりすっごく、修羅場潜ってきたからかなぁ?――

少年期から多くの修羅場を潜り抜けてきたのび太。一人の青年がこころなしか大きく見える事に不思議な感覚を覚えるのぞみ。

「君達は邪と戦う事を宿命づけられて転生した。その宿命と向き合うんだ、のぞみちゃん。ココとの約束、みんなの笑顔。それを守りたかったから、戦えたはずだ。今回は非難ばかり受けるかも知れないし、これから先、思いも寄らない事が起きるかも知れない。はーちゃんが家族を失ったように。だけど、君には力がある。戦うための『力』が。言うなれば、誰かを守るための『牙』を与えられた。君の力は君が思っている以上に偉大なる代物なんだ。だけど、君はキュアドリームである以前に、夢原のぞみという一人の女の子として生まれた。聞くよ。君の力は何のためにあるんだい?」

のび太の不意打ち気味なまでの重い問いかけ。のぞみは死を乗り越えたことで、自分の持っていた力の意義を再認識した。問いかけに答える。プリキュアであった存在として。

「私は最初はココを守りたい、悪いやつはゆるさないって気持ちだけでプリキュアになったの。だけど、みんなと一緒に戦って、先輩や後輩とも出会えた事で、自分が本当に守りたかったものを見つけられた。だけど、私は大人になって、社会に出て働く内に自分が何を守りたいのかって事を忘れちゃった。上の娘が成人した後、私を嫌うようになった時にそれに気づいた…。私は…。みんなの笑顔と夢を守るために生まれた。錦ちゃんからもらった、この命、もう一度与えられたこの力はその為にある。私はそう思う。

「……ふぅ。僕の杞憂のようだね」

「もうひとついい?思い出したことがあるの……。自分の子供と向き合えなかった事……あの子の無情……りんちゃんの無念……、そして……老いた自分の無力……ッ。もう二度と忘れない……忘れられない…」

「なるほどね」

「たとえ、あの子を殺すことになったとしても私は戦う。それが責任のとり方だと思う」

優しく微笑むのび太。のぞみは前世で失われた原初の思いを貫きたい、誰かの笑顔を守りたいために錦が遺したものを受け継いだ。のび太はことはがそうであったように、かつてへの日々への郷愁の感情が爆発する事で、守ることが出来ない無力な自分を責める事を危惧していた。そこで念のために、戦う理由を真剣に問いただしたのだ。のぞみは自分の老いの進行のせいで長女のダークプリキュア化を止められなかった事を何よりも悔いていた事から、絶頂期の頃の力を取り戻す事を望んだ。そして、それを成した。たとえ前世での実子の一人を倒すことになったとしても、自分の一族からダークプリキュアを出した責任を取る事を明言した。

「こんな事、つぼみちゃんが聞いたら、止めるだろうけど、私なりの責任のとり方ってのがあるから」

のぞみはダークプリキュア化した長子を自らの手で倒し、自分なりの責任を取るつもりだが、かつての月影ゆりとダークプリキュアの経緯を知る花咲つぼみが聞けば、自分を止めるだろうとものび太に言った。のぞみは世代的に昭和以前のヒーローたちが持っていた気質を受け継いだ最後の世代である故に、世代が離れた後輩らと相容れない点が存在するのは事実だ。その気質がマイナスになり、図らずもキュアエール/野乃はなとの約束という呪縛に囚われた面は存在する。(この経緯があるため、キュアエール/野乃はなはキュアマーチ/緑川なおには快く思われていない)

「君は昭和以前のヒーロー気質を持っていた最後の世代のようだね」

「ダークドリームの事があるから、和解できればいいけどさ、倒さないといけない時は倒すよ。これ、世代の違う後輩には理解されないんだよね」

「第三期になると、浄化がメインだしね、君たちは。実際はニュータイプに覚醒しても、人は争い、殺し合うってのが種族的宿命だし、全て和解できるのなら、第二次世界大戦やベトナム戦争、一年戦争は起きてないし、ハマーン・カーンがシャア・アズナブルと対立する事もなかったさ」

