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HETAREIJI そのに
作者:くま   2008/11/09(日) 21:42公開   ID:2WkxvL3EczM
再び最初からやり直しになった後。

15回ほど殺されて、次のステージに進む事になった。

これまで行なってきたアインとの200回以上の殺し合いからすれば随分と少ない数で次に進めていた。

理由はごく簡単でそして普通ではありえないものだった。

俺の、というか吾妻玲二の身体がアインの指導の元に鍛え上げられものだったからだ。

解りやすく言えば言えば、レベルはそのままに最初からコンティニューといったところか。

憑依でしかもループ、さらには鍛えただけステータスは上乗せということか?

だとしら何と言うわがままボディチート

一体どんだけ恵まれてる環境なのかと小一時間(ry。

まあ、それでも15回も殺されてしまう俺は相当なアレといしか言いようが無いのだが…。

とにかく2回目の次ステージ進出ということで、それなりに気をつけて俺は頑張った。

前回よりも体力的な余裕があった所為か、アインのしごきは更に厳しいものだったが、

俺はこれ以上死にたく無いという一心でそれについて行った。

暗殺者としての技術的な進歩は相変わらず亀の歩みの如しだったが、

とにかく身体能力だけは早々に合格点を貰い、前回よりも技術訓練に重きを置いて時間を取る事になった。

前回このステージでの死因となったクロウディアとの邂逅も無難に済ませ、

訓練浸けの日々を過ごしていた俺に新たな試練が訪れる事になる。

暗殺者養成訓練の卒業試験だった。

原作にあった試験内容は、一人の男を殺す事。

インフェルノのみならず他組織との取引を始め、当局に感づかれ始めた軍の内通者。

その内通者の処分を兼ねたのが、原作の試験だった。

この身体の本来の持ち主である吾妻玲二が、初めて殺した相手だ。

それはこの身体の中身が俺に変わっても変化はなかった。

原作どおりに状況は展開し、俺は単身、今迄俺とアインが訓練してきた廃工場へと男を殺すべく向かう事になる。

原作と違うのは言っても無駄だと解っている俺がアインに泣き言を言わなかった事と、

アインが俺にはまだ早いとサイスマスターに言っていた事ぐらいだろう。

とにかく俺は先に進む覚悟を決めて、男を殺さんと闇の支配する廃工場へと足を踏み入れた。

そして…。






















「目が覚めたかね、少年、気分はいかがかな?」

再びこの台詞を聞かされることになった。

簡単に言うと、あっさりと返り討ちにあったのだ。

アインがサイスマスターに言った言葉は全く持って正しくて、

男のの気配を俺が感じた時には既に男に撃たれた後だったのだ。

気配の察知が、吾妻玲二よりも数段劣る事は訓練で自覚していたが、こうもあっさりと殺されるとは…。

どうやら、俺にはそこまでの主人公補正が無いらしい。

まあ、ループしつつ、記憶だけでなく肉体も鍛錬を積み重ねて行ける時点で十分チートと言えるのだが…。

まあ、それはそれとして。

ともあれ、吾妻玲二が原作では一度で乗り越えた壁を前に、俺はこの後数十回のやり直しを重ねる事になった。

殺し屋としての技術的な側面において、亀の歩みの進歩の俺だったが、

恐らく繰り返しが30回を超えた辺りで、原作のこの時点での吾妻玲二には追いついていたと思う。

んーどこに居るんだろう?

あそこに居る様な、居ない様な…。

あそこに居るっぽい?

