作者:193
2008/12/07(日) 04:11公開
ID:4Sv5khNiT3.
アースラの面々が地球に左遷されてから三ヶ月余り――
日本政府との契約に基づいた治安維持部隊と言っても、そのほとんどは雑用のような仕事ばかりだった。
魔導師犯罪、魔法事件と言っても、魔法に馴染みの薄い地球人が通販で購入した怪しい魔法グッズを暴走させたり、ごく稀に魔力の保有資質がある人間が、独学で魔法を学ぼうとして失敗するケースなどがほとんどだった。
しかも、その事件、事故のほとんどはメタ=リカーナとの貿易拠点がある日本に集中している。
それと言うのも最新の魔法グッズを買い求めにきた観光客や、魔法を研究、勉強するために訪れる学生、研究生が多いことも大きく影響していた。
それほど諸外国に比べ、今の日本は魔法文化に一番近く、メタ=リカーナとも密接な関係にあると言って過言ではない。
そもそも、メタ=リカーナに在住するような正規の魔導師が犯罪に加担していることは、ほとんど皆無と言っていい。
メタリオン全土の割合で言っても、魔導師の数自体が一般の兵士や、騎士に比べて圧倒的に少ないのだ。
更に言えば、日本とメタ=リカーナを繋ぐゲートは厳重に警備で固められている上、強い力を持つ魔導師や戦士などの出入りは例外を除いて徹底的に規制されている。
地球には戦士が求めるような“強敵”もいなければ、魔導師が追い求めるような“神秘”も“魔術”もない。
そんな中、無理をしてまで地球で生活をしようと言う物好きな魔導師は少なかった。
言って見れば、どこぞの組織や軍が秘密裏に魔法の研究などをしていることはあるが、本物の魔導師たちから見れば所詮は素人の児戯。
問題になるような大きな事件と言うものが、そう頻繁に起こるはずもない。
「戻りました……艦長、いえハラオウン提督」
「お疲れさま、クロノ。あなたもどう?」
「……いただきます」
差し出された羊羹を口に放り込むクロノ。
彼はここ最近の任務に関して不満で一杯だった。
今までアースラに乗り、ロストロギアの捜索や次元犯罪者を追う任務など、最前線とも言える現場で任務に当たってきた彼から知て見れば今の状況は雑用に等しい。
それで不満がでない方がおかしいのだが、そんなクロノとは対象的にリンディは涼しい顔をしていた。
「現状に不満はないのですか?」
「……不満?」
「ジュエルシード事件以降、この世界は平和そのものだ。
そもそも事件と言っても、子供でも出来るような簡単な魔法制御の失敗による暴走や――
認可の下りてないオカルトグッズの使用による小さな事故くらいのもんですよ?」
リンディは黙って、そんなクロノの不満を聞いていた。
たしかに事件そのものの規模は小さい。管理局でも地上部隊のそれも末端の者がやるような簡単な事件ばかりだ。
「たまに魔法を覚えたての犯罪者が、魔法を使って小賢しい犯罪行為をするくらいで――
それだって、ぼくたちが出張るようなものじゃない」
しかし、リンディはそうは思っていなかった。
確かに今まで前線でやってきたクロノや、前線で活躍してきた武装局員からして見れば、それは他愛のないものだろう。
管理世界で年中起こっている平均的な魔導師犯罪に比べても、地球のそれは事件とも呼べない小さな規模のものだ。
だが忘れてはいけないのは、この世界は魔法と出会って、まだたった十年ほどの年月しか経っていないと言うことだ。
小規模な事件と言えど、魔法は使い方を誤れば簡単に人の命を奪うこともある危険なものだ。
的確な処理や、対処方法が身についていなければ、魔法を持たない人たちにとってそれは“脅威”に他ならない。
現地の治安維持を行なうはずの警察や軍が、手をこまねいているのにもそうした現状があった。
だから、自分たちが派遣されたのだとリンディは思っていた。
他にも本局の思惑はあるのだろうが、それでも治安維持部隊として派遣された以上、やるべきことはやらない訳にいかない。
「ねえ、クロノ。平和なことの何がいけないのかしら?」
「それは……」
「大きな事件ばかりが、事件ではないわ。それにここは“海”ではないのよ。
地上には地上の“役割”と“責任”がある。良い機会だから、しっかりと学びなさい」
