フラナガン機関、キシリア・ザビ肝いりのニュータイプ研究機関である。

フラナガン博士をリーダーとし、百人規模の人員が働いている。

ニュータイプとは何ぞやという点で既に躓いて、空転し続けた事もあった。

だが、近年コロニー生まれの人々の中から、突然空間認識能力が常識外に高くなった人物が見つかった。

また一種のテレパシーに近い能力を持つ人間もいる事がわかった。


眉唾な噂話から、実際に何かの能力を発現している人物を探し出すのに3年。

それらの能力者が何故能力を発現したのかや、どういう状況で発現しやすいのか等詳しい事を調べるのに2年。

どういったものがそれらの能力に影響を与えているのか、またその能力の強化が可能なのか調べるのに1年。

そして、それらを戦力化出来るか、といったキシリアの要請に対する研究に1年。

最近になってようやく、実戦レベルのニュータイプと言えるものの形が見えてきた所だった。


だがまだ、能力は十分でも実際に戦闘が可能なまでに至った者はいない。

そもそも、彼らは軍人には不向きな傾向が強かった。

例えば、実際にMSを動かすのは驚く程上手く、また、敵の居場所を視認する前から判別する事が出来る者はいた。

しかし、いざ戦闘となれば敵意に怯え、相手の攻撃に逃げ惑うばかり。

それを乗り越えても、敵を殺した時には悲鳴を上げて気絶する者もいた。


殺された人間の悲鳴が耳にこびりついて離れないとその人物は言っていた。

つまり感受性が強い事により発現する能力である事の弊害だ。

殺された人間の感情がダイレクトに伝わりトラウマとなってしまう。


フラナガン博士はそれを知り、軍事方面の利用は諦めるべきかも知れないと考え始めていた。

だが巨額の資金を投資したキシリアがそんな事を許すはずもなく、結局続ける事となった。

投薬や精神誘導等を使い意図的にニュータイプ能力による死に対する共鳴を鈍化させた。

そして、戦闘に関する忌避感を薄め兵士としての能力を高める。

そういった計画が策定されて次の段階に進もうとした所だったのだが……。


突然、研究対象を連れて地球に向かう様に指示が出された。

フラナガン博士はジオン公国の資金で研究を行っている以上逆らう事は出来ない。

だが、ジオンは先ほど敗戦したという話を聞いたところだ、そんな状況でやる作戦は碌なものではないと理解している。


「……亡命も視野に入れておくべきか」


あまり考えたくない事ではあったが、彼にとっては研究先がどこであろうとそれほど変わりはしない。

ならば、身売りも考えられる選択肢ではあった。


「最も、それが出来るかはまた別の問題か」


お迎えが来るらしいことを考えれば、逃げれば射殺も覚悟しないといけないだろう。

人体実験等を続けてきた以上まともな死に方が出来るかと言われるとフラナガン博士本人も自信は無いが。



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第三十一話 閃光



サイド1より出撃した、追撃艦隊だったが正直言って追いつくのは簡単である。

何せ、相手は大規模質量を引き連れた艦隊なのだ、目立たないはずがない。

なんなら、各サイドに派遣してある索敵部隊からリアルタイムで位置が更新され続けている。

サイド1から運び出した3基のコロニーは核爆発による大穴が開いている、真っすぐ進むはずもなかった。

何度も外付けの核パルスエンジンをふかして軌道修正を行っているので速度はそれほど出ていない。

つまり、追いつくだけなら簡単なのだ。


