機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第十話 『淑女らしく』がアブナイ
 
 
 
 
時間は日本時間で午前二時。
またもこんな時間にブリッジに集合をかけるキノコであったが、みんなそんなモノはガン無視である。
いるのは新しく入ったオペレーター五人娘のうちの二人である。
通常時はこの五人とルリとラピスがローテーションを組んでオペレートしているのだ。
ルリやラピスは子供である事から基本的に昼間限定で担当している。
それ以外の時間は大人である五人が担当しているのだ。
 
 
ちなみに、今回ミナトは何をしているのかと言うと……。
 
「あ、あんっ! お姉様っ!? そ、そこはっ!?」
「あら、こんなとこも感じやすかったのねぇ?ふふふ……」
 
なんて事をエリナの部屋でやっていたりする(汗)。
堕とした後、知らんぷりをするようなミナトではない。
アフターケアもバッチリである(笑)。
 
 
同時刻、ナデシコ食堂内・厨房━━━
 
ジュー、ジュー。
 
夜のナデシコの厨房に調理の音が響く。
ルリがアキトに料理を教わっているのだった。
ちなみにメニューは━━━最初はアキト特製チキンライスを覚えたがったルリだったが━━━慣れていないと言う事で比較的やりやすい玉子焼きからと相成った。
 
━━━ナデシコに乗り込んでからは、『風紀上の問題』と言う事で別々の部屋になったアキト達。
少しでも一緒にいる時間を増やしたいルリが考え出したのが『アキトに料理を教わる事』であった。
ラピスは深夜に慣れておらず、おねむの時間であるのでアキトを独占できるのだ。━━━
 
流石にルリは物覚えがよく、すぐに慣れてきた。
それを見ながら、すぐに教える事がなくなりそうだ、などと思っているアキトであった。
 
そしてその脇で何やら作業しているユリカ。
明らかに料理とは違う、なにやら黒魔術の儀式のようなその行為に一抹の不安を覚えたアキトはユリカに尋ねる事にした。
「……何やってんだユリカ?」
「ヤマダさんにお夜食作ってんの! それでぇ…………」
表情が緩むユリカ。
どうやら脳内では桃色妄想劇場が大絶賛放映中らしい。
「……そうか。まあ頑張れ」
危なそうなので放置する事に決めたアキトであった。
そうこうしているうちにルリが料理を終わらせる。
「アキトさん、こんな感じでいいですか?」
「どれどれ……。うん、いいんじゃないか? 初めてにしては良く出来てるよ」
「よかった……」
味見したアキトの評価に安堵するルリ。
それを見ていたアキトに後ろから声がかかる。
「ねえねえアキト。私のも味見してみて!」
ユリカがアキトに作ったものを差し出してきた。
「どれど……う゛っ!?」
振り返ったアキトの目の前にあったのは……かつては可食物であった食材が、なにやら異様な……いや『異妖』な存在に変化した物体であった。
「ね、どうかな?」
キラキラした目で尋ねてくるユリカに後ずさりながら答えるアキト。
「……悪い事は言わん。すぐそれを捨てろ」
「え〜? なんでよ〜? 美味しいのに〜!」
「嘘をつけ!!」
そのとおりだ!!(天の声)
「ほら〜、味見してよ〜」
毒見じゃないのか!?(天の声)
「い・や・だ!!」
全力で否定するアキトの脳裏には火星での惨劇が蘇っていた……。
子供時代のユリカが作ったものを無理矢理食べさせられ……、何度も三途の川を渡りかけたあの日々を(うち一回は会った事のない己の祖父に川の反対側まで槍投げのように投げられた)。
食えば確実に一時間は悶絶するであろうその料理を進んで食べよう筈もない。
「ヤマダさんだっていつも美味しいって言ってくれてるよ〜!!」
言ってない。
というか、いつも逃げ回っているのに無理矢理食わされ、のた打ち回るヤマダを見て『美味しくて声も出ないんだね!』などと勘違いして放置する自分中心天動説の言葉を信じる者はいない。
「嘘つくな! それはどう見ても食べ物じゃない!!」
アキトのセリフは最もだろう。
コックに対する冒涜だ。
しかし、強引グマイウェイなミスマル・ユリカには通じない。
「む〜! ……えいっ!!」
一瞬の隙を突かれ、スプーンで無理矢理食べさせられるアキト。
そして……顔色が普段の色から紫へ、紫から赤・青・黄色・緑・黒・白に変わった後、また紫に戻り……気絶した。
「アキトさん!? アキトさん!?」
必死に揺するルリを尻目にユリカは、
「うん、あまりに美味しさに気絶しちゃったんだね! ありがとアキト!」
と言って、作り上げた物体を持って厨房を出て行ってしまった。
……慣れているはずのアキトがすぐに気を失ったところから察するに、昔よりさらに威力が上がっているようだ。
そこへやってきたのは何やら飲み物を持ってきたメグミ。
そして、厨房の中で倒れているアキトとアキトにすがり付いて泣いているルリを見つける。
「ルリちゃん……? アキトさん!? どうしたんですか!?」
「アキトさんが! アキトさんが!」
パニくったルリに驚きながらも、準看護士の資格を持つだけあってすぐにアキトの様子を確認する。
「……うう……」
そんな中、アキトがうめき声を上げた。
「「アキトさん!!」」
二人がアキトに声をかけるが視点が定まらないアキトが何かを求めるように手を伸ばす。
「み、みず……」
「は、はい! すぐに━━━━」
ルリはすぐに立ち上がりコップを取ろうとするが、それより早く━━━━
「はいアキトさんこれ!」
そう言ってメグミは持ってきた毒々しい七色に変色する液体の入ったコップを渡す。
視点の定まらないアキトはそのコップを掴み、一気に中身を飲み干した。
結果……。
アキトの顔色がもう一度、紫から赤・青・黄色・緑・黒・白に変わった後、また紫に戻り……心停止した。
「「アキトさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」」
 
