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長き刻を生きる 第二十三話『大粛清・過去に捕らわれて・そこに”義”はあるのだろうか?』
作者:大空   2009/02/06(金) 23:56公開   ID:4TeCCZkhrsA

 ―――全軍怯むな!

 袁紹軍との最終決戦はその一声から始まった。
 だが幽州連合の目の前に存在する現実は、既に【袁】の終わりそのものであった。

「内乱だと!?」

 【袁】の旗に集っている兵達が【郭】【岨(岨は当て字)】の元に集っている兵士達と戦っている。
 【郭】は軍師郭図の事を示しており、【岨】は袁のもう一人の軍師岨授(そじゅ)の事を示している。
 この二人は袁紹軍の軍師であり郭図は本陣に、岨授は袁本国に残って防衛戦の指揮をしている筈だった。

「姫様!」
「田爺!」

 老人の筋力とは思えない力で田豊は自身を縛っていた縄を引き千切り、すぐ傍に居た騎兵を引きずり下ろし馬を奪う。
 淳干携は手甲に仕込んでいた短刀で縄を切り裂き、馬を奪うが逃げる為ではなく乱戦の真っ只中へ突っ込んだ田豊を救うため。
 二人の軍馬が連合軍の中から抜け出て、乱戦の真っ只中である袁の軍勢の海に突っ込んでいく。

「ご主人様! 敵軍師田豊と敵将淳干携が脱走しました!」
「それよりもあの内乱のどちらに付くか!」

 ―――姫昌?
 
 ―――何故だ! 何故お主がここに居るのだ!

 ―――何故! 何故! 何故だ!!

 太公望の心は混乱していた。
 突然自身が仕えた二王の内の一人、文王こと姫昌が軍馬に跨り乱戦の真っ只中に消えていったのだから。
 出血によって普段ほどの冷静な判断力は低下しており、事実状は後方でただ眺めておくだけのつもりだったのに。
 
 ―――また死なせてしまう!
 ―――また、何もしてやれずに死なせてしまうのか!


「姫昌ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 既に太公望と言う人間は過去の亡霊に取り付かれていた。
 自らの息子を惨殺され、その息子の肉で作られた料理によって姫昌は拒食症になってしまった。
 そんな彼に対して太公望は料理大会などを開いて、少しでも食べ物を食べて体調を立て直してほしかった。

 なのに自分は彼に対して何も出来なかった。

 日に日に衰弱していく彼を横目に、己の無力さを痛感されながら……新たな王にしてやりたかった男を死なせてしまう。
 そしてそれは計画なんて関係の無い想いを宿して、彼の息子である武王姫発を王にして立ち上がった。

「ご主人様!?」
「全軍! 盟主殿を死なせるな!」
「黄忠軍も全員抜刀! 乱戦を仕掛けるわよ!」

 勢いで合流した黄忠軍の兵士は弓兵が中心であり、既に太公望が乱戦の海に飛び込んで迂闊に矢など撃てない。
 連合軍の大兵力が一斉に抜刀し、内乱で混乱の窮地に立っている袁紹軍に突撃し、戦場は更に混乱する。
 盟主たる太公望が突然の叫びを挙げながらの突撃に、大きな混乱を抱きながら乱戦は激化していく。

「郭図さん、何故ですの! 何故裏切りなど!」

 既に幾人モノ反乱軍の兵士を剣で斬り捨てていた袁紹は返り血に塗れながら、懸命に生存していた。
 そんな彼女の視線の先に居るのは先鋒軍を見捨て、更には配下の兵士達を率いて突如反乱した男、郭図がいる。
 袁紹を本陣で支えていた彼は突然の後退命令を発令し、更には楽成城の占拠に奔り、終いには反乱を起こす。
 決して忠節心がなかった訳ではない……そうでなければ彼は田豊と軍閥争いする筈がなかったのだから。

