C.E暦70年3月2日。遂に第三勢力となる国際中立連盟が誕生した。同時に連盟国家同士の議会の場である連盟議会を設立する事となる。
また中立連盟を護る為の軍隊―――国際中立連盟平和維持軍(通称:連盟軍)を創設することも決定したのである。
この連盟軍の下には、各国の軍隊を編成した4つの部隊(連盟陸軍、連盟海軍、連盟空軍、連盟宇宙軍)が新たに設立されている。
  とはいえ連盟軍と大層な名前を賜った訳ではあるものの実質的な統合部隊としているわけでもなく、現時点では各国ともに自国の戦力で防衛等を行うこととなる。
例外として宇宙軍に関してのみ日本の宇宙海軍で大半を占められており、連盟各国は日本宇宙軍に大気圏外を守ってもらう形となるであろう。
また地球連合軍同様に連盟軍の設立から日が浅く、各国と連携してでの連盟軍として機能するには膨大な時間を要することを参加各国は自覚していた。
もっとも各国は上記したように独自戦力で敵対勢力に立ち向かうことになるのが常である。
  しかし、敵対勢力に対して勝つ見込みがない、または同等である場合は違う。退ける事が不可能と判断された場合、或いは救援を要請された場合に限り特別措置として他国軍を編成した連盟軍として速やかなる救援に赴く。
簡単に纏めると、このようなものとなるが、問題が無い訳ではなく、それを如何にして解消していくのかが焦点ともなった。
  一方で、日本とオーブ連合首長国を中心にした連合国家の存在は、他国に様々な反応を与えたのは当然である。
この成立に忌避を買ったのは案の定、地球連合であった。中立国は中立国らしく分散したままいればいいものを、寄りにもよって集まってしまったのだ。
しかも超大国を退ける軍事力を有する日本と、C.E暦世界では有数の技術立国であるオーブなど名高い国が含まれているのも、地球連合各国首脳部の頭が痛くなる原因でもあった。

「国際中立連盟などと大層な名を付けてはいるが、結局のところ、日本の傀儡にすぎんのではないのか!」
「それはないだろう。確かに日本は、技術的にずば抜けているのは事実。しかし、他国との関わりは極めて良好だ」
「中立を謳いながら、奴らは軍備強化に勤しむと言うではないか」
「軍備強化は当然だろう。まして日本は、単独で戦わねばならなかった経験がある」

  地球連合議会にて、各議員や軍人は中立連盟に対する戦略に四苦八苦している。これを黙視してプラント戦略に全力を捧げるべきだと主張する者。
中立連盟を地球連合側に付けてプラントに対し優位に立とうと主張する者。はたまた、武力制裁を加えて中立連盟を解体してからプラントと対峙すべきだと主張する者。
3つ目の意見を出したのは、案の定と言うべきかユーラシア連邦と東アジア共和国の面々だった。彼らにとって、この勢力は極めて目障りこの上ないものだった。
  大陸の東側には海を挟んだ形で日本がいる。大陸北西にはスカンジナビア王国が隣接し、南方には汎ムスリム会議と南には赤道連合が存在する。
つまり、ユーラシア連邦と東アジア共和国は、東、北西、南の三方向から見事に包囲されているのだ。一度日本と交戦しているだけに彼らの危機感は強かった。
中立連盟が中立を謳おうとも、この二大国を始めとした地球連合からすればとてつもなく厄介な存在見えて当然と言えよう。

「何を恐れる? 奴らは所詮、寄せ集めにすぎん。日本やオーブは別として、他の参加国を恐れる必要など有る物か」
「君はこちら側―――ユーラシア大陸におらんから、そんなことが言えるのだ」
「おやおや、日本にあれほど威勢を振りまいていたとは思えんな。いつになく弱気なものだ」
「なんだと!」

閣議どころか次第に口調を荒げて罵声の合戦が繰り広げられる。それを呆れんばかりに見ているのは、地球連合事務総長 マッコー・オルバーニ。年齢は53歳。
これが地球連合の実情である。所詮はプラント打倒のために作られたに過ぎない、見た目だけの巨大な連合体だ。それを彼は身に染みて感じていた。

「静粛に、静粛に!」

  マイクで声を響かせると、皆はシン、と静まり返る。

「諸君、そのようなことでは碌な戦いも出来ぬぞ。それに、今は中立連盟への対処の問題であろう?」

議会メンバーは渋々と言う様子で話を切り戻した。中立連盟は全世界に対して争いに介入することは無いと明言しているのは、皆が知るところ。
他国から攻撃を受けた、あるいは脅しや脅迫を受けた場合は全力を持って反撃に転ずると言う。それを取り仕切っていたのは、あの日本の指導者である藤堂だった。
オルバーニの眼から見て、藤堂という人物は穏健的であると判断していた。強い印象が無いものの、彼のこれまで取ってきた行動を見れば分かる。
  中立を宣言した国々が自ら攻め入ると言うことはないだろう。彼はそう信じて割り切っていた。

「手を出さないと明言しているのだ。ここは、彼らを相手にせず、プラントに備えて然るべきではないのかね」
「それは、仰る通りですが‥‥‥」

今いち煮え切らないとでも言いたげな議員。これとは別に連合に対する動きに不満を持つ者もいた。それが南アフリカ統一機構である。
彼らは連合から真面な支援も受けられず、ジリ貧状態でアフリカ共同体と戦わねばならなかった。ジリ貧はアフリカ共同体も同じではあったが。
  その国の代理人ハメラ・ロイアは支援を訴える。

「我が国は、戦線を膠着させたまま、進む気配がありません。しかも、奴らはプラントの手を借りようとしているとの情報もある!」
「ロイア議員。それについては、連合も支援を継続するつもりだ」
「たんなる継続では、戦況を巻き返せません。さらなる増援を必要としているのです!」

つい最近までは、あまり本腰を入れてこなかった連合もとい国連。それが次第に変化を見せ始めた原因は、やはりプラントの介入であった。
プラントの支援を受けるだけでアフリカ共同体は簡単に押し返されることだろう。しかもビクトリア基地のマスドライバーを取られてはたまったものではない。
辺境の地だと見下していたツケが周ってきているのである。

