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ロストコントロール 第二話『サバイバル』
作者:13   2011/03/09(水) 21:45公開   ID:JHZjjd6HxsM
  〜六月三日正午『ダウナー』茜〜

 洞窟に一匹のサルがやって来た。
「おお、善吉じゃないかどうした?」
「善吉ってこの子の名前?」
「ああ、善吉は師匠のペットで都市とダウナーを行き来することができるサルで善吉が来たという事は、知らせが届いたことになる」
 善吉は一本の金属製の筒を取り出した。それを受け取ると大急ぎで洞窟から出て行った。
 筒を開けると手紙と何かの資料が入っていた。
「なんて書いてあるか読めない」
「しょうがないわね」と笑いながら手紙を受け取ると。
「えーと、『茜と蒼へ、元気にしているか、こっちは茜の父親が愛娘を心配して発狂寸前だ。あと生物兵器が放たれた。名前をヨルムガンドといってとにかくデカイ蛇だ。万が一茜が飲み込まれることがあったら殺すと言っていた。ということで茜が死んだらその場で腹を切れ。ヨルムンガンドと遭遇したらとりあえず殺せ、食べても問題ないから安心しろ、他にも生物兵器が放たれる危険があるので資料を送っておく。今はとりあえず私が行くまで茜を死守しろ。こちらもできる限りの事をする。あと出来る限り茜には快適な暮らしをさせろ、いいな、追伸近々そっちに向うから詳しい話はその時にする』だって」
 蒼は頭を押さえながらため息をついた。
「つまり、茜を守れという事だろ、あとオレ殺されるのか」
 ついこの間の事だった私はデッカイ蛇(ヨルムガンド)に捕食されていた。
「黙っとけば大丈夫よ。きっと、それに生きてるし」
 少し気が楽になったのか。
「師匠か……」
 めんどくさそうに蒼は虚ろ気味に吐露した
「そういえば師匠ってどんな人なの?」
 蒼は「どんな人か……」と言って少し考えて怯えるように言った。
「たぶん、肉弾戦で勝った事が無い……」
 私はそれを聞いて背筋が凍った。
「茜、ひとついいか?」
「なに?」
「……オレが茜を死守しやすくするためにやってもらいたい事がある」
「なにをすればいいの?」
 蒼は笑ってこう言った。
「少し基礎体力を上げてもらう」
運動は嫌いではないが得意ではなかった。
 洞窟を出ると蒼が背伸びをして言った。 
「基礎体力を上げるには走るのが一番いいので走ってもらいます。手始めに洞窟の周りを走りましょう」
 私は渋々走りだした。
「はぁ、はぁ、蒼もう無理走れない―――」
 死ぬ、絶対死ぬこれはもう無理だって。
 それを聞いた蒼は笑顔で言い放った。
「疲れるの早すぎだ。一周大体四百メトールくらいだぞ。あともう三周、はいはいがんばれ〜」
 蒼は三回くらい死ぬべきだ。
 三周走り終わるとその場に倒れるように座り込んだ。
「え〜、と四百を六回走ると……」
 その場で黙り込む蒼、ひょっとすると蒼はかけ算ができないのではと脳裏を過ぎった。
「二千四百メートルでしょ、そのくらい簡単よ、ひょっとしてかけ算もできないの?」
 少し馬鹿にしすぎたかな? いくらなんでも簡単な方程式くらいなら解けるかな。
「かけ算ってなんだ?」
 罪悪感を感じた自分が悲しくなった一言だった。
「かけ算ってニ一が二とか四四十六とか学校で習わなかったの?」
 蒼は頭がいっぱいなのか頭上にはてなマークが溢れそうだった。かけ算なら私は千の段まで言えるけど。
「師匠は、勉強は言葉だけ分かればいいからとりあえず生きろ、しか言ってねぇし、それにオレ二歳からずっとここで生活してた」
 無理もなかった、今日食べる物すら選ぶこともできなく、そもそも食べ物があるかどうか、それすらわからない状況で蒼は十七年間も生きていて学問を修める時間なんて微々たる物でしかない、そんな限られた時間で言葉を理解するだけでもやっとなのに数学や社会などを修めることなどできるわけがないよね。というか二歳でこの生活かい。
「じゃあ、私が勉強を教えてあげる」
「気持ちはうれしいけど遠慮する」
 それもそうだ、一人分の食料を獲るのですら苦労しているのにそれが二人分になれば倍苦労することになるし、それでは勉強の云々の話じゃない。
「そうよね……」
 少し落ち込んでしまった。それを見た蒼は頭を掻きながら言った。
「でもまぁ、少しくらいならメシの時にでも教えて貰おうかな、難しいのはあれだが」