「ミノフスキー粒子戦闘濃度、敵はかなり広範囲にミノフスキー粒子を撒いている様子です」

「前回はミノフスキー粒子の外から隕石ぶつけてやったからな、警戒されているんだろう」

「それで、今回のアレは使うので?」

「当然だろう、大量虐殺等許すわけにはいかない」

「奴らを皆殺しにしなければ釣り合わないですからな」


隣のバスクがそういう、やはり原作のバスクと別人と言うわけではないとわかる。

彼は線引きがしっかりしている、敵と味方の2種類しかいないともいう。

だが実際、今回の件で6千万人の死者が出ている、サイド3の総人口一億五千万人の40%相当だ。

コロニー落としなんどされたら、死者数は十億単位で跳ね上がる。

原作においては、サイド3の実に30倍以上の人口を殺しているのだ。

主義主張があれば死者数がいくらいようとも許されるとかいうジオンの論理を蔓延らせる訳にはいかない。


「それは流石に極端ではないのですか?」

「その人の感性によるものですが、間違ってはいないと思いますよ」


セイラ嬢は原作でもジオン軍を殺していたわけだが、まあ民間人に被害が及ぶのは避けたいのだろう。

ブレックスも彼女の支持に回りそうだったので、俺はバスクを支持する事にした。

理由としては、実際間違ってはいないからだ。


「国を興したデギンが悪く、計画を立案したギレンが悪く、実行に移したドズルが悪い。

 確かにそうでしょう、ですが実際に殺した人間は悪くないと言えますか?

 虐殺を行った国の国民には責任は無いと?」

「少なくとも国民には責任を問えないはずです」

「それで済むなら、大量虐殺を実行する方が得になってしまうという事を理解していますか?」

「えっ?」


大量虐殺を行った者、そしてそれらを支援していた敵国民を許すという事は自国民を蔑ろにするという事だ。

実際この世にはリソースと言う物がある。

リソースとは資源であり供給源であり国家に当てはめるリソースとは国が扱う資金資源とマンパワーの事だ。

あるいは実行力と言い換えてもいい。

わかるだろうか、ジオンを戦後残すとなれば自国の復興予算すら厳しい連邦にとっては放置一択となる。

失われたコロニーの復旧、地上の環境整備、莫大な予算が必要になるだろう。

当然軍は縮小し、ジオンを構っていられなくなる。

結果、残党がいつまでもくすぶり続ける事になるのだ。


「ジオン公国は既に6千万の民間人を殺しています。

 そして、そのコロニーを使い地球に落とした場合10億人を超える死者を出すでしょう」

「……それは」

「そんな彼らにおざなりな終戦協定等を結んだ場合、指導者は死ぬかもしれませんが軍は残ります。

 そして、テロに走るでしょう。

 彼らは自分達が正しいと思っている、それはセイラ・マスさん、貴女も知ったでしょう?」

「はい、彼らは正しさを疑っていなかった」

「そう、そういう者たちを野放しにすれば、テロリストとして虐殺を続けるでしょう」


原作におけるジオン残党たちの異常性はデラーズフリートが証明している。

だが、それだけではなく祖国、つまりサイド3が特に被害も受けずに終戦したというのに残党は現れ続けた。

デラーズフリートだけではない、アクシズもグレミー軍もネオジオン(シャア)も、袖付きも、オールズモビルも。

なんなら、ゲームで登場するジオン残党たちも皆一様に自分達の正義を疑っていない。

虐殺をしても正義のためなら許されると思っている。

その狂気をアースノイドに向ける様は宇宙人の名にふさわしい意味不明なものに見えた。

地上にいるのが悪い、地球にいるのは特権階級だ、粛清せねばならないと言った感じだろうか?


