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機動戦艦ナデシコ 火星奪還作戦<ルビコン> W Don‘t Stop!
作者:カムナビ   2009/04/02(木) 02:00公開   ID:iaPEQKDccoA




『相転移エンジンのもたらした未来に我々はあの時輝いていた。

…カワサキ・ディストラクション、そのときまでは』

〜ワールドウォーフェアライブラリ刊 トカゲ戦争B リメンバー・カワサキ〜






機動戦艦ナデシコ 火星奪還作戦<ルビコン>W
〜Don‘t Stop!〜





2199年 2月6日 木連軍 軌道要塞フォボス
『失態だな、少佐』

「申し訳ありません、中将」

目の前のスクリーンに映された木連の指導者たる草壁春樹にひたすら恐縮する。

『…まぁ、とにかく無事だったのはなによりだ。損傷した機体でよく研究員の護送を行ってくれた』

撃破直後、連合の軌道降下部隊が降下を開始したのだ。
だが、いかに襲撃された直後、とはいえ研究資料の処分などを考えればしばらくの時間稼ぎと研究員自身の退避の時間は必要だった。

「与えられた任務をこなしただけです」

その応えに満足したかのように草壁は軽く微笑む。

『よって、処分はなしだ』

「は?」

その言葉に呆けてしまう。
馬鹿な、そんな納得できない!!

『納得のいかん、という顔をしているね?』

は、っとして顔を正す。

だが、その態度に草壁は構わんと仕草で示す。

『説明はもちろん、する。 それに何かないわけではないよ』

にやり、とどこかの基地司令のように彼は口元を吊り上げる。
まるで、その言葉を待っていたかのように。
それからの10分は月臣源一郎にとって忘れられない10分となった。