「連合を上げて、貴国への支援を強化することを約束しよう」

  どこまで信用できるものだろうか。ロイア議員は信じる気にはなれなかった。そもそも日本との友好関係を築く予定の筈だったのだ。
それがボロボロと崩れたのは、例の中立宣言によるものである。中立宣言をされた以上、無暗に手を伸ばすことは出来ない。
中立国が他国の争いに介入することになってしまうからだ。勿論、直接的ではないだろうが、兵器技術の供与といった間接的なことも厳禁とされている。
よって、結局は地球連合に支援の強化を要請する他なかったのだった。
  連合議会の場とは別に裏世界の議会場でも中立連盟の存在に対する意見や、今後の対プラント戦に対する意見を交合わせていた。

「プラントは世界樹を陥落させたことで、勢いをつけている」
「さらに、あのNジャマーとかいう技術によって、あらゆる電波技術や電波誘導兵器を減退させるというではないか」

裏世界を牛耳るロゴスのメンバーは、相次ぐ連合の敗北に浮足立ている。このままいけば、プラントは地球侵攻にも乗り出してくるに違いない。
国力としては地球連合の比ではないプラントだが、今や大洋州連合とアフリカ共同体という基盤が存在しているのが大きな問題だ。
アフリカ共同体は別として、大洋州連合も一大陸国家として生産能力は高い。
  本当ならば、このような国は攻め落としてやりたいところであるが、実はそうもいかない理由があった。この大洋州連合の位置を良く見ると、その北に中立連盟の構成国家たるオーブ連合首長国と、赤道連合が存在しているのである。
つまり、大西洋連邦が海軍による艦隊を出そうとしても、その進路上に中立連盟の領海が広範囲に渡って広がっているのだ。ここを通るのは簡単な話ではないだろう。
中立連盟に対して侵攻に意志が無くても、通過しようとすれば足止めを食らうのは必須である。

(日本も面倒なことをしてくれたものですねぇ)

  列席者の1人、アズラエルは苦々しく思った。圧倒的な技術力を持つ日本を魅力的な国だと思う反面、今回の連盟成立に対しては遺憾に思うのである。
もっとも、それは日本や中立諸国の都合であって大西洋連邦らに口出しされる謂われはないだろう。下手に口を出せば手を噛まれてしまうのだ。
プラント以外に敵を作るのは、非常に都合の悪い話でもある。まして技術で劣る地球連合だ。ユーラシア連邦、東アジア共和国の轍を踏むのは勘弁願いたい。

(とはいうものの‥‥‥)

  やはり中立連盟の存在位置は非常に都合が悪い。大西洋連邦の太平洋艦隊は大きく南下して迂回ルートを通る形を取らねばならないのだ。
ユーラシア連邦と東アジア共和国は、それぞれ洋上1個艦隊を失っているものの海軍は健在している。
  とはいえ、ユーラシア連邦海軍の主力艦隊の1つ―――地中海艦隊を出すにしても、スエズ運河を通って紅海を通過してインド洋へと出なければならない。
太洋州連合へ辿り着くにはこれが最も最短コースではあるが、紅海で待ち伏せされる可能性を否定することはできなかった。
別の方法としては西へ進路を取ってジブラルタル海峡を抜け、そこから南下してアフリカ大陸の南端の喜望峰を回る選択もあるが、それこそ時間が掛ってしまう。
ここは一刻も早くG計画を推し進め、同時に宇宙戦力の強化しなければならない。つまり、慣性制御システムの取り付けを完了させなければならなかった。

「近々、連合上層部はアフリカ戦線を早期に終わらせる口の様だ」
「あそこにはマスドライバーがあるからな。それにアフリカ共同体の連中が、プラントと結託したとなっては厄介この上ない」
「しかし、南アフリカ統一機構は宛に出来ん。たかが烏合の衆如きに、決着を付けることすら出来んのだからな」

ロゴスメンバーの、南アフリカ共同体への評価は辛辣である。彼らにとっては辺境の地でしかなく、マスドライバー以外の価値は無かったのだ。
もっとも、ここを取られたとしてもマスドライバーは東アジア共和国と大西洋連邦に1つづつある。焦ってアフリカへと向かう必要はない、と彼らは見ている。
  地球連合の大まかな目標としては、いち早いMSとその母艦の完成、宇宙艦艇の改装と月基地への増援、地球上における反地球連合勢力の一掃である。
軍需産業側としては増々をもって業績の上げ時だろうが、それを素直に喜べないのが現状だ。また、プラントは近々攻勢に出るのではないだろうか、とさえ囁かれている。
アズラエルもそう疑う1人であった。国力に劣るプラントが勝つ為には、電撃戦しかないのだ。地球連合軍の上層部はそれを理解しているのだろうか。
  寧ろアズラエルは、中立国をどうにかしておかねばならない、とも考えていた。敵に回ることだけは避けて然るべきだ。
ただし、こちらの味方にならないにせよ、プラントとカチ(・・)合わせるだけでも、戦況は大きく変動するのは確実である。

(中立連盟‥‥‥自分達は関係ないと思っていたら、大間違いですよ)

対プラント戦に熱を入れるメンバーを除き、薄く笑うアズラエルには誰1人気づくことは無かった。そして中立連盟の存在を、彼以外もまた見過ごすつもりはなかった。






「歩行システムにエラーなし。動きに問題はなさそうですね」
「あぁ。上出来だ」

  日本を代表する山―――富士の周辺にある高原にて、2人組が一定方向を眺めていた。1人は日本宇宙軍所属の真田 志郎である。
そしてもう1人は、真田よりも背が低めでレンズの広い眼鏡に頼りなさげな風貌をした26歳の青年。来ている服はブラウンのジャケットにスラックスとスカーフ姿。
日本地上軍第4技術研究課所属 新米俵太(あらこめ ひょうた)二等陸尉である。真田の後輩の1人で、突飛な発想はないものの堅実な技術者の腕を持っている。
特に兵器開発による原因解明で上げた功績もあり、それは先輩である真田も良く知っているが、その頼りなさげな風貌とオドオドとした性格の為、実像と合致しない。
  彼らの目の前を歩いているのは、八角形の円盤型本体の周りに2つの間接を持った6本の足を付けただけの、至極簡易的なロボットである。
それが平原の上を、規則正しいリズムで足音を当てながら歩行しているのだ。

「しかし、驚きましたよ。まさか我々で歩行戦闘車両を造る、という開発企画は今回が初めてでしたからね」
「ロボット自体は、珍しいものでもなかった。宇宙海兵隊の98式特殊機動外骨格や、自律式AIもあったからな。だが‥‥‥」

