ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

ロストコントロール 第十話『修羅の力』
作者:13   2011/05/12(木) 19:56公開   ID:JHZjjd6HxsM

 〜『樹海賊の基地』蒼〜


 どうやら蒼はキリサメに殺される予定だったらしいがその予定がヴォイスにとって最悪の形で狂ってしまった。
 おそらく、蒼がある程度は負傷して帰ってくることは予想していたがまさかキリサメのボスと共闘することになるとは思わなかったろう。

「じゃあこっちの番だ」

 そういって蒼は『シュラ・モード』発動させた。
 簡単に言えば肉体強化だ。
 ただ単に単に肉体強化したわけではない、細胞のひとつひとつが活性化し強化されているのだ。
 活性化したのはおそらく眼の細胞、聴覚の細胞、筋肉の細胞、骨の細胞だろう。
 
「来いよ雑魚がレベル6のオレについてこれるのか!!」
 
 ヴォイスは後ろにいた蒼に殴り掛かる。

 風切り音と共にヴォイスの拳が炸裂した――

 がそれを蒼は欠伸をしながら指一本で止めた。

「なん……だと!?」

 渾身の一撃を息をするように止められ目を見開き後ろに後退する。
 ヴォイスは何が起こったのか理解出来ておらず脂汗を垂らす。

「いまなら命までは取らない。引け」

 それを聞いてさらに怒りのボルテージが上がったのか殴り掛かった。
 ため息をつき後ろを向いて。

「アゲハしっかりとしがみつけよ」

 トンッと地面を蹴り蒼は距離をとった。
 しかしヴォイスは諦めずに能力を使って一瞬で距離を縮め殴り掛かる。
 それを苦労もなくひらりとかわす。

「お前らも撃てこいつを殺せぇ!!」

 マシンガンが蒼を襲う。だが、蒼には銃弾が見えていた。
 見えているもの避けるのは簡単だが背負っているアゲハを考えると少しつらいものがある。
 そう考えマシンガンを持ったヴォイスの部下たちの方を見た。

「く、くるな!!」

 ショットガン、名をハイドラ、普通の人間では間違いなく肩を脱臼する代物を片腕で構えて発砲。
 
 ドンッと音と共に反動が腕を襲った――
 
 だがこの程度なら能力を使わなくても問題なく片腕で撃つことができるだろう。
 バキリッと骨が砕けるような音がした。
 あまりの威力に吹き飛ばされた部下はほかの部下たちを巻き添えにした。
 もう一度引き金を引いた。
 三十秒も経たずにヴォイスの部下たちは全滅した。

「もういいだろお前の負けだヴォイス」

 呆れた声でヴォイスに語りかけるが聞く耳を持たなかった。

「うるせぇ!! オレはお前をぶっ殺すつってんだよ!!」

 怒声を上げるヴォイスは本能に従うままに拳を向ける。
 アゲハを降ろし深呼吸をする。

「……そうか、どうやらお前を殺さなきゃいけないようだ」

 そう言って身体を前に倒した。
 その白銀の髪と深紅の瞳が鮮やかな残像となった。

 あの姿はまさに修羅と言ってもよいだろう――

 そのあとヴォイスがどうなったか一目瞭然、原型を留めていたことが奇跡に近い。
 開いているヴォイスの眼を閉ざす。ふと顔のアゴの部分を見ると割れ目があった。

「これは一体なんだ?」

 割れ目を引きはがすと新たな顔が見えた。
 蒼はびっくりして尻餅をつく。

「うわっ!! びっくりした……」

 どうやら、ヴォイスはマスクをつけ素顔をさらさずいつでも逃げられるようにしていたのだろう。
 蒼は立ち上がり黙祷を捧げた。



「これでもまだ二割に満たないのかすごい能力だな……」

 能力を停止させても細胞は活性化してるらしく体は軽かった。
 細胞を活性化したのは能力に肉体をついてこさせるためだろう。
 アゲハが再び蒼の肩に飛び乗るとちょうど肩車した状態になる。
 どうやら蒼が気に入ったのだろう。


 のんびりと基地の中に入ると奥にある大きな建物から声がする。
 声を辿ってみると牢屋のような場所に出た。
 そこにはたくさんの人が閉じ込められていた。おそらくヴォイスの部隊より多いだろう。 

