告げられた事実に少年は驚き

告げた女性はその事に苦しむ

真実を知る事の怖さを知り

逃げるのか立ち向かうのか

それは自分で選択しなければならない

流される事は何もしていない事になるだろう

そのツケは大きく痛みを伴うだろう



僕たちの独立戦争  第二十六話
著 EFF


火星まであと数日に迫ったある日アクアは食堂が閉店直前に顔を出した。

「アキトさん、とても大事なお話があるので少し時間を頂けませんか。

 出来ればホウメイさんも立ち会って欲しいんです。

 誰か冷静に判断できる人がいて欲しいんです」

「俺はいいですよ。アクアさんが言うからには重要な事なんですよね」

「アタシもいいよ、明日の仕込が終わってからでもいいかな」

「はい、私も手伝いますよ。今日はこの後の予定はありませんから」

三人は厨房で作業を開始したが、ホウメイがアクアを見て話していく。

「前から思っていたけどいい腕だね、プロになれるよ。

 誰に習ったんだい、基本がキチンと出来てるね」

その言葉にアクアは泣きそうになっていた。

アクアの料理の腕はクロノ=アキトのものだからだ。

ある意味ホウメイから教わったもので、それはアキトが料理人として立派に通用するという事だからだ。

アキトの未来を奪った事にアクアは未だ立ち直った訳ではないのだ。

「……ある事件でナノマシンを移植した時、記憶の一部をクロノから貰ったんです。

 知られたくない事も知ってしまいましたけど、笑って許してくれるんですよ。

 私のせいなのに何も文句も言わずにただ優しく苦笑するんです」

苦しそうに話すアクアにホウメイは、

「……悪い事聞いたね。だけどそのクロノって奴が赦してくれるんだ、気にしない事だね。

 気にしちゃクロノを傷つけるよ」

「そうですね……でもいつも重いものを背負わされるんですよ。

 どうしてあの人ばかりなんでしょうか、どうして……」

泣きだすアクアにアキトは何も言えず、ホウメイは落ち着かせるように話す。

「なら一緒に背負ってやんな、側にずっといればいいさ。

 世界の全てが敵になってもアンタだけは味方になってやんな。

 それがアンタの役目だね」

「はい、側でクロノを守りますよ。ホウメイさん」

そう告げると三人は静かに作業を続けた。

しばらくして三人はテーブルに座り、アクアがアキトに語った。

「まずアキトさんのご両親の事からお話しますが、最後まで落ち着いて聞いてください」

「アッアクアさん、親父達の事を知っているんですか?

