作者:193
2009/03/06(金) 11:14公開
ID:4Sv5khNiT3.
「……ジェイル・スカリエッティ?」
「ええ。ADAMは彼をレリック事件の重要参考人として考えているようです」
プレシアとリニスは、ホテルのレストランと思しき場所で食事を取りながら、そんな話を交わしていた。
先日の列車強盗事件。そこで発見された新型ガジェットの残骸を回収したADAMの研究班は、その残骸の中から犯人の者と思われる手掛かりを発見していた。
製作者名を表す金色のタグに『ジェイル・スカリエッティ』の文字。ミスリード狙いなのか、他に何か意図があってのことなのか分からない。
しかし、その中枢に動力の一部として填められていたロストロギア――『ジュエル・シード』の存在。
現在はメタ=リカーナと管理局で厳重に保管されているはずのジュエル・シードが、新型のガジェットに使われていたと言う事実だけでも見過ごせる話ではない。
ガジェットを作った技術者がスカリエッティかどうかは兎も角として、少なくとも相手はロストロギアを兵器として転用できるほどの技術力を有していると言うことになる。
「ジュエルシードね。でも、あれはメタ=リカーナで厳重に保管されていたはずよね?」
「以前に証拠品の一部として管理局に手渡した物のようです」
そのシリアルナンバーからも、それは以前、メタ=リカーナが証拠品として管理局に手渡した物だと言うことが判明していた。
管理局は今回のことを「地方の施設に貸し出していた物を奪われた」と回答。
しかし、その杜撰な管理体制については何一つ言及することはなかった。事実上のコメントを避けていたとも言える。
自分たちで危険な物だとあれほど言っておきながら、本来は厳重に封印して隔離すべき危険ロストロギアを、外部の研究施設に貸し出したばかりか、奪われるなど――
そんなことを思ってはいても、今回のことで管理局が非を認め、責任を果たすとは思えない。
その施設や研究員にすべての責任を押し付けてでも、言い逃れしようとするだろう。そのことは地球側も分かっていた。
あれから十年。何一つ、管理局のやり方は変わっていない。
プレシアも、そのことが分かっているのだろう。
皮肉めいた笑い顔で、「相も変わらずマヌケな組織ね」と管理局を卑下して見せた。
「しかし、プレシア。いいのですか?」
「何が?」
「ジェイル・スカリエッティのことです。彼はフェイトの――」
「関係ないわ。確かに彼の研究がなければ、フェイトは生まれてくることがなかった。
でも、あの子を生んだのは確かにわたしよ。あの子の母親は、わたしただ一人――」
リニスの危惧していることは、プレシアにも分かっていた。
しかし、プレシアはそんなリニスの話に耳を傾けながらも、表情を変えず、黙々と目の前の豪華なホテルの食事に舌鼓を打つ。
誰がなんと言おうと、フェイトがアリシアの妹であり、プレシアの娘であることに変わりはない。
生命研究の基礎――プロジェクトF(フェイト)を組み上げた稀代の天才技術者ジェイル・スカリエッティ。
確かに彼の考えたこの研究がなければ、プロジェクトFが完成されることはなく、フェイトが生まれてくることはなかっただろう。
しかし、それでもフェイトは、実験体でも、忌むべき子でもない。
この世に生を受けて誕生してきた。テスタロッサの名を持つ、プレシアの大切な愛娘だ。
それだけはプレシアも――決して譲るつもりはなかった。
「彼の“正体”がなんであれ、わたしにはすでに関係ない。もちろん、過去のことをなかったことにするつもりはないわ。
でも、生命研究やアルハザードのことも、アリシアとフェイトがいる今、わたしにとって無用の長物以外のなんでもない」
「その口振りからすると、やはりスカリエッティはアルハザードの……」
「開発コード名『アンリミテッドデザイア』――管理局内部でも余り知る者はいない極秘事項よ。
リニス、あなたの想像通りの男だと思って間違いないわね」
その瞬間、プレシアの感情に呼応するかのように、手にしていた肉が燃え、消し炭と化した。
誰もが夢、幻だと語る伝説の世界アルハザード。プレシアが、そのアルハザードの存在を確信するに至った背景には、スカリエッティの存在があった。
その開発コードが示す『無限の欲望』を意味する名。プレシアが管理局を警戒し、忌み嫌うもう一つの理由でもある。
「レアは好きじゃないのよね」
「でも……これじゃ、食べられませんよ?」
完全に炭化した肉の塊を見て、リニスは苦笑を漏らす。
ずっと不思議だったこと――なんの確証もなく、プレシアがアルハザードなどと言う不確かな物に縋(すが)ろうとしたはずがない。
彼女はどれだけ狂っていても、誰もが認める大魔導師であり、天才技術者だ。
その彼女が何の根拠もない幻想に縋ったなどと、リニスには信じられなかった。
しかし、スカリエッティのことを知れば知るほど――
プレシアの話が本当だと仮定すれば、彼の正体も、プレシアがアルハザードの存在を確信するに至った経緯も、容易に想像がつく。
