〜『空港』月白〜
なんとか、イカロスに到着した。飛行機の性能が高くなく黒髪に紺碧の瞳の和服美人、紫紺は乗り物酔いをしてぐったりとしていた。
それを支えているのが緋色、金髪の髪を束ねバーテンダーの格好をしているこう見えて元帝の椅子『力』の称号を持つ男だ。
「イカロスって初めてくるけど、どんなところなの?」
茶髪の短い髪に黒目に子供のような容姿に合うミニスカートにシャツの萌葱が無邪気な顔で聞く。背中には体に合わないアタッシュケースを背負っていた。たしか萌葱は黒髪家の長女で今のところ最年長らしい。
「無法地帯」
最近、滑舌が異様に良くなった長い髪にクールな顔立ち、スレンダーな体つき合うタンクトップにパーカー、ショートパンツの秘色がポツリと言った。
「とりあえず、ここからどうする?」
「水賊にあてがある。ここからそう遠くないが」
他に行くところもないし秘色の案に乗ることにした。
「ところで萌葱」
「ん? なぁに?」
ある意味ではおそるおそる、ある意味では呆れたように月白が言った。
「そのアタッシュケースは何が入っているんだ?」
「その時になれば分かるよ、それまでのお楽しみにね」
曖昧だなおい、と月白は苦笑いとじと目を使いながら思った。
空港の外は太陽がさんさんと輝いていた。
純粋な黒髪に深紅の瞳には以前のような虚脱感はなかった。
決意を固めた瞬間、ケータイの音が鳴った。
宛先不明の電話に出ると、
『予想以上に早かったじゃねーか、これなら早いうちにパーチィーが始められそうだな』
月白は体中に戦慄が走った。
このふざけた口調に舐めきった感覚の声。
―― 皇帝 ――
「悪いが青も鳩羽も白群も返してもらうぜ、くそったれ」
『お〜怖い怖い、恐くてちびりそうだぜ、じゃあ三日後だ三日後の空賊の処刑場に来い地獄を見せてやるよ、くそったれ』
もともと、そのつもりだったのだろう。焦燥を掻くために。
時間的猶予が短くなればそれだけ精神的にダメージを与えられる、そうすれば相手の策に陥りやすい。
「三日後だな、いいだろう、上等だぁ!!」
プツンッ、と電話が切れた、と思ったら今度はエーテルからの電話がきた。
『今、イカロスに向かうがちょっと急用ができたから二日後、水賊のホームで落ち合おう』
了承するとブツンッと電話が切れた、後ろ向くと酔っている紫紺以外の全員が真剣な顔をしていた。
〜『空港』紫紺〜
気持ち悪い、吐きそういや吐く絶対吐く、必ず吐く、トイレ、トイレはどこ?
朦朧とする意識のなか艶のある黒髪を揺らし紺碧に目は虚ろになっていた中そう思っていた。
乗り物酔いは紫紺最大の天敵だった。
〜『空港』萌葱〜
謎のアタッシュケース
中身はまだ誰にも言っていない。
なぜなら、これをいざ使うときに本来の性能を発揮できない可能性があるからだ、これはだけは願わくば使いたくない。言うなればハイリスクハイリターンかな?
なんとも言えないかな……
〜『空港』秘色〜
やっと白群に会えるそれだけでこの十年間を奴隷として生きてきいた、絶対に死ぬな。
秘色は切に願った。
それは、大切な人だからというのが大半だが、秘色自身の反転の為でもあった。
秘色の能力
『冥王の眼光』の発動条件が白群が生きていること。
光を屈折させるとい簡単な能力だが相手の視覚を全て奪うことが出来る。
簡単に言えば目くらまし。
白群――
能力を
『冥王の声帯』)と言って音を操る反転、発動条件は鳩羽が生きていること。
そして鳩羽の能力
『冥王の言霊』の発動条件は私が生きていること。
そう鳩羽、秘色、白群は三位一体の三つ子の兄弟である。
〜『牢屋』白群〜
もう、時間がないな……
一人でなら逃げられないこともないがここで鳩羽を失えば白群は能力を失う。
残された時間の中で助かる術を模索していた。
「大丈夫?」
同じ牢屋に入れられた鳩羽が心配そうに顔を覗かせた。
男にも女にも見える中性のような顔は秘色と白群と合わせたような顔である。
だがこいつは秘色がいるとき最強の反転を持つ。これに耐えられるのは音を操るオレと皇帝、青くらいだ。
白群は苦笑いをしてその燃えるような赤い髪をかき上げた。
〜『牢屋』鳩羽〜
生きていることは罪なのか?
