「ケッ歯ごたえがねぇな」

『無茶言うな、ジオン側だって突貫工事だったんだろう事はわかるだろ?』

「宇宙で戦ったザクはこんなじゃなかったんだがな」

『そのまま持ち込める訳もない、恐らく現地で組み立てられる様にした簡易型だろう』

「これが最後の戦いになるかもしれねぇってのによ」


ヤザンは不満だった、宇宙ではあれだけ手ごわかった敵のMSが殆ど回避も出来ずビームを食らって爆発している。

そのまま、秘密基地も巻き込んで任務完了となった。

次の基地も、その次の基地も同様。

かれこれヤザン隊だけで4つの基地を破壊していた。

それは、高速で動けるGフォートレスのお陰であった。


だが、簡易組み立て式のザクがそこまで酷い性能と言うわけでもない。

コロニー潜入用に急遽開発された点もありザクUというよりザクT程度の性能ではあった。

それでも、宇宙ならそこそこ戦えただろう。

しかし、地上では上空の敵に対してマシンガンを乱射する以上の事は出来ない。

さらに言えば地上戦を研究して作り出されたJ型でもない。

地上でも戦えるF型が最近開発されたばかりなので、それをベースに作られたのでその程度の適正だった。


つまり、元々はギリギリ並くらいの性能だったが地上運用に関してはまだまだ勉強不足だった。

その結果が、秘密基地の蹂躙劇と言うわけである。


ヤザン達は2時間程度の間に簡易式ザクをざっと20機以上スクラップに変えている。

ヤザンが手ごたえが無い事を嘆くのも無理ない事ではあった。

戦闘狂のきらいがある彼だが、無抵抗の相手をなぶるのが好きと言うわけでもない。

さっさと終わってほしいというのが本音なのだろう。


「基地制圧は後いくつだ?」

『コロンブスの観測によると俺達が潰したの以外は後2つらしいが、

 1つは既にセイバーブースターの部隊が制圧している上に、もう一つの基地に向かっている。

 つまり、これで最後って事だ』

「ほう、確かにどこも強そうなのはいなかったし、十分可能か。

 なら俺たちはジャブローに侵攻して来てる奴らの相手か?」


基地制圧がほぼ終わった事を知り少しやる気が戻ったヤザンだったが、

首を振ってブランはその考えを否定した。


『それがな、奴らジャブロー基地の入り口の一つを見つけたらしい。

 つまり、俺達の出番は終了って事だな』

「あー確か小型のMSみたいなやつらにやらせるんだったか、

 だが3mってのは起動兵器ってより鎧かなんかだろ。大丈夫なのか?」

『そこまではわからんよ。しかし、動かしやすいのは事実らしいぞ』

「へぇ、それは面白そうじゃねーか」

『訓練もせずに実戦はやめておけよ』

「……わかってるぜ」

『本当か?』


ヤザンの調子を見てどこか危うさを覚えたブランは確認するが、どうも上の空の様に見えた。

一応、報告はしておくかと無難な考えをするが、特に止める気もなかった。



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜




第三十五話 終わりの始まり



ジャブロー上空で航空戦力を展開し、地上にはAT部隊を投入したコロンブスだが、その後は空中に留まっている。

ヤザンのGフォートレス部隊も帰還予定だ。

つまり、現時点においてはここにいれば安全であるという事になる。

もうすぐ、ミノフスキー粒子の半減により通信もつながるだろう。


「今は突入したAT部隊の健闘を祈るしかないな」


しかし、ただ待つというわけにもいかない。

ここまでやって、ジャブローで核を爆破されましたではしゃれにもならない。

もっとも、ゴップ大将の事だから、既に手を打ってあるだろうとは思うが。


「ならばこちらは、ジャブロー入り口の封鎖からか」


いくつか、既にジオンに入り込まれた入口がある。

そこから直接、ジャブローの中枢に行ける程甘くは無いが、それでもつながりが無いわけではない。

元よりギレンの目的はジャブロー基地にいる軍上層部の壊滅と核兵器爆破による軍事工廠の破壊だ。

ジャブローの軍事工廠は艦艇用のものが中心であるためここをやられると、MSや戦闘機の運用が難しくなる。

何せそれを運ぶ艦隊を修理する場所も新規開発する場所も一から作り直しになるからだ。


原作の一つであるZガンダムにおいて、核を仕掛けられていた場所は中枢施設だが、核ミサイルサイロではない。

