外伝その443『綱渡り7』


――扶桑皇国は工廠の大半を地下化していった。日本側が工廠の閉鎖を要求したのだが、連合軍からの要請で、工廠の維持が決まったからである。地上施設の多くはダミーも兼ね、生活必需品や小銃などの構造が簡単な武器の製造に切り替えられ始め、航空機・戦車などの重要兵器は地下部で製造されるようになっていった。ダイ・アナザー・デイの時点で、扶桑本土の都市のジオフロント化も始められ、ドラえもんの秘密道具を全面的に用いたとはいえ、数年でかなりの規模の地下都市が完成するに至る。また、最高軍事機密である『宇宙戦艦』や『人型機動兵器』の製造施設を隠すにも好都合であったのもあり、地下化はつつがなく進んだ。地球連邦軍の兵器の補充用などが最初の稼働目的であったが、地球連邦軍が空挺部隊などの高性能機を投入したため、損耗率は低く、思った程の稼働とはなっていない――




――1945年。佳境を迎えつつあったダイ・アナザー・デイ。リベリオン本国はM26、M36などの新兵器を投入。連合軍の側面を突いた。当時、ろくな戦車がない連合軍の二線級部隊は蹂躙されてしまった。視察に来ていたパットン将軍はM4(初期型)が蹂躙されていく様を目の当たりにし、自身も榴弾の爆風で、座乗していたジープが横転。危うく死にかけた。そこへやってきた救世主が、M1戦車を基幹とする米陸軍の軍事顧問団であった。米陸軍の軍事顧問団は10両ほどのM1戦車を前面に押し出し、パットンを回収しつつ、M26、M36を撹乱し、戦場を立ち去った。パットンはこの時に『戦車の性能差』を実感したわけだ――



「将軍、危ないところでしたな」

「敵の戦車はなんなのだ?」

「M26。この時代では重戦車ですな。90ミリ砲を持つので、M4程度では足止めがせいぜいでしょう。ましてや、貴方方は物量作戦は取れませんからな」

「耳の痛い話だ」

「早急に、M47、もしくはM48を用意するのが最善でしょうな。M4では、今後は役に立ちません。火力はどうにかしても、防御は根本的に改良は困難ですから」

連合軍はカールスラントの部隊が退いた影響もあり、機甲装備の不足が顕著になり、M4中戦車さえも在庫が減ってきた有様であった。イージエイト仕様となった新規生産分も出回りつつあるが、焼け石に水であった。

「カールスラントの装備も、ケーニッヒやパンターなどの新型以外はM26には役に立たないでしょうな」

「何故だ?」

「打倒タイガーが目標の車両ですから。M26は熟練した将兵が扱えば、タイガーとマークフォーの二両を同時に相手取っても、生還できます」

M26は足回りが弱体であるが、すぐにM46仕様となることは容易に想像されている。実戦試験名目で投入したのだろうが、ティーガーTさえも数が少ない連合陸軍にとっては、ものすごい難敵である。

「日本連邦は新式の装輪戦車を投入し、フソウに新型MBTを造らせていますが、これも数が足りません。ブリタニアの新式戦車が重要な鍵を握ります」

「ブリタニアだと?」

「ええ。センチュリオン重巡航戦車。それがM26を倒し得る手段となりましょう」

当時のブリタニアにあった重巡航戦車という分類だが、センチュリオンが歩兵戦車と巡航戦車の双方の利点を併せ持ちつつ、高火力を誇る故のカテゴナイズであった。相棒のモントゴメリーはセンチュリオンの配備を急かしていたりする。パットンはこの後、モントゴメリーに問い合わせたところ、『訓練中の段階だが、扶桑に数百両を供与したよ』と回答されたという。


