あれから、三ヶ月の月日が経った。
人を殺すという禁忌を破った俺が、何かが変わるという事もなくそのまま居られたのは、環境が良かったおかげかもしれない。
周囲の人々の俺に対する視線は特に変わることなく、そのまま向けられていた。
ただ、忘れてはいけないのは殺されそうになったから殺すというのはやはり罪であるという事。
この事を忘れては俺は自分を無くしてしまうだろう……。
ともあれ、この三ヶ月冒険の依頼を忙しくこなし続けたため、そう言う事はあまり考えなくてすんでいた。
これも仲間の気遣いだったのか、単にこき使われただけか判断に迷う所だ。
ともあれこちらに来てから七ヶ月、冒険者を始めて半年、つまりは、冒険者協会が新人のテストとランクの昇格試験を実施する日でもある。
「やっぱり皆も来たか」
「当然よ、私は一気にDランクを目指すわ。私一人でもDになれば、公国内のどこでも関所がフリーパスだもの」
「まあ、俺も狙ってるけどな」
「ウアガもか、なるほどじゃあ俺もがんばらないとな」
「ホッホッホ、若いのう」
パーティのメンバーと情報を交換し合う。
ティアミスは気合いを入れているようだ、エメラルドグリーンの髪を紐で縛ってポニーテールにしている。
いつもとどう違うのかと問われたならば、いつもと比べて装飾品が少ないのだ。
服装もどちらかというと魔法使いのローブといった感じで、魔法の発動器として持ち歩いている指輪ではなく、杖を持っている。
魔法防御などを装飾品で補うのではなく、魔法の発動のしやすさ、また精度を上げる事を目的とした服装のようだった。
小柄な彼女の体から気合いが漏れてくるのが分かった。
ウアガは対照的に気合いが入っているのかどうかわからない、自然体とでもいえばいいのか、ある意味緊張感がない。
もっとも、武装はしっかりしてきているし受けるつもりはあるのだろう。
ニオラドのじいさんは、色々と小物を持ちこんでいる、薬師の試験なのだから必要になっても不思議ではない。
だが、異様に目立っているのも事実で薬師そのものが少ないという点もあるのだろうが、やはり異様ではある。
やはり、じいさんもランクUPはしたいと考えているのだろう。
因みに、前回は50人いた中、新人は20人いて合格者が12人だったらしい。
そして昇格試験のほうが30人、昇格試験は登録した職種やランクによって難度が違う。
ただし、現在のランクの2つ上までの試験を受ける事が出来、2つ同時に受けてもかまわない。
もちろん無料ではない、Eランクへの昇格試験は銀貨20枚(約2万円)、Dへは銀貨50枚(約5万円)かかる。
ついでに言うとC以上は金貨以上の価格になるため、試験を受けるために稼ぐ必要が出てくる事もあるらしい。
最も、ランクが上がれば仕事も高価格の仕事が増えるため、苦になる事は少ないらしいが。
ただし、2つ上のランクを受ける事が出来るとはいえ、実績が必要量に届いていない場合その時点ではねられる。
試験を受けるためには依頼回数や依頼難度が一定に達してる事が必要なのだ。
FからEへは依頼回数で10回、難易度制限はない。
EからDへも依頼回数は10回、ただし、全てパーティ用の依頼である必要がある。
冒険者がパーティを組みたがる理由の中にはそういう面も存在するということだ。
「つまり、Dを受けたきゃ銀貨70枚か、ちょっとした出費だな」
「まあね、でもDランクになった時の特典には代えられないでしょ?」
「関所の通行証を一回発行してもらうのも似たようなものだからな」
実際、一般人が関所を通るには、領主が発行する通行証が必要になる。
金額は所によってまちまちだがだいたい銀貨30枚〜金貨1枚くらいが相場らしい。
一応帰ってくることが前提なので往復用しか発行していない、税金を納める住民が減るのは困るのだ。
それとは別に商人に渡す年間フリーパスは金貨20枚以上が相場となる。
高い事は高いが、一般人はそうそう関所を通ってまで行き来しないし、
領主としても発行した以上その住民が安全だと認めたという事なので、もしその人物が妙な行動をすれば責任を取らねばならない。
ある意味迷惑料込みということらしかった。
冒険者協会は、その領主の迷惑を代わりに引きうける代わりに、Dランク以上の冒険者の行き来を自由としているのだ。
国家の運営に食い込んでいるあたり冒険者協会が持つ影響力の凄さを物語ってもいる。
ティアミスは視線を肩に落とす。
そこには冒険者を示す魔法の刺青(いれずみ)があった、直接肌に書いているわけではないので刺青というのもおかしいが。
一本線が引かれただけという何とも物淋しい証は俺達が下っ端である事を示しているといっていい。
「まあ実際、Fランク冒険者用の一本線の刺青はそろそろ卒業したいところよね」
「そうだな」
「まあ問題ないじゃろう、実績は十分積んだはずじゃからの」
そんな会話をして試験会場で別れる、以前もそうだったがランクの昇格試験も同じく付いた職種によって会場が違う。
俺は剣士なので、ウアガとは途中まで同じだが、試験そのものは別だ。
そういえば……あいつも来ているのかな?
