フラナガン機関、キシリア・ザビが資金投入し、フラナガン博士が始めたニュータイプ研究機関である。
他にニュータイプ研究機関はないため、世界初であり当然あらゆるものが手探りであった。
そのため、キシリアは湯水のようにこの機関に金を注ぎ込んでいる。
そんなニュータイプ研究所はサイド3ではなくサイド6に置いてあった。
戦争から遠ざける意味もあったのかもしれないが、実の所ギレンとキシリアの対立の結果と言える。
もっとも、キシリアの一方的なギレンに対する対抗心の結果ともいえる。
だがしかし、今の状況においてはギレンが戻ってくる事はほぼ無い事はキシリアも理解している。
ドズルも死に、ギレンがこの度生還の可能性が低い一か八かの賭けに出た以上、もう対立の必要が無くなった。
そのため、キシリアは虎の子であるフラナガン機関についてギレンに語ったのだ。
結果として、現在ギレンがフラナガン機関の人員を動員可能な状態となっている。
ギレンはフラナガンに対し、いくつかの命令を行った。
その一つは彼らを地球へと送り込む事であった。
この先、色々なものが落とされるはずの場所に行けというのだ、当然フラナガンは混乱した。
だが、総帥命令であり、キシリアの許可もある事からどうしようもない状況にあった。
結局引き受ける他無いため、フラナガン本人を含めた人員を地球へと向かわせる事となった。
キシリアがギレンの行動に青くなるのは、全てが終わった後であった。
機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第三十話 置き土産
あれから半日かけて襲撃が無くなった頃、軍の護衛部隊を呼んで、宇宙港までやってきた。
早速、マゼラン含めた5隻を編成し、地球へと向かう事を考えている。
正直、戦力として役に立つとは思っていない。
だがギレンに対抗できる天才が連邦軍にいないのは間違いのない所だ。
原作におけるア・バオア・クー戦においてレビル将軍亡き後、ギレンが死ななければジオンが勝っていた可能性もある。
もちろん、あの場面でジオンが勝っても最終的な戦いの勝利とは言えないが。
それでもギレンという大量殺戮を何とも思わない精神性を持つ天才はそれだけで脅威だ。
だが問題は俺がどうするべきかだろう。
サイド1にいれば恐らく被害は受けない、しかし、地球連邦に甚大な被害が出るだろう事だけはわかっている。
サイド6から向かったという宇宙船が何を目的としているのかは解らない。
しかし、フラナガン機関があるのもサイド6である以上無関係とするのは厳しいだろう。
「ギレンもなりふり構っていないという事だろうな」
「閣下、地球へ向かわれるのですな?」
「バスクやってくれるか」
「貴方には出世してもらわねばなりませんからな。私を艦隊司令まで引き上げてもらわねば」
「ああ、任せておけ」
バスクはジオンに対して敵愾心は今でもあるだろうが、Zのような状態ではない。
ならいっそ、言った通りの地位につけてやるのも悪くなさそうだ。
もっとも俺自身が出世出来ればの話ではあるが。
「編成はどのように?」
「マゼランを中心に護衛部隊を付けて向かわせようと思っている」
「……せめて、分艦隊程度は使うべきかと」
「サイド1から艦隊をあまり引き抜きたくないんだ、ただでさえ3割程度の被害が出ている。
通常の艦隊戦においては壊滅的被害と言っていい」
「それでもです。今ジオンに残っている艦艇数は防衛に張り付けるのがやっとのはず、
今更、サイド1への再侵攻等ありえない」
「……確かにそうだが」
「テロリストによる自爆も、あれが最後でしょう。そんな人員がいるなら既に使っている」
「確かに」
警戒は怠れないが、多少は持っていく事も出来るか。
なら、精鋭を持って行く事にしよう。
「わかった、この際だマゼラン6隻シールド艦2隻サラミス12隻で戦闘艦20隻。
駆逐艦20隻を後方の護衛としコロンブス3隻、そしてガンフォートレス12機とセイバーブースター50機。
後はボール改も50機としようか」
「了解! 艦隊編成急ぎます」
ほぼ中核戦力を集めた艦隊と言っていい。
