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ロストコントロール 第八話『イレギュラー』
作者:13   2011/05/01(日) 11:37公開   ID:JHZjjd6HxsM

 〜九月五日『ガイア』茜〜

 
 戦線から外れた。
 月白の思いも分かるし家族に迷惑はかけられない。
 なぜだろう何か嫌な予感がする。
 きっと気のせいだろう、なにせ物理法則を操る月白とアルコールを操り爆発を起こす緋色そして水を操る蒼だっている。
 彼が負けるわけが無い。
 そう、言い聞かせながら緋色の車に揺られていた。

「そんなに気を落とさないで茜ちゃん」

 車のハンドルを握りながら緋色が言った

「そうですけど……」

「ローレライだって納得してくれたじゃないか」

「うっ……返す言葉もありません」

 うなだれる茜。

「じゃあ、ひとつお願いがあるんだけど」

「なんですか?」

 穏やかな顔つきだったのか目だけは据わっていた。

「反転を広めてくれ出来るだけ多くの人に」

 都市の人間は反転を知らない。でもなぜ広めなくてはいけないのだろう

「どうしてですか?」

「オレたちは歴史の裏に隠された人間、そんな人間は大抵、殺人の道具か軽蔑の視線をむけられ肩身の狭い思いをしてしまう。おそらくこれからもその手の人間は増え続けるだろう。だから反転を広めてそんな人たち集めるんだ」

 たしかにそうだ、茜はうなずいた。

「出来る限り努力します」

 そうこうしている間に茜の家のちょっとさきのコンビニに車を止めた。

「いいかい、よく聞いて僕が車から出てどこかにいくから茜ちゃんは僕の姿が見えなくなったら車を燃やすんだ。その後、混乱に乗じてその場から逃げるんだ」

「分かりました」

「あとこれあげる」

 そう言って帽子を茜の頭に乗せ車から出て行くの見送った。

「さて、やるか」

 帽子を深く被り深呼吸をした。
 ドアを開け、三歩進み能力を発動させた。


 〜『病院』蒼〜


 ナイフを隠し持ちながらターゲットの登場する時に見渡しやすい真正面の喫煙所のベンチに座って待っていた。
 隣には月白が欠伸をしながらのんびりしていた。
 そこにケータイが鳴った。

「……そうか分かった」

 パタンとケ−タイを閉じて安堵した表情を見せた月白だった。

「茜が無事に家に帰ったのと配置についただって」

「そっか、よかった」

「意外と淡白だな」

 月白が笑いながら言った。

「そうかな?」

「そうだよ」

 二人は笑いながら空を見た。

「いい天気だな、絶好の奪還日和だな」

 ふと、月白はケータイで時刻を確認する。

「そろそろだ、覚悟を決めろ」

 玄関から異様な気配に包まれた。最初に護衛が二名出てきた。
 立ち上がろうとした蒼を月白が押さえた。

「落ち着け、青が出てきたらだ」

 ベンチに座ると月白がため息をついた。
 しばらくして女性が出てきた。

「おそらく一番目の女はダミーだ良く見ろ、護衛が触れている」

 青の反転は危険だ、だから警備員が易々と触れられるわけがない。
 車が発進して、しばらくすると乗用車がとまりさっきより護衛の数は少ないが真ん中にいるのはキレイな女性だった。
 髪は艶やかな黒髪に見ているだけで飲み込まれそうなくらい美しい黒い瞳なにより驚いたのが自分と同じくらいの年齢にしか見えなかったことだ。 
 

