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ロストコントロール 第五話『別離』
作者:13   2011/04/02(土) 21:38公開   ID:JHZjjd6HxsM
 〜九月一日午前七時『ダウナー』蒼〜

 日の光が顔に当たってオレは目を覚ました。隣を見ると月白が大きく背伸びして欠伸をしていた。

「お、おはよう」
「おはよう」

 二人は立ち上がり洞窟の方に向った。まだ、けだるいのか月白は少し猫背になっていった。
 洞窟の中に入った時、軽い揉め事が起こった。
 茜たちは車にあった服に着替えをしていた。

「お、茜おはよう」

 能天気に声をかけると蒼の顔面に灼熱の炎が襲いかかった。それを間一髪のところで回避した。

「ああああ!! やっぱり蒼にデリカシーは無いの、信じられない!」

 訳が分からなかった。しかし、茜の後ろに剣と雷と酸がすでにスタンバイされていた。
 四人の凄まじい一撃が放たれる瞬間、蒼の体がふわりと軽くなって後ろに進んで行った。

「まったく、女の着替えを見たら殺されるぞ。いろんな意味で」

 蒼を掴み一気に洞窟の外に月白が引っ張ってくれたのだろう。洞窟の入り口を見ると顔が青ざめた。

「危なかった……。ありがとう、月白」

 月白はため息をついて笑った。
 月白は『法則無視』という能力を持っている。そのおかげでいまのようなありえない動きが出来る。
 蒼と月白は、以前、食料調達に使っていた湖に行った。蒼はこの湖で魚とか貝とか海老とか獲って何とか生き延びていたと説明すると感心したように月白は頷いた。

「さてと、海老でも獲るか」

 と蒼は言って上着を脱ぎ湖の中に飛び込んだ。
 水の中は相変わらず心地良かったが水が冷たくなっているのに気づいた。

(そろそろ冬が近づいてる、水に入るのは止めておくか)

 そう思いながら底にいた海老を素手で掴み、陸上にあがった。

「デカッ! よく捕まえたな……」

 海老を見て驚いた月白。
 その海老の頭をバキリとむしり取ると殻を外しきれいに身を取り出した。

「さてと、いただきます」

 そう言ってエビの身にかぶりついた。それを見た月白は度肝を抜いた。
 

  〜『ダウナー』月白〜


 蒼の食事が終わったのを見て洞窟に帰ると茜たちが待ち構えていた。

「ただいま、朝飯食ってた」

 さっきのことをすでに忘れていたのか、のん気な顔をしていた。
 それを見て茜はイラだったのか、炎を溢れさせた。
 思わず蒼は息を飲んだ。

「で、今日はどうする?」

 ローレライが切り出した。
 ポケットからケータイを取り出すとローレライに向って放り投げた。

「オレと蒼と紫紺はこれから『タイタン』に向う夕方には帰る。その間に茜ちゃんたちはこの住所のところに向ってくれ」
「ちょ、ちょっと待って下さい、『タイタン』ってここから車でも三日かかりますよ。いくら月白さんの能力が強くても二人を運びながらでは限界あるんじゃないでしょうか?」

 遮るように茜は言った。

「そうだな、確かにオレの能力は強力だ。本当は、体の小さい萌葱を連れて行きたいが、少々問題が……」

 オレはため息をつき、頭を抱えた。

「じゃあ、蒼を置いていけばいいだろ」

 ローレライがめんどくさそうに言った。

「それだと、『ガイア』に指名手配の蒼を連れて行くか?」

 蒼以外の全員が吐息をついた。

「決まりだな、蒼と紫紺はこのロープで体を固定しろ」

 紫紺と蒼は体をロープで固定すると月白が二人の体を持ち上げた。

「何かあったら、そのケータイで連絡する事」

 目を閉じ物理法則を計算して地面を蹴った。
 地上から五十メートルほど跳躍するとタイタンの方に向って力のベクトルを変えた。

「ま、ま、待ってくりゃれ、わっちはこんな速さを体験したこと無いでありんす!」

 このスピードに慣れていない蒼は何かのアトラクションのように楽しそうに笑っていたが、紫紺はガラスを割るくらいの勢いで泣き叫んでいた。
 申し訳ないように思ったが今後の事を考えるとスピードを落とすわけにはいかなかった。
 さらに加速すると、どうやら音速を超えたらしく周りを見渡すのがやっとだった。

 〜『タイタン』〜

 しばらくすると町並みが見えた。月白は一軒の店の前で急降下し着地した。
 紫紺は放心状態で何が起こったのか理解できていなかった。
 蒼がロープを解くと店の『アルカナ』という看板が大きく目に入った。