10分後、彼の足はフォボスの司令部へと向かっていた。

これからある人物に会うためだ。

それこそが、草壁の説明の結果であり、彼の後悔を果たす目的となるのだ。

やがて、彼の平均よりも遥かに早い足はその司令部の扉を叩く位置までたどり着いた。

「…万魔殿か」

万魔殿、パンデモニウム…フォボス要塞はそう呼ばれることがある。

悪魔にも等しき謀がこの地で行われているという噂があるからだ。

噂は噂、そうわかっていても緊張くらいはする。

なにせ、この部屋の主は…

『いつまでそうしてるのかしらねェ』

声。ふと見上げると監視カメラに付随するようにスピーカー。

入るしかないだろう。

「…優人部隊、月臣源一郎少佐入室します」

『どうぞ』




室内は暗かった。

響く排気音と放熱装置の駆動音の合わさった低い音が響き、モニターの青白い光と電灯の白色光のみが周囲を照らしている。

「万魔殿へ、ようこそ」

ひときわ高い場所、サルノコシカケの名前で呼ばれる司令官席から声が聞こえる。

「歓迎しよう。盛大にね」

周りを見渡す。
特に、何か仕掛けられている様子はない。

「…の割には、地味のようですが」

ノリが悪いわねェ、と彼女は闇の中で肩をすくめる。

「戦時体制というやつでね、上の人間が率先してやらないと国民に示しがたたない、ってのはいいんだけどねェ」

その結果、本業がおざなりになっちゃ駄目でしょう?
嘆息の気配とともに言い捨てる。

「…それで、春樹に何を言われたのかしら?」

春樹。木連の元首を呼び捨て。本来ならば許されることではない。

だが…

「優人部隊所属、月臣源一郎少佐であります!! 本日現在をもって軌道要塞フォボス司令官付第三秘書を命じられました、よろしくおねがいします」

「軌道要塞フォボス司令兼任木連技術総局第4局局長、草壁榛名少将、確かに受け取った」

辞令を差し出す。

草壁榛名。

あの草壁春樹の『姉』にして、そして戦術的センスにおいて彼を陵駕すると言わせしめた異端の天才。

惜しむらくは、生まれた国を間違えた、ということだろうな。

彼は思う。

『女性を守る』、その思想が連合宇宙軍では大将さえ狙えるはずの彼女の昇進を阻んでいる要因の一つなのだ。

同時に嘆息。

『あの人の下は大変だろうが…がんばってくれ』

草壁春樹は苦笑を含ませながら、彼への辞令の話を締めくくった。

彼女は『異端』の天才だ。

…それこそが彼女のヴィクトリー・ロードを阻む最大の要因であり、木連技術総局第4局の局長との兼任という歪んだ結果を招いているのだから。

まったく、世の中はままならないモノだ。

「(そういえば…)」

彼はふと火星を移すモニターに目をやる。

「(灰被り、貴様もこのように悩んでいるのか?)」

そこまで思ったところで、馬鹿らしいと思った。

視線を戻す。

やることは多いのだから。




2199年 2月6日 連合宇宙軍 <サジタリウスα>基地
シンクロニシティ。共時性と称されるそれは分析心理学の祖であるカール・ユングにより提唱された。

何らかの「類似性」をもつ複数の事象が関係をもたないにも関わらず随伴・生起する。

23世紀も近い現在においてもそれは「正常な科学であるか?それとも疑似科学か?True Or Fales」がはっきりしない。



ただ、連合宇宙軍の高度極秘部隊<サイレント・アーミー>所属のダテ・タカヒロ中尉の周囲には、自覚はないにせよその現象が発生しつつあった。

世の中は、まったくもってままならない。

手の中にあるペンと紙を見つつ、嘆息。

「おいおい、ダテよお。ため息なんてつくと幸せが逃げていくぜ?」

聞き覚えのある声。ふと腰掛けている整備用キャットウォークの下方をみる。
作業車両に乗った壮年男性、サコン・イエヤス特務中尉。整備一筋40年のプロフェッショナル。

「サコン班長、私は別にエンブレムなんていらないのだが…」

機体を整備してきたのか機械油まみれの整備服を身にまとい、彼はキャットウォークの下へ。

「遠慮すんなよお、別に減るようなもんでもねェし」

別にエステの特性がエンブレムの有無で変わるわけではない。

「だが、機体の融通考える意味では…」

すがる思いで関係はないが、常識とされる話題へとすりかえる。

専用機、なんて本人以外に使いにくいかつ妙なチューンをした装備はWWU以来途絶えて等しい。

軍用兵器である以前に厳密な工業規格の集合体で量産工業製品である機動兵器、エステバリスも同じだ。

アサルトピット内の移動可能なインテリアや機内のディスプレイの表示の仕様変更程度、IFSの伝達速度などをコントロールするOSソフトのようなソフト面での細かい違いはまだいい。
その設定は体内のIFS補助脳内にある記憶領域からのダウンロードですぐに任意変更できる。
(他の兵器もデータの平均化・並列化を常に行っているため、特定の誰かが乗りやすいことにはならないが不特定多数の人間が扱うには使いやすいことになっている)

それを阻害する要因をつくってどうするのか、ということだ。

「実質、お前さんの専用機みたいなもんだろう? プロトは」

「む…」

それを言われると痛い。

それにな、と彼は続ける。

「最近のコンフォーマル・アレイ・レーダー素子の発展はすげえからな」

いわゆる、機体装甲自体にレーダー素子を組み込んで機体自体をレーダーとして使用する、という21世紀初頭からの考えは23世紀近くにおいては…

「この通りだ」

一瞬で、目の前のエステの肩の色が色が赤から緑、そして黄色へと変化する。

…レーダー・カメラ複合素子加えて組み込まれたカメレオン素子は一時的なものとはいえ光学迷彩と塗装いらずの自由な色調変化を約束した。
(もっともコスト的な問題から機体全体に組み込むわけにはいかず、頭部、肩や脚部への一部のみの採用となっている)

