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長き刻を生きる 第二十五話『呉国訪問と交わされる杯の契り』
作者:大空   2009/02/14(土) 16:46公開   ID:4TeCCZkhrsA

 冀州は太公望とその元に集う能臣達の手によって安定していた。
 低税によって民衆は苦しむ事無く、少しずつ異民族に対する警戒も解けている。
 仕事もなく苦しむ者達に率先して田畑の開墾の仕事を与え、兵士の九割が志願兵と言う割合。
 強制徴兵もなく、緊急徴税もなく、治安も落ち着き、地方の腐敗の掃除されつくしていた。

 ―――呉国の軍師周喩にはそれが面白くなかった。

(なんなのこの化物は!?)

 僅か三ヶ月で戦後処理を完遂させ、冀州を完全に安定させてしまったのだ。
 袁紹の統治能力が低かったとは言え、本来ならば侵略者と新しい統治者は嫌われる筈なのだ。

 だが太公望とその能臣達は今や完全に迎え入れられている。

 時代を先読みしたかのような法律・税制の成立・形成されていく軍隊。
 更に歴代の皇帝ですら出来なかった”異民族”との完全融和政策を成功させている事。
 既に呉国内部でも太公望を慕う者達の声が色濃くなり、自らの派閥内部でも同盟を認める声もチラホラ。

「……周喩様、太公望を討つのにはもう大義の作りようが……」

「黙れ! 我等の王を呪い殺したかも知れない人物を野放しにしろと!?」

 旧孫策派が一番困っている事は【大義名分】の作り辛さだった。
 現在の王である孫権がしっかりと太公望との同盟の利点を説いているのも追い討ち。


 1.太公望達の幽州連合との同盟は魏国に対する牽制になる
 2.民意も同盟に傾きつつある今、同盟を結ばない手はない
 3.脅威である異民族を味方に引き込める強大な利点 など


 と言った具合に書き上げられた書類。
 ここは防衛に長けた孫権の才覚の発揮であり、周喩も無闇に反論は出来ない。
 呉国だけで魏国に勝てるか? と問われると周喩自身も勝てる! とは言えない現実。

 現実は旧孫策派の居場所を奪いつつあったのだ。

「確たる証拠もなくその様な事を言われては!」
「貴様も孫権派に寝返るのか!?」
「たとえ彼らを討ち滅ぼして、蛮族達が黙っているとでもお思いですか!」

 人間……都合が悪くなれば鞍替えする者である。

 決して周喩の人望が無い訳では無い、彼女は呉国の軍師のトップに立っている人間である。
 孫策存命中はあらゆるモノを払い捨ててでも国を大きくしていく王の左腕として君臨していたのだ。
 その能力を疑う者は国には居ないが、それでも現実は居場所を奪いつつあった。


「……私怨で国を滅ぼすつもりか冥琳」


 その声に周喩こと真名を冥琳と周囲の旧孫策派は背筋を振るわせる。
 中立派の長として君臨し、呉国の要と呼んでも過言ではない太史慈がそこに居るのだから。

「史慈か……貴方も私を見捨てるのかしら?」
「俺は彼女からお前も含めて世話を頼まれたんだ、見捨てれないさ」

 周喩は孫策の頭脳であり女として

 太史慈は孫策の弓であり男として

 両者の間には同じ人を想う気持ちはあれど、相容れない想いもまたある。


「蓮華には悪いが俺は呉なんてどうでも良い……俺は皆を護れればそれでな」
「だから中立派を作り出して私達の行動を邪魔してきた訳ね」
「一歩間違えばお前達の頸が飛ぶ報告を揉み消してきたのもな」


 どちらにも組しない中立ではない。
 太史慈は結果として悪いと判っていても両者に組して程良く勢力を調整していた。
 無論、それは陸遜のような智将の協力や彼自身の重臣としての能力が可能とさせた調和である。

「……もう少ししたら太公望ご一行が到着するな」

 太史慈は冥琳の横を通り過ぎていく。
 周喩の周囲を取り巻く者達は懐に隠している剣の柄に手を添えてはいたが、抜けなかった。
 呉の弓将として君臨する太史慈を相手に切り結んだとして、無事で居られる保証など存在しない。

 それどころか旧孫策派が一斉に粛清される大義名分を与えてしまう。

 故に誰も刃を使う事など出来なかった。

(雪蓮……間違っているのは私達なの?)

