イカ、そう手足というか触手が10本出ている真っ白い生き物。
魔物……なのだろうか?
多分、魔物なのだろう、というか普通のイカは地上で動き回る事は出来ないはずだしな。
しかし、イカが白装束に見えたというのは、今までの冒険者が問題があったのか、それとも……。
(お前も魔族だから幻術をかなり減殺していると言う事だ)
「……」
うっすらと右手の目が開き、ラドヴェイドが小声で事実を教えてくれる。
正直、あんまりうれしくない話だが、現在は確かに役に立っている。
(勘違いするな、お前は我の力を受けて魔族になった、つまり魔王の血族と言う事になる。
能力も準拠して高いのが普通だ、しかし、元が鍛えられていない人間だったからだろうな、
魔王の血族とは思えない程度の身体能力しかない)
「……どうせそうだろうよ」
「何か言った?」
「あっ、いや……それで、どうやって捕まえる?」
「そうね……」
隣に来ていた中学生にしか見えない緑髪ポニーのハーフエルフ、
ティアミスがラドヴェイドとの会話を聞きつけそうだったので慌てて正面のイカに対する対策を話す事にする。
イカは浮いたりはしておらず、触手を使って移動している。
ただ、頭兼胴体は天辺の傘をきちんと上にしているため、軟体動物ぽくないのが印象的だ。
「盗品はあの触手で捉えているもののようですね」
フィリナ(アルア)もまた、イカを見る事が出来ているようだ、やはり精神抵抗の高さが決め手何だろうとは思う。
確かによく見れば、イカの一番太い2本の前足(?)には吸盤がついており、そこには財布や金貨、銀貨が張り付いている。
イカがそんなものを持ってどうしようと言うのか?
別の意味で非常に気になる話ではある。
「どれくらいの速さで逃げるのかは知らないが、正面からは遠慮すべきなんだろうな」
「噂が本当ならね」
「イカですしね」
「イカよね」
「イカだな」
俺達三人の意見は一致した。
ってまあ、この場合イカと正面から取っ組み合いをしたくないってだけなんだが。
大きさも1mを超えている、触手を含めると倍以上になるから2m強、ちょっと相手したくない。
あれに女の子が捕まるとらめぇーになる可能性も否定できないしな。
いやまあ、あれは、ゲームだから許されるのであって、実際に誰かが引っかかったら後が怖い。
裸見放題になると後でボコボコになっているのは俺のような気が凄くする。
まあもっとも、逃げると言う話だからそんな手で動きを止めてはくれないだろうが。
幸いまだ、イカは物取りに夢中のようだ、暫くは時間があると考えていいだろう。
「とりあえず、覚えたてだけど風の拘束魔法を試してみるわ」
「ああ、頼む」
「風よ風、力強き伊吹なす風よ。汝は何者にも侵されず。何者にも侵させず……。
って? 魔力が収束しない!?」
「恐らくこの結界のせいでしょう、今まであのイカが捉えられなかったのもそのせいもあるかと」
「……となると」
「罠を張っている時間はないわ。もうやれる事は……」
「仕方ないな」
「ええ」
結局正面から何とかするしかないわけか……だが、悪あがきするなら。
「ロープを使おう」
「なるほど、あれだけ足があるんですものね、引っ掛かりどころは大そう」
「しかし、つるんと抜けてしまいませんか?」
「引っかけ方次第だとは思うが、その場合、財布や金貨を取り落とすようにしてやると言うのはどうだ?」
「悪くはないですね……」
敵を目の前にしていながら暢気なものだと言う気もしないではないが、
相手は今のところ盗みに夢中だし、相手が自分の位置を把握しているとは感じないのだろう。
恐らく、この結界を仕込んだのはこのイカじゃないだろう。
イカが金を欲しがる理由が分からないし、魔法使いのイカというのも考えづらい。
俺達は持っていたロープ(以前ティアミスと谷に落下してからは常備している)の端を結び投げ縄の形を作った。
しかし、びゅんびゅんと回して遠心力をつけ投げつけようとしたその瞬間、イカと目が合ってしまった。