多分あそこに居る。

十中八九あそこに居る。

あそこに居る。

あそこに居るんですよね、わかります。

と、気配を感じ取るという一点で例えれば、こんな感じで進歩を遂げており、

どうにか、原作の吾妻玲二に技術的な面で追いつくことが出来た。

大体、1度の繰り返しで2〜3ヶ月くらいの訓練をすることになるから。

トータルで考えると6年以上訓練をしている計算だ。

が、トップスナイパーのアインから6年もマンツーマンで教えを受けることでようやく得た技量も、

俺に卒業試験という壁を、乗り越えさせることは出来なかった。

闇の中の男の気配を察知し、男へと銃を向ける事まではよどみなく出来た。

が、俺はトリガーを引く事が出来なかった。

確実に相手を殺せると解っていながら、いや解っているからこそ、俺の手は硬直して動かなくなった。

その時の俺を支配していた感情は、恐怖。

幾度も殺されていながら、俺は自分自身が人を殺す事が怖かったのだ。

先に進むと決めた筈の覚悟は、恐怖を前にまるで役に立たずなものになり果てた。

そして銃を構えたまま動けない俺は、相手の男にして見れば体の良い的でしかない。

結果、俺は幾度も何時もそこで殺されていた。

人を殺すより殺される方が良い。

などと高尚な事を言う気は無いのだが、俺は立ちはだかる壁を何時までも超えられずに居た。

そうして技量が吾妻玲二に追いついた後でも、

ひたすらに訓練が繰り返される事で、俺は体力よりな暗殺者として発展して行った。

ただ、純粋な身体能力はともかく総合的な暗殺者としての能力は、

アインと比べるまでもなく、まさに天と地ほどの差が存在していたのも事実だが。

そうして、ごく限定的にとは言え、アインを凌駕できるようになった俺は、

繰り返しからの脱却に向けて、別のアプローチを試してみる事にした。

目が覚めた直後のアインとの闘争において、

サイスという足手まといが居るという、ウイークポイントを突いてアインに打ち勝ち、

その場に居たクロウディアとサイスを抵抗させる事なく気絶させ、そのまま彼らの車を奪って逃走を試みる。

向かう先はロスにある日本領事館。

アインに鍛え上げられたとは言え、この身は日本国民である事には変わりが無いだろう。

強盗に合い身包みはがされた、とでも言えば保護を受けることぐらいは出来る筈だ。

少なくとも日本領事館の中に居る間は、安全なのは違いない。

そのまま日本へ送り返される事になるのだろうが、

インフェルノを相手に命の危険を冒してまで、アメリカに滞在する理由が俺には無い。

パスポートを奪われているのが後に問題になるかもしれないが、

吾妻玲二という一目撃者を追って日本までわざわざ来るとは考え難い。

今回の件は、サイスマスターの失態になるであろうし、

それに対するフォローを、クロウディアが認めるとは思えないからだ。

ともかくこれで、インフェルノなんて言う物騒な組織とは関り合いにならずに生きていける。

車を走らせながらそう思った直後に、それはやってきた。

晴れ渡っていたはずの荒野は一変し、突如厚い雲が空を覆った。

そこから発生した雷は、俺が見様見真似で運転していた車を直撃。

そして車はボンネットから煙を吐きながら、停止した。

良くは解らないが、エンジンのどこかが壊れたんだろう。

ありえない、そう思いながら俺は車外へと出て、再度の落雷の直撃を受けてあっさりと俺は感電死した。

その後も逃亡を2回ほど繰り返してみた。

結果、竜巻に飲み込まれて100mの高さから車ごと落下して死んだり、

突如発生した地割れに飲まれたりして死んだ。

ありえないような死に方をする事で、俺は原作のルートから大きく逸脱する事は許されないのだと思い知らされた。

その後の俺は大胆な変革を諦め、原作どおりの行動をとる事にした。

アインの指導の下で訓練を行ない、ただひたすらに力を付けて、

それでも殺す事が出来ずに殺されて、ただループを繰り返していた。

総計が何回になるかは解らないが、300は超えたであろう繰り返しの日。

訓練を終え寝袋に入る俺に見ながら、アインがぼそりと呟いた。


「貴方もあの人とは違うのね…」


冷や水を頭からぶっ掛けられたような感じがした。

顔から血の気が引くのも解ったし、

口の中がからからと干上がって行くような気もした。

それでも俺は何とか気持ちを奮い立たせ、アインへと向けて言葉を返す。


「ごめん、確かに俺は彼じゃない。

 彼の記憶は何となく残っているが、彼とは違う人間だ。

 如何してこうなったかは、俺にも良く解らない。

 気がついたら、俺は今の俺だったから…」


寝袋から半身を起こしてそう告げる俺を、アインは目を見開いて驚き…


「…そう」


と目を逸らしながら力なく呟いた。

そのままじっと床の一点を見つめていたかと思うと、

アインが声もあげずにボロボロと涙を流し始めた。

そんな彼女に対して俺が出来たのは狼狽える事だった。

仲の良い異性も特に居らず、

その嗜好からクラスの女子ともあまり話す機会がなかった俺には、

泣いている女の子を慰めるなんていう経験はなかったのだ。

取りあえず寝袋から出て、泣いているアインの様子を窺う。

如何する?

如何したらいい?

何か参考になるものは?

ふと思いついたのは彼女の身体を抱きしめる事だった。

エロゲではこのパターンでいい筈だ。

相手が相手なので、嫌がって反撃されたら酷い事になりそうだが、それはそれ。

俺は腹を括って、小柄なアインの身体を抱きしめる。

抱きしめた瞬間、アインの身体がビクリと震えたが、

それでも殴られるような事にはならずに済んだ。

何か言わなくては…。

纏まらない考えが頭の中をグルグルと周り、何を話しかければ良いのか俺にはわからない。

彼女が求めるの俺でなく彼なのだろうから。


「と、取りあえず色々と話をしないか?

 お互いに自分の身に何が起こっているのか?

 色々と情報交換をした方が良いと思うだけど…。

 ど、どう…かな?」


何とか言葉に出来たのは、彼女の気持ちを楽にする為の慰めではなく唯の提案だった。

女の子一人慰めれないのが俺クオリティ…。

そう少々落ち込みながら告げた俺の言葉に、腕の中のアインは無言で小さく頷いた。

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