「あっ、シンヤ。久しぶり」
「ウエインやっぱり来てたんだな」
「うん、まだランクを上げるのは早いとか言われたけど実力を試したくてさ」
「ま、そうだよな」
ウエインは細身のひょろっとなよなよな剣士だ、だが、甘いマスクの割に鋭い剣さばきを持っている。
身長も俺より低いし年下のこいつにだが、正直俺はかなわない。
10本の練習試合中1本とれるかどうか、その上まだまだ余裕がありそうだった。
それにしても、ウエインも自信がついたのか最近は丁寧口調から少し砕けた口調で話すようになった。
一応年上なんだが、あまり意識されていないようだ。
そりゃまあ、ウエインのいるパーティメンバーはどいつも凄いのばかりのようだから仕方ないかもしれないが……。
こいつにはいつか追いつくと決意してもいる、理由はいくつかある。
だが、最も大きいのは年上の威厳を示したいというものかもしれない。
まあラドヴェイドのサポート込みでだが。
「さて、剣士は3Fか……」
「口頭はもう終わったの?」
「ああ、2分で済ませた」
「そか、じゃあ先に行ってて。僕も済ませてくるよ」
「おお、さっさと来いよ」
だが、実際にウエインが来たのは30分以上たってからの事で、殆ど他の奴らの試験が終わり俺の番まで回った頃だった。
口頭で苦戦するというのはどういう事情なのか、あれか 色っぽいネーちゃんが試験官やってたからついつい長居したか?
だいたい、落ちたらここにいないんだからそう言う感じの事しか思い浮かばなかった。
兎も角、俺はまた試験官殿と対峙することになった、もちろん試験官はボーディック・アルバイン。
Dランクの剣士で俺の剣の師匠でもある。禿げ頭に、褐色の肌、ごつい髭というトレードマークの40男。
俺は今まで師匠に勝てた事はない、もちろん、今回も勝たなくてはいけないわけじゃない。
だが、今までと違う所を見せなければいけない。
何故なら、今までの俺は剣士として失格だが、ラドヴェイドのサポートのおかげでしぶといという状態だった。
しかし、流石にしぶといだけではこれからやって行くのは難しいだろう。
師匠もそう判断するに違いない。だから俺は剣術でも光るものを見せなければならない。
そんな決意を秘めながら、俺は試験官たるボーディック・アルバインと対峙する。
「師匠、俺がどれだけ強くなったか、見ていただきますよ!」
「フンッ、半年前ドベ合格だった貴様がまともに使えるようになってるとは信じられんな」
「男子三日会わざれば刮目してみよ! ってね、結果は戦ってからでも遅くないでしょう」
「お前の国の諺か? まあいい、口先より剣で語れ」
「もちろん!」
そして俺と師匠は対峙する、以前とは違い俺も構えはそこそこ堂に入っているはずだ。
師匠もそう感じたのだろう、以前のように無造作には攻撃してこなかった。
こちらの隙を探りながらじりじりと近づいてくる。
俺もまた師匠に隙がないか神経を張り巡らせつつじりじりと近づく。
俺はこの半年で数年分の修行を積んだと自負している。
ラドヴェイドのおかげでスタミナに制限がないのだ、疲れても疲れても、筋肉がパンパンになるまで修行出来る。
しかも、寝れば回復している、筋肉痛は残るが……。
だが、それでもこの世界の人々は基本自動車も電車も使わないし、コタツにも冷房にも世話にならない。
畑仕事にトラクター、草刈り機、噴霧器等の作業機械を使う事もない。
何が言いたいかというとそれらを全て手動で行っているという事。