現在のサイド1艦隊の3分の1にはなる。
当然ながら、残された艦隊の方をまとめる事になるイーサン・ライアー准将は大変だろうが……。
まあ、彼自身は自己保身もしっかりしているしよほどの事がなければ残党に負けはしないだろう。
俺自身の戦闘力なんてないから、ほぼ他人任せになるのは正直心苦しいが。
だからこそ、戦場に行く事をためらうわけにもいかない。
今回はいざと言う時のため、バスクの部下たち以外にもレオン・リーフェイ少尉以下情報部も護衛についてもらっている。
「あと問題があるとすれば……」
「ヤシマ少将突然の事で申し訳ないね。だが君も悪い」
「ブレックス議員まさか地球へ行くおつもりで?」
「当然だろう、それに姫君は放っておくと一人で行きかねないよ?」
「私は自分を姫なんて思った事はないですが」
「はは……」
どうやら件のイーサン・ライアー准将が俺に押し付けたらしい。
まあ、わからんでもない。
明らかに爆弾だからな……コントリズムの政治家とジオンの姫なんて。
だが俺達はこれから危険地帯に行くってのに。
後ろに控えているラル中佐に視線を向けるとお手上げのジェスチャーをしている。
「分かっていますか? ギレンはこれから連邦軍の戦力を一時的に枯渇させる気でいます」
「ギレン・ザビが地球に向かったのは連邦に対する復讐と言う事ですか?」
「いえ、違います。連邦軍の戦力に大打撃を与えれば、
公国が負けてもサイド3に対してあまりきつい態度は取れないからです」
「むしろ恨みから余計報復を叫ぶ人が増えそうですが」
その通りだと俺も思うんだけどね、どうもガンダムの世界では違うみたいだ。
原作者がそこまで考えていたかは正直分からないが、一応理屈は通る。
それはこの世界の通信事情と復興予算によるものだ。
「先ず一つとして、世界の通信網がまだ発達しきっていないという点があります」
「通信網ですか? それがどういう
「この戦争の死者が誰によってもたらされたものなのか、知らない人達がいるという事です」
「え……」
ガンダム世界の通信はミノフスキー粒子によって遮られる。
もちろん、原作においては戦争の後戦争難民や連邦の役人や軍人等が情報を拡散しただろうが。
同時にジオン残党も自分達の主張を世界中にばらまいたはずだ。
どちらが正義なのか、それは当然聞いた人間にとって都合のいい方だ。
「ジオンは通信妨害を得意とし、連邦軍上層部にまでスパイを送り込んでいました。
一般の通信でどこまで情報が理解されているのかわからないという点が一つ」
「まさかそんな……」
もちろん、攻め込まれて生き残った人々は復讐を誓うだろうが、この世界においてそれは少数派だ。
死者の数をかなり抑える事に成功したという事は被害者も少ないという事でもある。
もちろん死んだ人間は多いが、コロニーは一つの都市である以上家族は一つのコロニーに住んでいる事が多い。
コロニーを越えて結婚する人間もそう多くはない、となれば復讐戦を挑みたい者がどの程度いるか。
「二つ目として、連邦軍の軍事力に被害が多きくなると戦後待っているのはコロニー復興と軍の再建となります。
それは金も時間も多くかかります10年で終わるかどうかと言う所ですよね」
「それは」
「軍の再建が遅れるという事は、つまり強硬な手段を取りにくいという事でもあります」
「なるほど」
恐らくこれが原作において連邦が強硬姿勢に出られなかった理由の一つだろう。
他にも色々ありそうな当たり闇が深いが。
「そして最後になりますが、箱に書かれていたものと連邦上層部の宿題です」
「箱というと、ビスト財団の庭園にあったものですか」
「その通り、連邦大統領が宇宙人に会ったら人権上げてねという話ですな」
「宇宙人……でしたっけ?」
「文面上はそうなりますが、これを宇宙市民は自らの事だと思うでしょうね」
「なるほど」
「そして連邦上層部はいずれ全員が宇宙に上がるという約束をしています。
そのために、砂漠地帯のダブリンに首都を構えているんですからね」
「そうなのですか?」
「これは、現役議員のブレックス殿に聞いた方が速いですよね」