真田の言うとおり、ロボットの存在そのものは決して珍しくはなかった。先の98式特殊機動外骨格しかり、さらには科学研究所や分析室ではコンピューターや人を補助するための自律型ロボットが投入されていたのだ。
これはAUと呼ばれるシリーズで、人間ともコミュニケーションが可能なAIを有している。無論、そうなるまでには幾度の経験を積み重ねさせたものである。

「この企画は、中央司令部の決定ではない。オーブの協力要請によるものだ」
「へぇ、オーブが提案してきたんですか」
「プラントがMSを保有しているのは、もう知っているだろう? その実用性と運用性を見て、独自に造るべきではないかと囁かれたんだ」

  開発企画が持ち上がる前の日本軍中央司令部では、98式に代わる様なMSのような二足歩行型の機動兵器の必要性は認識されていなかった。
ただし98式は戦闘用に運用するには全高3.4mと目立ち、動きもノロくはないこそすれ、あまり積極的に投入される代物ではなかったと言えよう。
日本にMSは必要のない代物であると同時に、全高20m等という巨体を持つロボット等は非現実的である―――と唱える者も少なくなかったのだ。
その考え方も無理もないもので、理由たるものは実戦経験が無かった為である。
  さらにMAメビウスを圧倒出来たコスモファルコンやコスモゼロ、コスモタイガーUがある。故に、MSに対しても互角に戦えると考えたのだった。
つまり、軍高官僚の多くにはMSを必要以上に恐れる程の脅威と見ていなのが現実なのであった。
  しかし、日本軍の中でも宇宙海兵隊である豪腱宙将や、陸軍の窪田陸将からすると、軽視すべからざる相手という意見が出ていた。
同時にオーブ連合首長国の一部からも、MSの必要性を投げかけられてから、日本側も次第に状況の変化を見せた。
先の2名の言う様に、宇宙空間では二足歩行の必要性が無いにしろ地上ではどうであろうか―――という問題だ。
  日本地上軍では、国連地上軍で正式採用されていた92式主力戦車が数多く配備されている。92式は2192年に開発採用されたことから、そう呼ばれている。
なお、開発したのは極東管区技廠と欧州管区技廠の共同である。キャタピラ式を採用し、車体も跳弾性を考慮した形状と配置を採用。
兵装は120mmショックカノン砲塔×1門、12.7mm機関銃×2機備えている。戦車に使用されているのは、エネルギー兵器であるショックカノン砲塔だ。
陽電子ビーム兵器は、高威力に対してエネルギー供給の難しい兵器であることは述べた通り。
  だがそれは、搭載している対象から、直接にエネルギーを充填する場合のことだ。つまり予めにエネルギー充填ようのバッテリーを設けていれば話は別なのだ
射撃用の陽電子エネルギーパックに充電しておくことで、小型な車輌または航空機にも搭載を可能としているのである。
もっとも、充電式であると言う以上、射撃回数には限度があって当然で最少エネルギーで40発、最大エネルギーで22発までが射撃可能となっている。

「92式が後れを取るでしょうか?」
「実証も検証もできんから、軽はずみなことは言えんな。そもそも、全長20mに迫らんとする二足歩行型戦闘ロボットなど、あまりにも非現実だと思っていた」
「過去形ですか?」
「あぁ。俺は最初、あれ程までに巨大にして宇宙空間で足を付ける意味など、全く意味などないと思った。しかし、地上でも使える為としたならば、それも良いかもしれん。そして、我々人間と全く同じ動きができるというのであれば、戦車でも通れない悪路を通過することだってできる」

  そこが二足歩行の利便性だとも言える。それに、戦車にとって意外な弱点を晒すことにもなる。それが、車体上面が狙われやすいということである。
戦車は正面や側面といった水平面方向への装甲は、万全を期すように設計されている。しかし、全体を装甲で纏おうものなら、その分だけ重量が増し、鈍足になる。
そこで車体上面の装甲をやや薄くするのである。戦車は上空に飛ぶことは無い。だから水平面方向の装甲を重視すればよい。
  だが、このMSが相手となると一気に分が悪くなる。相手は全高があるぶん発見しやすいが、逆に戦車は上面を晒し撃ち抜かれる可能性が大きいのである。
等と不利な点があるが、戦いようによっては倒せないとは言い切れない。92式戦車のショックカノンの最大威力は、駆逐艦のフェーザー砲に並ぶ。
MSを破壊できないとは言えないが、確証は持てなかった。

「92式は、今のところ最高水準の戦闘車輛だ。しかし、MSとやら相手に、どこまで通用するのかわからん‥‥‥いや、敵わんかもしれん」
「先輩らしくありませんね」
「可能性を言っているんだ。戦車は、あくまで同じ戦車を相手とするために造られたものだからな。まさか、戦闘ヘリや戦闘機を相手に造られたわけではあるまい」
「仰る通りです‥‥‥。それで、オーブの提案に乗って、こちらも脚を付けた機動兵器を?」

新米の言葉に、真田は頷く。宇宙や空はコスモゼロ等に任せても問題ないとして、地上軍の不安要素は少しでも潰さねばならない。
  そこで今開発中の六足歩行型機動兵器が、対MS兵器とすべく期待されているのである。現段階では本体と脚のみだが、もう少しすると武装も取り付けられる。
今度はその状態でテストが重ねて行われ、次には武装を使用しながらのテスト。動きながらの模擬戦闘をおこない、不備を徹底して見つけるのだ。
因みに脚を六本にした理由は、やはり運用性の高さを見越してのことだった。

「98式の様に二足歩行にするより、六足歩行にした方が車体をより安定させられるのが、何よりの利点です。MSのように10mを超す戦闘車では、良い的になるだけですから」
「それに上面装甲の解決は、車体を傾けて正面を向けるようにしてやればいい。何も接近する必要性は無いからな」

また二足歩行では脚を破損した場合、それが機動性能に致命的なダメージとなる。四足歩行というアイディアもあったが、一本でも破損すればバランスが悪くなるのは明白だ。
  そこで六本脚を採用したのだ。これであれば左右の脚を一本づつ失っても、残りの四本脚で辛うじて行動が可能となる。搭載予定の武装は、92式と同等の120mmショックカノン×1門と、旋回式12.7mm機銃×1機である。

「ですが、提案内容によっては、歩兵支援戦闘や自走砲の任務を兼ねられるよう、要請が来ています」
「万能型か、あるいは任務専門用を造るか。それは、これからの研究次第だ」