喋ることは罪なのか?
自由なのは罪なのか?
存在が罪なのか?
分からない、でも……
僕は生きたいんだ
〜『空港』緋色〜
これが最後の戦争になるのかな、できればそうであってほしい。もうこれ以上、僕たちの母親の為にだれも血を流さないでほしい。
悲しい事実を知る緋色は無限の連鎖を断つべくもう一度、舞曲を奏でる。
たとえそれが一時的な行為であっても――
「これが終わったら、最高の一杯をご馳走するよ」
眼の中に楽しみな顔が溢れた。
嗚呼、家族っていいな。
緋色はつくづくそう思った。
〜『ホーム』茜〜
和風造りの部屋でのんびりと炎の温度調整の練習をしているとレッドがやってきた。
「お〜い、茜ちゃん」
相変わらずバンダナにタンクトップとジャケットの組み合わせですか、と茜は心の奥で毒づいた。
「なんですか?」
「悪い話と良い話どちらから先にする?」
茜はため息をついて「悪い話からお願いします」といった。
「二か月後に空賊たちが罪人の処刑をするんだって。まぁ、短気な空賊は来週には処刑するだろうけどね〜」
「そうですか、それが私たちに何の関係が?」
「罪人って言うのが黒髪 白群と黒髪 鳩羽って言って、白群はオレたちの恩人なんだ。だから――」
「助けに行くんですか、ていうか黒髪って!!」
気づくのに時間が必要だった。なにせレッドが平坦な声で喋るから。
「ん? 茜ちゃんは黒髪家に知り合いでもいるの?」
驚いたようにレッドはバンダナの位置を調節しながら聞いた。
「ええまぁ、心当たりはありますが……」
「ひょっとして秘色とか言う変わった名前とか?」
「はい、そうですが……」
茜はなんとなく感じていた。
「じゃあ、茜ちゃんも来るかい? 終焉の宴に?」
「私でよければいつなりと」
気取った口調で茜は炎で十字を作った。
〜『異界』 アテナ〜
ここ異界は私が住む世界であり絶対に侵略不可能の要塞でもある。
ちなみにあちらの世界とこちらの冥界は時間の関係がおかしく不安定である。
アテナはそれをある程度調整は出来るが多少の誤差はある。
逆にアテナ以外の者が異動すると途方もないタイムラグが発生することがある。
「さて、そろそろ時間よフラン」
黒髪家最後の子供、フランエル・スカーレットノーレッジ
・黒髪、本名は考えた結果こうなった。半分は投げやり。
愛称はフラン、青の強力な反転の片鱗を継承し私から吸血鬼の力を継承したおそらく黒髪家屈指の存在だろう。
若くして吸血鬼を継承したためか年齢の割にかなり幼く見えるおそらく外見は小学生低学年くらいだろう。髪は闇夜でも目立ちそうな金髪に左目は真紅の瞳をしていた。
右目は能力を暴発させないために黒い紐のようなもので縫われていた。
そして、そんなフランの従者は、兄弟のところに行くとか言ってそれっきり帰ってこない。
フランはその従者にかなり懐いていた。執拗なくらいに。
そろそろ、フランの我慢の限界だあのバカ従者の居場所はなんとなく分かるから問題ないかな。
「アテナはシロが生きてると思う?」
「さぁ、分からないわ。ただ、あのバカは1800度の高温に三十秒以上に耐えられるゴキブリ並みの生命力があるわ」
フランが頷くとそのまま世界に向かった。
〜『???』青〜
ここがどこかさえ分からない目を隠されているから。
ただ、なにか嫌な予感がする。
それはひょっとすると良いことが起きる前の、嵐が来る前日のような静けさだった。
「よぉ、青久しぶりだ十七年ぶりだな」
できればこの声だけは聞きたくなかった。
大切な家族を無残に殺した上に今度は何にも罪のない人を盾にし己の身を守る卑怯者、皇帝その人だった。
「話したくな出て行って」
冷淡に応答した。
声音も普段より低い。