まずいと思ってすぐさま投げつけるが、軽い縄の事、遠心力が足りないためさほどの速度は出なかったし、
イカスミを発射されて更に速度が減殺されてしまった。
「まずい! ばれた!」
「ちょ!? 何投げつけてんのよ!!」
「目が合ったんだから仕方ないだろ!」
「そんな事より逃げ出しますよ?」
「あっ」
「げっ」
イカは既に逃走を開始していた。
それも走って追い付けるような速度ではない、ざっと見て自転車の全力疾走レベルだろうか。
触手な足を器用に使いまるでゴキ○リのように……すまん。
ともあれあんなものに対抗する事は不可能だ。
飛行の魔法でも使えれば別なんだろうが、結界の問題で飛ぶ事は出来ないだろう。
そして、イカが去って行った直後、霧が晴れてきた。
恐らく、イカが結界から出てもう維持する必要がなくなったと言う事だろうな。
「ニオラド! エイワス!」
「おおう、そっちにおったのか」
「ノォ!? いつの間に移動したのディスカー!?」
「お前ら幻惑されてたから」
「使えませんね」
「グハァ!?」
「あっ、アルアちゃんひどいのぉ……」
「貴方にちゃんづけで呼ばれる謂われはありません」
ニオラドとエイワスもどうにか気がついたが、相変わらずフィリナのツッコミが強烈だ。
俺に向けられていないのが幸いだが、最初の事を思えば俺を例外にしてくれる訳でもないだろう。
ってまあそこはどうでもいいんだが。
ともあれ、逃げた方向くらいしか把握できないが、明らかに海のほうに向かっていた。
海の中に財宝をため込んでいる可能性もないではないが、イカ自身が溜めこんでいるのでなければ誰かが持って行ったという事だろう。
そして、この国は商業の国、金の使い道には困らないだろう。
つまり、現時点で追うのは不可能に近いという事。
「やはり、魔法陣等の痕跡を洗うのが先決だろうな」
「そうは言っても、これだけ冒険者がいるのよ。既にその程度試してみたはず。
それでも見つからない以上、魔法の痕跡から追うのは難しいと思うわ」
「でもな……あのイカに気付いたのは俺達だけのようだが?」
「イカってなんじゃの?」
「私達は、キリの中にいったのデ、わからないのデース」
「実はね……」
ティアミスが2人に事情を話す。
にしてもエイワス……苦し言い回ししやがって……。
この世界の言語は一体どういう方向なんだか(汗
「とりあえず、周辺、特に海のほうに何か痕跡がないか探りましょ。
魔法の事もだけど、もしかしたら何かを落としている可能性もあるわ」
「流石リトルレィディ! 早速行きましょう」
「リトルッて言うなー!!」
「おお、お待ちくださいレィディティアミス!? 悪気はなかったのです!!」
ティアミスは殴りかかるが、エイワスは意外に軽やかに回避し続ける。
騎士というのはどちらかといえば重量級の鎧を着て盾を装備する防御職というイメージがあるが、
体格的に元々エイワスは小柄の上細身、シークレットブーツを愛用するような人間だ。
金髪の髪を肩まで伸ばし貴族的な服装を好む、とはいえ冒険者としては非常に困った服装ではあるのだが。
目立つ、防御力がない、小柄と、盾としては使い勝手が悪すぎる。
しかし、いざパーティで戦闘をしてみるとわかったのだが、防御が出来ないという訳ではない。
盾は持っているし、動きの素早さから後衛のフォローに回るのも早い。
あまり広範囲をフォローする事は出来ないが、盾としてはそこそこ役に立つというのがエイワスの印象だった。
そして、俺達は周辺の捜索を開始する。
他の冒険者たちは街道を調べているようなので、俺達は海岸線をメインに探す事にする。
イカが逃げ出したのが海岸線のほうであるし、イカといえば海でもある。
多少なりと手がかりになるものがあればいいのだが……。
ともあれ、いくら近いといっても海岸線までは1kmくらいはある。