「任務開始だ、蒼」


 立ち上がり普通に青のところに歩いて行く月白のあとについて行く。
 無論、護衛が立ちふさがった。

「何者だ!!」

 護衛は拳銃をホルスターから拳銃を取り出すと銃口をこちらに向けてきた。

「あら? 月白じゃない助けに来てくれたの?」

 のん気に青と思われる人物が話しかけてきた。声も女性というより少女に近かった。
 月白が前に出ると足元に発砲した。

「殺人許可が下りている死にたくなければ大人しく――」

 警告を無視するように護衛の一人を思い切り月白は殴った。
 護衛の一人は玄関の柱にぶつかり気を失った。

「まず、一人」

 二人目に取り掛かろうとした時、イレギュラーは起きた。

「おい、お前らがターゲットか? あれ、おかしいな確か六人だと聞いたんだが」

 車から降りたのは黒装束の男たちだった。
 パッと見ても数百人はいるだろう。

「くっ、ここまでか『ハウンド』がきやがった」

「『ハウンド』ってなに?」

 月白は脂汗をかきながらケータイをこそこそいじりながら答えた。

「反転の能力のひとつ『キャンセラー』という反転を無効化する能力者のみで結成される部隊、通称ハウンド こいつらが居るだけで能力は使えなくなる。その上戦闘訓練を受けているから並の人間じゃ勝てないだろう」

「……計画は失敗なのか?」

 おそるおそる聞くと。

「ああ、失敗だ。だから全員逃げろ!!」

 そう叫んでケータイを閉じた。 
 失敗、ならせめて月白だけでも逃がせばまだチャンスはある。
 そう思い蒼は地面を蹴った。

「安心しろ、お前らは――」

 そういいかけたハウンドの一人は蒼の一撃を喰らい吹っ飛んだ。
 人が固まっていたのかドミノ倒しのように転んでいく。

「どうした? オレは反転がなくても戦えるぜ?」

「おい、蒼お前――」

「逃げろ月白」 

 その目を見た月白は宙を舞ってどこかに消えて行った。

「さて、次の相手は……面倒だから全員来い」

 次々に薙ぎ倒されいくハウンドだが流石に数が多かったのか蒼は取り押さえられた。

「――これでいい」

 この瞬間たしかに蒼は敗北というものを知った。
 予想以上に悔しく、予想以上に苛立ち、予想以上に切ないものだった。 

「お前は殺人及び暴力行為の犯罪者として生きるがいい」

 ハウンドの一人がそう言ってオレに何かを注射した。
 そこでオレの意識は途絶えた。
 最後に目に映ったのは母さんの泣き顔だった。


 嗚呼、力が欲しいもっともっと


 〜『病院』月白〜


(すまない、蒼……オレは兄貴失格だ)

 そう嘆きながら宙を舞う月白だった。
 実際問題、蒼はまだ実戦に慣れていないのに前線に引っ張ってきたのも間違いだったのかもしれない。

(でも、なんでハウンドが!? 一人、二人なら分かるがあれは百人を超えていたぞ、まさかエーテルか!?)

 それはないと心の中で呟く。

(考えろ、まずオレたちの反転を知っていて敵に報告できる状態にあったやつは……アイツか!?)