 どういう事なんです!?」

アキトはアクアに詰め寄ろうとしたがホウメイに止められた。

「テンカワ!アクアが言ったろ、落ち着いて最後まで聞けって」

「すっすいません!でも知りたいんですよ、親父達の事を」

アキトは椅子に座りなおしてアクアに聞いた。

「オモイカネ、これからの会話は全て記録しないで下さい。

 貴方には悪いけどルリちゃんにも内緒にね。

 あの子にはまだ知られる訳にはいかないんです。

 ごめんなさい、友達のルリちゃんの為なの許してね」

事情を知っているオモイカネはアクアの想いに応える。

『分かっています、アクア。

 五分前から食堂の映像はダミーに代えます、よろしいですね』

「ええ、ありがとう。オモイカネ、ルリちゃんをを傷つけたくないの……ごめんなさい」

『私にとって貴女も大切な友達ですから気にしないで下さい、アクア』

二人の会話にこれからの話がかなり重大な事だとアキトとホウメイは思った。

「アキトさんのご両親はクーデターで亡くなられたのではありません。

 ネルガルに暗殺されました。

 当時アキトさんのご両親はネルガルの研究員で火星のある研究をしておられました。

 これですが……見覚えがありますか?」

アクアは二人の前に蒼い石を出した。

それを見たアキトは懐かしそうに手にとって話す。

「コレ、俺が持っていた石とそっくりですよ。………もう無いですけど」

「何の石だい、珍しい物だね。地球には無いのかい」

アキトの手にある石を見ながらホウメイはアクアに聞く。

「はい、火星で発見されたチューリップ・クリスタルと言われています。

 木星蜥蜴のチューリップと同じ成分で出来ています。

 ……これのせいで戦争が始まりました。

 ご両親はコレの研究中にある技術を知り、それを公開し人類全体で共有しようとしましたが、

 それを独占しようとしたネルガルと衝突し……結果殺されました」

「……どうして、どうしてそんな事で親父達が殺されるんですか?」

アキトが苦しそうに呟く中、ホウメイが訊く。

「これのせいで戦争が始まったとは、どういう意味だい。

 分かる範囲でいいから教えてくれないかな」

その声にアキトが顔を上げ、アクアを見た。

「証拠は無いんですが、木星と地球との間で戦争が始まる前に事前交渉がありました。

 その際にネルガルが火星のロストテクノロジーの独占を目論んで、交渉が決裂するようにしたんです。

 木星も火星の技術を奪う為に戦争が必要だったのも事実ですが、ここで問題が起きました。

 その事をアキトさんに告げる為にナデシコに乗る事も、私の目的の一つです」

「そうかい、テンカワの護衛もアクアの目的の一つだったのかい。

 ……テンカワ聞いてるかい?」

俯いて黙り込んだアキトにホウメイが声をかけるとアキトが泣いていた。

「火星のみんなが死んだのは、ネルガルのせいなんですね。

 みんなが何かしたんですか?

 ただ火星で幸せに暮らしていただけなのにどうして……」

静かに泣き出すアキトにアクアが安心させるように話す。

「アキトさん、アイちゃんとお母さんは無事ですよ。何とか救助できましたよ。

 問題はありましたが、アキトさんが助けたんですよ。

 ユートピアコロニーの住民全員が死亡した訳じゃありません。

 生きてる人達もいるんです」

「そっそうなんですか、どのくらいの人達が生き残ったんですか!」

「180万人程ですが、軍の事故さえなければもっと救えたんですが悔しいです」

「軍の事故ってなんだい、フクベ提督の事かい」

「そうですよ。

 チューリップに戦艦をぶつけてユートピアコロニーに落としたんです。

 火星を救う為にしたんですが結果的に最悪の事態になりました。

 軍はこの事を隠しフクベ提督をチューリップを撃破した英雄扱いして誤魔化したんですよ」

アキトが立ち上がり食堂から出て行くが、その前にアクアは立ち塞がり話す。

「何処に行くんですか、フクベ提督に会いに行くのなら無駄ですよ」

「どうしてですか、アイツが何をしたか知っているでしょう。

 どいて下さい、アクアさん!」

「会って何をします、殺すのなら止めませんが殴るだけなら止めますよ。

 殺す覚悟はありますか、アキトさん」

アクアの鋭い視線に押されるようにアキトは下がり、ホウメイに椅子に座らされた。

「物騒な言い方だね。そこまで言わなくてもいいんじゃないかい、アクア」

「平和な地球で生きていたアキトさんより、戦場で生きていた火星の人達の方が資格はありますよ。

 人の話を聞かないのなら此処で止めてもいいですよ、アキトさん」

淡々と話すアクアにアキトはアクアを睨んだが、

「フクベ提督にはこの先地球の軍の改革をしてもらわないと不味いんです。

 この後も地球の独断で火星の住民を死なせるような事がないようにしてもらわないと困るんです。

 罪も無い火星の住民を事故とはいえ巻き込んだんです、そのくらいはしてもらいます」

この言葉にアキトは声も出なかった。

感情で動こうとしていたアキトと違い、アクアは未来を見据えて行動していたのだ。

恥じるように顔を俯けてしまったアキトを見ながらアクアは話していく。

「話がそれましたが、これからが本題と言えますね。

 アキトさんの未来が懸かってますから」

「……俺の未来ですか?