「ここに何かあるのか月白?」

「兄弟の疑いのある子を預かったという連絡がきた店だ」

 扉を蹴飛ばして中に入ると、カウンターでコップを拭いていた青年がいた。
 月白が青年の前に立つとコップを置いてオレの方を見た。

「久しぶりだな」

 と月白が嬉しそうに言うと。

「おお、『戦車』いや、月白と言った方がいいか。そっちの二人が噂の兄弟か」

 緋色がこちらを向き一瞥した。長めの金髪を結んでいた、身長は月白と同じくらいでバーテンダーの服を着ていた。

「紹介するこいつは黒髪 緋色(くろかみ ひいろ)だ。こいつもオレたちの兄弟だ」
「よろしくね、え〜と、たしか名前は……」

 緋色は少し悩んだ表情をみせた。

「黒髪 蒼です」「黒髪 紫紺でありんす」と二人は軽く挨拶をした。 
「緋色、本題に入るがいいか?」
「いや、そのまえに重要な話が増えた」

 真剣な顔つきになるオレを見て吐息を交えながら言った。

「まぁ、立場話しもあれだ座れ、なにか飲み物を作ろう。一応、バーテンダーだし」
「シンデレラを頼む酒を飲むには早すぎる」

 緋色は何種類かのジュースと氷をシェーカーの中に入れかき混ぜはじめた。

「単刀直入に言うと十四人目が一ヶ月前に生まれた」

 背中に嫌な汗が滲んだ。

「生後一ヶ月っておいおい……」

 蒼は放心状態からまだ抜け出せていない紫紺の介抱をしていた。

「しかも、その子供が行方不明ときた、いよいよ別世界とか異次元とかありえない世界が出てくるかもな」
「『法則無視』でも通用しない世界になってきたな」

 緋色はグラスを取り出しシェーカーのジュースを均等に四つに分けると蒼たちに手渡した。

「じゃあ、僕の『酒宴円舞曲《アルコールワルツ》』も通用しないな」

『酒宴円舞曲』緋色が持つ能力でアルコール(酒も含む)を自在に操る事が出来る。使い方によっては蒼の『水郷ノ理』と互角の強さを持つだろう。

「そうなると厄介だ、最悪も場合『帝の椅子』に捕まっている可能性もある」
「『帝の椅子』ってなんだ?」

 と蒼が聞いた。

「う〜と、わかりやすく言うと三都市が共有することができる対反転対策特殊隠密軍隊の幹部こと。ちなみに僕と月白は昔『帝の椅子』破壊専門特攻部隊長に勤めていたんだ。そのときのコードネームのことだよ。月白が『戦車』で僕が『力《パワー》』……今となっては単なる汚名でしかないけど」

 余計な事を言いやがって。
 対反転対策部隊、主に反転を使う人間が起こす戦闘行為を処理するための三都市保有の軍隊、その中でも破壊専門特攻部隊はその名の通り目標人物の殺害及び拠点破壊の手段を選ばず遂行する部隊の総称。

「それで、もう一人の兄弟は?」
「それが……連れ去れた」

 全員の体に戦慄が走る。

「やはりな、おそらく闘技場の奴隷景品だろ?」

 緋色は静かに視線を上下させた。

「そうだ」
「なにか、策でもあるか? あそこはフェアにバトルをするために対反転装置が作動しているし出場するのに金か担保として女が必要だったはずだ……あっ」
「そのための蒼と紫紺だ」

 蒼を闘技場に出場させ紫紺を担保にする。

「話はわかったな、蒼と紫紺?」

 二人は了承した。


 〜『タイタン』蒼〜


『次の方はこちらへ』

 そう言われて案内される。

 月白は、遠慮せず思い切り殴り倒して来いと言っていた。

 リングに立つと向かいに筋肉隆々の男がいた。

「小僧、悪い事は言わん降参しろ」

 男はそういうがここで降参するわけにはいかない。

「悪いな、オレは景品が欲しくてな、それにここで降参したら男が廃る」
「そうこなくてはおもしろくない。行くぞ!!」

 ゴングが鳴ると同時に顔面に拳が炸裂した。

「どうだ、参ったか?」
「もういい、その程度か?」

 今度はオレの拳が男の腹に突き刺さりそのまま男は吹き飛び気絶した。

 観客が騒然としていたが気にすることは無かった。

(あと、三回勝てば優勝)

 その後も快進撃を続け簡単に決勝に進出した。
 決勝の相手は、絶対怪しい薬を使っていそうなやつだった。

「お前、絶対危ない薬を使ってるだろ?」
「使って何が悪い? 今回の景品の女は上玉が多いからな勝つためには手段を選ばないだけだ!」

 ゴングが鳴った瞬間、視界がブレた。そのまま壁にめり込んだ。

「――ッ!!」

 二発目が炸裂した。


 バキリ、ベキリ、と骨が悲鳴を上げていた。


 ――死ぬ


 初めて体感した死への恐怖。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い


 ブツンッ!! 蒼の何かが切れる音がした。


 壁から出ると相手の頭を?み壁に叩きつける。
 その後、相手を十メートルほど投げ馬乗りになり殴り続けた。その腕には紅の液体が付着していた。
 我に帰ると男は肉片になっていた。