 おそるおそる、ケータイの番号に電話をかける

「もしもし……」

「月白か、その様子だとわかったようだな」

 月白の不安が的中した。

「まんまと騙されたよ、ローレライ」

 今回の計画の密告者はローレライだった。
 たしかにローレライは敵に密告する時間も余裕もあった。

「こちらにも、色々と事情があってな。おかげでこちらの作業がスムーズに行きそうだ」

「けっ、この借りはいつか返す」

「やめておけ、今の私は『帝の椅子』の『女帝』の地位を授かった。下手に手出し出来ないはずだ」

 確かに『帝の椅子』を敵に回すには分が悪すぎる、人数的に考えても質で考えても。

「この女狐が弟子より地位を取ったか!!」

 ガチャ、と電話が切れた。

「……完全敗北だな」  

 空に向かい大声で怒鳴り散らした。


 ――また守れなかったと


 〜『病院』青〜


 月白が来た瞬間、青は安堵した。 
 これでやっと解放される。子供たちと一緒に暮らすことができる。
 ――そう思っていた。あの護送車のドアが開くまでは

 護送車には十四人兄弟の中で唯一のレベル8通称『冥王の言霊』《ハデスギア》。
 髪は短く漆黒、瞳は海のように青く男にも女にも見える容姿をもった愛娘、名を黒髪 鳩羽という。
 しかし口を塞がれ手足を縛られ目隠しされて強引に護送車の中に入れられたのだろう。
 背中には『黒髪と接触したら鳩羽を殺す。それ以外の黒髪には手を出さない』とだけ書かれて紙の後ろには小型の爆弾が取り付けられていた。
 小鳩の能力『冥王の言霊』とは鳩羽の言葉を認識した者はその通りに従うという絶対服従の能力。鳩羽が死ねと言えば死ぬ、服を脱げといえば服を脱ぐ、動くなといえば動かない。孤独な能力、決して対等な者が出てこないあまりに酷すぎる能力。

 ――そんな反転を持つ鳩羽をどうやって捕獲したのだろうか?

 考えられるとしたら『キャンセラー』しかいないしかも強大な能力を抑えるくらいの人数、およそ数百人は近くにいるだろう。 
 だとするならばここはおとなしく紙に従う。下手に青が動き回れば兄弟全員の命が危ない。
 
