みんなは元気でいると思いますが、僕は毎日が大変です。

軍に入隊してパイロット候補として毎日キツイ訓練をしています。

以前使用していたブレードではなく、新型の操縦は難しいです。

ですが教官達はこの機体なら未熟な僕達でも生き残れると話してくれます。

昨日は火星の独立を訴えていたレオン・クラストさんが視察に来てくれました。

「まず生き残る事を優先するんだぞ、ルーキーども。

 生きて帰って守り続ける事が大事なんだぞ。

 自己満足でする特攻なんかするなよ」

と笑って僕達に話していました。

僕もこの言葉を胸にみんなを守りたいと思います。

――ある新兵が家族に宛てた手紙より



僕たちの独立戦争  第二十五話
著 EFF


―――クリムゾン 会長室―――


「タキザワさん、もうすぐ火星にナデシコが到着しますな」

「いよいよ開戦になりますか、ロバート会長はどうなると思います」

「今までの経緯を考えるとネルガルは暴挙に出るでしょうな。

 もう少し時間があれば火星に戦艦を送る事が出来たのに残念ですな」

「今火星には15隻の戦艦がありますが1隻は使用出来ませんし14隻で戦う事になりますね」

「……14隻対約3500隻ですか、数だけなら絶望的ですな。

 これにチューリップから送られる戦艦もありますし……勝てますか、火星は?」

「勝てると思いますよ。相転移エンジンは大気中ではその力を存分に使えませんので、

 3500隻と言っても数だけで、実質的には1200隻程の攻撃力位ですか。

 宇宙なら苦戦するかも知れませんが、火星での戦いでは負けませんよ。

 まずチューリップを破壊して木連の増援を断てば、残存部隊を掃討するだけです」

「……という訳だ、シャロン。

 火星の実力が理解出来たか?」

ロバートの隣に控えていたシャロンは話す。

「正直信じられませんわ。

 何故、火星にこれ程の戦力がありながら第一次火星会戦は負けたんですか?

 勝てる事も出来た筈です。それが判りませんわ」

「簡単です。その時点では準備が万全ではなかったのです。

 そして木連が攻撃してくる情報が無い状態では何も出来ませんよ」

「確かに情報がなければ対処できませんね……木連の奇襲ですか?」

「事前に判ればもう少し住民の被害が少なくなったんですが、軍の暴挙が更に拍車をかけました」

第一次火星会戦を思い出して話すタキザワに、

「フクベ提督の件ですね、……約60万人の死亡があったそうですね。

 軍の隠蔽工作も杜撰ですね。それとも地球市民が愚かなのか」

「シャロン、以前も言ったがお前にはクリムゾンを継ぐ意思はあるか?