 別にコックになれればいいんですが問題でも」

「このまま行けば、アキトさんはネルガルの人体実験の犠牲者になりますよ。

 表向きは世界初の生体ボソンジャンプの成功者ですから」

不思議そうに話すアキトにアクアは厳しい表情で話す。

「ボソンジャンプってなんだい。

 初めて聞く言葉なんだけど、テンカワが最初とはなんだい」

「これがご両親が発見された技術でネルガルが独占しようとしたものです。

 アキトさんはどうして火星から地球に行きましたか?

 五分もかかる事も無く一瞬で着いたでしょう。

 それがボソンジャンプです。

 画期的な移動技術ですが、生物の移動が出来ないと思われたのですがアキトさんが成し遂げました。

 まだネルガルに気付かれていなければいいんですが、ばれたら実験材料ですね」

そういうとアクアはC・Cを掴んで二人の前でジャンプした。

「アッアクアさん、何処ですか!何処にいるんですか」

「ここですよ〜アキトさん。後ろですよ」

慌てる二人に厨房の奥にある倉庫からアクアが声を出して戻ってきた。

「見ましたか、アキトさん。

 これがボソンジャンプです、ご両親の研究成果です。

 アキトさんはこの力で火星から地球に飛んだんです。

 捜すのに苦労しましたよ〜。

 火星の何処かだと思ったんですが、地球にいるとは思いませんでした」

暢気に話すアクアに二人は呆然としていたが、ホウメイが訊く。

「驚いたよ、凄いもんだね。

 でもどうしてアクアがそこまで知っているんだい、おかしいね」

「火星にはテンカワファイルと言うアキトさんのご両親が残してくださった資料があるんです。

 それを基に研究して火星独自で実用化に成功したんです。

 そしてクリムゾン・グループが火星の独立に協力しています。

 アキトさんは火星で降りられませんが、万が一の時はクリムゾンに逃げてください。

 保護してくれるように手配が出来ています。これも持っていて下さい」

アクアはアキトにC・Cとウエストポーチを渡した。

「これは何ですか、意味が判らないんですが……」

「そのポーチはディストーションフィールド発生装置です。

 一般の方とジャンプする時はフィールドが無いと死ぬ事になりますから使って下さい。

 ジャンプはC・CをIFSでエステにアクセスする感じで起動させて、

 ジャンプ先をキチンとイメージしてからジャンプして下さい。

 イメージが出来ないと何処に飛ぶか分かりませんから、最悪死ぬ事になります。

 他に聞くことがなければ、これで全て終わります」

アクアが告げるとアキトが訊ねる。

「……どうしてここまでしてくれるんですか、分からないんですが?」

「簡単です。アキトさんのご両親は火星を救ってくれました。

 その恩を返す為に火星は動いています。

 当面は何も知らない振りでいて下さい。

 先程のフクベ提督の件のようにアキトさんの何も考えない行動で、

 火星の住民全てが死ぬかも知れない事態になるかもしれませんから。

 いいですね、アキトさん」

念を押すアクアにアキトは慌てて応える。

「わっ分かりました。普段通りに生活しますから気をつけます」

「ああ、そうだね。アタシも気をつけるよ、テンカワは単純だからね。

 その為にアタシも同席させたんだろ、アクア」

「……すいません。アキトさんがしっかりした方なら良かったんですが……。

 ホウメイさんを巻き込んでしまって」

「いいさ、馬鹿弟子の面倒は師匠のする事だからね」

苦笑するアクアにホウメイが苦笑しながら話していく。

「俺はそんなにダメですか、アクアさん、ホウメイさん」

「ダメだね。周りが良く見えてないし、何でも一人でしようとしてるからね。

 人を信じきれてないんだよ。臆病すぎるね」

「そうですね。鈍感で、朴念仁で自覚が全然ないから問題ですね」

「それもそうだね。コイツはまぎれもない女たらしだね、自覚はないみたいだけど」

二人のセリフにアキトは理解できずに、

「俺の何処が女たらしですか、俺はもてませんよ」

と反論したが二人は大きなため息を吐いた。

「やれやれ、みんな苦労するね。どうなる事やら……怖いねえ」

「地獄に堕ちますよ、アキトさん。

 とりあえず修羅場はおきますね、ご冥福を祈りますよ」

「まあ、若いうちは苦労した方がいいかもね。

 早く覚悟を決めることだね、テンカワ」

「残念です、いい見世物になるのに見物できませんから。

 ホウメイさんは誰が勝つと思いますか?」

「このままじゃ、勝者なしのドローだね。側で見るには面白いかもね」

「あの〜〜何の事か分からないんですが、覚悟って何っすか?」

アキトの声に二人は笑い出したが、

「教えて下さいよ〜。

 何が俺におきるんですか。勝者って何っすか?」

こうしてアキトが理解できないまま夜は更けていった。


―――木連 防衛艦隊指揮所―――


「向こうの様子はどうだ?

