C.E暦69年10月4日。東アジアの一端で生じた、緊迫した状況を遠巻きで見ている国は“ない”という方が圧倒的に少ないと言って良かった。
つまり、ほぼ全国の者が日本という小国に大なり小なりの関心を持ち、その行方を見守っているのだ。最初こそ妄言だという国や人間が殆どだったが、こうも国連の中に飛び込んだ話題とあれば、誰もが信じざるを得なかったのである。
そして、かつては日本とう名で独立した島国が、今や大国とやり合おうとしているのだ。いずれどんな事情があったにせよ、入れ変わったという別世界の日本が、いくらなんでも無理な勝負を仕掛けられたものだ―――と、誰しもが思うものだ。
  武力行使を公言するユーラシア連邦と東アジア共和国は、揃って日本を国賊だの、盗人だの、と言いたい放題、通信国連議会へむけて言い放った。
確かにこの世界基準で、しかも客観的に見れば、日本が領土を奪って独立したと見えるだろう。それを取り戻すだけのことだ、とも言うのである。

「そしてこれは、我が領土内の問題である。他国は介入せぬよう、厳重に言い渡すものである!」

加えてユーラシア連邦は、議会の場でその様に強調した。領土を奪われたとはいえ、所詮は小国の島国。その武力はたかが知れているだろう。
ユーラシア連邦の分析班は、あろうことか楽観視した結果を出した。これに東アジア共和国も同調したのだ。2国合わせれば、日本は敵ではないと断言したのである。
  しかし、この発言や武力行使は些か強引ではないか、と思う国が幾つもあった。それが、オーブ連合首長国、スカンジナビア王国、赤道連合といった国々である。

「貴国の言いたいことはわかるが、それはあまりにも性急的すぎる。真面な交渉もせずに、軍事力による制圧など、度が過ぎているというものではないぞ」

  オーブ連合首長国代表 ウズミ・ナラ・アスハ首長は、武力行為に出ようとするユーラシア連邦政府を窘めた。
彼は56歳。首筋まで伸ばした黒髪と、同色の口髭、そして確固たる意志を代弁するような表情のアスハ代表は、個人的にも日本へ接触を図りたい思いがあった。
それは今後の布石の為でもあり、もしかしたら近い将来に役立つかもしれない。ここは、何としても穏便に済ませたいところである。

「それに、窮鼠猫を噛む、という諺もある。小国と侮るのはやめた方がよいのではないか。我々の知っている日本ではないのなら、なおさらだ」
「そもそも、その日本の代表も、国連議会に顔を出さて然るべきだろう。まずは対話によって話を進めるべきではないのか」

  続いてオーブと良好な関係にあるスカンジナビア王国首相 アダム・ルイストフも、日本への武力行使は軽率であり、見くびると痛い目を見ると忠告する。
フィリピン諸島一帯が合わさって構成される赤道連合代表 ウッドラール・リメイラ連合長が通信越しで否定的な意見を出す。
何故ここまで性急的な行動に出てくるのだろうか。日本には、確かに軍需産業の1つであるフジヤマ社があった。それを失ったのは痛いだろう。
だが、いきなり入れ替わった日本に攻め入るのは早急と言わざるを得ない。日本も対話を望んでいるのではないか。

「明らかな領土侵犯、いや、不法占拠ではないか。対話は無用、どのみち、日本は併合されるしかないのだ」

  ユーラシア連邦首相 アレクセイ・モロコフは、訝し気な表情を作りながらも発言し、忌々しい弱小国、とあからさまな目線を投げつけた。
我々が本気を出せば、吹き飛ぶ程度でしかない国だと思っているのだが、あながちそれは間違ってはいなかった。
例外はオーブの軍備力だけで、残る2ヶ国は大した軍備力を持たない。ユーラシア連邦が本気を出せば叩き潰せる。
  対してユーラシア連邦と肩を並べる、大西洋連邦の反応はいまいちなものだった。ユーラシア連邦の言う通り、自国の問題は自国で解決すれば良いとしていた。

「武力行使は関心せんが、貴国らがどうしようと、口を差し挟む気はない。内政干渉に当たるからね。すべては貴国らの責任だ」

大西洋連邦大統領 チェスター・アーヴィングは、この一件に関して干渉はしないと公言する。が、何気なく武力行使に否定的な意見や、責任の云々を述べたのは、流石というところか。
オーストラリア大陸の太平洋連合、アフリカのアフリカ共同体、中東の汎ムスリム会議は、ユーラシア連邦と東アジア共和国に、口を差し挟む気はなかった。
  ―――というのも、この3ヶ国は親プラント国と呼ばれており、プラント理事国である大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国とは馬が合わなかった。
プラントに支援をすることで、自らもプラントの生産物を受け取る。これで経済を成り立たせているところもあるからだ。
結局のところ、国連議会では賛同する国がなかったものの、ユーラシア連邦、東アジア共和国は軍事力の行使に出ることとなった。
反対を持ち上げたオーブ、スカンジナビア、赤道連合は、説得できないのをわかりきっていたのか、もはや口すら開かぬままに通信を切った。
  オーブ首都の点在する島々でオロファト島に建てられている行政府の執務室では、ウズミは切れた通信画面を眺めやり嘆息した。