あるいは89式自走リニアカノン砲に採用されている、155mmカノン砲塔を搭載するか。大まかに、この二種類の場合が考えられる。
  ただし後者である自走カノン砲となると、遠距離攻撃を想定していることもあって砲身は長大となり、エネルギーコンバーターも大型のものとならざるを得ない。
そうなると重量は戦車よりも増えるのは当然で、移動力の低下という致命を生む。そうならない為には、やはり装甲を削るしかないのである。
薄くなる装甲には、対応策としてコスモナイトを幾分か混ぜて生成した特殊装甲を使用することとなる。単なる合金金属はかなり良い筈だ。
  開発と研究は、こういった(いたち)ごっこでもあるのだ。それに、この開発予定機は、同じ中立国にも配備する予定の代物だ。
彼らのそばにはいないが、既に各国の兵器開発関係者が集まっており、この戦闘車輛の議論を重ねている。
このように日本やオーブ連合首長国らは、早々に兵器開発を行い多脚主力戦車と多脚自走カノン砲の開発を推し進めていった。
  また兵器開発の波はそれだけに留まらない。先の98式特殊機動外骨格であるが、宇宙海兵隊のとある下士官から新兵器開発の申請が強く提言されていた。
先に説明したのはあくまでも“戦闘車輛”である。この下士官が提案したのは、98式をさらに機動性と打撃力を高めたものへと改良すべしとのものだった。
上層部は、これを却下したものの再三にわたる提言並びに、豪腱宙将の強い押しがあったことも相まって、開発の申請に許可を出したのである。
何せ宇宙海兵隊からすれば、MSには到底及ばないであろう98式では無駄な死者が出るだけだ―――との強い危機感を募らせていたことによる。
そして下士官らが出したコンセプトが、“小型の1人乗り”で、“航空機の機動性”を有し、“装甲戦闘車輌の火力”を有する、というものだ。
  傍から見れば―――といより開発陣以外も野茂からしても、あまりにも無茶難題を盛り込んだ開発コンセプトだ、と驚愕せざるを得なかった。
それでも宇宙海兵隊が海兵隊として存続し戦う為には、これくらいの小型機動兵器が必要となる。
技術開発工廠にしても無理難題を押し付けられたと思う反面、「こんなのが出来ないのか」という文句をねじ伏せるべく技術者根性を燃やしていったのである。

「そういえば、宇宙軍の方でも、次世代型戦闘艦の試作艦が建造中と聞いておりますが‥‥‥」
「陸軍の耳にも届いて当然か‥‥‥」

  新米が真田に問いかけた次世代型戦闘艦とは、『次世代戦闘艦建造計画』の下に行われていた、『試作艦建造企画』である。
今の主力は金剛型宇宙戦艦であるが、1番艦である〈コンゴウ〉が建造されてから約29年が経過するという艦艇としては年紀の入った艦なのだ。
金剛型は運用性や実戦における性能の高さが評価されているため、その後の次世代型主力戦艦の建造は見送られ続けて来た。
それが20年を経過してきた頃になって、宇宙軍関係者から新造艦の必要性が出てきたのである。
  宇宙軍上層部もそれを受け入れた。技術力も徐々に向上してきた上に、金剛型宇宙戦艦を改修していくのにも限度があった―――という事情もあるらしい。
同時に巡洋艦、駆逐艦においても、次世代型の建造が進められることになり、順調にいけば順次入れ替えを行う予定であった。
  その次世代型を企画建造するに辺り新規技術も多く取り入れられることとなるのだが、機関技術に関しては特に大きな進歩を見せ始めていた。
これまでにおいて元の世界では核融合炉機関が艦船の主要機関として搭載されてきた。勿論、開発されたばかりの頃は難があり、一時は採用が見送られたほどであった。
課題として機関構造の大幅な小型化と効率的なエネルギー変換が挙げられたが、時間を掛けつつも地球全土の科学者たちはそれを成し得て来たのである。
磯風型突撃宇宙駆逐艦の様な80mしかない艦体にも積み込めるほどとなったのは、何よりの証拠であろう。
  そして次世代型機関の開発にも余念は無かった。技術者のみならず全人類が望みうる、半永久的な動力を持つ夢の様な機関を欲したのである。
概ね太陽圏全土に手を広めた人類は来るべき外宇宙への航海に向けて、有資源的な核融合炉よりも永久的なエネルギー生成機関システムを欲したのは当然と言えよう。
色々と理論的な話では成し得る事は出てくるが、実際に実施するとなると話は別になる。理想と現実は必ずしも直結するとは限らないのと同じである。
永久機関の開発は遠い故の話になるが、半永久機関であれば辛うじて次元は可能として総力を挙げて開発に勤しんでいた。無論、日本もそれに噛んでいる。
  そこで国連はあらゆる理論から可能性を見出して開発に乗り出したのが、太陽機関(Solar Drive)と呼ばれる新構想機関の提唱と開発案であった。
超重力下において生成される特殊な粒子を利用した機関技術で、木星のような環境が最も適した開発場所となっている。
国連宇宙局はそこに施設を設置し実用化に向けたのだ。本格的開発に乗り込んだ西暦2175年から21年後の2196年には、木星の太陽機関開発ステーションにて実用化に漕ぎ着ける事に成功したのである。
  それから小型化による艦船へ実験的に搭載する計画が取られていき、世界各管区に平等数で輸送された中には極東管区の日本も含まれていたのだ。
国連宇宙軍はこの時、次世代主力艦建造のための試作艦設計案が進められていた事と相まって、それに相乗りする形で太陽機関搭載型の試作艦艇の建造を進めていったのが西暦2199年3月上旬頃の頃である。
一大巨大企業―――南部大公社のグループ企業の1つである南部造船会社の造船所にて起工したのを始め、他にも通常の艦載砲として長年採用されているフェーザー砲の威力向上型となる新艦載砲―――収束圧縮型光線砲(ショックフェーザー)を開発しており、その破壊力はフェーザー砲に勝っていた。
その新機関と新武装等を盛り込んだ次世代型戦艦のテストペットと言われる戦闘艦のカタログスペックは、次の通りとなる。

試作1号艦
全長:333m
総重量:15万1000t
兵装―――
・225cm艦首陽電子衝撃砲×1門
・48cm三連装収束圧縮型光線砲塔×3基9門
・20cm三連装収束圧縮型光線砲塔×2基6門
・VLS×16セル
・短魚雷発射管×16門
・魚雷発射管×12門
・八連装爆雷投射機×2基16門
・12.7cm四連装パルスレーザー砲塔×8基32門
・8.8cm三連装パルスレーザー砲塔×4基12門
・12.7cm連装パルスレーザー砲塔×8基16門
・7.5cm連装パルスレーザー砲塔×10基20門
・7.5cm三連装パルスレーザー砲塔×4基12門
・格納式8.8cm単装パルスレーザー砲塔×8基8門
主要機関:太陽機関1基
補助機関:核融合炉2基

