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長き刻を生きる 第二十一話『定められた勝敗を』
作者:大空   2009/02/01(日) 16:08公開   ID:WoGSmdefeYQ

 幽州連合軍vs袁紹軍の戦いは、袁紹軍の快勝から火蓋を切る。
 元々物量で遥かに勝る袁紹軍は攻城兵器【投石車】を運用した速攻戦術で、公孫賛軍が保有する防衛の砦を突破。
 砦の攻防は袁紹軍に対して僅かな被害しか与えれず、そして砦の役目である足止めすら全う出来ずに陥落した。
 だが被害は被害、罠と一方的な弓矢によって兵士には怪我人が出ており、袁紹軍先遣部隊の顔良・文醜は軍師田豊と共に落とした砦で休んでいた。

「敵も兵力はないそうない、流石の太公望も劉虞を抱え込む為に公孫賛を捨てたようですな」
「攻城兵器なんてモンを田爺が引っ張ってくるから、アタイ等の出番がないじゃないか!」
「文ちゃん、田豊(でんほう)さんは少しでも早く戦を終わらせようと無理して……」
「大丈夫だ顔良(がんりょう)将軍、敵は所詮公孫賛程度の小勢…ワシ等の目的はあくまでこの次の太公望」

 一人の老人に文句を延々と述べている女性と懸命に宥めている女性。
 老人の名前は田豊、袁紹軍先遣隊軍師として今は”数万”と言う桁違いの先遣隊の参謀である。

「虎牢関でも全然出番なかったんだからよ、少しはアタイ等にもなぁ」

 田豊に先程から出番を寄越せと文句を述べているのが、袁紹軍の二枚看板と謳われる武将。
 水色の髪の短い髪、バンダナを巻き絞め、金色の軽鎧軽装で身を固め、その手には自らの背丈ほどの大剣を持つ。
 その剣の大きさは長さは彼女の背丈を超し、横幅は彼女が覆い隠せる程に大きい。
 彼女の名前は文醜(ぶんしゅう)……現在は出番出番と駄々をこねていた。

「……でも少し相手が少なすぎる気もします」

 文醜の相方であり、彼女と同じく二枚看板として袁将軍に君臨する武将。
 肩筋まで延びた黒い髪、文醜と比べて分厚く覆う部分も多い金色の重装備、手には巨大な鉄槌を提げる。
 一撃必殺の破壊力と、小さな防御をあざ笑うかのように砕く圧倒的な一撃を実現する巨槌。
 彼女の名前は顔良……問題児の多い袁紹軍の良きブレーキ役とも言える。

「相手は公孫賛一軍のみ……砦に兵を裂けるとは思えませぬな」
「幾等太公望軍が劉虞さんを取り込んだからと言って、仲が良いと評判の人を切り捨てるとは」

 チラッと顔良は外で騒いでいる兵士達の姿を見る。
 連日連戦の勝利と砦の攻略に、手に入った物資に手をつけての宴会騒ぎ。
 そもそも落とされるのが百も承知な状況で、砦に物資を残しておく必要性は皆無。
 公孫賛軍の兵士達も粘る事無く、それこそ決死こそせずにさっさと逃げ出してしまった。

 ―――微かな不安が消えない。

「兵士達の士気を下げる訳にはいきませぬ、この士気の高さと兵力差ならば快勝は目前」
「でもこんな勝ちが判り切った博打(いくさ)なんて全然面白くない」

 文醜は博打ごとに少し熱を持っている。
 厳に戦を命を賭けた博打とも表現しており、軽い人間とも思われた。
 だが博打には勝つ為の計算と負けない心が必要であり、実は緻密な計算の下に生きているのだ。
 それと彼女の大剣を操る武術が合わさり、今の彼女を袁紹軍の将軍として至らしめている。

「文醜将軍、戦とは勝つ為にあるのです……負け戦を兵に強いるなど」
「判ってるよ! それに負けたくないのは田爺達の軍閥争いだろうが」

 袁紹軍は一枚岩ではない。
 名家である【袁家】全軍の軍師となれば権威の大きさは言わずとも理解出来るだろう。
 更に軍の規模の大きさと優秀過ぎる人物の不在から、軍内部では日夜派閥争いが行われている。

 田豊と郭図(かくと)

