機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第九話 奇跡の交渉『愛撫か?』 -その漆-
 
 
 
 
ルリたちが学校に通い始めるのと同時にミナトも働き出した。
ただ、食堂を手伝うのではなく、雪谷食堂に程近い会社のOLとしてである。
ナデシコにスカウトされる前後からヘッドハントを受けていた会社であったため、諸手を上げて歓迎されたのは言うまでも無い。
元々有能のため、あっという間に仕事をこなしていくようになったのであった。
 
 
「ただいま〜」
今日も今日とて、勤務を終えて雪谷食堂に帰ってきたミナトをサイゾウが出迎える。
「おう、お帰りミナト嬢ちゃん。今日は遅かったな?」
「ごめんなさ〜い。急に出張になっちゃって東京まで行ってたのよ〜。ソニックリニアだったけどようやく帰ってこれたの〜」
ちなみにソニックリニアとは亜音速(時速約1100km/h)で走行する高速鉄道。北海道〜九州間をわずか三時間半で結ぶ最新の鉄道である。
「ミナト、お帰り〜」
「ミナトさん、お帰りなさい」
店で注文取りをしていたルリとラピスの二人が挨拶してくる。
「は〜い、ただいま。お土産買ってきたから後でみんなで食べましょう」
「お土産って?」
ラピスが尋ねる。
「東京、墨田は八広の『梅鉢屋』特製『かぼちゃ羊羹』よ。和菓子の老舗のお店でね〜。綺麗な上に美味しいのよ〜」
直後にミナトの背後で食堂の扉が開いた。
「出前終わりました〜……って、ミナトさんお帰りなさい」
「ただいまアキト君」
 
この後、ミナトはスーツをエプロンに着替えて食堂を手伝うのだった。
 
 
 
十二月も半ば過ぎ━━━
 
「ねぇ、『クリスマス』って何?」
夕食時にラピスがミナトたちに尋ねてきた。
なんでも学校で『クリスマスのプレゼント』の話題が出たそうなのだが、それがよく判らないと言う。
ルリもどう言う物なのかは知っていたが、どういう謂れがあるのかは知らなかった。
その為、ミナトとアキトで教える事になったのだが……。
クリスマスイブの夜に何があったのかは、ここでは割愛する。
 
 
 
学校は冬休みに入ったので、昼間から食堂を手伝うようになったルリとラピス。
おかげでロリコンどもが大挙して押し寄せるようになり、店は大繁盛していた(笑)。
加えてルリとラピスの友達やその親が来るようにもなったため、いつの間にか雪谷食堂は『大行列が出来る店』として地元で有名になっていった。
 
 
 
そうして年は変わり、一月元日。
「「「「明けましておめでとうございます」」」」
「?」
晴れ着を着て挨拶する面々を不思議そうに見るラピス。
「ええとね……『明けましておめでとうございます』っていうのは『昨年一年が無事に終わってよかったですね』って言っているのよ。『また一年無事に終わらせられるように』って願いもこめられている言葉なのよ」
ミナトの説明に一応納得したのかラピスも新年の挨拶を返し、全員で初詣に行く事になった。さすがに食堂も今日は休業である。
初めての初詣でルリとラピスがしでかした事については……何時の日か語る事もあるだろう……。
 
 
 
そうやって三ヶ月ほどかけてルリとラピスが一般社会に馴染み始めた頃……大きな変化が訪れようとしていた。
 
 
 
一月も半ばを過ぎ、雪がちらちらと降り始めた夜のこと……
 
ラストオーダーを終え、いつものように暖簾を畳む時刻になった頃……新たな客が現れた。
「悪いね、もう看板なんだが……」
「いえ、食事に来たのではありません。ハルカ・ミナトさんはいらっしゃいますか?」
「いることはいるが……。おーい、ミナト嬢ちゃん! お客さんだぜ!」
「は〜い……って、あら? 貴女……」
エプロンで手を拭いながらやってきたミナトが見た人物は、エリナ・キンジョウ・ウォンだった。
「お久しぶりです、お姉さま」
 
 
 