ルリに呼ばれた救護班と準看護士の資格を持つメグミによってどうにか蘇生に成功したアキトは、以降二人の厨房入りを禁止にするよう、プロスとホウメイに頼み込んだのは言うまでもない……。
 
 
アキトが心停止したのと同時刻、ゲキガンガーを観賞中のヤマダ・ジロウの部屋でも異臭が発生したが、発生源となった料理を作った張本人はヤマダが気絶したのを『美味しさのあまり気絶した』と勘違いし、放置。
結果、早朝のミーティングにヤマダが現れなかったため通信を繋いだメグミが倒れているヤマダを発見。
胃と腸の洗浄を行って三時間後、ようやく復帰した(普通死ぬと思う(汗))。
 
 
 
予定より四時間ほど遅れてブリッジに集まった一同に今後の予定を話すプロス。
「え〜、では我々はテニシアン島に落ちた新型と思われるチューリップの調査に向かうわけですが、この島は実はとある個人の所有となっております。所有者は現地に滞在しているとの事なので、作戦行動前にご挨拶に向かいたいと思います」
「アタシは行かないわよ。めんどくさい……」
「はい。提督には元々ナデシコに残ってもらう予定でしたので一向に構いません」
あっさりとキノコを切り捨てるプロスも慣れたものだ。
「まず交渉役として私が、艦の代表として艦長か副長のどちらかにいらして欲しいんですが……」
「え〜。私すぐに遊べると思ってたから準備して無いですよ〜?」
艦長にあるまじき発言をするユリカ。
「……判ったよ、僕が行くよ……」
流す涙に同情したのはブリッジクルーのほとんどだった……。
「……では、副長に同行してもらうとして……。揚陸艇ヒナギクで向かう予定なのでヒナギクの操縦をハルカ・ミナトさんに、ナビゲートをハルカ・ルリさんにお願いしたいのですが」
「いいわよ」
「ナデシコのオペレートはどうするんですか?」
即答するミナトと代わりを誰がやるのか確認するルリ。
「それはラピス・ラズリ・ハルカさんにお願いしたいと思います。よろしいでしょうか?」
「うん。いいよ」
自分を信頼して任せてくれることを理解しているラピスはやる気満々だった。
「それと護衛役にパイロットとエステバリスを一機……。そうですね、テンカワさんにお願いしたいのですが……」
「俺っすか?」
まさか自分が指名されるとは思っていなかったため、聞き返すアキト。
「はい。実はこの島の所有者と言うのが若い女性でして……」
「だ〜ったら僕が行こうじゃないか!」
若い女性と聞いて名乗りを上げる大関スケコマシ。
「……アカツキさんが行くと上手くまとまるものもまとまらない可能性があるので……。ヤマダ「ダイゴウジ・ガイ!」さんはこのように交渉中に何かしでかしかねないので不向きな方ですから、ハイ」
雇い主に対してかなり辛辣な事を言うプロス。
「リョーコちゃんたちじゃ駄目なんですか?」
「ナデシコの護衛に残っていて欲しいんですよ。スバルさんたちなら三人でそれ以上の働きをしていただけますし……。どうでしょうか?」
「アキトさん……」
ルリの悲しそうな目を見て決断するアキト。
「判りました。俺が行きます。アカツキに任せて交渉決裂させてもしょうがないですし」
間違ってはいないが、何気に酷い事を言うアキト。……一応雇い主だろうに。
「おお。助かります。では……」
「その前に、プロスさん」
プロスの話を遮るミナト。
「私とルリルリとラピスの呼び方なんだけど……、名前で呼んでもらったほうがいいと思うの。私たち全員『ハルカ』姓だし……。二人もそれでいいわよね?」
「はい」
「うん」
頷く二人を見て了承の頷きを返すプロス。
「……判りました。では……」
「あ、あともう一つ」
「……なんでしょうか?」
またも話が止められたので、ちょっと怒り気味のプロスであった。
「調査が終わったらビーチで遊ぶ事を許可してもらってね。個人の所有じゃ勝手な事は出来ないし」
「はい、それは勿論です。どうやらすでに制服の下に水着を着込んでいらっしゃる方もいるようですから……」
その台詞にエリナがピクリと反応するが……他のクルーに特に気づかれた様子はなかった。
すぐ後ろに居たヒカルとイズミ以外には……。
 
 
 
ナデシコから飛び立った空戦フレームとヒナギクが目的地に向かう途中に、件の新型チューリップがあった。
そのチューリップを見たアキトがチューリップの周りのバリアに気づく。
「あれ? なんであのチューリップの周りにバリアがあるんだ?」
「拡大した映像を見る限りだとクリムゾン社製のもののようですが」
アキトの声にすぐに確認するルリ。
「調査するまで活動できないようにしてあるんですかね?」
ジュンが比較的まっとう、かつ、好意的な意見を言う。
一緒に死ぬ相手が来るまで動かないようにしておくため、なんて理由はミナトしか知らず、首をかしげる四人。
「さあ、それはなんとも……。ただバリアがクリムゾン社製の理由は解りますよ。なにせここの所有者はアクア・クリムゾン。つまりクリムゾン社会長のお孫さんですから」
「……確かネルガルとクリムゾンって犬猿の仲だったんじゃあ……?」
「ま、確かにそうですが地球を守ると言う大義名分と軍からの指示ではいかんともしがたいのですよ、ハイ」
ジュンの台詞を苦笑いで返すプロスだった。
「とりあえずバリアの事、ナデシコに連絡を入れておきますね」
ルリの行動はある意味当たり前だった。
 