「ではどうすれば?」

「痛みを刻まねばなりません。因果応報殺したなら殺される。

 死者を生み出した者たちにしっかり責任を取らせなければ、戦争が悪い事であると理解出来ない」


ハムラビ法典ではないが、原作で50億の死者を出したなら報復としてサイド3に核攻撃くらいはすべきだろう。

結局、原作では味方側の核攻撃はアウト表現だったのだろうが、この世界においてはその限りではない。

現実に何が出来るかという点こそ重要だろう。


「人間は痛みを伴う事で間違いを理解します。

 サイド3は今の所、防衛に回った事が無い、そのせいで余計に軽く考えてしまう」

「それは……」


セイラ嬢は否定したいのだろうが、原作においてはこれが結実する。

連邦はいつも踏んだり蹴ったりである、戦争で負ければ当然ひどい目に合うが、勝っても被害が甚大なのだ。

しかも嫌われ者すら連邦の物となってしまった。

そんな状況にしないためにも、サイド3住民には戦争に負ける事がどういう事か理解してもらう。

何せそのまま置いておけば、元気にテロしてくれそうだからな。


「結局人は痛みを伴ってこそそれがダメだと理解できる。

 しかし、あまりの規模の殺傷は脳が受け受けないのかもしれないな」

「それは一体……」

「連邦の死者を死者として数えない、全て悪であると決めつけて実際の死者を見ないという事です」


結局洗脳なのだ、宗教と何ら変わらない方式となるだろう。

自分達は上等な民族であり、連邦軍は下等な存在であり死んで当たり前というような教育がされていたと考えるのが妥当だ。

頭がおかしくなっても仕方ないだろう、まあ俺としてはそんな存在との対話なんて御免だが。

それに対抗するのは結局こちらも宗教を作るしかない。

そのためのセイラ嬢である、そうしなければジオンの洗脳には対抗できないという事だ。


「私は認めません。非道に非道で返す等」

「あなたはそれでいい、いずれその様な社会にしてくれる事を期待します」

「え?」

「ですが今回はもう、遅いでしょう」

「遅い?」


俺は前面モニターの一部を切り替える。

そこでは、サイド2の放送が映されていた。


『度重なるジオン公国の非道なコロニー破壊活動に対し、サイド2駐留艦隊による反撃が行われました』

「反撃……ですか?」

「いいや、反撃ではないかな」

「え?」

『出撃より3日でア・バオア・クー要塞を陥落、これによりサイド3へ向けて進軍可能となりました。

 サイド3より降伏信号が発されない限りは、サイド3に向けて進軍するという話を連邦軍広報より伺っております』

「このニュースはリアルタイムのサイド2の現状です」

「サイド2からサイド3へ進軍したというの?」

「はい、残念ながら彼らがまだ軍を保持しており、戦争を続けるつもりである以上トドメが必要です」


そう、これは当然の事だ。

サイド1は防衛で疲弊しており、サイド2は軍の疲弊はない。

更にゴップ大将から核ミサイルが補充されたという話を聞いている。

このタイミングを狙っていたとするならドンピシャだな。

何せ、攻撃軍の半数以上が消滅し、ギレン本人が一司令官として出撃した。

サイド3に残る戦力はクラナダの部隊と本国の防衛隊くらいのものだろう。

それも、最小限の数しか残せていないはず。


「彼らが引いた引き金が自分達に帰ってくる、それは当然の事です。

 恐らく上層部は直ぐ様は降伏宣言をする事になるでしょうが、それでは終わらないでしょう」

「降伏しても終わらないというのですか?」

「彼ら自身が終わらせない、何故なら優良なジオン国民が劣等なアースノイド等に負けるはずが無いから」

「あ!?」

「そう、確実に暴走する輩が出るでしょう。

 それは彼らの教育のたまものです。

 彼らが植え込んだエリート意識が敗戦を受け入れられない」


これがまだ、一年戦争が続き、主要な戦力が枯渇して新兵が大半になっていたら話は変わっただろう。

しかし、まだ戦争が始まって一週間程度しか経っていない。

軍の3分の1が壊滅、3分の1が出撃中更に残っている3分の1が壊滅した艦隊の生き残りと居残り組。