「どうぞ」
「ありがとう」
ミナトとエリナが向かい合って座っている食堂のテーブルにお茶と羊羹を置いてルリが下がっていく。
「あの、お姉さま。もう一度ナデシコに乗ってくれませんか?」
「別に私がいなくても問題ないでしょ?ナデシコを動かすくらい」
かなり深刻な表情でミナトに懇願するエリナをあっさりとあしらうミナト。
「動くことは動きますけど……、オペレーター五人がかりでやっと動く程度で、しかもオモイカネがすぐにへそを曲げてしまうんです。先日行われた作戦でも戦闘中にいきなりフリーズしかけてしまって……」
「なおのこと私は要らないじゃない?」
「ホシノ・ルリに……」
「ハルカ・ルリ」
「え?」
「ルリルリの名前は『ハルカ・ルリ』よ。もう『ホシノ』じゃないわ」
「すいません……。ハルカ・ルリに乗ってもらうならお姉さまとテンカワ・アキトも一緒じゃなきゃやだ、と……。その、オモイカネが駄々をこねていまして……」
駄々をこねる……って、さすがオモイカネ。普通のAIと一味違うな。
「あの子ったら……。そんなに寂しかったのかしら? 一応ネットでルリルリとは話をしているみたいだけど」
「ハルカ・ルリが外部の人間になってしまったから機密事項を話せないのがストレスらしくて……」
感心するミナトにため息をつくエリナ。
「ま、それもあるでしょうね。でもオモイカネはルリルリのことが大好きだからそばにいてほしいのよ」
「それだけじゃないと思います」
いつの間に接近していたのか、ルリが口を挟んだ。
「ルリルリ、盗み聞きはよくないわよ?」
「すみません。でも私の名前が出ている以上、無関係じゃ無い筈です」
「まったく……どこでそういう物言いを覚えてくるんだか」
「主にミナトさんだと思います」
「む……」
ルリの見事な返しに押し黙るミナト。
「それはさておき、オモイカネがミナトさんやアキトさんを呼ぶのは『安心』だと思います」
「『安心』?」
ルリに言葉に聞き返すエリナ。
「はい。ミナトさんの予見……というか予測・危機回避のための準備・発案能力は実際以上の効果を持ってナデシコを救ってきました。その先見の明とでも言うべき部分は安心感を持つ理由になると思います」
ルリの言葉に胸を痛めるミナト。
それは『先見の明』などではなく、未来を知っているからなのだ……とは言えず旨にしまっておくしかないからだ。
「それにアキトさんは……その、なんていうか……いてくれると私は凄く安心できるんです……。つらいのも怖いのもアキトさんと一緒なら乗り越えられそうな気がするんです……。それをオモイカネも知ってくれているんだと思います」
最後の方は顔を赤く染め、声が小さくなっていく。
「でもねエリナ、私達三人がナデシコに乗ったらラピスが一人になってしまうわ。ようやく家族が何なのか、判り始めたあの子を置いていくわけにはいかないわよ?」
「はい。なので彼女もサブオペレーターとしてナデシコに乗り込んで欲しいんです。元々マシンチャイルドであった彼女ならオモイカネとの親和性も高いはずですし」
「……あんな子供まで戦争に駆り出す気なの、アカツキ君は?」
「……ゴメンなさい、ルリちゃんは少しだけ席を外してくれないかしら?」
話を聞いて柳眉を立てたミナトを見て、エリナがルリに退席を願う。
「何故ですか?」
自分が絡むであろう事から仲間はずれはイヤだと思ったのか、食い下がるルリ。
「ちょっとややこしい話になるの。まだお姉様以外には聞かせたくないのよ」
その言葉を聞いてミナトが少し考えた後、ルリに言った。
「……ルリルリ……、ちょっとだけお願い」
「……判りました……」
ミナトの言葉に、そう言って下がるルリ。
ルリが十分に離れたところでエリナが小声で話し始めた。
「……実は……あの研究所のデータをすでに一部受け取っていた社長派の残党がクリムゾンと接触して、ハルカ・ルリやラピス・ラズリ・ハルカ、マキビ・キラを狙い始めた、という情報がネルガルのSSから出てきまして……」
「そういうこと……」
確かにこれはルリには聞かせられない、とミナトも納得する。
「一人ぐらいならともかく四人ものマシンチャイルドに隠れて護衛を付けるのは現状ではかなり厳しくて……。それでその内二人、ハルカ・ルリとラピスラズリ・ハルカの二人をナデシコに保護して、残りの二人にネルガルのSSを集中させよう、というのが会長の案なんです」
「……確かに別々の教室の二人より同じ教室にいる二人を護衛するほうが楽でしょうね……」
元々ルリはナデシコのクルーなのだから、必要以上の混乱や面倒は無い。マキビ兄妹を乗せるよりははるかにいいだろう。
「それから公的に護衛を付けられるようにマキビ兄妹にも頼みごとをする予定です」
「確かにネルガルから仕事を頼まれているのなら、送迎と称して護衛する事も楽でしょうね……。勝算はあるの?」
「ネルガルのSSは企業子飼いのSSの中でもトップクラスの戦闘力です。護衛に関しては十分かと」
確かに未来の記憶でもネルガルのSSは戦闘に関しては高い技術を持っていた。
……代わりに情報戦はいささか劣っていたが……。
「……仕方が無いわね……。とりあえずアキト君やラピスにも聞いてみるけど……、キラちゃん泣いちゃいそうね……」
「……そうですね……」
二人は確実に泣くであろうキラのことを考えて、暗い表情になったがそれを押し込む事にした。
 