「ましてやプロトは最新型の素子組み込んでるしな」

今までにない細かいデータを組み込んで、緻密なエンブレムをあらわさせることも可能だという。

その言葉に勘弁してくれという思いを吐き出し、残った諦観の念で背後のプロト・アリストロメリアを見つめる。

「わかった、明日までには考えておく…」

「おう、それまでに完璧に整備しておいてやるぜ」

その言葉に軽く手を振る程度で答え、彼は本来の仕事現場(誠に不本意ながら!)へと向かった。



2199年 2月6日 <サジタリウスα>基地 装備課
「ただいま…」

おかえりなさい、という声。受付事務のミスミ嬢だ。

それに軽く見る程度で答え、つかつかと自分のデスクへ向かう。

扉から入って奥から2つ目。そこが自分のデスクであった。

安物の作業椅子に座る。ふとそのときの動作で、課長のタグのかかったデスクを一瞥。

腕を組んでデスクの上に足を乗せて熟睡をむさぼる人物。

ロッドマン曹長だ。

ずいぶんと気持ちよそうに寝てるのがわかる。

つかつか、自分以外の足音。

いつものことか、と思い耳をふさぐ。

すさまじい音量の女性の声と、それに含まれる罵声。
重量物がリノリウムの床に落ちた音。

まったくもっていつもどおり、だ。

そう思ったあと、わずか数日で適応した自分に多少の嫌気を感じつつもデスクに積み上げられた古式ゆかしい書類への『対処』を開始した。



同 中央格納庫
「やっぱりただもんじゃねーなぁ…」

プロト・アリストロメリアを負荷計測器に移動させるように指示したあと、彼―サコン・イエヤスはその機動ログを眺める。

高い反応速度、その反面ショックアムソーバーの緩衝液の減りが異常だ。
測定しないとわからないが、きっと関節系にもムチャがかかってるのは容易に想像がつく。

整備屋には少々ありがたくない客だが…

「機動の激しさの割には、時間あたりの弾薬消費がそこまで多くない」

行動時間の向上のために、携行弾数を通常の半分程度に抑えたにも関わらずだ。

彼がどんな任務に関わったかはわからない。

だが推測はできる。

「特殊戦、か…やれやれ、口止めしとかねえといけねえなぁ」

勘のいい若い整備員ならこの傾向をみて何か気付くかもしれない。
変な噂がたって、それをダテの耳に入れるのは彼としても避けたい。

「やれやれ、手間のかかる客だ」

口ではそういいながらも彼はうれしそうにログを再び眺めようとして…

「第4中隊が戻ってきたぞーーー!!」

その声にふと顔をあげた。



同 装備課オフィス
外が騒がしい。

それに気付いたのは、懐かしいデスクワークを思い出しながらこなしているときであった。

「?」

と思って一端作業を中断し、出入り口まで移動する。

それに気付いたのか、ミスミ嬢とロッドマン曹長も何事かと出入り口のほうを眺める。

装備課が存在する中央格納庫、その搬入口兼出入り口からにゅっと巨大な人型が進み出る。

エステバリスだ。

それも数機続けて。

「…第4中隊だねェ、確か地上に降りてきてる輸送部隊の護衛に貸し出されてた連中だ」

ロッドマン曹長がそんな具合で話しかけてくる。

なるほど、確かに格納庫で大声でやり取りされている内容を聞く限りは『第4中隊』と呼ばれる部隊が戻ってきたらしい。

「さて忙しくなるぞ、ミスミくん」

「はい、物資のほうを優先で押さえておきます」

どうやらこの連中が戻ってきたことでいろいろ確保する物資が必要になったようだ。

「中尉、申し訳ないのだけ、班長に聞いて必要のありそうな物資を聞いてきてもらえないかい?」

…そして私にも役割が回ってきたようだ。

「了解した」

彼は習慣で駆け足でその場を後にする。

―――決して、あの場で繰り広げられるサイレント・アーミーすら畏怖させる所業(アーツ)の数々から逃げ出したわけではない。




さて、この場において疑問に答えておこう。

『なぜ、中尉が曹長の指揮下にいるのか?』

曹長と中尉の間は准士官制度を採用していない連合宇宙軍であってもその間には少尉が挟まり、ロッドマン曹長のほうが2階級下となる。

一見おかしいと思われるがこれは『二重階級』という連合宇宙軍の苦肉の策によるものだ。

トカゲ戦争初期〜中期におけるプロフェッショナルな軍人の大量喪失は予備士官・下仕官制度の完備により後備200万人と呼ばれるかの連合宇宙軍をもってしても吸収しきれるものではない。