 相変わらず馬鹿騒ぎをしているのか」

秋山の問いに南雲が難しい顔で話す。

「勝てると信じているみたいですね。

 秋山さんはこの戦いに勝てると思いますか?」

「条件は同じだからな。

 火星の方が戦力を整えたから条件は俺達の方が不利だと思うぞ」

秋山の分析に南雲は驚いて訊いてきた。

「そんなに状況は不利になっているんですか?」

「まず機動兵器だが一年前で既にこちらの無人機が役に立っていない。

 戦艦にしても向こうの方が射程も連射性能も上だった。

 こっちも改良と開発もしているが、向こうもそろそろ新型の機動兵器が出るはずだぞ。

 戦艦も増えているだろうから前回以上に苦戦する事は間違いないな」

告げられた火星の状況に南雲は呆然としていた。

そこまで酷い状況だと思わなかったのだ。

「まあ、この戦いは火星の勝利で終わるだろうな。

 木連は本当の意味で戦争の怖ろしさをこれから知る事になるぞ」

「どうしてそれを閣下に言わなかったのですか?」

「言えば意見を変えるような閣下だと思うか?」

その一言に南雲は反論できなかった。

「新城のほうはどうなっているんだ。

 しばらく顔を見てないが」

「遺跡の内部の調査をしたんですが……」

言葉を濁らせる南雲に秋山は状況を理解した。

「良くなかったんだな」

「はい、それで計画の変更を考えなければならなくて忙しいみたいです」

「そうか、差し入れでもしてやるか」

「そうですね」

「それに食糧の備蓄に訊いておきたいからな。

 火星の報復に港湾と食料を破壊されたら終わりだ。

 飢え死には勘弁して欲しいからな」

遺跡からの補給を受ける事が出来ない木連の現状を簡単に話した秋山に南雲は最悪の事態を避けたいと考えていた。

「一度新城にも相談するべきだな。

 防衛体制を確立しておかないと、特に食料の備蓄先の防御は万全にしないと市民の不安が更に広がるぞ」

「そうですね、市民を飢えさせると暴動の原因にもなります」

「最悪は俺達が市民に銃を向ける事になるぞ。

 そんな事はしたくないだろう」

秋山の意見に南雲は自分が市民に銃を向ける事を回避したいと思っていた。

二人は事態の深刻さに不安を感じていた。

「とりあえず飯でも食いに行くぞ。

 腹が減っては戦は出来ないからな」

「そうですね、秋山中佐。

 長丁場になるようですから、腰を落ち着けて準備をしましょうか」

二人は部屋を出て食事をする事にした。

南雲も村上に出会い、草壁の目的とこの戦争の意味を知り協力する事になる。

木連も少しずつ変化していた。


―――ネルガル開発室―――


「もうすぐ火星に到着するけど大丈夫でしょうか?」

ミズハが不安そうにリーラに聞くと、

「ダメかもね。

 対艦フレームの訓練で理解したわ。火星にナデシコを行かせるのは不味かった。

 強引な事をすれば火星で沈む事になるわね」

ミズハもここ数日の訓練で対艦フレームの性能を理解して、

これと互角に戦えるブレードストライカーを擁する火星の実力に不安を覚えていた。

「艦長ってどんな人でした。

 上手く交渉して無事に帰れるといいんですが」

「難しいわよ、ナデシコの行動記録を見てきたけど艦長の行動は褒められたものではないわ。

 二ヶ月で改善されるとは思わないからオブザーバーで乗艦している副提督に期待した方が安心ね」

シミュレーターから出てきたエリノアが二人の会話に入ってきた。

それを聞いたミズハはエリノアに聞く。

「あの〜アクアさんは味方にはなりませんか?」

「火星の軍人に地球の弁護を期待してはダメよ。