「あの子達を狙ってくるのなら、わたしの取るべき道は決まってるわ」
「プレシア。わたしたち――ですよ?」
リニスのその回答に目を点にして驚きながらも、「そうだったわね」とプレシアは笑みを溢した。
スカリエッティが何を企んでいようと関係ない。
自分たちの取るべき道は、今も昔も、何一つ変わっていないのだから――
大切な家族を守るため――
愛する人と共にあるため――
それがプレシアとリニス、二人の“答え”だった。
次元を超えし魔人 第42話『ミステイク』(STS編)
作者 193
「なんで、アリサちゃんが……」
「あれ? 知らなかったの? ここは今、うちの傘下なのよ」
任務で『ホテル・アグスタ』に訪れた、なのはとフェイトの二人を待っていたのは、良く見知った二人の親友アリサ・バニングス。
そんなアリサの返事に驚き、慌ててホテルの案内に目を通すなのはとフェイト。そこには確かに『バニングスグループ』の文字が記されてた。
ホテル・アグスタと言えば、ミッドチルダでも有数の一流ホテルだ。
確かにバニングス社が、管理世界でも手広く勢力を拡大していることは二人も聞き及んでいた。
しかし、まさかこんなミッドチルダを代表するような一流ホテルにまで、その手が及んでいるとは夢にも思わなかった。
アリサの登場に驚く二人だったが、そう考えると今回の任務についてもある程度の納得が行く。
二人が受けた任務は、アグスタで今日行われる“骨董オークション”の会場警備と人員警護。
名目上は、取引が認可されている遺失物の反応をレリックと誤認して、ガジェットが現れる可能性が高いため――
と言うことだったが、ここにアリサがいる以上、他にも理由があるのは間違いない。
バニングス社と言えば、今ではバスタードだけでなく、管理局、それに聖王教会にも多額の寄付を納めている企業だ。
ここ管理世界に置いても、バニングスの名は決して軽視出来ない存在へと成り上がっている。
ADAMの予算が優遇されている背景には、このバニングスの後ろ盾があってこそと言う裏事情もあった。
そのことからも、今回のオークションにバニングス社が関与しているとなれば、その警護にADAMが借り出された理由と言うのも容易に想像がつく。
「そう言えば、はやては?」
「はやてちゃんは会場警備のことについて、責任者の人と打ち合わせを――」
「そう……」
はやては立場上、ここがバニングスの系列ホテルだと言うことは知っているはず。
アリサはそのことからも、はやてに意図的に避けられているのではないかと考えていた。
先日のことから顔を合わせたくない気持ちは分かるが、こうもあからさまに避けられると、アリサも友達として少なからず悲しい。
分かってて言ったこととはいえ、親友と思ってる相手に避けられるのは、アリサも辛かった。
「アリサちゃん、はやてちゃんと何かあったの?」
「何かって?」
「うん……なんだか、はやてちゃんもアリサちゃんも、様子が少し変だから」
先日から、はやての様子が少し変なことには、なのは、それにフェイトも気付いていた。
そこにアリサの先程の態度。これで何もないと思う方が難しい。
そんな二人の疑問にアリサは――
「……今はごめん。まだ、何も言えない」
申し訳なさそうにそう答えるアリサに、二人もそれ以上、深く追求することが出来なかった。
アグスタの周囲にはADAMから派遣された部隊が警備に展開していた。
とは言っても、ティアナたちをはじめとする管理局の陸戦魔導師や、聖王教会の騎士たちが主体の部隊だ。
ミッドチルダ、それも首都からも程近いこの場所で、バスタードの魔導師に警備は任せられないと言う、強い縄張り意識もそこにはあったのだろう。
今更、こうした問題は珍しいことではない。
三組織混合の部隊と言うことで、そのくらいの弊害があることは“彼ら”も織り込み済みだった。
そんなアグスタの正面から一キロほど離れた場所に敷かれた最終防衛ラインに、ティアナ、それにスバルとギンガの姿があった。
後ろに控えている部隊もまだあるが、このラインを抜かれた時点で、彼女たちの任務は事実上の失敗となる。
アグスタの一般人を警護することはもちろんだが、今日行われる骨董オークションを中止する訳にも行かない。
このラインを抜かれると言うことは、そのオークションの中止も矢も得なくすると言うことに他ならないからだ。
遺失物が関与するオークションであれば、例え危険を考慮して中止にしたとしても、また同じように襲撃を受ける可能性は高い。
歴史的に価値のある骨董品や、それを目当てに来ている一般人の中には、経済界、政財界に名を連ねる多くの資産家も来席している。
そうした要人たちを守るためにも、この防衛ラインから先には一歩たりともガジェットの侵入を許すわけには行かない――と言うのが、彼女たちに課せられた重い責任だった。
「ティアナ、大丈夫?」
「いえ、大丈夫です」