「日本か‥‥‥」

このオーブ国を作り上げる過程で、貢献を果たしたのが日本人であるというのは、オーブ国の人間なら誰もが知ってる。
彼らの世界では、日本は分断統治された島国という感覚でしかなかったが、こうして別の日本が現れたとなると、興味も湧いてくるというものだ。

「いったい、どんな日本なのだろうか‥‥‥」

  ひとり呟く。できれば、彼らと友好関係を築いておきたい。その思いの裏には、オーブが建国当時から掲げてきた、理念にあった。
『他国の侵略を許さず、他国を侵略せず、他国の武力に介入せず』だ。しかし、これはいずれ綻びることとなるだろう。
所詮は島国の集まりでしかないオーブは、コーディネイターと共存することで技術的な分野において世界と渡り合っている。
この国が如何に科学力で優れようとも、軍備力の少なさは致命的だった。大国が攻め入れば、オーブは壊滅的打撃を受け、殲滅される可能性もある。
  そこで保険が必要となる。同盟国に等しいスカンジナビア王国は、残念ながら支援できる距離にはない。赤道連合も対抗できる軍事力はない。
かといってプラントと協力関係を結ぶのも、かえって始末が悪くなる。あの大西洋連邦やユーラシア連邦などが黙ってはいないだろう。
ましてや反プラントの声が上がる時代なのだ。

「そうなれば、我が国にも飛び火する」

  では、何処と手を結ぶべきか。そこで候補に上がったのが日本だった。もし、この突然の戦乱を日本が切り抜けたならば、交渉する余地は大いにある。
プラントではない彼らならば、ユーラシア連邦と東アジア共和国は別として、他国も反対や反感の意を示すことは内であろう。
その際はオーブも出来る限り彼らを擁護し、親密な関係を作り上げる。同じ日本人の血が流れている彼らとならば、この時代に押し潰されることもなさそうだ。
  ふと、執務室にノックの音が響き渡る。

「お父様、失礼します」
「お前か‥‥‥なんだ」

入室してきたのは、金髪のセミロングをした活発そうな16歳の若い女性だった。ウズミの1人娘―――カガリ・ユラ・アスハである。

「昨日の騒動は、結局どうなったのですか」
「あぁ、日本のことか」

彼女もオーブ国代表の娘であるだけに、そういった政治的な話も耳に入りやすい。彼女も日本の入れ替わったという話は、にわかに信じがたいものだった。
それがこうして、父が国連議会で日本に対する話し合いに参加した。入れ替わりの話は事実であると認める必要があるにせよ、オーブはどう動くのか。
  ウズミは日本に手を差し伸べることはない、ということを娘に教えた。

「我が国としても、余計なことに口を差し挟むことはできん。余計な火種を呼び込むことになるからな」
「しかし、日本とは手を結ぶ価値はあるのでしょう?」
「まぁな。それも、日本が生き延びてくれたらの話だ。我がオーブには、何もできん」
「それでは、日本の人々は‥‥‥」
「‥‥‥」

娘の悲痛な問いかけに、彼は口を閉ざしたままだった。
  とはいえ、理念というのも面倒なものだが、彼にとって理念は守るべきものでもある。何を置いても、思想や理念を途絶えさせてはならない。
それが自国を滅亡に追いやるものだとしてもだ。それを、ウズミは一番に理解していた。
  場所は変わり宇宙空間のポイントL5。コーディネイターの住まうコロニー群ことプラントでも、地球上におきた不可思議な現象が話題を呼んでいた。
『日本入れ替わり事件』と安易な名前で呼ばれる、この出来事。国が入れ替わるなど可能なのだろうか、どういった現象がそれを成し得たのか。
科学分野に富む者達の興味は尽きないようである。逆にナチュラルと毛嫌いする者からは、日本がどうなろうと所詮はナチュラル同士の争いだ、と見向きもしない。
  この一件は、12個の各コロニー群の市長が集まる議会の場でも、当然のことながら持ち上がった。

「ナチュラルのやることだ。勝手に争っていればよいだろう」
「そのとおり。寧ろ勝手に国連が疲弊してくれるのは、こちらにとって悪い話ではない」
「いや、これは我等にとって機会ではいか。日本に恩を売り、我がプラントと協力関係を築いても悪くなかろう」

このように、日本に対する意見は大まかに二極化していた。日本を無視し、このまま軍事体制の強化を続行し、自主権を得るために備えると訴える一団。
プラントはあくまで、理事国の議会の下で運営される、単なる施設的な意味合いしかない。プラントは国家ではなく、施設の一団の名前なのだ。
近頃は、ナチュラル側の圧力、弾圧に怒りを募らせるばかりで、先日の『マンデルブロー号事件』しかり、理事国への反発は極限に達しようとしていた。
  対して、危機にある日本を支援する事で恩を売り、親プラント国として手を結ぼうと提案する一団である。
敵を多く作るより、将来に備えて味方をより多く備えたほうが、プラントとしては優位に働くに違いない。
それに穏健派としては、武力による争いよりもこうした外交上の戦法で、理事国を押さえつけるべきではないか、と訴える。