「あのお方は教えてくださったのだ! 私と岨授こそ、この国に相応しい人物である事に!
  貴様の様な血ばかり誇り己の無能ぶりにも気付かず、まわりに対して失敗を撒き散らす屑などではなく!
  この崇高な知識を持つ私に愚かにも刃向かう田豊も! その田豊に通じていた淳干も居ない!
  使える手駒だったが、淳干の飼い犬と結ばれかねない危険分子の看板娘共も消せた!
  あとは貴様の頸を手土産に太公望や曹操と言った英傑に、この私の知恵を存分に振るわせてやるのだ!」

「裏切るのですの!?」

「振り回されてる事にも気付けない無能な輩に私達の知恵は必要は無いと言う事なんだよぉぉ!」

 郭図の周りの兵士達が一斉に袁紹に襲い掛かる。
 だが袁紹も伊達に名家の当主ではない、凡人よりは剣術は学んでおり、それなりの抵抗は出来る。

 でも所詮は”凡人より少し上”程度の実力である。

 一斉に襲い掛かってくる兵士を同時に相手したり、立て続けに襲い掛かってくる者達の攻撃を凌げはしない。
 槍が掠めて自慢の金色のロール髪の左側を切り落とされてしまい、バサッという音共に金色の髪が地面に落ちる。
 その髪を踏みにじり更に襲い来る反乱兵士の剣をなんとか回避するも、残っていた右側も切り落とされてしまう。

「死ねぇ!」

 前でも手一杯な状況に拍車を掛けるかのように後ろからも襲い掛かってくる兇刃。
 とても彼女程度の実力者が捌ける一撃ではなく、彼女の脳裏に思い出が走馬灯のように駆けて行く。 

 高笑いしている自分に呆れながらもついて来てくれている顔良と文醜。

 直球に物事を申して苛立たせてくるが決して間違った事を言わない田豊。

 元エリートでありながらも決して鼻に掛けたりせずに接してくれた淳干携。

(……もう皆さんはいないなら………死んでも)

 袁紹の中で”戦死”したとばかり思っている人物達との記憶、護られていた自分の姿。
 認めたくなかった……名家に生まれた以上は、その家の名に恥じない才覚を宿さねばならなかったのに。
 宦官程度の娘の曹操との圧倒的な才能の差を知り、本当の天才と言う者達を知って更に認めたくなくなった。

 ―――全てが人並み程度の自分を

 背後から刃が迫ってくる……避けられない。

 ―――認める事が

 ならば最後くらいは潔い最後を……

「諦めんな!」
「姫様!」

 バサッ! と刃が何かを切り裂いた音がした。
 なのに袁紹は生きている……傷など一つもついていない。

「貴様等はまだ邪魔をするか!」

 彼女の視界に映っているのは二人の戦士の見事としか言い表せない”散り様”であった。

「あぁあぁ……ご自慢の金色尽くしが台無しだな」

 背後から襲い掛かって来ていた無数の刃を弾き飛ばし、切り伏せ、その身体全てを盾にして防いだ淳干。
 纏っていた鎧を刃は貫通し、誰がどう見ても『死んだ』と言い表せる程の刃を全身で受けていた。
 貫通した剣が僅かに袁紹の腰の中程まで伸びていたロール髪が、肩ほどまでの長さに短している以外は。
 彼はその刃を防ぎきったのだ。

「この老いぼれ……最後は姫様のお役に……」

 正面からの攻撃を防いだのは田豊だが、その身体は攻撃を逸らす為に両腕は切り落とされている。
 至近距離で放たれていた矢もその老体を持ってして防ぎきり、袁紹には傷一つつけていない。
 そしてそんな猛攻を受けてなお倒れる事無く、怒気を孕んだ眼光で反乱兵士達を威圧し怯えさせていた。

「クソクソクソォ!! 何処までも私の邪魔を!!」

 郭図の周囲にいる兵士達が更に襲いかかろうとするが、一陣の暴風によって阻まれる。
 その影に放たれる矢は放った者達に風によって還され、脳天を貫かれた無様な死体を晒す。
 迫り来る刃達は見えない刃達によって受け止められ、更に驚愕で止まっている身体を悟るよりも早く風が切り刻む。
 虫の息である二人の最後の言葉を聞こうと乱戦の真っ只中であるにも関わらず、その場に座り込む袁紹を護るかのように風は渦巻く。