 この両者を筆頭とした軍師間での派閥争いは、戦場にも及ぶ。

「利用されるアタイ等の身にもなれってんだよ」
「文ちゃん!」

 吐き捨てるように悪態と暴言を言う文醜。
 彼女は顔良と仲が良く、二人の実力が拮抗していると同時に二人を抜く人間が居ないのが幸い。
 二枚看板として定着し、武将間での派閥争いは無いが、軍師間の派閥に巻き込まれる始末。
 文醜は軍師と言う存在に喜びはするが、決して感謝はしないのだ。

 そうして文醜は会議に使っていた部屋を後にし、顔良も一礼した後に退室する。


「……お互い”袁紹”…姫様程度の下で好い気になってるだけが何を言えるのだ」


 誰も居ない部屋で田豊は吐き捨てた。
 自分の実力・二枚看板の実力は、もう”過去”の名家程度でしか通じない。
 おそらく大将の器では公孫賛が圧倒的に勝っている事、自軍の次元の低さを理解していた。

 ―――兵力差は圧倒

 ―――既に勝ちの見えた勝負

 ―――降伏勧告すらせずに戦を始める袁紹

 ―――ひとつになりきれない自分達

 所詮格下にしか勝てないような軍で、どうすれば偉ぶれるのか理解出来ない。
 ましてや次はあの”太公望”と”劉虞”の異民族も含めた脅威の騎馬軍団。
 それを相手に何処まで歩兵で固められた数万の軍勢が相手に出来るか……恐らく出来ない。 

「とにかく今は公孫賛を叩き、それから士気の高さを生かして太公望を討つしか策はないか
  もし郭図ならば……あの若者ならば、私を馬鹿にしながらもっと違った策を出せるだろな……」

 もし未来を見通せたならば、田豊は公孫賛撃破に固執する事を止めただろう。
 もし彼がその姿と同じ文王と同じ智勇を持っていたならば、こんな前線には居なかっただろう。
 されどそれは誰にも許されない秘術。


 定められた勝敗を知ってところで、彼に改竄する力などないのだから。


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 連日連戦に酔う兵士達の中に既に文醜と顔良の二人は混ざりこんでいた。
 もっともこの二人が入り込むのはとある三人の男達をリーダーにした輪だけであった。

「よぉ貧乳文に巨乳顔! 今日もまた田爺さんと喧嘩か!?」
「うっさい! だから張袷(ちょうこう)アンタはモテないんだよ!」

「仲良いのは良い事が、あまり喧嘩すると後始末に困る」
「硬いぞ高覧、戦勝祝いの酒は元気の秘訣なんだからよ」
「……もう泥酔ですね二人とも」

 文醜といつも酒では口喧嘩を展開する三人組。

 筆頭は元エリートの淳干携(じゅんうけい:携は当て字)、配下の張袷と高覧といつも組んでいる将軍の一人。
 右手に薙刀、左手に剣を握り締めて勇猛果敢に敵陣に突撃し一矢怒涛に敵陣を引き裂く烈将。
 あらゆる事は”天運にあり”と言う独自の信仰を持っており、勝敗への頓着が薄い。
 それ故に軍閥抗争にも無関心を貫き、配下達を抗争から守り抜いている将軍。
 史実では袁紹の半端な援軍によって兵糧庫を護れず、曹操に惨殺された不遇の将である。

「大方田爺さんが姫様に『殿が出るとヤヤコシクなるので本陣で休んでください』とか言ったんだろ?」
「田豊さんが淳干さんみたいにもっと言葉を曲げて言えたら……姫も怒らなくてすむんですけどね」

 淳干携の配下の一人の張袷(袷は当て字)、その姿は太公望が見れば絶句間違いなしの武王そのもの。
 三本の戟を常に背負いつつ戦い、どれかが壊れたら即座に交換して戦いを続行する戦術を持つ。
 黄巾の乱からの歴戦の勇士であり、そのノリの軽さからは伺われないほどの実力を持っている。
 酒の席ではいつも二人の胸の話をして大喧嘩にもつれ込んでしまう懲りない一兵卒である。
 そして史実では劉備をもっとも恐れさせ、諸葛亮の侵攻を幾度と無く弾き返した歴戦の猛将である。