のび太はその点ではシビアである。自身、倒さなくては世界が救われない敵はきっちり倒している経験(牛魔王、大魔王デマオン、ギラーミンなど)から、青年時代以降の信念と哲学を垣間見せる。


「シャア・アズナブルはかつて、地球は人間のエゴを全ては飲み込めはしないって言った。彼であろうと、自分の勝手な考えで地球を滅ぼす権利はないし、いくら彼がジオン・ダイクンの後継者だろうと、言ってることはアースノイドの存在否定でしかない。君たちはいずれ、ジオンとも戦うことになるから、スペースノイドの過激派がどんなものか勉強しといたほうがいい。ジオンのした事を考えればね」

「のび太くんはジオンを?」

「やった事がやった事だからね。エレズムなんて地球聖地論はスペースノイドの第一世代と第二世代が持つ自慰的発想からだしね」


のび太は地球連邦政府の実現自体が地球の理想とされていた時代の人間である。そのため、ジオンの行った事を言語道断としている。23世紀にもなると、宇宙大航海時代の到来でジオンの存在意義は薄れており、かつてほどの支持は得られなくなりつつあった。また、のび太らの登場で在りし日のザビ家の内情が白日の下にさらされたこともあり、主に生前のキシリア・ザビの行為の数々はジオンの支持層の離反を招く結果を生んだ。(残党軍が派閥抗争を継続し、内輪揉めで離散、集合を繰り返した遠因ともされたため)シャア・アズナブルも第二次ネオ・ジオン戦争の敗戦で自身のカリスマ性に陰りが見え始めており、『ジオンの終焉』を意識し始めている。それを危惧する層がさらなるネオ・ジオン戦争を求め、元ジオン兵士の経歴を持つアナーキスト『タウ・リン』に接近するが、アナーキストに転向していた彼はネオ・ジオンを利用する形で自身の計画の捨て駒とする事を考えつく。ジオンの終焉の重大な伏線はダイ・アナザー・デイの時点で張られていたと言える。

「みんなー、来てくれ。重大な事だから」

のび太はその場にいたピンクチームのメンバーとことはを集合させ、一枚のMSの写真を提示する。

「のび太くん、これは?」

「クイン・マンサの後継機『グラン・ジオング』さ。ネオ・ジオングと違うラインで製造されたアンチνガンダムさ」

「アンチ?」

「フィン・ファンネルを封じるために、残されたデータから再現されたアンチ・ファンネルシステムを積んだのさ。νガンダムにサザビーが負けたからって積んだシステムだよ」

グラン・ジオング。クイン・マンサの後継の一つで、NZ-555の型式番号を持つ。ネオ・ジオングと別ラインで製造されたワンオフの大型機であるが、MSである。パーフェクトジオングとサイコ・ガンダムの流れを汲む正統後継機といえる。

「これは本来、ネオ・ジオングの代替機として用意されていたプランさ。最も、25m以上の体躯な上、ネオ・ジオンの技術レベルが古いからね。ハリボテに近いよ」

技術レベルは『一昔前』と揶揄されるグラン・ジオング。基礎設計がハマーン戦争時代のもので、それに小手先の改良を加えただけだからだ。当時の連邦は第三期MSの模索期(その思想はマンマシーンとして昇華されるため、マンマシーンの開発の方向性はマルチロールファイター化であると言える)であるため、些か開発思想では遅れを取り始めていた。連邦は飛行能力の付与で真なる汎用性の実現と、さらなる行動範囲の拡大を実現出来るとし、その実現がマンマシーンであり、連邦発の用語である。ジオンはこの頃にはシャア・アズナブル用の乗機候補として、第五世代MS『ゾーリン・ソール』を確保し、シャア・アズナブルに回すつもりだったが、本来はオミクロン・ガンダムとして開発途上であった試作機であった都合上、ガンダムフェイスを持つために旧ジオンからシャアに付き従うジオン系エンジニアには不評であった。(シャア個人が百式でいい思い出がないため、フェイスデザインとしてのツインアイが好みで無くなったせいもある。だが、ジオンの事務方としては『ガンダムが抵抗のシンボルとも解釈される時代だぞ。大佐はわがままだ』という心情から、同機はツインアイのデザインのままで納入されたという)そのため、シャアは第四世代機であるナイチンゲールを愛用し続ける。第五世代機の大きさを嫌ったというのが言い訳だが、ナイチンゲールも25mを超える体躯なので、説得力に欠けたという。