 
そしてヒナギクと護衛の空戦フレームのエステバリスはSTOL用の滑走路に降り立つ。
 
クリムゾンのSSに案内されてきたのは豪華な一室。
そこに居たのは……
「皆さん、ようこそいらっしゃいました」
髪と肌の色を除けばゲキガンガーのアクアマリンにそっくりな女性……。
「私、アクア・クリムゾンと申します」
物腰の優雅な女性がアキト達に挨拶してくる。
それにはプロスがまず返した。
「私はネルガルで会計監査をやっておりますプロスペクターと申します。どうぞプロスとお呼びください」
「ナデシコ副長のアオイ・ジュンです」
「オペレーターのハルカ・ルリです」
「操舵士のハルカ・ミナトです」
そこで自己紹介が途切れた。
見るとアキトが、ぽかん、とした顔でアクアを見つめていた。
「……どうかなさいまして?」
「アキトさん?」
声をかけて、まだ意識がこっちに戻っていないことを確認したルリがアキトの足を踏む。
「あ痛っ! な、なにするんだよ、ルリちゃん!?」
「知りません!」
ぷい、と横を向くルリ。
アキトが前に目を戻すと、ミナトがからかいの目で、アクアは興味深そうな目で、プロスとジュンはやれやれと行った様子でアキトを見ていた。
「あ、あれ? えーと……」
「もう皆自己紹介終わっちゃったわよ? なのに他の女の子の顔をず〜っと見てればルリルリだって怒るわよ?」
「え!? あ、はいすんません!!」
慌てて頭を下げて自己紹介するアキトだった。
「コックのテンカワ・アキトです」
「アクア・クリムゾンです。でもコックさん……ですか? 今着ていらっしゃるのはパイロットスーツですよね?」
アキトの自己紹介に引っかかるものがあったアクアが質問してくる。
その質問にはプロスが答えた。
「ええ、彼はコックとパイロットを兼務しておりまして。コックが本業なので『コック』と自己紹介したわけです」
その説明に納得したのか、頷くアクア。
「そうでしたか……。でも何で私の顔をじっと見てらしたんですか? ……もしかして恋人の顔にでも似てましたか?」
その『恋人』というフレーズに、アキトの隣から怒気が膨れ上がる。
それに冷や汗を流しながらもアキトは答えた。
「あ、いえ、そういうんじゃなくて……。ガイ…じゃなかった、えーと、友人が良く見ているアニメで貴女そっくりなキャラクターが出てくる話を先日見たばかりなのでつい……」
「あらあら、そうでしたか。偶然って凄いですねぇ」
「そうですね。ハハハ……」
そう言って頬をかくアキトの後頭部には脂汗が流れていた……。
 
 
 
挨拶をするだけで戻ろうとしていた一行だったが、アクアが『話は食事でもしながら』と言い出した。
特に断る理由も無いため、それを受けた一行はすでに準備の整っていた食堂に案内された。
「さ、どうぞ。召し上がれ」
「うわ〜! 美味そう!」
「ホントだね」
そう言って食べ始めるアキトとジュン。
他の三人は警戒しているのか食べていない。
というか、ミナトは知っているから食べないのだが……、アキトたちに注意をする間が無かったためアキトたちを止められなかったのだ。今から止めるのは不審に思われてしまうので黙っている。