つまり、段差を含めれば、街道の冒険者達が見えなくなる程度には離れていた。
「しかし、犯人はイカ……美意識がない盗賊ですね」
「盗賊に美意識を期待する貴方がおかしいのです」
「おおう、レディアルア、相変わらずきついお言葉……これは愛!?」
「いや、それはないだろ……」
「男は黙ってろですね」
「なら貴方も黙ってください」
「ノォォォ!?」
なんというか、エイワス……楽しい奴。
そして、フィリナも突っ込みにますます磨きがかかっていた。
正直あのフィリナさんと同一人物と疑う人間もいないだろうこれでは。
ともあれ、周辺海岸の捜索は日が沈む直前くらいまで続けられたが、収穫といえば海草を手に入れた程度だった。
仕方ないので、街道まで戻ってからキャンプを張る事にする。
海辺は潮風がきついので目にしみることもあるし、風もきついのでキャンプには向かない。
当然ではあるものの、街道には他の冒険者パーティも数組存在しているため既に休憩所の中もその周辺も一杯のようだ。
だから俺達はまたちょっと離れた場所にキャンプを張る事にした。
「それにしても、この依頼、結構人気があるのね……」
「盗まれるものさえ持っていなければリスクは少なそうだとは思うが」
「それでは単に飢え死にするだけではないでしょうか?」
「そうだぞ、ユーは考えなしだな、もう手遅れだろうが私のように……」
「手遅れはどちらですか」
「ガハ!?」
「おーおー、面白そうな事やってんねー」
突然声をかけられ俺達はびくりとなる、もっとも、ティアミスとフィリアは既に警戒をしていたようだが。
そう、いつの間にか夕食の鍋を囲んでいた俺達の間近に一人の男が立っていた。
風体は冒険者風といえばいいのだろうか、緑色を基調とした服装の上から皮鎧を着てバンダナをしている。
しかし、何より特徴的なのは、片目を怪我でもしているのかアイパッチ(黒い目覆い)をしている事か。
若白髪のような髪を肩にまで垂らしているせいか、20代のようにも40代のようにも見える。
これで表情が緩んでいなかったら背中に背負った弓も相まって警戒心MAXとなっていただろう。
しかし、男は軽くそして口の滑りも良かった。
「何者なの?」
「ありゃ、これは失礼!
お隣で野営してるパーティ、”栄光の煌(きらめき)”のレンジャーやってるフラッド・ノヴァレンスっていいます。
ザコいからすぐ忘れられるでアイパッチとかつけて強面気どってるんでよその所よろしく!」
「自己申告したら意味がないと思いますが」
「ありゃりゃ? そりゃそうか、でもまーお近づきのしるしって奴で」
そういってアイパッチをどけて見せる、確かに普通に目は見えているらしく特に視線が変な方向を向く事もない。
また曇ってもいなかった、つまりファッションという事だろう。
ともあれ、かなりなれなれしい奴だった、身長が180くらいのため、おどけた動きが大きく見える。
計算でやっているならかなりできると言う事になるが……。
「”栄光の煌”といえば最近かなりの勢いで依頼をこなしてるって時々聞こえてくるわね」
「”日ノ本”も結成から半年で関所を超える事が出来るDランクパーティになったって聞いてるっすよ」
「知ってて来たわけね」
「ザッツライト! 一度お目にかかって見たいと思ってたんで」
おどけた動きではあるが、こいつやはり油断がならないようだ。
なによりも、レンジャー技能で俺達5人から気付かれずここまで接近したのだ、それだけでも俺達よりも強いと言える。
本気になれば俺達のパーティは壊滅の憂き目を見てもおかしくないと言う事だ。
「それで? もう満足したの?」
「いやー、実は聞きたい事があってね」
「聞きたい事?」
「ああ、君達さあの霧の中で行動してたでしょ? おおよそだけど気配でわかったよ」
「……」
「それで海岸線のほうに向かったって事は犯人は海岸線のほうに向かったって事だと思うんだけど?」
「その情報をただで渡すと思っているんですか? 競争相手なのに」
