第14話
 私の前で真っ赤な異形が叫ぶ。
 苦しそうに……
 真っ赤な異形は光さん。
 いつもの銀色の姿と違うのはなぜだろうか?
 人を食べたいから?
 女の首を絞めて、泣きわめくように……これでもかと叫ぶ。
 見ていられない……
「あ、あアぁぁァァ――ッ!」
 私は、だるい身体を引きずり、光さんのもとに……
 すると――
 コツンと私にナニカが当たる。
 え?
 石?
 誰だ?
 周りを見渡す。
 人、人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。
 人間が私達をおぞましいモノのように見ている。
「化け物!」
「人殺し!」
 そんな声が響いた。
 違う。
 光さんは、優しくて、あったかくて……
 そんなんじゃあない。
 だから、やめてくれ。
 そんな眼で私達を見ないでください。
 お願いします。お願いします!
 そんなの耐えられない。
 私は凡人なんです。
 全身の震えが止まらない。
 幼少の記憶がよみがえる。
 村での差別。
 殺されるお父さんとお母さん。
 やめて!
 ああ――
「アアアアァァァァ――」
 私は許しを誰かに請う。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許してくださいお願いします」
 生まれてごめんなさい。
 生きてごめんなさい。
 もう許してください。
 フラッシュバックに伴い、転写される日々。
 首を落とされるお父さん。
 胸を刺されるお母さん。
 塵屑だったかつての時間が蘇る。
「これ以上はやめてください! お父さん達は、何もしてないんです! 私が悪いんです! だから……やめて! これ以上いじめないで」
 私はいとも簡単に崩れ落ちていた。
 怖い、人間が恐い。
 なんで見た目で差別するんだ。
 私だって、好きでこんな羽をしている訳じゃない!
 好きで異形じゃない!
 好きでこんなじゃない……
 光さんだって、好きで殺したんじゃない!
 好きで戦っている訳じゃない。
 好きで異形の姿じゃない。
 でも、人間は残酷だ。
 アノ眼、知っている。
 気持ち悪いモノを見た眼だ。
 なんで?
 私達は――
 瞬間――
「やめて! ウチの友達にそないな眼を向けるな!」
 このちゃん?
 私は……異形だよ?
「せっちゃんも光くんも人間や! 光くんは確かに人を殺した……けど……けど、ウチを守るためや。だから文句はウチに言え! せっちゃんも羽があるだけやろ! そんなんで差別するな!」
 このちゃん……私は……
「このちゃん。私、異形だよ? 化け物だよ。いいの?」
「それが? ウチは姿がどうとかでせっちゃんを嫌わん。それに光くんもや。だって二人は友達やから」
「う、う……恐かった。ずっと誰かに助けて欲しかった!」
 私はこのちゃんに抱きついた。
 あったかい。
 光さんはいまだ泣きながら敵と戦っている。
 だから、言おう。
「このちゃん。光さんに伝えよう。私達の想いを」
「うん、せっちゃん」
 私は声を張り上げる。
「光さん! あなたはあなたです! 人殺しても、あなたは正義のヒーローです! 私は知っています! あなたの優しさを! だから、勝って、救ってください。このちゃんと私を!」
「光くん。姿がどうとか気にせんでいい! ウチは近衛木乃香は月野光くんの友達やから! ウチを守ってくれてありがとう。そして帰ろう。一緒に!」
 すると、光さんが吹き飛ばされた。
 私達が声をかけたせいで、隙ができたんだ。
 光さんの変身が解ける。
 怪人が迫り来る。
 私は前に出る。
 だって、だってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだって……
 光さん……あなたのことがこんなにも……
「こい。負けない。私は――ッ! 刹那。桜咲刹那! このちゃんの友達で光さんを愛している!」
 勝てなくていい。
 けど、せめて二人が逃げられるように時間を稼ぐ。
 まあ、当然……
「がァ――」
 私は吹き飛ぶ。
 私の意識が墜ちる。
 あ、このちゃんに怪人が手をかける。
「待て、このちゃんに触れるな……」
 まだ、もってくれ。
 私の身体。
「はあ……はあ……」
 誰か……助けて。
「待てよ。オレの友達に手を出してんじゃあねぞォォォ!」
 光さん……そんな身体で、ボロボロで、ズタズタで……
 でも、私達の声、とどいたんですね……
 だから、あなたはかっこいいんです。
「ああ、木乃香、刹那。ありがとう。人間どもよ見ろ! オレは異形だ! だけどな! そんなオレにも大切なモノはあるんだよ! だから見てろよ、オレの変身を!」
 瞬間――
 光さんにアタッシュケースが飛んでくる。
 アレは茶々丸とエヴァンジェリンさん?