――64Fが綱渡り作戦を実行するタイミングでの連合軍機甲部隊は機材保有数の減少に喘いでおり、各国装備のごった煮状態を呈していた。新砲塔チハなどの旧式車両も数合わせで投入する有様で、自衛隊、英米軍の同情を誘った。また、ロマーニャ軍のP40戦車も少数が使用されており、日本連邦と米英軍の兵站関係者を悩ませている。M26やM36戦車駆逐車が使われだした以上、新砲塔チハやP40戦車は『トーチカにしたほうが使い道がある』のだ。(とはいえ、P40はロマーニャ陸軍の最新最強の戦車ではあったが――








――カールスラント軍で前線に残っている将官の一人であるロンメルは『ドイツ連邦が自分を疎んじている』事を甘んじて受け入れており、前線に骨を埋める決意であった。ミーナの飛行資格停止などの処分は彼の名義で発令されている。ウィッチ世界では『王室への忠誠は薄いが、新進気鋭の将軍』で名が通っているため、史実とは違った人物像を持つ(王室に過剰に入れ込むのを嫌うという点では史実に近く、カールスラント優越主義を自慢気に話す子息を『私の前で、そういう馬鹿げた事を話すな!!』と叱責している)。彼は64Fが設立される出来事の当事者でもあったため、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの『無知』に本気で呆れ返った一人である。ミーナは戦時任官であったが、腹心が坂本美緒だった上、黒江たちと予てから交友のあったバルクホルン、エーリカを部下として抱えていた環境なので、『知っているはず』とたかをくくった。だが、それがある意味での『罠』であった。冷遇を知らされたロンメルは自身の顔に泥を塗られたも同然の状況に青くなり、査問では全体的に厳しく追及した。本当に扶桑とカールスラントの外交問題に発展しかけていたからでもある。パットンも腹に据えかねていたところがあったので、半分は本当に怒っていた。坂本も圭子の命で、『かばいだてすることはしなかった』ため、ミーナは査問の途中からは平静を装えなくなり、取り乱すばかりであった。――

――作戦の直前――


「ロンメル、あの時は随分とねちっこく責めたそうだな?」

「私の性分ではないが、君等の事を慮った『陛下』がお怒りになられているという噂は届いていたし、アイクも憂慮していた。君等は『好きにさせた』ほうが成果が挙がるという事を、モンティもやっと学んだ。64を復活させたのは、私達の詫びだと思ってくれ」

ロンメルは時代相応に喫煙をしながら、圭子に詫びる。圭子は容姿を変えているので、とても『軍の将校』には見えない。

「記憶の封印期とかの時に、人の心の闇は充分に見てきたつもりだ。あたしは綾香と智子みてぇに、ガキっぽいところは殆ど残っちゃいねぇ。あいつらと違って、あたしはもう『見てる』からな……」

「何をだ、ケイ」

「エンペラーをだ」

「エンペラー?」

「ゲッターエンペラー。究極のゲッターロボだ」

「究極のゲッターだと?」

「ああ」

圭子は転生直前はゲッター艦隊にいた。それをここで明言し、ゲッターエンペラーの存在に触れる。

「ゲッターエンペラーはゲッタードラゴンが真、聖と進化を重ねていって、そこで真ゲッターロボと融合進化したゲッターだ」

「何のために、そこまで?」

「将来的に立ち塞がる敵と戦うためさ。人は内輪もめしてる場合じゃなくなる。不死身になったんだなら、のび太やゴルゴを倒せっていう阿呆どもがインターネットにいるようだがな。この物語は対決ものじゃないんだ、バトルものと言っても、戦争ものみたいなもんだ」

「メタ発言だな」

「ドラえもんやのび太と友達してれば、メタ発言くらい、普通にするようになるさ。それに……普通に考えて、倒せるわきゃないだろ。ゴルゴは物語のデウス・エクス・マキナのようなもんで、のび太とドラえもんはギャグ漫画の人間だ。バトルものとは相性が悪い。Dr.スランプとドラゴンボールの作者だって、アラレちゃんが普通に、ブウ編の後でも強いってしてるだろ。戦線にカタがつきゃ、演習を公開するが、それは外野を満足させるための何物でもねぇよ」