即応士官制度により、もっとも重要とされる士官・下仕官クラスの一時的な補充はなんとかなったものの、いつまでもそれを続けるにはいかない。

その人員不足を解決するために、『二重階級制度』が生まれた。

この制度は、その所属によって階級をそれぞれに用意するというものだ。

たとえばダテ中尉は実戦部隊においては『中尉』、臨時所属の装備課においては書類上、『軍曹』扱いとされている。
(まぁ普通はもっとも高い階級を腕章へつける)

これによって人材不足を解決する・・・といえば聞こえはいいが、一人当たりのワークロードを極めて悪化されるこの制度は、2重階級登録による階級並存による混乱や割りに合わない給与もあって、トカゲ戦争終了後にたちまち休法扱い(廃法ではない、いつでも復活できるぞという木連側へのおどしも入っている)となった。

とはいえ、今は戦後ではなく、戦中。

『過去を思うは愚者、現在を思うは賢者、未来を思うのは狂者』というように現在に視点を向けるのが賢明なのだろう。

よって場面は転換する。



同 中央格納庫
誘導路に従い、固定アームのついたキャットウォークへエステバリスが固定される。

さらに機体ステータスが端末へ転送。

「こりゃ、ひでえなぁ…」

長距離移動による各所の磨耗に加え、弾薬各種も相当なレベル。

自重の軽さゆえに戦略機動力の高さに定評のあるエステバリスでこのレベルとなると、90式の足回りはあまり考えたくない事態になっているのは容易に想像できる。

「サコン班長」

おう、ダテか?

「ああ…ひどそうだな?」

その言葉に肯定し、端末を見せる。
渋面。

「これは…物資は早めに手配したほうがいいですね」

だろうな、と頷く。

「とりあえず、物資のほうは全体のステータス確認してから…」

そのとき騒ぎが起きる。




同 エステコクピット
きつい任務だったと思う。

輸送車両をはぐれないように誘導しながら、周囲を警戒しながら少しづつ進んでいく。

神経を磨耗させるには十分な程度ではあっただろう。

それがやっと終わりを迎えようとしている。

心地よいアーム固定のショックを受けて、アサルトピットに『状況終了』を示すアイコンが提示される。

ステータス転送。

後は、サコンさんたち整備班に任せておけばいいだろう。

「ふう…」

思わず、ため息。
はっ、として頭を振る。
いけない、いけない。帰るまでが任務だ。

よし、気合が入った。

<ハッチ・オープン>

自動音声とともにハッチが開かれる。

さあ、外に出ようとして立ち上がったとき、ふとめまい。

一歩進むにつれてそれはひどくなり、やがて限界を超えた。

開かれたハッチからキャットウォークへ踏み出そうとしたとき、足を踏み外す。

「あ…?」

落ちる…?

薄れゆく意識の中で彼女はそう感じ・・・そして、予想より小さい衝撃。

抱きかかえられている…?

「にいさん…?」

たずねた答えを聞く前に、意識が暗闇へと落ちた。



同 中央格納庫
バランスを崩し、キャットウォークを踏み外した女性パイロット。

思わず駆け出す。

距離、10m。

障害なし。

いけると判断。

ダッシュ。

予想位置手前で微調整をかけて、手を伸ばす。

ドスンっという音とともに彼女の体が腕の中に納まる。

間に合ったか…!!

周囲がざわめき始める。

担架を呼ぶ声に混じって彼女の唇が動く。

ふと気になり、耳を寄せる。

「にいさん…?」

…まぁ想像通りといえばそのとおりか?

死に際して、肉親の名を叫ぶのはよくあることだ。

もっとも…



担架に乗せられていく彼女を見送りつつ、つぶやく。



「それを聞けなかった奴らはどうすればいいのだろうな…」

つぶやきは誰にも聞かれず消えた。



2199年 2月8日 軌道要塞フォボス
「就任祝い?」

相変わらず暗い司令部の中で、月臣源一郎はマユを潜めた。

「ええ、秘書とはいえあなたの部署は基本的には今までとは変わらないわね」

むしろ、自由度ではこちらが上よ、と彼女、草壁榛名少将は言う。

「私の特命で動いてもらうこともあるからねェ…」

部下はつけるけど、人使いは荒いから覚悟しておいてちょうだいね?