先程から重い表情をしたままのティアナを心配して、ギンガが声を掛けた。
しかし、ティアナはそんなギンガに「大丈夫」だと返事を返し、そう言われても安心できないのか、ギンガの方も表情が重くなる。
ティアナの様子が、ここ最近ずっとおかしいことにはギンガも気付いていた。
焦っていると言うか、何かに取り憑かれたかのように我武者羅に訓練取り組む彼女を見て、不安を抱いたのは確かだ。
だからこそ、心配して声を掛けたのギンガだったが、ティアナの性格を考えれば調子が悪いからと言って、素直に話すとは限らない。
スバルもティアナほどではないが、最近様子がおかしいことにギンガは気付いていた。
本来であれば、こんな状態の二人を現場に出したくはないギンガだったが、こうした大規模な警備任務ではそう贅沢も言っていられない。
どこからガジェットが襲ってくるか分からない以上、要所要所に満遍なく人員を配置することは、最悪の事態を回避する意味で重要なことだからだ。
今回の警備任務でも、緊急時に一般人の避難を誘導する人員などを含め、百名余りの人手が割かれていた。
そうしたなか、貴重な戦力を一人でも余らせておける余裕はいない。こうした広域防衛戦の場合、一人の質よりも数の方が重要。
どこから攻め込まれても対処出来るよう、万全の体制を整えておく必要があった。
彼女たちが配置されているポジションは、そうした緊急時にもっとも重要となる要所の一つだ。
アグスタを囲んで四方に敷かれた防衛ラインは、聖王教会の騎士たちから構成された前線メンバーが抜かれた時点で、死守しなければいけない最重要拠点となる。
だからこそ、各防衛ラインの主力には、日頃の訓練成績から選出した選りすぐりの陸戦魔導師が配置されていた。
もちろん、最悪の事態を想定して後方にはバスタードの魔導師も控えているが、それに頼り切りの状態ではいけないと言うことを彼らは誰よりも強く理解している。
ここミッドチルダには、彼ら管理局員の大切な家族、友人など、多くの人々が生活を共にしている。
そしてここにいる魔導師の大半は、そんな大切な人々や、苦しんでいる人たちを救いたいと言う思いを抱き、管理局の門を叩いたものがほとんどだ。
それぞれ理由に差異はあれど、平和を守りたいと言う志は同じものだった。
ADAMが出来る以前から、陸(おか)の治安と秩序を守ってきた彼らにとって、ミッドチルダの人々の生活と平和を守るということは、そうした重要な意味を持つ責務でもある。
――同じ部隊だからと言って、安易に彼らに頼り過ぎてはダメだ。
と言う思いが、彼らは人一倍強かった。
上の思惑は別にしても、出来うる限り自分たちの手でミッドチルダの平和を守りたい。
そうした思いがあったのだろう。バスタードの魔導師の強さを目の当たりにしながらも、そのことに絶望せず――
黙って苦しい訓練に耐えていた背景には、そうした彼らの意地と、強い意志があった。
『センサーに反応――ガジェット、出現しました』
「――!?」
通信班からの念話を受けて、ギンガをはじめとする魔導師たちは表情を引き締める。
すでに前線では交戦がはじまっているのか、激しい爆発音と衝突音が木霊していた。
今、前線に出ているのはヴィータとシグナム、それにザフィーラにシャマルの守護騎士たちを主力に構える聖王教会の騎士たちだ。
すでに四方から現れたガジェットの数はT型、V型を含め百を優に超えている。
騎士たちが取り溢したガジェットは、ギンガたち管理局の陸戦魔導師でなんとかするしかない。
いくら優秀な騎士たちが前線で頑張っているとは言っても、数では圧倒的にガジェットが有利。
守護騎士たちに比べ、AMF戦に慣れていない騎士たちも多いだろう。そんななか、防衛ラインにまで進行されないと言う楽観視は出来なかった。
「警戒を怠らないで! 戦闘態勢で待機。一機たりとも、ここを通さないわよ!!」
ギンガの号令が隊員たちの気を引き締める。
そんななか、ティアナはギュッとその拳を強く握り締め、前方の戦いを睨みつけるように見詰めていた。
前線の交戦状態はモニタされ、逐一、各隊員に送られてきている。
その映像に映し出されている前線の戦い振りを見て、大半の物は自分たちとの差に畏怖を覚えながらも、味方である以上頼もしく思えるものだが、ティアナは違った。
自分たちがあれほど苦労したガジェットを、意図も簡単に破壊していくヴィータ。
それに、ティアナとスバルが二人掛りで辛うじて破壊することに成功したガジェットV型ですら、シグナムはたった一人で何機も相手にして互角以上の戦いを繰り広げている。
「これが高ランク魔導師の力……」
ティアナはギリッと歯を食いしばり、その戦いに見入っていた。
分かっていたことだが、自分たちと彼女たち高位魔導師の間には大きな差があるのだと、ティアナは思い知らされる。
先日のガジェットV型を破壊したのも、結局はスバルの力によるところが大きいとティアナは思っていた。
――自分ひとりの力では、どれだけイメージを膨らませても、V型を倒せる場面が想像できない。