思いっきりのメタ発言である。実際、ゴルゴと互角、あるいは一分野でも上回るとされる人間の多くがゴルゴに敗れ去り、コンピュータも計算を狂わされて破壊されてきたし、ドラえもんとのび太は(ドラえもんはコンピュータに故障をきたすことが数度あったが)危機から五体満足で帰還している。そんなめぐり合わせの者に戦闘で『勝つ』事は不可能であると断言する。

「それに、考えてみろ。あたしらは元々、物語に幅を持たせるための『脇役』だぞ。それが多少の主役補正を手に入れたところで、根っからの主役(ドラえもん、のび太ら)には及ばねぇだろ?」

「えらくサバサバしたな?」

「大人の世界を見てくればな」

圭子は自分が脇役という『自覚』があるようで、ロンメルに告白する。ゲッター艦隊にいたためか、達観している節もある。圭子は傍から見れば『無鉄砲なガンクレイジー』だが、悟りを開いていると思われる側面も併せ持つというのが明確になる。

「それに、ラ=グースや時天空なんて、スケールじゃ測れない敵が遠い未来に控えてんだ。内輪もめが定期的に起こるのは、人がそこに至るまでのステップさ。ジオンも、ティターンズも、反統合同盟もな」

「彼らは神の手のひらで踊る道化か……」

「そういうことだ。統合戦争で裏切ったアメリカもな」

アメリカ合衆国は統合戦争の最終盤で日本と手切りをし、日本と戦争を行った。しかし、ひみつ道具時代の名残りが残る日本に敗れ去り、以後は零落した。アメリカ合衆国は経済的にはアナハイム・エレクトロニクスなどの存在で地位を保ったが、軍事的には衰退した状態で地球連邦体制に取り込まれた。それら敗者を道化とした。大日本帝国とナチスドイツもそうであるように。

「人は何が存在意義なのだ」

「互いに喰い合い、滅ぼし合うことで生き残ったものが強く進化していくこと、兵器を使い、宇宙を消滅させる機械のバケモノを生むこと。その具現化がゲッターエンペラーだよ。エンペラーにも『真』や『聖』の領域があるだろうから、あたしが見たエンペラーは『子供』の段階だろうな」

「想像もつかんな……」

ゲッターの目的は、神に都合のいい兵器となる生命の育成。ゲッタードラゴンの進化体にして、機械仕掛けの神。機械のボディで空間支配を目指すには、最低でも太陽系を内包する質量が必要?という推測がゲッターエンペラー内部で行われていたという証言もあり、ゲッターエンペラーの体躯の巨大化は空間支配能力の獲得のためであると、圭子は結論づけている。

「一度は敗北した側は這い上がれたのか?」

「日本やドイツ、アメリカ、ロシアは敗北から立ち上がってきたさ。イギリスくらいだよ、未来でも勝ち馬に乗り続けたのは」

地球連邦に至るまでの地域国家の時代を通し、近代戦で敗北していないのは英国のみとなったらしい事を圭子はいう。日本は太平洋戦争で、ドイツは二度の大戦で敗北している。アメリカ合衆国さえ、ベトナム戦争と統合戦争で敗北している。

「ブリタニアはどこでも狡猾だな」

「失地王の頃の経験で学んだんだろうよ」

「それにしても、かの世界が軍縮から軍拡に転換したのはなぜだ?」

「宇宙人が本当に攻めてきたからさ。ジオンの自治権放棄がつつがなく、当初の予定通りに行われ、ザンスカールが蜂起しなけりゃ、安全保障のために、必要最低限の装備を持つ組織が地球連邦軍に取って代わる手筈だったそうだ」