と、試作艦としては十分すぎる火力を有する戦艦となる“予定”である。特に目を引くのは、艦首に備え付けられる225cm口径のショックカノンであろう。

「それで、開発部は予定通りに建造を続けるんですか? 一端、建造が中止されて見直すとかいう話でしたが」
「仕方あるまい。この世界との技術の差異を確認せねばならなかったんだ。建造を終えてから不備が見つかったのでは、元も子もないからな」

  前の世界基準で建造される新造艦が、この世界で実は駄目でした、というのでは開発関係者の面目は丸つぶれである。そこで、1ヵ月余りの間は建造が中止された。
中止された時点で、最初の1号艦は46%あまりも進んでいた。下手をすればやり直さねばならない事態も、考えられていたのだ。
それが、この世界に来ての実戦で技術力の有効性が証明されたため、工事はC.E暦69年 10月下旬には再開されたのである。
再開された1号艦は、翌月のC.E暦70年3月末頃には何とか就役する見込みだが、その途中で新技術を多少取り入れることが決定されている。

「2号艦も順次建造中だ」
「久々の新造艦だけあって、はりきっているでしょうね」
「まぁな」

2号艦も起工を既に開始しており、1号艦とは違った内容によって完成する予定だ。早ければ約2ヶ月後の5月頃中旬頃には完成する見込みであると言う。
  また、日本は昨年12月に大西洋連邦からPS装甲の技術を正式に受け入れている。加えて日本技術陣は、これを独自に改良し開発に成功していたのである。
常に電流を流す必要がるPS装甲が持つ欠点を解決すべく、効率性を考慮して被弾時のみ展開するという新たな技術を開発し見事に実用化させてしまったのだ。
即ちPS装甲の次世代型装甲―――トランス・フェイズ(TP)装甲の実用化に、日本技術陣は早々と漕ぎ着けてしまったも同然であった。
  TP装甲は、装甲への着弾時に加わる圧力を装甲内部の重力センサーが感知し、装甲に電流を流して相転移装甲を作り出して質量兵器を無効化するものだ。
PS装甲は主に艦船専用に開発されたものの、量産出来る程のコストや技術的な問題、さらにはMAやMSに搭載できる程の小型軽量化には成功しきれてはいない。
しかも、戦闘艦以外の小型機関ではエネルギー不足に苛まれてしまい、挙句の果てにはエネルギー切れを露顕する恐れもあるなどメリットが少ない。
  因みに大西洋連邦がPS装甲の開発に勤しんでいる一方で、ユーラシア連邦でも独自の防御システムを開発しており、それを光波防御帯(アルミューレ・リュミエール)と呼んでいる。
これは装甲で直接受け止めるのではなく、日本軍艦艇の様にシールドを展開して敵の攻撃を防ぐ代物であるが、その日本技術とは全く異なる技術体系を有している。
光波防御帯は展開するためにはエネルギー供給機と連動した発振装置が必須であり、まずは射出機でケーブルに繋いだ発振装置を任意の方向へ射出しておく。
それからエネルギー供給機から必要な電力をケーブルを伝って送発振装置へ送り、その装置を中心にして巨大な三角形型のシールドを展開する仕組みになっている。
驚くべきはエネルギー兵器のみならず実弾兵器でさえも防げることが最大の特徴であった。
  この光波防御帯はアルテミス要塞に多数配備されており、外敵から身を護る鉄壁の要塞として君臨せしめる要因となっているのだ。
無論のこと大西洋連邦にはない技術でありユーラシア連邦が独占する技術なのだが、如何せんコスト的な問題が生じて量産するには至っていない。
まず性能は高いが量産には向かず、しかも莫大なエネルギーを消費することから小規模な機体―――MSなどに積むとなると機能時間が大幅に制限されてしまうのだ。
だったら艦船にも装備させるべきではないか、と思いたいところがあるのだが、これはあくまでもユーラシア連邦の切り札的存在である。
故に、連合軍の宇宙艦艇がメンテナンスを何処でも行えるように各国共通規格になっているのと違い、他国に流出することを強く懸念するユーラシア連邦政府は、アルミューレ・リュミエールを秘匿しており、大西洋連邦は無論のこと他国へ一切の技術供与を拒んでいたのである。
  それはさておき、PS装甲の欠点を解決すべく考案された方法とは、通常装甲の内側にPS装甲を設置することだった。
これでエネルギー切れの外敵から露顕を防ぐというものだ。攻撃を受けた瞬間であるから瞬間的なエネルギー展開で済むので、かなりのエネルギー節約に成り得る。
この日本製TP装甲の開発の成功裏には、日本を始めとした元国連軍が電磁防壁の開発を成し得ていたことが大きなプラスの要因となったといえよう。
因みに連合もプラントもこの完成には気づいていない。
  そして日本製TP装甲には新たな違いがある。それは1枚の装甲のみで効果を成し得られることだ。つまり二重装甲にする必要がないのである。
これは軽量化に大いに役立ちコストの削減にも繋がっている。とはいえ、通常のコスモナイトを含んだ複合装甲よりもコストが上がるのは避けられないことではあるが。

「まぁ、幸いだったのは、完成した太陽機関を日本へ輸送を終えていた事だろう」
「そうですね。この世界に来てしまったせいで、実質今建造中の艦の分しかないのでしょう?」
「まあな」

  そう。太陽機関は開発ステーションで組み立てられて完成していた。その内の4基が日本へ輸送されており、その後になって次元転移に巻き込まれていたのだ。
太陽機関を製造するための特殊な製造工場は木星圏に残したままで、残念ながら今の日本の手元には開発するための施設は残されていなかった。
ただし輸送された現物が日本にあるのは運が良かったかもしれないが、だからとて手を拱いている訳にもいかないのだ。
もし破壊工作或は戦闘で太陽機関が破壊されてしまえば、再製造がほぼ不可能な現時点で生産補充は無論のこと満足な修理さえ望めないからだ。
  そこで日本は現存する太陽機関のデータを基にして、ある程度の作業工程を簡略化し量産型太陽機関の製造施設を建設する為に、計画を立てている最中であった。
また幾度とない開発関係者の弛まぬ努力と改良を進めていた成果で、現在の技術力を持ってすれば地球圏内でも製造が可能となっている。
これらの太陽機関製造のための製造ラインを急ぎ整えて新造艦への搭載を早急に進める必要性があった。無論、新鋭艦には新型核融合炉機関でも事足りるのだが。