体力の基礎値が違うのだ、だからようやく追いついたという程度に過ぎないだろうという事も自覚している。
その上で、師匠から一本取るくらいはやって見せないといけない。
俺は、隙を探りながらただ近づくのでは対応スピードで負けるかもしれない事を自覚し、先に突いて行くことにした。
「せいっ!」
「甘いわッ!」
師匠は俺の突きを跳ねあげることで捌こうと下から剣を切り上げてきた。
俺は、殺気ならぬ師匠の闘気を感じ、更に現在の体勢を考え次の手を読んで剣を立てつつ体を沈める。
師匠は跳ねあげた剣を斜めに振り下ろし、俺を止めようとする、しかし俺は既に駆け出していた。
上からの袈裟がけは完全に回避できず刃を潰してあるとはいえ、掠った肩はヒリヒリ痛む。
しかし、それを無視して踏み込みながら突きを繰り出した。
「ウォォォォ!」
「なんのっ!!」
剣を引きもどすのは無理と知って師匠は柄の部分を使って剣を捌こうとする。
もちろん、俺とてその動きは見えている、しかし、既に突きを放ち始めたところから体勢を変えるのは無理というものだ。
だがこのまま防がれれば、動きの止まったところに一太刀で終わってしまう。
俺は、自分から体勢を崩すことで無理やり突きの軌道を変化させた。
「なっ!?」
俺は転びながら師匠の腹のあたりに一撃入れる。
とはいえ、そこは鎧が防御している部分、まっすぐ突き入れたのならともかく、転びながらではさほどの力は発揮できない。
結果的には鎧にはじかれただけで終わった。
その上、結局振り下ろしで一太刀もらッてしまう始末。
色々と頑張った割にはしまらない結果だった。
「はぁっ……はぁっ……一本とれたと思ったのに……な……」
「フンッまだまだ甘いわ、無理やり軌道を変えてきたのは面白かったが、捌きが拙すぎる」
「じゃあ……駄目っすか……」
「不合格……と言いたいところだが、一応剣は届いたからな。合格にしておいてやる」
「……へ?」
「ん? なんなら不合格でもいいんだぞ?」
「いえ! ありがとうございます!」
おお、やった!
これでEランクに昇格が決定した!
ペーペーの新人から実績のある新人にということになるわけだ。
しかし、Eランクがここまでぎりぎりだったとなると少し次が心配ではある。
「だがおめぇ、Dランク試験も希望したって話だが、本気か?」
「ええ、一応。駄目で元々やってみなきゃ損じゃないですか」
「おめーなー……、この試験は怪我人も毎年出てるんだぞ、実力を把握してからにしろ……おい、ウエイン」
「あっはい!」
「お前の番だな、シンヤ下がってみてろ。実力の違いってやつが分かるはずだぜ」
「……わかりました」
俺は仕方なく下がって2人の試験を見ることにした。
2人の戦いは、言ってみれば拮抗していた。
互いに隙をついて攻撃し、いなし、捌き、体勢を崩そうとする。
その動きは俺と違い無駄がなく、それでいて鋭い。
ただ、実力的にはまだ師匠のほうが上なのだろう、師匠に数本いれられてからようやくウエインは一本取った。
「どう思う?」
「……俺はまだまだみたいですね」
「そんな事はないですよ、僕が一発入れるまでにかかった時間はシンヤの数倍になります」
「まあ、シンヤに言いたいことが分かったなら十分だ。それでも行くか?」
「……はい」
どっちにしろ、試験を受けてみるしかない、2人の域まで行くのにどれくらい時間がかかろうと。
俺にとっては今はこれが全てといってもいいのだから。