 
話を終えた二人は食堂の入り口で別れの挨拶を交わしていた。
「じゃあ、お姉様、三人にお話しをお願いします」
「判ったわ。あとはキラちゃんだけど……」
「そちらについては私が説得をします」
「そう。お願いね」
お互いがやる事を確認した二人は残りのメンバーを説得するために店内へ、そして会社へと向かうのだった……。
 
 
「……それがウォンさんが来た理由ですか……」
居間で事情を説明されたアキトが湯飲みを持ったまま呟く。
「ええ……。……私はこの話を受けた方がいいと思うの」
「なぜですか?」
ミナトの言葉に問うルリ。
「おおむねはエリナの言った通りの理由よ。実際、クリムゾンクラスの大企業が動いているとすると民間人程度じゃ盾にもなれない。それに最悪サイゾウさんにも迷惑をかけることになる」
「確かにそれは避けたいですね……」
ミナトに同意するアキト。
「かまわねえって言ったろうがよ」
サイゾウの言葉に首を振るミナト。
「命の危険があるんです。恩人にそんな危険を犯させるわけにはいきません」
「仕方ない……ですね……」
ルリもなじんできた学校から去るのはつらいのだろう。
「ねぇ、みんなとお別れしなきゃ駄目なの? やっとお友達ができたのに?」
ラピスはやはり学校に行かせてやりたいが、状況がそうもいっていられなくしてしまった。
「せめてナデシコが補給のために寄港している間ぐらいは学校に行かせてやりたいですね……」
「そうね……。それができるかどうかエリナに問い合わせてみるわ」
アキトの言葉に肯くミナト。
「とすると私とアキト君、ルリルリはナデシコ乗艦に賛成ということね。ラピスは保留、と」
みんなの意見をまとめていくミナト。
「しかし……そうすると嬢ちゃんたちは行っちまうのか?」
「はい。……短い間でしたがありがとうございました」
サイゾウに頭を下げるミナト。
それを見てボリボリと頭をかくサイゾウ。
「気にすんな。元々一人でやってた店が、また一人に戻るだけの話さ」
「一応ここにもネルガルのSSが付くはずなので身の安全は保障できるはずです」
「それこそ気にすんな、だ。なんとでもなるさ。それよりちっこい嬢ちゃんのほうが大変だろ?」
ミナトの言葉に『気にするな』と返し、さらにラピスの心配をするサイゾウ。
「はい……。ありがとうございます……」
サイゾウに対し、深々と頭を下げるミナトであった。
 
結局ラピスもミナトの説得に応じ、ナデシコに乗る事になった。
ミナトはルリとラピスの学校の手続きに奔走し、ルリたちはナデシコに持ち込む荷物の準備に入るのだった……。
 
 
 