「…………」
クロノは納得がいかないのか、不満そうな表情で返す。
だが、リンディは今回のことはある意味、クロノにとって良い機会だと考えていた。
次元を超えし魔人 特別編『表と裏』(第13.75話)
作者 193
時期はそろそろ八月に差しかかろうと言う頃――
太陽の照りつける暑さが地面を焦がし、二人の少女の体力を容赦なく奪っていく。
子供たちにとっては待ちに待った大連休。
海水浴に山登り、虫取りにプールと、どこも彼処も子供たちは夏休み一色と言ったところだ。
そんな心躍る夏休みに入ったと言うのに、なのはとフェイトの訓練は変わることなく続いていた。
毎朝、カイとアムラエルを交えた実践さながらの戦闘訓練を受け、たまに手伝ってくれるシーンから魔力の制御や効率的な運用技術などの指導を受ける。
学校のあった時は朝と夜の特訓が主で、休みの日は朝だけと言うのが通例だったが――
夏休みに入ってからは、その時間を利用して訓練の密度も時間も増していた。
だが、そんな二人にも休みの日はちゃんと用意されている。それは日曜日などの休日や祝日だ。
いつも特訓ばかりではなく「休みの日くらいは子供らしく友達と遊んで来い」と言うのがカイの言い分だ。
それでなくても頑張りすぎる二人を、カイとシーンは心配していた。
夏休みの訓練に関しても、毎日ではなく一日おきでも構わないとカイは言ったのだが、それをなのはとフェイトは受け入れなかった。
D.S.とアムラエルは「本人たちの好きなようにやらせとけばいい」と言っていたが、今からこれではとカイとシーンは心配する。
しかもフェイトなどは、せっかくの休日にも関わらず、D.S.と一緒に書庫に篭って魔導書を読み漁っていることが多いので、カイやシーラに見つかって外に追い出されることが多かった。
「「お手伝いですか?」」
なのはとフェイトが一緒に首を傾げる。
――と言うのも今日は日曜日。
たしかに二人ともとくに予定は入ってなかったが、五月蝿いほど休日は休むように言うカイとシーンにしては珍しい。
気になった二人が「どうして急に?」と聞くと、二人は肩をすくめ苦笑をもらしていた。
「二人はなんのために魔法を習ってるのかな?」
シーンは少し悪戯のこもった言い方で、二人にそのことを聞く。
だが、なのはの答えは決まっていた。そしてフェイトにも戦う理由はある。
「大好きな友達を、大切な家族を守る“負けない力”が欲しいから――
なのはは魔法を覚えたいと、アムちゃんみたいに強くなりたいと思いました」
「わたしもなのはと気持ちは同じです。この場所にはわたしの“幸せ”がたくさん詰まっている。
二度と同じ過ちを繰り返したくないから、大切な人のために、わたしはこの力を使いたい」
その返事に満足したのか、カイとシーンの二人は顔を見合わせ優しい笑顔を見せる。
二人の話を要約すると「大好きな人たちがいるこの街を守りたい」とそう言うことだった。
「それじゃ、二人が大切に思ってる街のお仕事、手伝ってみようか?」
シーンの話を聞いて顔を見合わせる二人。
少女たちの“ボランティア”がこうしてはじまった。
ユーノはあの後、管理局の嘱託魔導師として治安維持部隊の手伝いを行なっていた。
お世話になった人たちの街の平和を守ることが、罪滅ぼしになると考えたからだ。
リンディもユーノのそんな気持ちを理解していたので、「手伝わせて欲しい」と言うユーノの申し出を快く了承した。
もっとも、仕事といってもユーノに任されたのは、街のトラブル解決と言う危険性の低い任務だけだ。
各企業が開発した魔法商品はもちろんだが、通販などで認可の下りてない不法な魔法商品なども出回っている。
そうした物は誰でも使用できる分、問題も発生しやすい。
魔法に馴染みの薄い人たちでは対処に困るものも出てくるのは必然だった。
「これで大丈夫だと思います。
一応修理はしておきましたけど、念のため製造メーカーに見てもらった方がいいと思いますよ」
魔力を動力にしているスプリンクラーが故障して、水が止まらないで困っていると言った簡単なトラブルだった。
本来ならこのくらいのことは管理局の仕事に含まれない。こうした小さな問題は至るところで起きているからだ。
