戦争が始まる 答えは既に出ているが

この戦争は当たり前の事でその為の準備をしてきた

だが彼らは何も気付かない

自分達が罠に誘い込まれた 憐れな存在である事を

知る時には全て遅かったと後悔しても何もできないのだ



僕たちの独立戦争  第二十七話
著 EFF


(この忙しさは何なんですか?)

シャロンは火星に着いて挨拶回りを終えて、始まった新しい生活を後にそうコメントしていた。

「すまんなぁ、火星は経済関係に強い者が少なくてな。

 お前さんのように優秀な人材が来るのを待っていたんだよ」

火星の行政府で最年長のコウセイ・サカキが告げると、

周囲のスタッフのありがたがる視線にシャロンは逃げたくなった。

「でもいいんですか?

 私はクリムゾンの人間で火星の中枢に携わっても」

「はあ、そんな事は誰も気にせんぞ。

 火星は実力主義でな、家柄なんざ自慢しても誰も従わんぞ。

 お前さんはきちんと仕事が出来るからみんな従っているんじゃ」

シャロンの質問に呆れるように答えるコウセイに周囲のスタッフは頷いていた。

「何よりもお前さんには毒がないからな。

 軍や開発局に比べると行政府としては非常に有益な人材が来たと思うぞ」

コウセイの声にスタッフは何度も頷いていた。

「何なんですか?

 まるで軍や開発局には魔女がいるみたいな言い方ですね」

シャロンの呆れるような声に職員達は話していく。

「魔女か……確かにそうだな」

「そうだよな、とっても怖い人達だよな」

「開発局の連中も大変だな、説明を延々と聞かされているから」

「あれは勘弁して欲しい」

「軍のほうは仕事をきちんとすれば問題ないからな」

「もうすぐ帰ってきますよ、地球から」

スタッフの一人の言葉にシャロンとコウセイを除くスタッフが焦り始めていた。

「地球からってアクアの事ですか?」

コウセイに聞いたシャロンの声に室内は張り詰めた空気になっていく。

「なんじゃ知り合いなのか?」

空気を気にせずにシャロンに聞くコウセイに、

「妹なんですけど」

「「「「「「嘘だ―――――!!」」」」」」

簡単に答えたシャロンにスタッフはパニックを起こしていた。

その様子を見ながらシャロンは考える。

(あの子、ここでもイタズラしてるんじゃないわよね)