「なぜ、争いに介入する必要性がある。奴らは双方に殺しあわせておけばよいではないか。それに我らプラントに近しいのは、大洋州連合やアフリカ共同体で十分だ」

  プラントでは武官を示す紫色の制服に身を包んだ、48歳の男性―――プラント国防委員長 パトリック・ザラはそう言って、忌々しげに吐き捨てた。
彼はプラント内では強硬派として名を通し、プラントの軍事組織ザフトの生みの親であり、指導者であり、プラントの初代国防委員長を務めている。
プラントは地球上に親しい国家を持っている。それが太平洋連合とアフリカ共同体の2ヶ国だ。ただザラからすれば、軍事的視点でしかこの国を見ていない。
  それに対して穏健派と称される一派の筆頭が、プラント最高評議会議長 シーゲル・クラインという。年齢は49歳だった。
近頃のコーディネイター同士による、出生率の低下に対して危機感を抱いており、ナチュラルとの交配によって自然に帰するべきではないか、と考えている。
その為、地球側とは穏便に済ませてコーディネイターとナチュラルの共存を強く望んでいる。
  が、プラント理事国側の横暴には呆れるばかりなのも事実だった。

(全く見知らぬ国に、いきなり援助と言うのも難しい。親しき仲となれれば無難ではあるが、援助を示せば理事国らが武力行使に出るだろう)

  地上のオーブと同様、クラインも日本との結びつきを成し得たいと考えている一方で、その姿勢を見せれば即座に理事国に訴えられるだろう。
何せプラントは国家ではない上に、理事国から強く睨まれている。以前に武力行使に出てきた例もあるのだ。次は本気で攻めてくるやもしれん。
とはいえ、この強硬派の一党が近頃は勢力を強めている。彼のような穏健派は次第に数を減らしつつあり、戦争一色に染まりつつもある。
  結局のところ、評議会は日本に対する支援行動は無しという方向に決定づけられた。しばらくはザフトの軍備強化に勤しむこととなる。
この決定が、後にどのような影響を与えるのか、誰にも想像はできない。そして、日本をナチュラルと見くびったその行動も、どういった結果を導き出すのかも。






「こんな馬鹿な話があるか!?」


  C.E暦69年10月5日。緊急国防会議の場にて怒鳴り声が上がる。ユーラシア連邦及び東アジア共和国より、日本に対して一方的な要求が突きつけられたのだ。
結論から言ってしまおう。この両国は揃いも揃って領土返還を要求してきたのである。これに驚愕し、怒鳴り声を上げないものは、まずいなかったのは断言できよう。
日本だって被害者的立場にいるのだ。それをユーラシア連邦と東アジア共和国は、無視する形で要求書を突きつけたのだ。
  藤堂ら他文官僚達と、芹沢ら他軍官僚達は頭を抱えるなり嘆くなりの反応を見せている。

「返還しろ、だと? こっちは訳のわからない事故で迷い込んだんだ。それなのに返還しろとは‥‥‥!」
「どうやら、たかが島国だと見くびっているようですな。大国の、小国を見る目というのは、その程度なのだろう」

土方が要求内容に目を通して、デスクに放り投げた。隣に座る沖田も、呆れんばかりの表情を作りつつあった。
日本は直ちに領土を返還すること。ならびに武装を解除し、現政権も解散。勿論、海洋権も全て両国の然るべき処置によって奪われる。
これに目を瞑っている、この世界の国連は役立たずだ。誰もがそう思った。普通ならば仲介して、妥協点を探るくらいの意欲は見せて然るべきではないか。
  しかも、回答期日は明後日の7日まで。やることが無茶苦茶だ。これほどに国際感覚のない大国が、よくも存続していられるものだ。
だがユーラシア連邦と東アジア共和国が、これほど無茶な要求を突きつけたのにも大きな理由があった。それが、マスドライバーという代物の存在だ。
これは、長大なレールを敷いて、それに戦艦や物資を積んだコンテナを乗せ、電磁投射砲(レールガン)の要領で宇宙空間へ打ち出すというもの。
  わざわざ打ち上げ用ロケットを使って、宇宙へ出るよりも遥かに効率的で、このC.E世界では特に宇宙戦力を維持するために重宝するのである。
が、如何せん、建造費用に莫大なコストが必要となり、1つ建設するにも時間も掛かるばかりか、長大なレールを建設しうる土地条件もあった。
それ故、C.E世界にはマスドライバーは全部で4つだけが建設されている。南アメリカ合衆国のパナマ、東アジア共和国の高雄、オーブ連合首長国のカグヤ島、南アフリカ統一機構のビクトリア。
  そのマスドライバーが、日本には2つも存在していたのである。北海道と本州に1つづつ。これは、かの国連が中心となって建設させた名残だ。
名残と言う理由は、宇宙艦艇の技術発展にある。マスドライバーが無くとも、打ち上げ用ロケットや発射台が無くとも、宇宙空間へ飛び立てるのだ。
それだけではない。大気圏への突入と大気圏内の空中航行も可能としている。こうもなれば、マスドライバーは主力から外れるのも当然であった。

