第一話〜出逢い〜
?「ほらぁ〜、二人とも早く早く〜!」
?「お待ちください、桃香様。お一人で先行されるのは危険です」
?「そうなのだ。こんなお日様一杯のお昼に、流星が落ちてくるなんて、どう考えてもおかしいのだ」
?「鈴々の言うとおりです。もしかすると妖の類かもしれません。慎重に近づくべきです」
?「そうかなぁ〜?……二人がそういうなら、そうなのかもだけど……」
?「お姉ちゃん、鈴々たちを信じるのだ」
?「そうです。中山靖王劉勝の後胤で、景帝の玄孫ともあろうお方が、真昼間から妖の類に襲われたとあっては、名折れというだけではすみません」
?「うーん……じゃあさ、皆で一緒に行けば怖くないでしょ?だから早くいこ♪」
?「はぁ〜、わかってないのだぁ〜」
?「全く。……鈴々。急ぐぞ」
?「了解なのだ」
?「流星が落ちたのって…この辺りだよね?」
?「私達が見た流星の軌跡は、五台山の麓に落ちるものでした。我等の目が妖に誑かされていたのでなければ、この辺りでまず間違いは無いでしょう」
?「だけど周りには何も無いのだ。……どうなってるのかなー?」
?「皆で手分けして、流星が落ちたところを探してみよっか?」
?「それは危険です。いまだ善なるか悪なるか分からない代物なのですから」
?「なら皆で一緒に探すしかないかー…」
?「そうするのだ。……って、あにゃ?あんなところに人が倒れてるのだ!」
?「えっ!?あ、ちょっと、鈴々ちゃん!」
?「ちょっ……!まったく!二人ともどうしてああも猪突なのだ!」
?「あやー、変な人がいるよー」
?「男の人だね。私と同じくらいの歳かなぁ?」
?「二人とも離れて。まだこのものが何者か分かっていないのですから」
?「でも危ない感じはしないのだ」
?「ねー。気持ちよさそうに寝てるし。見るからに悪者ーって感じはしないよ?愛紗ちゃん」
?「人を見た目で判断するのは危険です。特に乱世の兆しが見え始めた昨今、このようなところで寝ている輩を「ん……」」
?「っ!?桃香様下がって!」
?「え?……わわっ!?」
?「おー、このお兄ちゃん、起きそうだよー。へへー、つんつん……」
?「こら、鈴々!」
一刀「んん……」
?「……っ!」
一刀「……」
?「くっ……脅かしよって……」
??「……」
?「な、なんです二人とも。私の顔に何かついているのですか」
?「あー……愛紗ちゃん、もしかして怖いのかな?」
?「そんなこと、あるわけがありません!」
?「ふーん……」
?「な、なんですかその、やっぱり怖いんだー、とでも言いたげな笑いは!我が名は関羽!この私が、このような些細なことで怖がるなど「アッーーーーーー!」」
関羽「…ひっ!?な、なんだ鈴々!どうしたというのだっ!?」
?「お兄ちゃんが目を開けそうなのだ」
関羽「なにっ!?」
?「あはは、やっぱり怖いんだ?」
関羽「そ、そんなことはありませんよ……?」
一刀「んっ……」
関羽「くっ……先ほどから、我らをからかうように声を漏らしおって……!」
?「我らって、愛紗と一緒にして欲しくないのだ」
?「ねー♪」
関羽「二人とも、いい加減に……っ!」
(ん…?)
真っ暗な視界の中に響く、凛とした音色。
(一体何がどうなっているのか。)
(……っていうか、何で目の前真っ暗なんだ?)
(…あ、そっか。俺、目を瞑ってるんだ。なら目を開ければ、万事解決。…それにしても、なんかうるさいなぁ。)
(なんだってんだ?一体、誰が叫んでるんだよ……?)
一刀「…………んん?」
目を開けると、そこには華美な服を着た、三人の女の子がいた。
(愛紗!鈴々!……もう一人は劉備か?)