 居場所を無くしつつある現状に嘆いた言葉。
 それでも強すぎる忠節は認める事を許しはしなかった。



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 呉国の都である建業(けんぎょう)は栄えている。
 大国の都と言う事もあり物流に富み、品揃えも豊富である。
 更に海の向こうの国や水脈を利用したしっかりとした品揃えを実現させていた。

(海の向こうは卑弥呼か……)

 太公望は自らの知る歴史の文献を思い出して海の向こうの国の情勢を考えていた。
 だがこの世界は根幹から異なる世界であり、海の向こうが必ずしも自分の知る国ではない事を思い出す。

(役に立たぬ知識だのぉ)

 既に太公望の知識はこの世界では通じない部分が、大半を占めつつあった。
 自らの歴史では成功した法律も、こちらでは迎え入れられなかった事件もあった。
 だから役に立たない”神”の知識に失笑してしまう始末。

「何処か笑顔の固い国ですね」
「少し法の締め付けが厳しいんだよ」
「張りすぎた弦が切れてしまわない事を願うばかりだな」

 同盟会議にやってきている太公望ご一行。
 面子は太公望・朱里・愛紗・左慈・干吉の太公望軍の主権者達である。
 全権長・内政長・左将軍・右将軍・暗部長と言った順であり、これほどの面々が来ているのだ。

「あれは姫様だ」
「同盟の為に向こうに行っていたと言う噂は本当だったんだ」
「となると先頭の若者が盟主太公望殿になるのか?」
「なんと凛々しいお方よ」
「脇を固めているお方達も魅力に溢れるお方ばかり」

 太公望の馬に並列して歩いている白虎に跨っているシャオの存在感は抜群である。
 伊達に姫君として君臨している訳ではなく、民には笑顔で答えていた。
 無論太公望を始めとした面々も非常に目立つ存在であり、民衆の眼は今や釘付けであった。

「姫様、良くお帰りになりました」
「皆も出迎えご苦労様、この人が太公望でシャオのお婿さんだよ」

 その場の空気がグンと冷え込む。

(またかよ…この姫さんは)
(でも冷汗をかく太公望様……いえ、伏義様のお顔はなんとも)

 既に左慈・干吉・貂蝉は太公望の真名を知ってしまった。
 以後、時折四人集まっては『道標』こと『女禍』との関係の話をしている。
 それはこの世界の真実と敵の真実を知るたった四人の作戦会議てもあった。

「安心せよ、孫尚香殿が一人勝手に言っているだけだ」
「まだご主人様は抱いたりしてませんから安心してくださいね」

 怖い笑顔で迎えの兵士達を牽制する女傑二人。

「貴方様も苦労しているのですね……」
「お主もか?」
「妻が恐ろしい事……」

 迎えの兵士代表が耳元でそっと呟いた言葉に、太公望は頷く。
 なにせシャオがこの発言をする度に女の冷気がぶつかり合うのだから。
 しかも太公望はそのど真中……逃げようがないのだから性質の悪い。

「姫様も身体に悪いご冗談はよしてください」
「ごめんごめん!」

(冗談で言ってるつもりはないけどね)

 気さくに兵士に謝り、兵士達に先導される形で面々は宮廷へと導かれる。
 壮大にして寛大な造りとは言い過ぎかもしれないが、大国の者に相応しい大きさ。
 一級の彫刻や家財道具、丁寧な設計が見て取れる屋敷であり宮廷であった。