 それに火星で降りる事になるから直接の支援は無理よ」

それを聞いたミズハは残念そうに話す。

「出来れば会いたかったです。

 パイロットとして色々聞きたい事があったのに」

「そうね、開発スタッフとしても聞きたい事があるんだけどね」

リーラも残念そうに話すがエリノアは意外な事を話す。

「大丈夫かもしれないわよ。

 火星と協力するなら会うチャンスもあるわよ」

その一言にミズハは嬉しそうにしていたがリーラとエリノアは難しいと思っていた。

(廃棄処分されるはずの実験体が生き残った事を上層部は良くは思わないでしょうね。

 彼女もネルガルの暗黒面を知っているから敵として現れる事はあっても味方になる事はないか)

この時点では二人も深刻な事態になるとは思わなかったが、

火星から帰還したナデシコの報告に二人は最悪な事をした上層部を呪いたくなるとは思わなかっただろう。

ナデシコはまもなく火星に到着しようとしていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


レーダーに映る機影は全て青、友軍であった。

「艦長、全て友軍機です。火星は無事生き残ってます、良かった〜〜」

メグミの嬉しそうな声にブリッジは歓声に包まれた。

「メグミちゃん、火星に通信を『ナデシコが助けにきましたよ〜』ってお願いね」

ユリカの脳天気な声にアクアがポツリと呟いた。

「助けになればいいんですが、

 足を引っ張る事にならないでしょうか。心配です」

不安な様子のアクアにユリカは笑って話していく。

「ナデシコが敵を全て撃破して火星を救う、もう完璧ですよ。

 そして私とアキトは幸せに暮らしていくんですよ」

そんなユリカにルリは呆れた様子で話す。

「そんなに上手くいく訳ないですよ。

 言動には十分気をつけて下さい、艦長。

 艦長の行動でナデシコのクルーの命運がかかっているんですから」

「ウ〜ン、アクアちゃん。

 見事に立派に育てたわね、これなら火星で降りても大丈夫ね。

 ルリちゃんは私にまかせてね」

後は任せてと笑顔で話すミナトにアクアもルリに約束する。

「ルリちゃん、約束するわ。

 必ず会いに行くから元気でいてね。

 次に会う時は私を追い越すくらいの素敵なレディーになっててね。

 ルリちゃんと次に会える時を楽しみにしてるわ」

「はい、アクアさんも元気でいて下さい。でないと私……」

泣きそうなルリを抱きしめてアクアが優しく話す。

「大丈夫よ、艦長じゃないんだから大船に乗ったつもりでいなさい。直に会いに行くわ」

「失礼ですよ、アクアさん。

 私のどこに問題があるのですか、馬鹿にしないで下さい」

と雰囲気をぶち壊していたがクルーは、

(何を言うかと思えば事実でしょう)

と口には出さずに二人を見守っていた。

「艦長、火星より通信が入ってきています。繋ぎますよ」

『聞こえますか?

 こちらは火星連合軍です。そちらの所属と目的をお答え下さい』

「は〜い、こちらは、地球連合ネルガル重工所属、機動戦艦ナデシコで〜す。

 そして、私が艦長のミスマル・ユリカで〜す V(ブイッ)」

笑顔で話すユリカにパイロットの女性は冷ややかな目で見つめていた。

『……そうですか、私は火星連合軍所属エリス・タキザワ中尉と言います。

 失礼ですが連合軍ではないのですね。

 ……出来れば地球に帰ってもらえませんか。

 試作艦一隻でしかも民間人の指揮する艦など意味がありませんので戦力になりませんね』

エリスが簡潔に意見を述べたがユリカが話す。

「失礼な事言わないで下さい!