「そうか、そうか。

 あの子の姉か。これなら仕事を任せても安心だな」

「あの子、ここでもイタズラしたんですか?」

不安になってコウセイに聞くシャロンにコウセイは愉快に話す。

「そんな事はしとらんよ。

 彼女はダッシュにアクセスできる優秀な人材でな。

 事務仕事は通常の倍以上するんだよ。

 火星を出立する前に全員に仕事を回して、全員の仕事を増やしてから行ったんだよ」

その一言にスタッフは泣きそうになっていた。

そんなスタッフを見ながらシャロンは聞く。

「ダッシュってなんですか?」

「火星のコロニーを統括する人工知性体の事じゃ。

 ダッシュのおかげで火星の行政府は立ち上げも順調に進んだものだな」

そう話すとコウセイはIFSを使ってダッシュを呼んだ。

『コウセイさん、何か問題でも起きましたか?』

「いや問題は起きてないが、紹介したい人がいてな。

 こちらはシャロン・ウィドーリンさんじゃ憶えておいてくれ」

『お久しぶりです、シャロン・ウィドーリン……いえこの時代では初めてでしたね。

 私はオモイカネ・ダッシュと申します』

「この時代ってもしかしてあなた?」

ダッシュの言葉に気付いて問うと、

『はい、ボソンジャンプで逆行した存在です。

 貴女とは以前、敵として遭遇した事がありました』

「できれば聞きたいけど……やっぱりやめとくわね」

聞こうとしたがロバートの言葉を思い出してシャロンは止めた。

『申し訳ありません。

 余計な事を言いましたね』

「いいわよ、気にしないで。

 それよりアクアはどうやって貴女とアクセスするのかしら?」

『IFS強化体質の事はご存知ですか?』

「ああ、そういう事なのね。

 じゃあ私にはアクセスは無理かしら?」

『オペレーター用のIFSを使えば問題はありません。

 IFS強化体質者程ではございませんがアクセスは可能です』

「それならこの資料の請求とか楽になるかしら?」

シャロンは机にある資料を見せて、ダッシュに聞く。

『訓練次第では半分以上は減らせます。

 電子書類に変更する事で数は激減する事をお約束します。

 オペレーター用のIFSは女性には親和性も高いのでシャロン様も充分使用できると思います』

「訓練にはどの位掛かりそうかしら?」

『一日二時間で一月が平均的な条件です』

「そう悪くはないわね」

『医師に検査だけしてもらって何時でもできるように準備だけするのは如何ですか?』

「そうね、検査する事にするわ。

 火星ではIFSが無いと困りそうだからね」

『ではアクセスできる日を楽しみに待っていますね♪』

ダッシュは楽しそうに告げると回線を閉じた。

「いい子ね、執事としては最高の人材かもね」

シャロンの前に医師の手配を予約した電子書類が送られてきた。

「で、どうするんじゃIFSを付けるのかい?」

「そうですね、地球では無駄なものかと思いましたが、とても便利なものだと実感しましたわ。

 火星で生活する以上ないと困りそうですね」

楽しそうに話すコウセイにシャロンも微笑んで話していた。

その光景にスタッフは悪夢の再来を予感している。

(新しい魔女が誕生したんじゃないだろうな?)

その予感が現実のものになる事を否定したかった。

コウセイだけが楽しそうに笑っていた。


「お帰り―――!シャロンお姉ちゃん」

当面の生活場所がエドワード邸になったシャロンはアクアの子供達と出会い一緒に生活する事になった。

「ただいま、ラピス。

 今日は何をしていたのかな」

「えっとねえ、ダッシュ達とお話して、学校から帰ってきたサラちゃんと遊んでいたの」

自分を信じて差し伸べる小さな手と自分の手を繋ぐとシャロンは自分が何を望んでいたのか理解していた。

(私もアクアのように家族が欲しかったのね)

クリムゾンから離れて暮らす事でシャロンもまた自分を見つめ直していた。

シャロンは火星での生活でクリムゾンからの呪縛から解放されようとしていた。

彼女も新しい未来へと歩みだした。


―――クリムゾン ボソン通信施設―――


『では、返事を聞こうかな。どうするのかね、地球の戦艦を撃沈するのかね』

「……いきなり内政干渉ですか、ここまで馬鹿だと呆れますね。

 こちらの言い分も聞かずに自分の都合のいい事だけ言うアナタ達は子供ですか?」

呆れを通り越して、失望するように答えるタキザワに士官達が罵倒するがタキザワは無視する事にした。

無駄な時間をとる事にタキザワが疲れていると草壁が問う。

『ではどうするのかね、聞かせてもらおうか?』

「簡単ですよ、帰ってもらうだけですよ。

 火星は木星蜥蜴じゃなく話し合いで解決する人間達ですから問題ないですね」

『木星蜥蜴と言わないでもらおうか、我々は正義に選ばれし木連軍人だ』

草壁の苛立つ声にタキザワが冷ややかに告げる。

「火星の住民を約150万人殺しておいて正義がありますか……悪ならありそうですが。

 悪の木星蜥蜴ならお似合いですね。

 この際、名称を変えませんか?」

『死にたいのかね、それならいつでも戦争を始めるぞ』

「怒りに任せて攻撃ですか……子供ですか。

 アナタは軍の責任者の自覚は無いのですか?

 安易に戦争を始めるとはいい加減な。

 とにかくナデシコは帰ってもらいますから、余計な内政干渉は止めてもらおうか」

毅然とした態度で話すタキザワに草壁は苛立っていた。

『……いいだろう。出来ない時は我々のやり方で対処しよう。

 だが覚えておきたまえ、木連を侮辱した事を後悔してもらうぞ』

通信が切れたスクリーンを見ていたタキザワが呟く。

「勝てると思うなよ。

 お前達は火星に時間を与えた事の意味を知らないから言えるのだ」

「……そうですな、彼等は戦力分析を碌にしてない様ですな。

 これでは勝てんよ……まあ、火星が秘匿した事も事実だが」

ロバートの声に振り向いたタキザワは詫びる。

「すいません、折角の努力を無駄にして申し訳ないです」

「何、クリムゾンは窓口ですからいいんですよ。

 それより勝てますか?」

「ええ、結果は圧勝とはいきませんが勝利で終わりますね。

 問題はその後なんですよ、どうすべきか?