「なら奥へ行きな、Dランク試験の試験官は俺じゃねぇ」
「え……師匠じゃないんですか?」
「Dランクの人間がDランクの試験をできるわけねーだろが」
「あっ、ああ、それもそうですね……」
その言葉に押され、俺とウエインは奥の部屋へと向かった。
そこに立っていたのは……。
銀髪碧眼引き締まったボディの巨乳戦士、服装はビキニ鎧という特徴的すぎる容貌。
ウエインの所属しているパーティ、銀狼のリーダーである……。
確か、受付のレミットさんがセインと呼んでいたのを聞いたことがある。
「ほう、ウエインお前も来たか。存外ボーディック殿も甘いな」
「そう言われるとつらいんですけど……」
ウエインは銀髪の女剣士にそう話しかけている。
彼女の髪は一見ボーイッシュなショートヘアに見えるが後ろだけ束ねて腰のあたりまで伸ばしている。
また、肌は褐色系で色が濃い、瞳は鋭い目つきと蒼い瞳が印象的だ。
ビキニ鎧は彼女の体を覆い切れているとはいえず、露出過多に見えるが、マントで背後は隠しているため前方からしか拝めない。
そして、彼女の持つ剣は身長と同じくらいはあろうかという大剣だ、
恐らくはグレートソードと呼ばれる重量級両手専用の剣だろうが筋力がず抜けてないと振れない代物。
それでまともに戦おうというのだから、恐ろしい。
いくら訓練用に刃引きされているといっても、あの重量で頭にでも当たれば即死だ。
そんな事を考えつつも、やはりビキニ鎧の隙間からちらりと見える下乳のあまりの白さにクラっと来ていたりする。
こんなときでも自己主張とは……俺も、健全過ぎるな……。
「ともあれ、まずはそっちの……確かシンヤだったか。お前からだな」
「はい、よろしくお願いします」
俺は呼ばれた時には雑念を排除し、兎に角、できるだけ師匠やウエインに近い動きが出来るように心を研ぎ澄ませた。
しかし、開始早々セインの攻撃は無造作に片腕でグレートソードを振り下ろすというものだった。
俺はその怪力っぷりに度肝をぬかれるが、流石にそのまま病院送りにされるつもりもない。
転がるように避けて距離をとる。
一つ分かった事があった、彼女には闘気がない。
完全に舐められているだけか、それとも気配を断つ事が出来るのか、どちらにせよ俺にとっては凄まじく不利だった。
だが俺も、気配から攻撃を察知できない敵というのも既に何度かあったため、対処法もないではない。
「まともな戦い方じゃないですが、ご容赦をってね」
「ほう」
俺は、相手の振りかぶる動作に合わせて持っているロングソードを振りかぶる、
お互いが大上段に構えた状態を見れば誰が見ても撃ち落とし勝負に出ると思うだろう。
撃ち落としというのは、相手が剣を振り下ろすのに合わせて振りおろし、相手の剣を叩き落とすというもの。
早く振り下ろしすぎれば相手の剣に叩き落とされる、遅すぎれば相手の剣が普通に振りおろされこちらが真っ二つ。
上手く同時に振り下ろしても、下手にタイミングがぴったり合ってしまうと、力勝負になり俺では力負けするだろう。
俺が勝つには、コンマ数秒相手より後に振り下ろし、相手の剣の上から剣を叩きつけるしかない。
あくまで撃ち落とし勝負をすれば、だが。
「私に撃ち落とし勝負を仕掛けてきた根性は認めてやろう。これで勝てばDランク認定とする」
「それはどうも」
「シンヤ、正気か!? 剣の質量差でまともにぶつかれば必ず吹き飛ばされるぞ!?」
「まあ普通ならな」