ガミラス帝国がヤマトに倒され、ゼントラーディと和平を結んた直後は『プリベンター』が地球連邦軍に代わって、当座の国家的な安全保障を担う手筈だった。だが、ザンスカール帝国がここぞとばかりに蜂起し、ガトランティスの襲来、ジオン残党の留めない蜂起が地球連邦の人々の意識を変え、ヤマトの戦闘班長(当時。艦長代理を兼任)の古代進がズォーダー大帝へ『違うっ!!断じて違う!!宇宙は母なのだ。そこで生まれた生命は……全て平等でなければならない!それが宇宙の真理であり、宇宙の愛だ!!お前は間違っている!それでは、宇宙の自由と平和を消してしまうものなのだ!俺たちは戦う!!!断固として戦う!!』と、満身創痍のヤマトから啖呵を切ったことで、地球連邦の人々は徹底抗戦を選び、ガトランティスとの生存競争を戦い抜いた。23世紀時点の地球上の軍施設の多くはガトランティス戦役以後に整備されたものである。リリーナ・ピースクラフト大統領(当時)は『和平など不可能な存在』がある事を認め、ヤマトの独断をその場で容認した。(なお、終戦処理後にガトランティス戦役の軍の人的被害の責任を取る形で辞任。その後にドーリアン性へ戻り、外務官僚に転じた)

「それがプリベンターか」

「軍が存続したんで、彼らの機動兵器の保有枠は大幅に減らされたがな。彼らもガトランティスの時は泣いたそうだ。不活性化した工廠をフル稼働に戻すための修復とかの費用は彼ら持ちだったそうだから。それに、宇宙怪獣が他の銀河にもいる可能性が大になったのも、当時の政権に引導を渡したそうだ。もっとも、政権の幕引きは彼女自身で行ったそうだが」

「そうか、あのうら若い外務次官が……その時の」

「若かったのと、北欧の平和主義の小国の王家の生き残りだってんで、政策の過ちは赦された。10代の半ばの女の子に、周りの連中の愚行の責任まで問うのは酷な事からな」

リリーナ・ピースクラフトは大統領辞任後は『ドーリアン』性に戻り、外務次官として活躍している。義父の職であった外務官僚の身分を継ぎ、外務官僚としてはすこぶる有能である。しかし、政治家としては理想主義すぎたというのが世間的な評価である。とはいえ、現実問題化した侵略に対し、軍の解体を凍結し、戦時体制に移行させたり、アンドロメダの増産を決議したといった『的確な対応』を即座に実行したという功績もあり、義父の教育の成果でもあった。

「彼女は政治家としての運がなかったのさ。ジオン残党やガトランティスがいなければ、恒久和平の実現も成し得ただろうさ」

リリーナ・ピースクラフト(ドーリアン)も『世界は、思うようにはいかない事だらけである』事を戦時の中で学び、そんな中でも『ピースクラフト』の名での役目を一度は果たし、情勢が変わっても『ドーリアン』として地球連邦の外務に尽力しているため、政治家としては『悲運の女王』との評価がなされている。ただし、軍部の一部からは『無人兵器を非人道兵器とする』決定で根に持たれており、(軍の慢性的な人手不足の元凶として)暗殺されそうになったりするが、ヒイロ・ユイが身辺を守っているため、暗殺者の魔の手から逃れている。

「彼女は出自、その生い立ち、凛とした姿で常に世論を動かしてきた。ロンド・ベルとその傘下のウチが好きにできるのは、彼女が後ろ盾になってるからだ」

「北欧の王家の出身か……ビスト財団も手を出せんはずだ」

「マーサ・カーバイン・ビストは手を下そうとしたそうだ。だが、ヒイロ・ユイが身辺警護をしてたり、旧オズの構成員たちがガードしてるから、ビスト財団といえども諦めるしかなかったそうだ。噂によると、旧ティターンズの部隊を私兵にして襲わせたが、ウイングゼロに一機残らず狩られたって話だ」