聞かなかったことにする。

2日ほど付き合ってみたが中将が何故苦笑しながら送り出したのかが理解できた。

…詳しくは聞かないで欲しい。
私の精神衛生のためにも。


話を戻す。

「それで…就任祝いとは」

その質問に、あらあらといいながら彼女は応じる。

「気になる? 気になる? でも、がっつくのと早いのは感心しないわね。」

「冗談だけならば書類の決算に戻りたいのですが」

明らかにある種の主旨を含めた彼女の言葉に、皮肉を含めて返答する。
いちいち付き合っていたら、駄目だというのは判っている。
その声にやれやれと彼女は肩をすくめ、応えた。

「あなたが望むものよ。少佐」

力が欲しいか? 欲しいのならば・・・くれてやる!!




という趣旨が必ず入ってるのだろうな。アレは…

嘆息しながら、指定された格納庫へ急ぐ。

さらに無重力空間を走る浮上式軌道へ乗り換え、格納庫区画へ。

そして…

「666…ここか」

赤いペンキで666とかかれた入り口の通用口から内部へ入る。

内部は、照明に照らされ明るい。

いくつもの浮上式工作機械や整備用のバッタが資材の入ったパレットを移動させている。

その流れを見て指示をしている人間の一人がこちらに気付きやってくる。

「月臣源一郎少佐ですね?」

小さく敬礼するつなぎをきた男性。

「ああ…君は?」

「ここをまかされとるもんです。ご案内します」

たっと地面を蹴ってある方向へ進む彼に付き従い、向かう。

マジンシリーズや四神が立ち並ぶ中・・・一機の機体へと向かう。

「これか…」

「そうです、四神22型。21型のマイナーチェンジバージョンです」

さほど変わった様子は見えないが…

「ああ、基本的なのは21型と変わりません。ですが…」

艦載タイプ、という言葉に納得。確かにウィングが折りたためるような機構が取り付けられている。

「多少反応は鈍いですが…その分きつく扱えるようになっとります。えーと、機付は…水橋!!」

はいな、と応える声。しかしその声色は…

「女性?」

「ええ、彼女が担当…」

「水橋 時雨一等兵曹や。よろしゅうなー、少佐はん」

ツナギを来た三つ編み女性が手を振りながら、こちらへやってくる。

そこで微笑みつつ送り出した少将の顔を思い出す。

あの笑みはこれも含んでいたのだ!!
もっとも、気付いたところで後の祭であったが…。



同 <サジタリウスα>基地 医務室
さて、アレから2日たった。

助けたことは後悔していないが、目立ちすぎたのは反省するべきだろう。

あの後、もみくちゃにされたり感謝されたりしたことでいやおう無しに目立ってしまっている。

サイレントアーミーには好ましくない状態だ。
今のところなんともないし、上からもお咎めなしだが・・・

(なにかとかんぐる人間が出てくるだろうな・・・)

あとであの中佐(先のエリシウム攻略の功で、キリシマ・シュウ少佐は中佐に昇進しております!閣下!)に話しておくべきだろう。
気は進まないが・・・

「まぁ今は・・・私用優先だ」

医務室の扉を叩く。面会の受付にチェック・・・部屋は、こっちか。

2日前、助けた女性が少々気になった。

もう意識は取り戻して、検査入院になったらしいが・・・一度、見舞いには顔を見せておくべき、とミスミ一等兵に進められた。

ロッドマン曹長も、それに賛同したのかPXから買ってきた果物の詰め合わせを持たせてくれた。

「わりと、私もミスミくんもお世話になっている子だしね? 装備課一同ってことで行ってきてくれないかな?」

もちろん、自分の分は用意しておくべきだね、と付け加えられ渡されたそれを片手に持って部屋を探す。

「…ここか」

該当の部屋をノックする。

どうぞ、という声が…しない?