「‥‥‥これは戦闘を避けられぬか」
「はい。相手は進んで蹴りを入れて来たのです。交渉の余地はありません」

  藤堂の苦悩に、芹沢が断固とした表情を作って戦闘は回避不能だと答える。戦闘が回避不可能な異常は、ここは戦闘で勝利し、ユーラシア連邦と東アジア共和国に停戦を申し入れると同時に、日本の独立を完全なものとすべきだ―――というのが彼の主張であった。
  この日まで、彼らは自分らの状況を把握すべく情報収集に全力を尽くした。一番の収穫基となったのは、入れ替わった事を知らずに入港を果たした船舶だった。
彼らは訳の分からぬ状態で、日本に臨検を要求された。故郷に戻ってきた船舶も、何が起きたのかとパニックに陥っていたほどである。
  そういった者達の心境も察するに余るが、ともかく、この世界についての情報を多く入手した。AD暦は無くなり、C.E暦に替わっていること。
世界は11ヶ国に分散し、国連と言う組織を構成していること。ナチュラルとコーディネイターという二種類の人間が対立し、国連とプラントという構図で、全面戦争に発展しかねないほどに切迫していることなど、であった。
  驚愕すべきことは多々あるが、中でも人為的に作られ誕生したコーディネイターという存在には、一番の驚きを与えられたと言っても過言ではない。
人間の遺伝子をいじり、新たな人種を生み出す。それはある意味で、神の設計図を書き換えるに等しい、有り得ぬものである。
元々は病弱な人間等を対象として、遺伝子をいじって健康体にする、という目的があったらしい。
それがいつの間にか、優秀な人間を作り上げるという目標に、路線が変わったのだという。この場にいる閣僚、並びに軍部関係の人間は、これが許されても良いことなのか、と理解に苦しんだものであった―――病気を克服する為というなら、まだ話は分かるが。
  それはさておき、日本には様々な問題が発生していた。それはまず、市民生活レベルから、企業レベルの幅広い問題だった。
集まった日本支部の各分野の責任者達は口々に現在の日本が置かれた状況を報告していく。
最初に発言したのは41歳の男性だ。日本支部資源エネルギー局長 鍾岸太一(かねぎし たいち)である。深刻な表情をしていない辺り心配事は多くはなさそうだった。

「エネルギー関連は、今のところ問題はありません。ただし、節約は継続すべきでしょう。自然エネルギーと核融合炉発電所の双方で賄う事は出来るとはいえ‥‥‥」

日本は未だに核エネルギーに頼らざるを得ない。それ以上の燃料となるものがないのだ。
  ただし、発電方法は旧来の核分裂式とは異なっている。開発に苦労した核融合炉システムを完成させ、それを発電所として運用しているのである。
さらには時代が進むにつれて小型化し、宇宙艦艇の動力源にもなっているほど。自然エネルギーも補助的なものだが、太陽光、水力、風力、地熱、波状など、あらゆるものを使って、非常時に備えていた。
  次に問題になったのは、企業や雇用関連だ。国際的なビジネス展開を広げていた企業は特に深刻極まるものである。

「大混乱の一言に尽きます」

そう述べたのは、日本支部経済産業相 曽根崎晃(そねざき のぼる)だった。この年54歳の壮年な男性である。
株価市場あるいは証券取引場など、すべてが白紙になってしまったことで、大暴落も同然の状態となっていたのだ。
国内で細々とやっている中小企業はまだよいが、それでも失業者が溢れんばかりになるのは明白だった―――いや、すでにその兆候が見えていたのだ。
  経済担当者達は、急いで失業者達への手当対策と、企業への救済対策を練っていたが、歯止めを掛けるには時間が足りなさすぎたのだ。

「経済政策に関する対策は、引き続きお任せいたします」

藤堂は無用な横槍を入れないことを、改まって明言した。専門家の邪魔をすることは、それだけ手際が悪くなり、敷いては国民に多大な負担を与えることになるからだ。
  この他、生活面で心配された穀物自給率と貯蓄率、生産率から、今後の日本は単独で食い繋いでいけるかという問題。

「穀物の貯蔵量および生産量を再計算しましたが、日本だけで食べていけます。国連主導の、穀物生産計画の賜物でしょう」
「21世紀の日本だったら、まず食糧不足に陥っただろう‥‥‥国連に感謝すべきだな」

日本支部農林水産相 馬見和郎(うまみ かずろう)は、当分の間は食べていけることを報告する。それが分かっただけでも、他の閣僚は安堵したものだ。
これで食糧不足など引き起こったのであれば、日本国内は地獄絵図と化すのは容易に想像できたからだ。僅かな食糧を奪い合い、果ては殺し合いが始まるだろう。
  国内事情に関してはそれまでとして、これから先に起こる戦争に目を向けた。藤堂は尋ねた。現在の日本で、大国とされる2国を相手に勝てるか、と。
最初に口を開いたのは芹沢である。