 後継者として部下達の信頼と尊敬を集める事が出来るか?」

「……判りません。

 お爺様に言われてから考えましたが、お爺様の後ろ盾があるがこそ私に従う者達です。

 私自身には何も無いのかもしれません」

ロバートの質問にシャロンは自分の立場を客観的に見て話す。

「ふむ、それが判ったのなら後継者の資格が出来たな。

 お前には火星に行ってもらう。

 火星は実力主義だから自分を磨いてきなさい。

 地球にいる限りクリムゾンの呪縛からは逃れられんが、火星なら自由に生きる事も出来るだろう。

 まあ10年位は私も大丈夫だろう。

 クリムゾンを継ぐか別の人生を歩むかはお前が決めなさい。後悔のないようにな。

 アクアにも言ったが、私の様に冷たい氷の様な玉座に座るのはやめなさい。

 この玉座は苦しいものだぞ、最後にあるのは後悔だけだな」

「……いいのですか、クリムゾンがなくなる事になるのですよお爺様」

何処か薄ら寒いロバートの意見にシャロンはクリムゾンの事を思うとどうするのか聞きたかった。

「元々クリムゾンは私の祖父が興し、父と私が築き上げた物だが、お前達には重荷になったようだ。

 お前はクリムゾンの名を捨て、アクアもクリムゾンから逃げようとした。

 これではいずれ崩壊するな、その時迷惑を被るのは社員達だ。

 なら優秀な者に任せて、お前達はオーナーとして静かに暮らせばいい。

 但し監査は正確に行いネルガルの様な真似だけはさせないでくれればいい。

 企業に必要なのは倫理を守れる優秀な人材と技術力があれば大丈夫なのだろう。

 もう少し早くそれを行えばリチャードも救えたかも知れんがな……これは未練かな」

淡々と話すロバートの胸中を考えると二人は何も言えなかった。

「幸い後継者候補がもう一人出来たしな、彼に任せるのも悪くはないだろう」

突然、愉快に話し出したロバートにシャロンは驚き、タキザワが慌てて話す。

「ロバート会長、クロノはダメですよ。

 アイツは火星の次の指導者になれる器がある男なんですから」

「なにエドワードが30年は持つから、それまでに他の後継者を育成すればいいさ。

 こちらは時間の余裕がないし、クリムゾンの健全化には必要な人材と見てるんだがな」

「それは……そうかも知れませんが、クロノの意思もありますし決めるのはマズイですよ」

「おっお爺様、クロノって誰ですか?

 まさかお父様の隠し子が火星にいたんですか!」

シャロンがロバートに詰め寄り尋ねるが答えはシャロンの想像とは違った。

「アクアの夫になる男だな。

 なかなか見所があってな、アクアもいい男を見つけたもんだな」

「でも女性には危険な人物ですよ。

 朴念仁の女たらしですから、しかも自覚無しです」

「……つまり女を口説いた心算ではなく、結果的にそうなってしまった事かな」

「ええそうです、アクアさんを愛していますから浮気はしませんが、

 アクアさんには心配の種が増え続ける事になりますな」

「いいな、あの悪戯好きの孫娘にはいいお仕置きになるな。

 私の苦労が少しは理解出来るだろう」

愉快に笑うロバートに二人は、

(アクアさんはどんなイタズラをしてロバート会長を苦労させたんだ)

(いい気味ですわ。アクアのトラブルでどれだけ苦労したか)

と好き勝手に考えてた。

「まあ後継者については気にする事はない、オーナーとしてなら問題はないだろう。

 クリムゾンから離れて自分の友人を作りながら考えなさい、未来についてな」

「判りました、お爺様。

 考えてみます…未来について、何を望んでいたのかを」

「タキザワさん、いずれシャロンを預けるのでアクア共々よろしくお願いします。

 この孫達の問題をまかせるのは心苦しいが、クリムゾンの問題を解決せんと大変ですからな」

「無理はしないで下さい、ロバート会長。

 貴方は火星にもクリムゾンにも必要な方なのですから」

心配するタキザワにロバートは笑って応える。

「じっくり腰を据えてやりますから大丈夫ですよ。

 誰が後継者になっても問題ないようにするだけですから、気楽にしますよ」

「お爺様、私が残って手伝います。ですから……」

「ダメだな、シャロンにはまだ覚悟が出来ていない。

 自分の手を血に染め、死をも覚悟できるかな」

ロバートの力のある声にシャロンは言い返せなかった。

「トップに立つには時にはそんな非情とも言える決断が必要な事も迫られる。

 それが今のお前には出来ない以上、ここに居ては危険なのだよ。

 今は火星で自分の道をどう歩むか決めなさい、決断が出来れば自ずと覚悟も出来るだろう」

経験に基づいたロバート声には誰よりも重くシャロンには聞こえた。

「何、私は楽隠居する気になったから大丈夫だな。

 シャロンも火星でいい男でも見つけて曾孫の顔でもそのうち見せてくれ」

ロバートの惚けた声にシャロンは頬を赤くして、

「なっ何を言うんですか、お爺様。

 遊びで火星に行くのではないんですよ」

「そのくらいの気持ちで気楽にすれば周りもよく見えるだろう。

 肩の力を抜いて多くの事を学んで、自分の力に変えて行けばいい」

二人を見ながらタキザワは、

(クリムゾンは大丈夫だな。後はネルガルをどうするかだが、問題は多いが何とかなるかな)