当然、そうした自分たちで解決できる問題は、現地の企業や公共機関などが行なっているが、ユーノは事の大小に関わらず海鳴市近郊で起こっている魔法に関連した問題には率先して取り組んでいた。
「キミは、いつもこんなことをしてるのか?」
そんなユーノの様子を、後ろで見ていたクロノは呆れた様子で言う。
リンディの指示で、今日はユーノと一緒に街の哨戒任務に当たることになったクロノだったが、行く先々でこうした小さな頼み事を聞いて回るユーノに呆れていた。
こんなことをチマチマとやっていても、一向に問題は片付くはずがない。
それを見たクロノは「こんなことは現地の人間に任せるべきだ」と言うが、ユーノはやめようとしなかった。
「でも、ぼくに出来ることは本当に少ないから――
それに困ってる人を放っておけないよ。
なのはがしてくれたように、ぼくも誰かの力になりたいんだ」
こうした仕事など、管理局にとっては取るに足らない小さな仕事かも知れない。
でも、困っている人がいることは確かで、自分たちにはそれを助けてあげられる知識も力もある。
最初は罪の意識からやっていたユーノだったが、いつしかそれは自分の目的になっていた。
「これはキミのかな?」
年の頃は五歳くらいと言ったところだろう。
水の溢れた公園の一角に取り残されていた玩具を見つけたユーノは、それを伺うように見ていた少女にその玩具を差し出す。
「うん――ありがとう、おにいちゃん」
ユーノから玩具を受け取り、母親のもとへ帰っていく少女。
少女が何かを母親と話していたかと思うと次の瞬間、その母親もユーノの方を振り返りお辞儀をしていた。
はじめて、この世界の人から感謝をされた時――
子供の笑顔、老夫婦にもらった飴玉、そして今のように頭を下げ感謝してくれる人がいる。
それを目にしたとき、ユーノはなのはの怒っていた理由、その意味にちゃんと気付けたのかも知れない。
なのはが怒ったのは、ユーノが管理局に密告したことでも協力したことでもなくて――
みんなの気持ちを裏切るようなことをした行為が、悲しくて怒っていたのだとユーノは悟った。
管理外世界であろうと、管理世界であろうと、そこで生きている人たちに違いはない。
笑いもすれば、怒りもする。悲しければ泣くし、嬉しければ笑う。それは当たり前のことだ。
ジュエルシードのことを自分ひとりでなんとかしようとしていたことも――
管理局に従うのが当たり前だと思っていたことも――
いつの間にか、管理世界、管理外世界だと、自分たちに“都合のよい常識”に縛られて、線引きをするのが当たり前になっていたのだとユーノは気付いた。
それが、なのはたちとのすれ違いになり、壁となっていたのだと思う。
「ぼくは、自分で考古学者だと偉そうなことを言ってたけど――
まだ全然、自分のことですら何一つ理解していなかった」
「……それとこの行動と何が関係あるんだ?」
「クロノにも、いつか分かると思うよ。この世界の人たちと接していれば――」
クロノは幼い頃から管理局の中に居すぎて、視野が狭く凝り固まっているのだろうとユーノは感じていた。
管理局員でないユーノでさえ、管理世界の常識に囚われて、そこまで考えが及ばなかったのだ。
でも、リンディが「ユーノくんと一緒に行って来なさい」とクロノに言った意味をユーノは悟っていた。
リンディも、今のクロノの状態を心配しているのだ。
それに気付くどうかはクロノ次第だが、なのはたちのことを思い出し、ユーノは心配いらないと考える。
クロノにも友達が出来ればきっと――
それはリンディも同じ思いだったのだろう。
なのはとフェイト、二人がシーンに連れて来られたのは海鳴市の大学病院だった。
二人は不思議そうな顔をする。
こんなところで、どんな仕事が待っていると言うのだろう――と疑問でならなかったからだ。
「みんな――今日は新しい“お友達”を連れて来たわよっ」
「ふぇ……」
「え……」
シーンはそうして到着した大部屋で、なのはとフェイトの二人を前に押し出す。
なのはとフェイトは完全に困惑していた。案内された部屋にいたのは十数名の子供たち。