 この艦は地球の最新の技術で生み出された最強の戦艦です。

 何も知らないくせに偉そうな事を言わないで下さい」

『確かに地球では最強ですが火星では老朽艦ですね。

 見た所、グラビティーブラストが単発式の一門だけで、他の武装はミサイルだけですね。

 ディストーションフィールドもそれほど強力ではありませんし、

 戦艦と言うより駆逐艦と言うべきでしょう。

 火星に自殺しに来たんでしょうか?』

エリスが意見を述べるとブリッジが唖然としたが、

「いや〜これは手厳しい。これでもネルガルが誇る新型艦なんですが、

 我々も遊びに来たわけではないので、我が社の社員だけでも地球に返したいのですが」

『火星にネルガルの社員などいませんよ。

 貴方が何を話しているのか、良く分かりませんが』

不思議そうに話すエリスにプロスが訊ねる。

「おかしいですな、ウチの技術者を徴用なされたのは火星の筈ですが」

『皆さんはネルガルと縁を切ったといわれてますので、

 多分ナデシコには乗艦する事はありませんよ。

 ネルガルのせいで火星は木星から攻撃を受けましたから、

 住民はネルガルの戦艦が来たと知ったら撃沈しろと言いますよ』

「それはどういう意味ですか?」

エリスの話す内容が理解できずにプロスは聞き返す。

『まあいいでしょう。

 誘導しますのでディモスの宇宙港に入港して下さい。

 おそらくシャトルでの降下は許されると思います』

プロスの質問には答えずにエリスはナデシコの行き先を告げた。

「いや〜出来ればこの艦で降りたいのですがダメでしょうか?」

『それは政府の方と交渉して下さい。私には権限はありませんので』

「そうですか、ではそうさせて頂きます」

『はい、お願いします。

 それとお久しぶりですねアクア少佐、よくご無事で……心配しました』

「そうね、エリスも元気そうで良かったわ。皆さんも無事かしら」

『ええウチの連中はそう簡単にくたばりませんよ。

 クロノ大佐はディモスにおられるので、元気な所をお見せして下さい。

 それでは後ほどディモスで会いましょう、少佐』

用件を全て伝えるとエリスは通信を切りナデシコを誘導していた。

プロスはアクアに今の内容を聞くべきか迷っていた。

ブリッジで聞くのは不味いと思ったので保留して後ほど聞こうと判断した。

「さてプロスさん、契約に基づいて私はディモスで降りますね。

 最悪の事態に備えないといけないので」

アクアはプロスの考えに気付いたのか、契約を盾にして降りようとしていた。

「出来ればもう少し乗艦しては頂けませんか?」

「家族の事も心配なのでここで降りる事にします。

 正直ネルガルの戦艦にはこれ以上乗っていたくはないと言うのが本音ですけどね」

「そうね、アクアちゃんには当然の事かもね。

 私もアクアちゃんの立場ならそう言いたくなるわね」

今まで会話に参加しなかったムネタケが話してきたのでプロスは聞いてきた。

「副提督、どういう意味ですか?」

「何を言うかと思えば本気なの、プロス。

 ネルガルがアクアちゃん達にしてきた事を知らないとでも言うの。

 人体実験……しかもアクアちゃんとクロノは廃棄処分。

 即ちモルモットでいう焼却処分になるところだったのよ。

 そんな人間がいつまでもネルガルに協力すると思ってんの」

呆れたように話すムネタケにブリッジのクルーは顔を青くしていた。

そんな酷い状況だとは知らなかったのだ。

今頃になって人体実験の怖さを知るクルーを見ながらムネタケは話す。

「全くとんでもない事をするわね」

「ええ、先代の会長も酷かったですが、今の会長はそれを超えていますよ。