「シャア・アズナブルはナイチンゲールを使うだろうね。なにせ、一年戦争から付き従ってきたエンジニアの集大成だものな」

「シャア・アズナブルはエンジニアは自分で選んでたの?」

「フラナガン機関で戦闘向けニュータイプとしては落第の烙印を押されたニュータイプのエンジニアらしい。実験の影響で老化が遅くなってるから、軍でしか食っていけないとかで」

シャアはそのエンジニアをかわいがった。一年戦争当時に12歳で、そこから容姿があまり老化しないため、この頃には20代後半だが、10代後半の容姿を保つ。あのララアが可愛がり、シャアが親代わりだったため、ララアを奪ったアムロを倒すのに労力を費やしている。だが、幸か不幸か、シャアの戦士としての才覚はアムロ・レイに完全には及ばなくなり、彼女が心血を注いだサザビーがアムロ・レイが急ごしらえで用意したνガンダムにあっさりと倒されるなど、踏んだり蹴ったりである。

「シャア・アズナブルってもしかして…」

「公然の秘密だよ、それは。」

「シャアは一年戦争のトラウマと、立場上、重火力を志向しないとならない制約がある。それに、ジオン軍は一年戦争の俺とガンダムの組み合わせにトラウマがあるんだ。それでフラッグシップは重火力に転じた。キュベレイとハマーンがジュドーとダブルゼータに破れたのを、火力差と誤解したようだしな」

「アムロ少佐」

「話に入れさせてもらうよ。俺は汎用性を選んだが、奴は組織の長だ。犠牲にするところは大きいさ」

アムロはRX-78に各ガンダムタイプの平均能力値を加え、機能的アップデートをμガンダムに加える形でνガンダムを完成させた。格闘用汎用機としてのRX-178の後継かつ、初代の新技術でのフラッシュアップを目指していたμを通過点とし、そこにサイコミュシステムを加えたのがνガンダムなので、短期決戦型のサザビーとは相性がいい。そのνガンダムの後継機がハイνであるので、ハイνガンダムは格闘用汎用型MSとしてのガンダムの究極であり、容易にマンマシーンへの改修も出来た。ユニット化されているため、融合炉のマンマシーン規格の高性能型への換装、24世紀以降のアビオニクスへの換装も容易であり、そこも汎用部品よりも専用部品の多いナイチンゲールとの差である。

「話、長くなりそうですね、少佐?」

「ああ、念のために、シャアと俺の関係についても知らせておこうと思ってね。アニメと違って、俺とシャアの関係は腐れ縁も入り交じるものだからね」

アムロはそう断りを入れつつ、ハンバーグの置かれた皿をテーブルに置く。のび太とプリキュア・ピンクチームは丁度いい機会という事でアムロの話を聞くことにし、この日のお昼休みをそれに費やす事になったという。アムロはプリキュアチームが自分をアニメという形で知ることを聞かされていたため、食事にかこつける形で話の輪に入った。地球連邦軍の英雄という肩書とは別に、ヒロイックな立場で歴史を動かした点にアムロは苦笑いだが、子供達に話を聞かせる語り部の役目を嫌っていないあたり、ベルトーチカと良い家庭が築ける証かもしれない。そこもアムロの成長であり、恋人のベルトーチカがアムロにもたらしたアムロにとっての心の光であった。



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