凄い魔力も資質も持たない射撃型のティアナでは、スバルに比べ火力が圧倒的に足りていないのだから、それも仕方ないことではある。しかし、執務官を目指すティアナにとって、ただ仕方ないで済ませられるほど、それは甘い問題ではなかった。
執務官になれば、個人戦も多くなる。最低でもAAランク以上のエリートが名を連ねているのにはそうした理由があるからだ。
このままでは目指す執務官の道は愚か、相棒のスバルにすらいつか置いて行かれる日が来るかも知れない。
ティアナは、そんなことを考えていた。
その証拠と言わんばかりに、ここ最近のスバルの成長は著しいものがあった。
空戦素養がないと言うだけで、元々は高い魔力資質と潜在能力を持つスバルだ。
単純な魔力の大きさや、潜在能力だけで言えば、ティアナは自分の力がスバルに大きく及ばないと思っている。
その才能もここにきて、厳しい訓練を通して一気に開花の兆しを見せつつあった。
遠くない未来――間違いなく、スバルは陸(おか)でも、選りすぐりの魔導師へと成長しているはず。
その姉のギンガも、スバルが尊敬を抱く対象だけあって、その実力は疑うべくもない。
ヴィータやシグナムなどの高ランク魔導師に一歩及ばないまでも、十分に一線で活躍できる高い戦闘力と判断力を持っていることは、これまでの訓練の様子からも確かだった。
そこには焦りもあったのだろう。
優秀な上官。高い潜在能力と可能性を持つ相棒。
強くなっているとは言っても、未だはっきりとした成果は見えてこない。
訓練に食らいつくので精一杯で、今まで一緒にやってきたスバルにさえ、差をつけられ置いて行かれるかも知れない――
そんな恐怖がティアナの心のなかに渦巻いていた。
アグスタから数キロ離れた先にある森の外れ、周囲を見渡せる小高い丘の上に一人の少女の姿があった。
年の頃は九歳と言ったところだろうか? 桃色の髪の毛に白い肌。黒を基調としたフリルの可愛らしいドレスを身にまとっている。
こんな人気のない、寂しい森には不釣合いな少女。その少女の瞳には、アグスタの周囲でガジェットと交戦を繰り広げているADAMの魔導師、騎士たちの姿が映っていた。
「ルールー、本当にいいのか?」
「アギトはドクターのことを嫌うけど、わたしはドクターのこと嫌いじゃないから」
少女の周囲を飛び交う小さな赤い髪の少女。一目には妖精と言うより、悪魔と言った風貌をしている。
ツヴァイと同じ三十センチほどの大きさのその『アギト』と呼ばれた少女は、『ルールー』と呼んだその少女のことを大切に思っているのだろう。その様子からも、少女のことを心配する気持ちが窺えた。
アギトに心配される桃色の髪の少女。彼女の名前はルーテシア・アルピーノ。
この名前に聞き覚えがある者もいるかも知れない。彼女は戦闘機人事件で殉職したとされているクイントの親友、メガーヌ・アルピーノの娘だった。
あれから親戚に引き取られ、行方知れずになっていた彼女が、どうしてこんなところにいるのかは分からない。
だが、その様子からもガジェットと彼女に、なんらかの関係があることは確かだった。
ルーテシアが言うドクターなる人物。それが、ガジェットの創作者であり、レリックを集めている件の張本人。
ジェイル・スカリエッティ本人なのだから――
「でも、ルールーひとりじゃ……こんな時に旦那とエリオが居てくれたらっ!?」
「大丈夫。荷物を取ってくるだけなら、わたしだけでも十分だから」
心配するアギトを安心させようと、そう答えるルーテシア。
彼女の目的は骨董オークションに持ち込まれていると言う遺失物――ロストロギアの一つ。
スカリエッティから頼まれた“ある物”を略奪することにあった。
彼女の手袋に嵌められた宝珠が、そんな彼女の想いに応えようと輝きを放つ。
グローブ型のブーストデバイス『アスクレピオス』――ルーテシアのデバイスは、彼女の特性を生かすためにスカリエッティが作った特殊な増幅デバイスだ。
オーバーSランクと言う高い魔力を持つ彼女にとって、アスクレピオスは力を顕現するための補助的な道具に過ぎない。
その能力の真価は数多からなる彼女を守護する召喚獣――『虫』たちの使役にあった。
「召喚――インゼクトズーク」
ルーテシアによって召喚されたインゼクト(羽虫)たち。
数センチほどの大きさの銀色の機械のような身体を持ったその羽虫たちは、数十数百の群体となって彼女の周囲を飛び交う。
「ミッション――オブジェクトコントロール」
ルーテシアの意思に沿い、インゼクトたちは戦場のガジェットに向かって飛び立っていく。
彼女の障害を排除するため――
彼女の目的を成し遂げるため――
そこにはルーテシアのことを想う。強く、明確な意思が存在していた。
「……ガジェットたちの動きがよくなった。どうやら、新手の召喚士の仕業のようですね」
ホテルの屋上。周囲の状況を観察するように、リインフォースはその状況を見守っていた。