「では、この場をお借りして……。今回すでに軍からご連絡があったと思いますが、貴女の所有するこの島に落下したチューリップの調査をさせていただきたいと言う事なんです。実質、軍からの指示ですので拒否権は無いのですが、こうしてご挨拶に参りました」
食事の前に話を済ませてしまおうとするプロス。
「それはどうもご丁寧に。余り島を荒らさなければかまいませんよ」
すでに『命令』として話がいっている以上、儀礼的なものでしかないが快諾するアクアにもう一つの話をプロスは切り出した。
「それともう一つ……。実はこちらのビーチをクルーに一時開放していただきたいのです」
「あらあら……。どうしてですの?」
「実は当艦は先日来より度重なる戦闘でクルーに休暇を出せていないのです。この綺麗な海で一日羽を伸ばせてあげられたら、と、こういった次第でして……」
「……くすくす。仕方ないですね……。汚したりしないことが条件ですよ?」
快諾してくれた安堵するアキトとルリ、そしてジュン。
「それは勿論です。では少し失礼して、艦と連絡を取ってきます」
「はい、どうぞ」
そう言って席を離れるプロス。
コミュニケの画面の向こうでは一気にやる気の出たユリカの顔が見える。
その間にアクアに問いかけるミナト。
「貴女、『アクア・クリムゾン』って言ったわよね?」
「ええ」
微笑みながら頷くアクア。
「私の記憶が確かなら、『アクア・クリムゾン』っていったら、社交界デビューの時に参加者全員に痺れ薬入りの料理を振舞ったり、自分のためだけに少女漫画を書かせるために漫画家を誘拐したりした、クリムゾン家の問題児だと思ったんだけど?」
「まあ……。良くご存知ですのね?」
その直後、いきなりフォークを落とすジュンとアキト。
「「こ……これ……は……?」」
なにやら呂律も回らないらしい。
「……やっぱり……。一服盛ったわね?」
「あらあら……。たいした事ありません。ほんの、致死量寸前の痺れ薬を入れただけですから」
微笑を崩さないアクアだが、その瞳は先ほどと違い壊れ始めていた。
それを見て取ったミナトは二人を一喝する。
「『ほんの』じゃないわよ! アキト君! ジュン君!」
ミナトの声に応えるかのように立ち上がるアキトとジュン。
「くっ……!」
「うぉ……っ!」
「……なんで動けるんですの……?」
驚愕の表情で立ち上がる二人を見るアクア。かつてこの半分以下の量で舞踏会に出席した全員を動けなくした事もある実績のある薬を盛られて動ける人間が存在するなど信じられなかった。
「……ふっ……、甘いな……」
脂汗を流しながら立ち上がるジュン。
「ユリカの殺人料理に比べれば……」
同じように立ち上がるアキト。
「「致死量寸前の痺れ薬など、下剤程度のレベルなのさ……!」」
いや、自慢できるこっちゃねぇだろ(爆笑)。
とはいえ、足元のふらついているアキトとジュン。
いや、アキトの方がふらつきが大きい。
夕べの艦長の料理で体力を消耗しているのか?
「……しょうがないわね……。一人でもいいか……」
そう言ってアキトたちに近づくアクア。
すぐにジュンはアクアから離れるが、アキトは捕まってしまう。
いつのまにか戻ってきていたプロスが笑顔のままで『困りましたね〜』などと言っていたが……、その顔では説得力が無かった。
「……そう、貴方が……」
そしてアキトを抱きしめたアクアが懐から出したリモコンのスイッチを押した。
 