 攻撃目標が決められないのです。もう少し時間があれば絞り込めたんですが、残念です」

「では兵器開発施設が判明しましたか、それとも暗部の潜伏先ですか?」

大まかな未来を聞いたロバートはタキザワに聞いてきた。

「……暗部が絞り込めませんでしたが、

 開発施設は判明しましたから良しとしましょうと言う事になりました。

 欲張りはいけないと言う事ですね、次のチャンスを待ちますよ」

「そうですか、事業でも急げば全てがダメになる事がありますから、焦りは禁物ですな」

「ええ、そうですね。……シャロンさんはよろしいのですか。

 この戦いの後にすれば安全でしたのに、今は火星に居る事が危険ですよ」

「……あの娘が自分で決めたんです。

 それに戦争を知るにはいい機会ですな。この経験が役に立つ事でしょう。

 ひとまわり大きくなって帰ってくるのが楽しみです」

タキザワにはロバートが大企業のクリムゾン会長ではなく、

ただの孫娘の成長を喜ぶ祖父の姿として見えていた。

「ではロバート会長、シャロンさんは必ず無事に地球にお返ししますので安心して下さい。

 では私は火星に連絡をしますので失礼します」

部屋をあとにするタキザワにはこの戦いが重要なターニングポイントだと考えていた。


通信を終えた草壁は会議室の士官達に告げる。

「準備を進めよう。

 我々の正義を火星に見せてやろうじゃないか」

「閣下!

 申し訳ありませんが戦艦の数を減らしては頂けませんか?」

士官達の末席にいた新城が申し訳なさそうに草壁に話す。

「実は遺跡内部の調査をしたんですが、放射能の汚染が想像以上に酷くて復旧に時間がかかりそうなのです。

 その為、予備兵力として千隻ほど木連に残しておきたいのです。

 地球でも戦艦の損害が出てきていますので、投入は避けて欲しいのです」

「新城君の意見も理解できるが火星に勝てば問題はないだろう。

 それより食料の供給は大丈夫なのかね」

「その点は大丈夫です。

 あと半年は持ちますので火星からの攻撃を防げば問題にはなりません」

「では問題はないな。

 各自作戦を立案するように」

草壁は全員に告げると会議室から退室していった。

新城は自分の意見を無視されたが気にしていなかった。

まるでこうなる事を予測していたようだった。

白鳥九十九は新城に近づくと尋ねた。

「構わないのか?

 お前の意見は却下されたが」

「こうなる事は予想していました。

 閣下の考えも理解できましたので問題はこの後ですよ。

 木連が勝てるといいですね」

冷ややかに述べる新城に九十九は不安を感じて訊く。

「まるで負けるような言い方だな。

 木連が敗北すると予測しているのか?」

「いえ、最悪の事態を想定して意見を述べただけです。

 軍人とは本来そういう者だと思っただけです」

ここにいる者達が軍人ではないと告げるような新城の発言に九十九は驚いていた。

そんな九十九を冷めた目で見ながら新城は部屋を出て行った。

ゲキガンガーの正義を唱える士官達を見ながら九十九は木連の先には滅びしかないのかと思っていた。


「どうだった会議は?」

防衛指揮所に入ってきた新城に秋山は訊いてきた。

「ダメでした」

疲れた様子で新城は簡単に話した。

「実際、秋山さんに言われて会議室の様子を見ていたらおかしいと理解できましたよ。

 まるで勝つ事が当たり前のように決定しているんです。

 自分達の正義が負けないと思っているんでしょうか?