「こら、集中しないか。いつの間にか切られていたでは話にならんぞ?」
「はい、よろしくお願いします」
ただ、撃ち落とし勝負と思われたせいで、セレンは大上段の姿勢を崩していない。
正直ビキニアーマーの大上段は目の毒でもある……いらん所が元気になりそう……。
俺は、大上段に構えたまま、相手が動く気配を探りながら、しかし、少しづつ間合いを詰める。
既に一撃の間合いに入っている、いつ打ちおろされてもおかしくない状況で、俺はじりじりと間合いをつめた。
セレンはそれを見て、ニヤリと笑う、間合いを詰めるのはグレートソードを封殺するためだと読んだのだろう。
その次の瞬間には凄まじい勢いでグレートソードが振り下ろされていた。
俺は、仕掛けがうまく行った事を悟る。
グレートソードは俺の脳天に向けて確かに振りおろされており、俺が今から剣を振り抜いても間に合わない。
だが、俺は既に靴を蹴り上げていた。
靴は狙い過たずセレンの顔へと向かう、だが、セレンは回避せずそのまま振り抜く事を選んだ。
しかし、その事で視界が失われほんの一瞬動きが鈍る。
俺はその一瞬をついて剣の腹に柄を叩きつけた、振り下ろすほどにスピードはいらず、相手の隙をつきやすいと言う点を考えての事だ。
それに、柄ではじいたことで、俺の構えは維持されている。
少し斜めになりはしたが、そのまま剣を振り下ろす。
「ああああっっ!!」
「シャァッ!!」
しかし、いつの間にか逆に俺の方が空中を舞っていた。
グレートソードを横に逸らしたまでは良かったのだが、
振り下ろしたその剣の軌道を横向きに強引に変更し、今度は横腹に向けて叩きつけられたのだ。
強引さも極まれり、体勢などお構いなしである、実際、俺を打ち払った彼女はたたらを踏んで肩膝をつく。
しかし、俺の方はもっとひどい、剣の腹とはいえ、脇から打たれたうえ吹っ飛ばされたのだ。
確実に肋骨にヒビがはいっただろう、ラドヴェイドのスタミナサポートがなければこれだけでも数週間は動けないはず。
正直息ができなかった……そして、流石に回避こそできなかったものの、その攻撃からは凄まじい闘気が感じられた。
やはり、押さえていただけのようだった。
「なるほど、奇策だな……しかし、力でねじ伏せられているようでは意味がない。
面白かったとは思うが、合格はくれてやれないな」
「それ……は残念……です……」
「減らず口だな、だが、そう言う所は面白い。ウエインもお前くらいガッツがあればな。
折角だ名前を聞いておこう、私はセイン・マクガーレンだ、お前は?」
「しっ……四条芯也(しじょう・しんや)……」
「ふむ、暫くそこで寝てろ。後でウエインにでも運ばせよう。さて、ウエイン。
お前も何か私を驚かせてくれる事を期待するぞ」
「……頑張ってみます」
完全に前座扱いだったが、名前を覚えてもらったのは悪くなかったかもしれない。
それにしても、こうまで力だけで翻弄されてしまうとは……。
恐らく、セインはまだ技と言えるものを全く見せていない。
俺は奇策を使ってまで戦ったと言うのに……戦力差が大きいのは感じていたが……。
それにしても、ウエインはこんなのを相手に日々特訓をしているのか、それは成長もするだろう。
セインとウエインの決着がつくまでの時間は2分少々、やはり俺の倍以上は持っていた。
ウエインの実力は確実に上がっているな。
俺も達人にでも師事すればもう少し成長スピードが上がるのだろうか?