 私ってさり気ない優しさに意外と弱いのではないのかと最近思い始めた茜十七歳の発見。
「話は変わるけどダウナーって蒼以外に誰か住んでいたりする?」
「さぁな、オレは時々来る都市の調査員や師匠としか話した事ないからな」
「じゃあ、恋愛系の話とかは駄目か……」
 一般の人は男女に関係なく恋愛系の話は好きなはず。特に女子はそう言った話に目がないのである。
「恋愛か、オレには無縁の極みだな。でも嫌いじゃない」
 意外にも恋愛が嫌いでは無いことが分かった。
「ひとつ聞いてもいいか?」
「別にいいけど?」
 なんだろう。
「オレって都市ではモテる方か?」
 しばしの沈黙の後に蒼の顔をじっと見る。今更だけど蒼はかなり顔立ちが良く髪は白く、目は紅いがむしろそれが顔の良さを引き出しているように見えた。簡単に言えば女性の五人に四人は振り向くイケメンさんである。そう考えるとクラスの友達に申し訳なくなった。
「まぁ、私が見る限りは寄り付かれる事はあっても笑われるような事は無いから安心して」
 蒼は、安心したのか「よかった〜」と口走っていた。 
「そいえば、なんで蒼って髪が白いの?」
「詳しい事は師匠に聞かないとわかんないがたしか色素障害の一種らしい。目も同じ理由になるな」
 本人が分からないのでは話のしようもない。
「この際だからいくつか質問していい?」
 愛想と上目使いを混ぜて聞いてみると。
「ああ、かまわないが」
 照れくさかったのね、指で首筋を撫でてる。
「じゃあ、軽いとこから好きな食べ物は?」
「海老と蟹あと貝類だ」
 意外にも普通だった。てっきり私は動物の肉とか言うのかと思っていた。
「好きな色は?」
「そうだな……黒ってとこか」
 普通だ。なかなか、おもしろい答えが出てこない。正直、質問に困る。
 蒼は吐息をつき言った。
「メシでも取りに行くか」
「あ、う、うん」
 いつもどおりあの湖に行くと蒼が服を脱ぎシャツと短パンに着替えた。 
「なにをするの?」
「泳いでデカイ魚や海老とか貝を獲ってくる」
 そう言って竹製の入れ物を持って湖の中に入って行った。
 仕方ない、岩場にでも行くか。
「おっ、貝見っけ」
 たまたまいた岩にくっついた貝を見つけると引き剥がそうとした。しかし、剥がれそうになった。
「あれ、おかしいな」
 その後、小一時間ほど粘ったが剥がれなかった。
「ダメだ、ぜんぜん剥がれない」
 諦めかけていたら蒼が帰ってきた。籠の中には巨大なカニや海老が入っていた
「お、アワビだ。珍しいな」
 天然のアワビって都市で一匹だいたい五万円くらいになる超高級食材だってテレビで見た事がある。
「これが、あの超高級食材の天然アワビ……」
 思わず生唾を飲んだ。都市はダウナーの介入を厳重にしているため天然のものは在庫が少なく、なんでも馬鹿みたいに高くなってしまうため私は勿論、食べた事が無かった。
「食べたいか?」
「うん」
 即答。目の前にある超高級食材を逃したくないもん。
「わかった、獲ってやる」
 余裕の表情を見せていた。いくら蒼でも無理でしょ。
「でもこれ全然剥がれる気配が無いわよ」
「大丈夫、こうすればな」
 アワビを岩ごと地面から引き剥がすという蒼らしいやり方だった。
 ナイフの柄の部分でくっついていた岩に亀裂をつくり剥がしていくとキレイにアワビだけが獲れた。
「にしても、この湖はなんでデカイな、海老やカニはもちろん、貝や魚まで」
 周りは膨大な森に囲まれ雨が降ればその養分は湖に流れ込む。下は海と繋がっていて餌を求め生き物はこの湖に流れ着くそれだけの話。
「言われてみれば私の見た事あるカニや貝はもっと小さかったし身もそこまで入ってなかったわよ」
 養殖では生簀の生き物は自由に動けず筋肉を使わないため実が詰まっていない。
「食べてみるか?」
 そう言って籠からカニの脚を取って慣れた手つきで身を取り出した。
「ほら、食べろ、せっかく殻をとったから」
 さり気ない優しさにスゴク弱いのではないのかと最近思い始めた茜十七歳の二度目の発見。
 カニの脚を食べてみると口の中に塩味と甘味が広がった。
「心なしか、ダウナーに来てからは高級食材を食べている回数が都市にいたときより増えている気がする……」
 蒼は、都市で暮らした事が無いのでよく分からないからか「そうか」と言っただけだった。
「これで、甘いものがあれば文句はないけどね。まぁ、贅沢なことよね」
 嗚呼、スイーツ食べたい