とはいえ、初期のメンバーばかりだ、エリート意識の塊のような輩がかなり残っているだろう。

例を出すならアサクラとかキリングとかああいう輩が。


「そして、今回私たちも核武装をしています」

「本当なのですか!?」

「ええ、コロニーを止めようというのですから、当然でしょう?」

「それは……」

「もちろん、核パルスエンジンを破壊して進行方向を変えられればそれで充分ですが、

 それが出来るかとうかはわかりません、なら次善の策も用意するのは当然でしょう?」


ダブルスタンダードと言われてもいい、こんな戦争で味方に死者を出すくらいなら敵に多く死んでもらうのは当然の事。

それに、核ミサイルには時限式信管を採用している、発射後設定された秒数経ったら爆発する。

この秒数は、発射時に敵の位置を測定して逆算する仕組みになっている。

可視光線や赤外線の反射で距離を測ればいいのだ、演算機が破壊されるのもミノフスキー粒子影響下でのみ。

ならば、影響の外で調べて発射し、着弾時間の逆算により命中率を高める。

幸い核ミサイルなので1kmくらい逃げられても有効範囲から出られない。


しかし、俺の考える様な事は当然ジャブローの高官達も理解しているだろう。

追いかけるこちらが射程範囲に捕らえるのが先か、それとも迎撃に出た連邦艦隊の背接敵が先かだ。

だがこの分だと恐らくは……。


「レーダーに感あり! 味方です!

 こちらの移動先と言うか敵艦隊の前方に現れました!」

「これは、間に合いそうにないな。速度を落として戦闘に巻き込まれない様に。徹底してくれ」

「八ッ! 全艦相対停止! これより敵艦隊から距離を取る!

 味方の核攻撃が来るぞ! スクリーンにフィルター展開!」


前面のスクリーンの明度が少し落ちる、だがそれから数秒後、スクリーンはほぼ真っ白になった。

味方が核ミサイルを使用したのだ。

もちろん、移動中のコロニーを破壊するのが目的だろう、だが敵艦隊にもかなりの打撃を与えた様だ。



「そんな、本当に……」

「コロニーを落とされる事と比べれば、かなりマシだよ」

「……」


セイラ嬢は呆然としたまま二の句を告げないでいる。

仕方ないだろう、核の炎なんて直接見たいものじゃない。

だが、先にやったのはジオン公国でありザビ家だ。

この世界では南極条約も結ばれていない、先にやった方が悪いだけだ。


「だが、この程度でジオン軍がいなくなるはずもない」

「どういう事ですか?」

「ギレンはおそらくもう地球に到着しつつあるはずだ。

 それに、こいつらはそのための囮を引き受けたに過ぎないだろう。

 コロニー落としも無論可能ならする気でいただろうか……」


恐らく、ギレン自信今回の事で生き残る気なんてないだろう。

戦後の状態をよくするのが今の彼の目的のはずだから。

何せ現状をひっくり返すには、サイド2からの攻撃を防ぎきり自国防衛をしつつ、

各サイドの駐留軍にも警戒しながらルナツーの艦隊に対抗する必要がある。

最低でも5倍以上の艦隊と戦う事になるはずだ、それもミノフスキー粒子の優位が失われつつある。

つまり、宇宙での戦いは既に連邦が勝利しつつある。


この状況で連邦に打撃を与えるならジャブローをどうにかするのが一番だろう。

連邦軍の首脳部はほぼここにいるし、連邦軍の工廠は大部分がジャブロー内部にあるからだ。

俺ならジャブローをどうにかしようとするだろう。



「目標が分かっている以上、対処法はある。艦隊を進めるぞ」

「ははっ!!」

「目標はジャブロー上空の確保、以後突入を開始する!

「了解しました! 艦隊前進巡航速度へ!」










あとがき


今回はかなり歯切れの悪い動きになってしまいました。

とはいえ、最終決戦と言っても艦隊戦はもう必要ないでしょう。

実際問題として、連邦の艦隊のうち3割ほどは動けるようになってきています。

そうなれば、優位性が失われるジオンとしては早期決着を狙いたいと思うでしょうから。



ようやく終盤に入ってまいりました、何とか完結まで走り切りたいと思います。



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