「お〜つめてぇぇ、まぁいいや、三日後に兄弟全員がオレに刃向うからお前はそれを何も出来ないまま観覧していろ」
「どういうこと!!」
すでに皇帝の気配はなかった。いや、もともとなかったかもしれない。
そういうやつだ皇帝は。
〜『火山』 蒼〜
気がつくとそこは火の海だった。
アゲハは空中で抱きしめていたから胸の中にすっぽり、そして気絶していた。
たしかあの時オレとアゲハは火口に落ちたんじゃ。
「気がついたか……」
白銀の髪と漆黒の髪が混ざった髪に黒と紅の瞳をした男がそこに居た。
背丈は蒼と同じくらいで細身だった。
「ここはどこなんだ?」
男はため息をつき言った。
「火山の中だよ、オレは
『黒髪 銀』だ」
銀が手を差し出したのでそれを受け取る。
「オレは、黒髪 蒼だ」
銀は少し驚いた表情を見せた。
「オレも思うがこの苗字は珍しいと思っているが最近は多いんだな」
「そうなのか? まぁ別にいいか」
投げやりに蒼が言うと、
「そういえば、お前も契約を交わしにここに来のか?」
銀が首を傾げる。
その後ろではドロドロの溶岩が地面から噴き出しては固まり地面を構築していた。
「上の島にはヴァ―ミリオンはいない、ここのどこかに居るはずだ」
蒼は銃に弾を込めながら銀の話を聞いた。
「ちょっといいか?」
「どうしたんだ?」
銀が目を輝かせて言った。
「そのショットガン見せてくれないか」
蒼は頷いてハイドラを差し出すと、うれしそうに受け取った。
「良い銃だな、ん、ちょっと待て」
銀が目を瞑り銃身に手を置いた。
『材質を解除、グリップを解除、トリガーを解除――』
ハイドラが光に包まれた。
あまりの眩しさに蒼は眼を閉じた。
眼を開けると深い蒼色の銃身に黒のグリップの銃に生まれ変わっていた。
「できたぜ、この銃の本当の名は『蒼龍』だ憶えておけ。武器の銘は魂の証し、本当の銘で呼ぶことで武器本来の力が解除される。あとこの武器は四つでひとつの武器だ、おそらくこれがもう片方だ」
そういって取り出したのが刀だった。抜くと紅の刃を持っていた。
本当に鮮やかな紅だった。見た者を虜にするほどの美しさ。
たとえて言うなれば、溶岩だ、溶岩の色をそのままに刀を造ったようなイメージだった。
「この刀の銘は『紅龍』だ受け取れ、どうせならセットの方が武器にもいい」
鞘に納めた刀を受け取った。
蒼は「ありがとう」と礼を言って紐で後ろ腰に固定する。
「この銃はおそらくアポイタカラという金属できている。アポイタカラはこの世には存在しない金属、そしてその刀はヒヒイロカネという金属で造られている。どちらも持っているだけで人に多種多様な能力をあたえることがある。そしてこのアポイタカラとヒヒイロカネが近くに存在すると……」
蒼龍がガチガチと音を立てて震えだす。
同様に紅龍もガチガチと震え始める。
まるで、共鳴しているように……
ズシリと急に蒼龍の重さが増す。咄嗟の出来事で銃口を地面につけてしまった。
「弾が装填されたな、今のを共鳴とオレは呼んでいる。共鳴を起こすと銃の弾が生成されたり、異常な切れ味を持ったりする。一番大きいメリットは反転を強化する能力を持つこと」
この二つの武器を蒼はを持っていても、すでに反転を失っている。悪く言うと最小限使える武器、程度にしかならない。
「反転の強化か……反転を失ったオレには無用の品だな」
「失ったのか? 反転を?」
不思議そうな表情をみせる。
吊り上った目に白と黒のマーブルの髪、どこを見ても変な奴だ。
「ああ、そうだオレは反転である
『水郷ノ理』を捨て鬼の力『シュラ・モード』を手に入れたんだ。だからもう反転は――」
「まだ手はあるぞ、とてつもなく危険だがな」
銀はそう言って腕から一振りの刀を取り出す。