アリサに頼まれ、渋々D.S.も傍で見ているが、興味が余りないのか? 退屈そうに欠伸をしている。
プレシアやリニスたちと一緒に食事に来て巻き込まれたような形ではあるが、それでもアリサの頼みと言うこともあって、不足の事態に備え、二人は密かに控えていた。
こうなることを、あらかじめアリサも予想してD.S.たちをホテルに招待したと言うことだろう。
そんな、二人が観察する前線では、インゼクトたちが取り憑いたガジェットたちの動きが鋭さを増し、先程までと状況が一変していた。
インゼクトたちの能力か、ルーテシアが操っているのかは分からないが、有人操作に切り替わったガジェットたちの動きは確実に鋭さを増している。対応出来なくなった騎士たちは翻弄され、徐々に前線ラインを後方へと押し込まれていた。
守護騎士たちがガジェットに負けるなどと言うことはないかも知れないが、他の騎士たちが対応出来ていない以上、この広範囲だ。
たった四人では、ラインを割られるのは時間の問題とも言える。
「どうしました?」
「アレは囮だな。本命は別にくるぞ」
そんなD.S.の言葉を裏付けるかのように、前線のラインを超えて、最終防衛ラインの前に次々に転送されてくるガジェットの大群。
先程まで前線の騎士たちが応戦していた数を上回るガジェットの出現に、防衛ラインで警備に当たっていた陸戦魔導師たちも、不測の事態に混乱を余儀なくされ、苦戦を強いられていた。
「転送魔法……それもあれだけの数を一斉に?」
百を超える数のガジェットを操作するほどの無機物操作。
そこに加えて、更に大量のガジェットを転送して見せた召喚士の驚異的な能力に、リインフォースも舌を巻く。
単純な魔力の大きさだけならば、リインフォースにも決して見劣りしない強力な魔力を持つ召喚士。
これだけの大規模転送や召喚魔法を行って見せたことからも、魔導師としての実力も相当なものだと言うことは窺える。
ヴィータやシグナムなら兎も角、他の騎士たちや、管理局の陸戦魔導師たちでは分が悪い相手だった。
「……相手が悪いな」
「ええ、相手が召喚士となると、彼らだけでは分が悪いでしょう」
――今の転送魔法も囮である可能性が高い。
これだけの召喚魔法の使い手だ。防衛ラインを超えて、直接ホテルを襲撃すればいいようなものを、そうしなかった背景には別の意図があるとリインフォースは考える。
現にガジェットに注意を惹きつけられ、後方に控えていた魔導師たちも防衛ラインを引き上げられている。
この襲撃自体、ホテルの警備を手薄にするのが狙いなのだとしたら、本命は必ずここを狙ってくる。
リインフォースと同じことをD.S.も考えていた。
その頃、最終防衛ラインでは転送されたガジェットの群と、魔導師たちの激しい戦闘が繰り広げていた。
各方面に展開された大量のガジェット。それは、ギンガやスバル、それにティアナの前にも、V型をはじめとする数十機のガジェットが姿を見せていた。
その大半は陸戦型のT型ガジェットではあるが、それでもこれだけの数がいると一筋縄ではいかない。
なんとか防衛ラインを維持できているものの、身動きが取れないのはどちらも同じだった。
「はああぁぁ――っ!!!」
後方の魔導師たちの支援砲撃を受けながら、前線に切り込むギンガとスバル。
AMFに阻まれ、威力が殺されている砲撃魔法では、並みの魔導師の魔力ではガジェットに通じない。
これまでであれば集中砲火を浴びせれば、Aランク程度の魔導師でもなんとかガジェットを倒すことは可能だった。
しかし、ルーテシアの魔法によって強化されているガジェットの動きは、そんな彼らの予想を大きく上回っていた。
現状から見て、今の機動力のガジェットを捕らえることは、並みの魔導師には難しい。
こんな状態では、幾ら魔導師の頭数が揃っていたところで、対抗手段がないも同然だった。
「なんとか持ち耐えて!! 応援が駆けつけてくれるまで――」
ギンガの声が、奮闘する魔導師たちを活気付ける。
火力が足りずガジェットを落とすことは難しくても、気を逸らすことくらいは彼らでも出来る。
現状、取り得る手段としては、中でも突出した戦闘力を持つ、ギンガたちを前面に押し出してのこの戦法しかなかった。
だからと言って、ギンガとスバル。それにティアナを入れても、まともにガジェットに対抗出来る戦力が三人しかいないのであれば、余りに多勢に無勢。
防衛ラインを割られないためにも、今は少しずつ確実に敵の数を減らしながら、防御に徹するしかない。
前線の敵が片付けば、ヴィータやシグナムたち聖王教会の騎士たちの応援も入る。
任務を確実に遂行するためにも、それまで持ち堪えることが何よりも大事だと――ギンガは彼我の戦力から冷静に分析していた。
「守ってばかりだと行き詰まります! 目の前の敵くらい、全機落として見せます!!」
「――ちょっと、ティアナ!?」
後方で同じように支援攻撃を行っていたはずのティアナが前に出たことで、ギンガは驚きの声を上げる。
