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長き刻を生きる 第六話『部将と武将』
作者:大空   2008/11/30(日) 14:50公開   ID:1HRkDV09Q2E

 太公望軍五千vs黄巾族一万

 総戦力差が二倍の戦いは、太公望軍優勢で開戦した。

「左慈様に続けぇぇぇぇぇぇ!」
「雲長様に続けぇぇぇぇぇぇ!」
「翼徳様に続けぇぇぇぇぇぇ!」

 叫ばれる名前を持つ者は一騎当千の猛者。
 最前線の激突と同時に、その武は遺憾なく発揮される。

「おい愛紗! 後ろががら空きだぜ!」

 敵兵五人の首を薙ぎ払った愛紗の背を、一人の敵が狙っていたが、その身体は首を蹴りにって砕かれ崩れ落ちる。

「そういう左慈殿も、隙が多いですよ」

 身体を捻っての薙ぎ払いが、咄嗟に身体を屈めた左慈の頭上を掠めながらも後ろに居た敵の胴を切り裂く。
 本来の愛紗や左慈なら、気配を剥き出しの敵を自力で倒す事は容易に出来る、しかし相手を信頼して野放しにした。

「後ろは任せます!」
「任せとけ!」

 左慈自身、少しずつだが変わり始めていた。
 もう幾度も見てきた……関羽と呼ばれる人物の武勇と人間としての何かを見飽きるほど見てきた。
 武人としての姿・女としての姿・復讐に燃え上がる姿と、多くの結末を見て呆れていた筈なのに。

(変わりましたね左慈……写し身を信頼するとは)

 干吉は、前線で将兵の指揮を行っていた。

「重装歩兵隊は攻撃ではなく防御に専念! 弓兵は乱戦用意! 敵を引きつけよ!」

 風を切る音がする。
 干吉を指揮官と見た敵兵の至近射撃による、矢が風を切る音。
 味方への誤射を恐れない……もしかしたら味方が死んで自身の分け前を多くしようとしている者の射撃。
 現に放たれた矢は多くの誤射を招いているが、それでも二本ほどの矢が、騎乗し指揮によって隙だらけの干吉を襲う。

 視界に映る銀色の矛先を持つ矢が、黒い大蛇に払い落とされる。

「鈴々がいる限り、干吉兄ちゃんには指一本! 触れさせない!」

 蛇棒を担ぐ鈴々が高らかに吼える。
 乱戦を好機と見て突撃してくる敵を次々と薙ぎ払い、屍の防壁を築きあげていく。
 幾等指揮官が無防備とはいえ、その前に一騎当千の猛者が立ちはだかるのでは、雑兵では太刀打ち出来ない。

「干吉様を護れ!」
「警戒を緩めるな!」

 鈴々の行動に気付き、手の空いた者が集結して干吉の警護に当たる。

「翼徳様は雲長様の下へ! ここは私達で防ぎます!」

 鈴々は頷いたのち、乱戦の真っ只中を駆け抜けていく。
 襲い来る敵を貫き、薙ぎ払い、飛び越え、スイスイと駆け抜ける。

 その様に感嘆する者、感心する者が現れ、それが士気の向上に繋がる。

 あんな小さな身でも……と言った奮起を促す力を心が生み出す。

(私達が利用して来た彼らにも……このような感情があるのですね)
(ただの写し身と思ってたが、中々やるな)

 正史と呼ばれる物を護る為に、幾度も利用し殺してきた存在の力を今一度知る。
 そして心の何処かにある彼らよりも優れていると言う誇りが、より二人を動かす。


============


 戦場から少し離れ、簡単には気付かれない丘の森に太公望と孔明以下騎馬隊五百が待機していた。
 そこからは戦場が一望でき、戦場の状況を把握するのには好都合な立地条件は、そうそう無い。

「孔明……主には何が見える?」

「えっ?」

 太公望の背に掴まっていたが、突然の問い掛けに戸惑う孔明。
 太公望は淡々と言葉を紡ぎ始める。

「主は軍師を望んでおる、軍師の失策は万の死を招くが、妙策ならば万の生を造る事が出来る
  兵が人を殺しているのではない、軍師たるワシが『殺せ』と命令しておるのだ……
  ワシは……軍師は王にも進言し、多くの死を招き多くの生を造りださねばならぬ
  孔明……お主に万の命を背負う覚悟はあるか、今の惨劇・血から眼を背けぬ決意はあるか?」