 相手の戦力分析を誰もしていないんです。

 これで勝てるなんて軍人には思えないですよ」

「もうすぐ火星方面の哨戒を終えて海藤さんも帰ってくるだろう。

 その時までに防衛準備を万全にしておきたいな」

呆れた様子の新城に秋山は状況を話していく。

「南雲は先行して港湾施設の警戒をしているのですか?」

ここにはいない南雲の事を聞くと秋山は話す。

「いや、市民船の周囲を調査してもらってる。

 最悪の事態は避けたいからな。

 非常時の市民の救助の手順を考えてもらっているんだ。

 俺は港湾施設に張り付くからな」

「自分も港湾施設に行きますよ」

「ダメだな、新城はここで待機だ。

 復旧作業を進めるにはお前が必要だからな。

 南雲もここで市民船の防衛に専念してもらうよ。

 もし俺が死んだら海藤さんを頼ってくれ。

 死ぬ気はないが、万が一の時もあるからな」

秋山の言葉に新城は泣きそうになっていた。

木連は何処で道を間違えたのかと叫びたかった。

第二次火星会戦まであと僅かであった。


―――ディモス宇宙港―――


ナデシコに乗り込んできた火星の士官とプロスは交渉をしていた。

「では火星への降下はダメだと言われるのですか?」

「当たり前です。

 戦艦一隻でしかも後続の部隊もいないなど、市民に説明すれば暴動が起きるかもしれません。

 今回の事はまだ市民には説明していないのです」

火星の状況を告げられるとブリッジも沈黙する。

「ではネルガルの社員だけでも保護したいのですがよろしいですか?」

プロスは交渉相手のレイ・コウランに訊く。

「その件は既に地上に連絡しましたが、

 イネス博士以下全員がナデシコへの乗船を拒否されましたので、申し訳ありませんが火星で保護します」

そういうとプロスに書類を渡して確認させた。

「一応全員の署名がありますので問題はないと思います。

 契約の破棄という形になりますので火星が違約金を支払いますのでよろしいですか?」

「……できれば保護したいのですが」

書類を読んだプロスは文句のつけ様がない条件に焦っていた。

契約上の問題は法的に火星が全て請け負う事になり、違約金も通常の三倍で支払うと書いてあるのだ。

この条件で文句を言うのは火星に不審を抱かせる事は間違いないだろう。

実際、条件を横で読んでいたムネタケも悪くないわねとプロスに話していた。

「では次の件に移ります。

 接収した相転移エンジンとオモイカネシリーズですが、火星で買い取らせていただきます。

 試作のエンジンですので問題はないと思いますがどうしますか?」

プロスの声を無視するように次の案件に移るレイにプロスは手強いですなと思いながら交渉する。

「その件に関しては本社と相談の上でご連絡しますが、

 オモイカネシリーズは返還できませんか?」

経験を積んだ人工知性体はネルガルにとっては重要な物であったので、回収したいとプロスは考えていた。

「構いませんが、その際は初期化して返還します」

「できれば初期化せずに返還して頂くとありがたいのですが」

「お断りします。

 経験を積んだオモイカネシリーズをネルガルに渡すのは非常に危険な事だと我々は判断しています。

 それに火星の機密を持った状態で寄こせなど冗談ではありません。

 こちらとしてもエンジン同様に買い取るという事にさせていただきます」

強引とも言えるようなやり方でプロスに話していくレイにブリッジは反発を覚えていた。

《強引だけどやり方としては悪くないわね。

 ルリちゃんには理解できるかしら?》

《つまり最初に条件を突きつけて交渉のペースを自分が取ろうとしているのですか?》

《そういう事よ。でも条件は悪くないから強引でも反論できないのよ》

《反論すれば強欲といわれて、裏に何かあると思われるからですか?》

《まあそうだけど、今回は裏があるから尚更言えないんだけどね》

《そうだな、ネルガルが元凶の一つだな》

自分達の秘匿回線に割り込んできた人物にルリは焦ったが、アクアは落ち着いて話していた。

《ただいま、クロノ。

 みんなは元気でいますか?》

《ああ、みんな元気でいるよ》

《ヤッホ――!ママ、お帰りなさい。

 こんにちは、ルリお姉ちゃんにオモイカネ。

 私はセレス・タインだよ》

楽しそうに話す声に怒りを混ぜた声が続く。

《ずるいよ―――!

 私が先だったのにひどいよ、セレス》

《そうだよ、順番は守らないとダメだよ。

 こんにちは、ルリお姉ちゃん。

 僕はクオーツ・アンバーです。

 オモイカネも無事火星に到着して良かったね》

《あ―――!