「かの2国が、どれだけの兵力を差し向けてくるかによります。場合によっては、陸海空、そして防衛隊で防ぎきるのは難しいと考えたほうがよいでしょう」

現在の日本に配備されている戦力は、概ね次のようなものである。
  まずは国連の主力である宇宙軍から。宇宙軍は内惑星戦争より、その戦力を拡大させつつあった。1個艦隊の規定数も27隻から32隻へと大幅な増加を施しており、日本宇宙軍は主力として2個艦隊64隻を保有している。
内容も堂々たる戦力を誇っていた。最新鋭の長門(ナガト)型弩級宇宙戦艦4隻、火星戦役に就役した金剛型宇宙戦艦8隻。
長門型と同じく、近年に就役した赤城(アカギ)型宇宙空母4隻、村雨型宇宙巡洋艦16隻、磯風(イソカゼ)型突撃宇宙駆逐艦32隻。
 同時に、補助や後方支援部隊として2個支援艦隊77隻を有している。
その内容は、下北(シモキタ)型輸送艦3隻、周防(スオウ)型多用途支援艦5隻、浜名(ハマナ)型補給艦5隻、浦賀(ウラガ)型掃宙母艦4隻、江ノ島(エノシマ)型掃宙艇16隻、計33隻
及びこれら専用の護衛艇である磯風型駆逐艦12隻、家島(イエシマ)型砲艦16隻、菅島(スガシマ)型宙雷艇16隻、計44隻が配備されている。
艦隊に配備されている艦載機数は、零式52型空間艦上戦闘機〈コスモゼロ〉と、1式空間戦闘攻撃機〈コスモタイガーU〉を含め230機余りに及ぶ。
主力の戦闘艦艇は就役年数が長いものが多いが、近代改装を受けるたびに能力の向上化を図って戦力を維持し続けた。
  藤堂は、この世界の人間から聞いた情報より、宇宙軍が存在していることを知った。それだけに、宇宙からの襲撃がないか不安にもなる。

「この世界にも宇宙軍は存在していると言う。直接攻撃は、考えられないわけではないが‥‥‥」

その不安に対して答えたのは、国連宇宙軍極東管区司令長官 永井栄典(ながい えいすけ)宙将(大将相当)だ。
年齢は56歳で、薄い頭髪と不機嫌そうな表情をしているが、別に本人が不満なのではなく生来の顔つきである。
そのため、会話する相手が自分の表情を見て、やや入り尻すぼみなったりすると、余計に傷ついたりするらしい―――無論、表面には出さないが。

「軌道上からの奇襲に備え、沖田提督の第1艦隊は衛星軌道上へ展開します。また、敵航空隊への対処に万全を期す為に、第2艦隊を本土上空の援護に回せるように手配しております。状況によっては、土方宙将の空間防衛総隊との連携防御態勢を敷きます」

日本における宇宙軍を統括する永井は、迫る危機に切迫している藤堂や、閣僚たちを励ます意味でも備えが十分であることを強調した。
沖田や他の提督も頷き、侵入を許さないと言わんばかりの意思を示した。
  これに続いて、空間防衛総隊を指揮する土方も、空の守りを強固にし、地上部隊や海軍、宇宙艦隊との連携も十分に可能であることを報告した。

「防衛総隊は、各方面の航空団に警戒態勢を取らせてあります。また軌道防衛艦隊には、第1、第3防衛艦隊に本土上空の防衛を。第2、第4防衛艦隊には衛星軌道上における防衛を行わせます。これにより、第1、第2艦隊の後方を確保いたします」

因みに空間防衛総隊には、本土防空隊の3個航空方面隊がある。それら部隊には、極地戦闘機である99式空間戦闘攻撃機〈コスモファルコン〉やコスモタイガーU等の戦闘機隊が390余り
偵察機として、100式空間偵察機や空間戦術偵察機SSR−91〈コスモスパロー〉を中心とした偵察機隊が38機、空間汎用輸送機SC97〈コスモシーガルを中心とした輸送機隊が74機が配備されている。
そして防空戦闘車輌として、地対空ミサイル搭載車や対空パルスレーザー砲塔車等が計430輌余り
  また、月方面や火星方面等の防衛艦隊を指揮下に置いていたのだが、こちらはC.E世界に来てしまったこともあって、4個軌道防衛艦隊56隻―――陣容は磯風型駆逐艦16隻、家島型砲艇16隻、菅島型宙雷艇24隻の陣容である。
これら航空機や艦艇は、空軍の有する戦略空軍・航空機動軍団や、陸軍の有する航空団、宇宙海軍の連合宇宙艦隊等とは、また微妙に違った組織に入る部隊である。
あくまで、防衛戦闘に重視を置いた部隊や艦隊であって、機動部隊でも戦略部隊でもない。そういった仕事は、各軍の指揮官が行うことである。

「宇宙海兵隊は、本土守備隊と空間騎兵共々、敵が上陸してくるポイントを中心に待機する」
「‥‥‥」

  静かに頷いて応えて見せたのは、中肉中背ながらもグリーンの制服に隠された筋肉質な骨格が見てとれ、尚かつ額に残る2つの戦傷が印象の54歳の男性だった。
彼が宇宙海兵隊司令官 豪腱彪(ごうけん たけし)宙将(中将相当)である。過去の戦闘で負った傷が、彼が潜って来た戦場の過酷さを物語る。
宇宙海兵隊とは、海軍海兵隊と同質の部隊であるが、地球が統一されて宇宙時代へ突入し今日において、変わりに宇宙における海兵隊を必要とした。
  そこで新設されたのが宇宙海兵隊で、宇宙空間での個人または集団戦闘を大前提とした部隊だ。装備も宇宙空間戦闘に特化したものが大半であり、突撃銃やロケットランチャー、バズーカ、携帯式対空ランチャー、空間装甲車、コスモシーガルといったものを揃えている。
  さらに空間騎兵隊に並びに地上軍等でも配備されているのが、98式特殊機動外骨格と呼ばれるパワーローダーであった。
土木関係で活躍する二足歩行型の作業ロボットを、軍事用に転換したものである。背丈は3.4m程で、人間が胴体部のコクピットに座り操縦するものだ。
武装はそう多くはない。両肩部分にオプション装備としてランチャーポッドや対人兵器等、或はライフルカノンを備え、腕にもオプションとして機関砲を装備する。
加えて災害派遣時にも活躍できることから、宇宙海兵隊や陸軍では重宝する存在でもあった。
  宇宙海兵隊は、無論のこと大気圏下、重力圏下での地上戦闘も考慮していることから、ある種万能部隊とも言えるであろう。
また、太陽系全土に手を伸ばしつつあった当時の国連時代ということからも、宇宙海兵隊の存在は宇宙海軍らに及ばないにしても、明らかに海軍海兵隊らと比べれば大規模部隊と言える存在であった。
今の日本本土に配属されて残されている宇宙海兵隊は、本土守備隊が6300名余り、空間騎兵隊は1万2000名余りである。
並びに配備されている98式特殊機動外骨格は、守備隊約600機、空間騎兵隊約1000機となっていた。