 あらゆる武器は通らず、強引な突破は身体を引き裂かれ、砂塵を巻き込み小さな竜巻がその場に生まれていた。

「主は……あそこか!」
「ご主人様の風か!」

 既に乱戦は少しずつ終幕へと向いつつあった。
 愛紗を始めとした一騎当千・万夫不当の猛将達の横からの攻勢は、袁紹軍も反乱軍も次々と鎮めていく。
 更に袁紹軍は反乱軍に対しての攻撃を優先している状況に、連合軍も反乱軍を優先して叩いている。
 反乱軍にこれらの猛攻を防ぐだけの力も、目的である袁紹の頸も風によって阻まれているのだ。
 渦巻く風に太公望の場所を特定した連合軍の将官達は、その場に続々と集結していく。 

「良いか袁紹……目的や夢は大きければ大きい程……それに伴う苦労や犠牲も多きなっていく」

「……淳干さん」

「…俺が……お前の盾になったのは自棄だとか………そんな馬鹿な事じゃない
  お前と言う【袁】に生きて欲しいからだぞ? 絶対に忘れるなよ」

 ―――やめろ!

 太公望の心が強く叫び声をあげる。
 朦朧としている視界には……まるであの時の自分を見ているかのような景色が広がっている。

 ―――何故そんなにも似た事を言う!?

 似ておらずとも、既に認識がそう認識し始めていた。


「せめて墓の前で哀れむんじゃなくて……素直に泣いて欲しい」


 太公望の心に亀裂が走る。

 普賢天人と似たような事を……まるで過去の自分に言っているその姿が。
 
「田……お爺さん」

「姫様……どうか生きてください………名家【袁】は貴方がおられる限り不滅
  どこかで静かに暮らし…愛する人を見つけて……子供を持って静かに生きてくだされ」

 この景色が更に太公望の心の亀裂を深くしていく。

 病床に伏した姫昌…最後の言葉を聞き届ける為に集まった自分達。
 あれほど無力な事を痛感させられた時間はきっと―――無かった。

「大丈夫ですわ、私一人の力でも【袁】を支えきってみせますわよ!
  私は……私は袁紹なんですから! 家の一つ支えるのは訳ありませんわ!」

 涙を懸命に堪えながら紡がれる言葉。
 周囲に四散している金色の髪、それはまるで彼女の驕りの化身だったかのような変貌振り。
 髪によって大分感じが変わっているとは言え、虎牢関などの時には匂わせなかった英傑の匂い。

 自らの非才を、臣下の死を目の当たりにして気付いた結果だろうか?

 もし自分が立派に【袁】の当主として相応しい人間だったらと言う後悔の念からか?

 今、太公望の目の前に居る女性は――― 一昔前の太公望そのものだった。


「やれ…やれ……この老いぼれに出来る事はもう……ないようですな」


 ―――心が砕ける

 似ているだけならばきっと耐えられただろう。
 だが目の前の今まさに死体へと変貌した老人の姿を、今の太公望に自身が王にしたいと願った男と重ねない事は出来なかった。
 故に太公望の心は”また”彼を死なせてしまったと……『伏義』などと神を気取っている自分を戒めるのには充分。
 
 ”また”彼を死なせた―――殺した相手への憎しみが深淵の底から解き放たれる。

「太公望さん」
「なんだ」

「仇討ちに……不義の輩に対して裁きのお力を貸してはくれませんか」

 袁紹は土下座して太公望に頼んでいた。
 もし臣下達が見れば絶句間違いなしの景色であろう事は明白。

「……対価はどうするつもりだ」
「私の一生と【袁】全ての領地を」
「何処へ行くつもりだ」
「……一生を対価にしてますから、一生貴方のお傍に」

 袁紹は、全てを投げ打ってでも自分の為に散っていった臣下の為に戦う事を誓った。
 更に自分の”一生”すら対価として払う覚悟を……下手をすれば即極刑が待ち構えているかも知れないのに。