「そこの人オレたちを出してくれないか?」

 死にそうな声で懇願された。
 顔はみな痩せこけ中には衰弱していつ死んでもおかしくなかった。

「わかった、いま出すから」

 牢屋の扉にハイドラを片腕で構える。

「危ないから離れて」

 耳に残る嫌な金属音が響いた。
 解放された人たちは大喜びで外に出た。

「ありがとうございます、しかしどうやってここまで来たのですか?」

 一人の老人に疑問を聞かれると。
 老人は白い髭を蓄え、腰が少し曲がっているが相応の風格と威厳があるが穏やかな顔をしていた。


「ヴォイスの部隊を壊滅させてのんびりしてたら声が聞こえたから」

 老人たちは騒然とした。

「あんた、ヴォイスの部隊を倒したのですか」

 蒼がうなずと。

「このご恩絶対に忘れません本当にありがとうございます」

 全員が蒼に深くお辞儀をした。

「あの、いつからこんな状態に?」

「かれこれ、十年近くはあの牢屋に」

「そうですか……」

 解放された人々は空腹だったのか食事の支度をはじめた。
 アゲハは再び蒼の肩に飛び移った。 

「これかろどうしよかな、今ガイアに帰ったところでまた捕まるだけだしな……」

 頭を悩ませる蒼。
 それを見た髪が腰の高さまである幼女が言う。

「じゃあ、しゅぎょうっていうことしてみたら?」

 蒼の頭に電流が走った。
 
「それだ!! 修行をしよう」

「おやおや、お前さん強くなりたいのかい?」

 さっきの老人が出来たての料理を持ってきながら言った。
 湯気が立ち込めおいしそうな香りが広がった。

「ええ、まぁそんなところです」

 老人は少し考えてから言った。

「ふむ、では『討伐隊』に加入することおススメするよ」

「『討伐隊』ってなんですか?」

 蒼とアゲハは首を斜めにする。

「ここイカロスは生物が一日に飛躍的な進化や突然変異を遂げている。現にそのお嬢ちゃんだって耳が生えているだろう? そういった何十万年とかかる進化や突然変異をわずか一日で起きてしまうところなのだよ」

「そこに暮らす生物が生存競争が繰り広げられより危険な生物が生き残ってしまう。それに対応するために危険生物を討伐する部隊のことですか?」

 老人はゆっくりとうなずいた。

「討伐隊に入隊すれば任務を受けることができる。そうすれば任務が成功すれば報酬が貰えるし任務を行うための装備品の準備費を貰うことができる」

「なるほど……金と修行の両立か悪くないな。どうやって入隊する?」

「あとでワシのところに来なさい。それまで食事でもしているといい」
 
 そういって二人分の食事と飲み物を差し出しどこかに消えてしまった。

「早くゴハン食べようよ蒼」

 アゲハが催促するので食事をすることにした。
 蒼の肩にはよだれのシミが出来ていた。

 メニューは肉と野菜をパンで挟んだハンバーガーみたいなものに果物のジュースというシンプルなものだった。
 蒼はかれこれ三日ほど食事をしていないのですごく助かった。いや神の恵みにも匹敵する。