もう、重要な兵器類はグリプス2に移管した後だったのだろう。

つまり、現時点の方が爆破の威力が大きくなる可能性があるという事。


「工兵はどの程度乗り込んでいる?」

「この一隻だけである以上、整備兵を除けば工兵と言えるのは10名もいるかどうかと言う所でしょう」

「……そうか、とりあえずジオンが乗り込んだ場所だけでも封鎖しておいてくれ。

 多くても2〜3か所と言う所だろう」


ブリッジから機関長を呼び出し、話を進める。

実際工兵の人数が少ないのは予想していた、宇宙船に乗り込む人員としては優先度が低い。

その上、サイコミュ兵器によって昏倒した数もそれなりにいた様だった野だから当然だろう。


「入り込んだ場所と言いますと?」

「ジャブロー周辺にあった、奴らの秘密基地をあらかた破壊したんだ、残党が突っ込んでくるのは予想に難くない。

 突入した奴らと少しでも連携し辛くするのは当然だろう?」

「なるほど」


これで、少しは時間稼ぎが出来るはず。

次はもっと重要ながら、出来ればやりたくないめんどくさい仕事だ。


「ミノフスキー粒子の低下は進んでいるか?」

「はい、北米方向は既に半減し、通信可能になっています」

「キャリフォルニア基地に通信をつないでくれ。恐らく向こう側の準備も進んでいる頃だろう」


ヨゼフ・トラバートン中将の方に、降下前にもう一度通信をつないでいた。

理由は可能な限り地球圏全てに放送を行うためのものだ。


『ヤシマ少将今ジャブロー周辺のミノフスキー濃度が低下し始めている。

 敵の秘密基地を対処する事に成功したようだな』

「は、敵はジャブロー周辺に5か所の秘密基地を作っていたようです。

 ほとんどは、既に閉鎖された施設や企業が研究施設として作り出した場所でした。

 ただ、一か所だけは連邦軍が昔使っていたジオフロントタイプの基地だったようです」

『恐らく、議員や軍政畑の人間が金欲しさに売ったんだろう』

「私も同意見であります。ジオンは本当に優秀な人間が揃っている様でうらやましい限りですな」

『本当にな、そんな金をどうやって捻りだしたのやら』


まあ、ジオンの金に関してはある程度予想はつく、アステロイドベルトの私有化、独自に木星側と取引き等だ。

どちらも、連邦の許可を得てやっているはずもないため、管理の杜撰さの結果だろう。

また、そうでもなければ連邦軍と渡り合えるだけの軍事力を確保できるとも思えない。


MSに至ってはザクを8000機作っている、連邦において最大生産されたMSはジムUの12000機だ。

ジムUは0082〜0085あたりまでの主力機体だが、地球圏全てをカバーするのにその程度なのだ。

ジオンが8000機も用意できる時点でその資金力や資源力が連邦の30分の1なわけが無い。

艦隊にしたところで、連邦の主力艦隊と渡り合える数があるのだ。

恐らく、現実的には公表された資金、資源の10倍近い稼ぎがあったと見るべきだろう。

でなければ、戦後あれだけの残党勢力が出て来る説明もつかない。


「戦後はアステロイドベルトや火星に逃げ込まれない様にしないとな」


内戦中であったとはいえ、アクシズ一つで勢力図がひっくり返る等と言うバカバカしい構図はごめんだ。

そもそも、その内戦にしたところで、ジャミトフが成り上がるために作られたティターンズも酷いが、

シャアが味方になる構図を作るためだろう、反ティターンズを掲げた連邦勢力のはずのエゥーゴがジオン残党を引き込んでいる矛盾。

そして、その内戦に勝つために、両方の組織がアクシズに媚びを売るという意味不明な構図。

普通に考えて、一応とはいえ連邦軍なのだから最初にアクシズを潰すべきだろう……。

この辺りがしっかりしないから、連邦政府の描写の無さも相まって地球連邦がフレーバーテキストみたいになってしまうのだ。

つまり、最大の問題は連邦の意思表明の無さであるだろう。


『戦後の事は兎も角、準備はできた。直ぐにやるか?』

「出来れば、そちらでやってくれるとありがたいのですが……」

『そこは英雄殿に任せるさ。ジオンに勝った提督は君しかいない』

「……よろしくお願いします」


赤い人が言ってたまるで道化だよと言う奴だろうか。

仕方ない事とはいえ……。



















ギレン・ザビ率いる一個大隊はジャブロー潜入に成功したものの、予想外に被害を出していた。