ガジェットの前に立ち塞がり、左右二丁に装填されたカートリッジを全弾ロードするティアナ。
クロスミラージュは一丁で四発の弾丸を装填することが出来る。左右四発ずつ、合計八発にも及ぶ弾丸を装填することが事実上可能ではあるが、それは机上の空論に過ぎない。
あくまで可能性の話であって、それを実行できるかどうかを問われれば、並みの魔導師には不可能だと言わざる得ない。
「ティアナ!? フルロードなんて無茶よ!!」
ギンガがティアナの無茶を咎め、悲鳴を上げるのも無理はない。
身体に大きな負担を掛けるカートリッジシステムは、一種のドーピングのようなものだ。
例え一発の使用でも、魔導師の身体に大きな負担を掛ける危険なものだと言うことを忘れてはいけない。
先日の任務の際でも、四発ロードを行ったティアナは一時的に動けなくなるほどの酷い消耗を余儀なくされた。
その倍の八発ロードなど、オーバーSランクの魔導師ですら躊躇するほどの危険な行為。なのはですらやらないほどの無茶を、ティアナは実行しようとしていた。
彼女の現在の魔導師ランクはBランク。特化技能ではAA相当の実力を有しているとは言っても、彼女の現在のキャパシティでは遠く高ランク魔導師に及ばない。
その上、ティアナの保有する魔力資質はスバルやギンガと比べても、それほど高いものではなかった。
自身の限界を遥かに超えた許容量の魔力。そんな無茶を行えば、どうなるかなど結果を見るまでもない。
「――撃てます!!」
ギンガの制止を無視し、あくまで自分の意思を強行するティアナ。普段のティアナなら、そんなことも分からないほどバカではない。
完全に判断力と冷静さを欠いているティアナを見て、ギンガも強い不安を抱く。
その背景には、ティアナの焦りがあった。
ずっと悩んでいたこと――
足掻けば足掻くほど見えてくる自身の限界点。どうやっても届かない高位魔導師との実力差。
凄い魔力。高い潜在能力。強力な稀少技能(レアスキル)。何一つ、『才能』と呼べる物を自分は持っていない。
それでも、ティアナには自分の力と勇気を証明しなくてはいけない――と言う強い葛藤があった。
兄の魔法は役立たずなんかじゃない――
ランスターの弾丸はちゃんと敵を撃ち抜ける――
そのことを証明するためにも、後には退けない。
敵に背を向けるなんてこと、絶対に出来ない。
ティアナは様々な葛藤と想いを込めて、その銃口をガジェットへと向けた。
幾ら高機能なデバイスだとは言っても、クロスミラージュもフルロードなどと言った無茶をやれば悲鳴を上げる。
ましてや、ティアナの現状の能力に合わせ、出力リミッターが掛けられた状態での使用だ。
デバイスに掛かる負担も相当のもののはず。
現に、抑え切れなくなった魔力が過剰に反応し、放電をはじめていた。
「クロスファイア―――シュートッ!!」
ティアナの周囲に現れた三十にも上る魔力弾が、一斉に前方に展開するガジェットへ向けて放たれる。
それは、彼女の能力の限界を大きく超えた魔法だった。
本来、誘導弾であるはずの魔力弾がコントロールを失い、ガジェット諸共、木々を薙ぎ払い、土砂を巻き上げる。
明らかに周囲への被害も考えていない過剰な攻撃。しかし、ティアナの攻撃は止まらなかった。
クロスファイアーシュートを放った後も、残ったガジェットに向けて放たれる多数の魔力弾。
「うあああぁぁぁ――っ!!」
その叫び声や様子からも、ティアナが冷静さを欠いていることは明らか。
――その時だった。
暴走したティアナの魔力弾が一発、制御を完全に失い、大きく軌道を逸らす。
「――くっ!!」
その魔力弾は、少し離れた場所でガジェットの注意を惹きつけていたスバルへと真っ直ぐ軌道を取った。
ガジェットの応戦に必死で、スバルは魔力弾の接近にも後ろの状況に気付いていない。
――このままではスバルの身が危ない。
そう咄嗟に判断したギンガは、誰よりも早くその魔力弾の暴発に気付き、スバルのもとへと飛び出していた。
「――え?」
ドオォーンと、甲高い爆発音が周囲に木霊す。
方向性を失った魔力弾の暴発に気付き、目を向けるティアナ。
そして、背後でした爆発音に驚き、振り向くスバル。
「ギン姉――っ!?」
スバルの悲鳴が木々を抜け、響き渡る。
そこには爆煙の中、スバルを庇い、ティアナの魔力弾の直撃を受けたギンガが、利き手から血を流して立ち竦んでいた。
その様子からも、決して軽くないダメージを負っていることは見て取れる。ダラッと力なく折れた腕が、ことの深刻さを物語っていた。
突然のことでスバルの身代わりになるのが精一杯で、防御も間に合わなかったのだろう。
それでなくても、フルロードなんて無茶を行ったティアナの魔力弾は、通常の数倍と言う破壊力を持っていた。
デバイスを展開する方の腕で、なんとか防いだとは言え、このまま戦闘を継続できる状態ではない。
そんな状況の中、痛みを堪え、動かない利き腕を抑えながらも、ギンガは呆然と立ち竦むスバルや他の隊員たちに激を飛ばした。