「なるほど。そのプリベンターは何をしている?」

「今はティターンズ派の資金の流れを追っているそうだ。残党に機材や資金まで渡ってるのは明らかにおかしいからな」

圭子はそこまで言って、喉の薬(タバコタイプ)を服用する。プリベンターはアナザーガンダムを有するが、この時点では、ティターンズ残党の掃討と不満分子の摘発に用いられているとも述べ、ティターンズ残党はグリプス戦役終結後の混乱に乗じ、かなりの規模の部隊が反連邦組織化し、ウィッチ世界に転移した方面軍は戦乱の温床となっている。

「ティターンズの表向きの存在意義はジオン残党狩りだが、戦後には多くがジオンに与してるんだから、世話ねぇぜ」

ティターンズ残党はジオンに利用され、切り捨てられる立場にあったが、地球連邦への復讐のために、ジオンに与している。もはや、ジャミトフ・ハイマンの思想など霧散している。正規軍に取り込まれたエゥーゴとカラバを笑えない状況だ。

「ティターンズは何を考えている?」

「過去の政治勢力も利用して、物質文明を極めたとされる、アメリカ合衆国相当の国家の勃興を防ぐことだろうな。宇宙移民時代、アメリカ式の大量生産・大量消費文化は害悪らしいからな」


スペースコロニーの住民はひみつ道具時代を含めての『物質文明が隆盛を極めた』時代を害悪と断じているとされるが、実際は国家コロニーを中心に、過去の風俗を再現することは好ましく扱われているので、『サイド3出身者の妬み』とされる。ネオ・ジオン残党はコロニーや月面都市の生命維持管理装置の技術革新で『連邦の圧政の象徴』としていた『空気税』の廃止が決まったことで、ジオニズムへの求心力が薄れるのを恐れており、ジオニズムの求心力が失われることへの焦りが、ヌーベル・エゥーゴに彼らが利用されてしまう要因となる。ジオン共和国は連邦傘下での存続を模索していたが、ネオ・ジオン残党のテロ行為の責任を取る形での自治権放棄をせざるを得なくなる。そして、サイドごとの移民船化という形に帰結していく。

「これからどうなる」

「目の前の敵を撃退して、太平洋戦争までの時間を稼ぐ事が急務だよ。日本の妨害があるだろうから、もう施設は稼働させた」

――圭子の言う通り、扶桑は地下秘密工廠をダイ・アナザー・デイの段階で稼働させていた。海戦に参加している超甲巡の多くはその中の無人ドックで建造されている。ただし、船体装甲が集中防御な上に、デモインより数値が劣るではないか!!予算の無駄だ!!』と難癖をつけられたため、結局、排水量の増加を許容してまで、戦艦と言っていいほどの重防御が与えられた。日本側がアイオワ級戦艦との遭遇を異常に恐れていた故だが、実際に量産されたのは中速重防御のモンタナ級であった。また、デモインがカタログスペックほどの脅威ではなかった事もあり、超甲巡は『最強の巡洋艦』となった――

「そうか、短期間に戦艦や装甲艦を揃えられたからくりはそれか」

「ゼントラーディ製の自動工場とドラえもんの工作系ひみつ道具を組み合わせての自動工場さ。内部とかの細かい艤装は人がやるが、主砲とかの大まかな部品の添え付けは自動でできる」

「乗員はどうしてる」

「自動化で必要人員は減ったから、旧式戦艦の乗員を回した。金剛型一隻分で、新式の二隻分以上になるからな」

護衛艦の必要人数は数百人程度。だが、ダメコンや交代要員の必要から、戦艦の乗員は必然的に人数は多くなる。とはいえ、23世紀以降の技術の導入で遥かに少なくなったため、軍事予算の削減を迫られている扶桑には福音であった。それが扶桑が主力艦を一年の間に更新していった理由の一つであった。