「まーねー、今回のアレは被害が大きいから。冒険者仲間でも結構被害が出てるし、情報料なら出すよ」
「それよりもそちらの情報を対価として渡して欲しいわね」
「なるほど、冒険者どうしならやっぱそれが普通かね」
どこまでもなれなれしいが、ティアミスをリーダーと見抜いてか交渉はティアミスに絞っているようだ。
俺は傍目に見ながら鍋をつついている、フィリナやニオラドも同様、しかし黙っていない人物もいた。
「待てボゥイ、君はレィディに対する礼節というものをわきまえていない」
「ボゥイ? 俺の方が年上じゃないかな、そんな背丈で凄まれてもねぇ」
「ふん、礼節を知らない者をボウィと呼んでいるのだよ」
エイワスとフラッドはにらみ合いをしているように見えるが、エイワスは身長160程度なのに対し、
フラッドは180以上、つまり普通に立っていると、フラッドのあご先あたりにエイワスの頭頂が来る。
大人と子供とは言わないが、中学生と大人くらいは違う。
そして、必死にエイワスが格好つけようとすればするほど滑稽さが増してしまうという悪循環となる。
「騎士でも気取っているつもりかい?」
「気取っているのではない、私は騎士なのだよ」
「エイワス、黙っていて。今はパーティのリーダーとして私が話を受けているの。分かるでしょ?」
「しかし……」
「確かに彼は私たちの前まで気配を殺してきた、それはマナーが悪いわよねフラッド?」
「……確かに、初対面の君たちに対して好奇心でやりすぎた事は謝るよ」
「ならいいわ、それで? 交換できる情報はあるかしら?」
ティアミスのその行動は、リーダーとしての成長を見せつけるもので俺は感心していた。
実際なかなかああいう場を収めると言うのは難しいものだ。
両者の熱を冷まして、互いに求めているものを理解し、注意するか、あるいはそれを与える。
言葉にすればさほど難しくないように思えるが、大抵は激昂し話を聞ける状態じゃなくなっている。
タイミングが命なのだこういうものは。
もっともフラッドはどちらかというと、突っかかってきたエイワスをあしらっていた所があるので、
比較的早く落ち着いて話を続けることにしたようだ。
「そうだねー、こういうのはどうかな?
今まで取られたものは全て財布かその中の銀貨か金貨、もしくは金や銀の塊だけなんだ。
宝石でも金や銀の装飾が付いていないものは取られていないし、
美術品も同様、食料品や衣料品も全く手をつけていない。
こんな所でどうかな?」
「なら、私の方も対価を払うけど、信じるかどうかは貴方次第よ」
「へぇ、それは面白そうだ」
「犯人は2m級の巨大イカだったわ」
「イカ……ってあの海にいる?」
「そう、そのイカよ」
「陸地でまともに活動できないでしょ?」
「そうでもないみたいね、魔法でもかかっていたのか、魔法生物として生み出されたのか」
「ふーん、でもまあ白装束って言ってる奴らも完全に見えたわけじゃないらしいから分からないでもないか」
あごに手を当てて考え込むフラッド、それから適当に挨拶して去って行った。
情報は等価であったか定かではないが、一つだけわかった。
銀と金だけという辺りが明らかに人間に指示されている可能性を高めていた。
「あのイカやっぱり魔法使いの使い魔か何かね」
「その可能性が一番高いでしょう」
ティアミスとフィリアの考えもおおよそ同じのようだ。
だとすれば目的は3つほど考えられる。
1つめお金が必要だから。
2つめ金や銀という金属が必要だから。
3つめ治安悪化が目的。
だがまあ、3の可能性は低いだろう、3をしたければ人死にを出した方がいいはずだから。
その他にもコレクター等という可能性もあるが、コレクションするにしては無差別すぎる。
だとすれば金がいる可能性が高い、お国がらを考えても金がある方がいい人は多い。
となれば、金貨や銀貨ならともかく、塊や装飾品としての金や銀はどこかに流れているはずだ。