 クオーツまで抜け駆けするなんてひどいよ。

 私はラピス・ラズリです。

 よろしくね、ルリお姉ちゃん》

続けざまに話す子供達にルリは唖然としていた。

《もうダメよ、勝手に回線に入り込んじゃオモイカネもルリちゃんも吃驚するわよ》

《《は―――――い!》》

《ごめんなさい、お母さん》

アクアの注意に三人は答えるとルリも気を取り直して話す。

《私はホシノ・ルリです。

 そして私の友人のオモイカネです》

《皆さん、私はオモイカネです。

 よろしく♪》

こうして前史にはないルリの新しい友人達との出会いが始まった。

子供達の会話を聞きながらクロノとアクアはこの光景を見続けたいと願っていた。

そんな様子とは別に交渉は難航していた。

「では北半球への進入はダメだと」

「はい、北半球にあるコロニーは避難した住民以外は生存は確認されていません。

 北半球は木星の勢力圏ですので、迂闊に進行すると攻撃を受ける可能性もあります。

 火星への降下はシャトルでアクエリアコロニーにしてもらいます。

 それ以外の方法は認められません」

「困りましたな、我が社の実験施設である北極冠に行きたいのですがダメですか?」

「申し訳ありませんが、無理なものは無理だと言わせてもらいます。

 大体あなた達は連合政府の使者ではないので、火星としては受け入れるのが出来ないのです。

 まるでネルガルは火星に戦争の火種を持って来るのが目的ですか?」

レイがネルガルの行動を非難するとプロスは平然と話す。

「そんな事はありませんよ。

 ですが火星にある資料は我が社としては回収したいのです」

「では連合政府と火星で協議しますので、それまではここで待機してもらいます」

レイは用件を述べるとプロスに文句はないですねと目で問いかけてきた。

「アクアの方は準備はいいですか?

 事務仕事が溜まっているので、急いで戻ってきてください」

プロスが迷った隙にアクアに声をかけて帰ろうとするレイにアクアが疲れた様子で話す。

「やっぱり溜まっているのね……書類が」

「当たり前です、行政府は人材不足なんですよ。

 貴女が地球に行ってから帰ってくるまでに仕事が増えているんですよ。

 火星は独立したばかりで行政府の仕事は増える事はあっても減る事はありません」

火星が地球の支配下にないと告げるように話すレイにブリッジは驚いていた。

「……仕方ありませんね。

 プロスさんには悪いんですがここで降りる事になりますので失礼します」

悲壮感溢れる姿にプロスは言葉が出なかった。

「さあ、行きますよ……あの書類地獄に」

「うう〜〜、皆さんの無事を祈ってますわ。

 お元気で〜」

レイに腕を掴まれて歩くアクアにブリッジのクルーは呆然としていた。

「あ、あのアクアさんが嫌がる書類地獄って……」

ジュンが呟くと全員がアクアが書類に埋もれていく光景を想像していた。

……とてもシュールで嫌な光景だった。

プロスはこの後どう行動するべきか迷っていた。

「副提督はどう思いますか?

 このまま地球からの連絡を待つべきでしょうか」

「そうね、一応航路の確認が出来たから軍としては問題はないわ。

 ただ戦闘を行っていないから、軍としてはナデシコの価値を十分に見出せないけどね」

「そんな事はありません、副提督。

 ナデシコは地球最強の戦艦ですから価値はありますよ」

プロスの質問に答えるムネタケにユリカが話す。

「でもね、戦闘証明が十分に出来てないのよ。

 アタシは火星に着くまでに戦闘があるから政府にも強引だけど話したの。

 でも実際には戦闘がなかったから地球での二回の戦闘だけでしょう。

 ネルガルとしては軍には売り込み難いわよね」

状況を告げるムネタケにプロスは少し焦っていた。

「正直、アタシは艦長が無能でも十分戦えた優秀な戦艦だと報告するから安心していいわよ。

 ただ軍で使用するのは不味いと思うけどね」

ユリカを見ながらプロスに伝えるムネタケに、

「それってどういう意味ですか?」

「真面目に仕事してない艦長でもそれなりの戦果を上げたでしょう。

 この艦はね、アクアちゃんやホシノさんのようなマシンチャイルドと呼ばれる人がいないと性能を発揮できないの。

 軍にはそんな人いないでしょう。だからダメなの。

 実際にここまで艦の制御はアクアちゃんとホシノさんの二人でしていたのよ。

 アンタは艦長の職務を満足にしていなかったけど、それでも艦は機能していた。

 実質的に艦長より二人の方が上になるのよ。

 それは軍では危険なのよ、反乱の可能性が出るでしょう。

 それにマシンチャイルドを何処から連れてくるの?

 ネルガルから……それは軍がネルガルの傀儡になる危険性もあるのよ。

 性能が良くてもそんな危険性のある艦は軍では認められないわ。

 でも二人のおかげでミスマル家の名誉も保たれたから良かったわね。

 二人に感謝するのよ、艦長。

 じゃあアタシは報告書の作成をするからブリッジは任せるわよ」

ユリカに含むような言い方をしてムネタケはブリッジを出て行った。

(挑発する気か、ムネタケよ)

お茶を飲みながらフクベはナデシコを火星に強制的に降下させようとするムネタケの意思を感じとっていた。

(確かに満足な戦闘データーもありません。

 ここは強引に降下してイネス博士を取り戻す事を優先するべきでしょうか?

