第15話
 時は少し遡り場面はルーナ達に……
 はぁ……光さん、大丈夫かな?
 なんだか様子が少し変だったけど……
 普段は私達を口説いたりしないはず。
 それがいい匂いだなんて……
  でも、いい匂いか……
 ふふ、嬉しいな。
 光さん……私を意識してくれたのかな?
「ネギ、お兄ちゃん出来るかもよ」
「え、ルーナお姉ちゃん? それどうやって? ボクにお兄ちゃん出来るの?」
「多分……へへ〜」
 その時、ネカネ姉さんが真剣な顔をして私に意味が分からないことを言う。
「ルーナ。あなたはホントの彼の闇を知らない。だから、やめなさい。まだ、引き返せる。普通の人を好きになって、普通に幸せを掴みなさい。彼の先は地獄よ」
「なによそれ……私が光さん好きでなにが悪いの! 光さんだって私のことを好きなはずよ!」
「いいえ。彼は人を好きになってはダメなのよ。お願い分かって」
「分からないよ! だって胸がドキドキで、もうどうにもならないんだもん」
 そう、ネカネ姉さんに告げると、ビンタが飛んできた。
 イタイ。
 意味が分からない。
 なんでよ……
 ただ……
「私は好きなだけなのに! なんでソレすら許せれないのよ!」
「あなたを思ってなの。光さんはいい人よ。でもソレとコレとは別問題なの。私の研究も進んで真相にたどりついた。光さんはきっと誰も選べない……いや、選ばない。優しいあの人ならね……ルーナが一番光さんの優しさを分かるでしょ?」
 なによそれ。
 親戚なら、祝ってよ。
 私は普通じゃなくていい。
 どうせ、スプリングフィールドだ。
 いいように立派な魔法使いに利用される。
 変な奴と婚約させられるかもしれない。
 事実、私に言い寄ってきた奴もいた。
 どいつもこいつも英雄の子供子供と……
 私を見ないで好き勝手!
 でも光さんは違う!
 私の話を聞いてくれるの。
 笑顔で……
 そんな人を好きになって何が悪いのよ!
 私とネカネ姉さんとの間に微妙な雰囲気が漂う。
 瞬間――
 アーニャが至極まともなことを言ったのだ。
「ねえ。ネカネさん。ルーナさんが誰を好きになろうと勝手じゃないの?」
「アンナちゃんは何も分かってないのよ!」
「違う、そうじゃない。ようは好きって気持ちに嘘があるかないかよ……ルーナさんは本気で光さんが好き。なら将来を心配するより、その地獄にどう対応してルーナさんを応援してやるかが、私達の役目じゃあないのかな?」
「そ、それは……でも!」
「う〜ん。ボクはルーナお姉ちゃんと光さん好きだよ。ボクのお兄ちゃんも光さんなら大歓迎だ。それじゃダメなの。ネカネお姉ちゃん?」
「うッ」
 二人ともありがとう。
 私、必ず光さんと結婚するね。
 そして、皆で楽しく暮らすのよ。
 英雄の子供だとか、立派な魔法使いだとか……関係ない。
 私は一人の女として幸せになりたい。
 そんなこんなで関西呪術協会の敷地に入る。
 沢山の鳥居がある。
 が、進めど進めど先が見えない。
「カモ。コレって――」
「どうやら閉じこめられたようだぜ。肌がビリビリきやがる。いるぜ」
 私達は警戒をする。
 すると、イヌ耳の少年がゆっくりと歩いてくる。
 歳はネギとそう変わらない。
「よーす。通行どめや。しかし、ちと人数が多い。だから……キバット!」
「小太郎、変身するのか? おまえの身体が持たんぞ」
 変なコウモリが現れた。
 なんだあいつ、嫌な感じがする。
「へ、そんなん根性でどうにかするは……こい」
「ふ……オレは当たりを引いたようだな……カブリ!」
「あ――ッ!」
 小太郎と呼ばれた少年の身体が不気味に大きくなる。
 そして現れたのは、光さんを襲っていた一体だった。
 まるで夜。
 闇そのもの。
 勝てない。
 絶対に……
 刹那――
 ネギが吹き飛ぶ。
 次はアーニャ。
 ネカネ姉さん。
 すると吹き飛ぶネカネ姉さんのバックからぼろっちいベルトが飛び出した。
 あれ?
 なんだかアレが呼んでる。
 私は不思議な気持ちになった。
 これなら、殺せる。
 え?