ジャブローは内部構造が迷路になっており、しかも、その構造上兵士が潜みやすく発見が難しい。

内部兵器や61式戦車等も含め迎撃兵器によってかなり削られる事となった。

30機以上いたザクは既に21機まで減っている。

車両やマゼラアタック試作型のマゼラタンク(分離不能)等も随伴していたが半数近くがスクラップとなった。


「中枢部がそろそろ見えてくるはずだが……」

「閣下! 恐らくこのシェルターの内側ではないかと」

「ふむ……」


マゼランが悠々と入れるほど大きい扉は完全に閉じられている。

しかも、パスワードで開けようにも電源が落とされており、開閉不能になっていた。

ギレンはそれを見て少し考えるが、直に指示を出す。


「電源を取り付ける事は可能か?」

「はっ、工作班にやらせてみます!」

「急げ」

「ははっ!」


ギレンが部下に電力の復旧をするよう促す。

他の者たちは暫く待機となる予定だった。

しかし、そう甘くはなかったようで後方からマシン音が響いてきた。

現れたのはザクの足元にも及ばない小型のロボット。

人が乗り込む前提であるとするなら、ギリギリの大きさかもしれない。

3m程度の小型MSの様な何かは20機ほどの編隊となって突入してくる。


「ちっ、ザク及びマゼラタンクは迎撃!

 かなり素早く動ける様だ展開急げ!」


ギレンの命令を受け、ザクを前列に後列にマゼラタンク。

この編成で敵小型MSを迎え撃った。

だが3mしかないため容易に物陰にひそんだり、意外な速さで動き回る。

厄介な敵である事をギレンは直ぐに理解した。

ただ、あのサイズなら人が担ぐロケットランチャーやバズーカでも十分傷つける事が可能だ。


「歩兵部隊迎撃用意! 散開し、個別に構えよ!」


歩兵30人が展開し一斉にバズーカやロケットランチャーを構える。

だが、無限軌道を応用したまるでスケートボードでもやっているかのような動きに翻弄される事となる。

もっともジオンのMSパイロット達はやはり熟練度が高いため、ギレンに近寄らせる様な事はしない。

元々の体格差もあり五分の状態を維持している。


「電源接続! パスが通りました! 総帥閣下!」

「うむ」


元々パスに関してはエルランを通じて入手していたため、すんなり通った。

場所についてもある程度は解っている、最も正確な場所に関してはエルランも保身のために伝えなかった様だ。

ただ、エルランのスパイ行為はバレていると考えた方がいい。

彼が死んだ事はジオン側でもつかんでいたのだから。

つまりパスを変えていないという事はまさか入ってくるとは思っていなかったからと考えたい所だが。

誘っているという可能性もある。

ギレンは警戒心を一段上げた。


「マゼラタンク部隊を先行させよ。装甲指揮車や護衛のザクはその後から入るぞ」

「了解しました!」


シェルターが幅5mほど開くとマゼラタンクから突入していく。

そして護衛のザクを引き連れた装甲指揮車両が通り抜け、最後に歩兵部隊を運ぶ車両が続く。

マゼラタンクの速度に合わせているせいもあり、多少遅くはあるが中枢への突入に成功した。

ジャブロー中枢は兎に角広大な地下空間だった。

マゼランやサラミス用のドックと思しきスペースが延々と続いている。

100機以上同時に整備可能であるためその規模は膨大なものだった。


「第一目標は核ミサイルサイロだ。6番ドックから侵入可能になっているだろう。工作部隊を突入させよ」

「はっ!」


装甲指揮車両を追い抜き装甲車やトラックといった歩兵を運ぶ車両が進んでいく。

そのままマゼラタンクの後方につけた。

そしてそのまま先行していく。


「我らは要人を抑える、恐らく右側の通路から奥に潜水艦ドックがあるだろう。

 そちらに向かっているはずだ」


核ミサイルに時限発火装置付きの爆弾をとりつければ、基地の中枢は跡形もなく吹き飛ぶだろう。

しかし、それでも要人は逃げ出す可能性がある。

そのため、早期に潜水艦を抑えておく必要がある。


これに関しては、もう一つの意味もある。

核を爆発させるなら潜水艦で脱出するのが一番生き残りやすい。

そういう意味でも急いでいるのである。


だが。


突然、周辺の電源が落ちた。

真っ暗になった周囲の状況に対し、ギレンは直ぐに指示を出す。


「車両や機体のライトをONにせよ!

 これは罠だろう、しかし我らに元より退路はない!