 
 
同時刻、ナデシコブリッジ━━━
「あ」
『それ』に気づいたラピスが声を上げる。
「どうしたの? ラピスちゃん?」
その声に反応した艦長がラピスに問うと返ってきた答えはとんでもないものだった。
「チューリップの周りのバリアが消えた」
一瞬の空白の後……。
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ?」」」」
驚く艦長以下ブリッジクルーとキノコが慌てふためく。
「どーするのよ!? 何とかしなさい、艦長!」
「はっ、はい! エステバリス隊直ちにチューリップに向かってください! エステバリス隊発進後ナデシコも発進します! ただし周辺に被害を出さないように! 機嫌を損ねて休暇をパーにしないでください!」
喚くキノコに従ってエステバリスに出撃をさせるが、遊ぶための注意事項も忘れていない。
『『『『『合点承知!』』』』』
こんな時だけ息の合うパイロットたちであった……。
 
 
 
何とか離れようとするが、痺れ薬でいまいち力の入らないアキトを抱えてうっとりするアクア。
「私の夢がかなうのね。戦火の中で散る愛し合う二人……。ああ素敵……♪」
「ちょっと待ってください!!」
ルリが妄想に入り込もうとするアクアを止める。
「そうよ! ちょっと待ちなさい! 戦争で死んだ人の死体ってものすごく酷い状態なのよ! 判ってるの!?」
「ミナトさん、それはちょっと違うような……」
同じく止めに入ったミナトのセリフを聞いて眉をひそめるルリ。
ジュンとプロスにいたっては余りの空気に声すらかけられなかった。
「ルリルリもよーく聞いておきなさい。いい? 戦争で死んだ人の死体っていうのはね、手とか足とか首とかがもげてて内蔵とかが破裂するように飛び出していて、挙句皮膚はケロイド状で男か女かも判らないような状態のものがほとんどなのよ!」
「うっ……」
火星で見た光景を思い出してしまったのか、うめくルリ。
アキトと暮らしだしてから感受性が大きく成長したルリは、以前と比べてそういった事への反応が過剰になってきているのか、以前は平気だった凄惨なシーンに苦手意識を感じるようになっていた。
「それだけで済むならまだしも、機銃掃射食らった死体なんか穴だらけ、機動兵器なんかに踏み潰された死体なんかは地面に張り付いて、剥がすのにスクレイパーとか使わなくちゃならないんだから! そんな状態で生きている人たちだっていて、はみ出した内蔵を必死にお腹の中に戻そうとしながら死んでいく人や、下半身がなくなって上半身だけで這いずって内臓を置き去りにして死んでいく人だっているんだからね!」
そろそろ状況がつかめてきたのか、顔色が悪くなるアクア。
しかし続くミナトの凄惨な死体描写のマシンガントーク。
「……だからね、戦場で綺麗に死ねるなんてのは妄想でしかないの! 判ったらとっととアキト君を放しなさい! ……あれ?」
ふと気づくとそこには、あまりの気分の悪さに卒倒したアクアとルリ、そしてしびれて動けないアキトの姿があった。
(……表現、生々しかったかな?)
ちょっと反省するミナトだった。
 
 
 
そこへ駆けつけたのはリョーコの赤いエステバリス0G戦フレーム。
空戦フレームのメンテが間に合わなかったので、女の子は0G戦フレームで出撃していたのだった。