「あの老人の性格では難しいだろな、あの人は言葉を直球に伝えすぎるからな」

 淳干携の配下の一人の高覧(こうらん)、張袷の親友であり彼との信頼厚き一兵卒。
 一本の槍のみで果敢に敵陣に突入しては敵の屍を築き上げていく、中々の武術の持ち主。
 少々他の二人に比べて硬い所があるが、それが巧く他の二人の自制に繋がっている苦労人。
 顔良とは苦労人同士で良く酒を飲み交わし愚痴を零しあっている中でもある。
 史実では張袷と共に顔良・文醜が戦死した後の袁紹軍の真二枚看板として一時的に袁を支えた将であった。

「大体アンタは胸胸五月蝿いんだよ! 女は中身だよ中身!」
「へっ! 普段から顔良の胸突っついてる女には言われたくないね!」
「ちょっ! 張袷さん!」

 周囲から巻き上がる笑い声。
 この五人組はこんな会話をいつも行い、兵士達を戦場でも笑わせていた。
 軍師間での抗争に巻き込まれている兵士達にとって、武官達が仲が良いのは幸いであった。
 もしこれで彼らの仲も悪ければ、もっと悲惨な現状を作り出していただろう。

「でもアンタ等大丈夫なのか? アタイ等は田爺と仲良くても大丈夫だけどよ」
「……郭図には悪いが、田爺さんと飲む酒は美味いからな」
「どちらかと言えば俺は田爺さんの方が馬が合いそうなんだけどな」

 実はこの淳干組は本来田豊の敵対派閥の頭、郭図の配下の将官達である。
 幾等個人として仲が良くても派閥はそんな事を許してはくれない。
 ましてや少しでも戦力を欲する抗争で将官クラスが敵の大将と仲が良いのは非常にまずい。

「郭図の奴が俺達三人をまとめて田爺の指揮下に入れるなんて」
「アイツ……郭図が諦めたんじゃないのか?」
「幾等なんでもそれは無いと思うけど……」

 五人組の不安は、後日的中する事となる。
 そしてそれは自分達の敗北への道筋である事に気付く。

 飼いきれない動物がどうなるかなど……知っていた筈だった。

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 雄叫び。

 巨岩によって破壊される砦の壁。

 防衛能力を失った砦に雪崩れ込む数万の兵士達。

 一斉に逃げ出す敵兵、もぬけの空と化した砦を漁る兵士。


「物資がない!?」


 それは将軍格三人と軍師に届けられた報告だった。
 公孫賛軍の兵糧庫は”空”……小さな粒一つ有りつけない。

「田豊さん……残存の兵糧であと何日持ちますか?」

 一気に冷汗が吹き上がる、それは将軍から一兵卒の端から端に至るまでである。
 ここ連日の連勝祝い・更に士気の保持の為に振り撒いてきたのが一気に災いしてしまう。

「持ってあと数日、すぐに本隊に兵糧補給の伝令を!」

 すぐに筆と書簡を持ち出し、書簡に兵糧補給の嘆願書を書き上げて兵士に渡す。
 兵士はすぐに外へ出て軍馬に跨り、後方で高みの見物に洒落込んでいた本隊に向う。

「淳干……確か直属に使える兵士が居ると言っておったな?」
「周辺への略奪位なら充分に任せられる、兵を一部借りるぞ」

 淳干はすぐに兵士達に周辺の街々に対しての略奪による補給を指揮、即座に部隊が組みあがる。
 機動力に優れた騎馬隊と略奪した物資を運搬する歩兵で組まれた三部隊……およそ二万。
 すぐに落とした砦から出立して、略奪と言う補給の為に近くの農村や街へと向う。

 ―――これが三人の別れ

 ―――そしてここから始まる数多モノ軍略

「どうすんだ田爺……この砦は攻城兵器で壊しちまって篭城には使えねぇぞ」
「残っている兵糧は隠せる、顔良将軍は算術の出来る者を集めて兵糧の分配を
  文醜将軍はここに残り、兵糧の隙を狙って反撃に転じてくるであろう敵軍に備えよ」

 顔良はすぐに配下の中でも勉学の出来る者達を集めて兵糧の残量の確認を始める。
 文醜は殆ど崩れて使い物にならない城壁に目の良い兵士達を配置、砦の周囲にも監視の兵士を置く。