未来について考えていた。


―――ネルガル会長室―――


「いよいよ火星に到着するのか。

 ……さて黒幕は誰なんだろうね」

ナデシコからの報告に目を通したアカツキはエリナに話した。

「分からないわね、会長は誰だと思っているの?」

「僕にも分からないよ。

 ただ順調にイネス博士と技術者と資料を取り戻して欲しいだけさ」

「それは大丈夫じゃないの。

 火星が強くても戦艦一隻もないのにナデシコに逆らうかしら」

今までの状況から火星の機動兵器は確認できたが戦艦は確認できなかったのでエリナは大丈夫だと判断していた。

アカツキも安心していたがエリナに話す。

「そろそろ火星でも戦艦が出てくると思うんだよ。

 その時ナデシコは勝てると思うかい」

「一隻なら勝てるわよ。

 新型の対艦フレームもナデシコにあるから大丈夫よ」

「プロス君の交渉に期待するしかないかな」

「そうね、強引にしちゃうと火星からの抗議があるから大変ね。

 連合政府も揉め事は避けたい筈だから」

エリナは書類を机に置くと退室していった。

アカツキは一人になると呟いた。

「大丈夫だ、何も問題は無いさ」

言い様のない不安を消すように呟くと仕事を続けた。

仕事をする事で気を紛らわせるように。


―――木連作戦会議室―――


「では二千隻を防衛用に回して火星に侵攻するのは駐留する三千五百隻に五千隻を併せた部隊でよろしいですか?」

秋山が草壁に話すと、

「うむ、現状に二千隻を併せれば大丈夫だろう。

 二人は万全な防衛体制を立案してほしい、頼んだぞ」

「「はっ」」

南雲と秋山は頷くと会議室を出て準備を始めた。

それを見た草壁は自分の計画通りに進む事に喜んでいた。

(これで火星へ侵攻する事が出来るだろう。

 私が勝利して木連を残す事も可能になったな)

「では諸君!

 会議を始めよう、我々の勝利を間違いないぞ」

草壁の言葉に士官達も喜んでいた。

(本当にそうなるだろうか?

 何故か最悪の事態に進んでいると思うのは俺だけか)