一方、キラの説得に向かったエリナであったが……こちらはものの見事に失敗していた。
それだけキラにとってアキトの存在が大きくなっていたのである。
 
仕方なく、ミナトたちも説得のためにマキビ邸に行く事にした。
 
 
アキト達が行ってしまう事を聞いた日から部屋に閉じこもって出てこなくなったキラに扉越しに声をかける一行。
しかしラピスの声がかかった時、キラは爆発した。
「ずるいよ! 私だってアキトお兄ちゃんのこと好きなのに! 何でラピスが一緒に行けて私はダメなの!?」
扉の向こうからの言葉に無言になる一行。
それだけキラの中でアキトの存在は大きくなっていたのだ。
……一緒に暮らしている兄よりも。
エリナが意を決した表情で扉をノックする。
「キラちゃん、聞いて頂戴」
「やだ!」
にべも無い返事だが、エリナはそれでも話を続ける。
「貴女に残ってもらうのは、貴女にしか出来ない事をこっちでやってもらうためなの」
「……『役目』?」
扉の向こうでえづきながらも聞き返してくるキラにエリナは説明を続ける。(この時、ナデシコ艦内でとある女性が何かに反応したような仕草をした事がオモイカネの艦内記録に残っていたが割愛する)
「そう! 私専属の着せ替えモデルに……」
スパーンッ!
言い終わらないうちにエリナの後頭部にハリセンで突っ込むミナト。
「そういうことは余所でやって頂戴♪」
ミナトの顔は笑っていたが、目は据わっていた。
それを見たエリナは慌てて言い繕う。
「じょ、冗談ですよお姉様……。キラちゃん、実はね今やっているアキト君の乗る予定のエステバリスカスタムの改良を手伝って欲しいの」
「…改……良……? アキト…お兄ちゃんの……?」
そう言いながらようやく天岩戸を開けるキラ。その顔には涙の後が残っていた。
「そう。アキト君がIFSが当たり前になっている火星出身なせいだと思うんだけど、アキト君が使っていたエステバリスのIFSコンソールの消耗が他の人たちのエステバリスより圧倒的に酷いのよ。たぶんイメージングに慣れているかどうかの問題だと思うんだけど……。それで同じくイメージング能力が優れている貴方たち兄妹に新型IFSコンソールのテストをやってほしいの。どうかなキラちゃん?」
そう言って笑顔で尋ねるエリナ。
「…アキト…お兄ちゃんの……ため……?」
涙の跡の残る顔で聞き返すキラ。
「そう、アキト君のため」
大きく頷き、キラの言葉を肯定するエリナ。
「………………………………………………………………やる……」
キラは悩んだ末にこの提案に同意したのだった。
「キラちゃん……。俺のエステ、よろしく頼むね」
そう言ってキラの頭をなでるアキト。
「うん……」
頬を赤らめて頷くキラであった。
(……ホント、年下にはやたらめったら好かれてるわね〜アキト君。私の逆行前から考えてもルリルリにラピスにイネスさん(元アイちゃん)にメグちゃんに艦長(精神年齢五歳)か……。それで今回はさらにキラちゃんも……。……アキト君が犯罪に走らないように注意しないと……)
アキトに頭を撫でられて頬を赤くしているキラを見て、そう決意するミナトであった。
 
 
 
結局、ルリとラピスはナデシコの佐世保寄港中は学校へ、それ以外は通信教育と言う形で勉強する事になった。
サイゾウと別れ、ナデシコのいる佐世保ドックに向かう一行。
流石に今回はアキトも自転車ではなく、全員の身の回りのものを積載したトラックに自転車ともども乗る事になった。
これで坂道を登っている最中にトランクをぶつけられることも無いだろう(笑)。
 
 
 