「留守…か?」

はてさて、どうするか…

自分で負担した花も果物もナマモノだ。この場においていってもお見舞いの品として受け取られるだろう。

「うん、置いていこう」

どこかから『フラグへし折りやがった!?』とか言う声が聞こえた気もするが、無視。
扉開けたら着替え中とかそうゆうのはゲームの中だけだ、と言い返しておく。



ふと風を感じた。廊下の窓が開いている。

「火星にも春一番か…」

周りの地理を知っておくのもまた一興か…。
彼は外を歩いて格納庫へ戻ることを決めた。



同 <サジタリウスα>基地 敷地内
と思ったのもつかの間、多少後悔を感じた。

「味気ない上に、設営中だから仕方ない…とはいえ」

建築機械が資材を運び、組み立てる音も加えてどこまで眺めてもひたすら同じような光景の続く火星の地理を見ていても何かの参考になるわけでもない、と気付いたのは歩き始めて3分もしないころだ。
(基本的に火星はひたすら赤土舞う荒野か海か氷だ)

「やれやれ、どうしたものかね」

これならば午後に休みなんか取る必要はなかったな。
時間があまりすぎている。
かといって昼間から酒場や遊技場というのも…。

「ん?」

ふと視界に赤や青と違う色を見た…気がした。

かといって建設機械や建物のカラーでもない。

淡黄色。

「人か…」

フェンスに寄りかかって周りを眺めている…髪の長さゆえに女性だろうな。

…こちらが立ち止まってみているのに気付いたのか、やってくる。

「こんにちわ。いい天気ですね」

微笑みつつ、こちらに挨拶してくる。

「ああ、こんにちわ」

適当に相槌。だが…

「天気が良すぎて詰まらん、と思うがな…」

そう? と彼女。

「風がある分気持ちいいと…」

へくち、とくしゃみ。
その様子に思わず嘆息。

「そんな薄着で出てくるからだ」

自分の上着をかけてやる。

「あ、いや、悪いですよ」

「この程度で風邪を引くほどやわな鍛え方はしていないよ、お嬢さん」

軽く肩をすくめて見せる。

彼女は少し迷ったようだが、なら遠慮なくといってそれを羽織る。

「やっぱり男物は大きくていいですね…ちゃんと羽織れるや」

どうゆう意味と思い視線を下げて…ああ、立派なものをお持ちで。

彼女はにまっと笑い、セクハラですよ?と軽く小突く。

すまないと、軽く礼。

そのまましばらく談笑する。
その中で…

「エステライダー?」

「むしろドライバーの方が好きですけどね」

基本的に空間騎兵隊は空や海の影響が強いため、〜ドライバーと呼称することが多い。

〜ライダーは陸の流儀だ。

陸長いんですか?と尋ねられる。

まあね、と頷き、陸戦隊といっておく。
(元部署であるし、サイレントアーミーのあるSOF第9大隊は流石に言うべきではない)

…風でてきたな。

「もう戻ったほうがいいだろうさ…」

「ああ、そうですね…」

上着を返そうとしてくる彼女を構わないと制す。

「でも返すのに…」

「中央格納庫の装備課にいるよ、ダテ・タカヒロ中尉だ」

わかりまし…、といいかけて凝結。

「ちゅ、中尉殿でしたか!? す、すいません。私…」

突然おろおろし始める彼女。
それに軽く微笑んで、私は私用、お嬢さんも入院中だろう? だから気にするなと返す。

「…あー、そうでしたね。では中尉、私はセレナ・ファルマシア少尉です」

うん、では少尉。送っていこうか…

そのとき、聞きなれたサイレン音。セイレーンの叫び声。

「ちぃ!?」

わぷ!?と驚く彼女を押し倒した直後、爆炎。そして衝撃波。

「て、敵襲!?」

遺跡急行・・・だろうな。

上空を数機のバッタが通過。予想通り、空荷状態のハードポイント。さらに側面から増設されたブースターの青白い光を見せつつ飛び去っていく。

遺跡急行。極冠遺跡周辺の野戦基地から発進して、周辺の基地へ低空侵攻を仕掛ける嫌がらせ攻撃の典型パターンだ。

即スクランブルされた<レイ>や空戦エステが離陸していくが…、無駄だろうな。
嫌がらせの後は全力逃走するバッタを追尾・捕捉するのは至難の業だ。

「大丈夫か?」

押し倒したセレナに手を差し伸べる。
ええ、とこちらの手を持って立ち上がる彼女。周りを眺める。

「…なんとかならないんですかね。この睡眠妨害」

迷惑そうに彼女。
その様子に肩をすくめて対応。

軌道上の衛星網は今だ再建ならず、空中のAWACSは激戦区で引っ張りだこ。
加えて高度なステルス超音速ミサイル、識別名称である連合兵装コード(UNionrmコード、アンアスコード)でいうところのSS−N−141<スイッチブラック>の迎撃自体も難しい。