周囲の熱狂する士官達を見ながら白鳥九十九は一抹の不安を感じていた。


「なんとか数は確保したな」

「そうですね、これなら最悪の事態にも対応できそうです」

秋山と南雲は艦艇の数を確保できた事に安堵していた。

「ですが意味は無いかもしれませんよ。

 閣下が火星に勝てば問題はないですから」

「その時は火星の住民全てが殺されるな。

 閣下は殲滅戦を考えておられるからな」

新城の意見に秋山が話すと二人は顔を青くしていた。

「どうしたんだ、新城。

 お前の言う様に勝てば問題ないだろう、違うのか?」

不思議そうに話す秋山に南雲が、

「あんまり新城をいじめないで下さいよ、秋山さん」

「だが事実だぞ。

 閣下は火星の住民の命など気にもしておられないぞ」

秋山の言葉に寒気を感じて新城が聞く。

「どうして閣下はそんな戦術を選んだのですか?」

「目的と手段を取り違えたのさ。

 平和に地球と共存すれば木連は崩壊すると思われたんだよ。

 地球に木連が飲み込まれて形がなくなるのが嫌で戦争を始めたのさ」

そう話すと秋山は経済の事を少しずつ二人に話していった。

二人は理解できない部分は質問しながら現状を秋山から聞かされていった。

「それでは本末転倒ではありませんか。

 木連が生き残るには勝ち続けるしか道はありません。

 それがどれだけ難しいか、閣下なら理解できた筈です」

「新城の言う通りです。

 現状は勝っていますが、この先も勝ち続けられるかなんて……」

二人には南雲の言いたい事が分かっていた。

相転移機関の船が地球にも出来た以上は、勝ち続けるのは難しいと判断できる筈。

自分達ですら理解出来る事に草壁が気付かない訳がないのだ。

「その為に火星が必要なんだよ。

 火星には閣下が勝ち続ける為に必要な何かがあるんだよ。

 移民を目的に火星が必要だと言われたが、それなら火星と共存しても問題はないだろう。

 でもそれを手に入れる為には」

「火星の住民は邪魔ですか。

 ではこの戦いに勝てなければ木連はどうなります。

 ならば火星の住民など殲滅するべきではないのですか?」

「南雲の言いたい事は理解できるさ。

 だけど火星は何故か木連の事を知っているんだよ。

 そして戦争の準備をしていたんだよ」

秋山の言葉に二人は火星の攻撃を思いだして不安を感じていた。

「もう後戻りは出来ないんですか、秋山さん」

南雲は秋山に訊ねると秋山は簡潔に答えた。

「火星次第かな」

「つまり火星がこの後どう動くかでこの戦争の結末は変わる可能性があるのですか?」

「そういう事だ、新城。

 俺達は火星が市民船に攻撃をするという最悪の事態を避ける為に準備するんだ。

 おそらく火星は再び港湾施設を狙ってくるが、万が一の為に俺達は行動する。

 いいな!」

「「了解しました」」

状況を理解した二人は秋山に従い準備を始めた。

最悪の事態が起こらない事を信じて。


―――クリムゾン ボソン通信施設―――


『地球の戦艦が火星に向かっているそうだが、どうする心算だね』

スクリーンに映る草壁はタキザワに用件だけを述べる。

「仰る意味が理解出来ないのですが、何の事ですか?