 ……自覚がないですから酷いものですね。

 そのくせ自分は実験に反対している人道主義者を気取っていますから、反吐が出ますね」

アクアの意見にプロスがフォローするように話す。

「そこまで仰らなくても……根は優しい方ですよ」

「プロスさんはこの戦争の裏を知らないから言えるんですよ。

 知れば私の言葉が納得出来ますよ」

「それはどういう意味ですか?」

アクアの断言した意見にプロスが訊ねる。

しかしアクアは何もいわなかった。

「アクアちゃ〜ん、ユリカに教えてくれないかな〜全然判んないから〜」

場の空気が読めないユリカにアクアが、

「お断りします、黙秘権を行使させて貰います。

 それでも聞きたいのなら実力でかかってきて下さい。

 全力で相手をしますので死ぬかもしれませんね、艦長は」

殺気をユリカに向けて、にこやかにアクアは告げた。

「アッアクアちゃんのバカ〜〜」

ユリカは負け惜しみのセリフと共にブリッジから逃げ出した。

この事でプロスは無理に聞こうとしてもダメだと判断して諦める事にした。

「覚悟も無いのに私にケンカを仕掛けるとは馬鹿ですね、艦長は。

 ……残念ですね、ここで処理出来れば後顧の憂いが無かったんですが、

 もう少し優しく挑発すれば良かったかしら、ルリちゃんはどう思うかしら?」

「そうですね、でも艦長の事ですから気が付きませんね。

 愚鈍な方で場の空気が読めない馬鹿ですから、これより緩ければ意味が無いですね」

「そうそう〜無理よ、アクアちゃん。

 艦長の事だから今頃アキトくんに泣き付いてるわよ〜」

ミナトの意見に全員が頷き、アクアが呆れていた。

「馬鹿ですね。そんな事をすればする程、嫌われる事が理解できないのは憐れですね」

「そうですね、自己中心の考え方がヒドイですね。アキトさんもハッキリ言えばいいのに」

「おや〜〜メグミちゃん。

 そうだったの〜ミナトお姉さん知らなかったわ〜。

 アクアちゃんは知ってたの〜」

「ミッミナトさん!何を言ってるんですか?、そんなんじゃないですよ!」

「そうですね〜、意識してるのが三人で他に気になる程度が三人程といったところですね。

 あとアオイさんが気になる方が一人いますよ、ミナトさん」

「そうなんだ〜、でもよく見てるねアクアちゃんは」

「人間観察は趣味ですね。色々面白いですよ〜、

 もう少し時間があれば周囲を煽って修羅場を見学したかったですね〜。

 ホウメイさんも見るのは楽しいね〜と言ってましたし、残念です」

「そうだね〜、アキトくんって前に聞いたクロノさんとそっくりね。

 まさかホントにいるとは思わなかったわ〜〜。

 自覚の無い女たらしなんて」

「……そうですね。メグミさん、苦労するけど頑張って下さい」

「でっですから違うんですよ〜、聞いてくださいよ〜」

メグミの声が続くなか、ルリが聞いてくる。

「アクアさん、ミナトさん、ナデシコはどうしますか?

 ゴートさんが困っていますが」

「ルージュメイアン、このまま火星に向かって大丈夫か?

 先程の会話からナデシコは歓迎されてないようだが危険ではないか」

「それは大丈夫でしょう。

 火星は地球と友好な状態を維持したい筈ですから、余程の暴挙をしない限りは撃沈はしないでしょう」

その言葉にプロスは強引に降下するか迷っていた。

「撃沈できる程の戦力があると思えんのだが」

「……いやそうでもないぜ。

 アクアさんが設計した対艦フレームの訓練をすればするほど火星の実力も読めるからな。

 ナデシコ一隻じゃヤバイと思うぜ、せめて五隻か六隻あれば何とかできるかな」

「ヤマダか、随分まともな事を言うな……大丈夫か?