――その最たる例の超甲巡は敵主力艦との交戦は想定されていなかったが、日本の圧力で計画に横槍が入りそうであったため、結局、既存艦にも装甲の強化が施されていく他、後部艦橋とマストのデザインが大和型戦艦と同一のものに変えられた。単艦性能の強化がこうして強引に押し進められていったため、連合海軍の中での艦艇の性能差が図らずも拡大することになった。戦後のイージス艦にしても、戦艦のような『耐弾防御』はないのに、人命軽視と言われてはたまったものではないというのは、扶桑海軍艦政本部の言い分だ。また、集中防御を艦艇喪失の原因だと断じられるという混乱もあり、結局、扶桑艦艇(新型)は宇宙戦艦方式での全体防御で統一されることになり、多くがクラスの割に異常な耐久力を持つに至る。しかし、それは戦後型海軍艦艇の脆弱性を強調してしまうことにも繋がるという諸刃の剣であった。海自の護衛艦はミサイルなどで被害を未然に防いできたがが、この日。あるリベリオンのウィッチが死を覚悟で、護衛艦の対空砲火をくぐり抜け、800kg爆弾ごと、護衛艦に突っ込んだのである。ウィッチによる特攻を敵も行ったのである。800kgという大型の爆弾であったが、乗員の必死のダメージ・コントロール、当たりどころが良かったことなどの要因で、その護衛艦は沈没を免れた。だが、かなりの修理が必要な損害には違いないため、作戦直前に黒江は胃にダメージを負うことになった。当然、死傷者は出ているからだ。――





――黒江の執務室――

「なに、敵に特攻された!?損害は?」

「ハッ。沈没は免れましたが、かなりの損害を被ったと」

「敵はウィッチなのか?」

「ハッ。乗員から証言は取れていますし、映像も」

「80番でも持ち出したな……。沈没していたら、乗員はマスコミのいい餌食にされるからな、不幸中の幸いか…」

顔を曇らせる黒江。海自から初の死傷者が出てしまったのだから、当然である。ウィッチ世界で戦死したので、殉職者は扶桑の礼式で葬られた後に二階級特進になるが、日本のマスコミが『戦闘での自衛隊の死傷者はどう扱うべきか』とセンセーショナルな記事を書き立てるのは容易に想像がつくため、綱渡り作戦の終了まで発表を控えることにした。また、その艦の乗員に『しかるべき時までの箝口令』を引き、情報漏洩の防止に務める事を、Gフォースでの副官に指令する。

「死傷者の数は?」

「幸いなことに、特攻の際に命中した箇所の近くにいた海曹の数名のみだそうです。うち、一人は打ちどころが悪く…」

「そうか。扶桑の統合参謀本部に通達しろ。遺族に不自由が起きぬよう、扶桑側の福利厚生制度を使って、その海曹たちを丁重に『送ってやれ』」

「ハッ…」

殉職者の遺族への補償については、扶桑側のほうが『戦死者がどの身分からも生ずる』関係で充実しており、その制度が適応された場合、かなりの定期収入が見込まれた。自衛隊は皮肉なことに、殉職者への手向けと言えるような公的な制度は二階級特進以外にない。過去の重大事件の殉職者に(遺族にとって)満足な金額の保証金を出せずに問題になった例すらある。それを自衛官としての任官間もない頃に聞いていた黒江は、その殉職者の『Gフォースとしての派遣』という事実を使う形で、扶桑軍の福利厚生制度を当てはめ、作戦終了後に扶桑軍側が発表することにしたのだ。作戦行動中に死傷者が出るのは当たり前だが、戦後の日本人の多くは『戦死』に強い拒否反応を示すため、扶桑軍も自衛隊も、作戦中は死傷者の公表を控えている。政治家と世論の鶴の一声で、現場幹部の首が軽く飛ぶのが、戦後日本流の『シビリアンコントロール』だからだ。今回のように『ウィッチに防空システムを掻い潜られた』事例は見張り担当の自衛官みならず、他の部署も責任を問われかねない。敵が巧みだっただけの不可抗力だったとしても。これがウィッチ世界での護衛艦運用に衝撃を与えた事件の始まりであった。運の悪い事は続くもので、次の日には、別の護衛艦霧から抜け出たところを、近距離で遭遇したアイオワ級戦艦に両用砲を雨あられと撃ち込まれ、魚雷で一矢報いたものの、自身はズタボロになった(奇跡的に死傷者0)という事例も報告される。このように、自衛隊から死傷者が生じ始めたのを鑑みた連合軍上層部は『綱渡り作戦』を立案したのである。