この辺りの事情はよくわからない。
以前はもっと都市部にあったのかもしれないという話もあるが、ダブリンは長期間首都であったようだ。
理由は環境汚染を忘れず、いずれは地球回復のために全員を宇宙に上げるという理念を持っているかららしい。
正直アホかと思う。
自然と言う物を誤解している、そもそも自然は環境破壊の産物なのだ。
聞いた事が無いだろうか、元々アメーバは窒素呼吸をする生命体だと。
そして一部が突然変異で酸素呼吸となり、その毒素で窒素呼吸のアメーバを全滅させた。
それが地球生命の祖先であると。
その後も、環境が変わって生命の種類が変わる事はあっても環境破壊が問題になった事はない。
何故なら、環境破壊された世界こそ次の生命にとって基準の自然となるのだから。
だから当然であるが、地球から人が離れれば地球は人類以外の生物が新たな霊長となり発展するだろう。
その結果は恐らく、人類からすれば見るに堪えないものになるのではないだろうか。
環境破壊された世界を基準として増える生命なのだから、次はゴキブリが霊長かもしれない。
つまりはそういう事だ、自然が人類の理想通りになるはずもない。
「と言ってもコリントズムは全ての人類を宇宙に上げる事を主体としている訳ではないんですよ」
「そうなのですか?」
「あくまで理想の一形態。全ての人類が宇宙に上がれば地球と宇宙と言う構図が無くなるからでしょう」
「なるほど」
「ジオン・ズム・ダイクンがどこまでを考えていたのかは知らない。
私はそちらよりも先に宇宙市民が投票権を持つ事が重要だと思っています。
宇宙市民からすれば地球等遠い所の話でしかないのが本音で、彼らが求めているのは先ず税を安くする事。
生活が困窮していても自治政府の代表すら投票で決まったものではない事が多い現状ですからね」
ブレックスはそこで首を振ってため息をつく。
それも本当の事ではある。
コロニー市民だって別に税さえ高くなければ連邦政府に対して含むところはあまりないのだ。
ジオン軍はザビ家に毒されて理想を語るが、他のサイドとの連携がうまくいかなかったのはそれが理由だ。
だからと言って、コロニーに対する核攻撃に切り替えるのは極端に過ぎるとは思うが。
「お父様は何故サイド3で大統領になったのかしら?」
「故人の事だから本当の事はもうわかりませんね、けれど推測するなら……。
当初こそ宇宙市民に対する税の緩和や福祉の充実等だったのでしょう。
連邦議会で否定された結果、意固地になってサイド3に行ったように見えます」
「もしかして当てつけですか?」
「それがあったかどうかは不明ですが、やってる事を見る限りありそうですね。
サイド3は立地的に商売にはあまり向いていない。
鉱物資源を取りに行くには良い立地ですが。
だから、全体として貧困層が多くなりがちです」
「そういえば……」
セイラはそこまで深くは考えていなかったんだろう。
まあ、年齢的に5歳以前の記憶しかない訳だろうし。
「だからジオン・ズム・ダイクンの思想は急速に広がった。
その影響力を見て利用しようとしたのがデギン・ザビやギレン・ザビでしょう。
特にギレンはジオンが来てから活発に活動している点を考えると。
神輿にすえるにはちょうど良かったのだろうと思えます」
「ではなぜ父は暗殺されたのでしょう?」
「分からない。というかザビ家がやった証拠も知りませんからね。
連邦が何かした可能性も否定する要素が無い」
実際、ザビ家がやった可能性は高い。
シャアもニュータイプの素養がある人間だ、ジンバ・ラルが嘘を言っていたなら気づく可能性が高い。
それにこの世界はオリジンの世界ではないからジンバ・ラルも恨みに凝り固まってはいなかったはず。
もしジンバ・ラルが証拠もなしに決めつけただけだったりしたらシャアが間抜けすぎる。
それはないと思いたい……。
「それは……」
「ただ、君の兄はザビ家がやった証拠をつかんだのでしょう。
彼はジオン軍に潜り込み、サイド1防衛戦の間にドズル・ザビを暗殺した様です」
「えっ!?」
「あくまで状況証拠からの予測に過ぎないですが、シャア・アズナブルと名乗っているのを確認しています」