 違う。
 守る。
 殺す。
 守る。
 殺す。
 守る。
 殺す。
 守る。
 殺す。
 守る。
 殺す。
 守る。
 殺す……
 ああ、わァーーーーーーーー!
 私にベルトが装着される。
 ネカネ姉さんが悲鳴を上げる。
「いやよ! やめて! お願い! 待って!」
「あ、は、ははははは。これ、いい。光さんと一緒になれた。コレで彼を支えられる。あの人の唯一無二になれる」
「ルーナ! やめなさい!」
「うるさい! 変身!」
 身体が闇に染まる。
 憎い。
 何が英雄の子供だ。
 なにが立派な魔法使いだ。
 そんなモノで私をバカにして。
 出来損ない?
 子供を産むしか利用価値がない?
 ふざけるな……ふざけるな!
 私は……私は!
 そのまま、憎しみを……光さんを襲った怪物に叩きつけた。
 こいつが全部悪い。
 ホントは、光さんと楽しい修学旅行になるはずだった。
 手を繋いで……キスしてもらって。
 憎い。
 はは、こいつ弱いぞ。
 もっと殴れ。
 もっとだ。
 光さんを傷つける奴は死ねばいい!
「ア――ッ!」
「ルーナ! ダメ!」
「ルーナお姉ちゃんやめて!」
「ルーナさん! ダメよ!」
「うるさいうるさいうるさい! 光さん見てて! 私ヤルから。ちゃんとあなたを守るから……」
 ああ、私は強い。私は出来損ないじゃない!
 死ねよ、死ね!
 おまえ、光さんを傷つけただろうが、ならば死んで償えよ。
 殴る、殴る。
 マウントをとって怪物は何も出来ない。
 はは、ざまあみろ!
 光さん見て!
 私はこんなに強いよ。
 あなたと共にいれる。
 あなたに相応しい。
 私は……ルーナ・スプリングフィールドは月野光の伴侶に相応しいんだ!
「や、やめてよ。ルーナお姉ちゃん」
 何やら声がする。
 誰の声だったっけな。
 どうでもいい。
 光さん、光さん――あなただけでいい。
 あなたの笑顔が好きだ。
 あなたの眼をずっと見ていたい。
 あなたの声をずっと聞きたいよ。
 あなたの顔が見たいよ。
 ……助けて。
 こんなはずじゃない。
 私は……
 私は……
 その時、バイクが結界を破って登場した。
「ルーナ……すまない」
「光さん! 見て! 私……敵を倒したよ! 強いでしょう! 見てよ……見て!」
「いま助ける……シャドーゼクター!」
 光さんに銀色の昆虫が突撃する。
 それを光さんは手で止める。
 そしてベルトにその機械のようで昆虫のようなモノを差し込む。
「変身」
 がっちりとしたシルエット。
 素敵。
 ああ、私も行くから。そこに……いや違う。そうじゃない。
 助けて? 違う! 強くなる……強く!
「ああーーーーーーー! 私は出来損ないじゃない。子供を産ませるための機械じゃない!」
「ルーナ……キャストオフ」
 飛び散る装甲。
 私は吹き飛ぶ。
 眼を開くと。
 そこには王が立っていた。
 今の私には分かる。
 天、月、もしくは月光。
 そして……
「創世王……嬉しい。また会えた」
 ノイズがはしる。
 なんだこの記憶は。
 ルナ?
 好き。
 ありがとう。
 私達のために戦ってくれて……
 死なないで……
 行かないで……私を置いて……
「嫌だ。行かないでよ……私は! あなたと共にいたいの! あなたと一緒にごはんを食べて、デートして、キスして……だから、行かないで……」
「ルーナ。おまえの雨だって絶対止むよ。そしたら青空になる。今だってこの雨を降らせている雲の向こうには、どこまでも青空が広がってるんだ」
 ああ、ルナ……光さん。
「助けて……」
「任せろ。キングストーンフラッシュ」
 私から闇が消える。
 優しい月光。
 綺麗な光。
 ああ、光さん。
 ありがとう。
 あなたが好きです。
 もう失敗しない。
 今度は必ず、あなたと添い遂げる。
 そうでしょ?
 アルテミス。
 私は諦めない。
 たとえ、あなたの先が地獄でも。
 どこへ行ったって同じだ。今は嘘になんかならない。
 そう信じている。
 あなたと共にいたいという気持ちは決して嘘なんかじゃないのだから。
 そして私は意識を失った。
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