「勝手にせよ」

 二人を戦場から隔てていた竜巻の壁が消える。
 当然二人の姿を見つけた郭図は、もはや周囲の敗北などどうでも良いと壊れてしまっていた。


「ハハハハハハハハハハハハハ!! 老いぼれがぁ! 所詮ゴミ……」


 愛紗達が太公望へと突き出される刃を制すよりも。

 郭図が僅かな手勢に袁紹を”殺せ”と命令を下すよりも。

 ―――この世界の誰よりも速く

 まさに瞬きする間に、屍は築き上げられていた。


「吐け……唆したのは誰だ?」


 郭図の周囲にいた筈の五十人強の兵士達が、肉片へと化している。
 誰かが瞬く間に、たとえ開かれていたとしてもその眼にはただ死体が出来上がる一瞬が見えただけ。

 白い髪を返り血に染め、その身体に人間の臓物を被っている青年は郭図の”両腕”を持っている。

 郭図は噴水のように血を流している自分の肩口を眺めて初めて、その痛みを理解した。

「ウデガァ! ワタジィノウデガァァァ!?!?」

「誰が苦しんでよいなどと言った?」

 腕を無くし、その痛みを理解してしまい苦しんでいる郭図の両足を容赦なく踏み抜く。
 骨が砕け散り、折れ曲がり、歩く事すら不可能になってしまった郭図は更に痛みによって苦しむ。

「吐け、誰が貴様のようなゴミを唆した?」

 青年の問い掛けに郭図は脚まで失ってしまった痛みと苦しみから何も聞えていない様子だった。
 そんな状態の郭図の身体を片足で押さえ、地面に転がっている手頃な戟を一本拾い上げて郭図の腹に突き刺す。

「痛いか? 苦しいか? 唆したのは誰だ?」

「アァァァアノオガダァ! アノオガダガァ!」

 今度は一本の槍を拾い上げ、更に腹に一刺しする。
 その死が確定された拷問に誰もが怯え、乱戦の戦場は静寂に包まれていた。

 ただ一人醜く泣き叫び苦しむ郭図を除けば―――静寂であった。

「あのお方では判らぬ、吐け…誰だ?」

 更にまた別の、今度は剣を拾い上げて更に一刺し。
 良く郭図と言う人間が死なないモノだと感銘を受けるかもしれない。


「ズナイロノロウジン! オゾロジグツメダイメヲジダァ!」


 郭図の首筋に太極図が添えられ。


「もう用は無い――――――魂魄すら残らず死ね」


 風の刃が一閃し、郭図と言う男の頸を胴体から切り離す。
 その顔は苦悶と絶望に彩られており、中々の死に様とも言えよう。

「……ご主人様」
「……主」

 返り血に塗れ一人の人間を惨殺し、冷酷に、されど非道に処刑した青年はそう呼ばれ普段どおりの笑顔を返す。
 血や内臓によって彩られたその笑顔は、目元を流れる返り血によって血涙で泣いているように見える。

「ただ似ているだけなのに……心がそれを肯定しない、肯定できない
  苦しい! この魂魄が引き裂かれんほどに苦しい! 無力に苦しい!
  何一つ護れぬこの無力に、非力に、口先ばかりのこの決意が憎い!」

「……盟主」

 血涙を流しながら心情を語る連合盟主たる太公望。
 呂布を倒し、並外れた軍略を持ち、支配下の土地に笑顔と幸せを生み出すその知恵ですら”無力”と嘆く。

 ―――それは永劫に理解されない彼だけの苦しみ

 ―――力を持ってなお”無力”と嘆くその姿を

 ―――長い年月の間に重ねた決意

「太公望よ、俺にはお前がどんな人生を送ってきたのかは知らないし知りたいとも思わない
  だけど忘れるな、お前が進む事を選んだ道程は”こういう事”が当たり前の世界なんだ
  俺が死のうと、愛紗が死のうと、誰が何時死んでも生きている連中を生かすのがお前の仕事だろ
  自分を憎む余裕があるなら少しでも生かせる方法を探せ、時間が勿体無いだろ」