ほとんどが十歳にも満たない子供ばかりで、なのはやフェイトよりもずっと幼い子供がたくさんいた。
「シーンさん……これは?」
フェイトは状況が理解出来ないため、シーンに尋ねた。
だが、シーンは困惑する二人の頭を撫でて、「この子たちと遊んであげて、それが今日のあなた達の仕事」とそれだけを言った。
よく分からないまでも「お姉ちゃんこっち」と手を引っ張られ、なのはとフェイトは苦笑をもらしながらも子供たちに付き合う。
「お姉ちゃんはわたしたちとオママゴトするの!!」
「ふん! オママゴトなんて男がやれるかよっ!!」
「二人とも喧嘩はよくないよ。ほら、お姉ちゃんが一緒にオママゴトしてあげる。
なのはは、その子たちと一緒に遊んであげて」
「――うん。みんな、何して遊ぶ?」
意外と面倒見のよいフェイトだった。実はこれには理由がある。
大きな局面になると心強いアムラエルだが、普段はフェイトを困らせるほどの我が侭な子供ぷりを発揮することがあった。
フェイトが魔導書を読んで勉強をしていると「フェイト、ゲームしよ!!」と遊び相手を求めてやってくる。
そこで断りでもすれば「ええ〜〜」っと不機嫌になり、「まだ〜! やろうよ――っ!!」と地面を転がって駄々をこねるのだ。
そんなアムラエルをあやしているうちに、フェイトは子供の扱い方を覚えたと言う背景があった。
当然、なのははそんなアムラエルなど見たことがない。
だから、フェイトがあまりに子供の扱いに手馴れているために不思議に思っていた。
「フェイトちゃん、まさか……ルーシェくんとっ!!」
なのは――それは大きな勘違いだ。
と言うか九歳の考えにしてはあまりにリアルな発言に、後ろで見守っていたシーンも冷や汗を流していた。
フェイトはそうして子供たちの相手をしながらも、ひとりだけ輪に入ってこない五歳児くらいの少年を見ていた。
なのはを呼び止めてその場を任せると、フェイトはその少年の前にまで歩いて行き、膝をついて屈み、少年の顔をまっすぐに見る。
「なんだよ……」
「わたしはフェイト、よかったらキミの名前を教えてくれるかな?」
「…………良太」
警戒しているのか、訝しむような表情でフェイトを値踏みする少年だったが、少し考えたあと自分の名前を答えた。
少なくとも名前を教えるくらいには、フェイトのことを信用しても良いと思ったのだろう。
しばらくフェイトは良太に色々と質問を投げかけ、興味のある話がないかと探ってみる。
そんなとき、ふと良太が「友達」、「お母さん」と言う単語に反応したのをフェイトは見逃さなかった。
「良太くん、みんなとは遊ばないの?」
「……遊ばない」
「そっか、じゃあ、わたしと遊ばない? わたしと一緒なら――」
「――遊ばないっ!!」
「――!?」
フェイトを押しのけ、部屋を飛び出していく良太。
慌ててフェイトは声をかけるが、その声が良太に届くことはなかった。
「フェイトちゃん……」
「やっちゃたね。あの子はちょっと気難しい子なのよ。
フェイト、わたしが捜してくるからあなたはここに――」
「いえ、わたしに行かせて下さい。
きっと、あの子の気に触ることをわたしが言ってしまったんです。
だから――シーンさん、お願いします」
心配するなのはとシーンに、フェイトは頭を下げて自分で捜しに行きたいと告げる。
そんなフェイトに、シーンは笑顔を向けると「行ってらっしゃい。きっとあの子なら屋上にいるわ」と良太の居場所を教えてくれた。
シーンの言うとおり、良太は屋上にいた。
良太はフェンスに手をかけ、屋上から見える景色に目を落とす。
フェイトはここに来る前に、シーンから良太の話を聞いていた。
良太は心臓が生まれ持ち悪く、ほとんどの時間をこの病院で過ごしていた。
母親は良太の治療費を稼ぐために仕事に忙しく、滅多に会いに来れない。
そんな良太がいつも気にしていたのは、お見舞いに来る家族や友人の顔だ。
あそこにいる子供たちの誰もが、親が、友達がお見舞いにやってくる。
でも、幼稚園にも通ったことのない良太には友達はおろか、母親でさえ仕事の都合で滅多に会いにくることはない。
良太がいつも屋上から見下ろしているのは、玄関から続く病院の門だった。
――今日は会いにきてくれるだろうか?