「……やり過ぎた」



 リングを出て月白たちと合流して景品を貰いに行った。
 そこで、紫紺と新たな家族と出会った。

「初めましゅて、秘色《ひそく》だよろしゅく」

 噛んだ、いま絶対噛んだ。

「噛んだよな、いま絶対噛んだ」

 月白も言った。

「噛んでにゃい」

 また噛んだ。見かけはクールで凛としたカッコイイ女性なのだが、どうも舌が回らないらしい。

「もう一回名前教えてもらえろ?」

 月白が聞く。

「くろきゃみ ひしょく」

 自分の名前くらいちゃんと言えよ……。
 
「今日は舌の調子が悪いにょだ」

 ここまで来るとかわいそうだ……。

「このにょ度は、いにょちをしゅくっていただき、みゃことにきゃんしゃする」

 秘色はうつむき落ち込んだ。

「ここでは、目立つからバーに戻ろう」

 バーに戻ってくると緋色がカクテルを作っていた。

「お、帰って来たのかい。その様子だと成功したようだね」
「まぁな、蒼の力が予想以上だった。流石は改造人間」

 ため息をつき緋色は言った。

「月白も感覚が鈍ったね。敵に尾行されているよ」

 月白は嘲笑し言った。

「オレにそんな感覚は必要ない」

 刹那、凄まじい炸裂音ともにドアと壁の一部が吹き飛んだ。 

「フルメタルジャケット弾(貫通弾とも言う)か……僕対策だね」
「おいおい、おまけにフレシェット弾(拡散矢弾とも言う)もあるぞ」

 困った様子を見せ月白と緋色だった。

『僕が行って来る』

 シェーカーをテーブルに置いて外に出て行った。


 〜『タイタン』緋色〜


 外に出ると軍人と思われる人間がゴミのようにいた。

「黒髪 緋色だな投降すれば命だけは助けるぞ」

 軍隊の一人が警告した。
 他愛もない嘘は自分の首を絞めることになるぜ、それに投降する気はさらさら無い。

「逆に今すぐここから立ち去るなら命を助けてやる。ここで死にたくないだろ?」
「この数を見て頭が狂ったか? 見ろこの軍隊の総勢ニ百人だぞ!!」
「たかだか、ただの人間が二百人だろ? それがどうした?」
 
 それを聞くと軍隊は銃を構えた。

「銃口を向けたということは死を覚悟したみたいだね」

 緋色は指をパチンッ、と鳴らし火花を散らした。

『灰被り姫《シンデレラ》』

 一面が火の海になった。焼け野原の上に君臨するのはバーテンダーの格好の男だった。
 これを使ったのは何ヶ月いいや何年ぶりかな。

(しかし、僕もだいぶ腕が鈍ったようだね、全然火力が足りない) 

 突然、身体が重くなり咳き込み、口からは大量の血液があふれ出た。  

(……発動条件が血を失うなんて代償が少し大きすぎるかな。そしてこの身体はいつまで持つことやら)

 吐息をつき焦げ臭くもあり酒場のあの独特の酒の匂いを背にその場をあとにした。
 

 店に戻ると月白がテーブルに座っていた。

「終わったようだな」

 カクテルを口に運びながら月白はにやりと笑った。

「ここも、店じまいだな……」

 それもそうだ、こんなところにいたら死ぬ。

「そうだな、明後日あたりにはここをたたんでガイアに向う」
「わかった」
「というわけで秘色と蒼を引越しの手伝いに貸してくれ」
「決まったな。帰るぞ、紫紺」
 
 涙目になりながら紫紺は店から出て行った。
 ここに来るまでにきっと月白の魔の空中移動を体感したのかご愁傷様。
 
「さてと急いで引越しの準備だ」

 〜『???』青〜
 
 
 今日もまたか……いい加減、喘ぎ飽きたわね。
 誰かここから私を出してよ。

(まったく、何をしているのかしら? 『萌葱』『月白』『緋色』『白群』『秘色』『鳩羽』『紫紺』『蒼』みんなみんな、どこでなにをしてるのかしら?)

 
「「さて、都市が勝つか、黒髪家が勝つのか、戦争の始まりよ」」



                              第五話終り


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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。まず更新が遅れた理由から
僕、福島県に居ますと言えば分かるでしょうか?
地震の影響で云々かんぬんありましてこのありさまです
出来るだけ更新を遅らさないように気をつけますのでどうか生暖かい目で見守ってもらえると幸いです。あ、でもコメントは積極的にお願いします。

コメント返し

黒い鴉 様

読み手に伝わりやすく文章を書くだけではなく、読み手に見やすく文章を書くことも大切なのですね勉強になりますありがとうございます。

戦闘のイメージは確かにジョジョをイメージしました。能力イメージもとある系をイメージにしています。特にキャラの月白はその影響をもろに受けています。
都市構造はNO6ととある系をイメージして造っています。
コメントいただきありがとうございました。


あとがきとか雑談とか

戦闘の描写が苦手なもので味気ない気がします。
なんというか、戦闘は表現が擬音語がおおくなりがちなってしまいます……
キャラクターが多いので時々、混同してしまいます。

この次は、この反省を生かしかつ迅速にこうしたいです。


何かコメントがありましたら気兼ねなくしてくれもらえると幸いです。

……13(ドライ・ツェーン)より
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