「では姫様…この先で王がお待ちです」
「ご苦労様」

「また今度来る際は酒でも飲み交わそうではないか」
「かの太公望の酒とは……恐悦至極です」

 そうして謁見の間を前に兵士達は四散していく。

「きっ緊張します!」
「堂々としておれば良い、まぁ相手の出方しだいでは少々手荒になるやも知れぬが」

 普段の温厚な一面ではなく、冷徹な軍師としての一面で謁見の間に入る。
 玉座に腰掛けている孫権の視線と両脇に並ぶ文武百官の視線に動じる事は無い。

 自分達は降伏しに来た訳ではない、対等な立場として来ているのだ。

 むしろ太公望の視線が百官の視線を押し返し、視線を黙らせていく。

「良く来てくれたな」

「こちらの国の情勢は把握しているつもりでの」

 愛紗達は膝を折るが、太公望は膝を折る事無く立ったまま玉座に腰掛けている孫権と視線を合わす。

「太公望! 王の御前で無礼であろう!」

 百官の誰かがそう叫ぶ。


「ワシは”同盟”を結びに来た対等者としてここにおる、膝を折る事は認めれぬ」


 もしここで太公望が膝を折れば、それは自分が孫権より下である事を認めてしまう。
 あくまで”対等な同盟”を結びに来た人間であり盟主として、その行為は許されない。

 ましてや自分が膝を折れば連合全てが孫権より下 と認められかねない。

 それは決して許されない……今の太公望は馬騰や劉虞も背負っているのだから。

「貴様ッ!」

 その者の手が剣の柄に添えらた瞬間に、愛紗達も戦闘体勢に突入するが……


「無礼は貴様だ愚か者! 盟友であり我が妹が夫と認めた者に剣を振るうかッ!」


 その言葉にその者は周囲によって取り押さえられ、この場から強制退場させられてしまう。

「……和解は出来ているようだな」

「文通の件は感謝している、良い話ばかりで少し困ったがな」

 ほんの少しだか女の子であり姉としての一面を見せる孫権。
 太公望の雰囲気も少し温厚な一面を見せ、愛紗達にも安心するように指示しておく。

 公孫賛の発案によって始められたシャオと孫権の仲直り文通計画(直球)。

 言葉では巧く言えない事も文体にすれば出来るモノと言う、本人談により始められた文通。
 シャオもさらさらと文字を嗜んでは、早馬に頼んで手紙代わりの書簡を孫権の下に送る。


『お姉ちゃんへ
  シャオはとても元気にしてます…太公望の所は皆笑顔で毎日が騒動みたいで楽しいです
  それと太公望…望とその二人の道士は絶対に姉様を殺すような人じゃない
  望は私のお婿さんだよ、優しくて強くて文武両道で盟主に相応しい人だし、蛮族の信頼も凄いよ
  左慈はぶっきら棒だけど何だかんだで世話を焼いてくれるし、姫じゃない私に接してくれる人だよ
  干吉さんは面白い人で、結構お茶目な人だと思うし進んで裏方の仕事してるみたい
  勝手に出て行った事はごめんなさい……それと史慈兄様を怒らないで私が無理言ったから』


 始まりはこんな感じで、二人は文通を始めた。
 謝ることから、お互いの現状を語らい、身の上話など取り留めの無い話。

 太史慈もこれを見ており、二人してシャオの文章に苦笑していたりした。

 周喩は必要ないと吐き捨てて見る事は決してなく、周喩に対して書かれた物は泣いていた。

「では双方納得した上での同盟を結ぶ……陸遜」

 孫権の言葉で陸遜が一歩前へと踏み出し、同盟内容を述べていく。
 太史慈は自分にほんの少しの間だけ向けられていた視線に不思議がりながらも、同盟内容を聞いていく。

(陽蝉(ようぜん:陽蝉は双方当て字)……いや、あれも似ているだけだ)