「おぅ、シンマイ! 真田!」

  後ろから声を掛けられ振り返った先にいたのは、背が小さめで丸いレンズの眼鏡をかけている蟹股の小男だった。シンマイとは新米俵太のことを指して言っている。
彼の名字はシンマイとも読める為、同僚や先輩からはシンマイと言ってからかわれているのである。

「大山先輩!?」
「どうしたんだ大山、お前はここに御用じゃない筈だぞ」

大山歳朗(おおやま としろう)。29歳。真田や古代守の同期生であり、機関工学ではトップの技術屋として腕を振るっているメカニックマンである。
防衛大学校を卒業した後、彼は宇宙軍技術廠第5機関部へ所属。長門型弩級宇宙戦艦の機関部の開発に携わった人間であり、太陽機関プロジェクトにもタッチしている。

「そんな固いこと言うなよ真田。んなことより、そっちの進み具合はどうなんだ?」
「順調だ。オーブの技術者も招いての研究開発だからな。例のコーディネイターの研究者もいて、驚くほどに進んでいる」

  さらに日本が多脚戦車を開発するのと並行して、既存兵器の改良を施すことにもなっている。その対象となるのが67式リニアガン・タンクと呼ばれる戦車だ。
キャタピラを4枚備え、その車体に匹敵する大きな砲塔を乗せている。破壊力がありMSにも対抗しうるのではないかとされる貴重な戦力だ。
地球連合加盟国の間でも広く使用されているだけに、その信頼性が高いことを伺わせていた。が、オーブ連合首長国の国防軍は若干の不安を感じていた。
そこで日本に対して当戦車の改良版の開発も盛り込んできたのであった。

「そいつはいいや。ま、こっちもショックカノンや新型装甲の開発にも、多少は世話になってるからな」
「‥‥‥それはそうと先輩。建造中の1号艦には、何も改良は加えていないのですか?」
「性急だな、お前さんは。だからシンマイって言われるんだぞ?」

  彼は、自分の名は新米と読むんですが、と言いかけて止める。その様なやり取りは何十回としたことか。と嘆きつつも、大山は答える。
既に完成した部分の内側に装甲を付けたすのは容易なことではない。外側に被せるのなら、まだ話は別であったが。

「1号艦と2号艦は、本体である部分が概ね完成しちまったからな。いまさら取り換えることも出来ん。そこでだ、金剛型宇宙戦艦と同じ趣向で改装している」

金剛型宇宙戦艦は、度重なる改装を受けていく過程で装甲板の追加工事を受けている。あの葉巻型の艦体で左右が僅かに膨らんだバルジ状の部分が追加部分である。
耐久度の上昇を目指した、謂わば突貫工事にも似た改装ではある。
  しかし新型のコスモナイト複合装甲を張り付けた効果はあった。それをこの試作艦にも転用しているのだ。とはいえ艦体全体を覆うわけにもいかない。
何せコスモナイト複合装甲と電磁防壁がある。ここに日本製TP装甲を追加するとなると、その分だけエネルギー消費率は高くなるのは明白だ。
真田や大山は、その点を指摘している。電磁防壁の効力は現在のPS装甲と同等かそれ以上であり、直接防御のコスモナイト複合装甲も申し分のないものだ。

「ま、TP装甲を採用するだけでも、コストは上がっちまうわ、艦のエネルギー消費率もあがるわで、マイナス面も出てくるぜ」
「ですが、結局は装備するのでしょう?」
「まぁな。今回は試作艦として建造してるから、こんな無茶も許される。もっとも、試作艦なんてのは言葉の飾りだ。これは立派な弩級戦艦だぜ」
「大山の言う通りだな。試作艦とはいえ、あのボリューム満点なスペックは、単なる試作艦では終わらん。立派な戦闘艦として使える」

  そう。試作艦とは名ばかりで実質は新型の超弩級戦艦とも言える代物である。試作艦と言う企画だからこそTP装甲の後付と言う手間の掛ることができるのだ。
また完成した試作艦の具合を見て、今後の主力艦建造にバックアップされる。あまりにも複雑な造りになっては今後に増産される主力艦としては不都合なのだ。
同時に中型や小型の試作艦にもTP装甲が採用されているが、今後の正式採用される艦艇には搭載する可能性は未定である。
あるとすれば重要な部分にのみ採用する、バイタルパートと呼ばれる方法を使うしかないであろう。
  またオーブとの技術交流などで日本は水面下において、ローエングリンとショックカノンの技術交換を行っている。その結果として日本は今まで艦載砲として開発した従来型のショックカノンよりも、さらに大口径化と威力向上を成し得た225cm口径 新型ショックカノンの開発に成功していたのである。
この225p口径というサイズは地球連合軍の超弩級宇宙戦艦並びに宇宙空母が搭載する代物で、彼らからすれば当たり前なのだろうが地球からすればとてつもない大きさだ。
  しかも日本もとい国連が開発したショックカノンと、この地球連合のローエングリンは、口径に差が在るものの威力は“概ね”同等なのだった。
つまり日本製ショックカノンの技術と、オーブの開発したローエングリンの技術を応用発展させれば、大口径且つ高威力の決戦兵器が誕生できる。
ネックとしてエネルギー問題があったが、太陽機関の技術開発及びエネルギーをプールするためのショックカノン用エネルギー炉心を開発し問題を解決した。
言うなればショックカノンを撃つためのバッテリーと思えば分かり易いであろうか。無論、緊急時においてはエンジンへと回すことも可能である。

「今回の試作艦は、予めに大口径のショックカノンを搭載する予定の代物だったからな。太陽機関の炉心配置のスペースも確保できてるし、問題はない」
「後は完成してからの調整だけ、ということだな‥‥‥」