「なかなか、うまいなこれ」

 何の肉なのかわからないが柔らかくて肉汁が溢れ出し口いっぱいにうま味が広がる。
 アゲハも満足そうでなによりだ。
 

 食休みもとりさきほどの老人のところに向かうと端末でなにかをしていた。

「遅かったのう、準備は出来ているあとは名前さえ登録すれば完了じゃ」

「ありがとうございます」

 老人は驚いた表情を見せた。

「いまどきの若者にしては礼儀正しいのう、おっとすまない話がそれたのう。じゃあお嬢ちゃんの名前から教えてくれぬかのう」

「私はレッド・アゲハっていうの」

 名前を聞くと慣れた手つきで名前を入力していく。

「じゃあ、お前さんの名前は?」

「黒髪 蒼です」

 ピクリと老人の手の動きが止まる。

「いま、なんと言った?」

「え、黒髪 蒼といいました」

 驚いた表情で老人が蒼の方をみる。

「お前さんの母親の名前は?」

「黒髪 青です」

 腰を抜かした老人が倒れそうになるのを蒼はスッと支えた。
 あまりの驚き方に蒼はどう反応していいかわからなくなる。

「すまない、お前さんあの白群の血縁であったのか」

 体勢を整え端末に名前を打ち込んでいく。
 蒼は白群という人物に一度もあったことはないしどういった人なのかここでなにをしたのかも知らないし興味もない。

「これで登録はおわりといいたのだがもうひとつやることがあるのだよ。ちょっと来なさい」


 蒼とアゲハは老人の後についていくとポツンと椅子の置いてある部屋についた。
 椅子の周りにはいくつかの機械があった。

「そういえばワシの名前を言うのを忘れておったのう。ワシの名はセレスト・ルーチェだ憶えておくとよい」

 セレストはそう言ってにっこりと笑った。

「さて蒼くんとアゲハちゃんどっちから先にやるかい?」

「私から先がいい!!」

 元気よくアゲハは志願した。

「じゃあ、ここに座りなさい」

 大きくうなずいて飛ぶように椅子に座った。
 セレストは機械のひとつを取り出し先端に丸い形のものを取りつけた。

「じゃあ、始めるよ」

 アゲハは好奇心で目を輝かせていた――

 シュッと音を立てながらアゲハの右肩に丸い形のものが押し当てられた。

 一瞬だけ固まり涙を浮かべた。 

 無論アゲハは悲鳴を上げダッシュで蒼に抱き着いてきた。
 右肩を見ると十字の形をした刺青のような文様が出来ていた。

「次は蒼くんの番だよ」

 蒼はアゲハを抱きかかえながら椅子に座った。
 押し当てられるまでの時間が物凄く長く感じた。

 シュッと音を立て激痛が走った。これならまだ幼いアゲハ泣くのも理解できた。

 思わず蒼も悲鳴を上げた。

「何したんですか?」

「うむ、これはワシの推薦のようなものだ。助けていただいたほんの礼じゃ」

 蒼にも同じような十字の文様が出来ていた。

「その文様は一生なくならない、たとえその部分の肉がなくなっても紋章は浮かび上がるぞ」

 まるで呪いようだなと蒼は心の中で毒づいた。

「まぁ、そんがないなら構いませんありがとうございます」

 一礼すると笑いながら老人が髭を撫でながら言った。

「今日はもう休みなさい部屋に案内しよう」 
 

 部屋に案内されると蒼はお礼を言ってドアを開いた。中は質素な造りで風呂とトイレに洗面台が完備されてあったがあちらの事情によりベットがひとつしかない。
 
「そいえばお前はキリサメのところに帰らなくていいのか?」

「あ、すっかり忘れてた」

 ぽかんとした表情して慌て始める。

「じゃあ、帰るか」

 どうやら、神様はオレに休息というものを与えてはくれないらしい。
 蒼は心の底から嘆いた。



 
 そして再びキリサメのテリトリーである森に戻ると下っ端のキリサメが迎えに来た。

「じゃあね、お兄ちゃんまた明日ね!!」

 ピョンピョンと跳ねながら手を振っていた。

「おう、またな!!」

 蒼は後ろを向き歩き出した。……威圧感のある視線を感じながら。


 しばらく獣道を歩き続けているがまだ視線はあった。
 常に一定の距離を保っていた。着かず離れずとはこのことだろう。
 蒼は立ち止まり深呼吸をした。

『シュラ・モード』

 本日二度目の能力使用。

 一気に視線との距離を縮めた。そしてハイドラを構えた――

 そこにいたのは普通のキリサメの二倍は大く全身が白く目が闇夜でもはっきり見えるくらい紅いキリサメだった。

「ふむ、やはり君も私と同じアルビノか」

「アルビノってなんだ? ……ってキリサメが喋ったぁぁぁ!!?」

 目を見開いた蒼は驚きのあまり大声になってしまった。

「喋ってなにが悪い?」

 いまだに驚きを隠せない蒼は身体が硬直した。

「だ、だって人間じゃないやつが喋ったら驚くだろ!!」

「確かに私はキリサメとよばれる種族だが別にここの人間は普通に知っているぞ。まぁ、樹海賊にはなにかと世話になっているからな」

 蒼は、はっとした。

「だからキリサメのボスを連れて行っても何もしてこないわけだ。でも最初のキリサメはなんで追い返そうしたのかな?」

 謎が謎を呼ぶ。困惑する蒼だった。

「それは樹海賊ではない人間が来たからだ……そういえばここ十年ほど樹海賊に会っていないな。それ以外の招かれざる客は来るというのに」

「十年ほど前からヴォイスという奴が基地を占領していたんだ。だから樹海賊が会いにこれなかったんだ」

 キリサメのボスが人間に簡単に接することを許されたのそのためだろう。

「なるほど、これで合点がいった。感謝するよ……えっと名前は?」

「黒髪 蒼です」

 一礼をする

「私はラセットだ。この樹海を統べる者」