 断腸の思いで車に乗った。最後にちらりと拘束された蒼の真っ直ぐな眼光を見て涙がこぼれた。


 〜『裏側』蒼〜


 真っ暗で何も無く水だけがあった。 
 その水は重く、紅く、生臭かった。
 だが、不思議と懐かしかった。

「全然、オレが与えた能力使わないな。まったくこれじゃ意味がないだろ」

 どこからともなく聞こえる声。

「だって、使うタイミングが無いし使いづらいし発動条件が分かんないし」

 呆れた笑い声を発する。

「はぁ、仕方ないじゃあ、選択肢をやろう」

「選択肢?」

「そうだ、オレはお前に戦う矛を与えた。次は守る盾かそれともさらに鋭い矛のどちらを欲する?」

「鋭い矛がいい」

 その言葉に迷いは無かった。

「わかった、ただしこれを得るとお前の反転は一時的に失う。しかしお前にあった一番よい力を得るだろう」

「一番オレに合う力?」

「そうかもしれないな」

「分かった、使いづらい能力よりそっちの方がいいか」

「契約成立だな」

 今度は高笑いが聞こえる。

「ひとついいか?」

「なんだ」

「その力には発動条件があるのか?」

「これは、もはや反転ではない。従って発動条件は無い。ただし――」

「ただし? また何か条件があるのか?」

「最初の発動は何もない状況でしろ死にたくなければ」

「具体的にどんな力なんだ?」

「肉体の補助だ。もともとお前の反転は水を司る能力だ。体の水分を使って身体能力を上げる」

「やっぱり、『キャンセラー』には効かないのかこの能力?」

「分からない、でも試す価値はある」

「そうだな、でもこんな能力があるんだったら言ってくれよ」

「これは、あくまで反転が進化したものだ。お前が選んだ道だ」

 その言葉はどこか寂しそうだった。

「最後にいいか?」

「ふん、いいだろうなんだ?」

「お前の名前は?」

「名など存在しない」

「嘘だ――」

 直感でそういうと。

「……なぜ、嘘だと分かった?」

「だって、お前はオレだからな」

「我が名は『シュラ』六の世を統べる者」

「シュラか分かった、ありがとう」

「次に合う時はさらに進化しろ蒼」

「進化か……」

「我はお前を裏切らない」


 〜『自宅』茜〜


 久々の家は酷い悪臭がした。

「うっ、この臭いは……」

 親は仕事でほとんど帰ってこないから食べ物が腐っているのだろう。
 キッチンに向かうと冷蔵庫を思い切って開けると、ボトボトッ、と肉の塊のようなものが落ちてきた。


「……えっ?」

 最初それがなんなのかが理解できなかった。

 ――その肉の塊のようなものは自分の両親の首だった。

 凄惨な光景を目の当たりにした茜は嘔吐した。
 その場にゲロを全てぶちまけると物凄い喪失感に襲われた。
 壁にもたれ掛ったまま座り込み目を瞑って頭を抱えた。

 茜は心の奥底から切に願った。

 ――力が欲しいと


 〜『裏側』茜〜


 ゆらゆらと炎が舞い、呼吸するのも辛いくらい熱風が飛び、神々しくも 禍々しくも見える光
 そんな場所だった。

「辛いの?」

 まるで自分の鼓膜に直接声を響かせているようだった。

「正直、辛い……」

「力が欲しいの?」

「欲しい、大切な人をこれ以上失わないために」

「わかった、じゃあ、選んで守る力と壊す力のどっちかを」

「じゃあ、守る力が欲しい」

「守る力だね分かった」

「あいがとう……えっと名前は?」

「私は『プロメテウス』炎を司る者」

「ありがとう、プロメテウス」

「どういたしまして、新しい力の説明をするよ。といっても大した変わり映えはないけどね」

「じゃあ、どこがどう変わったの?」

「茜自身が焔となるだけだよ」

「私自身が焔となる」

「そう、これを手にしたらもう二度と普通の人間として生きていけなくなる、それでもこの力を受け取るかい?」

 一瞬、迷いがあったが覚悟を決める。

「それでも、私は強くなる!!」

「契約成立だね」


 〜『自宅』茜〜


 気がつくと夕方になっていた。
 足元には半分腐敗した両親の生首が転がっていた。出来れば夢であってほしかったと茜は嗚咽を交えながら思った。
 一息つくと風呂に向かった。血と嘔吐物で汚れた服を脱ぎ捨て、浴槽に浸かる。
 風呂のお湯はまるでだれかの瞳のように紅く澄んでいた。

 風呂から上がり気を紛らわすためにテレビをつけた。夕方にやっているニュース番組を眺める、天気予報が終わりニュースのスタジオに戻るとなにやらアナウンサーたちが慌ただしい雰囲気に包まれていた。
 画面が変わり中継に切り替わった。
 背景に茜は見覚えがあった、たしか月白がディスプレイに映した建物と一致している。
 
『今日のお昼ごろここで通り魔暴行がありました。幸い犯人の 蒼 容疑者は確保され『イカロス』追放処分となり護送車で運ばれました、なお怪我人は骨折や打撲で命には別状はありません――』

 茜は大きめのバックに財布と多少の着替えに日持ちのする食糧を詰め込み家から出て行った。
 家から出るとタクシーを拾い港に向かった。
 茜は『イカロス』に行く決意をした。


 〜『護送車』蒼〜


 気がつくと体中に鎖が巻かれ口にはガムテープが貼ってあり喋ることは論外、指一本すら動かせない状態だった。
 小さな窓から夕陽が射していた。

「気がついたか新入り」

 眼球を動かし声の方を見る。
 筋肉質で背は大きく髪は短く目つきはどことなく秘色に似ている気がした。
 ジーンズに半袖のシャツ、腰回りには長さの違うナイフが左右に二本づつあった。