その言葉に頷く大山は、草原を試験歩行中の試作機を眺める。
  ふと、真田は思い出したことがあった。

「鹵獲した艦艇の様子は?」
「あれか。何しろ戦闘でぶっ壊れた代物だ。修理だけなら問題はないが‥‥‥そのまま修理したんじゃ、ただのお荷物だぜ、ありゃ」

沖田が戦ったユーラシア連邦艦隊で、大破して破棄された戦闘艦が十数隻あった。その中で運ぶのに支障が無い8隻を何とか牽引してきたのだ。
空母1隻、弩級戦艦2隻、戦艦2隻、巡洋艦1隻、護衛艦2隻。どれもこれもが全体的に日本よりも劣ると判明している艦艇ばかりであった。
大型艦がやや多いのは、やはり大型艦ゆえの丈夫さがあったためだ。小型艦はどれもが装甲が薄いため、調査可能な状態には無いものが大半だったのだ。
大山が言った通り修理は不可能ではないが、そのままでは何の役にも立てない。解体する方がいいのではないか、と話が持ち上がっていたのだ。
  しかし、中には思い切って自分らの技術を盛り込み、大改装を施してみてはどうか―――という意見も少なくなかった。どうせ鹵獲した戦闘艦なのだから。
それにこの世界の艦船を使用することで、どういった戦いが出来るのかを検証する良い機会でもあると主張したのである。
無論乗り込むのは兵士達であるが、技術者達も己の腕を掛けて造り直すことを宣言している。よって艦政本部並びに軍中央司令部はこれを承認したのである。
大改装というよりも新造艦を造る費用を盛り込む結果になったが、当然のこと、この試しは今回限りと言うことになった。

「設計班もしゃかりきになってるらしいな。ま、艦船を設計するのが仕事だろうし、あいつらも技術者としてのプライドがあっからな」
「先輩、具体的にはどういった改装を?」
「設計図を見せてもらったが、何と言うべきかねぇ。見様によっては奇想戦艦と言えるかもしれんし、ただのガラクタと言われるかもしれん。とは言えだ、その奇想艦の為に、既存のビーム兵装類は全て取ってフェーザー砲に換装されるし、俺達機関部も核融合炉機関に変える為に如何にかして入れ替えなきゃならん」

  各艦艇の改装内容は皆一貫していた。フェーザー砲の換装、機関部の交換、コスモナイト複合装甲の追加、索敵機能類の交換の4つである。
どれも楽な改装ではないことは誰の目にも明らかなもので、特に機関部に関しては問題が所狭しと謂わんばかりに多いものだ。大山はそれを重々感じ取っている。
連合軍の使用する艦艇の機関部は日本宇宙軍の様に1つで事足りるような設計ではなかったからである。
一番小さいドレイク級宇宙護衛艦にしても機関部が4つもあり、ネルソン級宇宙戦艦に関して言えば小型機関が4つと大型機関が4つもあった。
極めつけはマゼラン級弩級宇宙戦艦で、長門型をも上回る大きさの機関が4つ備え付けられていたのだ。
  機関というのは多ければ良いという訳ではない。それでもメリットはあり、1つの機関が沈黙しても残りの機関部で航行できるというものだ。
しかし機関部が多いということは、それだけ推進剤が必要となり消費率も高くなってしまう。日本の物は技術の発展によって小型ながらも高性能を誇っていた。
事実として長門型の機関部1つあれば、マゼラン級のエネルギー供給は十分に事足りるレベルの話なのである。
  だが小型化していることにより搭載した際に生じる余剰スペースにおいて、長期航行の為の推進剤を設けることも可能で、航続距離は伸ばすこともできる。
そこで思い切って、マゼラン級の機関部は金剛型の物を4つ搭載することになった。これで比較的に航行能力は上昇する計算となる。
一方で思い切った改装とは言えばネルソン級等はその代表格となる。この艦に至っては中央の小型機関4基を金剛型1基分と交換し、左右にあった機関部4つには機関部ではなく輸送物資を運搬するための特殊コンテナとして代用する方針であった。
といったように、既存製品との規格調整を進めて日本製の戦闘艦艇を造ることとなる。
  ただし、次世代戦闘艦計画を外れる計画である為、改造の際に使用される機関とビーム兵装が、従来の物を使用することになったのは惜しいところである。
とはいえ改造する費用だけでも馬鹿にならないことを考えれば、そこに新技術のショックフェーザーを加えたり、新型核融合炉エンジンともなると価格は跳ね上がる。
流石にそこまで許容できるほど寛大ではない上層部は、従来の技術で補うように指示を下したのであった。

「奇想戦艦ってどういうことですか?」
「あぁ。なんて言えばいいかねぇ‥‥‥。格納庫を無理矢理乗っけて、航空戦艦みたいにした感じかねぇ。搭載量は中途半端だろうが、まぁ、これも実験艦だからな」

  改装だけでなく、大幅な改造を施しやすかったのはマゼラン級、サラミス級の2タイプだ。何故なら、この2種類は広く平らな甲板を持つからである。
そこで技術者たちは、後付けをするような形で格納庫を艦の前部に設置しようというのであった。その分、邪魔になる砲塔などは撤去することに成るだろうが。

「そんだけじゃないぜ。物資輸送も兼ねた戦闘艦とかよ、普通ならやらねぇことをやってるよ。こりゃ本当に、解体して新造艦を作る方が遥かに遣り易いと思ったぜ」
「ほう、大山が根を上げるとはな」
「馬鹿言うな、誰が根を上げるかよ! 俺だって技術屋だ。できることは最大限にやらせてもらうぜ」

自信を持って答える大山に対し真田は苦笑した。
  これら鹵獲艦改造計画によって就役する戦闘艦群は新規編成されて艦隊として動き出すであろう。就役予定は早くて5月中になるそうであった。
この艦隊は第3艦隊とされ実験任務も兼ねる予定である。

「‥‥‥そういやぁ、火星の方はどうなってんだ? 俺はもっぱら機関部にいるからよ。なんか知ってるか?」
「あぁ、火星か。DSSD本部との調整も進んでいる。それにマーズコロニー群との調整も順調だ。日本からも全力で支援を行っているよ」

  火星圏よりも遠くへと生存圏を広げるDSSD機関と、火星を開拓しているマーズコロニー群。この2つの組織に、日本は全面的な支援を行っている。
DSSD機関には、日本で通常採用されている核融合炉機関技術の提供。光学測定機器や、惑星探査技術の提供等を約束。
さらに日本の宇宙観測船を1隻だけ貸与されることも決まっており、これはDSSDにとって驚くべき探査能力の飛躍に成り得るのは、間違いなかった。
  一方で日本は、木星の各衛星に工作部隊を独自に派遣していた。コスモナイト90などの宇宙鉱物の採掘をするためだ。
しかし、日本政府は懸念していた。日本が資源を独占していくことによって、他国から非難どころか何をされるか分かったものではない、と。
そこで日本政府は、中立連盟加盟国に対して、正式に採掘作業をしている旨を最初から伝えていた。同時に採掘に対する共同作業を申し出たのである。
これによって少なくとも利益独占という疑いの目を向けられることは無い筈である。共同作業によってコスモナイトを採掘し、それを中立連盟の資源として活用する。
出資率によって相応の利益と資源を分配し、時には他の中立地帯へとも輸出する。日本が目立ち過ぎぬようにする為の処置であった。