「ほう、士官学校を次席で卒業したと有名な男ではないか。
同期がガルマ・ザビだった事から恐らく本来は彼が首席だったのだろう」
ランバ・ラルがシャアについて知っている事を教えてくれた。
まあ、優秀である事は間違いないだろうな。
彼は満遍なく能力が高く、パイロットの技量はその中でも飛び抜けて高い。
ニュータイプに目覚める前のアムロに対しては終始圧倒していたものだ。
「まあエドワウ君は恐らく、もうジオンから離脱していると思うので置いておきましょう。
今までの事から分かる様に、連邦軍の戦力が半減する様な大打撃を受けた場合問題が多く出る。
兵士の補充と兵器の更新、被害のあった場所の復旧等といった金も時間も手間もかかる。
その時間、それがサイド3に残された切り札です」
「なるほど、連邦がジオンに構っていられ無くなれば隙が出来るという事ですね」
「その通り、時間や金がかかればその分ジオンを再建するための時間が手に入る」
結局は大漁虐殺の副次効果になりそうだ。
つまり、ジオンは好き勝手したうえで片づけを押し付ける事で更なる利益を出そうとしていると言う事。
だから、戦死者は極力減らさねばならない。
「戦後、ジオン残党が発生すれば面倒な事になります。
世の中の不満を持つ人間達を取り込み、治安を悪化させ責任を連邦に押し付け不満を持つ者を増やす。
このサイクルがはまると延々テロに悩まされる事になる」
「……なんだか、凄く具体的ですね」
「まあ、歴史でそういう事を知っているのでね」
ガンダムにおける宇宙世紀を知っていればジオンの意味不明な残党の多さも知っているだろうが。
この世界の人に言っても頭がおかしくなったと思われるだけだろうが。
実際、原作では残党が雨後の筍状態だったので、よくそんなに人がいてどうして負けたと言われてたな。
アニメだけでもデラーズフリート、アクシズ、ロンメル隊、ネオジオン、袖付き、カークス隊等がある。
ゲームや漫画の残党も数えたら20を軽く超える。
そんなのが発生したら正直付き合いきれない、実際凶悪な敵が多すぎる。
下手に関われば艦隊事核ビームで全滅したり、近寄っただけで艦ごと爆発したりしそう。
「とりあえず、私が出来る事は地球に向かっている質量兵器の対処が間に合わない時の予備。
それから、現地でギレンが何をしようとしているのか調査する事です。
軍機とか言ってる時ではないので今は急ぎますが、
本来なら貴方達は機密を知った事で拘束しなくてはならないのですよ?」
「それは……、お役に立てると考えたからです」
「私のですか?」
「ええ、もしくは連邦政府のですね」
「なるほど、では後ほど利用させていただきますね」
「お好きにに」
はぁ、相変わらず肝が据わってるな。
俺が怒こられてないのはおそらく今の所、行動に結果が伴っているからってだけだろうが。
もしかして好意を持たれてるなんて可能性もある……かな?
等と少し高揚していたのが悪かったのか、次の瞬間もたらされた報告に顔を青ざめさせる事になる。
「提督! 太陽方向に影! これは……」
「ソーラ・システム……だと!?」
早速艦隊にとっての問題が浮上した。
あとがき
ソーラ・システムとソーラレイは似て非なるものですが、字面的にはめんどくさいですよね。
システムの方は無数の鏡による凸レンズの形成を行い、巨大な虫眼鏡の様に焦点に集めた熱で相手を燃やすというもの。
ソーラレイはコロニーを砲身としてありえない程巨大な粒子ビームを放つ兵器。
ソーラー・システムがエコな兵器であるのと対照的にソーラレイは莫大なエネルギーを必要とします。
正直コロニーまるまる満たせる程のエネルギーをどう集めたのかわからないですね。
なので今回はソーラー・システムを出す事となりました。
マハルの様にコロニーを改造する時間も人員も今はないでしょうしね。
ただ、色々考えすぎた結果余計こんがらがった感じの終盤になるかもです。
ご容赦くださいねorz
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