 太公望の苦しみを否定するかのような左慈の発言。

「これから貴方が行おうとしている事は義勇上がりの我々にとっては”不義”の行いとなるでしょう
  しかし”義”を貫くには時として”不義”を貫く事は必要不可欠なのです、それで誰かが離れていくとしても
  私は貴方が思い描く太平の世の為に傍に居ましょう、私は貴方と言う【闇】に惚れたのですから
  この世の人間に、森羅万象・天地・神々に誓って【闇】を抱えていない人間など存在しないのですから」

 あらかじめ【闇】のような陣営に廻る事を宿命付けられた干吉の太公望と言う【闇】を肯定する発言。

 僅かながら太公望も落ち着きを取り戻す。
 少しずつ袁紹の傍で転がっている死体は、赤の他人と言う事を理解し始めたのだ。

 切り落とした郭図の頸を槍の矛先に突き刺し、それを高らかに掲げて叫ぶ。


「聞け! 袁の勇姿達よ!
  総大将たる袁紹を裏切りと言う”不義”からその命を持って護り抜いた英雄田豊と淳干携!
  ワシはつい先程まで敵対していた者だが、どうかこの二人の”義”を称えさせて欲しい!
  称えよ命を持って護り抜いたその”義”を! 義勇に満ちた二人の英雄の魂魄を弔う決意はあるか!
  何者かと通じ裏切りと言う行為を行った売国奴を、お主等の中にある義勇の心は許すか!?」


 ―――静寂


「この郭図のような売国奴を”不義”の輩を許せぬか!?」


 ―――雄叫び


「許さぬか!?」


 ―――咆哮


「”義”を貫く為にその手を”不義”に染め上げる覚悟はあるか!?」


 ――― 一斉に掲げられる武器達


「ワシが行うのは虐殺……義勇を心を一刻の間捨てて不義の輩に堕ちる
  仕える価値がないと思ったならば、非道の輩と謗るならば何処へなりと行け
  咎めはせぬ――――――私怨からもたらされる戦に皆を巻き込みたくは無い」


 太公望達は愛紗達から眼を逸らす事無くそう言う。
 義勇上がりの兵士や愛紗や星のような義に生きる将官に、これから行われる事はきっと許せないだろう。
 だからこそ、そんな主人を見限り軍を去るのは上に立つべき人物の人望が掛けているからなのだ。

 それを太公望は責めたりしない…責めれる筈がない。

「私は……麗羽(れいは)は、貴方様に一生を捧げると誓いました
  なら私は貴方様が何処へ行こうとついて行く覚悟がありますわよ」


 ”一生を捧げる”