 ―――崩壊した前線

 ―――策謀が彼等を食い尽くす


「……雨か……恵みとなるか災いとなるか」


 土砂降りの雨、近くすら見えないほどの大豪雨。
 視界を覆いつくし、音すらその勢いで掻き消してしまう程の勢い。


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 土砂降りの雨の中、略奪による補給部隊は何とか街に辿り着いていた。
 家という家を漁り、畑と言う畑を荒し、少しでも良いから食べ物を探していく。

 ―――既に何も無い街を死に物狂いで漁る兵士達


(流石主殿、敵軍が予想通りやって来た)
(でも大丈夫やろうか……大分顔色悪かったで)


 ずぶ濡れになりながらも息を殺す太公望軍の兵士達。
 太公望軍の軍師達の手によって踊らされた事も知らずに、袁の兵士達は懸命に食べ物を探す。
 馬の鳴き声も、兵士達の息も、何も聞えず知らずに何も居ないモノと信じて懸命に動き回る。

 既に彼らの敵は居るのだ。

(……勝つ)
(そうだな、勝ちを送れば少しは体調も良くなるだろうな)
(んじゃ、行くか?)


「ここも空!? 馬鹿な、こちらの諜報は何をして―――」


 四方から挙る雄叫び。

 一斉に掲げられる軍旗。

 その旗の文字を見た者達は一様に叫び声を挙げた。

「【呂】・【華】・【張】―――【幽】!?」

「敵襲――――――!!」

 叫んだ頃にはもう遅かった。
 周囲の森や物陰に隠れていた太公望軍所属の兵士達が一斉に抜刀して襲い掛かる。
 突然の奇襲に戸惑う兵士達を次々と討ち取り、混乱は雨によって感染していく。

「皆落ち着け! 敵は誰だ!?」

 雨の音によって奇襲部隊が何なのか判らない。
 雨によって視界が阻まれ、軍旗すら確認出来ない。

「敵将淳干携とお見受けする!」

 直後、視界から突然銀色の戦斧の刃が彼の首筋を襲い掛かった。
 だが咄嗟の判断と武人の本能が斧の一撃を辛くも弾き飛ばすが、威力は半端なかった。

 そして視界に映る銀色の鬼と後続の部隊が掲げている【華】の軍旗。

「敵将……華雄だと!?」

「悪いがここで負けて貰う!」

 騎乗したままの決闘、巧みに軍馬を操りながらもすれ違い様に刃を交える。
 火花はあがらず、刃を交える音が淡々と戦場に響き渡っていく。
 奇襲によって混乱した部隊は、その眼で見た軍旗の文字に怯え振るえ、戦意を失っていく。
 
「おいサラシの巨乳ちゃん! 雨でずれてるんじゃないか?」

「うちを相手にその減らず口……褒めとくで!」

 既に刃を交えている張袷と張遼こと霞、双方の槍が交わっては離れる。
 二本の槍を持ちながらも口で手綱を操る異様な姿に霞は驚きつつも戦っていた。 
 異民族お墨付きの騎馬の腕前に真っ向からぶつかりながらも、決して引けを取らないその武勇。
 並列しての騎馬戦は、敵味方関係なく蹴散らしながら街を疾走していく。

「呂布って……俺じゃ勝てんな」

「……降参」

「いや粘らせてもらう……少しでも皆が逃げる時間を作る必要があるからな」

 一番の外れくじを引いたのは高覧……相手はかの呂布こと恋。
 混乱の最中に撤退を始めている味方の為にも指揮官を留まらせておく必要性がある。
 たとえ勝てないと理解していても、高覧は雨で滑りつつある槍をしっかりと握りなおす。
 音はしない―――ただ高覧が恋相手に動かず睨み合いをするのみ。


「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


 華雄こと椛の猛撃を懸命に捌き続ける淳干だが、既にその片手の感覚はしていない。
 雨と言う冷却材が腫れを押さえ込んでいるが、それも何処まで持つか判らない。
 銀色と緋色の斬撃が幾度も交わる。
 だがこれは騎馬による戦いであり、降りての戦いではない事を彼は忘れていた。
 武人としての圧倒的な実力さと集中のしすぎで、彼の思考能力は落ちていたのだ。