ナデシコのいる佐世保ドックに着いたミナト一行。
 
ナデシコに来るとアカツキが通路で待ち構えていた。
「やーやーお帰り〜。これでナデシコも本領発揮できるってわけだ。よろしく頼むよ〜?」
なぜか光るアカツキの歯を見てラピスが隣のルリに「あのおじさん、何で歯が光るの?」と尋ね、ルリは「きっと発光塗料でも塗っているんでしょう」などと答えていた。
ラピスの『おじさん』発言に対し、後頭部に汗を流すアカツキ。
「ふっ……。あらぬ誤解を受けているようだが、これはカッコいい男の美学なのさ! そこんとこ誤解の無いように。それと僕はまだ『おじさん』じゃないからね?」
髪を払って格好をつけようとするアカツキにミナトから言葉がかかる。
「アカツキ君、そんなこと言ってると『大関スケコマシ』から『負け犬スケコマシ』に呼び方を変えるわよ」
「な、何で『負け犬』なのか教えてくれるとありがたいんだけど……」
ミナトの言葉にさっきより大量の冷や汗を流しながら尋ねるアカツキ。
帰ってきた答えは無情だった。
「だって……アカツキ君じゃ女の子にモテないわよ、ナデシコじゃ。アキト君のほうがモテるわね、確実に」
 
ガァァァァァァァァァァァン!!
 
まるで己の熱血戦闘が間違っていたことを指摘された時のヤマダ君のように目を見開いて硬直するアカツキ君。
「その時代を逆行するようなロン毛とか、からかうような口調とか。ナデシコで通用はしないと思うけどな〜」
硬直が持続するアカツキに対し、トドメの一言が入る。
「まあ、時代遅れは熱血のヤマダ君とどっこいどっこいよね」
「ぐはぁっっ!?」
あまりと言えばあまりな言葉に吐血して床に沈むアカツキ……。
床に沈んだアカツキを当然のごとく踏み越えて(踏みつけて)先へ進む一行であった……。
 
 
各部署に顔を出していくミナトたち。
ミナトやルリの帰還を歓迎する者。アキトに嫉妬の炎を燃やす者。そしてラピスに好奇・歓喜の視線を向けるものなど色々いたが、誰一人としてミナトたちの乗艦に反対する者はいなかった。
最後にミナトたちは火星から帰った後に補充されたメンバーに顔合わせをするためにブリッジに来ていた。
「お姉さま、この五人がサブオペレーターとして入ったクルーです」
そうやって示された五人のうち、一人に見覚えがあった。
「あれ?貴女……」
「あれーっ? もしかしてミナトさん!?」
向こうも気づいたらしい。つまりそれは知り合いである彼女である、と言うことだ。
「誰ですか?」
「ルリルリには前に話したわよね? 私の知り合いでオペレーターIFSを着けた娘」
ミナトの言葉に少し考えて、ポン、と手を打つルリ。
「……ああ、あの胸まで痩せたっていう……」
「ミ〜ナ〜ト〜さ〜ん(怒)」
言われたくない事だったのか、ミナトに詰め寄るミナトの知人であった。
「まーまーまー。ここはとりあえず自己紹介をお願いします。貴女方以外はすでに顔見知りですので」
プロスの言葉に一つため息をついて自己紹介をする五人。
「オオムラ・ユカです。ミナトさんとは以前いた会社で一緒に働いていました」
一番最初にミナトの知り合いであった女性が自己紹介をする。小柄で長髪の女性である。かつて大きかったとされるその胸は現在はかなり小さくなっていた(笑)。
「キクチ・カオリです。オオムラ先輩の学校の後輩です。」
さらに小柄で眼鏡の女性が頭を下げていた。こちらはショートボブの好奇心の強そうな人物であった。
「クラモチ・テツコです。よろしくお願いします」
目の光が怪しい人間その壱。ウリバタケの同類のような人物であった。ショートカットの髪に十人並みの容姿ではあったが、何かが決定的におかしかった。そう、いうなればどこかで道を踏みはずしているような感じなのである。宗教家とも違うその逝き方は……夏と冬の有明に集まるような人種の中でも高レベルの逝き方に似ていた。
「フジタ・ヒロミです。クラモチさんの前の会社での後輩です。」
そして目の光が怪しい人間その弐。こちらも同様のようである。……いいのか、こんな連中乗せて……。
と、ここまでは日本人ばかりであったが、最後に明らかに人種の違う人物が挨拶してきた。
「ライカ・クルセイドです。前はシスターをやっていました」
金髪・碧眼・眼鏡・巨乳という、かなり美人の女性がのたまった。
……って、全然職業的つながりが無いだろ!
かと思っていたら、プロスの言葉で疑問が氷解する一同だった。
「え〜、クルセイドさんにはオペレーターの他にカウンセリングも受け持ってもらう事になっております。元シスターですので懺悔を聞く事は慣れていると言うことですので」
「そんなわけでよろしくお願いしますね〜♪」
下げた頭と同時にミナトを上回る魔乳が『たゆん』と揺れる。その揺れ幅は『ホントにブラを着けているのか!?』と疑いたくなるほどである。
その挨拶に鼻の下が伸びるアキトの尻をラピスがつねり、ルリは踵でアキトの足の甲を踏む。
ちなみにルリとラピスの制服の靴はハイヒールだったりする(笑)。
激痛に耐えかね、片足を掴んで跳ね回るアキトを見て失笑するクルーたちであった……。
そんなアキトを横目で見やった他のクルーたちがルリとラピスに向き直る。
「お帰りルリちゃん、ミナトさん。それから新しい私たちの妹も。あと、ついでにアキトも」
ユリカが四人に微笑んだ。
「またよろしくお願いします」
「みんなよろしくね」
「よろしく……」
一番人見知りするかと思ったラピスだったが、雪谷食堂でのウェイトレスの経験が人見知りを無くしているようだった。
なおアキトは未だに答えられない状態だったりする(笑)。
……というか、すでに『ついで』か、アキトの扱いは……。
 