「光。よく言った。人間どもに見せてやれ。おまえの変身を」
「光……それでいいじゃないですか。100回人を裏切ったヤツより、100回人に裏切られて馬鹿を見た人間の方が、私は好きです」
「おう。オレは前に行く。どけ、オレが歩く道だ。変身!」
 アタッシュケースから機械の昆虫が飛び出し、光さんの腰のベルトに装着される。
 光さんをメタリックな装甲が覆う。
 バッタか?
 銀色の……
 光さんはこのちゃんを持った敵にゆっくりと進む。
 するともう一体の怪人が光さんに襲いかかった。
 光さんは腰についた、クナイを持ってすべて捌く。
 速度はそれほどではない。
 私でもじゅうぶん眼で追える。
 しかし、怪人は速度をあげはじめる。
 しだいに私の眼では追えなくなる。
 瞬間――
「キャストオフ」
 光さんが腰のベルトを操作する。
 光さんの装甲がはじけた。
 中から、よりシャープな姿が現れる。
 それは、機械と昆虫の融合的な姿。
 怪人はさっきの装甲に吹き飛ばされていた。
 光さんは腰に手を当てながら叫ぶ。
「クロックアップ」
 え?
 いきなり、怪人が吹き飛んだ?
 瞬間――
 光さんが空中に飛び上がる。
 銀色の閃光がはしった瞬間。
 怪人から銀色の炎が出る。
 なにが起きた?
 しかも手にはこのちゃんを掴んでいる。
 光さんはこのちゃんを私に優しく渡す。
「木乃香を頼む」
「は、はい」
 再び、光さんは怪人の前に……
 まったく見えない。
 空中に怪人が浮く。
 瞬間――
 光さんの動きがとまる……そして……
「ライダーキック」
 
 ドガン! と、爆音が鳴り響いた。
 怪人は、大爆発を起こす。
 光さんは変身を解く。
 相も変わらず、完璧な造形。
 しばし、光さんの裸体に見とれて……
「光。アホとボーヤ達がピンチらしい、行くぞ」
「ああ」
「光、服とバイクを用意しています」
「茶々丸ありがとう。刹那、木乃香……オレは行く」
「私も行きます!」
「ウチも!」
 当然だ。もう誰かの涙は見たくない。
 私にも出来ることがあるはずだ。
 その時だった。
「コングラチュレーション!」
 金髪の髪に青い瞳の少年。
 な、なんだこいつは!
 恐い……このちゃんが私の腕に……
「いや、どうだった? 初めての殺人は? 人間という種族は? ねえ、答えてよ」
 瞬間――
 エヴァンジェリンさんがこの少年に攻撃する。
 一瞬のことだったが……
「黙れよ!」
 だが、奴は無事だったどころか、けがひとつしていない。
「うーん……やっぱり失敗作はダメだね。あ、君のことじゃないよ。神祖の紛い物ちゃん」
「貴様!」
「そんなに怒らないでよ。ボクは見せてやっただけじゃないか。人間の汚さを……ねえ、ツクヨミ。人間は守る価値あるのかい? もういいんじゃあないかな。ボク達のところにきなよ。無理につれて行ってもいいけど、出来れば君から来て欲しい。君からこないと、面倒くさいことしなきゃいけないんだ」
 光さん……
「行きませんよね?」
「光! 聞くな!」
「光くん!」
「光……」
「大丈夫だ。オレは人間が恐いよ。でも好きだ。木乃香みたいな人がいるからな」
「ふーん。まあ、いいか。でも絶対に君はボク達のところに来てもらう」
「オレはこいつらといる」
「ふふ、君の絶望が容易に想像できるよ。人に裏切られ、蔑まされ……君は完成する」
「黙れよ! 私達がそうはさせない!」
「え? 裏切られたのに?」
 え?
 エヴァンジェリンさん?
 エヴァンジェリンさんは唇から血を流している。
 光さんも辛そうだ。
「キティ……」
「わ、私は……」
「はははは! じゃあまた今度ね。それともう一体の失敗作は、もう負けたみたいだよ。なんで、ベルト残ってるのかな? 複製品? う〜ん、興味深いな〜」
 え、怪人を倒した?
 ルーナ先生達が?
 どうやって?
 怪人の強さはかなりあったはず。
 4人で倒せる訳がない。
「ベルト……まさか! 誰かが!?」
「そう、良かったね〜。仲間が増えるよ〜」
「クソ!」
 光さんは着替えると急いで、飛び出す。
 私達を置いて。
 私はエヴァンジェリンさんと共に観客の記憶処理を行う。
 でも……
「化け物!」
 私は――
「刹那、気にするな。人間全部がこうではない」
「エヴァンジェリンさん……はい」
「せっちゃん……」
 光さん……やっぱり、人間って恐いです。
 だから、私をあなたが支えてください。
 私は弱くてちっぽけな小鳥なんです。
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