「次の機会に金や銀にマーキングをするというのはどうだろう?」
「マーキング……悪くない案だけど、他のパーティが既にやっている可能性が高いんじゃない?」
「そうかもしれませんが、一考の余地はあるかと思います。
魔法による探知の場合すぐに見つけられる可能性がありますが、
それを抜ける方法もない訳ではないですし」
「探知魔法のマーキングを見つからないようにする方法?」
「はい」
探知魔法、それは何種類か存在している魔法で、貴金属や魔法のかかっている物品、または魔法そのものを探す魔法。
罠のように悪意のあるものを探知する魔法、体温等を感知して相手の位置を探る魔法。
そして、マーキングをしたものを探知する魔法。
マーキングをしたものを探知する魔法は他の魔法と比べかなりの長距離まで有効なので便利だが、
マーキングも魔法なので魔法のかかっている物品を探す魔法でマーキングした物品を特定する事も可能だ。
それだけ捨ててもいいし、魔法を解除してマーキングを外すのもたやすい。
ティアミスが危惧したのはそう言う事だ。
それに対し、フィリナ(アルア)は対抗手段があると明言して見せた。
「どの道、あの霧の結界の中ではマーキング程度の小さな魔法なら減殺されて消えてしまいます」
「それはそうかもしれないわね」
「なので、対抗手段は2つあります。一つは魔法を使わない探査法を使う事、もう一つは簡単には消されない魔法を使って探査する事」
「どちらも難題ね……」
「しかし、消されない魔法なら何とか出来るかもしれません」
「何とかなるの?」
「確実とまではいきませんが」
「……」
ティアミスは考え込んでしまった、消されない魔法について考えているのだろう。
同じ精霊使いとして、自分が思いつかないのが少し悔しいのかもしれない。
だが、聞かなければ先に進まないと考えているのだろう、数秒の間を置き質問を出す。
「その方法は?」
「フラクタル魔法というものは知っているでしょうか?」
「疑似相似……だったっけ? 理論だけはあるって聞いたことがあるけど……」
ティアミスも困惑顔だ、よほど変わった魔法なのだろう。
フラクタルと言えば、有名どころでは三角の中に三角を無限に入れていくというものがあるが。
おおっざっぱに言うと内部にも外部と同じ構造があるものを指す。
大きさが違うのに構造が同じだから疑似相似と呼ばれたりもする。
だが、魔法における疑似相似とは一体何なのか、ちんぷんかんぷんではあるな。
「はい、知り合いの魔法使いがそれの使い手だったのですが、難易度はその魔法の難度に3乗します。
攻撃魔法等を使うには難易度が高すぎるのですが、マーキング等の簡易魔法なら或る程度使う事が出来ます」
「元の魔法の中に因子を仕込む事で同じ魔法をと言う事? でも使用する魔法量が半端じゃないわね……」
「その通りです。恐らくは精霊使いである私達2人でも足りないでしょう」
「じゃあどうやってするつもり?」
「魔法石を使います。少しばかり高くつくかもしれませんが、3個も用意すれば私達の魔力と合わせて十分ではないかと」
この話には俺も、エイワスもニオラドも参加出来ない、魔法が使えないのだからどうしようもない。
俺も魔族の力を解放すれば魔力が生成され、魔法が使えるようになるらしいが……。
人の世界では生きていけなくなるな……。
魔力をラドヴェイドに渡し続ければ復活も早くなって一石二鳥という気もしたんだが……。
どっちみち、魔力が漏れる事は同じなので人の世界では生きていけないとの事。
そうなると問題点が2つばかり浮上する。
一つは幼馴染達を発見する事が難しくなるという事。
一つは魔族としては中途半端な存在になるため冒険者の格好の的になる可能性が高いと言う事。
細かく言えば生活の問題も出てくる。
魔力の生成スピードは大したことがないらしいので、供給し続けても100年くらいは復活に要するとの事でもある。