『大丈夫か!?』
巨大なジョロと屋敷との間に盾になれるように降り立ったリョーコ。
しかしリョーコのエステが屋敷に目を向けた時、リョーコのエステの外部スピーカーから『ブチッ!』という音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
『アキト! てめえ何やってんだ!?』
すぐそばに降り立った赤いエステから外部音声で響くリョーコの声。
ミナトが目をやるとそこには……まだしびれて上手く動けないアキトが卒倒したアクアに覆いかぶさっていた。
「あのね、リョーコちゃん。これには深い訳が……」
『アンタは黙っててくれ! 俺はアキトに聞いてんだ!』
とりあえず誤解を解こうとしたミナトの通信をさっさと切るリョーコ。
相当、頭にきているようである。
 
そして……エステの拳で巨大ジョロをボコりだしたリョーコだった。
 
 
 
結局、リョーコの戦闘の邪魔にならないようにアキトにジュンが肩を貸し、ルリをミナトが抱きかかえ、アクアをプロスが背負って避難させることになった。
避難してから一分後、リョーコのエステのラピッドライフルで完全に沈黙する巨大ジョロ。
しかし怒りに燃えているリョーコは、完全に原形をとどめなくなるまでエステで殴り続けるのだった……。
 
 
 
その後の調査で新型チューリップは輸送用のカプセルのようなものであることが判明。
ボソンジャンプに関係した機構は無いと言うことでイネスとエリナがつまらなそうにしていたのは余談である。
 
 
なお、この一件後しばらくの間、肉類を見ると気持ち悪くなるルリの姿があったそうな。
 
 
 
「「「「「「「「「「海だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」」」」」
仕事が終わり、海岸を全力疾走で走っていくクルーたち。
もちろん初めての海であるラピスもリョーコたちと一緒に全力疾走して行った。
だがルリはアキトに手をつないでもらってゆっくり歩いて行くのだった。
美味しいところは忘れないらしい。
 
 
思い思いに遊ぶクルーたち。
遊び疲れたアキトは、木陰に避難していた。
そんなアキトにちょっときわどいハイレグで近づくルリ。
「アキトさん、どうしたんですか?」
「いやぁ……ちょっと疲れちゃった。ルリちゃんは遊ばないの?」
「私も少し疲れました。色々ありましたし……」
「ハハハ、そうだね」
そう言って笑うアキトの隣に座るルリ。
海からの風が焼けた身体を冷やしていく。
「どうですか、アキトさん」
そう言ってアキトの前に立ってくるり、と一回転するルリ。
「うん、よく似合っていると思うよ」
そう言って微笑むアキトだったが、次にルリが取った行動に微笑が張り付いた。
「ちょっとは胸、大きくなったんですよ……、ほら……」
そう言って自分の胸にアキトの手を持っていくルリ。ミナト直伝の落とし方である(笑)。
「え、ええええええええええと……ご、ゴメン!!」
顔を真っ赤にして逃げ出すアキト。
「あっ! アキトさん!!」
アキトを追いかけるルリ。
って、すでにベッドの中でルリを愛撫してるんだから今さな何を赤くなっているんだか……。
━━━ちなみにルリの胸は本当に少しだけ大きくなっていた。ミナト直伝のバストアップ体操の成果である━━━
 