その切っ先で蒼の手を斬った。
手加減したのだろう刃はかすめた程度だったが血が止まらない血管を一本だけ斬ったようだ。人間業じゃない。
「い、いきなり何するんだよ!!」
「安心しろ手加減はした、血の付いた手でその武器を触れ」
少しふてくされながら銃に触れる。
ドクンッ、と心臓が脈打つ――
さらに心臓は加速を続けた。
ブツンッ!! と蒼の意識が途絶えた。
「さて、こいつはこいつで始めた事だし、オレたちも一発かますか、ヴァ―ミリオン」
気絶した蒼の後ろでは銀が巨大な炎の龍にバトルを挑んでいた。
〜『裏側』蒼〜
またここか、暗くて水の中で血生臭い世界。
常闇から自分とうり二つの顔をした鬼神、シュラ。
「シュラか、これなら話が早いな、水郷ノ理を返してもらおう」
「傲慢だな、だが面白い、いいぜ返してやるついでにシュラの力も強化してやるよ」
「ふっとぱらだな、いいことでもあったのか?」
「お前が蒼龍と紅龍を体内に取り込んだからな折角だしな、武器を体内に取り込めばスペックが向上して反転も『シュラ・モード』いや『アシュラ・モード』と言い直しておくか……」
「アシュラ・モード?」
「シュラ・モードが通常の身体能力を六倍に跳ね上げる能力だ」
「なんで、先にそっちをくれなかった?」
「なにごとにも準備がいるんだ。お前も狩りをするときナイフを研ぐだろ?」
「それはそうだけど……」
「まだ続きがあるぞ、武器のスペックを使い更に身体能力を向上させる、蒼龍の特性で倍、紅龍の特性で倍、そしてアシュラ・モードで倍の身体能力の向上が見えるだろう」
「ふ〜ん、掛け算はオレ知らない」
「とりあえず、間違いなく強くなるとだけ言っておこう」
「それならいいんだ」
「今後、武器を体内に取り込むことがれば大喜びだ。スペックが上がるからな。まぁ、お前の魂しだいだがな」
「機会があったらな」
「ただし、乱用は禁物だ肉体より先に魂がボロボロになる、武器を調整しながらアシュラ・モードをやるんだリスクは負ってもらうぞ」
「魂がボロボロなるとどうなるんだ?」
「まぁ、目に見えない傷のようなものだ。治りは遅いがその分だけ眠りにつく」
「わかった、ありがとうなシュラ」
「気にするなお前はオレだ」
「ああ、それと」
「ん、どうした?」
「その肩の十字の紋章に説明しておく。その十字架の周りにある石は継承の印と言ってそれを持つだけで肉体が強化される、まだひとつだからそこまで強い力はないがな」
「そっか、じゃあ集める意味が増えたな」
「お前が目的を果たせる前に魂が潰れないことを祈る」
〜『火山』 蒼〜
目が覚めると銀が両腕に奇妙な形の刀、まるで影ようなものを持ち立っていた。
「終わったようだな、こっちも終わったところだ」
左腕の手の甲に蒼色の銃を象ったような文様、同様に右腕の手の甲には紅蓮の刀を象った文様が現れていた。これが取り込むということなのだろう。
肩を見るとレッドスピネルが十字に刻まれていた。
立ち上がり右手に集中させる。
紅龍が手の中に握られた。
もう片方の腕に集中すると蒼龍が召喚された。
「ヴァ―ミリオンと契約を済ませたのか?」
銀はこくりと頷いた。
「次に行くぞ、海だ」
銀は地面を蹴りあげるとその勢いだけで火山を抜け出す。
蒼も武器を体内にしまうとそれを追うようにアシュラ・モードを発動させ銀のとこに行く。
アゲハが気絶していた事が幸いでかなりのスピードで移動ができる。
「時間がない、オレは能力を使うぞ」
銀は影を薄く延ばすと板状にした。
そのまま跳躍するとまるでサーフィンでもしているようだった。
蒼は水で足場を作りその上を滑った。
この時、蒼の魂は……
――空襲まであと三日――
十三話終わり