「――しっかりなさい!! まだ、終わってないのよ!?」
今のティアナの攻撃で大半のガジェットは削られたとは言え、まだ何も終わっていない。
残存するガジェットを殲滅するまでは、任務は継続している。
怪我を負ったからと言って、小隊を預かる身として後ろに引き下がることなどギンガには出来なかった。
そんなギンガの声で、自分たちの任務を思い出し、我に返る隊員たち。
スバルも、ギンガの怪我が心配ではあったが、そのことが分かっているからこそ、意識を残るガジェットの方へと向けた。
「ああぁ……」
無茶を行った疲労感から動けないと言うのもあるのだろうが、ティアナは無茶をやって魔法を暴発させたばかりか、ギンガに怪我を負わせた事実を直視できず、声を震わせてその場に膝をつく。
――こんなつもりじゃなかった。
今更悔やんでも遅いことを、何度も、何度も、彼女は心の中で繰り返し呟く。
ティアナの魔法が、多数のガジェットを撃墜したことは紛れもない事実だ。
しかし、上官であるギンガの忠告も聞かず無茶したばかりか、味方を誤射するなど本来ならあってはならないこと。
「わたしは……」
僅かに残ったガジェットを一気に殲滅しようと、ギンガの号令に活気し、飛び出して行く魔導師たち。
そんななか、ティアナの悲痛な声が、爆音響く戦場の音に掻き消されていた。
「ルールー大丈夫か!?」
「わたしは大丈夫。でも、ガリューが……」
魔力を使い過ぎ、消耗したルーテシアを心配するアギト。
ここまで彼女が魔力を消耗しているのは、何もインゼクトを召喚したり、ガジェットの大量転送を行ったからではない。
ある魔導師から逃げ延びるために、大切な召喚虫たちを連れ、無理な転送魔法を連続して使用したことによる弊害だった。
ガジェットたちを囮に、スカリエッティから頼まれた物の回収に向かわせたのは、『ガリュー』と言う名のルーテシアが全幅の信頼を寄せる召喚虫。
人間のように二足歩行を取る珍しい召喚虫だが、その戦闘力はルーテシアの使役する数多なる虫たちの中でも飛び抜けて高い。
例えAAAランクの魔導師が相手でも、単独で互角以上の戦いが出来る優秀な召喚虫だ。
そのことから、ルーテシアもガリューが敗れるなど、思ってもいなかった。
しかし、ルーテシアの行動を先読みしていたかのように、待ち伏せをしていた魔導師。
その、たった一人の魔導師を相手にガリューは敗れ、ルーテシアはアギトと共に、その魔導師を相手に傷ついたガリューを連れて逃げ出すことで精一杯だった。
スカリエッティから頼まれた物を回収できなかったことは悔やまれるが、あそこで無理に戦いを挑んでいれば、間違いなくガリューの命はなかったとルーテシアは思う。
それどころか、ガリューが万全の状態で戦ったとしても勝てたかどうか――
何れにしても、あの状況では逃げる以外に、ルーテシアが取れる選択肢はなかった。
アスクレピオスの中で傷を癒すため休眠させているが、もう少し遅かったらガリューと言う“大切な家族”を一人失っていたかも知れない。
そう考えるだけで、ルーテシアの胸は不安と悲しみで、張り裂けそうな思いで一杯になる。
「畜生……あたしがついていながら情けねえ……。
こんな時に旦那やエリオが居てくれれば、なんとかなったかも知れないのに」
「アギトのせいじゃない。それに、仮に“彼女”はなんとかなっても、“あの人”には多分勝てなかった……」
姿を見ることは出来なかったが、対峙した魔導師の後ろに、更に強力な魔導師が控えていたことにルーテシアは気付いていた。
ガリューのことはもちろんあったが、その存在に気付いた時、本能的に逃げることしかルーテシアは考えられなかった。
むしろ、こうして逃げることが出来たのも、最初から相手に追って来る気がなかったからに過ぎないとルーテシアは思う。
それほどに絶望的な相手だった。
アギトの言うように、ゼストやエリオがこの場に居たとしても、ガリューを倒した魔導師一人が相手なら兎も角、後ろに控えていた魔導師を相手に、なんとかなったとはルーテシアにはとても思えない。
「ルールーがそこまで思う相手って……一体、どんな化け物だよ」
ルーテシアの真の実力が、こんなものではないと言うことをアギトは誰よりも理解している。
本気で戦っていれば、あそこにいた管理局の魔導師くらい、ルーテシアだけでも全滅させられたはず。
それほどの魔力と、奥の手を彼女が隠し持っていることをアギトは知っていた。
しかし、そのルーテシアが絶対に敵わないと断言するほどの相手。
ルーテシアがそんな嘘を吐かないことを知っているアギトは、その話が冗談とはとても思えず、正体の分からない相手にただ恐怖を覚え、畏怖を抱くしかない。
どちらにしても、二度と関わりたくはない相手だと言うことは確かだった。
「でも……どうしようもないほど怖い相手だったけど、嫌な感じはしなかった……」
「そんなことねえよ!? ガリューがやられたんだし、管理局の奴らに協力してたんだ!!