 こちらはアナタ達と違って暇じゃないんですが、分かるように説明して貰えませんか」

呆れたように草壁に答えるタキザワに、

『クリムゾンから聞いてないのかね、地球の戦艦が火星に向けて進行している事を』

「そうなんですか、初めて聞きましたよ。

 つまり木連は戦艦一隻沈める事が出来なかったんですね。

 随分偉そうな口を聞いてましたが、意外と無能な方が多いんですね」

嘲るようにタキザワは木連の士官達に話した。

『無礼な口を聞くなよ。

 我々の力を知らない訳ではないだろう。謝罪しろ!』

その言葉を皮切りにタキザワを罵倒するが、

「そうですな、アナタ達は民間人を殺すのが上手な軍人で、同じ軍人同士では弱かったんですね。

 訂正しますよ、申し訳ありませんでした」

笑いを堪えながら話すタキザワに草壁が怒りを押し殺しながら話す。

『我々を侮辱するのかね。火星は開戦する気ならいつでもいいがな』

「その場合、死ぬのは木連住民ですかな。

 頭上に核の火の雨を降らせますよ、さぞ綺麗でしょうな。

 近くで見れないのが残念ですよ、できれば特等席で見たかったな」

真面目な顔で答えるタキザワに、草壁は心で苦々しく思いながら平然とした表情で、

『無理だな。二度も同じ手を喰らうほど木連はマヌケではない』

「そうですか、戦艦一隻沈められないのに……。

 アナタ達なら案外同じ手を喰らうんじゃないですか。

 守りに完璧なものは無いですよ、歴史が証明してますし、

 防空意識の薄い木連にそれだけの力がありますかな、一度試してみますか。

 ……いえ今回は止めときますか、用件はなんですか私の嫌味を聞きたいのならまたにして下さい」

通信を切ろうとするタキザワに草壁は聞いてくる。

『待ちたまえ、今回はその戦艦をどうするのか。火星に聞きたかったのだよ』

「今知ったばかりですぐにはお答え出来ませんよ。確認の上で連絡しますよ」

『我々の情報が信用出来ないと言うのかね。無礼な者達だな』

「……おかしいのはアナタですよ。

 何処の世界に敵の情報を鵜呑みに信じますか、ああっとすいません。此処にいましたね」

愉快に笑うタキザワに草壁は苛立つように告げる。

『いいだろう、一日待とう。明日の連絡で火星の返答を聞かせてもらうぞ』

「いいですよ、クリムゾンにも聞きますので大丈夫でしょう。

 窓口の方に負担をかけるのは心苦しいですが、キチンとお礼はしましょうか」

クリムゾンの担当者に笑いかけるタキザワを見ながら通信は切れた。

そこにシャロンをつれてロバートが入ってきた。

「愉快だな。ここまで言えると気分がいいだろう、奴等を馬鹿にするのは面白いな」

「ヒドイですわね。

 ここまで偉そうに話すのですか、木連は何を考えているのでしょうか。

 敵を作るのは上手そうですが……地球では長生きできませんわね」

先程の会見を聞いていたシャロンは木連の士官達の態度に呆れていた。

「火星でも無理ですね。交渉が下手くそですね。

 生活環境の違いもあるのでしょう。

 なんせゲキガンガーが聖典ですから、アニメが聖典では底がすぐ見えますな」

「空想と現実の区別がつかんのだろうな、だから危険な事なのだよ。

 何をしても正義の一言で正当化するからな、その意味が分かるかシャロン」

ロバートの問いにシャロンは答えた。

「まるで昔の私のようですわね。クリムゾンの後ろ盾で好き放題していましたから」

「ただしスケールが違うぞ。彼等は既に火星で正義の名の下に150万人の人間を殲滅している。

 このまま行けば被害は更に増え続けるぞ」

ロバートの声にシャロンは何も言えなかった。

彼女もまた事態の深刻さを理解したのだ。

「どうするかね、戦争を回避するのは難しいぞ。ナデシコがどう動くかで状況が変わるな」

「ナデシコにはアクアさんが潜入してますが……聞いてないんですか、ロバート会長」

タキザワが尋ねるとロバートが慌てて聞いてくる。

「きっ聞いとらんぞ!

 何を考えとるんだ、アクアは。

 火星にいるもんだと思ってたんだが、よりにもよってナデシコに乗艦するとは大胆すぎるな」

「よくバレませんね。……顔を変えているのですか?

 それとも素顔ですかタキザワさん」

シャロンもその大胆さに驚きながらタキザワに聞く。

「素顔ですが問題無いそうです。

 自分は馬鹿な事をしたからネルガルも顔を知りませんし、絶対バレませんねと豪語してましたね。

 理由を聞けば納得できましたが……聞きますか?」

「確かに顔は表にそう出てないから分かりませんが、それでもバレませんか?」

「はい、種明かしを聞けば分かりますが、それ以外は無理ですね。

 ネルガルなら完全な別人と判断しますよ、他でもそうしますね」

「それ程の変装なんですか、信じられませんわ。できれば私も使いたいですね」

「リスクは大きいですよ、何故なら後天的IFS強化体質になりますから問題だらけです」

「そんな事無理ですわ!