 太公望は太史慈に自身の友の一人を重ねながらも、すぐに影を引き離す。
 影を重ねる行為の重さを…袁との戦いで実感させられたから。
 もし彼が敵に回り、討てなくなって味方の誰かが死ぬような行為は避けねばならぬからこそ。

 優しいから戦わせれない…殺さないなんて行為が味方にどれ程の迷惑を掛けるか。

 それを歴史の影に見てきた太公望は、もう影が重なろうと狼狽しない事を心に誓っていた。


「説明した以下の内容を双方認め、違えぬ事を誓えるならここに血印を……」


 同盟内容の口上が終了し、陸遜の手に広げられている巻物に血印の催促が来る。


「我等幽州連合はこの内容に同意し、この契りを違えぬ事をこの血に誓う」


 馬騰や劉虞には既に了承を頂いている。
 文通のやり取りの中に双方の同盟に関する話し合いも含まれており、内容は把握済み。
 無論、この場に居ない馬騰と劉虞が不利や不利益になる同盟内容は却下ならびに拒否してある。
 手袋を外し、傷だらけの手を晒しながら親指の腹を少しだけ切る。
 血を延ばしして紙に血印を押し、陸遜はそのまま書物を広げたまま孫権の方へ持っていく。


「孫家の血に誓い、この同盟が永久なる物にならん事を切に願う」


 孫権も同様に血印を押す。

 ここに【幽呉同盟】が成立する。

 呉王孫権と盟主太公望および盟友馬騰・劉虞は対等の立場として君臨し、手を取り合い永劫の平和を願う。

 永劫の刻を生きた神である伏義との同盟……それを知る者は一握りの歴史の走狗のみ。

「今宵はこちらに泊まり旅の疲れを癒して欲しい」

「それには賛成させて貰う…なにぶん忙しい三ヶ月だったからのぉ」

 先程までの冷たい雰囲気を纏う太公望ではなく、優しくて暖かい雰囲気を宿した太公望になる。
 雰囲気の一片もさる事ながら、威風堂々と君臨し最後まで膝を折らなかったその心の強さ。
 文武百官達もまた、太公望の強さの一片を知ると同時に亡き先王の影を見出していた。

(……これで更に私達の居場所は無くなった)

 微笑む者達の影に、苦笑を浮かべる者達。
 今宵は簡単な宴が開かれ太公望は恋達を連れてこなくて良かったと一安心していた。



==============================================



 宴も終わり、一段落して部屋で一休みしている一行。
 ベベレゲに酔い潰れた愛紗と朱里を寝かし、左慈と干吉は二人の護衛として別室に待機。
 残った太公望は一人部屋で残った酒と杯を片手に興じていたが……


「望…入って良い?」

「シャオか、入って良いぞ」

 夜遅くに女性が男性の部屋に入るのはかなりマズイのだが、太公望は許可した。
 その後ろにいる三人の気配を悟っての了承なのだから。

「……失礼するぞ」
「孫権か……後ろにおる二人も入れば良い」

 孫権が驚いて振り返ると、後ろから一人の女性と太史慈が入ってくる。
 ……気付いていた事に驚いたのだろう、女性は武人の目で太公望を見ている。

「紫色の髪に鍛え上げられた武人の立ち振る舞い…文に知る甘寧とはお主か」
「あぁ彼女が私の側近の甘寧だが…良く判ったな」
「こんな時間帯の訪問に警戒している所為で気配を隠し切れておらん…心が燃えすぎておるな」