 太公望の言葉によってか、孔明の耳は、今まで遠く感じた戦場の音を身近なモノに感じさせる。
 武具が肉を引き裂く音・それに伴う断末魔・援護しあう兵・合図を送りあう兵・伝令・震える声。
 戦場に木霊し、風の音すら掻き消す音が、孔明の耳に入り込み、小さなその心を押し潰そうとする。

「……朱里(しゅり)」

 小さく声が漏れ出た。

「私の真名です……ご主人様!」

 小さな声は大きな声となって吐き出された。
 それは彼女が戦場に飲まれなかった事の結果。

「お主は強いの……鏑矢(かぶらや)の頃合は任せるぞ」

 朱里は小さく頷いたのち、戦場に神経を集中する。
 拾っていく声・死体の数・陣形から、奇襲の頃合を図りだす。

(敵の後続との連携が途切れた!)

 咄嗟に朱里が左腕を振り上げる。
 それに合わせて太公望が斉射の合図をあげる。


ピュヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!


 騎馬隊の伝令の鏑矢が空に向って放たれる。


「突撃!!」


 その馬術を持って丘を駆け下りつつ、正確無比な矢が敵の後続との糸口を断つ。
 騎馬民族は銅鑼や太鼓による号令や伝令は行わない。
 実は馬は『非常に音と火に弱い性質』を持ち、銅鑼や太鼓のような大き過ぎる音は混乱を招くだけなのだ。
 故に、縦笛(リコーダー)のような穴を開けた特別な先端を付けた矢の音を、伝令として用いる。
 射る者の力によっては、どんな乱戦でもその音は届き、即座に全ての将兵が連携を取り戻す程であるのだ。

「私達が狙うのは前線を孤立させる為に必要な後続との繋がりです!」

「全騎! 死力を尽くせ!!」

 騎馬隊の咆哮・鏑矢による反撃開始の合図が、太公望軍の反撃を伝える。

「全軍突撃! 敵を叩きなさい!」

 前線で受け手に廻っていた兵が一斉に反転、苛烈な攻撃を始める。

 先陣を駆る三人の猛将と後方との連携を断った姜の旗を掲げた騎馬隊。

 黄巾族の戦意を挫き、その武具を捨てさせ降伏へと導くのに、時間は掛からなかった。

 しかし休みを許さない状況は、過酷な連戦へと導く。

「負傷者は極少数、敵には武具を捨て降伏するなら命は保証すると言った所、孤立した兵四千が降りました」
「幸いな事に、残った敵は既に四散しています、これで公孫賛軍への進路上の障害はなくなりました」

 つい先程まで黄巾族として動いていた四千もの兵が太公望に下ったのだ。
 彼らの眼には既に黄巾族の未来が見えていたのかも知れない。
 しかしつい先程まで敵対していた者達をすぐに雇用出来るほど、彼らも甘くない。

「ならば私は彼らの監視と、私達の家の護衛に周りましょう」

 干吉が負傷兵の回収と、投降した黄巾族の監視、更には幽州の本拠地へと帰還中の部隊の指揮に名乗り出た。
 前線を指揮できる干吉を戻すのは痛手だが、朱里に前線を経験させたい太公望の計を知っての行動。
 愛紗や左慈もその思惑を知っており、反論をする事無く、干吉の行動は承認され、兵百を率いて後退していった。


「―――連戦になる、覚悟は出来ておるか」


 全将校が頷く。
 その姿に太公望は何も言わず背を向け、馬を走らせる。
 彼を先頭に全将校が行軍を始め、連戦の疲れを感じさせない行軍をする。
 速く・強く・されど時として休みながら公孫賛軍への合流を目指す。


============


 行軍の道中の休息。

「策の立案もさる事ながら、あの突撃の頃合もまた見事だな」
「敵があっという間に崩れ落ちていったのだ」
「鈴々ほどしかねぇ癖に、まぁあそこまで」

 三人が三人、朱里の今回の行動を賞賛していた。
 太公望が実戦を経験させたがる理由も頷け、これからの戦にも安堵していた。

「あの、私の真名は朱里です、皆さんが私を認めてくださっているように、私も皆さんを凄く尊敬してますし認めてます」

「そうか、なら俺の名前は左慈、真名がねぇから気軽に呼んでくれよ」

 左慈が名乗り、朱里の頭をグリグリと撫でる。

「ならば朱里、私の真名は愛紗、これからもよろしく頼む」

 愛紗から差し出された手を握り締め、握手を交わす。

「鈴々なのだ!」

 空いている手を取って鈴々がブンブンと振り回す。
 はわわ……、と混戦しつつも手を離さない辺り、彼女の強さを物語る。

(ワダカマリハなさそうだのう……あれで内政も出来れば)