「防空任務は土方宙将にお任せいたします。我が空軍は、侵入してくるであろう水上艦隊および宇宙艦隊への要撃に備えて待機いたします」

  そう発言したのは国連空軍極東管区日本支部司令官 山口充之(やまぐち ひろゆき)空将(大将相当)だ。年51歳で、ややふっくらとした印象を与える巨漢の軍人。
それに反して表情は何処か緩んでいるようにも見えてしまい、表情と体躯が反比例していたが、空戦の専門家としての実績は十分にある。
彼の率いる空軍は、主に他国への戦略爆撃や空中輸送、空中給油といったものが任務となる為、空間防空隊には防衛戦等を任せっきりと言うことに成ってしまう。
無論、状況に応じて戦闘機部隊や爆撃部隊を派遣して支援することも含めているが。
  空軍に配備されているのは1個戦略空軍550機あまりで、陣容は次の通りである。
戦闘機部隊としてコスモファルコンやコスモゼロが計110機あまり。攻撃部隊として98式ミサイル爆撃機〈爆龍(バクリュウ)330機あまり、偵察部隊としてコスモスパロー12機、100式11機の計23機、輸送隊としてコスモシーガル82機が配備されていた。

「地上軍は、既に日本海側を中心に部隊を配置し、万全の構えをとっております」

  次に発言したのは、逞しい体躯を持つ53歳の男性だ。モスグリーンのジャケットとスラックスに、スカーフ、という出で立ちであった。
国連地上軍極東管区日本支部司令官 窪田寛一(くぼた かんいち)陸将(大将相当)である。日本の陸を守る最高司令官だ。
彼の地上軍は、91式戦車並びに92式戦車を計780輌あまり、98式空間特殊機動外骨格1120機あまり、88式装甲車や87式兵員輸送車を980輌あまり、89式自走リニアカノン等の火砲を5000門あまり、対地ジェット戦闘ヘリ約900機あまりを保有していた。
  最後に、白い軍服に身を包んだ55歳の男性、国連海軍極東管区日本支部司令官 秋山三郎(あきやま さぶろう)海将(大将相当)が発言した。

「我ら海軍は、日本海側への展開を急いでおります。既に呉と佐世保基地より第2、第4戦闘群が対馬方面に展開を完了。また、舞鶴基地の第3戦闘群と、横須賀基地の佐世保海軍基地の第1戦闘群は、佐渡方面へと展開を急ぎつつあります」

  海軍は、4個戦闘群56隻を有している。主力艦艇として日向(ヒュウガ)型航空母艦4隻、天城(アマギ)型イージス戦艦4隻、白峰(シラネ)型イージス巡洋艦8隻、磯雪(イソユキ)型汎用イージス駆逐艦40隻。
その他、補助艦艇にミサイル・魚雷艇40隻、掃海艇40隻、計80隻。支援艦艇に輸送艦4隻と支援艦3隻、補給艦4隻、計11隻が後方任務に就く。
海中戦力として4個潜水部隊20隻を有し、殆どが龍波(タツナミ)型潜水艦である。艦載機や哨戒機、ヘリなど合わせると、300機を数える。
  とはいえ、戦力が未知数の大国を相手にしなければならない。日本海側にある舞鶴海軍基地と、長崎県の佐世保海軍基地の艦隊はすぐに出られる。
広島の呉海軍基地の艦隊も、明後日までには間に合う。東京の横須賀海軍基地も明後日までには、間に合うか微妙であるという。
遠回りになる航路でありながら、早く到着できる由縁は、核融合炉エンジンによる、ウォーター・ジェット推進機関にあると言えるだろう。
300m級の日向型空母でさえ、最高速度は35kn(ノット)を出す事が可能であり、駆逐艦に至っては45knあまりを出すことが出来る。
  海軍は第1戦闘群から第4戦闘群を2つに振り分け、佐渡島と対馬にそれぞれ展開させ、ユーラシア連邦と東アジア共和国に対応しようというものだ。
C.E世界との相違がなければ、ユーラシア連邦はウラジオストク港、東アジア共和国は青島港、旅順港と予測できる。
また、かの韓国の海軍基地がそのままであればの話だが、京畿道、木浦市等4ヶ所に上ると推測された。ともかく対馬を絶対防衛線として構える必要があったのだ。

「‥‥‥戦端を開くことだけは、避けたいが」
「それは最後の最後です。長官たちには、引き続き会談による解決を続けて頂きたい」
「わかった。今日はここで、解散としよう」