 冷たい軍師の眼と言葉が、沈黙している甘寧に切りかかる。
 殺気の一つでも放たれているのでは警戒を解く訳にもいかず、冷たい眼が交わり続ける。

 そんな夜と同じ静寂と冷気を振り払うのは太史慈。

「甘寧、殺気を納めろ……殺されるぞ」
「……思春(ししゅん)」

 主である孫権の命で殺気を納めるが、片手には今だ剣が握り締められている。

「そちらも文に知る太史慈か…弓将らしい眼をしておる」
「蓮華やシャオから良く話を聞いていますよ太公望殿」

 弓こそ持っていないが、細められている眼は相手を射抜く矢そのもの。
 温厚な一面に切り替わってノラリクラリとその視線を回避する太公望は、酒を杯に注ぐ。

「まぁ我が盟友孫権よ…妹共々いかなる用件で?」
「いや、少し二人っきりで話がしたくてな」
「お姉ちゃん……望は私のお婿さんだよ」

 甘寧が部屋の外に出払い、シャオは太史慈に連れられて部屋へと戻っていく。
 孫権も椅子に腰掛け、酒が注がれていた杯を手に取り酒を飲む。

「太公望は……怖くないのか?」

 空になった杯を太公望に返し、太公望が受け取ると酒を注ぐ。
 先程の酒の礼と言った所てある。


「私は時折怖くなる……王として自らは才覚が相応しいのか……徒労ではないか
  臣下達の争いを止めきれない現実に…和解できない自分に苛立つんだ
  シャオとは、文通であんなに簡単に和解できてたった一人の家族を取り戻せたのに
  たった一人の臣下との和解が全然出来ない……私は彼女を納得させれる王にはなれない」


 太公望が透明な酒に写る自分の顔を眺める。

「ワシは軍師であり…一国を束ねる王になって…背負う者が多くなって怖いと思った
  振り返れば友や仲間だけではなく、民・兵士達もまたワシの背中を信じて付いてくる
  自分はそれらを背負うだけの”背中”を持っておるのか……不安で押し潰れそうになる」

 注がれた酒を一飲みし、杯を孫権に返して酒を注ぐ。

「だが選んだ道ならばどんなに苦しくとも進むことしか出来ない…引き返せぬ道ならばなおの事
  不安に押し潰されそうになった時は、誰でもない自分自身を信じてやるのだ」

 ―――お前は大丈夫だと

 ―――お前は出来るんだと


「つまり自分の信じる自分を信じる事……理想の自分を追いかける事かのぉ」


 今度は孫権が杯に写る自分を見つめる。


「私の理想の私は……姉様にも負けない立派な王の自分なの…か?」

「自分だけで届かないと思ったならば手を借りれば良い……強者ほど人の手を借りる者だ」


 孫権が杯の酒を飲み干して、また太公望に返しては注ぐ。

「お前ほどの名君が人の手を?」
「良くサボるからのぉ」

「最低だな」

 即座に言われた言葉に太公望は苦笑してしまう。
 一度杯を机に置き、何処か遠くを見ているような眼をする。

「孫権よ…影に捕らわれるな、影は一種の闇に等しく人によっては脅威そのものと化す
  先王孫策の事は良く知らぬが……お主は孫権であり孫策ではない…お主は孫策を超えておる」

「私は姉様の足下にも」

「今の国を支えておるのは誰だ? 孫権と言う王であり、ほんの少し責任感の強い女子でしかない
  お主はたとえ強すぎても民を第一に考え、臆病と謗られてもしっかりと国を護る難攻の盾なのだ
  その王に民は続きたいと願い、王であって欲しいと願っておるのを……見捨てるの馬鹿でもあるまい
  もう少し力を抜いて自分を信じてみると良い―――それでお主は孫策ではない誇り高き王になれる」