 四人の仲睦まじい様子を眺めながら、太公望は自身のもっとも重要な計画を練っていた。

 ―――それはサボり計画

 本来彼はかなり人任せな部分があり、現在は内政を任せれる人材の少なさからサボれなかった。
 しかしこの朱里の参加によって彼のサボり計画は着実に進行しつつある事に、犠牲者の朱里は気付いていない。
 無論、このサボりも彼女に内政などをこなせる様にする為のある種の特訓でもあるのだが……

 そして行軍は再開された。


============


 東へとおよそ一里ほど行った所で、黄巾族本隊と戦っていた公孫賛軍の本陣が敷かれていた。
 太公望軍は警護の兵の承認の下、すぐ傍に本陣を敷き、将兵を休ませ、軍師の朱里を連れて公孫賛軍の陣に入る。
 すぐに公孫賛軍の者によって、大将である公孫賛が待っていた天幕(テント)に招かれた。

「へぇ……お前が天の御遣いと噂されてる男か」

 後ろに束ねている紅い髪、仮にも大将の場に座っているだけあって、穏やかさの中に冷たさを持つ視線。
 白銀の鎧を纏い、道士服の太公望を珍獣を眺めるかのようにジロジロと飽きずに見回す。
 少し見回したのち、太公望の正面に立ち、視線を合わせる。

「天の人間は皆、アンタみたいな服装なのか?」
「少なくとも仙人界の仲間は皆、このような服を着ておったのう」

 ヒョロッとした糸人間(以後ヒョロ望)の姿になった太公望に、自然と笑いが込み上げる。
 公孫賛が笑った所為か、どこかギスギスしていた空気が薄れ、ヒョロ望も元の姿に戻る。

「この度はお主が本隊を足止めしてくれたお陰で多くの民を助けられた
  これは礼をし尽くしてもし足りぬ功績、本当に助かった」

 礼儀正しく言葉と作法を行う太公望に戸惑いつつも、公孫賛は弁解した。

「そこまで言わなくても良いって! それにこっちも足止めが限界だったんだ
  それなのにそこまで畏まって礼儀を尽くされるとこっちが恥ずかしくなる!」

 恥ずかしがる彼女の姿をニヤニヤしつつ眺める太公望、中々悪な正確をかもし出していた。
 しかしすぐにそのニヤついた顔を納め、大軍師としての太公望へと豹変して軍議を始める。
 その豹変振りに驚くと共に、一瞬にして場の空気を変えるその態度と凛々しさに、朱里は尊敬した。

「こっちの兵力は五千前後……敵は二万五千ほどだ」
「こっちらも五千前後、合計しても一万……対して敵は二倍と少しですか」

 およそ五倍の兵力を相手に他人に等しい啄県を援護し、足止めしてくれたいたのだ。
 お人よしもさるながら、その実力と手腕、兵卒の錬度の高さを知るには充分な功績でもある。

「本当に良い奴よのぉ……お主には良い婿が付くだろうのぉ」

 太公望の言葉に、公孫賛は顔を真っ赤にしてしまう。

「なっ!? 何言ってんだ! むっ婿なんてそんな!」

 太公望は決して不細工ではない。
 少年と青年の狭間に立つ顔立ちに、背も高い方である。
 その人柄からも、彼を慕う仲間は少なくなかったのだ。
 そんな男から賞賛を貰えるのだから、赤面は当然だろう。


「公孫賛、少しよろしいか?」


 軍議を遮るかのように現れた女性。
 『凛』と言う言葉が似合う立ち振る舞いをしている。
 藍色の髪を少し短く切り揃えており、後髪は長く伸ばして束ねている。
 蝶の羽模様が描かれた小袖風の服を身に纏っているが、中々女性としての魅力を見せ付けていた。
 あまり見かけない服だが、彼女によくに合っているが、蝶が放つとは思えない覇気を放っている。