それともやはり才能の差が大きいのか。
その辺はわからないが、このままでは追いつくのがいつになるのか想像もつかない。
医務室へ向かうのにウエインに肩を貸してもらいながらゆっくり歩く。
骨にひびが入っているのだ、そりゃ痛い。
会話はかなりしんどいのだが、ウエインのほうから話しかけてきた。
「僕も駄目だったみたいだよ」
「……でも俺よりは実力があるだろ?」
「そうでもないよ、君の成長、半年前と比べれば段違いになってるよ。
あの頃はまだ剣を握っただけの素人だったけど、今は僕とそう変わらない所にまで来ていると思う」
「……そうか?」
「剣の質は違うみたいだけどね、僕はどちらかというと剣の型を突き詰めていくタイプ、君は自分流にアレンジしていくタイプじゃないかな?」
「どういう意味だ?」
「僕は型を突き詰めるから、相手の動きに対処しやすく、だけど読まれやすい。
君は自分で型を作るから、読まれにくいけど失敗しやすい。そう言う事」
「なるほどな……」
実際俺の剣術は3つの者をミックスしたものだ、それは無茶苦茶だろう。
一つは元いた世界でのうろ覚えの剣道知識、もう一つはラドヴェイドの語る攻撃一辺倒の剣術とも言えないもの。
最後はもちろん、師匠から習った実戦的な剣術。
この3つのうち使いやすいものを適当に組み合わせ、更に使いやすいように突き詰めたのが現在の俺の剣術だ。
つまり、原型がない物も多く、とっさの場合奇策に打って出る事も多くなる。
結果的に相手の意表を突く事もあるが、外すと手痛い反撃をくらってしまうというリスクがある。
なるほど、言われてみれば正統派とは程遠いな。
そんな事を考えている間にも医務室にたどり着く。
俺は結構何度もお世話になっている、しかし、長期間いたことはない。
あまりに早く治るため、違和感を持たれたくなかったからだ。
もっとも、これだけ何度もくれば既に怪しまれているわけだが。
「さて、僕はもう行くよ。早く治してまた稽古つきあってくれよ」
「ああ、俺ももう少し正統派とやらを研究しておくよ」
「僕も突発的な動きに対処できるようにならないとね」
そんな感じで別れ、医務室で医師と相対する。
この医師は回復魔法も使えるスペシャリストらしい。
そんなわけで、打ち身や、切り傷ならすぐさま治してくれる。
もっとも愚痴が多いのであまりお世話になりたがる人は多くないが。
だが、今回はろっ骨にヒビが入っているだろうから、すぐさまというわけにはいかない。
湿布を張ってもらい、腕を固定して全治3週間を言い渡された。
ラドヴェイドの事もあるので実際は1週間もかからないだろうが……。
だから俺はよく治療を途中で逃げ出すと思われているらしい……。
「あら、アンタも来たのね」
「ティアミス?」
良く見ると、体中包帯だらけにしたティアミスがベッドで寝ていた。
見た目ほどひどくはないらしく、全治一カ月といったところだそうだが、それでもかなりのダメージだ。
唯の怪我なら魔法で直してもらえる事を考えれば内臓か骨にダメージが行ったという事だろう。
「一体どうしたんだ?」
「ここのところ頑張って勉強してたんだけどね、精霊魔法でDランクを取得するのは結構きつかったわ」
「やったのか!?」
「ええ、でも無理しすぎたみたい……。暫く私は活動できないわね」
「そうか、でもそれ以後なら国内を自由に行き来できるんだな」
「ええ、でもアンタも結構やられてるじゃない」
「俺のは大したことないさ。回復力の高さはよく知ってるだろ?」
「まあね……ホントうらやましいわよ」
「俺は他の特技は少ないからな」
「嘘ばっかり。でもそうね、暫くはパーティでの依頼は控えるしかないわね。
別のパーティに臨時参加してもいいわよ」
「入れてもらえるのかな?」
「大丈夫よ、前に貴方や私がまともにパーティに入れてもらえなかったのは実績がなかったからだもの。
今、私達のパーティは新人パーティとしてはそこそこ名が知れているからね」
「なるほどな」
つまりは、信用問題というわけか。確かに命を預ける事もあるのだ、信用第一なのもわからなくはない。
ウアガやニオラドのじいさんには悪いが俺は出来るだけ急いで力をつけたいと考えていた。
人を殺すのが嫌だから、力をつけて相手を圧倒するという意味もある。
それに、どうにも最近色々ときな臭いのも事実、場合によってはまたてらちんらと敵対する可能性すら否定できない。
その時今までのように何もできずに終わりたくない。
それが今の俺の心境だった。
だから、パーティが動けないなら、他のパーティに暫く身を置いてもいいと本気で考えていた。