――かくして、その日はやってきた。基地の駐機場にはコスモタイガーが並べられ、尾翼に描かれる、64Fの新エンブレム『炎の鬣の一角獣』もお披露目される――

「作戦要員は速やかに搭乗せよ……繰り返す…」

基地のアナウンスが鳴り響き、要員がコスモタイガーに乗り込む。プリキュア達は変身した上で乗り込んでいく。

「のび太。本当にいいのか?本当なら……」

「なーに。自分の関わった戦いを、危険だからといって、他人に金を渡して、リングの外からながめてるほど卑怯じゃないさ」

「でも、お前には戦う必要なんてなかったんだぞ…?本当なら、その姿なら……カミさんやせがれと一緒に生きて、幸せを味わえる身分だったはずだ。なんでだ…?」

「……カミさんやせがれと生きて……幸せに死ぬために…ここにいるのさ…」

のび太はキュアメロディに変身しているシャーリーにそう返した。ニヒリズムに溢れているが、のび太は成人後には、ニヒリズムに溢れた言い回しを好むようになった。成人後の整った顔立ち、変声でイケメンボイスになったことなどもあり、なぜかカッコいいのだ。また、のび太のヘルメットのマークは何かの偽装も兼ねてか、黒十字になっている。

「それと、善人を気取っておきながら、外野でとかくうるさく言うだけで、何もしない連中より、僕たちのほうがよっぽど慈悲深いと思うよ。やらない善よりも、偽善だろうが、やったほうが遥かにマシさ」

のび太はその一言を言い終えると同時に、コスモタイガーのエンジンに火を入れる。

「のび太君……どうして、あたしをメンバーに入れたの?」

「君には素質があるからね。それと、シャーリーさんの本来の相方が不在な以上、誰かがついてないとさ」

「ええ。リズムに申し訳ないですからね、貴方がボコボコにされてしまうと」

「ちっくしょう。現役時代はピーチの相方した事あるってのに……。腕っぷしには自信あるんだぞ、今でもぉ…〜」

すごく不満げなキュアメロディだが、フェリーチェに軽く流されてしまい、調子が狂う。とはいえ、前世より以前の縁がのぞみとはあった事を思い出したため、のぞみ(キュアドリーム)と組むことに不満はない。

「響、なんかゴメン。あたしの面倒を見るみたいな形になっちゃって」

「現役時代、お前とはつるむ機会があまりなかったかんなー…。呼び捨ては慣れねぇ。だけど、サーフボードに乗ってる兵器があった『あの世界』からの腐れ縁だからな…。それに、りんからの頼みでもある」

「りんちゃんの…?」

「あいつ、お前のことを心配してっからな」

キュアメロディは『北条響』として、キュアドリームに思いを伝える。ドリームも『夢原のぞみ』として返事する。のぞみは現役時代の頃、友人は『ちゃん』づけで呼ぶ事が多く、呼び捨ては、うららや美々野くるみ(ミルキィローズ)など限られたケースしかなかった。だが、転生を経た後には、シャーリーが北条響としての態度を取る時は『響』と呼び捨てにしている。素体になった中島錦とも、シャーリーは面識があったのと、のぞみと錦の意識が高次元で融合した影響によるものだと思われる。

「さぁ、征こう」

ドラえもんの号令一下、一同は順に発進。運搬を担当する主力戦艦改級戦闘空母及び、護衛部隊が配属されたアンドロメダ級『ネメシス』の元へ飛行する。作戦の最終目標は『地上空母の拿捕、及び無力化』。ここに『綱渡り』は始まったのである。



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