 
キノコは前回の通り落とし穴に落ちて埋められ、ウリバタケは変な浜茶屋をだす。
不味いラーメンを食うジュンに、将棋をするプロスとゴート。
肌を焼いているのはホウメイとイネスとエリナである。
ビーチバレーをするパイロットたちに、それぞれ遊ぶクルーたち。
 
しかしその中にミナトの姿は無かった。
なぜならば……、卒倒したアクアを手篭めにしていたからだった(笑)。
 
「あらあら……いけない娘ね……。こんなに濡らしちゃって……。はしたない娘だって言われなかったの?」
「はぁんっ! そ、そんなこと言ったってぇ……。あぅんっ! お姉様の指が気持ちよすぎるからぁ……」
「あら、私が悪いって言うの? だったらもう止めるけど?」
「ああっ!? 止めないで下さいっ! もっと、もっとぉ……!!」
 
結局、日が落ちるまでたっぷりと遊んだクルーたちであった。
 
 
 
そして出発の時間がやってきた。
別れ際にミナトに会いに来たアクアにミナトが告げる。
「お姉様……。行ってしまわれるんですか……?」
「ええ。私はあの子達を守らなければならないもの……」
「あの、私は……」
何かを言おうとしたアクアの言葉を遮るミナト。
「どうしても綺麗に死にたかったら、氷河の底で氷漬けになって死になさい」
「え……?」
ミナトが何を言いたいのか判らずきょとんとするアクア。
「それなら死体が酷く傷つくこともないし、氷河と地面の間に落ちても綺麗に……ミイラになれるから」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! もう嫌です! 死ぬのなんて嫌です! お姉様と会えたのに死にたくありません!」
『死』に抱いていた綺麗なイメージが払拭されたかどうかを確認するためのミナトの言葉だったが……、少し変な方向に醸成されてしまったらしい(笑)。
「ならいいけど……」
いいのか!?
「もし、死ぬにしても誰かを巻き込むのは止めなさい。生きていたい人を無理矢理殺すものじゃないわ」
「は、はい……。あのお姉様……」
「なに?」
何かを尋ねようとするアクアに促すミナト。
「また……、また会えますよね?」
「どうかしら? 戦争が早く終われば会えるかもしれないし、それまでに死んでたら会えないし」
アクアの希望は戦争が続く限り叶わない可能性があることを示唆するミナト。
「そんな!? そんなこと言わないでください!」
だがそれはアクアにとっては拒絶にも等しかった。
「……ま、クリムゾンが今やっている事を止めれば、また会える確率は上がると思うけどね」
「今、クリムゾンがやっていること……?」
ミナトは、ミナトの言っている意味が判らず疑問の表情を浮かべるアクアにやるべき事を教えた。
「そ。知りたかったら……調べてみなさい。貴女は知らなければいけない立場にある。知らないことは決して悪いことじゃない。けれど知るべきことを知ろうとしないことはいけないことよ」
そう言ってアクアに背中を向けるミナトだった。
 
 
 
「お姉様〜! カムバ〜ック!!」
波の音の聞こえる浜辺でナデシコを見送るアクア。
「ああ……行ってしまわれるのですねお姉様……。……あら?」
振り向いた浜辺の波打ち際にあるものが生えていた。
 
 
 