 極めつけにラセットは轟音のような遠吠えをした。
 思わず耳を塞いだがそれでも音圧に負け吹き飛んだ。

「流石は樹海を統べる者だな」

 感嘆の声を漏らし感心する蒼だった。

「さて、本題に入ろう蒼殿」

「なんだ?」

 少し間を開けてからラセットは言った。

「このイカロスにいる原生生物の長、私のような者たちが四体いる。その者達と人間との間に同盟を組んで欲しい」

「理由を聞かせてくれないか? 人間側はお前たちを敵視している」

 蒼が困ったように説明する。

「イカロスを侵略する者たちが来る。侵略が始まる前にイカロスの一部の生物と人間が共闘すればその侵略を防げるかもしれない。そのために私は命を賭ける所存だ」

 だが蒼は討伐隊に所属しているし役柄的に同盟を締結させる人間ではない。

「ん? その肩の十字の文様はだれから引き継いだ? その文様は仲介人を示す生物共通の文様だ」

「この文様はセレストという老人からもらった」

「セレスト・ルーチェのことか!?」

 顔を寄せて蒼に聞きなおすラセット。

「ああ、そうだ」

 唸り声を上げるラセット。

「じゃあ、お前が仲介人だ間違いない」

「どういうことだ? 第一、オレは動物の感情は分かるが言いたいことはさっぱりわからないぞ」

「では、アゲハを君に預けようあの子ならすべての動物と対話できる才能をもっている」

「でもアゲハはキリサメのボスだろ?」

 蒼は現にアゲハがボスであることを知っているボスである以上簡単に群れからは出れないはずである。

「そこはすでに話はついている」

「それならいい。で、オレはどこに行けばいいんだ?」

「まずは、ここからさほど遠くない砂漠にいるインディゴと呼ばれる砂漠の長と同盟を結べ。その次に火山だここからは木が邪魔で見えないが大きな山があるそこの頂上にいるのがヴァーミリオンと呼ばれる火山の長に話を持ち掛けろ。最後は海だ。海にはエクリュという海の長がいる。この者たちと人間と間に同盟を締結する」

 ここでひとつ問題が生じる。
 それは、どうやって人間側を説得させるかだ。
 生物側は信じてくれるかもしれないが人間は信じてくれないだろう樹海賊なら生物と交流があるから信じてもらえるかもしれないが。


「はっはっは、もうラッセトに遭遇したのかい蒼くん」


 後ろを振り向くとそこにはセレストがいた。

「な、なんでセレストさんがここに!?」

 感嘆の声をつきうろたえる蒼。

「お久しぶりですセレストさん」

 会釈をするラセット。

「うむ、久しいのうラセット十年ぶりじゃな」

「ええ、ところでどうしてここに?」

 あごひげを撫でながら言った。

「侵略者がわかった」

 全員に戦慄が走った。
 あの穏やかな顔のセレストは真剣な覇気のある表情をしていた。

「本当ですか!!」

「ああ、どうやら空賊が今から二か月後にイカロス全土に空襲と殲滅を仕掛ける情報が入った」

 空賊とは空を領地とする樹海賊のようなものだ。

「では、早く同盟を締結させなくてはいけないようですね」

「やはり、イカロスの未来は蒼、お前にかかっているようだ」

 いきなり重荷を背負わされた蒼だった。

「そんな、オレここに来てまだ一日も――」

「黒髪 青が関係しているとしたら?」

 蒼の顔つきががらりと変わった。
 背中には戦慄が走り、眼を大きく見開いたままだった。

「どういう事ですか?」

 髭をなでながら答えた。

「このイカロスでには『帝の椅子』《エンペラーオーダー》の本部がある。そこに黒髪 青を護送し永遠に捕らえようしている。そのためにここが焼野原となるのじゃよ。それだけ黒髪 青は絶大な力を持つということじゃ」

 そんなことを蒼は知るよしもなくただ唖然とする。
 まさか自分の母親がここまで強大な力を持つなんて思いもしていなかった。

「時機にお前さんの兄弟もここに来るだろう」

 自分がなぜイカロスに来たかわかった気がする。それはまだうっすらとしていて靄のようだった。

「わかりました、出来る限りことはやってみます」



 そうしてようやく蒼はベットで眠ることができた。


 空襲まであと六十日

                    第十話終わり  

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
 伸びろ!!!!回覧数!!!
 増えろ!!!!コメント!!

 叫んでみた、気にしないで下さい。


 今回は主人公がようやくまともな戦闘をしました。主人公なにやってんだ……
 そして新たな展開も始まりました。
 イカロスにきてから新しいキャラクターが増えますし大変です。今後もがんばっていきたいです!!


 コメント返し

 黒い鴉 殿

 確かに小説での群れのボスが普通に登場したら変ですね。
 自分の考えとしての群れのボスという立場は臆病で命を大切にし群れの中で一番危機管理能力があるものだと思っています。そのため下っ端はまずボスの所に連れて行きボスが危険の有無を決めるものだと思います。その方がより安全に群れを守る事が出来るからボスはある意味では一番の下っ端だと自分は思います。
 確かに群れのボスと聞くと強くて賢くてカッコイイというイメージがあります。 そう考えたら確かに変ですね。
 今回も自分の説明、描写不足が招いてしまったことなので、申し訳ございませんでした。次からは自分の意図を伝えられるように努力していきますので暖かい目で見守ってもらると幸いです。ご指摘ありがとうございました!!
テキストサイズ:12k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.