 ――――――見せ付けているのだ

「あぁお前か、何用だ?」

 公孫賛は少し助かったとばかりに声を掛けた。


「援軍が来たようで重畳、されば黄巾党を撃破する手段をお聞かせ願いたい
  さすれば私が先陣を切り、あなたに勝利をお贈りしよう」


 ――――――信じて疑わぬ己の武を


「またか……己の武を示したいのは判るが、今は私と太公望の両大将が話し合っているんだ
  幾等お前が己の武を示したいからと言って軍議を中断していい理由にはならないぞ」

 少し呆れを込めた言葉を放つ。
 『またか』と言っている辺り、今まで何度かあるようだった。
 仮にも総大将相手に退かない辺り、それなりの自信と気概はある模様。

「私は客将だ、貴方の将となった覚えはない」

 太公望は、彼女のこの態度の強さに少し納得した。
 客将なればこそ出来る進言などは存在するが、ここまで強気な客将も珍しい。
 同時に太公望は彼女の態度の強さとその奥底にある、慢心に対して警戒し始めていた。

「ならどうしろと?」

 呆れを通り越したのか、声に怒りが混じり始めている。
 太公望も、彼女の答えに気に掛ける。


「知れた事……相手は烏合の衆故に一騎当千の者が当たれば恐れをなして総崩れになるのは必定
  だからこそ今すぐにでも吶喊(とっかん)すべし」


 太公望自身、公孫賛に同情した。
 古来より兵法は、まず相手よりも兵力の勝っている状態を前提に考えられている。
 彼が書いた兵法には、戦に望むなら最低兵力一万に加えて、それに伴う装備や補給路を確保せよとある。
 
「無茶なことを言う、相手は我らよりも多いのだぞ?
  兵法の基本は相手よりも多くの兵を用意することだぞ?
  その基本から言えば、この兵数で当たることこそ邪道ではないか」

 極めて正論だ。
 もっとも太公望軍は今まで敵よりも少ない兵力で戦ってきたが、それは奇策を織り交ぜたが故。
 時として正道を外れ、奇策を用いて敵の撹乱などを行うのは、決して間違っていない。
 兵力差を埋める為に用いる策、しかしそれが無いならば無駄死にさせる兵卒を生む愚策。

「それは正規の軍に当たる時の正道でしょう、あのような雑兵どもに兵法など必要なし! 必要なのは万夫不当の将の猛撃のみ!」

 威風堂々と彼女は答える。
 ここまでくればもう尊敬するしかないだろう。

「相変わらずのホラ吹きだな、それほどまでに敵を恐怖させる猛将が我らが軍に居るとでも言うのか?」
「この場に少なくとも五人ないし六人は居る」

 間髪入れずの返答。
 もう公孫賛も怒りをアラワニしており、よほど多いみたいだった。
 周囲の兵が止めにはいらない辺り、それを示唆している。

「関羽殿と張飛殿……そして、私とこの仙人殿らがおりますぞ」

 太公望は、彼女に呆れつつも、その情報収拾能力に感心した。
 太公望・左慈・干吉は仙人や道士としてその名を知られている。
 だが愛紗や鈴々は決して有名ではなく、まだ無名に近い。

「……コイツの」

「言う通りよ、干吉は後方に下がっておるが、皆一騎当千の猛者よ」

 誇らしく微笑む。
 それに嘘偽りは無く、本当に本音である。

「……上に立つアンタの言う事なんだから本当なんだろう」

 だが太公望自身、そんなのは認めれない。
 幾等強くても連戦の疲労があるのだ、疲労には勝てない。
 更に仙人としての太公望が本気になれば、万の軍勢を全滅させるのに時間は掛からない。