まあ、そのうち何とか…

携帯端末が震動。取り出し着信内容を確認。

「ん、すまない。送っていきたいところだが…」

ああ、いいですよと彼女が手をぱたぱた振る。

「任務があるでしょうし、一人で帰れます…ご武運を」

敬礼に返礼を返し、その場を後にする。

走りながら気付く。
入院中のエステドライバー…はて、どこかで聞いたような。

その思考は疾走の中で火星の春一番へ溶け出し、消えた。



同 ブリーフィングルーム
「作戦内容を説明する。
雇い主はいつものキリシマ…」

「任務内容は簡潔にお願いしたとおもっているのですが」

何か始まる前にキリシマ・シュウ中佐の言葉を遮る。
彼が軽く肩をすくめ、いつもの調子に戻る。

「おとりになれ、以上」

殺意が沸いた。
思わずにらみつける。

「おお、怖い怖い。だがその目、反抗罪で重営巣入りしても文句いえんよ?」

舌打ちしたい衝動を抑え、詳しい任務内容を求める。
彼は大変結構!!とにこりと笑いつつ、任務内容を説明し始める。

―――兵器工場の攻撃の陽動。

端的にいえば件のミサイルの生産工場を叩く作戦があるので、その陽動のおとりを勤めろ、ということだ。

少数機で。

ムチャな…。

「少なくとも地下施設の生産工場を単機で襲撃しろよりはましかと思うけどねェ」

それに今回は…と中佐は続ける

「僚機に後方支援…前回よりは大分ましだろう?」

敵も無人機ばかりだ。簡単でしょう?

拒否権は…もちろんなかった。

その応えに満足したのか、彼は任務は10日後、ミッションプランは5日前までにと伝えてその場を去っていった。

後に残ったのは…自分と、随伴部隊や各種後方支援の資料。

冷えたコーヒーを飲み干し、そのままがつんと力任せでテーブルに叩きつけ悪態。

その際に資料が落ちる。

「ああくそ、こうゆうときは何でもうまく…ん?」

床に散らばった資料の一枚、それに見覚えがある女性の顔写真があった。

「…何の縁なのやら」

軽く閲覧してみることにした。



3日後、ダテ・タカヒロ中尉はミッションプランを提出し、それはキリシマ・シュウ中佐に承認された。
随伴部隊は第4中隊第3小隊、小隊長の名前は…セレナ・ファルマシア少尉だった。




―――To Be Continued



〜〜〜〜〜




おまけの小ネタ(ACfA企業ルートより、ORCA旅団の声明を改変)

2201年、多くにとって突然にそれはおこった。

正体不明の、機動兵器によるヒサゴプラン施設への連続襲撃。
そのほとんどは成功し、地球連合はその計画を大きく揺るがされた。

そして、火星の後継者の名と、草壁春樹の名で、ごく短い声明が太陽系全体へ発信される。

To Unions Welcome to the Mars

それは、連合に所属するすべての人間への、明確な宣戦布告であった。

連合は、煮え切らない政治活動を放り出し、狂気のテロリストに対することを余儀なくされ
ジャンプ技術関係者は、自らが編み出した『ジャンプ技術』の恐怖に初めて気付いたかのように、それを恐怖するしかなかった。


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■作者からのメッセージ
あとがき
4話お待たせいたしました。

さて本番戦闘は次回ですが…出来うる限り早くお届けしたいものです。

ぶっちゃけ急がないと私が時間オーバーに(ry
(カムナビは6月からネット環境のない世界へいきますので、更新は遅くなりますよー)

しかし初期に目指したものとは多少違う風に…(遠い目
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