――明日は会いにきてくれるだろうか?
それだけを思い、母親が来るのを良太はずっと待っていた。
フェイトはそんな良太を見て思う。
彼はきっと寂しいのだと――
本当は友達と一緒に遊びたい。
でも、誰も来てくれないのが寂しくて、そんな友達を見ているのも辛くて、本当は自分でもどうして良いのか分からないのだと思う。
母親に会いたくても、その母親が自分のために仕事を頑張っているのだと良太はきっと気付いている。
だから、言い出せないのだろう。
――寂しい、もっと会いに来て。
その気持ちがフェイトには痛いほどよく分かった。
フェイトはフェンスに向かって真っ直ぐに歩いていくと、そんな良太の後ろに立ち――
背中から包み込むように、その小さな身体を抱きしめていた。
「…………」
「大丈夫だよ。良太はひとりじゃない」
「フェイト……お姉ちゃん?」
「良太の寂しい気持ちも、辛い気持ちも、きっとわたしには何一つ分かってあげられない。
でも、少しでも分かりたい、寂しい気持ちを分け合いたいって思ってる」
それは辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、大切な親友がしてくれたこと――
「一番大好きな人に会えないのは辛いよね。『会いに来て』って言えないのは辛いよね。
だけど、悲しいのは永遠じゃない。ずっと続かないから――」
困惑する良太を振り向かせ、フェイトは笑顔でその手を取る。
「楽しいこと嬉しいこと、きっと見つかるよ。良太だけの“幸せ”がきっとどこかにある。
わたしも探すのを手伝うから、だから――“友達”になろう」
「うっ……」
良太は泣いていた。
分かってくれない、誰も気付いてくれないと思っていた思いをフェイトに見透かされ――
そしてその手の温もりに触れて、溜まっていたものすべて吐き出すかのように泣いていた。
フェイトはそんな良太を優しく胸に受け止め、泣き止むまで、ずっと、ずっと――
泣きじゃくる“子供”の頭を、優しく撫で続けていた。
また来る――と子供たちに約束したなのはとフェイトは、手を振って子供たちと別れた。
あれから良太はフェイトやなのはと一緒に、他の子供たちと言葉を交わし、同じように輪に入って遊んでいた。
シーンは少し驚いていたが、良太と一緒に楽しそうに笑うフェイトを見て、優しい笑みをを浮かべていた。
「そう言えば、シーンさん。
どうして今日は、急にわたしたち“だけ”を連れてきたんですか?」
「うん、こんなことならアリサちゃんや、すずかちゃん、それにアムちゃんもきっと協力してくれたと思うの」
フェイトとなのはは疑問に思う。子供たちに会わせたいだけなら、きっとシーンならアリサたちも誘ったと思ったからだ。
シーンは、疑問に思うなのはとフェイトを一度見ると、もう随分と小さくなった病院の方を振り返り答えた。
「あそこにいた子供たちのうち何人かは、ジュエルシード事件の被害者なの。
あなたたちも知っているでしょ? 植物暴走の事件は――」
「「――!?」」
なのは、それにフェイトの表情が歪む。
フェイトは当事者ではなかったが、ジュエルシードが関係していたと言われ、なんとも言えない思いで一杯だった。
「あなたたちは守りたいと言った。だから、見せたかったの。
確かにあの事件で傷ついた人はたくさんいる。
でも、あなたたちのお陰で守れた命もたくさんある」
シーンは表情を曇らせる二人の頭に「ポンッ」と手を置くと笑顔でこう言った。
「あの子たち、どれだけ辛くても笑っていたでしょ?
あの笑顔を守ったのは――あなたたちなのよ」
「「シーンさん……」」
「カイも言ってたでしょ? 『力を持つものには相応の“責任”が生じる』って――
あなたたちが守りたいと決めたものは、そんなに軽いものじゃないわ。
きっとこれからも、あなたたちが戦っていく裏で、ああした子が必ず出てくる。
――それでも“守りたい”って意志が二人にはある?」
シーンの問いが重いと感じたのか、二人は押し黙って顔を見合わせる。
しかし、二人の答えは決まっていた。
それは自分の意志でジュエルシードを集めて回った、あの時から変わらない。
「「――はいっ!!」」
それは確かな、二人の強い意志だった。
……TO BE CONTINUED