 聞き惚れるような軍師として・同じ王しての独自の見解を語る。
 孫策ではない王……孫策はこの世でただ一人の人であり、孫権もまた一人。
 
 だから他人は他人になれない…盾はどう努力しても剣にはなれないからこそ。 

 盾である自分を信じて、盾である自分を見捨てるなと。

 孫権の頬が赤く染まる。


「やれやれ…文ではあんなにも女子らしいと言うのに……」


 ボッ! と孫権の顔が真っ赤になる。

「まっまさかシャオ!」

「実の姉からの文章を良く見せてくれてのう、胸で困っておるとか女の子らしい衣服についてだとか……」

 真っ赤になって狼狽する孫権を太公望は微笑みながら見る。

 ―――そういう状態が歳相応の反応とでも言うかのように

「……さてもう夜も遅い」

「あっあぁそうだな、夜遅くまですまなかったな」

 狼狽していた孫権はその言葉を助かったとばかりに受け取って王としての一面を懸命に取り繕う。
 だが顔はまだ赤いままで、懸命に冷静な王を取り繕っている。

「また酒を飲み交わそう…お互い未熟な王して話がしたい」

「次に飲み交わす際にはぜひとも二つの杯で飲み交わそう…共に理想を語る為に」

 お互いふっ、と笑って別れを告げる。
 孫権が部屋を出ると甘寧が何事も無かったかのように傍について共に歩いていく。


「―――未熟な王か……今のこの杯のようだな」


 まだ酒が注がれていた杯が音をたてて砕けた。
 いつ砕け散ってもおかしくない未熟で弱い杯(王)を支えているのは…すぐ傍の何か。

 ―――ではその何かとはなんなのか?

 ―――砕け散った今となっては何が要なのか判る良しも無く

 ―――零れ落ちた酒は流れ消えていく


 太公望の部屋から出て少しして廊下での事だった。

「蓮華様……一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

 孫権の真名蓮華で呼ぶ思春。
 二人はそういった信頼関係であり、決して引き裂かれぬ信頼を持っている。

「太公望とは一つの杯で飲みあいを行っていたのですか?」

 その言葉に蓮華の思考が回転を始めた。

 ―――次は”二つ”の杯で

(確かに自分は一つの杯で飲みかわ………あぁ!?!?)

 また蓮華の顔が真っ赤になってしまう。
 甘寧は失言してしまった事を後悔してしまうが、同時に嬉しく思った。


「どっどうしよう! 私……太公望と間接だけど………」


 事に気付いた蓮華は王としての言葉遣いではなく、一介の女の子の口調に戻っている。
 だが近頃、王としての一面ばかりで見る事のなかった女の子としての一面。

 それを取り戻したのは誰でもない太公望と言う盟友。

(予想以上のお方だったな)

 部屋の外であのやり取りを聞いていた思春は、少しだけ太公望に対する態度を改める事を決意する。
 噛み付きかねない犬ではなく……主の友でもある一人の護衛として接する事を。

「どうしよう…顔の熱さが引かない……太公望…望……か」

 蓮華はまだ気付かない。

 その顔の熱さと自分の中で生まれた太公望に対する一つの感情を。

 そして自分の中で大きなシコリとなっていた事柄が解かれてしまっていた事も。


 ―――戻れぬ道が始まった事も


 今は気づかない。


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■作者からのメッセージ
 ソウシ様
 ご感想ありがとうございます
 サボらせてあげたいんですが、少しオーバーヒート気味の姿を書きたかったので
 だって華雄は原作は出番皆無じゃないですか!
 本当なら孫堅軍をボコボコにして連合軍も危なくさせた英雄なのに!
 とにかくギャクキャラとしていて欲しい彼女に独創性を出す為のネタ
 書いててこれは酷いと少し思ってしまいました
 ハゲにはされませんよ…立派な女性ですから……スタイルは良いですしね
 彼女に対する乾杯ありがとうございます

 ボンド様
 ご感想ありがとうございます
 しまった! 雪の見解が甘かったですね
 華雄さんは今だ真名なしの出番皆無者……酷いぜ
 統率力や個人武技は中々のモノで、孫堅軍ボッコボコなのに
 むしろ袁紹はあの性格を素で生かしていく方が多いですかね
 髪がまたドリルになるのは一体何時の日なのでしょうかね
 オレンジはいけませんね……オレンジ=ゴットバルトが飛んできますね
 アドバイスありがとうありがとうございます
 でもヨウゼンはどうすれば良いのでしょうか……全然出ない
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