  沈痛な表情の藤堂は、今日の会議を解散させた。強制的に返還を要求する相手に、これ以上の対話は無意味なのだろう。
だが、戦争を始めたら、終わらせるのは容易ではない。いや、相手にしてみれば日本を制圧するなど、容易いと見ているのだろう。
それもそうだ。大国が2つに対して、日本は協力国もないのだから。理不尽な要求を突き返したところで、武力行使を振るうのは目に見えている。
  肩を落とす藤堂に、旧知の仲である沖田が声をかけてきた。プライベートでの接し方で、沖田は友人の気持ちを察した。

「藤堂、戦争を避けたい気持ちはわかる。わしも出来れば避けたい‥‥‥だが、ことを構えたのであれば、我々は全力で排除する他ない」
「わかっているのだ。第二次内惑星戦争でも、随分と被害者を出した‥‥‥そんなことを繰り返したくないのだがな」
「黙っていては、殺されてしまう。脅威から市民の身を守るのが、我々国連軍の役目だ」

これは正当防衛だ。言われもない要求を突きつけられた上に、軍事行動に踏み切ってきた。これから身を守るのが、日本の軍事行動の理由なのだから。
それでも藤堂は、最後の最後まで戦闘を割ける手段を考えた。国連は動いてはくれないようだが、こちらから訴える価値は、まだある筈だ、と。






  日本が宣戦布告も同然な要求を突き付けられてから翌日、ユーラシア連邦は着実に日本占領に向けての準備を整えつつあった。
そしてユーラシア連邦領内の主都ブリュッセルでは、明日に行われる占領作戦に向けての連邦議会が招集されている。

「諸君、明日はいよいよ小国との戦争が始まる。そこで今日は、明日に向けての最終確認を行うものとする」

会議室でモロコフ首相が不敵な笑みを浮かべつつも、議会に顔を揃えた一同を見渡した。そうだ、この戦争は単に領土奪還のためだけではない。
日本の設置されているマスドライバーの奪取こそが、最大の目的なのだ。これが手に入れば、わざわざ東アジア共和国や南アフリカ統一機構へ、出向く必要はなくなる。
彼らの領土内で、宇宙空間へ戦力を打ち上げる事が叶うのだ。そのためにも、この戦争で敗北は許されない。最初の一撃で、日本を負かさねばならないのだ。
  軍事作戦に関して、58歳のロシア人男性―――ユーラシア連邦国防相 セルゲイ・ルツコイが、議会の場で説明を始める。

「日本占領に先立ちまして、我がユーラシア連邦の最初の目的は、敵海上兵力と航空兵力の殲滅にあります」

  因みに、この作戦で投入される海軍の艦種並びに兵力は、次のような物だ。海軍からは洋上艦隊として1個艦隊26隻が投入される。
内容は、航空機や戦闘車輛の双方を運ぶことが可能なスペングラー級強襲揚陸艦2隻、スペングラー級の基礎となった航空母艦のタラワ級航空母艦2隻。
標準的な戦闘艦のデモイン級イージス巡洋艦4隻、デモイン級を改修したアーカンソー級イージス巡洋艦4隻、汎用性の高いフレーザー級イージス駆逐艦14隻。
  海中戦力として、2個潜水部隊8隻が投入され、標準的な主力潜水艦であるノーチラス級攻撃型潜水艦で構成される。
また輸送部隊20隻も同時投入され、水中でも大きな輸送能力を持つマーシャル級大型輸送艦12隻、並びにダラス級輸送型潜水艦8隻が編入されていた。
―――以上、水上艦艇並びに水中艦艇の双方を合計して総計87隻が出撃することとなったのだ。
  これらをウラジオストク港から、1個太平洋艦隊を丸々担ぎ出す事になる。呼び戦力が空になるのではないか、という投入ぶりであった。
日本を占領するとなればこれくらいの海上戦力は、寧ろ必然だと言えよう。また、航空兵力も尋常ではなかった。
使用されるのは当然のこと、長距離爆撃機を中心とした打撃部隊。それに護衛戦闘機が付随し、およそ2個航空師団―――約200機となって襲う。
旧日本のかつての航空基地を目安に爆撃を仕掛ける。これ程の爆撃なら、ひとたまりもないだろう。ルツコイは自信を持っていた。
  上陸に動員される規模も、当然大規模なものだった。兵員3万人―――凡そ1個軍団の兵力規模を、上陸させようと言うのだ。

「これだけの戦力を投入して、太平洋等の守りは大丈夫なのかね」

思わず守りが心配になる連邦議員。もしもこの戦闘で全滅するようなことがあれば、ユーラシア連邦は太平洋への守りを弱体化させることを意味するからだ。
陸軍しかり、空軍しかり。とくに輸送船が撃沈されれば、乗っている兵員は戦いもせずに海に没することとなる。
それに太平洋艦隊を失えば、全海軍力の4分の1を失うことにもなりかねない。
  だが、それも万一の場合である。

「ご安心ください。わが軍は何も単独で攻め入るわけではありません。隣国の東アジア共和国も、1個艦隊を投入するのです」

そう、東アジア共和国も、日本の西側から攻めるべく大兵力を投入することを決定したのだ。それも、ユーラシア連邦と肩を並べる規模だ。
これだけの大兵力を前にすれば、如何なる日本と言えども、防ぎきることはない。ザフトのような新兵器が配備されていなければ、なおさらだという。