同時刻、ブリッジ━━━
 
「あれ? キノコは?」
オペレーター席のラピスの言葉にブリッジクルーがキョロキョロする。
「そういえば見てないような……」
「……あ……。そういえば砂浜に埋めたままのような気が……」
ヒカルの言葉になにやら思い出そうとしているアカツキ。
「誰も掘り起こしてなかったっけ?」
「別にいなくてもいいんじゃない?」
リョーコの言葉に対し、あっさり見捨てるミナト。
「……そうですね……」
艦長すらも同意していた。
「艦長、テニシアン島から通信です」
「へ?」
メグミの言葉にきょとんとするユリカ。
「通信つなげます」
そうルリが言うとブリッジにアクア・クリムゾンの顔が広がった。
アクアの顔を見て『あ、あれはアクアマリン!?』などと驚いているヤマダもいたが割愛する。
『こんばんは、お姉様。お久しぶりです』
「久しぶり…って一時間ほど前に別れたばっかりなんだけど……」
『愛する人に会えない一瞬は永遠に等しいのです!』
アクアのその目は本気だった。
「そういう用件だったら切るわよ」
即座にルリに切るように指示を出そうとするミナト。
『ああ、酷いですお姉様。折角『忘れ者』の事をお伝えしようと思いましたのに……』
「わすれもの〜?」
『はい。アレです』
そう言ってアクアがコミュニケの向きを変えた先には波打ち際で何とか溺れまいとする必死に努力するキノコがいた。
「あのね、アレは『忘れ者』じゃないわよ。半ば意図せずに棄ててきたの」
この場合、『捨てて』ではなく『棄てて』と言うところがミソである。廃棄物扱いのキノコであった。
『不法投棄は困るのですが……』
「やれやれ……引き取りに行かねばなりませんかね? 宅配便で送ってもらうと言う手もあるかと……」
何気に酷いプロスの言葉に思わず頷くブリッジクルー。
『引き取りに来られるんでしたら、明日もウチのプライベートビーチで遊んでいってもいいですよ? お姉様に来て頂くことが条件ですけど』
「行きます!」
「ちょっと艦長!?」
アクアの言葉に手のひらを返したユリカの言葉に振り向いたミナト。
しかしその隙を突いて二人の裏切り者がミナトの背後に立った。
「「ふっふっふ……」」
その二人とはロープを持ったヒカルとイズミである。
 
 
なおこの日の夜、ルリは眠ったアキトの部屋に忍び込み……久しぶりに一緒のベッドで眠るのだった(笑)。
 
 
 
翌日、キノコは掘り出された後、医務室のベッドに『治療』の名目で縛り付けられ、ミナトはアクアに売り渡された。
そしてミナト以外のクルーは追加された南国での休日を楽しむのだった。
 
 
夕方━━━━何とか逃げ帰ってきたミナトはとりあえずユリカ・ヒカル・イズミの三人にお仕置きをした後、いつものように操舵席に着くのだが……。
それ以後、ミナトが睨むとなぜか三人とも『無理です! はいりません〜!!』と逃げるようになったと言う……(汗)。
 
 
 
 
あとがき
 
ども、喜竹夏道です。
ようやくTV版の話数に追いつきました。
TVでは某下道作家による脚本、その下道作家とコンビを組んで長年ラジオパーソナリティをやっている某外道声優によるゲストキャラで放映されたこのテニシアン島物語。
それを上回る鬼畜外道っぷりで書いてみようと思いました。ただ本編でそれをやると一部の話だけ十八禁になってしまうので、本編ではその辺の詳しい描写はせず、外伝(外道伝説・十八禁)で出そうと思います。
あと戦場の死体の描写に関しては「世界報道写真展」(毎年6〜8月ごろ恵比寿の写真博物館などで行われています)などで見たり、そういった資料を調べた結果です。
正直、気分のいいものじゃなかったです。
 
今回、ミナトさんをオチに使ってみました。
何をいれたんだ、何を……。
 
ちなみに砂浜に身体を縦に埋められると波の振動が直に伝わってくるそうです。
昔、茅ヶ崎に住んでいた頃に友人に聞いたことがあります。
何で縦に埋められたかは話してくれませんでしたが……。

それとこれでしばらく打ち止め、という感じになります。
一〜二ヶ月くらいで次を出す予定ですのでしばらくお待ちください。
流石にひと月で三つも四つも出すのは大変なので……。




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