 我らにできる事は罠を食い破り、サイロを起爆し、一人でも多くの敵を巻き込み戦後の手土産とする事のみ!」

『それは確かに困るね』

「何奴!?」

『君のお探しのジャブローのモグラだよ、名をゴップと言う』

「まさか、貴様から連絡をくれるとはな」


当然ギレンは連邦軍の最高位である大将の名前は網羅している。

ゴップはジャブローの中にいる将官の中でトップである。

連邦軍のトップ3は統合作戦本部長、連邦軍幕僚長、宇宙艦隊司令長官の3つ。

このうちゴップは連邦軍幕僚長であり軍政を主に司る。

つまり政治家との折衝や軍内部の運営を行う者たちの長だ。


『私は君達に降伏を要請するために通信している』

「降伏、何を馬鹿らしい」

『そうかね? すでに何度も君たちはしてやられているだろう?』

「何が言いたい?」

『ヤシマ少将が何も対策していないと思うかね?』

「……ッ!」


ギレンはこの時表情を少しだけゆがめた、護衛達は気づかなかったが、それでも動揺していた。

何故ならギレンはノゾム・ヤシマに既に3度してやられている。

一度目はエルランを殺された上、欺瞞情報を見抜きミノフスキー粒子やMSの情報を開示された。

二度目は対策されない様に開戦を1年も早めたが対策され、艦隊が壊滅し要塞にするはずの隕石コロニーを砕かれた。

三度目は各サイドに潜ませた思想誘導要員やテロリスト達を暴かれ実際にコロニーを破壊出来たのが3つに留まった事。

これにより、ジオンは戦争における勝利は無くなった。


だからこそギレンはジャブローを壊滅させる事で連邦軍の機能を麻痺させ、サイド3占領という事態を避けようとしたのだ。

占領さえされなければジオンは豊富な資源をアステロイドベルトから確保できるため回復が早い。

連邦に対しての敗北の傷も小さいもので済むだろう。


だが、もしここで負ければ間違いなくサイド3は占領され、アステロイドベルトの資源も連邦に取り上げられる。

更に軍も解体され、政治にも口出しされる事になるだろう、そうなればジオンは終わりだ。


「我らに敗北は無い。貴様たちこそ観念すべきだ」

『そうかね、では私達は脱出する事としよう。潜水艦は既に出航準備に入っているのでね』

「何っ!?」

『後、核ミサイルサイロはもぬけの殻だよ。既に艦隊に持たせているからね。

 何せ君のお陰で使い道には事欠かない。

 コロニーや隕石を落下させる前に破壊出来ればそれに越したことはないからねぇ』

「防衛のための核ミサイルまで持ち出したというのか!?」

『当然だよ、何よりサイド3を降伏させねばならん。前代未聞の大虐殺を行ったザビ家を倒さねば』

「ッ!?」


これは、連邦軍の体質的にはあり得ない話ではあった。

しかし、事前情報を鑑みれば最善の方法は何かは解っている。

ギレンが読み間違えたのは、ノゾムが示したジオンの脅威度でありゴップの対処能力だった。


ノゾムはジオンの国力詐称をゴップには伝えてある。

その強かさや、大量に残党をばらまいてテロをしながら本国の国力を回復する離れ業等についても言及していた。

ゴップはそれに対し、サイド3はこの度の戦争において完全に国の基盤ごとへし折って置くべきと判断した。

それ故の徹底した策略であった。

ゴップは言及していないが、コロニーや隕石を撃退し終えた艦隊は核ミサイルを保持したままサイド3へ向かっている。

ジオン残党を残さないため、サイド3への直接核攻撃すら視野に入れた襲撃を行う。

そもそも国家がなめられたまま戦争が終了する事等あってはならないのだ。


『それに今から、ノゾム・ヤシマ提督によるプロパガンダが発信される。

 恐らくこれで終わりだろう。

 今後サイド3に表立って味方する輩はいなくなるだろうね』

「なんだと……」

『テロなんかやるもんじゃないね、では失礼』


その言葉が終わると同時に、潜水艦は潜航を開始しジャブロー基地に将官はいなくなった。

ゴップの潜水艦が最後だっただけで他の潜水艦はとうに出航していたのだ。

今でも防衛部隊はまだ存在し、攻撃を仕掛けているが人質にできる様な大物はもういない。

ミサイルサイロがもぬけの殻である事は数分後には別動隊により報告を受ける事となった。


これにて、ギレンの戦闘目的を達成する事は不可能となった。


後は、続々と現れる連邦兵の数に押されていくだけだろう。









あとがき


私の頭で考えられる策略と言う物の限界をひしひしと感じております。

もう少しなんとかならんかったのかと……。

ですが、ギレンの策略は原作でも大雑把な事が多く、ア・バオア・クー攻防戦くらいでしか緻密な戦いを見せていません。

その上、それを披露した直後にキシリアにやられています。

割と抜けたところがあるのはギレンの特徴なのかなと思います。


戦争の決着は実質的にこれでついてしまったわけですが、最終回は次回に持ち越しとなります。

上でも書いた通り、最後はノゾムがプロパガンダを打ちます。

これは、この作品で長々とやってきた愚痴の集大成と言えるものでしょう(汗


次回まで見てくださる奇特な方がいらっしゃる事を期待して頑張る事にしようと思います。



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