(マスドライバーを欲するとはいえ、あまりに急ぎすぎではないのか)

碌な調査もせずに、いきなり開戦は如何ともしがたい、と思う議員もいる。
しかし、相手の国力を下に見積もっている情報部に何を言っても無駄だろう。

「また、宇宙からも降下作戦を展開致します」
「宇宙軍も動かして、大丈夫なのか」
「はい。プラントは動く気配はありません。それに、わざわざ月まで出てくるほどに、戦力を充実させている訳でもありません」

それはどうかな―――と、疑問の眼を向ける議員数名。日本を上下から挟撃してやれば、短期間に決着を付けられるだろうが、あまりに楽観的すぎやしないだろうか。
海軍、陸軍、空軍、そして宇宙軍も動員すると言うフルコース。逐次の戦力投入による戦力消耗よりは、遥かにマシな選択かもしれない。
  しかし、一国に対してあまりにも過剰な戦力投入は、失敗したときのリスクが高い。それでも自信満々なルツコイに、モロコフも勝利を確信しているようだった。
負ける可能性がない。それを前提にしているのだ。

「これで我が国は、独自に宇宙戦力を強化させる事が出来るぞ。大西洋連邦の連中を引き離すチャンスだ」

高らかに、未来の勝利を謳う首相に同調する議員が半数以上。訝しげな反応を示すものが少数。覇権を取ろうとする大国が、どのような末路を取るのだろうか。
不安がる議員の思いなど無視し、彼らは祖国の勝利と発展を夢見るのであった。
  だが開戦直前、全国へ向けて、とある通信が放たれた。それは日本のものであり、あらゆるメディアに繋がるように飛ばされたものであった。

『全世界の皆さん。私は日本の行政長官、藤堂兵九郎といいます』

藤堂は最後の手段として、全世界へ向けて直接訴える方法を試したのだ。この周波数は、日本へ入国しようとして、臨検した商船などから得たものである。
不味いとは思うが、こうでもしなければ日本の危機は救えない。彼は懸命に、自国の立たされた境遇を伝えんとした。

『わが日本は、不幸なる事故でここへ迷い込みました。決して我々の望むものではない事故です。しかし、信じて頂くのは難しいでしょう』

  突然の全国放送に驚く人々は大勢いた。同時に話題になっていた日本の、代表者らしき人物の放送だと知って、寧ろ聞き入っている。

『ユーラシア連邦と東アジア共和国には、強く対話を強調して参りました。それが、一方的な要求によって、我が国は危機を迎えております』

対応しない国連にも非難の声を振りまけながら、日本は先の2国から武力行使を受けようとしている、と訴える。
話し合いではなく武力で解決しようと言う姿勢に、藤堂は強く批難する。対話でこそ解決すべきことではないか、と。
  放送の様子を見守る沖田と土方、そして芹沢。出来ることならば、それを最大限に行わなければならない。
そこで藤堂らは、国に訴えるのではなく、全国民に訴える方法をとったのだ。独裁国でもない限り、民衆の声は政府に届くはずだ。
それも可能性は低いが、やらぬよりはよほど良い。日本の存亡が掛っているのだから。
  マーシャル諸島―――オーブ諸国の一角にも、この放送は届いていた。この日、島に住みついている40代の男性が、ラジオに耳を傾けていた。

「‥‥‥亡国の日本か」

日差しが頬を照らしている中、彼は目を開けぬままに呟いた。いや、開けぬのではない、開けられないのだ。
彼はマルキオ、盲目の導師である。かつては宗教に身を置いていたが、近年の複雑な情景に見かねて、宗教界から身を離していた。
ナチュラルとコーディネイターが、共存して生きて行くべきだと説き、両者からも信頼をおかれている人格者でもある。
  今は孤児を引き取り、世話をする立場にあり、さんさんと降り注ぐ南海の太陽と、潮の香りを浴びながらも平穏な暮らしを続けていたのである。

「いや、それとも‥‥‥時空を超えてやって来た、現代の黄金の国(ジパング)かもしれない」

柔らかい笑みを浮かべる。かつて、大昔の西洋人が説いた、東にある黄金の国ことジパング。この世界にとっては、どのような黄金が眠っていることやら。
それに、今になって日本の名が上がるとは、この時代は本当に変化が激しいものだ。

(それにしても、迷い込んだ人にいきなり銃を向けるとは‥‥‥もっと見極めるべきだろうに)

日本が壊滅と言う憂き目を見ぬうちに、手は打てぬだろうか。彼としても、日本に対する興味は今に始まったばかりなのである。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第2話になりました。
なんだか色々と手を広げすぎた感がありますが、このまま続けていきたいと思います。
それと、もしも違うようなところがあれば、感想掲示板なりに書いていただければ幸いです。
連邦政府の人物名などは、個人の妄想ですので、本気になさらないよう、お願いします。
それと日本海軍の艦艇は完全に個人の妄想です。戦艦などあるのかと疑問にも思いましたが、ヤマトでは実弾も発砲可能な主砲も開発できたことから、海軍にも大口径の主砲を搭載した戦艦がいてもおかしくはないだろうな、と思った次第です。



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