「―――貰った!!」


 もう何度目か判らないすれ違いに終止符が打たれる。

 椛の操る戦斧の刃が淳干の乗っていた馬の首筋を捕らえ、その命を刈り取る。

 命を亡くした軍馬は転倒し、乗っていた淳干もまた地面に放り出され倒れる。

「ふふ……あんたみたいな美人…に殺されるのも悪くない……な」

「私は一撃で勝負をつけるつもりだった……だがもう何度粘られたか判らない
  お前のような武人をここで殺すのは惜しい、我が主殿の下で生きろ、後悔はさせぬ」

 淳干は微笑みながら気絶した。
 それは彼の武人に対する感情は笑いながらの事、そして生きれる事への。 


「こんな実力で無名なんて勿体無いなぁ!」

「生憎だが俺には貧乳女が待ってんでね……死ねねぇんだよ!」


 二本の戟を巧みに操りながら、霞の猛攻を捌き微かな一撃を放つ張袷。
 霞は自分と対等の武人が無名な事を心底驚いていた―――世界は広いと。
 だが負けられぬのはお互いに同じ。


「「勝負ッ!!」」


 右の薙ぎ払いと左の突きによる同時攻撃を、霞は避けた。
 馬から相手へと飛び移り、地面へと叩きつけると言う驚愕の戦術を取ったのだ。
 背中から地面に叩きつけられ首筋に槍の鋭い矛先を添えられている、詰みだった。

「クソッ……わりぃ文醜………飯は届けれそうなねぇ」

 叩きつけられた時に後頭部を軽く打ちつけたのと、痛みで張袷は気絶してしまう。

「うちは殺すつもりなんて元からなかったんやけどなぁ」

 槍を首筋から放して、霞は自分の真っ赤になった手の平を眺めながら言った。
 二本の戟によって真っ赤にされてしまった自分の手の平を眺めながら。


「…………負けたな」


 突然そう言って高覧は手に持っていた槍を恋の方向へと投げ捨てる。
 降伏の意思表示であり、腰に下げていた剣もまた外して投げ捨てた。

「……降参?」

「あぁ、もう皆逃げ切った筈だ……俺じゃあんたには勝てん」

 第三者の戦いは一度も武器を交える事無く終幕を迎えた。
 だが高覧の身体からは冷汗と脂汗が大量に噴出し、彼自身意識は朦朧としていた。

 およそ二十分……彼は恋の覇気に耐え切ったのだ。

 腕力以前に心が弱ければ勝負にすらならなかった勝負に、彼は二十分も耐えた。

「……つまらない」

「なら太公望と試合うことだな……唯一アンタに勝った相手なんだろ」

 恋はその真実を誇らしそうにしながら首を縦に振る。
 最初は負けた真実を嫌っていた彼女も改竄された記憶と太公望の優しさによって、その真実を認めている。
 今では彼を唯一まともに相手できるのは自分だけと誇らしさまで持っているほど。


「負けた負けた……俺達も袁も」


 雨は彼の涙を隠す。
 ただ負けた真実を受け入れて彼は声を押し殺して泣く。

 ―――これが定められた敗北だとしても

 ―――彼は敗北を受け入れて泣く

 ―――敗北と同時に自らの弱さも受け入れて

 雨は全てを覆い隠した。

 そしてここから始まる反撃と袁の崩壊の道筋。

 掲げられた【幽】の軍旗の凱旋。

 定められた予定調和を、戦場は奏でていく。


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■作者からのメッセージ
ボンド様
ご感想ありがとうございます
何だかんだで一刀もメロメロ(?)でしたしね
刃によって負傷、それを全軍の為に懸命に隠していますが……
そして出ました文王・武王!
もうこれで打ち切りです、これ以上は自分が死んでしまいます
多分太公望が女性に手を出した瞬間に世界が一回消えてしまいますね
ヤンデレの歌でサウンドホライズン【Ark】があります
個人的にはお気に入りの歌なので聞いてみてください!

ソウシ様
ご感想ありがとうございます
全ては道標のプロットのままにですね
敵さんで出すよりは味方で出して苦悩する太公望の姿を書きたかったので
味方だけど姿形の所為で何処かぎこちなくなってしまう苦悩を
雪との絡みは袁との決着間際にありますよ
姿形についてと病状についての絡みです
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