関羽「……」
張飛「……」
劉備?「……」
一刀「あー……えっと……」
目の前に広がるのは遥か遠く見事な地平線。その上に乗っかるゴツゴツとした山脈。
それは以前の外史で彼女達と出逢った思い出の風景。
彼女達とのさまざまな思い出が甦り、思わず涙がこぼれそうになる。……と、そのとき。
劉備?「あ、あのぉ〜……」
一刀「……??」
劉備?「えーっと……だ、大丈夫ですかぁ?」
おずおずとした様子で近づいてきた劉備?が、心底心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。
一刀「う………」
大きく、まっすぐな瞳。
ともすれば吸い込まれそうになるその大きな瞳に見入りながら、
一刀「だ、大丈夫。心配してくれてありがとう」
俺は立ち上がりながら、劉備?に礼を言った。
劉備?「良かったぁ〜♪」
一刀「心配してくれてありがと。……ところで、つかぬ事をお聞きするんだけど……」
劉備?「はい?」
一刀「ここは幽州啄郡の五台山の麓でいいのかな?」
関羽「ああ、そうだ」
張飛「お兄ちゃん、その服なんでできてるのだー?なんかキラキラしてるー」
劉備?「ホントだねー。太陽の光を浴びてキラキラしてる。……上等な絹を使ってるのかなー?」
物珍しそうに、俺の服をじろじろと見る劉備?と鈴々。う吉干テ
一刀「ああ、これはポリエステルっていう生地を使ってるんだ」
劉備?「ぽりえすてる?ってなあに?」
劉備?「それにそういう型の服って見たことないし、流星の落ちてきたところに寝てたしー、お兄さん、一体何者なのかな?」
一刀「俺は北郷一刀!君たちは関羽さん・張飛さんに劉備さんでいいのかな?」
関羽さん・張飛さんなんて違和感ありすぎて言ってて背筋がモゾモゾするけど、いきなり真名で呼ぶわけにはいかないしなぁ。
劉備?・関羽・張飛「っ!!」
関羽「貴様なぜ名乗ってもいない我等の名を知っている!!」
言葉と同時に目にも留まらぬ速さで青龍刀と蛇矛が首筋に突きつけられる。
張飛「もし妖なら鈴々がやっつけてやるのだ!」
一刀「ちょ、ちょっとまってくれ!管輅や李定から何も聞いてないのかっ?」
劉備「!もしかして貴方は天の御遣いなのっ!?」
関羽「管輅が言っていた天の御遣い。……あれはエセ占い師の戯言では?」
張飛「うんうん。鈴々もそう思うのだ」
劉備「でも管輅ちゃん言ってたよ?東方より飛来する流星は、乱世を治める使者の乗り物だーって」
関羽「ふむ…確かに、その占いからすると、この方が天の御遣いという事になりますが……」
劉備「それに私が旅に出るときに李定さんっていう仙人さまに、姉妹とともに五台山の麓で乱世を治める英雄と出会うだろうってお告げをされたもの。私達の名前だって知ってたし」
張飛「でも、このお兄ちゃん、何だかぜーんぜんたよりなさそうなのだ」
関羽「うむ。それなりの使い手ではありそうだが、天の御遣いというわりには、英雄たる雰囲気があまり感じられないな」
劉備「そうかなぁ?……うーん、そんなことないとおもうんだけどなぁ」
一刀「………」
これでも一年間必死で鍛錬を重ねたんだけどなぁ。まぁ確かに歴史に残る英傑とは比べ物にならないだろうけどさ。
それにしてもこうジロジロと値踏みされては、いくら俺でも萎縮する。もう最高に居心地が悪い。
この状況を打破するために、もう一押ししてみるか。
一刀「ちょっといいかな」
劉備「なんですか?」
一刀「君は中山靖王劉勝の後胤で景帝の玄孫だろう?」
劉備「っ!どこでそれをお聞きになったのですか?」
一刀「誰かに聞いたわけじゃないよ。俺は劉勝の後胤、劉備とその姉妹と共に乱世を治めるべしという天意を受けて、君たちに会うために天界から流星に乗って降りてきたんだ」
この外史は俺が望んで生まれた世界なんだし、あながち嘘ではないよな。
劉備「やっぱり!それじゃあ「グゥ〜〜〜」」
劉備「……」
関羽「……」
張飛「……」
一刀「あー……ごめん」
そこまで驚かなくても……。……まあ確かに派手な音だったけどさ。
一刀「朝飯食ってなかったからさ……」
張飛「鈴々もおなか減ったのだー!」
劉備「そういえば、私達も朝ごはん食べてなかったもんねー」
関羽「近くの街に移動しますか」
張飛「賛成なのだ!」
劉備「じゃあ、そこで御遣い様にも色々とお話を聞いてもらおう!」
関羽「それが良いでしょう。では善は急げ。早速移動しましょう」
それから愛紗の提案に従い、俺たちは一緒に近くの街に入り、食事をとったあと、改めて自己紹介と今後についての話をした。
三人の長姉は劉備、真名は桃香
次姉は関羽、真名は愛紗
末妹は張飛、真名は鈴々
三人は今まで各地で人助けを行ってきたが、その活動にも限界を感じ始め、もっと多くの民を救うために義勇軍を集めるようとしていたところ、管輅の占いを受けて天の御遣いを探しに来ていたのであった。
そこで俺たちは桃香の旧知である公孫賛がこの近くで義勇兵を募集しているとのことだったので、ひとまず公孫賛を頼り、功を立て独立を目指すことになった。
それから俺たちは桃香の提案で、街の近くにある桃園で新たな門出を祝う宴をすることにした。
そして宴の準備を終え、乾杯をしようとしたとき愛紗が急にそれを遮った。
愛紗「一刀様、桃香様、鈴々ちょっと待っていただきたいのですが」
鈴々「にゃ?なんなのだー?」
桃香「どうしたの愛紗ちゃん?」
一刀「?」
愛紗「先ほど宴の準備をしていてふと頭に浮かんだのですが、新たな門出をするにあたり、一刀様を我らが主と仰ぎ、新たな誓いを立ててはどうでしょうか?」
桃香「賛成!」
鈴々「鈴々も賛成なのだ」
一刀「よし、そうしよう!」
そして俺達は、掌で包んでいた杯を高々と掲げた。
一刀「天よ聞け!ここに居る我ら四人!」
桃香「姓は違えども、兄妹の契りを結びしからは!」
鈴々「心同じくして助け合い、皆で力なき庶人を救うのだ!」
愛紗「同年同月同日に生まるるを願わず!」
桃香「願わくば同年同月同日に死なん!」
一刀「では永久に」
桃香・愛紗・鈴々・一刀「変わらじ!」
力なき民を救うために、かつて救うことのできなかった人々を今度こそ救うために、俺は戦乱に満ちた歴史の中に一歩、足を踏み出した。
続く