 疲れているのなら医務室へ行け」

「ダイゴウジだ!俺は真面目に思った事を言ってるだけだ、失礼だぞ」

「……おめえが言うから問題なんだよ、

 おおっあれがブレードストライカーか?」

ブリッジで火星を一目見ようとしていたウリバタケは火星の機体を見てアクアに聞いた。

「違いますよ、あの機体は新型のエクスストライカーですね。

 どうやら配備が間に合いましたか。

 これで木星蜥蜴に勝てますね。火星の恨みを知る事になるでしょう」

「なあアクアさん、あの一回り以上デカイ機体は何ですか?」

ガイが指差す先にエクスストライカーより一回り以上大きな機体があり、それを見たアクアは嬉しそうに見ていた。

「ライトニングナイトですね。

 技術者の皆さんが頑張って相転移エンジンの小型化に成功しましたね。

 各機に二基の小型相転移エンジンを搭載し合体後、

 六基のエンジンを使いますから、ナデシコの倍以上の出力が見込めますし、かなりの戦力になりますね」

「が、合体ってまさかゲキガンガーのように合体する機体なんですか?」

ガイが指差す機体にウリバタケと待機中の三人娘は呆れるように見ていた。

「合体ね、対艦フレームがあれば負けはしないさ」

「でも面白そうな機体だね。

 私達三人で乗ってみてもいいじゃない」

「乗るなら俺が最初だ!

 アクアさん、俺にも乗れるように手配できませんか?」

イズミが駄洒落を話す前にガイが叫びながらアクアに聞いた。

「ダメですよ、あの機体は火星宇宙軍のエース機ですからダイゴウジさんには許可がでないと思いますよ」

その一言にダイゴウジはガックリと燃え尽きていた。

燃え尽きたダイゴウジを見ながらアクアはジュンに話す。

「とりあえずアオイ副長がディモスまで指揮を執って下さい。

 その後は艦長に任せるしかないでしょうね。

 不安ですが私はここで降りる事になりますから」

「元気でね、アクアちゃん。ルリちゃんは私が面倒を見るから」

「はい、心配はないですね。ミナトさん、また会いましょう」

「ここまで楽しかったですよ、アクアさん。お元気で」

「はい、ホウメイさんに頼んでおきましたので料理を習って勝ち残ってくださいね、メグミさん」

「ルージュメイアン、世話になったな、礼を言う。お前なら大丈夫だな」

「ゴートさんも気をつけて下さい」

「アクアさんにはユリカ共々迷惑を掛けましたが、これからは気をつけます」

「大丈夫ですよ、アオイさんなら立派にやれますよ。

 一度ユリカさんと離れて自分を磨いて下さい。

 きっといい経験になりますので自分を見つめ直す事も出来ますよ」

「まあ、何だ。世話になりっぱなしだが、そのうち返すよ」

「暇になったら火星に来て下さい。ウリバタケさんの好きな改造が出来ますよ」

「アクアさん、礼を言うぜ。

 火星のおかげでゲキガンガーに乗れる夢が叶うかも知れないんでね」

復活したダイゴウジにアクアは注意する。

「そうですね、地球に戻ったら戸籍の氏名変更をするんですよ。ヤマダさん」

「わかってますよ、ダイゴウジ・ガイとして再びアクアさんの前にやって来ます」

「ルリちゃんには別れの言葉はいりませんね」

「……はい、また会えますからね。きっと超えてみせますよ」

ルリを優しく抱きしめアクアは話す。

「ええ、楽しみにしてますよ。約束は叶えるためにあるから必ず会いに行くわね。

 私の大事な妹のルリちゃん」

「はい、絶対です。約束ですよ、……お姉さん」

泣き出しながら告げるルリをあやす。

アクアの前に衛星港が見え、静かにナデシコは火星に到着した

2197年2月、後に第二次火星会戦と呼ばれる戦いの幕開けであった

だが今はその事を誰も知らない











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

十八話で火星に到着したのに改訂すると二十六話になりましたね。
先の話が四十二話で終わりましたが、このまま進むと五十話を超えるかも(汗)
気力が続くといいな。

では次回でお会いしましょう。

追記
実はライトニングにはモデルになった機体が在ります。
さて何でしょうか?
大分古いから判らないかもしれませんが(EFFの歳がバレルかも)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.