「喋れないのか、まぁいいもうすぐ自由の身だ我慢しろ」

 眼でうなずいた。

「オレの名前は……そうだな、ヴォイスと呼んでくれ」
 
 ヴォイスはふぅとため息をついた。
 蒼のそばに行くと口に貼ってあるガムテープを外した。

「ふう、これで喋れるありがとうヴォイス」

「気にするな」

「これからどこに行くのかわかるか?」

 少し間を開けて再びヴォイスはため息をついた。

「これから、お前は『イカロス』に追放される。オレはある人物に頼まれお前をサポートするように命じられた」

「ある人?」

 蒼は首を斜めにした。

「名前は言えない契約だ、すまない」

「仕方ないな、まぁ、敵じゃないようだからいいか」

「そういえば、お前の名前は?」

 一瞬、本名を言おうとしたが黒髪と名乗るのは何かと面倒だと思った。

「オレは蒼だよろしくな」

「蒼だな」

 そう言ってヴォイスは手を差し出した。
 蒼はそれを快く受け取った。

「ところで、『イカロス』ってどんなとこなんだ?」
 
 腕を組み少し考えてこう言った。

「分かりやすく言えば弱肉強食の世界だな……まぁ、行けば分かる」

「そっか、じゃあ楽しみにしてる」

「過度な期待はするなよ『ガイア』に比べたら劣悪すぎるからな」

 苦笑いしながらヴォイスは言った。

「そうなんだ、それでも楽しみだな」

 それを聞いたヴォイスは呆れた表情をみせた。

「そろそろ眠れ。向こうについたら忙しくなるからな」

「なにかあるのか?」

 目つきを変えると、

「ランクBの危険生物が現れた名を『キリサメ』という化け物だ。奴を始末して”樹海賊”に受け入れてもらうようだからな」

「狩りみたいなもんか、楽しそうだな」

「だから眠れ、休めるときに休め」

 分かったと言って目を閉じると真っ先に浮かんだのは茜だった。
 
「……なんだ? この気持ち」


 〜『港』茜〜


 港に着いたころには辺りは暗くなっていた。
 受付に向かい『イカロス』行きのチケット購入する。

「すいません、『イカロス』は今、”水賊”の影響でしばらく運行中止なんです」

 ――水賊、『イカロス』にある海を支配する者たちのことわかりやすく言えば海賊のこと。この他にも山や森を支配する樹賊に空を支配する空賊などの三つの派閥がある

 通行手段が消え陸路も考えたが蒼が護送されているルートに入れるわけがない、流石に頭を抱える。

「おい、ねーちゃん『イカロス』に行きたいのかい?」

 後ろを振り向くとバンダナを頭に巻いた若い男を筆頭に六人くらい人がいた。

「まぁ、そうですけど……」

「じゃあ、俺たち水賊の船に乗らないか? ちょうど若くて可愛い女の子が欲しいところなんだ」

 願ってもないチャンスが転がり込んできた茜は、

「いいんですか!! ありがとうございます」

「いや、いいよどうせ部下の一人がへまして死んじまったしな」

 後ろで男たちが騒ぎ始める。
 それを静めると笑いながらこちらを向いた

「俺の名前はレッドだよろしく、俺たちは貿易をしにここに来たもんだから今しばらく積荷を乗せるのに時間がかかるけど、もうすぐ終わるから船に案内する」

「ありがとうございます」

「ああそれと、小汚いヤローたちと相部屋とオレとの二人部屋のどっちがいい――」

 どすっと部下の一人がレッドにドロップキックを決めた

「一人占めはよくないですぜ、筆頭」

「うるせーな、お前らみたいな汚ね〜奴らに女と夜を過ごさせるわけにはいかねぇな」

 回し蹴りをしながら言った

「じゃあ、船に行くぞ」



 船は戦艦のようだった。大きさは全長は百メートルくらいで両サイドには機銃が装備されていて中央にはとてつもなく大きい砲台がセットされていた。
 船内に入ると部下の人たちが慌ただしく積荷を運んでいた。
 こちらを向くと軽く挨拶をしすぐに仕事に戻っていった。

「むさい連中だろ? まぁ、縄張りに帰るまで我慢してくれ」
 
 レッドが苦笑いをしながら部屋に案内した。
 
「ここが茜ちゃんの部屋だ」

「……なぜ、私の名前知っているのですか?」
 
 声音を低くして問う。

「それも説明する、とりあえず中に入れ」

 部屋は高級ホテルのようなキラキラした装飾が施してありソファーが向かい合っておいてあり、軽くお菓子があった。
 奥には風呂があり楽しそうな船旅になりそうだった。
 真ん中にあるソファーに座ると何とも言えない柔らかさだった。