  〜蒼〜

 甘いものか。
「そろそろ、植物とか食べないと健康に悪いよな……」
 考えてみると野菜や果物をあまり食べていなかった。
「言われてみると……そうよね」
 オレは悩んだ結果こう言った。
「茜は、好き嫌いはしないよな?」
 首を縦に振る茜。
「そうか、それならいいんだ」
「ふーん」
「とりあえず帰るか」
 そう言って二人は帰った。
 オレは洞窟から出ようとした。
「どこに行くの?」
 険しい表情で言った。
「おもしろいものを獲って来る、危ないから茜は来ない方がいい」
 楽しみ待っていてくれ。
 洞窟を出ると花の咲いている木を探した。見つけるとその花を見始めた。
「ハチさん、ハチさんどこかな?」
 花の中を探すとミツバチを見つけ、しばらく眺めているとハチは飛び立って行った。それを見失いようにしながら追っかけて行く。しばらく追いかけるとハチは巣に到着し中に入って行った。巣はかなり大きかった。
蒼はその巣の近づき巣の表面をナイフで切り落とした。ハチは怒ったのか蒼に攻撃するがそれを無視してなかのハチミツの入っている巣を籠いっぱいに入れるとダッシュでその場から逃げた。なんとかハチの追跡を振り払い洞窟に帰ると蒼は竹で作った筒の中にハチミツを絞って入れた。ハチミツは竹の筒二本分くらいは獲れたな。うむ、なかなか。
「なかなか獲れたな」
 茜は、蒼が何をしているのかよく分からなかった。
「蒼、その液体ってなに?」
 手を洗いながら言った。
「ハチミツだよ。甘いものが食べたいって言ってたよな?」
 茜はアワビ同様に驚いた。
「ハチミツって都市では高級な食べ物なのよ」 
 オレはそんなことに興味は無い。
「そうか」とだけ言ってハチミツの入った竹の筒に入ったハチミツを茜の指先に乗せて筒に蓋をした。茜はおそるおそるハチミツを口に運んだ。
「おいしい……」
 思わず笑顔になっていた。
 蒼はふと焚き火に目を下ろすと茜に反応するように炎の勢いが強くなった。
(……気のせいか。だが一応やってみるか)
 蒼は深呼吸して言った
「……茜、実はそのハチミツは毒なんだ」
 茜は一瞬にして青ざめた。それに反応するように炎の勢いが弱くなった。
(やっぱり、なにかが変だ)
 顔を上げて見ると水滴が落ちていた。
(なんだ、水滴のせいか。驚かすなよ)
 ため息をついて茜の方を見ると、完全に固まっていた。大袈裟だなおい。
「あ、さっきの冗談だから気にするな」
 そのたった一言でオレは顔面に強烈なビンタを喰らった。また蚊か。
 その後、三日ほどオレは茜の機嫌をとるために湖や森を駆け回る事になった。

                            第二話終り


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■作者からのメッセージ
第二話の投稿です。今回はストーリを進めるというより、ちょっとしたサバイバル体験などのエピソードを入れた「一休みの話」です。次回はストーリーを進めます、三話ではいよいよ蒼の師匠が……

あと、コメントしていただき本当にありがとうございました十五才のつたない文章ですが。近々、コメントを返したいとおもいます。

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