 遺跡の事もありますから、まずは北極冠へ行くべきですな)

プロスはムネタケの挑発を利用してナデシコを降下させる事を決意した。

ユリカもムネタケの言葉に踊らされるようにプロスに告げる。

「一応、資料の奪還が優先されるんですね」

「そうですが」

「では降下しましょうか、プロスさん」

「ユ、ユリカ!

 それは不味いよ。火星を刺激する事は政治的にも軍事的にも危険な事なんだよ」

慌てて注意するジュンにユリカは話す。

「でもおかしいんだよ、ジュンくん。

 聞けば火星は木星蜥蜴と共存しているような関係なんだよ。

 それも調べてみたいから、降下させる事にしたいんだけどダメかな?」

威力偵察をしたいとユリカは告げる。

「だけど火星は連合政府と交渉すると告げたんだ。

 その言葉を無視するのは問題になるよ。

 そうなったら火星と戦闘状態になる可能性も出てくるんだ。

 ここは様子を見るべきじゃないかな」

「でもシャトルなら迎撃できるけどナデシコを迎撃する事は出来ないよ。

 だから安心してもいいよ、ジュンくん」

「本当にそう思っているんですか?」

二人の会話にルリが割り込んできた。

「火星には木星蜥蜴の戦艦を撃沈できる兵器があるんですよ。

 それでも大丈夫だと言えるのですか?」

「大丈夫だって、ユリカに任せてくれるといいな」

ルリの言う意味を理解してないのか、ユリカは根拠のない事を笑顔で話していた。

「では火星に降下しますので発進して下さい、ミナトさん」

「いいの〜そんな事しても?」

不安そうにプロスに聞いてくるミナトにプロスは、

「仕事ですから仕方ないですな」

あっさりと答えるとミナトは不安そうにしているが指示に従ってナデシコを発進させる。

「じゃあ発進させるけど火星の何処に行くの?」

「ネルガルの実験施設でもある北極冠を目指します。

 構いませんね、艦長」

「それでは出発進行〜♪」

ユリカの宣言にナデシコは管制官の制止を振り切ってディモスの宇宙港から発進した。


「……行きましたね」

「予定通りナデシコは火星に降下するみたいです。

 こちらも作戦の準備は完了してますよ」

「では俺達も始めるとするか。

 木連の再侵攻を迎撃して地球に独立を承認させる為の計画を」

アクア、レイ、クロノの三人はディモスから発進するナデシコを見ながら話していた。

「でもママ、ルリお姉ちゃんは大丈夫かな?」

アクアと手を繋いでいたセレスが聞くと、

「大丈夫だよ、お父さんが助けるから安心していいよ」

「じゃあルリお姉ちゃんともうすぐ会えるんだね、パパ」

「ああ、ラピス。

 これから火星で一緒に暮らしていこうな」

「「「うん♪」」」

これからルリを迎えるというクロノに三人は嬉しそうに返事をした。

アクアはそんなクロノに尋ねた。

「いいのですか?、ナデシコに戻る事も出来ますよ」

「それは火星のみんなも言ったけど、俺は火星に残るよ。

 俺はアクアを選んだから、この火星で生きるんだよ。

 ナデシコには戻らないよ。

 だから不安になる事はないんだよ、アクア」

バイザーを外してクロノはアクアに微笑んだ。

その顔は髪と瞳の色こそ違うがアクアがこの二ヶ月見てきたテンカワ・アキトの笑顔であった。

その顔を見てアクアはクロノに抱きつき、ただ泣き続けた。

クロノは心配する子供達に優しく微笑んで安心させた。

いよいよ火星は本格的に前史にはない行動を取り始めた。

第二次火星会戦と後の呼ばれる戦いまで……後二日。

火星と木連、双方の準備は万全の状態でお互いの実力を見せ合う戦争の始まりでもあった。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

何とかここまで進みました。
皆さんからの意見を元に改訂してきましたがどうでしょうか?
黒い鳩さんのおかげで皆さんの意見が聞けて自分の欠点が解消できるといいですね。

では皆さんの意見を楽しみに次回でお会いしましょう。

追記
ライトニングのモデルに関して、ゲッター○ボ、ラ○ジンオー等と言った意見がありますが、それは間違いです。
まあ、似ていますが、変形機構はモデルになった機体そのまんまのままですから(汗)
そう、別にあるのです。
非常にマイナーなものかもしれないので、分からないかもしれませんね。
反響が多いのでちょっと吃驚しています。




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