「コスモナイトは木星、土星の各衛星に眠っているのが、幸いだったな。全く手を付けられていないから、量は相当あるぜ」
「問題は地球連合とプラントだ。戦闘艦艇の装甲強化にうってつけの資材を、黙って見ているとも思えん」
「問題を避けるのは難しい、ということですね」

  また、火星はテラフォーミングされてはいないものの、表面の一部を環境改造して入植できるようになっていた。無論、ドームで覆うような形であるが。
日本政府の約束した支援の中には、資金は勿論のこと技術者の派遣や技術供与、食糧や医薬品の供給も含まれている。
中でもDSSD機関や、マーズコロニー群を喜ばせたものがある。それが、日本もとい国連の最新食料供給システム「Organic Material Cycle System」
  通称O・M・C・S(オムシス)と呼ぶ 。これは長期航行する艦船のために考案・開発されたシステムだ。
食料自給が困難な火星宙域に住む彼らにとって、これは驚くべき発明だ―――が、これのからくりを知った時、誰しもが同じ反応を示すに違いない。
真田をして「どうやって作られるか、知らないほうが幸せだ」と言わしめるもの。即ち、有機物の再利用によって、様々な食料を生産するのである。
  しかし、現実的な問題として、このシステムは宇宙に滞在する人間にとっては、大きな手助けと成り得るのだ。大半を地球に依存せざるを得ないだけにである。
特にマーズコロニー群や火星は深刻だ。距離が一番離れているだけに、火星で生産される食物だけでは、いざという時に足りなくなってしまう。

「そのマーズコロニーには、大半がコーディネイターで占められているって聞いたが?」
「そうだ。火星の環境は過酷だからな。通常の人間では長期間の作業には、耐えられんと言うことだ」
「まだまだ開発の序盤なら、先輩の仰る通り仕方ないのでしょうが‥‥‥」

真田の言う通り、火星を開拓する人間の大半がコーディネイターであり、そんな彼らをマーシャンと呼ぶ。元の地球世界で言うマーズノイドだ。
彼らから見て地球人のことを、テラナーと呼んでいるらしい。これも、元地球世界で言うアースノイドと言ったところである。
  このマーズコロニー群と交渉したのは天津外務参事官だ。そして、彼と交渉する折にマーズコロニー群の代表と名乗った人物をアグニス・ブラーエと言った。
ブラーエはリーダー資質を持ったコーディネイターであるが、驚くところは全く別にあった。それは、彼は13歳の少年であるということだった。
無論、彼1人で交渉した訳ではなく、幾人かの補佐も同席してはいたものの、天津も驚きを隠せないでいたのだ。
外見は少年であっても、交渉における能力は年齢以上で、天津も舌を巻かざるを得なかった。
改めて、コーディネイターの凄まじさを噛み締めたと、当人は語っていたと言う。

「マーズコロニー群の交渉団の反応は上々だ。その少年も日本政府を信じていると、天津外務官に強く伝えたと聞くからな」
「それだけに、こちらも期待に応えないとまずいですね」
「十分に応えてるだろうよ? オムシスのデータ提供は勿論、医薬品や環境改造に関する技術の支援をしてるんだぜ」

  大山はあくびをしながら答えた。マーズコロニー群と火星住人の期待通り―――いや、それ以上の支援を、日本はつぎ込んでいるのだ。
金銭、技術、食糧、医薬品など様々な面において、中立国や中立組織に援助する。そうやって加盟国のみならず、中立機関や組織との結びつきを強くするのだ。
事実として、各機関は日本の援助に行為を示しており、印象は上々だ。このまま良き関係を構築していけることできれば、さらに良い。
  一方で、多方面に渡り進出を図る日本に対して、地球連合は増々をもって警戒を強めるであろう。彼らにとっては、プラントより厄介な相手である。

「一番心配なのは、連合とプラントの飛び火が来ないか、ですね」
「有り得ないと断言することはできないからな」
「結局のところはだ、俺達日本が何をしようとも、連合やプラントは目を向けてくるのさ。バカったらしいったらないぜ、まったくよ」

日本にとっては迷惑この上ない話でしかない。だからと言って目をそらすわけにもいかず、付け入るスキを与えぬよう、動いていかねばならないのだ。
この日、大山という意外な人物の訪問があったものの、多脚戦車の大まかなベースは完成した。あとは兵装を付け加えたりする段階であった。
  外部の圧力に負けないよう、他国との連携を強める中立連盟だったが、戦争の流れは加速していく一方であったと言える。
その証拠として、C.E暦70年3月8日。予想を上回るスピードでプラントが軍事行動を開始したのだ。その目標は地球のビクトリア宇宙港。
後に『第一次ビクトリア攻防戦』と呼ばれる戦闘であった。




〜〜〜あとがき〜〜〜
どうも、大変お待たせいたしました。第3惑星人です。
今回は兵器開発事情を中心とした話になりました。中には某架空戦記小説のネタを使用させていただいてもおります。
奇想戦艦って言葉でピンとくる人もいるのではないでしょうか。詳しくは紅玉艦隊で検索すると、すぐにわかるかと思います。
また、陸上兵器の1つとして、多脚戦車を登場させておりますが、これは読者様のアドバイスによるものです。
参考にしたのは攻殻機動隊のタチコマですとか、他の作品の多脚式戦車です。MS相手にどこまで戦えることやら……。

※追記(2017/4/29)
・試作戦艦の内容を大幅に変更しました。
  大和型を試作艦らしく見せる為に、太陽機関なる新型機関と、収束圧縮型光線砲なる新主砲の搭載を追記しました。なお、太陽機関の設定は『ガンダム00』のGNドライブから拝借させていただいており、地球製の半永久機関とするなら最適ではないかと思った次第です。
収束圧縮型光線砲はフェーザー砲の上位に位置し、ショックカノンの下位に位置する中間的な兵装となるものとして設定しました。
これは『宇宙戦艦ヤマト2202』のアンドロメダ級の主砲:収束圧縮型衝撃波砲を参考にしたものです。無論威力は2202版よりはるかに劣りますが‥‥‥。



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