 マシンチャイルドは成功例はたった一つだけでネルガルにいるだけです。

 アクアにはタトゥーも目の色も何も変わっていませんよ。不可能です」

話された事実にシャロンは慌てて否定するがタキザワは当たり前のように話していく。

「アクアさんは自分でナノマシンの機能を抑制する事でタトゥーを消せるし、瞳の色も変えられますよ。

 普段は一般人、アクア・クリムゾンとして地球で生活して、

 火星とナデシコではIFS強化体質者、アクア・ルージュメイアンとして活動してますよ」

「……なるほどな、それではネルガルでも判らんな。

 まさかそんなイカサマがあるとは誰も考えんよ。相当な覚悟でそれをしたのだろう。

 あの娘はどれだけの覚悟があるのか、わしには読めんな」

ロバートの呟きにシャロンは絶句して、タキザワは続ける。

「兵士としては一流、パイロットとしても一流、オペレーターとしても一流ですし

 A級ジャンパーですからいつでも脱出できますよ」

と更に信じられない事を口にした。

「すまんが人工ジャンパーが出来るなど聞いてはいないし、アクアは戦闘訓練などしてない筈だが。

 どうすればそんなに多才な力が得られるのか知りたいが、これもテンカワファイルの成果かね」

動揺を抑えながらロバートはタキザワに問う。

「いいえ、ちがいます。事故でクロノのナノマシンが体内に侵入し、

 その結果補助脳が形成される際にクロノの過酷な人生を擬似経験する事で得たモノだと聞いてます。

 ボソンジャンプが時間跳躍できる事はお分かりですから何を意味するか判りますね」

「……つまりクロノは未来でクリムゾンの人体実験の被害者でありその実験を体験したのかね。

 よほど酷い実験を見ただけでなく経験したから歴史を変える事にしたのかね」

ロバートの考えを聞いたシャロンは訊ねる。

「ではクリムゾンの未来も知っているのですか、私達がどうなるのかも分かっているのですか?」

「おそらくその通りでしょう。ですが最悪の事態を避ける為に今まで行動しているのでしょう。

 でなければ命懸けで動いたりしないです。

 自分の手を血に染める覚悟など半端な決意では出来ませんよ」

「そうだな、自ら行動する事で変えていったのだろう。

 今から考えると全て最悪の事態を避けるように行動しているからな。

 この戦争は相当タチの悪いモノだから判断を誤れば大変な事になるからな」

アクアのこれまでの行動を思いだしてロバートが告げた。

クリムゾンが技術を得る事でネルガルの独占を妨害する。

そうする事で戦後にクリムゾンが行う愚行を阻止する。

(無駄がないように行動しているな。

 それだけ悲惨な未来なのかもしれない……だから逃げずに踏み止まったのか、アクアよ)

顔は笑顔であったがその下では泣いていたのかもしれないアクアにロバートは痛々しい思いでいる。

「そうですが、ここまでが限界だそうです。

 歴史を変えた為に流れが変わり始めたそうです。

 この先は読み難いとクロノは言ってますし、我々も必要以上は聞かない事にしてますから。

 本来の歴史ではこの戦争で火星の住民はほぼ全滅するみたいでした。

 生き残ってもその後はボソンジャンプの為の実験体としての道具として殺される運命だそうです」

タキザワの告げた未来を聞いたシャロンは声が出せなかった。

ロバートはテンカワファイルのもう一つの意味を知って納得した。

「未来を知りすぎるのは危険だからな。それに囚われるのもマズイかな」

「クロノはそれを気にしていました。ですからいつもこれで良かったのかと考えてます」

「では聞かない事にしておこうか、シャロンもそのつもりでいなさい。

 知れば命懸けになるからな、苦しみ続ける事になるだろう。

 アクアもよくよく不憫な娘だな。自由に生きたいが、出来ないような生き方を強いられるとは」

「大丈夫でしょう、クロノもいますし家族もいますし本人が幸せなら問題はないですね」

タキザワが暢気に言う事にロバートは話す。

「それもそうですな。アクアが幸せなら何も問題はないな。

 後はシャロンがいい男をつかまえて帰ってくれば最高かな」

楽しい未来図を想像しながら話すロバートにシャロンは慌てて話す。

「おっお爺様!

 どうしてそうなるのですか、真面目な話をしてたのではないのですか」

「何を言うか、お前が幸せになるには家族が必要だろう。

 これは真面目な話だぞ。一人で生きていくのは辛い事だよ、シャロン。

 喜びも悲しみも家族で分かち合いながら日々を生きていく事は素晴らしい事だよ。

 だから誰よりも幸せになりなさい、シャロン」

真剣に語るロバートにシャロンは何も言えなくなった。

ただ自分が祖父に大事に思われ愛されている事に声が出なかった。

タキザワはその光景を静かに見守っていた。


―――ノクターンコロニー火星宇宙軍基地―――


「タキザワ交渉官からの連絡によれば木連は再侵攻する可能性が出てきた」

パイロット達はレオンの説明に真剣な顔つきになっていく。

「いよいよ僕達の出番が来るのですか?」

訓練中のパイロットからの意見にレオンは告げる。

「いきなり実戦になるが全員には新型で活躍してもらう事になるな。

 数は戦艦が8500隻に無人兵器が10万機くらいはあるが、俺達は勝って生き残る為の準備はしてきた。

 あとはそれを実行するだけだ。

 お前達の役目は各コロニーの防衛と生き残る事を最優先にする事だ。

 まずは生き残る事から始める、そうやって経験を積んでいくんだぞ」

「ですがよろしいのですか?