 
 
「どうも〜! お久しぶ……」
「よ〜う。アキト〜」
二人の妖精に攻撃された痛みの引いたアキトは格納庫に行って挨拶を……と思っていたが、いきなり現れたウリバタケに絡まれてしまった。
「ど、どうしたんですかウリバタケさん?」
その暗い雰囲気にビビリながらも尋ねるアキト。
その肩をがっしりと掴んで涙目でウリバタケが話し出した。
「聞いてくれよ〜! 実はな〜……、今度入って来たクルー……、女性が多くてさ〜」
「え、ええ。ブリッジで会いましたけど……」
ウリバタケならもっと喜ぶんじゃ? と思ったアキトは次のセリフで目を丸くした。
「でもさ〜、腐女子ばっかりなんだよ〜(涙)」
「へ?」
「ヒカルちゃんの書いたBL同人誌を喜んで読んでるんだぜ〜(涙)」
「は、はぁ……(泣くところかな、そこは……?)」
「ほれ……最新発行の奴なんてさ……」
(なんでそんなの持ってるんだろう……? つ、突っ込まない方がいいか……?)
「ジュンとヤマダのカップリングなんだぜ〜(涙)」
「…………え、え〜と…………」
さあ、どうすべきか? 悩むアキトであった。
 
 
 
新しい出会いと戸惑いと、そして幼いヤキモチ×2を乗せ、ナデシコは旅立つ。
それは新たな戦いの始まりでもあった……。
 
 
 
 
あとがき
 
ども、喜竹夏道です。
準レギュラーのオリキャラでました。
ナノマシンの弊害の体現者(笑)。
まあ、一部色々な意味でぶっちぎっているキャラも出してしまいましたが(汗)。
 
そしてキラちゃん、ハーリー君退場〜!
でも戻ってきますのでご安心を。
 
 
ほぼオリジナル設定で突っ走ってきた第九話もこれにて終了。
これからはTV版に沿ってストーリーは進行していきますが、そこはそれ。オリジナルな内容と何処からか持ってきた決めゼリフなどをちりばめますのでお楽しみに。
第十話はあの! あかほりさとると水谷優子のコンビで作られた「『女らしく』がアブナイ」を元にした話になりますが、私が書く以上、TVそのままの進行にはなりませんのでお楽しみに?
 
なお、『梅鉢屋』は実在の店舗です。ネットで検索すれば出てくると思います。
『かぼちゃ羊羹』は冬場の限定品なのでHPに載っていないかもしれませんが、色合いが綺麗な上に美味しいです(基本甘党なもんで。酒も飲みますが)。
 
クリスマスにも外伝を書くかな……?




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