 そんな強さを見せれば、誰もが縋りつく。

 自分で強くなる事を捨てて、誰もが強さに縋りつく。

「だからと言ってそんな無謀な突撃で大事な兵を損なうワケにはいかん、もっと別の方法を考えろ」

 公孫賛も怒りが薄れたのか、落ち着いた物腰で言う。
 大将が軽々しく変動してはいけないのだ。


「……手緩い、甘い考えでは一国の主とはなれまい、良くて一県の将にはなれるかもしれません」


 「が」の言葉を紡げなかった。
 意味を理解して公孫賛が怒鳴るよりも早く。
 大軍師としての太公望の言葉がもっとも速かった。



「お主に将たる資格なく、戦を語る資格なく、敵を語る資格は無い」



 将がいい加減な作戦を考えるなら、軍全てが崩壊する。
 戦のやり方を知らない者が、敵について語ってはいけない。
 敵を知らず、己を知らない者は必ず負ける。 

 公孫賛を挑発した女性は、言葉の意味を理解して太公望に掴みかかろうと近寄るが……

 太公望が誰にも見せた事の無い冷酷な瞳で、彼女を睨む。

 周囲の護衛の兵士も動けず、脂汗をかいている。

 その眼は蛇ではなく、龍……逆鱗に触れられた龍の眼。

 蝶が抗える理由は存在しない。


「お主の自己満足の為に兵卒を幾等犠牲にすれば良い?
  お主の自己満足の為にワシの仲間を戦場ら駆り出すのか?
  お主は卓越した兵卒には成れても、将には成れん!
  お主のその慢心した武など! 賊徒にも劣ると知れ!」


 反論を許さない言葉、それに伴う殺気。
 忘れてはいけないが、彼の正体は神なのだ。
 その気になれば、指先一つで人を軽々と殺せる。

「くっ!」

 女性は天幕から出て行く。
 よほど言われた事が堪えたのだろう。
 だがそれを理解し、受け止めなければ『客将』という名すら勿体無い。
 賞賛される武は、己が決めるのではない、それを見る人々なのだ。

「すまぬ……大将に座ってるワシが、こんな幼稚な説教をしてしまった」

「……いや……本当は私がしっかりとアイツに……趙雲に言わないといけないんだが」

「でもご主人様、あの人……下手をしたら単騎で突撃するかも知れません」

 太公望の殺気が治まり、周囲の空気が元に戻る。
 この後、太公望の殺気によって失神した者が数人出る事となる。
 そして悩みの種は尽きない。

「あれほどの大口を叩けるのだ、武については問題ないが……故に討たれると大きな問題になるのぉ」

「確かに武力によって敵を混乱に持ち込めますけど、下手に倒されたらそれだけで敵の士気が上がりますから」

 軍議はマトモに進行しなかった。
 良くて簡単な挟撃作戦の立案だったが……


「伝令!! 趙雲殿が一人で陣を飛び出し、単騎で敵部隊に突撃してしまいました!!」


 天幕に飛び込んで来た伝令からの報告。
 それは懸念と同時に、今まさに立案していた挟撃の前提だった。

 焦る蝶は、天の龍を見返すべく出陣したが……

 それこそ天の龍の逆鱗。

「全軍に伝えよ! 太公望軍は敵を正面から迎え撃ち! 私達は後方に回り込み挟撃をかける!」

 伝令が慌てて出払い、次々と戦の支度を始めさせる。

「そっちの策に乗ってやるが、回り込むまで耐えてくれよ
  そうしないと策にならん、それに危ないと思ったらすぐに退かせてもらう
  それでたけは肝に銘じて欲しいな」

「安心せい、ワシは必ず策を成功へと導く」

 朱里を連れ、急いで自陣へと戻る太公望の背に、声が掛かる。

「だが……まあ、えっと…その……お前らの武運を祈っておいてやる」

 また顔を紅くしながらの激励。
 太公望の顔にも自然と笑みが零れ。

「―――本当にお主は良い女子よのぉ」

 微笑みながらの返し言葉に、公孫賛は真っ赤になる。

「なっ!? なに言ってんだ!?」


「また会おう!!」


 カッコ良く去っていく太公望の背中。


「また―――そうだな! また会おう!」


 今までに見せたこの無いシャキッとした姿に将兵が驚く。
 そして彼らの中で暗黙の了解と結束が生まれる。

 全ては己が主の為に……


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■作者からのメッセージ
サンダーク様
初めまして、感想ありがとうございます
序盤は忙しいのでどうもサボらせてやれませんでしてた
サボりこそ彼の特徴でもあるので、頑張って入れてみせます
これからも応援よろしくお願いします

TINゴット様
初めまして、感想ありがとうございます
実際は最強状態なんですが、周りを成長させる為にあえて弱く演じさせてます
単純なパワーゲームでは戦になりませんから、ない頭捻り出して戦場を書きます
これからも応援よろしくお願いします
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