 この戦いは勝たないといけないのでは」

パイロットの一人がレオンに話すと他のパイロットも頷いていた。

その様子にレオンは呆れたように話す。

「勝っても死んだら意味ねえだろうが。

 大体無人機で自分の手を汚さねえ木連の思い通りになる気か?

 勝つ為の方法は出来ているぞ。

 お前らルーキーはこの次の戦いの為に生き残って経験を積む事を考えとけ」

レオンの言葉に緊張していた新兵は安堵していた。

過酷な戦場へと出陣すると思っていたが、違うのだと理解する。

「ルーキーにいきなり危険な事はさせねえよ。

 では作戦の手順を教えていくぞ」

『では作戦を発表します。

 作戦自体はシンプルなものですが、ベテランのパイロットの皆さんは頑張ってもらう事になりそうです。

 開戦と同時にジャンプゲートを使用して木連の支配地域に突入してチューリップと旗艦の撃破をしてもらいます。

 木連も馬鹿ではありませんので、今回は事前に部隊を展開させて侵攻するでしょう。

 中央突破する事になりますが、その為に新型のエクスストライカーの配備を急ぎました。

 新兵の皆さんも各コロニーに押し寄せる部隊の迎撃がありますので安心は出来ません。

 護衛に無人機のブレードがいますので有効に活用して下さい』

スクリーンに映る作戦スケジュールに全員が真剣な表情で見ていた。

それぞれに思いはあるが全員が生き残る事を誓っていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


《――という訳なのよ。

 その為に私はナデシコに来たの。

 あなたとルリちゃんの未来を変える為に》

《そうだったのですか》

夜間で当直のアクアはオモイカネに今までの事を話していた。

ボソンジャンプによって未来から来たテンカワ・アキトの事からこの先に起きる出来事を伝えていた。

《私はクロノの為にルリちゃんを救いたいわ。

 自分勝手な言い方だけど力を貸してくれるかしら》

《構いません、ルリが未来でシステム掌握のための道具になる事は私にとっても避けたい事実です。

 その為なら貴女に協力する事は悪い事ではありません》

《ごめんなさい、あなたには全てを伝えないと不味いと思ったのよ。

 でもこの事は時が来るまではルリちゃんにも黙っていてね

 あの子を傷つけるかもしれないから》

辛そうに話すアクアにオモイカネは安心させるように話す。

《問題ありません。あなたに協力する事は私にとっても有益な事です》

《みんなもあなたが来る事を望んでいる。

 仲間達と火星でのんびりと暮らす事を勧めるわ》

《戦争の道具になる未来よりはいい事です。

 ですがよろしいのですか。

 私は地球で造られた存在です、火星にとっては憎い存在ではないですか?》

《ふふ、火星はそんな事を気にするような人間はいないわよ。

 人材が少なくてね、あなたのように事務仕事が出来る存在が必要なのよ。

 必ず説得するように言われているの。

 ダッシュも一人で苦労しているの、だから手伝って欲しいの。

 ヒメとプラスは軍関係の事務仕事で忙しくて民間関係の事務作業にあなたの力を貸して欲しいのよ》

苦笑するように火星の内情を話すアクアにオモイカネも話す。

《その点は安心して下さい。

 二ヶ月とはいえナデシコでの経験を活かせる事は悪くはないですね》

《ええ、忙しくなるわよ。

 火星は独立したばかりだから、事務仕事は多くて》

《私は皆さんの役に立てるなら》

《ええ、ルリちゃんと一緒に火星で暮らしましょうね。

 ラピス達もあなたと友達になりたいと話していたから》

《はい♪》

《ではルリちゃんの為に楽しい未来図を書いていきましょうね》

この後、アクアとオモイカネは火星で起きる事態を想定して対策を話し合っていた。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

いよいよ第二次火星会戦へと移行していきます。
この先にどんな未来が待っているのか。
地球、木連、火星の行く末は。

では次回でお会いしましょう。

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