メリットとしては身体能力の強化、魔法の使用、といった戦闘の役に立ちそうなものが多かった。
その代わり、生活は壊れてしまうという訳だ。
デメリットのほうがやはり大きい気がする。
今のところそれだけのデメリットを受けながら魔族として生活する気にはなれなかった。
そんな事を考えているうちにも会議は進み結果が出る。
一度アッディラーンに戻って魔法石を買ってから再チャレンジをする事にするようだった。
「ここからアッディラーンまではさほどの距離がある訳じゃないし、宿まで戻って休みましょ。
帰りついたら流石に深夜になっちゃうと思うけどね」
「レィディをお送りする事こそ騎士の務め、立派に果たして見せますとも!」
「夜は腰に来るから嫌なんじゃが……ウギャ!?」
「そういいつつ、スカートの下に手を伸ばさないでくださいエロジジィ」
「ふぅ…ふぅ……本気でつねる事はないじゃろうに……。アルアちゃんええ体しとるのにもったいないのう」
「少なくとも貴方に揉ませるためにあるのではありません」
「そうです。レィディのやわ肌に老いさらばえた老人が触れるなど言語道断!! 生まれ治ってやり直してきなさい!!」
「御免被るわい、しかし、お主元気じゃのう……」
ニオラドも感心しているが、確かに彼の空気読めなさップリかなりの物のようだった。
実際計算してやっているとも思えないが、空気を軽くしてくれているのは間違いなさそうだった。
キャンプをたたみ、夜行軍としてアッディラーンに向かう、馬車は別として他はあまり夜に動く事はない。
体力の問題もあるし、睡眠を取っていないと旅行ではきついし、モンスターも凶暴になる傾向にある。
動かないでいたほうが安全だからだ。
しかし、距離的にも大したことはないため、俺達は軽やかに宿にまで戻ってくる事が出来た。
といっても、宿に着いた頃はかなり深夜に近い時間帯になっている。
出来るだけ急いで東の灯台に向かわなくてはな。
もっとも、罠である事は確実、報復を恐れるからと言って正面からと言うのもありえない。
あんな使い手がゴロゴロいるような所に乗り込むのはそもそも馬鹿である。
皆今日の事は疲れているのだろう、すぐに眠りについたようだった。
とはいえ、皆が寝静まってからではないと、問題も残る。
相手の指定した時間にはもう少しあるはずだ……それまで策を練っていよう。
暫くして、フィリナが俺の部屋にやってくる、皆が寝静まったという合図でもある。
フィリナはこんな事になる前は一流冒険者だったのだから俺よりもそう言う意味では強みがある。
「全員寝たか?」
「はい……、しかし、これから東の灯台に行くのは推奨できません」
「確かにな、俺程度で相手が出来るのかどうか不安だよ」
「行けば確実に敗北し相手の思う通りになってしまうでしょう」
「手厳しいなフィリナは、しかし、行かなければパーティに被害が及ぶ」
「はい、恐らく。ですからここは夜逃げを推奨します」
「それが出来れば苦労しないよ」
「では何故しないのですか?」
フィリナは無表情なまま問いかけてくる、それは、生前の自分の行動の意義を忘れたかのような行動で……。
俺は一瞬目をそらしてしまった……。
それこそが俺の罪なのだから、殺人よりもさらに重い……その罪……。
「失礼しました……、私はマスターの下僕……意見等言える立場ではないですね」
「ああ、いや、そう言う事ではないんだけどな。まあいい、取りあえずもう暫くは作戦会議と行こう」
「分かりました」
俺はフィリナと意見交換し、現状とりうる作戦を全て検討した。
やはりそれは綱渡り作戦にならざるを得ない、今までもそうである事は多かったが、暗殺ギルドは巨大組織だ。
もしも、今その手を逃れる事が出来ても、この先また立ちふさがる事になる可能性は高かった。
しかし、そこまで考える余裕は現在のところない。
万全とは言い難い作戦をもとにして、それでも俺は奴らのいる場所へ向かうしかなかった……。