あいつらだって、きっと悪いヤツに違いない!!」
「そう……なのかな?」
ガリューがやられたことはショックだったし、許せないとはルーテシアも思う。
しかし、アギトの言うように、そこまで悪い相手に思えないもの事実だった。
――ルーテシアは考える。
ガリューがやられたのだって、冷静に振り返って見れば、彼らに先に攻撃を仕掛けたのが自分たちだからだ。
襲撃者は自分たちの方なので、そう考えれば彼女らの行動は単なる自衛手段に過ぎない。
その証拠に、ガリューも深手を負っているとは言っても、命に別状があるわけではない。
それに、彼女らから見れば敵であり、侵入者であるはずの自分たちを、敢えて何も言わず逃がすような真似をしたのも不自然過ぎる。
ただ、追い返すことだけを目的に、手加減されていたようにも見えた。
管理局の魔導師。もしくは協力者であるのなら、あの場で逃がすような真似をした理由に説明がつかない。
だとすれば、アギトの言うように管理局と彼女たちが味方同士だと――
ルーテシアには、とてもじゃないが思えなかった。
「よかったんですか? 逃がしてしまって」
「犯人を捕まえろなんて一言も言われてねえし、そこまで協力してやる義理もねぇ」
「……詭弁ですけど、まあ可愛らしい女の子でしたしね」
リインフォースも、そうは言っていても、あんな女の子を捕まえようとは心にも思っていなかった。
少なくとも事件の犯人として、管理局やADAMに引き渡すなんてことは考えていない。
管理局は当然としても、ADAMもミッドチルダに拠点を構える以上、管理局の影響を免れない状況にある。
そう言う意味では、地球のようには行かないだろう。
捕まった後の彼女が、どんな処罰を受けるか想像に難くないだけに、無理に捕まえて突き出そうなどと、リインフォースには思えなかった。
D.S.が何も言わず逃がしたのも、そのことを考えてのことだとリインフォースも察する。
しかし、相手が子供とは言っても、相も変わらず女性に優し過ぎるD.S.の態度に、リインフォースが皮肉の一つも言いたくなるのは仕方ないのかも知れない。
「ううん……ご飯ですか?」
「やっと起きたか。この寝ボスケ」
D.S.の胸元から這い出て、眠そうな目をゴシゴシと擦(こす)るツヴァイ。
アリサの奢りと言うことで値の張る高級料理をお腹一杯食べ、いつものようにお気に入りとなっているD.S.の胸元でスヤスヤと眠っていた。
何もかも終わってから目を覚ます辺りは、“らしい”と言えば彼女らしい。
そんなツヴァイを見て、先程までD.S.に嫉妬の眼差しを向けていたリインフォースも、あっさりと毒気を抜かれてしまっていた。
「……まだ、食べるんですか?」
「リインは成長期なんですっ!!」
ツヴァイのどの辺りが成長期なのか? そう思いながらも、敢えてリインフォースは明言を避けた。
こんな小さな身体のどこにあれほどの食事が入るのか不思議でならなかったが、それを言ってしまえば、そもそもユニゾンデバイスである彼女たちは、成長もしなければ食事を無理に取る必要もない。
周囲の魔力素を取り込むだけでも活動は可能なので、食事を取ると言う行為はあくまで個人の趣向に過ぎない。
ツヴァイの場合は完全に食い気。
興味の対象がおもしろい物、美味しい物に向いているだけなのだとリインフォースは思うことにした。
「まあ、報酬分はしっかり働いたことだし、部屋に戻って食いなおすか」
「はいですぅ――!!」
「…………」
報酬分とは言っても――
D.S.は見ていただけ、ツヴァイは寝ていただけ――
なので、実際に働いたのはリインフォースただ一人なのだが、敢えてそのことを突っ込む気力は彼女にはなかった。
「……桁が二つくらい間違ってない?」
「いえ、確かに間違いありません」
再度、アリアの言葉に耳を傾け、手渡された請求書に目を通すアリサ。
並んでいる数字の多さに目を点にして驚く。とてもじゃないが、一泊や二泊、泊まったホテルの宿泊費と食事代とは思えない金額だった。
ルームサービス料金がとんでもない……奢りだからと言って、どれだけ飲み食いしたと言うのか?
そのホテルの請求書を見て、アリサが表情を引き攣って見せたのは、また別の話だ。
……TO BE CONTINUED