「じゃあ、説明するよ」

 その一言で現実に戻る。

「分かりました」

 ため息を混ぜながらレッドは向かいのソファーに腰かけると真剣な顔つきになった。

「ある人物から君をイカロスに送り届ける依頼があった。クライアントは匿名で俺たちにさえ名前どころか姿さえ現さなかった。だが前払いとして家畜を仕入れることができた、こちらとしては――」

「家畜って牛とか豚のことですか?」

 レッドは指を立てた。

「違うよ、家畜っていうのは俗語で正式名称は雌奴隷とでもいうかな」

「それって人身売買ですか!?」

 おもわず大声になる。

「そうだよ、人間は高く売れる。特に女は高額で取引される、しかもガイア育ちの上玉ときた売れないわけがない」

「やっぱり、賊は腐っても賊ですね」

 ため息を交えながらレッドは話を続けた。

「ここから本題」

 茜は首をかしげた。

「いま、俺たち水賊は不景気だ。そこで奴隷を売りさばき金を手にしたい」

「所詮は金が欲しいだけですか……」

 軽蔑の視線を送る。

「金も欲しいがそれ以上に今は女が欲しい」

「なぜですか?」

「先日、俺たちが空賊と貿易をして縄張りを留守にしていたんだ。そしたら縄張りに奴が現れた」

 何かを思い出したのか憎しみの表情を見せていた。

「奴とはなんですか?」

「その前にお前はイカロスがどういう場所か知っているよな?」

「たしか特殊な磁場の影響で一日で生物が二万年の進化を遂げるといわれる人間が支配できない唯一の都市」

 イカロスの生物は特殊な生態系で成り立ち強い生き物は生き残り弱い生き物は絶滅する。いうなれば弱肉強食の無法地帯。

「そうだ、そしてその生物たちを大まかにわけてランクつけた。そしてそいつらの一匹、通称『ユキヒラ』 という生物がホームを襲い海に沈めた。その結果、女と子供は全滅して生き残ったのは俺たちだけだ」

「それで私に何をしろと?」

「早い話、奴隷のなかにお前が混じって売買した後お前が輸送車を襲い水賊のもとに帰ってくる。そうすれば金と女が一度の手に入る」

 レッドは私が反転が使えること知っているようだった。

「一つ条件があるわ」

「なんだ? 出来るだけ善処するが無理かもしれないぞ?」

「奴隷には手出ししない欲しい」

 レッドは拍子抜けした顔を見せて大笑いし始めた。

「あはははははは!! まさか俺たちがレイプまがいな事をするとおもったか!? そんなことしねーよ」

「それはよかった。てっきり粗悪な連中かと思いました」
 
「けど、恋愛としてお互いが許可したのはカウントしないでくれよ? 自然の摂理だからな」

「それなら構いませんが……」

 勢いに押されてしまった茜だった。

「交渉成立だな」

 レッドはソファーに寝転がり無線機を取り出した。

「「出航しろ、あと奴隷は拘束具を外して来客として向かい入れろ」」

 どうやら水賊はそこまで悪い人間ばかりではないようだった。


 
                           第八話終わり   


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
お久しぶりです13です

 今回で一区切りとなりますと言ってもステージが変わっただけですけどね。
 いうなれば『ダウナー編』から『イカロス編』みたいな感じです。
 あと今回から○○賊というのが出てきます。そのため多少表現やセリフ、会話などにいやしい表現などが多用しますのであしからず。


コメント返し

 黒い鴉 殿

 相変わらず描写不足です。自分では出来ていると思ってしまい呼んでいる側の見方がまだ不慣れだと思います自分でも気をつけたいと思っているのでがなかなか上手く行きませんね。これからも頑張りますので気長に見ていてください


 回覧ありがとうございました
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