「……沢田、綱吉……?」
聞き覚えのない名に佐助は思わず顔をしかめる。氏《うじ》がついているくらいだ。相手はそれなりの身分の者なのだろうか、と少し焦りを感じ佐助は相手の頭を掴んでいた手を離す。
相手はよろめいて微かに滲んだ涙を拭っている。よくよく見ると相手は十五にも満たないであろう少年であった。背は低く、佐助の胸辺りに頭が来ている。少し大人気なかったか、と反省するも戦場ではこのくらい当たり前だ、と思いなおす。
「……で? ここはどこな訳? 氏《うじ》がついてるってことはそれなりの身分なんだ?」
冷たく睨む視線を止めずに少年――綱吉に問うと、もうすでに涙は乾いてしまった様子の綱吉は小首を傾げた。
「……氏《うじ》? 名字のことかな……。いや、そんなの皆普通についてるでしょ……」
佐助に聞こえてないと思っているのかそんなことを呟くと、わずかに困惑した顔を佐助に向けた。
「え、と……。ここは並盛町です」
「……並盛? どこそれ? 甲斐の近くなの?」
「かい?」
何だか噛み合わない会話を繰り広げている二人の空間に、再び扉をくぐり新たな人物がひょっこりと顔を出した。
「十代目! 奴はどうですか?」
「おっすツナ。あのオニーさんどうなった?」
短い銀髪に緑の瞳という変わった容姿の少年と、爽やか系といった風体の背の高い少年が姿を現した。
佐助はそれに思い切り警戒して、足元から両手で挟みこめるだけのクナイ――つまり計八本のクナイを素早く取り出して二人の少年に向けた。
「て……てめぇ! やっぱり十代目の命を狙っている暗殺者なんだな!?」
佐助の取り出した武器に銀髪の少年が反応して、どこからか筒状で火薬の臭いのする物体を取り出した。そして煙管の匂いのする小さい物体を取り出し口に銜える《くわえる》。火の出る銀の物で口に銜えている物に火をつけ――
「果てろ!!」
火薬に火を移した。
佐助は咄嗟に手にしたクナイ四本を、こちらに投げられた火薬に向かって飛ばす。火薬の導火線は見事に全て切り落とされ、火薬に火が到達することはなかった。
「ちょっ獄寺くん! 家の中で暴れちゃ駄目だって!」
「も……申し訳ございません十代目! しかしこいつが……」
綱吉が慌てて銀髪の少年――獄寺、と呼んだ少年に注意をする。獄寺は謝りはするものの、佐助をギラリと睨みつけた。佐助はそんな獄寺に冷たい視線を送る。
「まぁまぁそんなカリカリすんなって! 初対面の人をマフィアごっこに巻き込むのはよくないぜ?」
ニコニコと微笑んで能天気にそんなことを言うのは爽やか少年だった。獄寺は能天気な発言が癇に障ったのか、睨みつける相手を佐助から山本に変えた。
「何言ってやがんだこの野球バカ! どうみてもこいつは素人なんかじゃねぇだろ! それにいつも言ってるだろ! これはマフィアごっこなんかじゃねぇ!!」
「獄寺くん落ち着いて! 山本の言う通りだから……初めて会う人にいきなり攻撃しちゃ駄目だよ。この人にも何か事情があるみたいだし、ね?」
「じゅ……十代目! 申し訳ございません! 俺、まだまだ修行が足りませんでした!」
バッと勢いよくお辞儀をした獄寺に綱吉が苦笑する。
そんな"いつも通り"とでもいうように平和な空気の中、佐助は自分の顔がわずかに強張るのを感じた。
「……ねぇ。アンタたち、誰? 俺をどうする気?」
三人が振り向くとクナイを構えて殺気を垂れ流す。佐助の殺気に三人の少年たちはビクリと体を強張らせた。綱吉に至っては恐怖で顔が歪んでいる。
「……聞いてるでしょ?」
特段低い声に体を硬直させ、三人は完全に押し黙ってしまった。
無理にでも口を割らせるしかないのか……? と佐助が心の中で考えていると、扉から新たな気配――別の殺気を感じる。
「……誰?」
「さすがだな。おめーただのマフィアじゃねぇな」
高い声で現れたのは、漆黒の衣に身を包んだ――
一人の赤ん坊だった。