 その一言に乙女達は一斉に反応する。

「一生だと! なら私は来世までご主人様に忠義を尽くすまでだ!」

「鈴々もずっとずっと望兄ちゃんと一緒なのだ!」

「ご主人様にはまだまだ勉強を教えていただく必要があります!」

「ふっ一生か、仕えるに値する御仁なのですよ主は」

「璃々を救ってくださった恩義は一生忘れませんよ」

「あっアタシは父上から同盟関係として一応…な」

「なら私も同盟としてのその……えっと…ぁぁもう!」

「ついていく」

「望ちんには大きな借りがあるし! 嫌って言ってもついて行くで!」

「居心地の良い場所を無くすのはもう嫌なんですからな」

「勘違いしないでよ! 全部月の為なんだら、アンタの為じゃないからね!」

 全員が『付いて行く』

「俺も行くぞ、汚れるのはお手の物だ」

「私もどちらかと言えば暗部が主体ですしね」

「この陳到は太公望様の決意と共に!」

「娘婿殿にはしっかりと孫を頼まねばならぬからな」

「盟主殿一人汚しては同盟にはなるまい」

 同盟関係を始めとした漢達も同様に。


「ならば往くぞ! 残る不義の売国奴たる岨授を討つ為に!」


 太公望を先頭にした【幽州連合】


「これより私達は太公望様に続きますわよ! ただし岨授の頸は我々の手で!」


 人の変わった袁紹に続く袁紹軍生き残り部隊。
 されどその部隊の数は一万万にもおよぶ生き残りであり、その先陣を駆るのは袁紹。

「田爺さんの仇は取らせて貰う……行くぞ猪々子!」

「田爺の仇とアタイ等を捨てた恨みはきっちり払う!」

「本国にも反乱に立ち向かっている仲間がいる、それを救う為に戦う!」

「高覧さん、お供しますよ」

 無事袁紹と再会し、彼女の後ろに続く四人の武将。



「義を貫く為に、不義に手を染めん!」



 袁紹軍を形ながらに取り込んだ【幽州連合】は、袁本国であり都へと侵攻を開始する。
 都近辺では岨授が反乱を起こすも、袁紹に対しての忠義や街を護る事に対する意志に満ちた反抗が相次ぐ。
 元々岨授も決して人望を持つ方ではなく、優勢に転がりきれず、更には協力者である郭図の戦死の報。
 それによって士気が著しく減衰した反乱軍に対して、袁紹が郭図を打ち倒し帰還する報によって士気高揚。
 
「何故です、何故あの人は現れてくれない! 老人! 南華様!」

「裏切り者岨授、覚悟!」

 反乱の失敗により、岨授は死亡。
 【幽州連合】に対しても袁紹の口から事の仔細が話され、無血開城が成立。


 そして後に語られる【不義の大粛清】と呼ばれる事件が起きる。


「何故です! 私達は何も知りません!」
「助けて、死にたくない」
「無関係なんだ! 頼む、命だけは!」


 反乱軍の兵士の末端、首謀者たる郭図と岨授の一族郎党に至るまでを捕縛。


「怨むならばこうなった原因の者達を怨む事よ……殺(や)れ」


 全員が一律して斬首刑に処せられると言う、義を軽んじた者に対する冷酷なまでの処罰。
 その頸と胴体の数は数千にもおよび、処刑の為に作られた穴を埋め尽くしたとも言われるほどの粛清。
 これによって連合軍内部でも義などの心を軽んずる者達が減り、兵士同士の衝突も少なくなっていった。

「……愛紗」

「なんですか?」

「義とは……難しいの」

「………はい」

 袁紹軍は大将袁紹の口より完全降伏が告げられ、袁幽の大決戦は不義の者による横槍によって終幕を迎えた。

 真の首謀者と思われる砂色の髪の老人の行方は知れぬままに……



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「……悲劇・喜劇にしては三流と言った所ですね」

「これでまた一歩……故郷への道が進んだ、期待しているぞ南華よ」

 玉座に腰掛、佇む女。
 その女の細い手に頬をなぞられる一人の老人。


(今はそうしているが良い女禍……全ては我が手の平の上)


 偽りの忠義を被り、老人はただほくそ笑むのみ。

 目的の達成に女は、妖艶に微笑むのみ。

 そして悲劇と喜劇の歴史は繰り広げられていく。



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■作者からのメッセージ
ソウシ様
ご感想ありがとうございます
結果としてあくまで即戦力と言うだけでした
それに大将vs一将校では一騎打ちは成立しづらいです
とにかく眼を引く為に総大将同士による一騎打ちでした
戦死者は袁の田豊と淳干携の二名
その義に生きた散り様が袁紹を成長させました

ボンド様
ご感想ありがとうございます
袁と言う国は終わりを迎えましたが、袁の血筋は断たれていません
総大将同士による一騎打ち、それが一番成立しやすいですしね
それに太公望の風ならば黄忠の弓を最悪無力化できますから
あまりネタバレさせると味が薄れてしまいますしね…避けないと
一時的な崩壊の原因は文王似の田豊の死と淳干携の死に様の酷似によるもの
それの餌食は郭図さん、五体を破壊され、まともに喋る事すら出来ずに死にました

しばらく更新が出来ないと思います
理由は自動車学校と姉の帰省によるパソコンの独占不可です
これを気に残っている大学へのレポートの書き上げなどをする事にします

あと何故か七千近くあった二話と四話の閲覧数のリセット
まぁ別にどうでも良い事なんですけど、中身も無事みたいですし
久々に平穏編の話が掛けそうで嬉しいです……描写が楽ですし
ギャグが入れられる貴重な話ですから……
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